著者
岡田 洋平 福本 貴彦 高取 克彦 梛野 浩司 平岡 浩一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BeOS3029, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 パーキンソン病(PD)患者は歩行開始動作に障害を有することが多く,歩幅の減少,振り出し開始前の足圧中心(center of pressure :COP)の後方あるいは振り出し側への移動の異常,COPの移動開始から振り出し開始までの期間の延長などが報告されている。PD患者の歩行障害は歩行開始1歩目と同様,定常歩行においても報告されているが,歩行開始から定常歩行に至る過渡期について定量的に解析した先行研究はない。健常人は歩行開始から定常歩行に至るまで2~3歩要する。本研究では,PD病患者の歩行開始後3歩の異常性を明らかにするため,PD患者と健常高齢者を対象に運動学的指標を評価し比較検討した。【方法】 対象はPD患者10名と年齢を一致させた健常高齢者10名とした。対象者は長さ9mの歩行路において歩行開始動作を実施した。9mの歩行路の最初に2.18mのforce platformを設置し,歩行開始後3歩の足圧分布データをサンプリング周波数100Hzにて記録し,合成COP座標を算出した。対象者はforce platform上において数秒間立位保持し,歩行路の最後端の中央に設置した目標を注視しながら自身のタイミングで至適速度にて歩行開始し,歩行路の最後まで歩行した。歩行開始側は指示せず,いずれかの歩行開始側が10試行に達するまで試行を実施した。 解析項目は,歩行開始後3歩の時空間指標,COP最大移動距離(前後,側方),踵接地位置(前後,側方),踵接地位置とCOPの前額面上の距離とした。時空間指標は歩幅,ステップ速度,ステップ時間,両脚支持期とした。COP 最大移動距離は,歩行開始後のCOP軌跡における4つのpeakにおいて,歩行開始時のCOP座標を0として算出した。1st peakは歩行開始後COPが最も後方かつ振り出し開始側に移動した点とし,2nd Peakは最も初期立脚側に達する点とする。3rd Peakは1歩目の接地後COPが最も外側に移動した点とし,4th Peakは2歩目の接地後COPが最も外側に移動した点とした。踵接地位置は踵中央線の後端とした。踵接地位置とCOPの前額面上の距離は, COPが踵接地位置と同じ前後座標に到達した際の側方の距離とした。 PD患者における評価はON期に統一して行った。統計解析は,2群間における各項目の平均値の差について対応のないt検定を用いて検討した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は大阪府立大学総合リハビリテーション学部研究倫理委員会の承認を受けて実施された。対象者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を書面にて説明し同意を得た。【結果】 PD患者における歩行開始後3歩の歩幅,ステップ速度は健常高齢者と比較して有意に低下していた。PD患者の1歩目のステップ時間,1,2歩目の両脚支持期は有意に延長していた。歩行開始後3歩におけるPD患者のCOP軌跡と踵接地位置は振り出し開始側に偏移する傾向が認められた。PD患者の2nd Peakの側方移動距離は減少する傾向にあり,3rd Peakの側方移動距離は有意に大きかった。PD患者の1歩目と3歩目の踵接地位置は振り出し開始側に有意に偏移していた。PD患者は健常高齢者と比較してCOPが踵接地位置のより内側を通過し,1歩目と2歩目の踵接地位置とCOPの前額面距離は有意に大きかった。【考察】 本研究の結果,PD患者の歩行開始後3歩のCOP軌跡は振り出し開始側に偏移し,踵接地位置の内側を通過するという異常性が示唆された。COP軌跡の振り出し開始側への偏移は,踵接地位置が振り出し開始側に偏移した影響を受け,これらは2nd PeakのCOP側方移動距離の減少に起因すると考察する。2nd Peakの側方移動距離の低下は,初期支持脚への荷重移動の低下を反映すると考えられる。先行研究においてPD患者の歩行開始動作における初期支持脚への側方荷重移動能力の低下が報告されている。歩行開始時の支持脚への荷重移動の不十分さとその後3歩目まで続く正常な荷重移動により,振り出し開始側へのCOPの偏移が生じたと考えられる。1,2歩目においてCOP軌跡が踵接地位置の内側を通過するのは,両脚支持期の延長に起因する可能性がある。両脚支持期の延長は踵接地後に対側下肢が接地している時間が長いことを表す。COP軌跡が踵接地位置の内側を通過するのは,先行肢が踵接地した後も対側下肢への荷重が多いことを示唆する可能性がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究によってPD患者の歩行開始後3歩における異常性が初めて示された。本研究における知見はPD患者における歩行開始から定常歩行への過渡期に対する介入に寄与すると考えられる。
著者
前岡 浩 冷水 誠 松尾 篤 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1615, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】ヒトが痛みを知覚する場合,加えられた痛みの強度だけでなく,その時の状況や過去の痛み経験,さらに不快,不安の情動面など様々な影響を受ける。つまり,物理的な痛み刺激が強くない場合でも,痛みに対する不安や不快が強い時,主観的な痛みが増強する場合がある。通常,痛みは持続的または頻回に知覚されるが,頸部や肩部などの痛みの強さが軽度の場合でも,痛みが持続的であると不快感を強く感じることはしばしば経験する。先行研究では,反復した痛みには痛みの慣れが起こり,痛みの強度が減少することは報告されているが,不快や不安などの情動的要因については明らかでない。そこで我々は,反復した痛み刺激に対する情動的要因への影響を検証し,痛みの強度は減少するが不快は持続するという結果を得た。また現在,痛み軽減への介入の一つに,非侵襲性に頭皮上の電極から微弱電流を流し,電極直下領域の脳活動を調整する経頭蓋直流電気刺激(tDCS)が挙げられるが,反復した痛み刺激に対する有効性は十分検討されていない。さらに,痛み関連のtDCS研究では,左背外側前頭前野(DLPFC)領域の刺激による報告が多いが,痛みの強度と不快感に共に関連するとされる右DLPFC領域に関する報告は少ない。そこで今回,反復した痛み刺激に対し右DLPFC領域にtDCSを実施し,痛みの強度,不快,不安への効果について検証したので報告する。【方法】健常大学生20名(女性:10名,男性:10名)を対象とした。反復した痛み刺激強度の決定は,事前に温熱を使用した痛覚計を使用し,左前腕内側部(上腕骨内側上顆から10cm遠位)の疼痛閾値と痛み耐性閾値を測定し,疼痛閾値に1℃加えた温度を痛み刺激強度とした。加えて,左前腕遠位部内側部(上腕骨内側上顆から20cm遠位),右前腕近位内側部も同様に各閾値を測定した。tDCSについて,被験者を陽極(anode)刺激または偽物(sham)刺激から開始する2群に無作為に割り付け,1週間以上間隔を設けた後,刺激条件を入れ替えて再度実施した。tDCSの電極は,陽極を右DLPFC領域,陰極を左眼窩上領域とし,2mAで20分間刺激した。sham条件は,anode条件と同様の電極位置で最初の30秒間のみ通電した。反復した痛み刺激は,左前腕近位内側部に1回6秒間の痛み刺激を60回実施した。評価項目は,tDCS前に痛み閾値,痛み耐性閾値,State-Trait Anxiety Inventory(STAI)を使用し状態不安を測定した。tDCS後の反復した痛み刺激中は,60回の痛み刺激ごとに痛み強度と不快感をVisual Analogue Scale(VAS)にて評価した。痛み刺激終了後に再び痛み閾値,痛み耐性閾値,STAIを測定した。統計学的分析は,痛み閾値,痛み耐性閾値,STAIには反復測定二元配置分散分析(tDCS条件×時間)を使用し,有意差が認められたものにはBonferroniによる多重比較検定を実施した。また,VASによる痛み強度と不快感の刺激条件間での比較にt検定を使用した。統計学的有意水準は5%とした。【結果】tDCSの条件間の比較では,痛み閾値と痛み耐性閾値に有意な変化は認められなかった。痛み強度はanode条件で減少傾向(p=0.09)を示し,不快についてはanode条件で有意な低下(p<0.01)が認められた。STAI(状態不安)については,tDCS条件と時間で交互作用(p<0.05)が認められ,多重比較の結果,sham条件で有意な増加(p<0.01)が認められた。【考察】今回,反復した痛み刺激に対し,右DLPFC領域のtDCSによって不快,不安の低下と増加の抑制が認められた。DLPFCは痛みの情動的側面に深く関与する前帯状回や扁桃体と機能的結合があり,DLPFCの活動がこれらの領域に抑制性に作用した可能性が考えられる。今回,右DLPFC領域を刺激したが,tDCSの鎮痛に関する多くの先行研究は左DLPFC領域を標的部位としている。今後さらに左右DLPFCの機能の違いを含め検証することで,より有効にtDCSを実施するための情報提供が可能になると考える。【理学療法学研究としての意義】今回,健常者を対象に反復した痛み刺激における痛みの不快,不安に対し,右DLPFC領域へのtDCSの有効性が示唆された。本研究結果は,tDCSの適応と限界に関する予備的データとして有益な情報になると考える。
著者
前岡 浩 冷水 誠 松尾 篤 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0791, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】痛みは「組織の実質的または潜在的な損傷と関連したあるいはこのような傷害と関連して述べられる不快な感覚的・情動体験」と定義(国際疼痛学会)され,感覚的側面,認知的側面,情動的側面から構成される。近年,痛みに対する治療手段の一つとして,選択的に大脳皮質領域を刺激する経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)が注目されている。これは非侵襲性に頭皮上に設置した電極を介して微弱な電流を適応し,膜電位の変化や大脳皮質を興奮させ,電極直下領域の脳活動を調整するという治療である。実際に,健常者や慢性痛患者に対する鎮痛効果が報告されつつある。しかしながら,これまでの先行研究は疼痛閾値や耐性閾値を指標に一時的な痛み刺激に対する即時効果や持続効果についての報告が大部分である。本来,痛みが発生するとその痛みは持続的に知覚される。さらに,物理的な痛みだけでなく,不快感や不安感などの情動も痛みに大きく影響を与える。このような持続的に加えられた痛みに対し,tDCSの効果を検証した報告は認められない。したがって今回,反復した痛み刺激に対し,tDCSが痛みの感覚的側面および情動的側面に与える影響について検証することを目的とした。【方法】対象は健常大学生7名(女性:4名,男性:3名,平均年齢:20.6±0.5歳)とした。測定手順は,はじめに温熱を使用した痛覚計(ユニークメディカル社製)により,左前腕近位内側部,左前腕遠位内側部,右前腕近位内側部における痛み閾値および痛み耐性閾値を測定した。反復刺激する部位は左前腕近位内側部とし,痛み刺激の強度は測定した痛み閾値に1℃加えた温度とした。その後,tDCS装置(NeuroConn社製)を使用し,参加者7名を陽極刺激(anode)および偽物(sham)刺激から開始する2群に無作為に割り付け,測定2日目に各条件を入れ替えて実施した。各条件間には1週間以上の間隔を設けた。tDCSの刺激部位は国際10/20法に基づき,陽極を右背外側前頭前野領域(F4),陰極を左眼窩上領域に固定し,2mAで20分間刺激した。Sham条件は,同様の電極位置で最初の30秒間のみ通電し,その後通電を停止させ20分間実施した。tDCS実施後,1回の刺激時間が6秒間,刺激回数6回を1ブロックとする反復した痛み刺激を10ブロック連続(合計60回刺激)して実施した。皮膚の感作回避のため刺激部位に近接する3ヶ所で1ブロックごとに刺激部位を移動させた。評価項目は各刺激に対する痛み強度および不快感とし,Visual Analogue Scale(VAS)にて評価した。10ブロック終了後,痛み閾値および痛み耐性閾値を再度測定した。また,tDCS実施前および反復刺激終了後に不安感の尺度であるState-Trait Anxiety Inventory(STAI)を使用し,状態不安の測定もあわせて実施した。分析のため,tDCSにおける刺激条件間での痛み閾値および痛み耐性閾値,そしてVASによる痛み強度および不快感,STAIスコアの平均値を算出した。統計学的分析には,痛み閾値および痛み耐性閾値,STAIについて反復測定二元配置分散分析を使用し,有意差が認められたものにはBonferroniによる多重比較検定を実施した。また,VASによる痛み強度および不快感の刺激条件間での比較にはt検定を使用した。統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者に本研究の目的,方法について事前に説明を行い,実験参加の同意を得た。そして,本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号H25-14)。【結果】anode条件とsham条件の比較において,痛み閾値および痛み耐性閾値,痛み強度,STAIに有意な変化は認められなかった。一方,不快感ではsham条件(58.31±11.43)と比較し,anode条件(52.98±11.99)で有意な低下(p<0.05)が認められた。【考察】反復した痛み刺激に対し,anode条件で痛みの情動的側面である不快感に有意な減少が認められた。背外側前頭前野への刺激による鎮痛メカニズムは十分解明されていないが,この領域は主に痛みの情動に関わる情報を伝える内側経路と接続し,痛みの情動的側面に関与するとされる。また背外側前頭前野は前帯状回を介し痛みの下行性疼痛抑制系とも接続する。我々もこれまでに情動喚起画像により起こる痛みに関連した不快感に対し,背外側前頭前野へのtDCSによる軽減効果を報告している。今回の結果により,反復した痛み刺激においても痛みの情動的側面へのtDCSの有効性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回,健常者を対象に反復した痛み刺激に対する背外側前頭前野へのtDCSの有効性が示唆された。本研究結果は,実際の有痛者へのtDCSの応用に向けた予備的データとして有益な情報になると考える。
著者
久保下 亮 岡 慎一郎 田原 弘幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1397, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 不慣れな運動を行った後や,過度な運動を行った後の24~48時間後をピークとして生じる遅発性筋肉痛(Delayed Onset Muscle Soreness;DOMS)は,遠心性収縮の収縮様式を用いた運動後に生じやすい。その原因は諸説様々な形で述べられている。運動中に生じる筋や結合組織の微細構造の損傷後の炎症反応に伴う筋内圧の増加などの機械的刺激や,筋温の上昇による熱刺激,ブラジキニン,セロトニン,ヒスタミン,カリウムイオンなどの発痛物質による化学的刺激それぞれが,多種侵害受容器であるAδ線維やC線維の自由終末に作用することによって痛みが受容されると考えられる。その評価方法に至っては,VAS(Visual Analogue Scale)やフェイススケールなどが簡易的に用いられており,その他,血中生化学的マーカーにより評価する方法,超音波画像法や磁気共鳴映像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)など筋内部の変化を画像化して評価する方法などが用いられている。今回は,プライオメトリクストレーニングを用いて意図的に大腿四頭筋にDOMSを生じさせ,トレーニング前後での内側広筋(以下,VM)と外側広筋(以下,VL)の筋硬度と膝関節伸展ピークトルクとにどのような変化が生じるのか検討してみた。【方法】 対象は現在運動器疾患を有していない学生20名(男性13名,女性7名),平均年齢20.7±0.2歳である。まず,被験者のVMとVLの筋硬度を背臥位にて生体組織硬度計PEK-1(井元製作所製)を用いて計測した。次に,膝関節伸展ピークトルクの測定を等速性筋力測定器であるBIODEX SYSTEM3(BIODEX社製)を用いて行った。角速度は60°/secで反復回数を5回とした。その後,プライオメトリクストレーニングとしてボックスジャンプとデプスジャンプを10回×3セット施行し,トレーニング終了から24時間後(以下,Ex後24h),48時間後(以下,Ex後48h)にVMとVLの筋硬度と膝伸展ピークトルクを測定した。統計学的分析には,反復測定分散分析を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には紙面を用いて研究内容を説明し,研究への参加による利益,不利益を示し,同意を得た上で本研究に参加してもらった。【結果】 膝関節伸展ピークトルクの平均は,トレーニング前(以下,Ex前)が167.8±10.6Nm,Ex後24hが163.5±10.6Nm,Ex後48hが159.3±11.1Nmであり,Ex前とEx後48hとの間に有意差を認めた(p<0.01)。VMの筋硬度の平均は,Ex前が40.1±0.7,Ex後24hが42.2±0.7,Ex後48hが45.2±0.8であり,全てにおいて有意差を認めた(p<0.01)。VLの筋硬度における平均は,Ex前が53.8±0.9,Ex後24hが55.0±0.8,Ex後48hが57.8±0.8であり,Ex前とEx後48h,Ex後24hとEx後48hとの間において有意差を認めた(p<0.01)。【考察】 今回,VMやVLに対し強い遠心性収縮を要求するプライオメトリクストレーニング(ボックスジャンプ,デプスジャンプ)を行うことで,トレーニング後は筋硬度が上がり,膝関節伸展筋力も低下するという結果から,強い遠心性収縮を用いるトレーニングは筋を損傷させることにより筋機能が著しく向上することはありえないと思われる。野坂らによると,エクセントリックトレーニングにより筋機能の向上を図る際には,筋力の回復に長期を要するような強い負荷は効果的でなく,筋力の増加は,比較的軽度な負荷のトレーニングでも達成できると述べている。高負荷なトレーニング後は筋疲労が残存していたり,筋の緊張状態も高いことより,トレーニング後の休息ならびに次のトレーニングまでの間隔が,トレーニング効果を上げるために非常に重要な要素であることを示している。
著者
近藤 有希 澤 龍一 海老名 葵 高田 昌代 藤井 ひろみ 奥山 葉子 谷川 裕子 総毛 薫 田中 幸代 白方 路子 小野 玲
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】分娩所要時間の遷延は手術分娩や胎児の窒息,母体の感染症や合併症などのリスク上昇につながるといわれている。さらに,分娩時間の遷延は出産体験への不満感を招く一因子であり,その後の出産意欲を低下させるという報告もされている。これらのことから分娩は短縮化する必要があるといえる。分娩所要時間には有酸素能力や運動との関連が先行研究で報告されているが,骨盤底筋群トレーニングや水中エアロビクスなど特定の運動介入のものや,アスリートなど特殊な妊婦を対象としている研究が多い。しかし,多くの妊婦が子育てや仕事などの時間的制約によりこのような運動プログラムへの参加が出来ていないのが現状である。そのため,特定の運動だけでなく有酸素能力の維持・向上に効果的である日常生活での習慣的身体活動を維持することが重要と考えられる。また,初産婦と経産婦では分娩所要時間の平均時間が大きく異なる事は知られているにもかかわらず先行研究においては考慮されていない,あるいは初産婦のみを対象としているものがほとんどで経産婦についての報告は少ない。そこで本研究の目的は,初産婦,経産婦それぞれの妊娠末期における習慣的身体活動が分娩所要時間に与える影響を明らかにすることとした。【方法】対象は妊娠末期に研究参加の同意が得られ,欠損なくデータ収集が出来た121名のうち,自然分娩により出産をした初産婦48名(平均年齢28.8±4.7歳,新生児体重=3058.6±371.5g),経産婦55名(平均年齢32.7±5.5歳,新生児体重=3167.7±366.1g)の合計103名とした。妊娠末期では一般情報に加え,習慣的身体活動を質問紙により評価した。妊娠末期における習慣的身体活動はBaecke physical activity Questionnaireの日本語版を用いた。初産婦と経産婦それぞれにおいて合計点数の中央値で高活動群と低活動群に群分けした。分娩所要時間は,分娩記録より分娩第1期,分娩第2期,総分娩時間に分けて収集した。全ての解析は初産婦,経産婦それぞれに対して実施した。各分娩所要時間の群間比較は,Wilcoxonの順位和検定で比較した。多変量解析では,目的変数を分娩所要時間,説明変数を高活動群/低活動群,交絡因子を年齢,妊娠前から記入時の増加体重,出産回数,新生児体重,出産時妊娠週数,妊娠前の運動の有無として強制投入法による重回帰分析を行った。【結果】初産婦における高活動群と低活動群の間で分娩第1期時間,分娩第2期時間,総分娩時間に有意な違いはみられなかった。経産婦において,低活動群と比較して高活動群の分娩第2期の時間が有意に短かった(中央値(最小-最大):20(4-175)分,11(1-102)分,<i>p</i><.05)。交絡因子の調整後においても高活動群の分娩第2期時間が有意に短かった(β=-.36,<i>p</i>=.007,R<sup>2</sup>=.28)。しかし,分娩第1期の時間と総分娩時間では2群間に有意な違いはみられなかった。【考察】分娩所要時間に関与する因子として,陣痛と腹圧を合わせた娩出力と,産道,娩出物が分娩3要素といわれている。分娩第2期は陣痛に加えて妊婦のいきみによる腹圧が加わって胎児を娩出させる段階であり,この時期には妊婦の有酸素能力や腹筋群など骨格筋の収縮力が大きく関与しているため習慣的身体活動との関連が示唆されたと考えられる。一方で分娩第1期は分娩開始から,子宮頸管の熟化と,陣痛による胎児の下降で圧迫され子宮下部が伸展し子宮口が全開大するまでの時期であり,いきみは禁忌とされている。よって分娩第1期の時間は頸管の熟化と陣痛が主な要素であると考えられ,習慣的身体活動がこれらに影響を与えるのは困難であったと考えられる。また,総分娩時間のうち分娩1期の時間が大きな割合を占めているため,総分娩時間の短縮化に至らなかったものと考えられる。一方で初産婦に有意差がみられなかったことについては,初産婦は経産婦と比べて子宮頸部や外陰および会陰部が伸展しにくく軟産道の抵抗が強いため,娩出力以外に産道の抵抗性が分娩所要時間に大きく影響していることが考えられる。今後の研究で産道の抵抗性に影響する因子や,その他の分娩所要時間に関連する因子を解明する必要がある。【理学療法学研究としての意義】妊娠末期の習慣的身体活動は経産婦の分娩第2期の時間に影響する一要因であることが示された。胎児・母体への悪影響は主に分娩第2期の遷延において多く報告されており,妊娠末期の女性に対して適切な運動習慣の指導を行うことで分娩経過と分娩結果に良い効果をもたらす可能性が示唆された。
著者
石原 康成 水池 千尋 水島 健太郎 三宅 崇史 稲葉 将史 久須美 雄矢 堀江 翔太 立原 久義 橋本 恒 山本 昌樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1028, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】小・中学生の投球障害肩・肘症例の中には,棘下筋(以下,ISP)の筋力低下や筋萎縮が生じている例が存在する。これらISPの機能不全は肩甲上腕関節の不安定性に影響をもたらし,永続的な障害の一因となりうるため,早期発見の重要性が高い。しかし,投球障害肩・肘症例の中でもISPの筋力低下や筋萎縮を生じているものと,生じていないものが存在する。そこで今回,小・中学生の投球障害肩・肘症例におけるISPの状態を明らかにすることを目的として,小・中学生の野球選手を対象として調査を行った。併せて投手と投手以外のポジション(以下,野手)で比較し,ISPの状態の差が下肢タイトネスに由来している可能性を考え,これに関しても分析を行ったので,ここに報告する。【方法】対象は,少年野球団,シニアリトル,中学校野球部に所属している小・中学生の男子66名(平均年齢12.7±2.2歳)。肩もしくは肘に疼痛があり病院を受診した障害群は33名(以下S群,平均年齢12.9±2.3歳),で内訳は投手17名,捕手4名,外野手3名,内野手9名であった。投球障害のない対照群は33名(以下C群,平均年齢12.6±2.2歳)で,内訳は投手13名,捕手1名,外野手6名,内野手13名であった。方法は,対象者に対して,ISP筋萎縮の有無,下肢のタイトネスの指標として両側の下肢伸展挙上角度(以下,SLR),股関節内旋角度(以下,Hip IR)を測定した。SLR,Hip IRは投球側と非投球側に分けて検討を行った。ISP筋萎縮の有無の判定は,ISPの触診と視診により行い,投球側上肢と非投球側上肢で比較し判定を行った。統計解析には,ISP筋萎縮の有無についてはχ2検定,2群の測定値の比較には対応のないt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】全体におけるISP筋萎縮は,S群では20名(60.6%),C群では9名(27.2%)であり,有意にS群での割合が高かった。投手におけるISP筋萎縮は,S群17名のうち11名(65%),C群13名のうち3名(23%)で,有意にS群での割合が高かった。野手におけるISP筋萎縮は,S群17名のうち6名(35%),C群13名のうち10名(77%)で,両群間に有意差は認められなかった。投手のSLRは,投球側のISP筋萎縮ありで69.3±9.2°,筋萎縮なしで72.8±8.4°,非投球側の筋萎縮ありで71.1±8.6°,筋萎縮なしで71.6±8.3°と,有意差を認めなかった。Hip IRは投球側の筋萎縮ありで17.9±11.6°,筋萎縮なしで26.3±9.8°,非投球側の筋萎縮ありで17.9±11.9°,筋萎縮なしで26.3±10.1°と,両側Hip IRともに筋萎縮あり群が有意に低値を示した。野手のSLRは,投球側の筋萎縮ありで65.7±11.2°,筋萎縮なしで63.6±11.8°,非投球側の筋萎縮ありで64.3±10.8°,筋萎縮なしで64.2±10.6°と,有意差を認めなかった。Hip IR(投球側)は筋萎縮ありで19.7±7.1°,筋萎縮なし20.1±8.7°,非投球側は筋萎縮ありで20.3±9.7,筋萎縮なしで21.9±9.6°と,有意差を認めなかった。【考察】本調査の結果,小・中学生の投球障害肩・肘症例において,ISP筋萎縮は投手に多いことが明らかとなった。次に,筋萎縮のある選手の下肢のタイトネスは,SLRにおいて投手と野手とで両群間に有意差を認めなかったが,Hip IRにおいて投手が有意に低値を示した。投球動作は全身の運動連鎖から成り立つため,上肢帯だけでなく下肢の柔軟性が必要とされる。投手は野手に比べて投球数が多い。ISPはフォロースルー時に加速された上肢の減速のために遠心性収縮を強いられることが要因として考えられた。ISPの負担を軽減するには,フォロースルー時の上肢の減速に非投球側のHip IRが関わる可能性が考えられる。したがって,股関節の内旋制限のある投手は,投球動作の中で生じるISPへの負担が大きい可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】小・中学生の野球選手に対して潜在的に投球障害肩・肘を評価する方法としてISPの筋萎縮の有無が有用である可能性がある。SLRとHip IRは投球障害の機能的検査法である原テストの検査項目でもある。本研究により小・中学生の投手における投球障害肩・肘症例に関してはSLRよりHip IRを優先的に改善する機能強化やアプローチが投球障害をより早期に改善させる一助になる可能性がある。
著者
上島 正光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb1400, 2012

【はじめに】 歩行は足部からの影響を強く受ける。しかしながら、理学療法士が足部そのものにアプローチすることはあっても、靴にアプローチすることは少ない。靴の中敷きを硬くすることは、歩行における蹴りだし動作時の足趾MP関節伸展および足関節底屈角度を減少させ、結果的にtoe clearanceを減少させることを第46回本学会で報告した。靴の中敷きの硬さに操作を加えることは、蹴りだし動作における下肢関節角度に影響を及ぼすだけでなく、蹴りだし動作の強さや身体の側方移動にも影響を及ぼすことが予想される。そこで今回、靴の中敷きを硬くすることが、歩行における蹴りだし動作や身体の側方移動にどのような影響を及ぼすかを検証し、簡便に足部からの治療に利用できないか検討することを目的に本研究を行った。【方法】 対象は下肢に既往が無く、足の実測長が23.0cmから24.0cmの健常人女性20名(年齢20.1±1.8歳、体重51.9±3.5kg)とした。運動課題は、指定した運動靴(内寸25.0cm)を履いて行う、至適速度での10メートル歩行である。右足が蹴りだし、左足が踏み出しとなる中間の1歩行周期において以下の項目を測定した。測定項目は右足蹴りだし動作における床反力の前後・左右成分最大値と、左足踏み出し動作における床反力の前後・左右成分最大値であり、床反力計BP400600(AMTI社製)を用いて測定を行った。全例において右足の靴にのみ、硬さの大きく異なる中敷きを2種類入れ分け、2条件にてそれぞれ運動課題を行った。各条件を、1)柔らかい中敷きを入れて歩く場合をsoft群、2)硬い中敷きを入れて歩く場合をhard群と名付けた。なお左足の靴には既製の中敷き入れたままとした。各条件での測定を3回ずつ施行し、測定した3回の平均値を解析データとして用いた。解析項目は、(a)蹴りだし動作時の床反力前後成分最大値、(b)蹴りだし動作時の床反力左右成分最大値、(c)踏み出し動作時の床反力前後成分最大値、(d)踏み出し動作時の床反力左右成分最大値とし、2群間の平均値の差を対応のあるt検定を用いて検討した。なお有意水準は5%未満とした(p<0.05)。【説明と同意】 全被験者に実験概要、データの取り扱い、データの使用目的を示す書面を提示し、口頭にて説明したのち、同意書に署名をいただいた上で本研究を行った。【結果】 (a)蹴りだし動作時の床反力前後成分は、soft群108.6N、hard群120.2Nであり、soft群に対しhard群にて床反力前後成分は有意に大きかった(p<0.01)。(b)蹴りだし動作時の床反力左右成分は、soft群20.3N、hard群29.1Nであり、soft群に対しhard群にて床反力左右成分は有意に大きかった(p<0.01)。(c)踏み出し動作時の床反力前後成分は、soft群89.6N、hard群96.9Nであり、soft群に対しhard群にて床反力左右成分は有意に大きかった(p<0.01)。(d)踏み出し動作時の床反力左右成分は、soft群17.7N、hard群28.8Nであり、soft群に対しhard群にて床反力左右成分は有意に大きかった(p<0.01)。【考察】 soft群に比べhard群において、蹴りだし動作時の床反力は前後成分・左右成分とも有意に大きい結果となった。これは靴の中敷きを硬くすることが、歩行における蹴りだし動作を強めていることを示唆する。第46回本学会にて、靴の中敷きを硬くすることは蹴りだし動作における足関節底屈角度を減少、膝関節伸展角度を増加させ、股関節の伸展角度が増加することを報告した。股関節伸展角度の増加は歩行における蹴りだし動作を延長させ、足部の床反力作用点と身体重心点の距離を伸ばすことになり、結果的に蹴りだし動作における床反力成分の増大につながったと考えられる。また対側下肢の踏み出し動作における床反力も、soft群に比べhard群において前後成分・左右成分ともに有意に大きくなった。これは蹴りだし動作における運動エネルギーの増加を対側下肢で受け継いだ結果であると考える。床反力の左右成分に着目すると、靴の中敷きを硬くすることで蹴りだし動作、踏み出し動作ともに床反力左右成分が大きくなった。つまり、靴の中敷きを硬くすることで蹴りだし動作による対側への身体の側方移動も強くなることが伺える。以上より、靴の中敷きの硬さに操作を加えることは、歩行における蹴りだし動作の強さと、身体の側方移動に介入できる可能性があるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 靴の中敷きの硬さを変えることは、歩行における蹴りだし動作の強さと、身体の側方移動に介入できる可能性がある。歩行において蹴りだし動作の強さと身体の側方移動を意図的に操作することは、変形性膝関節症における膝の外側動揺や一側性の筋膜性腰痛など、姿勢や歩容に根本的な原因をもつ疾患の治療の一助になるのではないだろうか。また靴の中敷きの硬さを変える方法はとても簡便で、誰にでもできる足部からのアプローチとして利用しやすいのではないだろうか。
著者
櫻井 佳宏 鈴木 裕子 関場 大樹 廣瀬 悠基 南澤 忠儀 神先 秀人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0697, 2012

【はじめに、目的】 動作中のかけ声の効果として,単関節運動において,最大努力時の筋出力の増大や最大収縮速度の上昇に有効であることなどが知られている.しかし,最大努力下における閉鎖運動連鎖での多関節運動中のかけ声の効果について検証した報告はない.本研究の目的は,最大努力下の立ち上がり動作における,かけ声の効果を運動学的および筋電図学的側面から検討することである.なお,本研究では,かけ声を「力を入れる時に発する声」と定義した.【方法】 対象は整形及び神経疾患の既往歴がない健常男性10名(年齢21.9±1.4歳,身長171.4±6.2cm,体重64.4±6.6kg)である. かけ声の効果をみるため,動作の遂行が限界に近い高さの台からの立ち上がり動作を,かけ声有り(有声群)とかけ声なし(無声群)の2条件で行わせた.最初に,各対象者が,体幹の回旋を伴わない,座位からの直線的な立ち上がり動作が可能な最低限の高さを,1cm単位で調節して決定した.その際,足部を椅子から10cm離して肩幅まで開き,足関節を中間位にして胸の前で腕を組むように指示した.次に,有声群には最も立ち上がりやすい時期に,できるだけ大きな声で「よいしょ」というかけ声を発しながら立ち上がるように指示し,無声群には息を吐きながら立つように指示した.各条件での立ち上がり動作を各3回ずつ行わせ,動作中の運動学的データと筋活動を三次元動作解析装置および表面筋電図を用いて測定した.動作開始は,矢状面上で頭部のマーカーが前方へ移動し始めた点とし,動作終了は頭部マーカーが最高位に達した点とした.また,動作開始から殿部離床までを第1相とし,殿部離床から動作終了までを第2相として相分けした. 三次元測定では赤外線反射マーカーを頭頂と左右の肩峰,股関節,膝関節,外果,第5中足骨頭の計13箇所に貼付し,サンプリング周波数60Hzで記録した.矢状面における頭頂マーカーの位置座標から,動作全体における頭部の平均運動速度と前後移動幅を算出した. 筋活動は右側の腰部脊柱起立筋(Es),外側広筋(VL),前脛骨筋(TA)の3筋を被検筋とし,サンプリング周波数は1200Hzで取り込んだ.筋活動開始時期は,整流波形において安静時筋電位の最大値を持続して超えた最初の時点とした.筋活動量は,動作全体および各相の積分筋電値(IEMG)を算出した.また,50msec毎のRMSを最大随意性収縮時に対する比率(%MVC)として算出し,経時的な活動パターンを追うとともにその最大値を解析に用いた. 統計処理は,各動作3試行の平均値を用いて2条件で比較をし,対応のあるt検定及びWilcoxon符号付順位和検定を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 被検者には本研究の目的を口頭および文章にて十分に説明し,書面による同意を得たのちに測定を行った.【結果】 運動開始から筋活動開始までの時間は両群に差は認められなかった.計測した1つの筋が活動を始めてから,他の2筋すべてが活動を始めるまでの時間において無声群では216±108msec,有声群では148±95msecと,有声群で有意に短縮した. %MVCの最大値は両群とも殿部離床直後に記録され,Esの無声群が123±80%,有声群が157±118%となり,有声群で有意な増加を示した.他の2筋に関しては両群間で有意な差は認められなかった. IEMGは動作全体をみると,VLでは有意な差は見られなかったが,EsおよびTAにおいて有声群に有意な減少を認めた.相毎のIEMGでは,第1相においてはいずれも有意な差はみられなかったが,第2相においては,3筋とも有声群が有意な減少を示した. 頭頂マーカーの移動速度は,無声群が0.63±0.14m/s,有声群が0.79±0.15m/sと,有声群で有意に増加し,前後移動幅は有声群で有意な減少を示した.【考察】 最大努力下の立ち上がり動作時にかけ声を発することで,3筋による同時期の活動を促すとともに,離殿時期にEsの筋活動を高め,立ち上がり動作時の体幹前屈角度の減少を起こした.こうした体幹前屈の少ない動作パターンに変化させたことで,離殿以降の3筋の筋活動量や頭部の前後移動幅の減少をもたらしたと推測された. 本研究結果から,かけ声は,筋の協調的な活動や一時的な筋力の発揮を助けるとともに,動作全体における筋活動量や重心移動を抑える効果を持つ可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,動作中のかけ声の効果を,運動学的,筋電図学的に示すことができたと考える.また,本研究結果は,臨床において立ち上がり動作などを指導する際にも利用できると考える.
著者
松崎 秀隆 吉村 美香 原口 健三 満留 昭久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】臨床実習において,臨床実習指導者(以下,SV)が指摘する問題点の多くは,基本的態度など情意領域に関連している。しかし,指導方法や注意の仕方は様々であり,SVの殆どは臨床に従事し,「教育」に関する指導方法が十分でない場合も多い。つまり,社会性や実習態度が未熟な学生に対する,教育的知識が不十分なSVとの間で,実習指導を介したハラスメントが生じる可能性が高くなっている。また,これらのハラスメントは,理学療法学科(以下,PT)の実習形態や作業療法学科(以下,OT)の実習形態の特徴にも関係していると思われる。そこで今回,学科間での違いを把握するとともに,実習でのハラスメントの防止を目的に,臨床実習中に学生が感じたハラスメントに関する調査を行い検討した。【対象および方法】対象は平成25年度,当学院理学療法学科および作業療法学科に在籍し臨床実習を経験した学生64名(男性31名,女性33名)で,平均年齢は23.2±1.4歳(年齢範囲20~44歳)であった。臨床実習終了直後に,自記式の質問用紙を用いて調査を行った。質問内容は,①「ハラスメントを経験した」あるいは「ハラスメントと感じた」かの経験の有無,②経験が有る場合の「ハラスメント内容」である。内容項目は,「言葉による不当な待遇」,「身体へおよぶ不当な待遇」,「学業に関する不当な待遇」,「セクシャルハラスメント」,「性差別の経験」および「他科または他職種との関係」の6つの領域(33項目)である。これらの質問項目は,過去の調査および先行研究の内容を検討して作成した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当法人倫理審査委員会の承認(FS-46)を受けるとともに,対象者への研究説明と同意を得て実施した。【結果】各学科の属性比較,男女比較において有意差は認めなかった。ハラスメントを感じたという学生の割合は,PTで59.1%,OTで53.3%であった。割合および項目別の内容に学科間の差は認められなかった。領域については,「学業に対する不当な待遇」でハラスメントを感じたとする回答が多かった(PT53.8%,OT47.2%)。内訳は,「忙しいからとあまり指導されない」(PT26.5%,OT20.0%),「将来について否定的な批評をされた」(PT20.4%,OT26.7%),「教える際に不快な態度で接せられる」(PT16.3%,OT13.3%)。一方,セクシャルハラスメント」の領域においては,「言い寄られる,口説かれる」(PT2.0%,OT6.7%)のみであった。ハラスメントを感じた学生のPT82.8%,OT87.5%が抗議していないことも分かった。【考察】昨今の学生教育および指導方法において,体罰をはじめハラスメントに関する報道が多く見られる。今回の調査でも,両学科の臨床実習におけるハラスメントの存在を確認した。PT・OTの臨床実習では伝統的にマンツーマンの指導体制が取られ,徒弟的になる可能性などデメリットも指摘されていた。その対策として症例ごとの指導者と,その指導者を統括する指導者というように複数指導者制が試みられるようになり,それぞれの指導者から多角的な視点で指導を受けることで,学習意欲向上に繋がるなどの有効性も報告されている。しかし,それぞれの指導者の指導方法や実習の到達目標が異なるなど,学生は戸惑い,指導者が2人になったと感じる場面もあった。そこで近年では,クリニカルクラークシップの形態での臨床実習の導入が注目されている。本調査の課題として,学生からの一方的な見解であることを考慮しなければならない。臨床実習中にSVに影響される学生は少なくない。多くの学生が卒業時に臨床実習の思い出を報告することからも,その役割は大きいと考える。今後は,指導者からの意見も取り入れ学生の夢や希望を断つことのない,臨床実習教育方法の構築に向けて努力していきたいと考える。【理学療法学研究としての意義】欧米諸国では指導者に対する批判的評価報告が散見される。一方で,本邦ではPT・OTの実習中のハラスメントに関する調査報告は極めて少なく,実態調査としての意義は大きい。臨床実習教育の手引きで,「良好なコミュニケーションのための鍵は指導者側に委ねられている」との指摘もあり,より良い臨床実習教育方法の構築に向けた調査報告,研究を継続していきたいと考える。
著者
吉川 千尋 田上 未来 間瀬 教史 山本 健太 野口 知紗 冨田 和秀 門間 正彦 居村 茂幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0165, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】横隔膜呼吸では,下側肺野の換気が増加すると報告されており,この変化は仰臥位や直立位と比較し側臥位でより顕著に見られる。この要因の一つとして横隔膜による縦隔の挙上があると報告されている。側臥位において下側肺野は縦隔による圧迫を受けている。横隔膜はその縦隔と連結をもち,側臥位で横隔膜が収縮すればその張力により縦隔が持ち上げられ,下側肺野が拡張しやすくなるという説がある。もしこの説が正しいとすれば,側臥位で呼吸を行うと吸気に伴い縦隔は上側に引きあげられる。その際,横隔膜の筋線維走行は縦隔を持ち上げる上側方向に向いているはずである。本研究の目的は,側臥位における呼吸に伴う縦隔組織の位置変化,横隔膜の走行を観察することにより横隔膜が縦隔を持ち上げ,下葉換気の増加に関与している可能性があるかどうかを検証することである。【方法】対象は健常人8名(男性6名,女性2名),測定体位は左側臥位とし,撮像時の肺気量位は機能的残気量(FRC)位,予備吸気量(IRV)位,全肺気量(TLC)位,残気量(RV)位とした。撮像装置は1.5TのMRI(東芝EXCELART Vantage1.5T)を用いた。対象者に各肺気量位での息止めを30秒程度行わせ撮像した。撮像は三次元構築画像撮像として,腹側から背側方向へ肺全体の撮像を前額断で行った。得られたMRI画像から画像解析ソフトimageJを用いて以下の分析を行った。まず心臓の最大横径を計測し,その画像上で,第5胸椎レベルでの胸腔内横径,右胸腔内壁から心臓最右端(右胸腔内横径),左胸腔内壁から心臓最左端(左胸腔内横径)の距離を各肺気量位で計測し上側・下側肺野の換気変化の指標とした。また,各肺気量位における大静脈孔レベルでの左右横隔膜の筋長を,第10胸椎レベルでの横隔膜最遠位部から大静脈孔部までの距離として計測した。さらに,その筋線維走行を観察し,横隔膜の筋収縮と収縮に伴う張力方向の指標とした。各肺気量位での測定項目を分散分析,多重比較法にて検定し,有意水準は5%とした。【結果】胸腔内横径(TLC:402.6±29.9mm,IRV:382.1±34.3mm,FRC:377.6±35.9mm,RV:365.5±34.8mm)は,TLCが他の肺気量位と比べて有意に長く,RVが他の肺気量位と比べて有意に短い値であった。右胸腔内横径(TLC:152.6±18.5mm,IRV:147.7±16.4mm,FRC:147.7±15.0mm,RV:142.1±16.0mm)はTLCが他の肺気量位と比べて有意に長い値を示した。左胸腔内横径(TLC:59.7±17.6mm,IRV:33.2±14.4mm,FRC:25.9±11.1mm,RV:22.0±11.2mm)はTLCが他の肺気量位に比べ有意に長く,RVに比べIRVでは有意に長い値を示した。右横隔膜の筋長(TLC:231.7±18.2mm,IRV:254.3±14.2mm,FRC:296.4±20.7mm,RV:326.4±21.3mm)は,TLC,IRVともにFRC,RVより有意に短い値を示し,FRCとRVの間でも有意差を認めた。左横隔膜の筋長(TLC:276.3±38.1mm,IRV:277.5±70.3mm,FRC:322.0±38.1mm,RV:332.1±33.0mm)は,TLCとIRVがそれぞれFRC,RVより有意に短い値を示した。右横隔膜の筋走行は,RVからFRCまで大静脈孔から胸壁にかけてわずかな曲線もしくは比較的平坦に近く,その後胸壁部分で鋭角にまがり胸壁に沿って走行していた。FRC以上の肺気量位では,大静脈孔から胸壁まで全体的に彎曲し,筋線維走行は右方尾側方向となり縦隔を上方に引き上げる走行となった。【考察】側臥位は体位変換の体位として頻繁に使用され,上側肺野の換気改善,排痰目的に利用される。今回の結果からは,側臥位における横隔膜の筋走行はFRC以上の肺気量位では縦隔を上方に引き上げる右方尾側方向となり,それと同期して下側に位置する左胸腔内の横径はRV時より長い値を示し,肺野の横径が拡張していた。これらの結果は,側臥位における横隔膜は尾側への下降による胸腔の拡張作用だけでなく,組織的な連結をもつ縦隔組織を上方に持ち上げ,下側の肺野を拡張する役割を持つ可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】側臥位における下側肺野の換気増加に影響する因子の一つを検討することは,呼吸理学療法の体位交換を行う上で有用な情報と考えられる。
著者
岩田 晃 中尾 栄治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.C0324, 2005

【はじめに】<BR> 高校野球選手にとって大会出場登録(いわゆるベンチ入り)できるか否かは非常に大きな関心事であるが、それらを分ける要因について基礎体力の側面からの検討はあまり行われていない。そこで、本研究では大会出場登録選手とそうでない選手の基礎体力を比較した。<BR>【対象】<BR> 大阪府下の私立高校の硬式野球部に所属する健常男子35名、身長171.2±5.2cm、体重64.6±9.9kgを対象とした。<BR>【方法】<BR> 基礎体力は、筋力、パワー、スピード、柔軟性の4つに分類し測定を行った。筋力は両側の握力、ベンチプレス、背筋力の3項目、パワーは立ち幅跳び、メディスンボール投げの2項目、スピードは30 m走、Tテストの2項目、柔軟性は投球側の肩外旋、両側の肩内旋、立位体前屈、上体反らし、両方向への体幹の回旋の5項目の合計12項目の計測を行った。<BR> 統計処理は、それぞれの項目について選手権地方大会出場登録選手17名とそれ以外の選手18名の2群に分け、対応のないt検定により2群間の平均値の差を検定した。また、有意差の認められた項目間で相互に相関の高い項目を除外し、学年の項目を加え説明変数とし、出場登録選手か否かを目的変数として判別分析を行った。<BR>【結果】<BR> 2群間における平均値の比較では、筋力、パワー、スピードの全項目おいて大会出場登録選手が有意に上回っていた。一方で、柔軟性に関しては立位体前屈のみ上回ったが、他の項目については有意差が認められなかった。また、2群間の判別に際し寄与の大きい項目は、30 m走、ベンチプレス、投球側の握力、立ち幅跳び、メディスンボール投げ、Tテスト、立位体前屈、学年の順であった。<BR>【考察】<BR> 柔軟性については立位体前屈の項目を除き大会出場登録選手とそれ以外の選手の2群間に有意差が認められなかった。また、立位体前屈についても判別関数係数が低値で2群間を分ける大きな要因とは言い難い。これらの結果から柔軟性が大会出場登録の可否を決定する重要な要因ではないことが明らかとなった。これは、野球という競技が、個々の動作を素早く行う必要があること、大きな可動域を用いて動作を行うことが少ないこと、筋には予備的負荷、予備的伸張を用いる際や、大きな力を発揮する際に最適な長さがあること、などから大きな可動域が必ずしも必要でないことが原因だと考えられる。<BR> 一方、筋力、パワー、スピードについては2群間の平均値に有意差が認められた。この結果から競技能力を上げるためには、積極的な筋力、パワー、スピードトレーニングが必要ということが明らかになった。
著者
庭野 ますみ 渡辺 はる香 古山 明子 板垣 史則 中村 純人 佐島 毅
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】障がいのある子どもをもつ親の研究はこれまで母親のショック反応,母親のもつ現実のストレスなどネガティブな側面に焦点をあてたものが多い。しかし日々の臨床現場で接する母親の中には家族や周囲からの理解と支援を得ながら子どもをたくましく育てている母親も存在する。ストレスフルな状況を体験してもそこから立ち直りを導く心理的特性をレジリエンスというが,本邦ではダウン症,発達障害の子どもをもつ母親の報告が存在するのみで,我が国の肢体不自由児の約半数を占める脳性麻痺の子どもをもつ母親のレジリエンスの報告はほとんどない。そこで,脳性麻痺の子どもをもつ母親のレジリエンスの実態を調査することを目的とした。【方法】対象は当院で理学療法を施行している脳性麻痺の子どもをもつ母親61名で,方法は無記名自記式質問紙法を施行した。調査項目は1.子どもの属性:年齢,性別,出生順位,粗大運動機能分類システム:Gross Motor Function Classification System(以下GMFCS),コミュニケーション能力,Barthel Index(以下BI),障害者手帳の等級 2.母親の属性:年齢,世帯構成,世帯収入,就労状況,告知のこと,育児中「力」になった・あるいは心の支えと感じた出会いやサポートの存在,家族のサポートに対する満足感 3:子育てレジリエンス尺度 4:育児負担感指標 5:精神的健康度日本版GHQ-12項目短縮版とした。レジリエンスに関連する要因を明らかにするために,統計解析として,記述統計の他,従属変数を子育レジリエンス尺度,説明変数を単変量解析にて関連性の見られた変数とした重回帰分析(強制投入法)を行った。有意水準は5%未満とした。【結果】子どもは3歳から46歳までの男性35名,女性24名でGMFCSがIVとVレベルの子どもが72%,BIが0点であるものが40%,身体障害者手帳1級を所持しているものが68%と重症の子どもが多い実態が明らかになった。母親の平均年齢は48.3±10.7歳(26~75歳)であった。母親の85%が夫婦と子どもの世帯であるが,そのほとんどが育児中に「力」になった出会いやサポートがあったと答えた。レジリエンスは母親の年齢,世帯収入,子どもの年齢,GMFCSとは関連がなかったが,重回帰分析の結果,家族のサポートに対する満足感(β値0.435)育児負担感指標(β値-0.507)精神的健康度日本版GHQ-12項目短縮版(β値0.627)が抽出された(調整済R二乗0.660)。【結論】脳性麻痺の子どもをもつ母親のレジリエンスは,家族のサポートに満足か否かという事と,育児負担感,精神的健康度と関連があった。レジリエンスは育児負担感の低減と精神的健康度の増進を促すことで高められる(尾野,2011)と示唆した先行研究と同様な結果が脳性麻痺の子どもをもつ母親においても認められた。
著者
太田 珠代 妹尾 翼 布野 優香 加藤 勇輝 江草 典政
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101461, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 我々は,島根県内でのスポーツ傷害の予防や外傷からの復帰の積極的支援を目的として,島根大学医学部整形外科学教室と近隣の病院・養成校が協力し島根スポーツ医学&リハビリテーション研究会を組織した.その活動の一環として,2012年夏季に島根県隠岐の島町の中学生に対してスポーツ傷害の予防,成長期障害の早期発見のため運動器検診を行った.スポーツ傷害の原因として,overuse,柔軟性の低下,過負荷,アライメント・パフォーマンス不良,低栄養等が報告されている.運動器検診を通して,成長期スポーツ傷害の実態,スポーツ障害と関節柔軟性の低下との関連を明らかにし,今後の継続した支援に向けて様々な視点から検討したので以下に報告する.【方法】 島根県隠岐の島町の4中学校の1~2年生240名(男子:112名,女子:128名)に対して,関節可動域(ROM),柔軟性の指標として,股関節外旋(HER)・内旋(HIR),膝屈曲位での足関節背屈(DKF),膝伸展位での足関節背屈(DKE),指床間距離(FFD),下肢伸展拳上(SLR),踵臀部間距離(HBD)を計測した.成長期では大腿骨前捻角の個人差が大きく股関節回旋角度への影響があると考え,HERとHIR合計し孤として可動域を評価した(tHR).また,マークシートを用いた運動器疾患の一次スクリーニングを実施し,運動器疾患の疑いがあると判定された71名について,整形外科医が診察を行い,54名が運動器疾患有りと診断された.この内,急性外傷,側弯症,先天性疾患を除いた31名(男子:19名,女子:12名)をスポーツ障害有り群とし,残りの209名から急性外傷を除いた205名(男子:90名,女子:115名)をスポーツ障害無し群とし柔軟性を比較した.スポーツ障害の部位は上肢7名(男子:4名,女子:3名),下肢20名(男子:12名,女子8名),腰部4名(男子:3名,女子:1名)であり,各部位ごとに障害の有り群と無し群で柔軟性の比較・検討を行った.統計学的検定にてtHRは,正規分布していたためスチューデントのt検定を使用し,その他の項目は正規分布していなかったため,マン・ホイットニーのU検定を用いた.危険率5%未満を統計学的有意差有りとした.【倫理的配慮、説明と同意】 事前に各学校に検診の意義と方法について説明し,同意を得て実施した.なお収集したデータは個人が特定できないよう匿名化した.【結果】 スポーツ障害有り群では右HERが[障害有り/無し] 60.6°/65.1°と有意に低下していた.障害部位別では上肢障害有り群では,右tHRが[障害有り/無し] 105°/123.5°と有意に低下しており,腰部障害有り群では,左HBDが[障害有り/無し] 3.1 cm/0.7 cm,DKFが[障害有り/無し] 17.5°/24.2°と有意に柔軟性が低下していた.下肢障害有り群では,柔軟性に有意差はなかった.他の検査項目では統計学的有意差は認めなかったが,障害有り群で柔軟性が低い傾向があった.【考察】 上肢障害は下肢柔軟性の低下に起因することが知られており,本研究においても上肢障害と股関節内外旋の合計角度が関係している事が示唆された.また,成長期においては股関節外旋・内旋の個々の柔軟性のみではなく,股関節内外旋の合計角度を観察していく事が必要であると考えられる.腰部障害では,足関節の柔軟性,ヒラメ筋,大腿四頭筋のタイトネスが関係している事が示唆された.一方,下肢障害では各測定項目との関連が見られなかった.これは,下肢障害の発生原因として,柔軟性だけではなく,overuse,アライメント・パフォーマンス不良の影響も大きいためと考えた.今回,各中学校でストレッチの指導を行っており,今後柔軟性の改善とともにスポーツ傷害の発生率が低下するかを明らかにするため,調査を継続していくことが重要である.【理学療法学研究としての意義】 学校単位での運動器に焦点をあてた検診は全国でも少なく,小学生・中学生の成長期におけるスポーツ障害、外傷とROM,柔軟性と因果関係のある因子を見つける事で,早期にスポーツ傷害の予防指導ができ,スポーツ傷害が減り,長期間スポーツに関われる子どもを増やせるのではないかと考えられる.
著者
窪内 郁恵 薦田 昭宏 橋本 聡子 川口 佑 中谷 孝 中島 利博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0489, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】線維筋痛症(Fibromyalgia;以下FM)は,3カ月以上持続する原因不明の全身痛を主症状とした,精神・自律神経系症状を伴う慢性疼痛疾患である。中高年の女性に多く,日本では推定200万人以上の患者がいるとされている。経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimulation;以下TMS)は,磁気エネルギーを媒体として,頭蓋骨の抵抗を受けずに大脳皮質を刺激することができる治療法である。反復性経頭蓋磁気刺激法(Repetitive TMS;以下rTMS)は,アメリカ食品医薬局(Food and Drug Administration;FDA)より薬物治療抵抗性うつ病への治療的使用が承認され,線維筋痛症診療ガイドライン2013でも推奨されている。副作用は非常に少なく,安全性が高いと言われている。今回FM例に対してrTMSを施行し,施行前後の痛み・心理面の経過を追ったので報告する。【方法】対象はFMにて当院フォロー中の症例で,12例中rTMS治療の全過程を終了した9例である。内訳は,入院対応4例,外来対応5例,平均年齢44.7±13.9歳,全例歩行自立レベルであった。ACR2010線維筋痛症予備診断基準(Fibromyalgia activity score 31;以下FAS31)は平均総得点18.6±5.8点,平均広範囲疼痛指数(widespread pain index;以下WPI)11.6±4.8点,平均症候重症度(symptoms severity score;以下SS)7±1.3点であった。除外項目は,rTMS装置の絶対禁忌・相対禁忌である人工内耳,頭蓋内金属使用などの開頭手術歴,てんかんの既往,人工ペースメーカーなどとした。rTMS装置は,NeuroStar(Neuronetics社製)を使用し,左前頭前野に10Hzの高頻度刺激を行った。標準治療時間は4秒間刺激,26秒間休息の繰り返しで約40分,これを週3~5回,合計30回施行した。評価として,痛みの部位はWPI,強度はVisual Analog Scale(以下VAS),質は神経障害性疼痛重症度評価ツール(Neuropathic Pain Symptom Inventory;以下NPSI),認知・心理面においては痛みの破局的思考評価であるPain Catastrophizing Scale(以下PCS),不安・抑うつのHospital and Depression Scale(以下HADS),生活の質(quality of life;以下QOL)は日本語版線維筋痛症質問票(Japanese fibromyalgia impactquestionnaire;以下JFIQ)を評価し,経過を追った。全て自己記入式で,rTMS施行前,施行10回毎に評価した。統計学的処理は対応のあるt検定,一元配置分散分析を用い,有意水準5%未満とした。【結果】FAS31の総得点,WPI,SSでは,rTMS施行前,施行10回,20回,30回で有意差を認めなかった。VASにおいては,rTMS施行前と施行20回,30回で有意差を認めた。NPSIの総得点では施行間の有意差を認めなかった。PCSは総得点,下位項目3つとも有意差を認めなかったが,継時的な減少を認めた。HADS,JFIQにおいても,有意差は認めなかったものの減少傾向を認めた。【考察】慢性疼痛例は,健常例と比較して前頭前野の活動が乏しく,下行性疼痛抑制系機能が減弱状態であると考えられている。今回,VASにおいてrTMS施行前と施行20回,30回で有意差を認めたことから,前頭前野を活性させることで,痛みの関連組織である扁桃体,前帯状回,島などの活性も促通することができたと推察する。またPCS,HADS,JFIQにおいても,有意差は認めなかったが改善がみられ,rTMSが認知・心理面やQOLの向上に繋がる因子になったのではないかと考える。しかし痛みの悪循環を示す恐怖・回避モデルと照らし合わせると,痛みに対する無力感,自宅生活だけでなく就労などにおける社会への適応に対しても,さらなる評価・検討が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】FM例などの慢性疼痛疾患は,感覚的痛みに加え情動・認知的痛みの要素が大きく関わってくる。rTMSは副作用が少なく,磁気刺激によって痛みの関連領域を含めた脳の活性を図ることができると本研究で示唆されたため,今後のFM治療への有効性が考えられる。
著者
近藤 有希 海老名 葵 重本 千尋 澤 龍一 斎藤 貴 村田 峻輔 伊佐 常紀 坪井 大和 鳥澤 幸太郎 奥村 真帆 松田 直佳 小野 玲
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0298, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】妊娠中には多くの女性が妊娠関連の腰痛骨盤痛(Lumbopelvic Pain;LPP)を発症するといわれており,約8割の女性が症状に悩まされている。LPPは妊娠中のホルモン変化や体重増加による腰部への負荷の増大が原因とされているが,産後も多くの女性がLPPを持続して有しており,成人女性の慢性腰痛の20%は妊娠中に発症したものであるとの報告もある。産後のLPPはADL障害やQOL低下,産後うつにも悪影響を及ぼし,産後休職の原因になるともいわれており,予防・解決すべき重要な問題である。産後持続するLPPの原因として,関節弛緩や腹部筋力低下など体幹の不安定性についての研究はあるが,一般的な慢性腰痛への影響が報告されている胸椎・ハムストリングスの柔軟性との関連を検討した研究はない。育児をする母親が頻繁に行う動作と考えられる前方屈み動作において,胸椎・ハムストリングスの柔軟性低下は腰部への負荷を増大させることが報告されていることからも,産後LPPに影響を与える可能性が考えられる。本研究の目的は胸椎・ハムストリングスの柔軟性と産後LPPの関連を明らかにすることである。【方法】対象者は,兵庫県内の4ヶ月児健診に参加し,研究への同意が得られた産後女性のうち,妊娠中にLPPを発症した女性66名とした。対象者には質問紙により,一般情報に加えて,妊娠中と産後4ヶ月時のLPPの有無・強度を聴取した。痛みの強度はNumerical Rating Scale(NRS)を用いた。胸椎の関節可動域は傾斜計を用いて屈曲・伸展の角度を検査し,中央値で可動域制限群と非制限群に群分けした。ハムストリングスの柔軟性はSeated Knee Extension(SKE)を行い,中央値により可動域制限群と非制限群に群分けした。なお,各身体検査は理学療法士有資格者が行った。各群間での産後4ヶ月時のLPPの有病率の比較はカイ二乗検定を用いた。多変量解析では,目的変数を産後4ヶ月時のLPP,説明変数を各可動域制限群/非制限群とし,交絡因子を先行研究から年齢,BMI,出産歴,妊娠中のNRSとして強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】胸椎の可動域制限群は非制限群と比較して産後LPP有病率は有意に高く,SKEにおいても非制限群と比較して可動域制限群は産後LPP有病率が有意に高かった。交絡因子の調整後も胸椎・SKEともに可動域制限群が産後LPPを有しやすいという結果であった(胸椎:OR 3.11,95%CI 1.08-8.94;SKE:OR 3.21,95%CI 1.08-9.60)。【結論】本研究により,胸椎とハムストリングスの柔軟性は,産後のLPPに関連する要因である事が示唆された。
著者
渡辺 篤 尾関 謙 齊藤 仁十 村上 雅紀 大澤 朋史 泉 直人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>近年はMRI拡散テンソル画像(DTI)を用いて,神経線維を可視化したTractgraphyや拡散異方性を定量化したFractional anisotrophy(FA)が予後予測に用いられている。脳梗塞後の急性期理学療法において運動麻痺の予後予測は重要ではあるものの,理学療法士が行う運動麻痺の評価のみで予後予測を行う事は難しいのが現状である。本研究ではFA値とFugl-Meyer Assessmentの運動項目(FM-motor)を比較し,FA値を用いた早期における運動麻痺の予後予測の可能性について検討した。</p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は平成27年4月~平成28年6月に入院した脳梗塞患者であった。取り込み基準はテント上脳卒中であり,年齢が80歳未満,MRI画像上で梗塞巣の著明な増大を認めなかったものとした。退院時FM-motorスコアから重症度別に分類した後,対応のないt検定を実施した。なお,有意水準は5%未満とした。</p><p></p><p>DTI撮像にはPhilips社製Achieva 3.0T R2.6のMRI装置を用いて,Extended MR WorkSpace 2.6.3.5にて解析処理した。また,FA値の定量的評価は放射線技師1名で行った。関心領域(ROI)は,起点を橋レベルの中脳大脳脚とし,終点を頭頂部皮質レベルの中心前回から中心後回にかけて設定した。損傷側と非損傷側にROIを設定し錐体路線維のトラッキング解析した。その後,作成した左右のTractgraphyからFAを自動算出した。</p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>1.対象者について</p><p></p><p>14名の対象者のうち,発症から1週目以内と4週目にDTIの解析とFM-motorの測定が可能であった9名が対象となった。4週目FM-motorスコアから軽症群5名,重症群4名に分類した。年齢67.8±9.2歳,性別 男性4名/女性5名,麻痺側 右片麻痺4名/左片麻痺4名/麻痺なし1名であった。</p><p></p><p>2.FA値について</p><p></p><p>解析までの日数 初回2.3±1.2日/4週目21.5±9.0日,初回FA値は軽症群1.01±0.03/重症群 0.95±0.01(p<0.05)となり,軽症群の初回FA値が有意に高かった。4週目FA値は軽症群0.97±0.01/重症群0.84±0.02(p<0.01)となり重症群のFA値は低値だった。</p><p></p><p>3.運動麻痺について</p><p></p><p>初回FM-motorスコア 軽症群96.2±3.5/重症群13.6±2.8(p<0.01),4週目FM-motorスコア 軽症群99.5±1.0/重症群19.3±7.0(p<0.01)となり,評価期間中に両群間の移行はみられなかった。また,軽症群の運動麻痺はほぼ完全に回復した。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>DTI撮像の課題としてはROI設定で終点を中心前回にする必要があった。FA値の定値を求めるには症例数を増やしカットオフ値を算出する必要があると考えられる。今回の結果から発症から1週間以内のFA値が運動麻痺の重症群を予測できる可能性が示唆された。DTIによる情報は脳梗塞急性期に関わる理学療法士にとって積極的に活用すべきツールであり,今後は理学療法の有効性を検証するために有用になると考える。</p>
著者
熊代 功児 村上 弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0007, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(以下,TKA)後の膝関節屈曲角度(以下,膝屈曲角度)は大きな膝屈曲角度を必要とする若年患者はもちろん,和式の生活様式を要する日本人にとって重要とされている。TKA後の膝屈曲角度に影響する要因について海外では様々な報告が散見されるが,本邦において術後早期の膝屈曲角度を検討した報告は少ない。本研究の目的は,TKA後2週時の膝屈曲角度を術前因子から予測することである。【方法】2013年9月から2016年6月までの間に当院整形外科にて変形性膝関節症と診断され初回TKAを施行した190例212膝(男性43例,女性147例,平均年齢75.5±7.6歳)を対象とした。術後2週時膝屈曲角度をアウトカムとし,患者因子として,性別,年齢,Body Mass Index(以下,BMI),術前因子として,術側膝関節伸展・屈曲角度(以下,膝伸展・屈曲角度),術側膝関節伸展・屈曲筋力(以下,膝伸展・屈曲筋力),Timed Up and Go test(以下,TUG),術側大腿脛骨角(以下,FTA),術側膝関節前後・側方動揺(以下,前後・側方動揺)を調査した。統計解析は,術後2週時膝屈曲角度と患者因子,術前因子の各変数間について2変量解析を行った。次に,術後2週時膝屈曲角度を従属変数,2変量解析にてp<0.2の変数を独立変数とした決定木分析を行い,術後2週時膝屈曲角度を予測する回帰木を作成した。【結果】術後2週時膝屈曲角度は平均109.2±13.9°であった。術後2週時膝屈曲角度とp<0.2の相関を認めた変数は,年齢,膝伸展角度,膝屈曲角度,膝伸展筋力,膝屈曲筋力,TUG,前後動揺,側方動揺であった。また性別による術後2週時膝屈曲角度の比較の結果,p<0.2であった。これらの変数を独立変数,術後2週時膝屈曲角度を従属変数とした決定木分析によって作成された回帰木より,最上位の分岐は膝屈曲角度(cut off値117.5°)であり,117.5°より大きい群では術後2週時膝屈曲角度が最大(113.5±11.7°)と予測された。117.5°以下の群ではさらに膝屈曲角度(cut off値107.5°)で分岐し,107.5°以下の群では術後2週時膝屈曲角度が最小(93.8±12.3°)と予測された。107.5°より大きい群ではさらに膝伸展筋力(cut off値1.004Nm/kg)で分岐した。【結論】TKA後2週時の膝屈曲角度を予測する術前因子として,膝屈曲角度と術伸展筋力が選択され,これらの要因は先行研究と同様の結果であった。しかし,術後膝屈曲角度に影響すると報告されている年齢,性別,BMIなどの患者因子は本研究では選択されなかった。また,有意な予測因子と報告されている術前のFTAに加えて,術前の膝関節動揺の程度についても検討したが,本研究ではFTA,膝前後・側方動揺ともに有意な予測因子にはならなかった。本研究の結果より,術後2週時という比較的早期においては,術前の膝関節の変形の程度よりも膝屈曲角度や膝伸展筋力などの運動機能の影響が高いことが示唆された。
著者
近藤 慶承
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>徳島県では全国に先駆けて,超高齢化が進んでいる。特に徳島県西部地域のみよし広域(三好市,三好郡2町)では,生産人口の減少と合わさり,深刻な社会問題となっている。本地域では各地区にて文化の違いや生活環境の違いがあるため,それぞれの地区に合う支援を考える必要性が高い。今回,運動に関するアンケートを実施することで,各地区の地域特性を調査検討し,より効果的な介護予防事業を構築する。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>みよし広域在住の60歳以上の住民約13,000名を対象に運動に関するアンケートを実施した。方法は,郵送による書面でのアンケート(チェック式,生年月日のみ記述式)とし,郵送にて返信いただいた。アンケート内容は,基本情報として性別,生年月日,また住まいについて旧市町村の地域に合せて8つの地域を選んでいただいた。運動に関する項目は,自覚的健康感,睡眠感,食欲感について5段階評価とした。運動習慣については,運動習慣の有無,運動頻度,運動時間,運動内容を調査した。身体状態の指標として,指輪っかテストを使用した。転倒経験については,過去1年間の転倒状況を調査した。また介護予防事業についての意識調査3項目を実施した。統計処理については,R2.1.8を使用し,シャピロ・ウィルクの正規性検定の後,8地区に区分してクラスカルワリス検定を行い,post hoc testとしてSteel-Dwass検定を実施した。有意水準は0.05とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>返送があったのは13,000件中7,268件で,有効回答数は5,080件(男性2,236名,女性2,844名)であった。全体では,運動習慣があると答えた者は64.9%であった。運動頻度では,毎日群26.5%,週4-6回群14.8%,週2-3回群17.3%,週1回群4.5%,月2-3回群1.8%であった。1回の運動時間では,2時間以上群8.6%,1-2時間群17.3%,30-60分群18.4%,20-30分群10.2%,10-20分群6.6%10分未満群3.8%であった。統計の結果,運動習慣については,池田町は旧三好町,旧三加茂町,山城町と比較し有意に運動習慣がない方が多く,また三野町は旧三好町,旧三加茂町,山城町,東祖谷山村,西祖谷山村と比較し有意に運動習慣のない方が多かった。運動頻度では,池田町は旧三好町,山城町,東祖谷山村と比較し,三野町は,井川町,旧三好町,旧三加茂町,山城町,東祖谷山村と比較し有意に運動頻度が多かった。運動時間では,池田町は旧三好町,旧三加茂町,山城町,東祖谷山村と比較し,三野町は旧三好町,東祖谷山村と比較し有意に運動時間が長かった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>本研究の結果,運動習慣のあるなしでは山間部地域の方が,市街地域と比較し運動習慣のある方が多いことが明らかとなった。しかし,運動頻度と運動時間の項目では,市街地域の方が,山間部地域と比較し運動頻度も多く,1回の運動時間も長いことが明らかとなった。これは,生活環境が運動習慣に与える影響を考察する一助となる結果である。</p>
著者
竹原 圭祐 濱田 大介 土川 寛貴 北野 美樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1048, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】ことばの音は,肺からの気流を操作することで生成され,発声発語のための動力源は肺からの呼気流によって生ずる力である。呼気を続けていくと,腹直筋,側腹筋(外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋)が働き,腹腔内圧を高め横隔膜を押し上げて呼気を助ける。ステトスンは音声学者としては初めて,発話時に呼吸筋の関与が大切であると述べており,発声の持続時間,声の高さ,強さが増大すると腹部の筋の作用も加わってくることが知られている。我々は,第48回日本理学療法学術大会において,発声時の声の高さが側腹筋の筋厚にどのように影響を与えるのか超音波診断装置を用いて検証し,高い声を出すことにより,内腹斜筋,腹横筋の筋厚が厚くなる可能性があることを報告した。しかし,被験者数が少なかったことと,方法に一貫性がなかったことが課題として残った。そのため,今回被験者数を増やし,方法を統一して行ったため以下に報告する。【方法】対象は腰痛の既往のない健常人10名(男性8名,女性2名),年齢平均26.2±3.97歳で,側腹筋の筋厚は超音波画像診断装置(GE Healthcare社製LOGIQe)およびリニアプローブ(12MHz)を用い,検者間での差が生じないように,検者は1名とした。被験者をベッド上背臥位とし,ベッドから1mの高さに騒音計(サンコー社製小型デジタル騒音計RAMA11O08)を設置し,被験者は騒音計のモニターで声の大きさを確認できる状況で通常の高さでの発声(以下通常時),出来るだけ高音での発声(以下高音),出来るだけ低音(以下低音)での発声を,70dBの大きさで行い,発声開始から5秒時の筋厚(外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋)を測定,比較した。発声の言葉は「あ」,計測する側腹筋は右側,発声の順序はランダムとし,測定部位は腸骨稜と肋骨下縁の間で,床と平行な直線上とした。測定結果の各筋厚の比較には一元配置分散分析を用い,多重比較を行った。【倫理的配慮,説明と同意】被験者に対し,実験の目的および方法を十分に説明し,承諾を得た上で検証を行った。【結果】1.外腹斜筋通常時の筋厚は7.15±1.5mm,低音の筋厚は6.88±1.68mm(変化率96.2±10.6%),高音の筋厚は7.26±1.67mm(変化率102.4±16.4%)であった。2.内腹斜筋通常時の筋厚は11.01±3.52mm,低音の筋厚は11.32±3.57mm(変化率101.7±9.8%),高音の筋厚は11.51±3.89mm(変化率105.6±20.6%)であった。3.腹横筋通常時の筋厚は4.47±1.33mm,低音の筋厚は4.95±1.42mm(変化率111.0±10.4%),高音の筋厚は5.66±1.54mm(変化率128.8±16.4%)であった。多重比較の結果,すべての筋において通常時,低音,高音での筋厚に有意差は認められなかった。【考察】人間の発音や発声は,呼吸器系による空気が声帯ヒダの間を通るときにおこる声帯ヒダの振動によって生じる。音の高さと量は,空気が声帯ヒダを通るときの速度と圧力に左右され,それは呼気筋である腹部の筋の活動に影響を受ける。今回の検証では騒音計を使用し,音の量は一定に設定したため,高い声を出すためには呼気筋である腹部の筋の活動が増加することが予想された。変化率では,高音での発声において,側腹筋の筋厚は通常時と比較すると増加する傾向があり,特に腹横筋において増加の値が大きくなった。腹横筋は腹部内圧の調整,腰背腱膜の緊張,仙腸関節の圧迫などを介して脊柱の安定化に寄与するとされている。また,脊柱安定化運動の方法は諸家により報告されているが,伊藤は出来る限り表層筋を収縮させず深層筋の単独収縮から動作を開始し,エクササイズの難易度が上昇するにつれて,表層筋の参加による動作の安定性を目指すことが目標となると述べている。これらのことをふまえると,高い声を出すことで深層筋である腹横筋の収縮が得られ,脊柱の安定性が向上することが可能となれば,患者の負担が少なく,容易に行える方法となるのではないかと考えられる。今回の検証の結果,高音,通常時,低音のそれぞれの発声において,有意差は認められなかったものの,継続して検証していく必要があると思われる。【理学療法学研究としての意義】今回,発声時の声の高さが側腹筋の筋厚に与える影響について,検査方法を統一し,被験者数を増やして再度検証した。発声により体幹の安定性が向上することが確認されれば,身体的な負担も少なく,容易に行え,患者自身が楽しみながら行える体幹トレーニングの一つとなるのではないかと考える。
著者
佐伯 純弥 長谷川 聡 中村 雅俊 中尾 彩佳 庄司 真 藤田 康介 簗瀬 康 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1293, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】陸上競技者において再発を繰り返すスポーツ障害の一つに,ランニングによって脛骨後内側縁に疼痛を生じる,シンスプリントがある。発症の原因として,下腿の筋の伸張ストレスの関与が疑われており,下腿の筋硬度が発症に影響を与える可能性があるが,どの組織が発症に関係するか一致した見解が得られていない。そのため,より効果的なシンスプリントの予防および治療法を確立させるためには,シンスプリントと下腿各筋の筋硬度の関係を検討し,どの筋が発症に関与するのかを明らかにする必要がある。しかしながら,シンスプリントに罹患している脚の筋硬度は疼痛による筋スパズムの影響を受ける可能性があるため,これらの関係を横断的に検討するためには,既往の有無での比較が必要である。そこで今回,筋硬度を表す指標として,せん断波エラストグラフィーを用いて下腿各筋の弾性率を算出し,シンスプリント既往脚と非既往脚で比較することで,シンスプリントと関連する筋を明らかにし,再発予防プログラム立案の一助とすることを目的とした。【方法】大学男子陸上中・長距離選手14名28脚(シンスプリント両側既往者6名,片側既往者1名,非既往者7名)を対象とした。対象者の群分けにおいて,片側既往者の既往脚を既往群,非既往脚を非既往群にそれぞれ分類したところ,シンスプリント既往群13脚,非既往群15脚であった。なお,本研究におけるシンスプリント既往の基準は,①過去にランニングによって脛骨内側が痛んだことがある,②その際に圧痛があった,③痛みの範囲が5 cm以上あった,④医師から疲労骨折の診断を受けなかった,⑤現在下腿に痛みがないこととした。筋弾性率の測定には超音波診断装置(Supersonic Imagine社)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,腓腹筋内側頭,腓腹筋外側頭,ヒラメ筋,腓骨筋群,前脛骨筋,長母趾屈筋,長趾屈筋,および後脛骨筋の弾性率を測定した。測定肢位は非荷重位,足関節底背屈中間位とした。統計解析には対応のないt検定を用い,各筋の弾性率を2群間で比較した。【結果】シンスプリント既往群は非既往群と比較して,後脛骨筋の弾性率が有意に高値を示した。他の筋においては両群で有意差が認められなかった。【結論】大学陸上中・長距離選手のシンスプリント既往脚では,非既往脚と比較して,後脛骨筋の筋硬度が高いことが明らかとなった。本結果から,後脛骨筋の柔軟性を獲得し,運動による下腿の筋膜および骨膜への伸張ストレスを軽減することでシンスプリントの予防に繋がることが示唆された。