- 著者
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南角 学
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2010
【目的】人工股関節置換術(THA)において,術前の痛みがなくなった患者が,次に期待することは「きれいに歩くこと」や「杖なしで歩くこと」である.しかし,THA術後の3次元歩行解析を行った報告では,中殿筋機能不全などの股関節機能低下に起因する姿勢制御や歩行障害が指摘されており,術後早期から歩行障害に対する有用なトレーニング方法の開発が急務となっている.本研究の目的は,臨床で実施されることの多い荷重位でのトレーニングの筋電図学的分析を行い,運動機能の向上のためにより有効なトレーニング方法を検討することである.【方法】対象はTHAを施行され術後4週が経過した16名とした.測定課題は,術側を支持脚とした前方への昇段動作,側方への昇段動作,片脚立位,および快適速度での歩行の4条件とした.測定筋は術側の大腿直筋(RF),中殿筋(Gm)とし,測定には表面筋電図計を使用した.各動作課題の筋活動を二乗平均平方根により平滑化し,最大収縮時の筋活動を100%として正規化した.統計には,Friedmanの検定後に多重比較法を用いた.【結果と考察】RFの筋活動は,前方への昇段動作46.8±25.1%,側方への昇段動作59.4±34.3%,片脚立位25.0±15.8%,歩行30.7±20.5%であり,多重比較の結果から,側方への昇段動作において他の3つの動作に比べ有意に高い値を示し,前方への昇段動作では片脚立位,歩行に比べ有意に高い値を示した.また,各動作のGmの筋活動は,前方への昇段動作40.6±17.6%,側方への昇段動作55.1±24.6%,片脚立位60.7±28.2%,歩行48.5±23.9%であり,多重比較の結果から,側方への昇段動作において前方への昇段動作に比べ有意に高い値を示し,片脚立位において前方への昇段動作と歩行に比べ有意に高い値を示した.以上から,THA術後早期における荷重位での筋力トレーニングとして,側方への昇段動作は運動機能の向上のために最も有効なトレーニング方法であることが示唆された.