著者
宮西 香穂里
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、ジェンダーの視点から、プエルトリコの米軍基地と地域社会についての分析を試みることである。その際、交際・結婚、売買春および反基地運動の3領域に焦点を当てる。以上の研究目的にもとづいて、関連文献のレビューを行い、日本文化人類学会やAsian Studies Conference Japan (ASCJ)において報告した。今年度は、昨年行ったプエルトリコでの現地調査の資料整理を中心に進めた。特に、米海軍基地が撤退した後の基地の街、セイバや基地周辺に住む人々について調査を行った。セイバの基地周辺で、米軍を相手としたバーを経営する50代のプエルトリコ人女性は、基地があった頃の生活を振り返り、米軍基地との思い出を語った。また、彼女は、プエルトリコの東部、ビエケス島での基地反対運動について厳しく批判をした。インタビューの最後には、現在抱えるバーの深刻な経営問題について語り、基地撤退後の苦しい生活を話した。その他のインタビューからも、基地撤退後の基地の街で生きる人々の抱えるさまざまな問題が明らかになった。また、インタビューの資料整理に加えて、随時プエルトリコの米軍基地に関する文献調査を継続した。以上のように、米軍基地と基地周辺の地域社会の関係は、非常に複雑であり、多くの地域住民が米軍基地にさまざまなかたちで関係している。また、米軍基地反対運動を通じて、プエルトリコは沖縄やハワイなど米軍基地をかかえる様々地域とつながっていることがわかった。今後は、さまざまな立場で米軍基地と関係する人々の視点から、米軍基地と地域社会との重層的な関係を考察していきたい。
著者
熊谷 悠香
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

当初の予定ではPI(3,4)P2の動態をマウス乳がんに置いて観察する予定であった。しかし、バイオセンサーの感度不足のためか、生体イメージングで目的分子の動態変化を観察することは難しかった。そこで、細胞増殖に関与する分子であるERKの活性を観察することとした。1. HER2陽性乳がんに置けるERKの活性を二こうしていき顕微鏡を用い生体観察した。その結果、個々のがん細胞に置けるERK活性は不均一であり、長時間にわたって維持されることが明らかとなった。2. MEK阻害剤、EGFR/HER2阻害剤をマウスに静脈注し、がん組織に置けるERK活性の変化を観察した。その結果、ERK活性の高い細胞は低い細胞に比べ活性を顕著に下げること、ERK活性の低い細胞はほとんど阻害剤に反応しないことが明らかになった。1と2の結果から、ERK活性ががん細胞の何らかの特性を反映しているのではないかと考え、実験3を実施した。3. ERK活性に基づき、細胞を分取し、tumorsphere形成能、がん形成能、がん幹細胞マーカーの発現度を検討した。その結果、ERK活性の低い細胞は高い細胞に比べ、tumorsphere形成能、がん形成能、がん幹細胞マーカーの発現レベルが高いことが明らかとなった。これらの結果は、ERK活性の低い細胞群にがん幹細胞が多く含まれることを示す。4. さらにERK活性とがん細胞の幹細胞性を調べるため、正常マウス乳腺細胞株J3B1AにMEK阻害剤を添加し、ERK活性を抑制したさいのがん幹細胞マーカーの発現レベルを検討した。その結果、MEK阻害剤処理群はがん幹細胞マーカー(CD24, CD61)の発現を充進させることが明らかとなった。以上の結果は、ERKの活性ががん細胞の幹細胞性を制御する可能性を示すものであり、MEK阻害剤の投与ががん細胞の幹細胞性を上昇させる可能性を示唆するものである。
著者
工藤 洋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2014-05-30

「生物の同調現象」として植物の応答を研究することにより、それにかかわるメカニズムの機能を自然条件下で理解することが目的である。時系列トランスクリプトーム解析を元に3つの研究課題を実施している。①新規に発見した‘生育終了’同調現象の制御因子を同定し機能を解析する。②複雑な自然状況下での遺伝子ネットワークの機能を理解する。③遺伝子発現の応答をバオイマーカーとして利用し、環境を推定する。①これまで選抜してきたシロイヌナズナ生育終了時期のミュータントラインから選んだ6ラインをリシーケンスし、SNP解析により、変異のある座位のリストを作成した。また、そのうち4ラインについて掛け合わせ実験を行いF1から種子を採取した。30年度にF2を分離させ、Mut-Seq法による責任変異の道程を行う予定である。②自然の複雑な状況における機能に焦点を当て、自然集団の時系列ヒストン修飾解析を実施している。ヒストン修飾(活性修飾H3K4me3と抑制修飾H3K27me3)について、鍵となる花成抑制因子FLCの2年間のデータをもとにモデリングを行い、H3K27me3が過去の転写状況を反映して制御されることを見出した。全ゲノムについては1ヶ月毎に1年間のデータを取得し、抑制型ヒストン修飾H3K27me3が多くの遺伝子で同調的の変化するという現象を発見した。この同調的変化現象は、より高次元のクロマチン構造を介した制御の存在を示唆している。③トランスクリプトームをバイオマーカーとし、植物を「環境測器」として利用する。バイオマーカー利用の対象をウイルス量とし、ウイルス接種・温度操作実験とを実施するとともに自然集団でのトランスクリプトーム解析の結果を分析した。
著者
徳留 靖明
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

(1).イオン性前駆体を用いたゾル-ゲル反応における構造形成過程の解析をおこなった。また、多様な反応系への本手法の拡張を試みた。まず、小角X線散乱(SAXS)その場観察により、多孔構造形成時の粒子形成過程および粒子凝集過程を明らかにした。1次粒子の粗大化を制御するとともに迅速な粒子凝集を誘起することが本手法を用いた多孔体作製に必要な条件であることが示された。SAXS測定で得られた知見に基づき、オングストローム領域、ナノメートル領域、マイクロメートル領域の3つの異なるサイズ領域に細孔を併せ持つ材料の作製にも成功した。これらの内容は国際学術論文誌にて発表済みである。併せて、リン酸カルシウム系における多孔体作製に関する研究を、昨年度に引き続きおこなった。試料作製手順および後処理手順を適切に制御することにより、多様な結晶構造を有するリン酸カルシウム多孔体の作製に成功した。上記内容および現在進行中の遷移金属酸化物多孔体作製に関する研究結果の一部は、国内および国際学会にて発表済みである。(2).無機ゾル-ゲル反応を用いて、有機ELデバイス中の界面構造の精密制御をおこなった。具体的には、無機ゾル-ゲル構造体の作製条件を変化させることにより、従来の研究では充分な検討がおこなわれていなかった作製条件-デバイス特性相関を系統的に調査した。本研究で得られた基礎科学的な知見に基づき、長寿命・高輝度・低電圧デバイス作製に向けた研究を進める予定である。上記の研究内容は国際学会にて発表済みであり、一部の研究結果は国際学術論文誌に投稿中である。
著者
杉万 俊夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

「住民主導による教育・医療」を軸とした地域コミュニティ活性化の可能性を、当事者との協同的実践を推進、貴重な実例をつくりつつ検討した。同時に、「閉鎖的な専門的組織・専門家集団への依存」を前提に運営されてきた教育・医療制度を、住民の主体的参加を前提にした制度へと転換する方途について、Y.Engestromの活動理論(activity theory)を理論的枠組みにして考察した。具体的なフィールドには、(1)住民主導の教育実践として、大阪府寝屋川市で展開されている「寺子屋Neyagawa」の活動(毎週土曜に学校を舞台に住民が手作りの教育をする活動)、(2)住民主導の医療実践として、京都市小野郷地区における「地域医療の拠点づくり」の活動(無医地区に住民主体で診療所を設営・運営する活動)をとりあげた。いずれにおいても、研究者が当事者と共に活動を推進しつつ、その経過を追尾し、問題点や失敗経験をも含めて発信した(著書「コミュニティのグループ・ダイナミックス」)。とくに、(1)に関しては、学校側の抵抗に抗して敢えて学校を活動の場とすることによって、学校そのもののあり方を問い直し、地域の教育機能を復権させる可能性を指摘した。(2)に関しては、「医者と患者(住民)の上下関係を是認した上で、医者が患者重視の医療サービスを提供すること」をもって理想的な医療とみなす風潮の中、「住民主体の地域医療」という理念に理解を得ること自体が、最初に乗り越えるべき大きな壁として立ちはだかっていること、また、高齢化した地域における住民主体の診療所運営は、医療以外の領域でも住民が地域活性化に積極的に取り組み出す起爆剤になりうることを指摘した。
著者
西前 出
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

途上国における自然災害による農業生産の被害を軽減するために,地域資源を再考することを通じて新しい開発援助の在り方についてミクロ,マクロの双方の視点から研究を行った。フィールド調査,アンケート調査,GIS分析を通じて研究を実施し,住民目線では災害に対する正しい認識の欠如,行政の支援とニーズの不一致などが主たる課題として挙げられ,都市部では経済的な発展度合いによる災害への適切な対応が必要不可欠であることが定量的に明らかとなった。
著者
伊藤 衞
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2011-07-25

新制・課程博士(経済学)
著者
稲垣 恭子 竹内 洋 目黒 強 高山 育子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、戦前・戦後の「女性文化人」の特徴とその社会的形成過程について、社会的背景、活動領域、メディア等を軸にして量的・質的両面から実証的に分析し、「女性文化人」の社会的位置の変化やその社会的意味を考察した。そのなかで、「女性文化人」に共通のイメージや特徴、1950 年代以降の「女性文化人」の顕在化と多様化、現代の「メディア文化人」の社会的位置との関連を明らかにし、「女性文化人」の歴史社会学的研究の土台をつくった。
著者
北島 宣 山本 雅史 清水 徳朗 山崎 安津 米森 敬三 小枝 壮太 桂 圭佑 八幡 昌紀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、日本の本土および沖縄・南西諸島、中国の雲南省、広東省、台湾、ベトナム、フィリッピン、タイ、インドネシア、ミクロネシア等の在来カンキツ調査を行い、東シナ海および南シナ海地域をほぼカバーする地点での調査を行うことができた。その結果、これまで調査した日本、中国浙江省、江西省、広西チュワン族自治区、重慶等の在来カンキツおよび保存している世界のカンキツ種・品種と近縁属を含め、862個体のDNAを蒐集・保存し、細胞質DNAおよびゲノムDNA解析によりカンキツ種の分化が明らになった。
著者
鎌田 東二 河合 俊雄 鶴岡 賀雄 棚次 正和 町田 宗鳳 津城 寛文 井上 松永 倉島 哲 篠原 資明 斎木 潤 乾 敏郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

「身心変容技法」とは[身体と心の状態を当事者にとってよりよいと考えられる理想的な状態に切り替え変容・転換させる諸技法/ワザ]を指すが、本科研では祈り・祭り・元服・洗礼・灌頂などの伝統的宗教儀礼、種々の瞑想・イニシエーションや武道・武術・体術などの修行やスポーツのトレーニング、歌・合唱・ 舞踊などの芸術や芸能、治療・セラピー・ケア、教育プログラムなどの領域の領域で編み出され実践されてきた身心変容技法を文献・フィールド・臨床・実験の4手法によって総合的に研究し、その成果を研究年報『身心変容技法研究』(1~4号、2012~15年)にまとめ、国際シンポジウムと大荒行シンポジウムで総括し、社会発信した。
著者
坂出 健
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

航空機産業のような防衛産業基盤は国家安全保障に不可欠である。防衛産業基盤は、第一に国家の自立を確保するために重要であり、第二に、他国(例えばアメリカ)から供給を受けるにしても、機器の整備、購入時の交渉力を確保するために必要である。その意味で、軍事産業基盤は公共財という性格を有しているが、その国際的配分の規範もまた確定される必要がある。本研究を通じて、国際公共財としての軍事産業基盤の特質を理論的・実証的に検討する。
著者
茅根 由佳
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本年度の前半期には、まず、インドネシア政治に関する既存研究によって得られた知見と比較検討した。既存研究のまとめ作業を行うに際して、関連のインドネシアの政党政治研究であるマルクス・ミーツナー(Marcus Mietzner)の近著Money Power and Ideology: Political Parties in Indonesia.の書評を執筆した。また、本年度の後半期からは、1年次から2年次にかけてインドネシアのジャカルタで収集した資料をとりまとめる作業に集中した。本研究で得られた考察を発展させ、来年度中に博士論文を書き上げることを前提として、現時点での研究成果を発表するために関連の学術誌(『アジア研究』等)に論文「民主化期のインドネシアにおける石油天然ガス政策と政治過程の変化 -チェプ鉱区権益問題を事例として- 」を投稿している。本論文においては、インドネシアの資源政策においては、大統領及び執政府が石油ガスなどの資源産業の生産性を維持するため、積極的に外国投資を誘致してきたのに対し、野党政治家を始めとする議会が国有企業を支援してこれに対決姿勢を強めた過程を検討した。本論文が分析対象とした、2004年から2009年までの第1期ユドヨノ政権においては、資源政策における執政府の主導権が確立されていたが、2009年から2014年までの第2期ユドヨノ政権では経済ナショナリズムの圧力が強まり、政府外アクターや憲法裁の影響力が政策方針を変化させようとしていくこととなった。こうした第2期ユドヨノ政権における資源政策をめぐる政治過程の変化については論文を執筆中であり、東南アジア研究に投稿したいと考えている。
著者
林 力丸 河井 昭治 佐藤 周一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

高圧分光学のうち、円偏光二色性(CD)のその場観察を行うための耐高圧セルを開発するため、石英光学セル、サファイヤ光学セル、人工合成ダイヤモンド耐高圧セルによるCD測定を検討した。これを用いてポリアミノ酸、各種タンパク質・酵素の円偏光二色性(CD)測定を高圧下で行った(「その場」観察)。特にαヘリックスやβ構造と共にタンパク質立体構造の耐圧力性を比較し、タンパク質構造形成の原理を解明することを目的にし、以下の結果を得た。1)高圧下(400MPa以下)でのCD測定を行うため、光学窓に石英とサファイヤを用いるセルを組み立て、紫外領域における測定限界の改良と、人工ダイヤモンド窓による光学セルを作成し、ダイヤモンドに含まれる不純物のCD測定に与える影響を検討した。その結果、近紫外CDの測定が可能なことを明らかにした。2)高圧下(500MPa)でポリグルタミン酸とボリリジンのαへリックスとβ構造の崩壊過程を観察するため、pH条件を酸性からアルカリ性に変化させて、pHと圧力の関係を測定した結果、ダイヤモンド窓は220nmに吸収があることがわかり、α、β両構造を明確に分離できなかった。3)リボヌクレアーゼAとカルボキシペプチダーゼYおよびそれらの1残基置換変異型酵素の圧力効果を解析し、タンパク質構造の圧力安定性を測定し、リボヌクレアーゼAのPhe120とカルボキシペプチダーゼYのシステイン残基の構造への寄与を明らかにした。4)ダイヤモンド窓をもつ耐圧セルにより、タンパク質の近紫外CDを測定し、圧力の三次構造に与える影響を解析した。特にリボヌクレーーゼAの280nm付近の高圧下のCDを測定し、この圧力変性が二状態遷移であることを明らかにした。
著者
神藤 貴昭
出版者
京都大学
雑誌
京都大学高等教育研究 (ISSN:13414836)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.85-94, 2011-12-01

Faced an "FD obligation" phase, Japanese Universities are carrying out various faculty development programs. There are two faculty development models, the "mutual training model" and the "technological-business model". The latter includes a PDCA cycle for improvement of educational activities. These two models are complementary in faculty development activities. In this study, making reference to Sumeragi's (1996, 2002) clinical pedagogy, and Tanaka's (2003a, 2006, 2008) faculty development theory, it appears that these two models are unified by the "clinical sense of faculty development activities" of faculty development facilitators. "Clinical sense of faculty development activities" is defined as a "sense of faculty development facilitators to conduct faculty development activities as mutual trainings which are not operated by a technological-business model." "Clinical sense of faculty development activities" is clarified through case studies of classroom consultation in a Japanese national university. In addition, institutional character supporting the "clinical sense of faculty development activities" of faculty development facilitators is discussed. So, it is pointed out that "coordinated mutual training type faculty development" is important for actual university educational practice.
著者
寺嶋 正秀
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2006-03

平成12-13年度科学研究費補助金 基盤研究(B)(2) 研究成果報告書 課題番号:12440164 研究代表者:寺嶋正秀 (京都大学大学院理学研究科 教授)
著者
宮内 弘
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ラーキンを中心に、イェイツ、ハーディ、ヒーニー,テッド・ヒューズなどの詩作品に見られる形式、すなわち押韻形式、韻律、統語法などを分析し、これらの詩人が使用した形式が、彼らの個々の詩の内容を反映していることを実証した。次にこの研究をふまえて、上述の詩人の作品の際だった特質であると考えられる「重ね合わせ」と「埋め込み」の技法を、特に形式と内容との関係に注意を払いながら、考察した。
著者
中能 祥太
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

鳥類・爬虫類初期胚の多能性を制御する分子メカニズムの解明を最終目的とした本研究において、DC1二年目である平成25年度は、前年度に得られた実験結果とモデルを元に、多能性の正の制御機構を担う分子を模索し、その結果Jak/Statシグナルを候補として見出した。また、多能性状態のマーカー遺伝子NanogとPouVの発現をタンパク質レベルで解析するためにこれらに対する抗体を作製した。DC1最終年度である平成26年度は、これまでに整備した分子生物学的解析ツールと遺伝学的ツールを組み合わせることで、多能性を正に制御している分子の候補を阻害剤やStat人為活性システムを用いて詳細に検証した。また、自作した抗PouV抗体を用いたウエスタンブロッティング解析に基づき、登録されているPouVのアミノ酸配列が実際に発現しているPouVタンパク質の配列とは異なっていることを発見し、配列を修正する論文を発表するに至った。また、抗体を用いた発現解析と合わせ、Nanogは羊膜類一般に多能性と関与している可能性が高いのに対し、PouVは哺乳類特異的な機能として多能性に関与しているのではないかという仮説も提示した。
著者
吉田 豊
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年筆者は日本において14世紀頃中国江南で制作された8点のマニ教絵画を発見した.それらははマニ教の宇宙論や終末論を絵画化したものや,マニの伝記を描いたものである.これらはマニ教研究にとって重要な資料となるでだけなく,中世イラン語のマニ教文献の解明にも資するものである.というのも中国のマニ教は,7-8世紀頃イラン語圏から伝道されたものであり,これらの絵画は究極の情報源であった中世イラン語で書かれたマニ教文献の内容と密接に関連しているからである.この3年間の研究の成果として,こららのマニ教絵画の精密なカラー図版と,それらの絵画の内容とイラン語のテキストとを比較した研究を一冊の本にまとめて発表した.
著者
池田 光男 石田 泰一郎
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本研究は、人間の視覚情報処理の観点から防災標識を検討し、より防災力の高い視覚情報を探索するものである。研究は色の効果に着目した一連の実験と、実際の標識の探索特性を調べた実験により構成される。1.色情報の効果:標識が人の注意を引くための重要な要因は色である。そこでまず、注意を引く色を、被験者の注視点の移動を指標として調べた。これより、マンセル色票8Rのような赤系の色は視点が向きやすく注意を引くが、8BGなどの青系はあまり注意を引かないという結果を得た。次に、視野周辺で標識を捉えることが、標識検出の第一歩であることを考え、視野周辺部での色の目立ちを測定した。その結果、明所視では、視野周辺部においても、相対的には赤系の色が目立つなど、視野中心部での目立ちの結果と同じ傾向となった。さらに、標識を光源色として見えるようにすれば、周囲の物体色と区別できる。そこで、物体表面をどのくらいの輝度、あるいは照度にすれば、それが光源色として見え始めるかを、様々な条件で調べた。その結果、高彩度・高明度の色は、光源色になりやすいことが明らかになった。2.実際の非常口標識の探索:地下街や駅構内を取り上げ、そこでの標識探索の難易さを調べた。被験者には、それらの場所を撮影したスライドを見せ、「非常口」標識の検出時間、そのときの眼球運動を測定した。その結果、周囲に類似物がない状況では、標識を瞬時に発見できるが、視覚的なノイズが多い状況では、標識の検出が極めて困難になることが示された。標識の探索には、周囲の視環境が重要な要因であるといえる。本研究により、防災標識が注意を引くための色彩条件、標識が瞬時に検出されるための視環境条件などについて、有用な基礎データが得られた。また、色の見えのモードの観点から目立ちを検討するという、新しい考え方を提供できたものと思う。
著者
藤川 重雄
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本報告は上記研究課題について, 主として, キャビテーションクラウドを構成する気泡群の2個の気泡の力学に関する基礎的研究成果を述べたものである. まず, 非圧縮性液体中で膨張, 収縮, 並進運動する大きさの異なる2個の気泡に対し, 気泡同志の相互作用, 気泡壁の変形を考慮して運動方程式を導びいた. さらに, これを圧縮性液体の場合に拡張した. 得たる成果は以下の通りである. 1 本理論を固体境界壁近傍での単一蒸気泡崩壊問題に通用し, 結果を液体衝撃波管による実験により検証した. さらに, 境界要素法に基づく直接数値計算結果と比較て本理論の適用限界を明らかにした.2. 本理論を最初大きさの異なる2個の気泡の崩壊問題に適用した. その結果, 初期半径の小さな気泡は, 大きな気泡との相互作用により変形しつつ並進運動を行ない, 収縮, 膨張をくり返すごとにますます変形していく. このような気泡の変形は, 気泡の収縮, 膨張運動に加えて, 相互作用による並進加速度運動によって引き起こされる. また, 2個の気泡の適当な初期半径比及び気泡内気体初期圧力の下では, 同一条件下の単一気泡の場合よりも高い衝撃圧力を発生すること等を明らかにした.3. 本研究の成果を音場中における2個の球形気泡の非線形振動に応用した. 一つの気泡がm周期運動をすると. 他の気泡もm周期運動し, 2個の気泡が同時に音場の振動数の1/(m〜)倍の振動数を有するキャビテーションノイズの原因となることを明らかにした.以上の成果は, キャビテーションクラウドの力学が従来の単一気泡の力学とは全く異なったものであることを示しており, 本研究を通して初めて明らかにされてきたものである. 今後, 更に引き続き多数個の気泡の力学を研究する計画である.