著者
吉田 有輝 三岡 相至 松本 直人 大野 英樹 吉田 生馬
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1261, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】1998年の厚生労働省の調査によると,ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:以下,GBS)は人口10万人あたりに対し1.15人の年間発生率であり,平均発症年齢は39歳で男女比は3:2である。また,GBSは一般的に予後良好であるとされており,1998年の英国の調査において,走行可能な状態まで回復した症例は約62%と報告されている。このように,GBSは若年性の神経難病であり,やや男性に多いことから,働き盛りの労働者に発生しやすいという特徴を持っている。それにも関わらず,GBSを発症した症例がその後どのような過程を経て社会復帰を実現したのかを示す報告は少ない。そこで,今回,当院において急性発症から自宅退院,その後の訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)により社会復帰を達成した症例を経験したので報告する。【方法】平成25年3月5日~4月16日までに神経内科に入院したGBSの1例を対象とした。年齢は40代後半,性別は男性,職業は建設施工会社の現場監督であり,妻と3人の息子と同居していた。退院時のBarthel Indexは85点,100mの連続歩行や1時間の座位保持は疲労感が強く継続は困難な状況で,外出には車椅子が必要であった。筋力は,徒手筋力検査にて,上肢では前腕筋が概ね3+,股関節伸展筋および外転筋が3+,足関節底屈筋が2+,握力は右14.5kg,左14.0kgであった。退院時の主訴は「新たな身体を作りたい」であり,HOPEは「最終的に復職したい」であった。入院中は1日3回のリハビリテーションを毎日実施し,自宅復帰後は週に3日,1回40分の訪問リハを医療保険下で平成25年4月18日~9月27日まで実施した。訪問リハでは,屋内生活の安定を目標とするとともに,過用性筋力低下(overwork weakness)のリスクを考慮したADL指導や自主練習の提示を行っていった。その後,徐々に活動範囲を拡大させながら,日常的な活動性とADLおよびIADLの状況を毎回確認し,最終的には,復職した際の具体的な通勤方法や仕事内容を評価し,指導を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り,利用者に十分な説明と同意を得た後に実施した。【結果】自宅復帰後,社会参加に対するHOPEに早期復職や完全復帰と変化が認められるようになった。しかし,介入時の主訴からも推測される通り,疾患や身体機能,それに伴うADLへの理解が不十分であり,復職に関して焦燥感があることが考えられた。本人が同年6月末を復職時期として希望していたため,まず,通勤手段である自転車走行や電車移動を家族とともに行ってもらったが,電車移動中や外出先では疲労が強く頻回な休息が必要という結果であった。そこで,本人と相談しながら復職時の課題を明確化し,問題解決方法をその都度確認していった。その結果,8月初旬には1日の外出を実施することが可能となった。その際,移動時の疲労やそれらの翌日への持ち越しが確認されたが,デスクワークは可能であることも確認できた。そして,9月には訪問リハを週2回に変更し,復職後の業務内容は会社と相談した結果,内勤へと変更することが決まり9月27日に訪問リハは終了,10月初旬に復職を達成した。【考察】若年の男性にとって,労働者や夫,父親としての社会的地位や尊厳,名誉が失われることは大きな問題である。また,あらゆる神経難病の中で,GBSが予後良好と言われていても,罹患した方々は常に不安と隣り合わせの状態で自宅退院を迎えていることが容易に予測できる。今回の症例では,入院中から復職という社会復帰の目標が明確に設定されていた。しかしながら,退院直後は自宅内生活を送ることが精一杯であり,外出時には車椅子を使用しなければならない状況であった。そのため,まずは居宅生活の安定を目標としリハビリテーションを実施していった。その中で,徐々に生活が安定すると,可及的早期に復職をしたいというHOPEの変化が認められた。本人は復帰時には仕事への完全参加を希望していたが,病態やより具体的な復職のプロセスを考慮すると,本人との間で課題の明確化と問題解決方法をその都度確認していく必要があった。そのような介入をした結果,利用者の焦燥感は徐々に緩和していったと考えられる。そして,社会的側面や経済的側面も考慮し,可能な限り利用者の地位や名誉,尊厳に配慮した形で目標を共有していけたため,安全な方法や形式での社会復帰が可能であったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】理学療法の目的および理学療法士の役割が,身体の機能回復ではなく,個々人の権利・名誉・尊厳の回復であるならば,本症例のような神経難病を有する患者に対し,退院後も居宅サービスとしての支援を行い,社会復帰を実現していくことは大変重要なことであると考えられた。
著者
荒尾 雅文 潮見 泰藏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1386, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年,日本を含む多くの国々で国民の幸福度への関心が高まっており,幸福度調査を定期的に行い,その結果を政策に反映させようという取り組みが行われている。一方,リハビリテーション(リハ)分野では医療費を抑制するような日常生活動作能力や入院期間などの指標が重視され,個人の生活の質や満足度といった主観的な指標は軽視される傾向にある。しかし障害を持つ者にこそ,主観的な指標が重要な意味を持つのではないだろうか。このことを踏まえ,本研究では障害者と健常者の幸福感について比較し,障害者の幸福度の現状を明らかにすることを目的とした。【方法】本研究は内閣府経済社会総合研究所(ESRI)の行った調査データを2次分析として使用した。調査は15歳以上の全国民を対象として行い,回収率は61.8%で6451名のサンプルが得られた。本研究では,このデータから40歳以上の者について障害の有無で2群に分類し,2群間での幸福度,5年後の幸福度を比較した。幸福度評価は0点を「とても不幸」,10点を「とても幸せ」とし,また将来の幸福度は今から5年後の幸せを「現在と同じ」を0点,「今より幸せ」+1~+5,「今より不幸せ」を-1~-5とした。また対象者の属性として,年齢,性別,健康感,世帯収入についても2群間を比較した。健康感は「健康である」を1,「健康ではない」を5とし,世帯収入については0円~1000万円/年収を7分類しそれぞれ1~7とした。統計はSPSS17.0を使用し,いずれも危険率5%未満(p<0.05)を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本解析データは平成23年3月,ESRIが行った調査について,SSJデータアーカイブセンターに2次分析の申請を行い,受理されたものを使用した。【結果】サンプル数は障害あり86名,なし4621名であった。2群間の性別は障害あり(男性53名:女性33名),なし(男性2123名:女性2498名)と障害ありで男性が有意に多く,健康感は障害ありが3.7±1.2,なしが2.6±1.1と障害者の健康感が有意に低かった。また世帯収入では障害ありが3.2±2.1,なしが4.1±1.9で,障害あり群において有意に収入が少なかった。平均年齢は障害ありが63.7±12.5歳,なしが61.2±12.3歳と有意な差はみられなかった。幸福度(障害あり5.77,障害なし6.58),将来幸福度は(障害あり-0.7,障害なし0.09)は,いずれの値も障害者が有意差に低かった。【考察】先行研究では幸福度の決定要因として,所得,就業,健康が幸福度と正の相関を持つことが今では定型化された事実となっている。また性別についてもいずれの研究結果でも女性の方が男性より幸福であると報告されている。しかしこれらの先行研究の多くは,失業者や所得格差,あるいは女性の社会進出といった立場での研究であり,障害者の幸福度に着目したものはみられない。本研究では全国調査のデータを使用し,障害者と健常者の幸福度,将来の幸福度を比較した。その結果,障害ありに女性が有意に少ないにも関わらず,幸福度,将来の幸福度のいずれも障害者が低値を示した。この理由として,障害者では前述した幸福度の決定要因である所得や健康度が低下していることが挙げられる。すなわち,障害者が就労や健康面で大きなハンディーキャップを負っており,社会的弱者として幸福度が低下していることが伺われた。この結果は,改めて障害者に対する社会保障制度や医療・福祉の十分なサポートが必要なことを裏付けている。また幸福度のみならず,将来の幸福度も障害者において低下がみられた。将来の幸福度については,ポジティブな展望を持ち,将来への期待,目標,目的を持つことが重要であり,また将来の幸福度が現在の幸福度にも影響を与えるとされている(Durarayappah,2011)。このことは,正に我々理学療法士が,予後予測に基づいた将来の機能改善,活動度や社会参加の向上に関する目標を立てリハを実践するという従来のリハ過程と一致するものであろう。したがって,我々は障害者の幸福度を向上させるために,社会的弱者となっている障害者の代弁者となること,また現在および将来の幸福度を高めるために適切なリハ介入を行っていくことが重要である。また,今後リハの効果判定として幸福度の指標を導入していくことも重要な視点の一つであると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は健常者と障害者の幸福度の違いを明らかにし,リハ分野に幸福度の概念が応用可能か否かについて検討するための資料となると考えられる。【謝辞】本研究の実施にあたり,東京大学社会科学研究所付属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブから「生活の質に関する調査」(内閣府経済社会総合研究所)の個人票データの提供を受けました。
著者
成田 崇矢 釜谷 邦夫 長谷川 惇 小田 桂吾 野村 孝路
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0224, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】飛込競技は水面から高さ10mの固定された台や高さ3mに設置した弾力のある飛板を使用し高所より水面に飛び込む競技であり、特徴として技術獲得に多くの時間を要する採点競技であるため傷害発生の頻度は他の水泳競技と比べて極めて高いと報告されている。今回、より具体的な傷害予防策を講じる事を目的とし、3年間のナショナルジュニア合宿時における、ジュニア強化選手の外傷、障害の状況を調査したのでここに報告する。【対象】2003年から2005年の3年間に日本水泳連盟より選抜されナショナルジュニア合宿に参加した男性21名(平均年齢15.3±1.4歳、平均身長 164±8.2cm 平均体重 56.7±9.8kg 競技歴 5.9±1.7年)、 女性17名(平均年齢15.5±1.7歳 平均身長 153±5.3cm 平均体重 48.2±6.2kg 競技歴6.6±2.6年)計38名である。 【方法】合宿参加者個別に面談し、障害、外傷に対する治療・相談を行う中でアンケートを交え外傷・障害の調査を実施した。【結果】対象者38名中合宿中に痛みを有した者は33名(86.8%)であった。複数回答による疼痛部位の総数は56件で、腰背部が最も多く25件(44.6%)次いで膝関節7件(12.5%)母指6件(10.7%)肩関節5件(8.9%)手関節3件(5.6%)下腿部3件(5.6%)その他7件(12.5%)であった。特に多い腰背部に着目すると、腰背部筋に痛みを生じているものが16件。椎間関節周囲7件。その他2件。であった。慢性的に腰背部筋に痛みが生じている者は12名でそのうちの10名のアライメントは頭部前方位、胸椎後彎増強、腰椎前彎増強、骨盤前傾位を呈していた。また、椎間関節周囲に痛みが出ている者7名中6名が合宿中もしくは過去に入水を失敗し、腰椎の過伸展を経験後痛みが生じていた。【考察】飛込競技において正しいボディーアライメント(耳垂、肩峰、大転子、外果前方が一直線上)を体得することは非常に重要である。そしてアプローチやテイクオフ、入水時にその姿勢を保持することは高いパフォーマンスを得る事に不可欠な要素とされている。今回強化合宿時の調査により、腰背部筋痛を有している者は正しいボディーアライメントが取れなかったり、入水時の衝撃により椎間関節を痛めている者が多いことが分った。腰背部痛の改善、予防トレーニングとして最近、腹圧を高め、頚部、上肢、体幹、下肢の協調性を向上させるコアトレーニングが推奨されているが、正しいボディーアライメントをとることで腰背部筋群へのストレスを軽減すると予想される。腹圧の強さと外傷・障害の関連性は今後の調査が必要であるが、より効果的なトレーニング方法を作成し、良姿勢を獲得することが傷害予防においても重要であると考えられる。
著者
萩原 早保 早田 典央 久米 愛美 水谷 真康 若山 浩子 多田 智美 中 徹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ba0963, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 異常筋緊張を伴う脳性まひ児・者(以下CP)は、呼吸機能に問題を抱える場合も多く、呼吸筋や胸郭の運動性を保障するための姿勢選択が必要となる。これまで重症児では伏臥位が推奨されているが、呼吸運動の側面からの研究は少ない。そこで我々は主要な呼吸筋である横隔膜に着目し、先に健常成人の測定結果を第45回日本理学療法学術大会で報告した。今回はそれを発展させ、CPの横隔膜の動きについて姿勢や重症度、運動能力との関連性を明らかにする目的で調査を行った。【方法】 対象は30人のCPで、身長143.0±16.3cm、体重33.0±15.5kg、年齢17.6±4.52歳、男:女=23:7名、痙直型:アテトーゼ型=19:11名、四肢麻痺:両麻痺=22:8名、Gross Motor Function Classification System(以下GMFCS)1: 2: 3: 4: 5=5:3:1:7:14名であった。仰臥位、左下側臥位、伏臥位、右下側臥位、座位で安静呼吸時の右横隔膜移動距離(以下DD)を、超音波診断装置(Medison社製Pico)にて、4.5MHz Convex型Probeによる肋弓下走査法にて横隔膜を同定してMモードでDDを三回測定し、平均値を基礎データとした。運動能力指標としてPediatric Evaluation of Disability Inventory(以下、PEDI)・Gross Motor Function Measure(以下GMFM)を、形態的指標として胸郭変形・側弯・股関節脱臼・Wind-Swept Deformityの有無を調査した。統計処理はMan-Whitney検定、Friedman検定と Scheffe多重比較、Spearman順位相関を用いて行い、有意水準5%で検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 倫理審査委員会の承認の下、対象者と保護者には十分な説明を行い、文書による同意を得た。【結果】 対象者全員では姿勢によるDDの差は無かったが、GMFCS1~3(9名)および4~5(21名)ごとに姿勢によるDDの差を比較すると、GMFCS1~3では差が無かったがGMFCS4~5のDDは右下側臥位が左下側臥に比べて大きかった(p<0.05)。また、姿勢別のDD (mm)をGMFCS1~3・4~5の順で示すと、仰臥位12.9±4.2・14.1±5.0、左下側臥位13.3±4.6・12.4±5.0、伏臥位10.5±3.8・16.3±4.5、右下側臥位12.5±4.8・15.2±4.7、座位12.2±4.5・14.6±3.3であり、伏臥位にて1~3より4~5でDDが大きかった(p<0.01)。Wind Swept Deformity、股関節脱臼の有無でDDに差はなかったが、側弯と胸郭扁平では伏臥位にて変形が無い方でDDが大きかった(順にp<0.05, p<0.01)。DDとの間にGMFCSが伏臥位で正の相関r=0.66を(p<0.01)、GMFM・PEDI (セルフケア・移動・社会的機能)が伏臥位で全て負の相関を認めた(順にr=-0.66・-0.67・-0.60・-0.60,全てp<0.01)。【考察】 GMFCS 4~5の重症児のDDにおいて右下側臥位が左下側臥位よりも大きかったが、右下側臥位は他の姿勢と差が無いため、左下側臥位でのDDが他の姿勢に比して小さい傾向にあると考えられる。重症児では体幹筋の支持性が不十分であり、左下側臥位では重力により左方向に流れるように偏倚した肝臓に引かれて右横隔膜の位置が低位化することが考えられる。加えて、重症児故の胸郭可動性の低さや呼吸筋力の弱さも相まって、結果としてDDが少なくなると考えられる。また、GMFCS4~5の児では伏臥位のDDがGMFCS1~3より大きかったが、過去に測定した健常成人男性の安静呼吸時のDDでは姿勢による差が殆ど無く15~20mmであり、GMFCS4~5の伏臥位のDDの平均値16mmはCP全対象者の中では最大である点から、重症児での伏臥位は努力性の呼吸となっている可能性が推察できる。しかし、文献が示す推奨から伏臥位が横隔膜の動きを引き出す姿勢であることも否定できない。側弯や胸郭変形があると伏臥位のDDが小さくなることは、伏臥位で胸郭前面が床に設置する、脊柱のアライメントが床に対して凹面となることから通常でも生じる胸郭・腹部の運動制限が脊柱や胸郭の変形により助長された結果であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 重症CPの呼吸管理には姿勢や胸郭・脊柱可動性への配慮が必要であるが、伏臥位は横隔膜運動を引きだすと同時に努力性呼吸を誘発する可能性も考えられ、より慎重な姿勢選択やその検討が今後必要であることを示唆した点で意義深い。
著者
山口 耕平 吉田 有紀 相谷 芳孝 池田 澄美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0004, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 臨床において整形外科疾患患者の呼吸運動にアプローチすることで症状が改善することを経験する。呼吸筋と姿勢制御の関係や呼吸機能における体位の影響などを報告する文献は散見されるが、呼吸運動と姿勢や脊柱可動性との関連性について報告した文献は少ない。本研究では脊柱アライメントおよび脊柱可動性に着目し、呼吸時胸郭・腹部周径変化との関係について報告する。【方法】 対象は、本研究の内容を十分説明し同意を得た地域在住女性高齢者24名(年齢:68.3±7.9歳)である。脊柱アライメント測定はIndex社製スパイナルマウスを用いた。測定は坐位で行い、安静位・脊柱最大伸展位・脊柱最大屈曲位の3肢位で測定し、各肢位における胸椎・腰椎・骨盤アライメント(屈曲・前傾が正の値)を得た。また、脊柱最大伸展位における脊柱角度を胸椎・腰椎伸展可動性、骨盤については前傾可動性とした。最大屈曲位からも同様に胸椎・腰椎屈曲可動性と骨盤後傾可動性を得た。呼吸時胸郭・腹部周径測定は、測定位置を腋窩・剣状突起・第10肋骨・臍部レベルとし、測定肢位を背臥位とした。安静呼気位・最大呼気位・最大吸気位における周径を各レベルでメジャーを用い計測した。最大吸気位周径から最大呼気位周径を減じ、各レベルの胸郭拡張差を得た。また、安静呼気位と最大吸気位および最大呼気位との周径差を吸気可動性・呼気可動性とし、各々算出した。統計解析は、姿勢と呼吸パラメーターとの関連性についてSpearman順位相関係数を用い検討した。統計処理にはSPSSを用いた。【結果】 腰椎屈曲可動性と剣状突起レベル胸郭拡張差(以下CESxp、r=0.65,p<0.01)および剣状突起レベル呼気可動性(以下rROMpx、r=0.56,p<0.01)との間で有意な相関がみられた。また、骨盤後傾可動性についてもCESxp(r=-0.56,p<0.01)およびrROMxp(r=-0.41,p<0.05)と有意な相関がみられた。加えて、安静位腰椎アライメントと CESxp (r=0.42,p<0.05)にも有意な相関がみられた。【考察】 本研究より、坐位腰椎屈曲・骨盤後傾可動性と剣状突起レベルの胸郭拡張運動、特に呼気運動との関連性が高いことがわかった。また、安静坐位腰椎アライメントと剣状突起レベルの胸郭拡張差との間にも相関がみられたことから、姿勢と呼吸運動の関係についての示唆が得られた。一方で、本研究が呼吸機能と整形外科疾患との関連性について言及するには至らなかった。この点に関しては新たな呼吸パラメーターを用いた検討が必要と考える。
著者
青木 拓也 廣江 圭史 鈴木 暁 平賀 篤 上出 直人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0934, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】脳卒中のリハビリテーションにおいて,患者教育は科学的にも意義が認められている(日本脳卒中学会,2015)。実際,脳卒中患者に対して教育的介入を行うことで,患者の生活の質が向上することが認められている(Karla, et al., 2004)。しかし,脳卒中患者に対する教育的介入の方法論は明確にされていない点がある。本研究の目的は,脳卒中患者に対する教育的介入の具体的方法論を構築するための基礎情報を得るため,自宅退院前の脳卒中患者が抱く在宅生活への考えや不安について,質的研究手法を用いて明らかにすることとした。【方法】対象は,回復期病棟入院中の脳卒中患者男性5名,女性4名とした。自宅退院直前に,自宅退院に際して抱いている生活への考え方や不安について半構造化面接を行い,面接内容をICレコーダーで録音した。録音内容は逐語録としてテキスト化しテキストマイニングを行った。具体的な方法として,まず分析用ソフトウェアKH coderにてテキストを単語に分解し,各単語の出現頻度を分析した。次に,各単語の出現頻度から階層的クラスター分析を行い,単語をクラスターに分類した。クラスターに分類した単語について,その単語が含まれる文脈からクラスターの名称と内容を,共同研究者と協議しながら決定した。なお,患者が抱く不安や考えには,性差が生じる可能性が高いため,分析は男女別に実施した。さらに,患者の基礎情報として,Function Independence Measure(FIM)を調査した。【結果】対象者の年齢は男性65.2±13.2歳,女性60.3±16.3歳,調査時FIMは男性118.8±12.9点,女性114.0±14.2点であった。クラスター分析の結果から,在宅生活への考え方や不安について,男性では「退院後の社会復帰に対する不安」,「退院後の生活習慣の見直し」,「障がいとともに生活をしていくという心構え」,「活動範囲の拡大への不安」,「入院生活からの解放感」,の5つのクラスターが得られた。一方女性では,「家族の協力に対する不安」,「入院生活からの解放感と不安」,「活動範囲の拡大への不安」,「食習慣の見直し」,の4つのクラスターが得られた。【結論】男女共通の考えや不安として,制限された入院生活から解放されることへの期待感や活動範囲が病院内から院外へ広がることへの不安が認められた。男性固有の考えや不安としては,社会復帰へは不安を持つ一方で,生活習慣の見直しや生活の心構えなど,前向きな考えを持つことが認められた。一方女性では,家族の協力に対する不安や食生活などの生活変化による自覚と不安など,これからの生活への不安を男性よりも抱えていた。脳卒中患者への教育介入では,患者が抱く生活への不安や考えを明確化したうえで,それらに応じた内容を実施することが重要である。
著者
吉村 修 濱田 輝一 二宮 省悟 楠元 正順
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1735, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】理学療法士の質の向上には,理学療法学科学生の臨床実習における「教育の質の向上」が重要と考える。そのためには,良い臨床実習指導者(以下,指導者)の特徴を検討する必要があると考えた。以前,我々は指導者に対して指導者の理想像の調査・発表を行った。そこで今回,学生からみた指導者の理想像の把握及び実習経験での変化を把握することを目的とした。【方法】調査期間は,それぞれ2日間を設定。実習前が平成25年7月,実習後が平成26年3月。実習は3週,8週であった。A大学の3年生83名を対象として,任意に回答要請し,質問紙調査を行った。回答方法は無記名で,選択回答もしくは自由記載とした。質問紙の回収後は,回答の信頼性保持の為の社会的望ましさ尺度で,不適切と判断されたものは除外した。自由記載の回答はテキスト形式(.txt)にデータ化し,樋口らの開発したフリーソフトウェア「KH Coder」を利用して,テキストマイニングの手法を用いて,頻出語抽出と階層的クラスター分析を行った。【結果】有効回答は54名であった(65.1%)(男性31名,女性23名)(20.6±0.7歳)。実習前では1033語が抽出された。最頻150語を抽出した結果,「実習」,「教える」,「指導」,「学生」,「考える」,「意見」,「厳しい」,「臨床」が上位8番目(最頻出回数:7以上)までの最頻語であった。クラスター分析(Ward's Method,出現回数7回以上の語を対象)を行った結果,「学生のことを考える」,「厳しく教える」,「意見を聞き,実習指導を行う」の3つのクラスターに分類された。実習後では919語が抽出された。最頻150語を抽出した結果,「実習」,「学生」,「厳しい」,「人」,「考える」,「優しい」,「教える」,「指導」が上位8番目までの最頻語であった。クラスター分析を行った結果,「厳しく,優しい」,「考える実習」,「学生に教える(指導する)ことが出来る」の3つのクラスターに分類された。実習前後の比較では,共通点では「実習」,「学生」,「考える」,「厳しい」,「教える」,「指導」があった。相違点では,実習後に「優しい」が上位にあった。【結論】実習前後の比較では,頻出語抽出・クラスター分析より,実習前は,学生のことを考え,意見を聞いてもらう指導者や厳しさのある指導者,実習後は,学生に教えるといった面と学生に考えさせる実習の視点がある指導者や,厳しさと優しさを兼ね備えた指導者を理想としていると考えられた。より良い理学療法士を育てるためには,適切な指導が出来る指導者の育成が重要である。学生が考える指導者の理想像を把握することは,より良い臨床実習指導を行うことに繋がると考えられ,学生を含めた後進の育成のために重要な事だといえる。
著者
二宮 省悟 濵田 輝一 吉村 修 楠元 正順
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1673, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】我々は,H23年度から臨床実習指導体制の構築の検討を目的に質問紙調査を行い,当学会にて発表してきた。現状は,臨床実習指導経験者(以下,指導者)は自身の学生時代や就職後の体験的・経験的教育を行っていることが把握できた。今回は,指導者を臨床経験年数別に群として区分し,臨床実習指導で「困ったこと」について,どのような意識の違いがあるか比較検討することを目的とする。【方法】調査期間はH25年8月からの8か月間。42施設の理学療法士を対象として任意に回答要請し,質問紙調査を行った。回答方法は無記名で,選択肢質問と自由記載とした。経験年数層に区分し,「困ったこと」について分析した。自由記載の回答はテキスト形式(.txt)にデータ化し,KHCoderを用いてテキストマイニングを行った。分析した内容は,頻出語抽出と階層的クラスター分析及び共起ネットワークの作成とした。さらに多次元尺度構成法(MDS),併合水準(非類似度)による分析を加え,図表化した。【結果】有効回答は479名(臨床経験年数8.5±6.1年)。経験年数層に区分した各群は,A群(0-5年)181名,B群(6-10年)164名,C群(11-15年)80名,D群(16年以上)54名とした。指導に「困った」と回答した者は,A群158名(87.3%),B群150名(91.5%),C群77名(96.3%),D群49名(90.7%)であった。困った内容の第1位は,A群では「指導に自身がない」であった。その他の群では「学生の資質の問題」であり,経験年数層を増すごとに割合が上がった。自由記載では,A群2859語,B群3193語,C群1564語,D群951語が抽出された。データより最頻150語を抽出した結果,A群は「学生(出現回数;55)」,「指導(45)」,「レポート(36)」,「分かる(24)」,「実習(20)」,B群は「学生(50)」,「指導(44)」,「レポート(25)」,「提出(22)」,「分かる(21)」,C群は「指導(30)」,「学生(26)」,「実習(13)」,「レポート(9)」,「分かる(7)」,D群は「指導(20)」,「学生(18)」,「実習(10)」,「分かる(5)」,「レポート(4)」が上位5番目までの最頻語であった。その後,クラスター分析(Ward's methodを使用:経験者A群,B群は出現回数5回以上,C群,D群は出現回数3回以上を対象)を行った。その結果,経験者A群,B群は6つ,C群は5つ,D群は4つのクラスターに分類された。また共起ネットワークからは,全てが「学生」を中心として,各群で特徴的な頻出語との強い繋がりを示し,多次元尺度構成法,併合水準でも相違が認められた。【結論】今回,指導者の指導に際し,「困ったこと」の現状が把握できた。それは,臨床経験年数層によって違う内容である事も判明した。またアンケート結果から,指導者は「困ったこと」の解決のためには,日本理学療法士協会の倫理規程や業務指針を念頭に置き,指導について積極的に研鑽する必要性が示唆された。
著者
長谷 紀志 岩田 全広 土田 和可子 鈴木 重行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Aa0906, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 筋力増強は,長期臥床や神経疾患あるいは骨関節疾患により生じた筋力低下を改善し,運動機能を向上させる。筋力は筋断面積と相関する(Narici G, et al., 1992.)ことから,筋力増強は筋断面積の増大つまり筋肥大に寄与するところが大きいと言われている。骨格筋線維(筋細胞)は過負荷やストレッチなどの機械的ストレスの増大に応答して肥大する。筋細胞が機械的ストレスに応答し,その効果が発揮されるためには,(1)機械的ストレスの受容,(2)化学的シグナルへの変換,(3)シグナル伝達,という3段階の過程を経る必要がある。機械的ストレスによる筋肥大に関わるシグナル伝達((3))については盛んに研究が進められているが,機械的ストレスの受容((1))や化学的シグナルへの変換((2))についてはほとんど解明されていないのが現状である。この点について,筋以外の細胞では,細胞表面接着分子の一種であるインテグリンが機械的ストレスを最初に受容するメカノセンサーとして働くことが提唱されている(Schwartz MA, et al., 2010.)。したがって,筋細胞においても,インテグリンを介して機械的ストレスが受容される可能性がある。そこで本研究では,機械的ストレスによって誘導される骨格筋肥大が,インテグリンを介して引き起こされるかどうかを検討した。【方法】 実験材料には,マウス骨格筋由来の筋芽細胞株(C2C12)を使用した。I型コラーゲンをコーティングしたシリコンチャンバー内に筋芽細胞を播種し,増殖培地にて2日間培養しサブコンフルエント状態にまで増殖させたところで,分化培地に交換して筋管細胞に分化させた。その後,Ara-C(10μM)を培地に添加して3日間培養することで残存する筋芽細胞を除去した後,実験を行った。実験群としては,通常培養した対照群,ストレッチ(頻度1/6 Hz,伸張率112%)を行った群(S群),インテグリンβ1/β3阻害薬(echistatin,25 nM)を培地に添加した群(E群),echistatinを培地に添加してストレッチを行った群(E+S群)の4群を設けた。筋肥大の評価は,Stittら(2004)の報告を参考に以下に示す方法で筋管細胞の横経を計測した。ストレッチ開始から72時間後に筋管細胞の位相差顕微鏡像をデジタルカメラで撮影し,PCに取り込んだ。そして,Adobe Photoshop CS5を用い,1本の筋管細胞につき50μm等間隔で計3箇所の横径を計測し,その平均値(mean±SD)を算出した。なお,計測に用いた筋管細胞は,細胞のアウトラインが明瞭で形が管状であるものとし,計測した細胞数は各群とも100本以上であった。統計処理には,一元配置分散分析を適用し,各群間において有意差が存在するかどうかを判定した。一元配置分散分析にて有意差を認めた場合は,多重比較検定にTukey法を適用し,2群間に有意差が存在するかどうかを判定した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】 本研究で使用した細胞は,市販されているものであり倫理的問題はない。【結果】 S群の筋管細胞の横径(19.6±10.8μm,n=113)は,対照群(14.7±5.4μm,n=119)に比べ有意に増大したが,E+S群(16.5±6.6μm,n=111)ではその増大が有意に抑制された。E群(15.7±6.9μm,n=123)の筋管細胞の横径は,対照群に比べ有意差は認められなかった。【考察】 ストレッチにより筋管細胞が肥大し,その肥大はインテグリンβ1/β3阻害薬であるechistatinにより抑制されたことから,本研究において観察された機械的ストレスによる筋肥大はインテグリンβ1またはβ3を介して引き起こされたと考えられた。この点について先行研究を渉猟すると,Kaufmanらの研究グループは遺伝子工学的手法を用いてインテグリンα7トランスジェニックマウス(α7BX2-mdx/)utr-/-マウス)を作製したところ,α7BX2-mdx/)utr-/-マウスの骨格筋では野生型マウスと比べインテグリンα7β1の発現が増加する(2001)とともに,機械的ストレスによる筋肥大効果も増大することを報告している(2011)。これらの報告と本研究結果を加味すると,機械的ストレスによって誘導される筋肥大はインテグリンα7β1を介して引き起こされるものと推察されるが,詳細については不明であり今後の検討課題である。【理学療法学研究としての意義】 機械的ストレスによる骨格筋肥大に関わる分子メカニズムが解明されることは,理学療法士が日常的に行っているリハビリテーション手技の科学的根拠の確立につながるとともに,筋萎縮の予防や回復促進をもたらす効果的かつ効率的な筋力増強法の早期開発を可能にするものと考えている。
著者
上野 奨太 中島 駿平 岡田 洋平 中村 潤二 喜多 頼広 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100660, 2013 (Released:2013-06-20)
被引用文献数
1

【はじめに、目的】 直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation: GVS)は耳後部から経皮的に前庭系を直流電気刺激する神経生理学的手法である。GVSの電極配置を両側乳様突起とし,直流電流を通電することにより陽極側への身体傾斜が誘発される。近年,GVSは治療手段としても利用され,両側乳様突起間でのGVSにより,パーキンソン病の体幹側屈や脳卒中後の半側空間無視の軽減効果についての報告も散見される。またパーキンソン病の前屈姿勢異常に対しGVSを実施し,立位時の体幹屈曲角度が改善したとする報告では,両側乳様突起と隆椎棘突起両外側間を刺激している。健常人を対象に両側乳様突起間へのGVSが立位姿勢制御に与える影響についての報告は数多く存在するが,両側乳様突起と隆椎両外側間へのGVSが立位姿勢制御に与える影響についてはほとんど検討されていない。本研究の目的は両側乳様突起と隆椎両外側間でのGVSを健常人に対して実施し,GVSの極性と刺激強度が前後方向の立位姿勢制御に与える影響について検討することとした。【方法】 対象は内耳疾患,てんかんの既往歴および体内に金属を有する者を除外した健常若年者10名(男性6名,女性4名,22.1±0.3歳)とした。対象者の肢位は重心動揺計(G-6100,アニマ)上における閉眼閉脚立位とした。電極を両側乳様突起と隆椎両外側に左右二対貼付し,重心動揺計と同期した電気刺激装置(SEN-8203,日本光電)により7秒間の矩形波を用いて電気刺激を行った。刺激条件は2種の極性(乳様突起陽極,乳様突起陰極)と3種の刺激強度(1.0,1.5,2.0mA)を組み合わせた計6条件とし,各条件は被験者ごとにランダムな順序で別日に実施した。測定項目は7秒間のGVS時の足圧中心(center of pressure:COP)の偏位方向および最大偏位距離とした。各条件において6試行実施し,COPの最大偏位距離は6試行の平均値を代表値とした。統計解析は同一極性による刺激強度間でのCOPの最大偏位距離の差をFriedman検定の後,Wilcoxon符号付順位和検定を用いて検討した。 Friedman検定の有意水準は5%,Wilcoxon符号付順位和検定の有意水準は1.6%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は畿央大学研究倫理委員会の許可を得た上で実施した。全対象者に実施前に本研究の趣旨と目的を十分説明し,自署による同意を得た。なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者の保護には十分留意して実施した。【結果】 乳様突起陽極では全ての刺激強度において10名全員のCOPは刺激中に後方へ偏位し,乳様突起陰極では1.0mAで10名中9名,1.5mA,2.0mAで10名中8名のCOPが前方へ偏位した。乳様突起陽極条件では,刺激強度間でCOPの最大偏位距離に有意差を認め,2.0mAは1.0mAと比較してCOPの最大偏位距離が有意に大きかった(P=0.0069)。乳様突起陰極条件では刺激強度間のCOP最大偏位距離に有意差は認められなかった。また,めまいや嘔気,強い痛み等の副作用を訴える者はいなかった。【考察】 GVSの極性を乳様突起陽極,隆椎外側陰極にすることによりCOPの後方偏位を,乳様突起陰極,隆椎外側陽極にすることによりCOPの前方偏位を誘発可能であり,乳様突起陽極のGVS時のみ刺激強度依存的にCOPの後方偏位が増加した。両側乳様突起間のみでのGVSは刺激強度に依存して陽極方向へ身体傾斜も強まると報告されており,これはGVSが耳石器を刺激して左右方向への加速度感覚が発生したためと考えられている。今回の乳様突起と隆椎外側間のGVSにより耳石器への刺激方向が変化し,COPの偏位は前後方向への加速度感覚が生じたことによると考察する。さらに極性変更により相反する方向への加速度感覚が発生し,刺激後のCOPの偏位が逆方向になったと考えられる。GVSによる刺激強度依存的なCOPの後方偏位の増加は,刺激強度増加に伴い耳石器における活動電位が強くなったためと考察する。GVS後のCOPの前方偏位に刺激強度依存性がなかった原因は,前足部のメカノレセプターの分布密度が踵部より高く,立位前方傾斜時には前庭感覚よりも体性感覚依存度が高い可能性がある。今後乳様突起,隆椎両外側へのGVSを臨床適用していくには,刺激時の筋活動,肢位による反応の差異,長時間介入による持続効果について検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 両側乳様突起と隆椎両外側へのGVSでは,極性を変化させることにより前方あるいは後方への姿勢誘導が可能であり,後方誘導には刺激強度依存性があることが明らかになった。パーキンソン病の前屈姿勢異常などに対してGVSを治療手段として利用する際の刺激方法を考慮する一助となると考えられる。
著者
水池 千尋 石原 康成 堀江 翔太 大谷 豊 水島 健太郎 久須美 雄矢 立原 久義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0271, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】可動域制限を伴う肩関節疾患では,結帯動作が障害され,日常生活動作に支障をきたすことがあるが,その改善に難渋することが多い。肩関節の可動域制限に対するアプローチは徒手療法,物理療法などがあり,近年では機器を用いた運動もセルフエクササイズとして行われている。これまで我々は,機器を用いたディップ運動が肩関節可動域に及ぼす影響について調査し,肩甲上腕関節(glenohumeral joint:以下,GHj)よりも肩甲胸郭関節(scapulothoracic joint:以下,STj)の可動域が拡大すると報告してきた。しかしながら,男女では筋骨格系に違いがあるため,同様の運動を行っても効果に差が生じる可能性が考えられる。そこで,本研究の目的は,機器を用いたディップ運動による肩関節可動域の変化とその性差について検証することとした。【方法】対象は,肩に整形外科的疾患を有さない健常成人20名40肩[男性:11名,女性:9名,平均年齢:33(21-50)歳]とした。運動に使用した機器は,Hogrelディッピングミニ(是吉興業株式会社製)である。運動は,機器のシートに着座した状態で肩のディップ運動を実施した。速さは対象者自身のタイミングとし,回数は40回,負荷は約50N,時間は3分程度であった。運動前後に,肩関節自動挙上角度(以下,挙上角度),第7頸椎棘突起から母指先端までの距離(以下,指椎間距離)を測定した。指椎間距離は結帯動作の指標として用いた。また,上肢下垂位と挙上時における肩甲棘と上腕骨長軸のなす角度(spino-humeral angle:以下,SHA)を測定し,上肢下垂位と挙上時の値の差によって,GHjの可動範囲を評価した。挙上角度とSHAの測定はゴニオメーターを用い,指椎間距離の測定にはメジャーを用いた。統計学的処理は,運動前後の比較には対応のあるt検定,男女間の比較には対応のないt検定を用いた。なお,有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には事前に研究の目的や手順を十分に説明し,口頭にて同意を得た。また,本研究は所属する職場の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】男女の比較では,運動前のSHAは男性:103.9±12.7°,女性:106.8±12.9°であり,女性が大きかった(p<0.05)。その他の値に差はなかった。すなわち,女性ではGHjの可動範囲が大きかった。運動前後の比較では,挙上角度は男性:運動前158.2±8.5°,後162.3±7.4°,女性:運動前157.5±8.3°,後160.3±7.8°であり,男性は運動後に拡大した(p<0.05)が,女性は差が無かった。すなわち,男性で挙上角度が拡大していた。指椎間距離は男性:運動前150.9.±57.9mm,後137.5±52.7mm,女性:運動前120.8±37.7mm,後111.1±38.0mmであり,男女ともに短縮した(p<0.05)。すなわち,性別によらず結帯動作は改善していた。SHAは男女とも運動前後で差はなかった。すなわち,性別によらずGHjの可動範囲は変わらなかった。【考察】本研究の結果,男女の比較では運動前の挙上角度は差が無く,SHAは女性が大きかった。すなわち,女性の方がGHjの動きが大きく,STjの動きが小さいことが示された。三次元CTを用いた解析から,上肢挙上時に女性では肩甲骨の上方回旋角度が小さいため代償的に肩甲上腕運動での動きが大きくなることが報告されており,本研究もこれを支持する結果となった。次に,運動後に男女とも指椎間距離は短縮し,挙上角度は男性のみ改善がみられた。ディップ運動では僧帽筋上部線維,菱形筋,前鋸筋,上腕三頭筋に強い筋活動がみられたという報告があり,これらの筋の反復収縮と相反神経抑制によって肩甲骨周囲筋の柔軟性の向上が引き起こされたと考えられる。女性の挙上角度は変化が無かったが,120°以上の挙上では肩甲骨の動きに加え,胸椎伸展運動の連動が必要とされる。元々胸郭と肩甲骨の可動性が低く,筋力が小さい女性にとって,本研究の負荷設定では,肩甲骨と胸椎周辺の可動性の改善度が少なかったと推察された。以上から,ディップ運動を実施する際は,男女の特性に適した負荷設定と効果判定を行うことで,より効果的な介入ができる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】男女の筋骨格系の違いによってディップ運動の効果に差が生じることが示唆された。このことから,男女の特性に適した負荷設定を行うことが効果的な介入方法に繋がる可能性を見出したことに意義があると考えられる。
著者
小原 由紀彦 児玉 隆夫 小川 祐人 沼田 友一 中村 俊康 川北 敦夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI2261, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】橈骨遠位端骨折に対して、近年多くのロッキングプレートが開発され、橈骨遠位端骨折に対しては強固な固定が可能となった。結果、術後に外固定をせずに手関節可動域訓練を早期に施行し、良好な成績を得たとする報告が近年多くされている。しかし、本受傷では橈骨のみが損傷を受けるのではなく、手関節尺側部にも同程度の損傷が及んでいることがある。これらの症例に早期運動療法を施行することは、手関節尺側部損傷の治癒を遅らせ、最終的に悪影響が生じるのではないかと我々は危惧する。当院では橈骨遠位端骨折の手術時に、全例に遠位橈尺関節(以下、DRUJ)鏡で三角線維軟骨複合体(以下、TFCC)の尺骨小窩からの剥離の有無を確認している。手関節尺側部損傷を主にTFCC、尺骨茎状突起骨折として、その合併率、治療成績を比較した。今回、これらの結果からどのような症例に早期運動療法が適応になるか、検討した。【方法】橈骨遠位端骨折に対して手関節鏡、DRUJ関節鏡視と観血的整復固定術を行った133例135手を対象とした。平均61.0歳 AO分類はA2:36手 A3:21手 B1:1手 B2:1手B2:5手 C1:27手 C2:37手 C3:7手であった。尺骨茎状突起骨折型はTip:19例、中央:26例、基部(水平):24例、基部(斜):3例、尺骨小窩剥離損傷:7例であった。尺骨茎状突起骨折(Tip以外)、TFCC尺側小窩剥離損傷がともに無いものは術後の外固定はせずに早期運動療法(術翌日より手関節掌背屈、自動他動可動域訓練、術2週間後より前腕回内外、自動他動可動域訓練)を施行した(A群)。そのほかの症例では3週間の外固定ののち運動療法(術3週後より手関節掌背屈、自動他動可動域訓練、術5週後より前腕回内外、自動他動可動域訓練)を施行した(B群)。術後1年以上経過した症例で、可動域、痛み、握力、Mayo Wrist Scoreを比較検討した。【説明と同意】手術方法を説明する段階で、本治療が関節鏡での所見を基にして適切に選択され、治療成績を集計することで今後の治療指針にしていることを説明し、同意を得ている。【結果】DRUJ鏡視でTFCC尺骨小窩剥離を38手で認めた。TFCC剥離損傷は合併していた例はいずれも50歳以上であった。80歳代の合併率は60%であった。術後1年以上経過した症例はA群37例、B群52例であった。可動域は健側比でA群:90.6%、B群: 91.1。握力はA群:86.0%、B群:85.0%°。Mayo Wrist ScoreはA群:89.2点、B群:90.5点。手関節痛はA群:6例16.2%、B群:2例3.8%であった。【考察】各治療グループで可動域、握力に差はなかった。疼痛はA群で多く認められた。結果的には早期運動療法は術後1年での可動域、握力の増加要素とはならず、むしろ疼痛が多く残存していたことになる。今回、手関節尺側部損傷をTFCC尺骨小窩付着部に重点を置き、その有無でリハビリ開始期間、方法を変えて行なったが、真に早期運動療法の危険性を示すのであれば、損傷の有無にかかわらない無作為前向き研究を計画しなくてはならない。このような研究は実際の治療では計画できず、エビデンスレベルはどうしても低下してしまう。今回の結果では橈骨遠位端骨折の28%にTFCC剥離損傷が合併していた。この率はおそらく我々の予想を大きく超える結果と言えよう。DRUJ鏡はすべての橈骨遠位端骨折に行う必要はなく、橈骨遠位端骨折には手関節尺側部損傷が合併しているものと考え、3週間の術後外固定を行うほうが賢明と考える。早期運動療法を行なうのであれば、回内外時の手関節尺側部痛に注意を払い、認める例では運動療法を遅らせることを推奨する。年齢別での手関節尺側部損傷の差が生じており、既存の変性損傷が含まれていると考えられ、今後は若年者に限った検討が必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】上記の如く、今回の結果から橈骨遠位端骨折後の早期運動療法にはPitfallが存在することを認識すべきである。
著者
氏家良人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第50回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

重症外傷,敗血症など大きな侵襲によりICUに入室する多くの患者は,臓器障害を呈し人工呼吸,急性血液浄化などの機械補助を必要とする。救命救急の診療技術はこのような患者の多くを救命することを可能とした。しかし,ICUを退室させる時期になっても,筋肉萎縮,筋力低下により寝たきりで歩けない患者が多い。これらの障害はICU-acquired weakness(ICU-AW)と呼ばれている。また,ICU患者とくに高齢の患者はICU入室中にせん妄,認知機能障害を来たすことが多く,これらの患者は人工呼吸期間やICU入室期間が長くなり,長期予後も悪いことがわかってきた。このようなICU-AW,認知機能障害などがICU退室後も続き,社会復帰が困難となり,社会に依存して生きて行かざるを得なくなることがあることが指摘されてきた。このような状況をpost intensive care syndrome(PICS)と呼んでいる。 PICSを防ぐ為に,一日一度は覚醒させ持続的な深い鎮静を避け(Awakening),一日一度自発呼吸にして人工呼吸をいたずらに長くせず(Breathing),適切な鎮痛,鎮静薬を用い(Choice of drugs),せん妄を早期に認識,対処し(Delirium),早期リハビリテーションを行う(Early rehabilitation)ことが大切とされ,これらをABCDEバンドルと呼んでいる。 ABCDEバンドルの中で解決できていないものが早期リハビリテーションである。ICUの重症患者に対して,いつから,何を,誰が,どのように行うのかが標準化されていない。 質の高いICUにおいては,臨床工学士だけでなく,リハビリテーションに携わる専門医療職の存在が必須である。このことがPICSを防ぎ,ひいては国民医療費を下げ,患者のICU退室後のQOLを豊かにすることと思われる。
著者
宮木 陽介 坂田 禮一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0168, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】頭部外傷は主に交通事故により発症し、身体・認知・行動に影響を及ぼす。今回、日々の活動性の向上が心身両面の改善に結びついた一症例を報告する。【症例紹介】10代女性。バイクで通学中に乗用車と正面衝突。急性硬膜下血腫と診断。障害として右片麻痺・右顔面神経麻痺・高次脳機能障害を呈した。昨年高校を卒業。来年には看護学校進学を希望。現在、受傷後1年半経過し自宅での受験勉強が中心の生活。今後のことを考え、足のふらつき防止やバランス改善を目的として当院にてリハビリを希望される。【PT評価】ADLや屋外歩行は自立。軽装具を着け自家用車を運転して通院。右片麻痺の影響から右足関節と足指の軽度感覚鈍麻と随意運動遅延、右大腿四頭筋や下腿三頭筋の筋力低下、歯磨きや書字などでは右肩の筋緊張が亢進しやすい。長時間歩行での右足指の痛みがあり、バランス障害により右支持片脚立位時間が開眼25秒、閉眼2秒で動揺が強く、閉眼足踏みでは麻痺側へ90度の回転が生じる。高次脳機能ではいくつか聞いたこと覚えておいてから後で書き写すことが苦手で記憶面に不安を残す。なお看護学校進学レベルの知能や教養は身につけているとのこと。現在、老人ホームにてタオルたたみなどのボランティアをしている。【PTプログラム】立位バランスでは上下肢に徒手的抵抗を加え反応を引き出すことや足底の感覚入力をしながら足部内荷重や重心移動を学習。筋力低下にはフィジオボールを使い、弱化筋と体幹筋を強化。歩行では片脚での支持性改善や重心移動を念頭に爪先立ち歩きや骨盤歩き、木を足底に入れて滑らす歩行を行なう。自宅練習では片脚立ちや腕立て伏せ、スクワットを指導。【本人の行動や言動】週1回のリハビリを始めて1ヶ月で右足内側への荷重感をつかみ、歩行時の右下肢分回しは減少。しだいに活動性が向上し陶芸やお花、エアロビクス、アルバイトを始める。これ以降、台所や家の中で履いている草履が以前は脱げてしまっていたものが足指で挟んで落ちないようにすることが感覚でつかめてくる。歯磨きでも以前は歯にあてた感じがなく、たださすっているものだったのが最近ではしっかり歯にあてて磨いている感じがする。右片脚立位時間が延長し手摺につかまらないでも階段で歩けるようになるなど機能的回復が見受けられた。中でも商品の品だしや重いものを運ぶ作業、走ること、話すことが多いなど本人は楽しいと話しているスーパーでのアルバイトが良い体験となったと思われる。【まとめ】意欲的にアルバイトやエアロビクスなど様々な体験をすること、勉強以外での楽しみや活動の場をみつけたことが心身への刺激となり体力の向上・機能的回復を手助けしたものと考えられる。今後、目標としている看護学校進学では精神的・肉体的に最大限の集中が求められてくる。理学療法士としてどのようなサポートをしていけるかよく考え行動していきたい。
著者
森本 晃司 桜井 進一 内藤 慶 青柳 壮志 奥井 友香 加藤 大悟 遠藤 康裕 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O1119, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】ラグビーやアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツにおいて,脳震盪などの頭・頚部の外傷は時として重大な事故を引き起こすことから,安全対策上重要な問題として取り扱われる.国際ラグビー評議会の定款では,未成年のラグビープレイヤーは脳震盪を生じた場合,3週間の練習・試合を禁止するとされており,頭・頚部の外傷は頚部筋力を向上させることで予防可能との報告もある.本研究の目的は,高校生ラグビープレイヤーにおける頚部筋力と周径の関連,脳震盪と頚部筋力の関連について検討し,脳震盪予防の一助とすることである.【方法】 対象は全国大会レベルの群馬県N高校の高校生ラグビープレイヤー69名(1年生30名,2年生18名,3年生21名)とした.評価項目は経験年数,過去8カ月間の脳震盪の有無(1年生を除く),頚部周径,頚部筋力とした.頚部周径はメジャーを使用し直立位にて第7頸椎棘突起と,喉頭隆起直下を通るように測定した.頚部筋力の測定にはアニマ社製ハンドヘルドダイナモメーターμTasMF-01を使用した.測定肢位は臥位とし,両肩と大腿部を固定した.センサーはベッドに固定用ベルトを装着した状態で額,後頭部,側頭部の各部分に当て,頚部屈曲,伸展,左右側屈の等尺性筋力を3秒間測定した.各方向3回ずつ測定し,最大値を採用した.統計学的処理にはSPSS ver.13を用い,頚部筋力と周径,経験年数の関係にはspearmanの順位相関係数を用い,各学年間の頚部筋力,周径との関係には一元配値の分散分析後,Tukeyの多重比較検定を行った.また脳震盪経験の有無と頚部筋力・周径の関係には対応のないt-検定を用い有意水準は5%とした.【説明と同意】チーム指導者並びに対象者に対し本研究の主旨及び個人情報保護についての説明を十分に行い,署名による同意を得て実施した.【結果】2,3年生計39名のうち,脳震盪経験者は28名であり非経験者は11名であった.脳震盪経験の有無で頚部筋力を比較した結果,頚部筋力,周径ともに有意差は認められなかった.頚部筋力と周径では有意な相関関係が認められた(P<0.05,R=0.52~0.65)が,経験年数と頚部筋力及び周径との間には相関関係は認められなかった.学年間の頚部筋力の比較では全項目において有意差が認められ,また,学年間の周径においても有意な差が認められた(P<0.05).多重比較検定では,頚部筋力では1年生に対して2,3年生の筋力が有意に高く(P<0.05),2年生と3年生との間に有意な差は認められなかった.頚部周径では1年生と3年生にのみ差が認められ、3年生の周径が有意に大きかった(P<0.05). 【考察】本研究における脳震盪の有無と頚部筋力の検討では,両群で有意差は認められなかった.タックル動作において,脳震盪となる場面ではタックル時に頭部が下がる,飛び込むなどのスキル的な要素や,瞬間的に頚部を安定させる筋収縮の反応などの要素も関連していると考えられる.今回の研究ではそれらの要素は検討できていないため,両群で差が見られなかったものと考える.また,各学年と頚部筋力の検討では1年生と他学年との間に有意な差が認められたが,経験年数と頚部筋力との間に相関関係は認められなかった.群馬県では中学校の部活動としてラグビー部はなく,経験者も週1回程度のクラブチームの練習に参加する程度である.このため,1年生では経験者であっても十分な頚部筋力トレーニングが行えていない可能性が考えられる.また,頚部筋力と周径ではすべての項目で相関関係が認められたことから,選手のコンディショニング管理の一つとして,筋力測定器などがない場合には,頚部周径を確認しておくことの意義が示唆された.頚部筋力は脳震盪予防のための重要な一要因であるが,今回は頚部筋力と脳震盪経験の有無とに関連は見られなかった.今後はタックル動作のスキルや,筋の反応時間なども検討することが課題である.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,高校1年生と2・3年生の頚部筋力の違いが明らかとなり,新入生に対する早期からの筋力評価とトレーニングの重要性が示唆され,スポーツ障害予防のための基礎的資料となる.
著者
岩佐 厚志 裏 直樹 山中 武彦 川村 康博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.E-145_2-E-145_2, 2019

<p>【はじめに・目的】</p><p>延髄外側梗塞において特徴的な所見のひとつにlateropulsion(以下:LP)がある.LPは,病巣側に体が不随意に倒れる症候である.これまで,急性期におけるLPに対する病巣を考慮した治療や客観的指標を用いた効果に関する報告は少ない.そこで本研究では,脳画像所見よりLP出現の責任病巣を同定し,損傷神経路を考慮した治療の選択と,体圧分布測定システムで測定した立位足圧分布を用いて治療効果を検証した.</p><p>【方法】</p><p>症例は,50歳代男性.左延髄外側に梗塞巣を認め,立位・歩行時wide baseでありLPのため左への傾きを認めた.第1病日から理学療法(以下,PT)を開始.第4病日より本研究を開始した.LPに対する治療効果は,シングルケースデザイン(ABA法)を用いて検証した.A1期,A2期は一般的なPTを実施.B期は一般的なPTを行う際に,左膝関節に対して弾性包帯(Osaki製ウエルタイ)を,足底には表面に凹凸のあるインソール(キャンドゥ製オウトツタイプインソール)を装着し,触圧覚入力を増強した状態で実施した.各期は各々1日とした.足圧分布は体圧分布測定システム(NITTA製BPMS)を用いて開眼閉脚立位にて20秒間測定し,左右比率,左右差の平均値を算出した.臨床的指標としてPostural Assessment Scale for Stroke Patients(以下,PASS),Scale for the assessment and rating ataxia(以下,SARA)を用い,その他立位時の傾きに対する内省を聴取し,転倒に対する恐怖感をvisual analogue scale(以下,VAS)で評価した.評価時期は足圧分布,VASを各期の前後に,PASS・SARAはA1前,B前,B後,A2後に行った.</p><p>【結果】</p><p>A1前,A1後,B前では足圧左右比率,左右差,PASS,SARA,VASに明らかな変化を認めなかった.B前とB後では,足圧左右比率が右64%から51%,左36%から49%,足圧左右差は5591mmHgから369mmHg,SARA 5点から3点,PASS30点から33点,VAS4/10から1/10と改善を認めた.傾きに対する内省はA1前とB前で「自分ではよくわからないけど倒れそう」であったが,B後では左足に「違和感を感じ右へ重心が行くようになった」「左足に意識が行くようになった」と左下肢に対する認識に変化を認めた.また,A2前後では各評価項目ともに明らかな変化を認めなかった.</p><p>【考察】</p><p>今回,延髄外側梗塞によりLPを呈した症例に対し,下肢への触圧覚入力により即時的な効果を認めた.LPの責任病巣として前脊髄小脳路,後脊髄小脳路,前庭脊髄路などの報告がある.本症例は拡散強調画像より,前脊髄小脳路の損傷が疑われた.前脊髄小脳路はL2以下の意識にのぼらない深部感覚を伝える上行性伝導路であることから,膝、足底への触圧覚刺激の増強により,LPが改善したと考える.このようにLPの原因となる損傷神経路を脳画像により同定し,治療方法を決定していくことは重要であり,前脊髄小脳路損傷によるLP例に対しては膝,足底への触圧覚入力が効果的であることが示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に研究内容の説明と書面による同意を得た.</p>
著者
前田 将吾 髙畑 晴行 原田 麻未 中川 佑美 森 公彦 金 光浩 長谷 公隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.J-52_1-J-52_1, 2019

<p>【はじめに】</p><p> 近年,脳性麻痺症例の運動機能と筋力の関連性を示した報告が散見され,運動による筋力維持・向上の重要性が示唆されている.一方で,歩行や移動に制限がある粗大運動能力分類システム(Gross Motor Function Classification System:GMFCS)Ⅳ~Ⅴレベルの症例では,随意的な運動による筋力維持・向上が困難である.今回,低運動機能に分類される脳性麻痺児に対する他動的歩行練習が下肢筋活動に及ぼす影響を評価し,運動量を増加させる方法を検討したため,運動学的考察を加えて報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p> 症例は9歳男児,身長124.0cm,体重14.6kgである.在胎26週663gで出生し,脳室内出血に起因する水頭症を発症したため,脳室-腹腔シャント術を施行された.今回,シャント機能不全に対するシャント入れ替え術のため当院入院された.入院前に自力歩行が困難で,屋内移動を5m程度肘這いで行っていた.術後にイレウスによる嘔吐や食思不振のため低栄養状態となり,長期的入院や多数のルート類によるストレスによって運動意欲は低下した.術後1か月で全身状態が安定し立位や歩行練習を開始した.歩行練習開始時の身体的特徴は,GMFCS:Ⅴ,粗大運動能力尺度(Gross Motor Function Measure)-66 Score:20.5,Modified Ashworth Scale:膝関節伸展両側1,足関節背屈両側1+であった.歩行条件は,両腋窩介助での歩行と歩行補助具(ファイアフライ社製,アップシー小児用歩行補助具)を使用した歩行(補助具歩行)の2条件とした.アップシーの特徴は、児の体幹と介助者の腰部がベルトで連結され,体幹直立位保持が可能になることである.また足部も介助者と連結され,介助者の下肢支持と振り出しに連動する機構となっている.筋電図評価を行うために表面筋電計(Noraxon社製Clinical DTS)を用いて,左右の大腿直筋,半腱様筋,前脛骨筋,腓腹筋外側頭の計8筋を計測した.</p><p>【経過】</p><p> 両腋窩介助歩行では下肢の振り出しが困難であり,下肢筋活動は持続的であった.補助具歩行では,リズミカルな下肢屈曲-伸展運動が可能であり,大腿直筋は左右とも立脚期に活動し,半腱様筋は左右とも遊脚中期から立脚初期に活動していた.前脛骨筋と腓腹筋外側頭は立脚期を通して同時活動していた.またアップシーを用いると嫌がることなく1時間以上連続して立位および歩行が可能であった.</p><p>【考察】</p><p> 低運動機能に分類される症例において,用手的な介助による運動または歩行が困難な場合でも,アップシーを用いた歩行は,体幹直立位での下肢屈曲-伸展運動を可能にした.立脚期の足関節背屈運動や股関節伸展の誘導によってCentral Pattern Generatorが賦活され,下肢の相動性な筋活動が出現したと考えられた.また筋力低下に対しても体幹・下肢への負荷量を調整することが可能であるため,運動量の確保や運動意欲の向上に関与したと示唆された.今後,歩行練習による介入効果を検証する必要がある.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p> ヘルシンキ宣言に基づき,家族に口頭にて十分な説明を行い実施した.また個人情報の取り扱いにおいては,個人が特定できる情報は用いずに実施した.</p>
著者
濱田 輝一 二宮 省悟 吉村 修 楠元 正順
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【目的】我々は,H23年度から臨床実習指導体制の構築の検討を目的に質問紙調査を行い,当学会にて発表してきた。今回,指導の実態とその認識について,免許取得後5年を基準に,5年以上(以下,経験者)と未満(以下,未熟者)の2群で比較検討したので報告する。【方法】調査期間はH25年8月からの8か月間。42施設の理学療法士を対象として任意に回答要請し,質問紙調査を行った。回答方法は無記名で,選択肢質問と自由記載とした。次いで信頼性保持の為の社会的望ましさ尺度で不適切と判断されたものは除外し,有効回答を抽出し分析した。検討課題は,過去に報告の「指導で困る」の分析から,経験者は「学生の資質」,未熟者「自分自身の指導方法や自信」と相反する視点であることに着目し,1.指導で困った時の相談相手,2.学生の能力把握方法,3.指導時の参考,4.指導時の学生へ合わせるレベルの高さ設定の4項目とし,指導実態の全体像把握を目標とした。【結果】1.回収689名の内,有効回答者449名。2群の内訳は,経験者315名(男208,女107),未熟者134名(男82,女52)。臨床経験年数は経験者10.99±5.76年(平均±S.E.M)。未熟者3.08±0.79年。2.検討課題:得られた結果を経験者(未熟者)で各項目を見ると,1)困ったときの相談相手:2群に差がみられ(P<0.01)選択肢8項目中上位2項目(1,2位)と下位3項目(6~8項目)は同一内容で,残りの3位~5位の3項目で順位に差が出た。つまり,経験者では3位(5位)が養成校教員となった。これは熟練者ほど,学生の問題で困っているからこそ,まず施設内部の上司・先輩で解決を試み,次いで教員に相談する構図が読み取れた。逆に未熟者はどうしようもなくなって教員へ相談する行動と推測できる。また,学生指導で困った時の相談相手で分析すると,経験者は教員への相談が2位であるのに対し,未熟者は6位となる結果(P<0.01)もこれを裏付けた。2)学生の能力把握の方法:2群で差が見られた(P<0.01)。第1位は共に「口頭試問」で約25%。2位と3位は「レポート」,または「検査・治療時の学生の反応」で,2群の順位が逆転した。3)指導時の参考:2群で差がみられ(P<0.05),上位から「就職後の現場」48%(50%),「自分の学生時代」30%(49%),「研修会」18%(10%)。経験者がより研修会を参考とすることが分かった。4)指導時の学生へ合わせるレベルの高さ設定:レベルの高さは2群に差が見られなかった(P>0.05)。高い割合でみると,能力相応53%(52%),時々高いレベル31%(36%),少し低いレベル13%(11%)。一方,学生の能力に合わせた指導をしているか?の回答は,経験者が85%となり,未熟者より約15%と高く,差が見られた(P<0.01)。【考察】結果から,5年以上の経験がある臨床指導者と養成校教員で協議検討し,臨床経験が浅い指導者へのサポートが必要であることが示唆された。
著者
高田 彰人 杉浦 史郎 豊岡 毅 岡本 弦 西川 悟
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.F-124-F-124, 2019

<p>【はじめに,目的】</p><p> 不安定な面での体幹トレーニングは体幹筋の筋活動を上昇させるという報告は散見するが,実際に腰痛の予防効果を示した報告は少ない。そこで,不安定面を含むTrunk Instability Training(以下TIT)による腰痛予防効果を前向きに調査することを目的とした。</p><p>【方法】</p><p> 対象は腰痛既往のない高校男子バスケットボール選手40例とした。2017シーズンから腰痛予防を目的として毎回の練習後にTITを導入した。2017シーズンの22例(平均年齢15.9±0.8歳)はTIT介入群とし,2016シーズンの18例(平均年齢15.6±0.5歳)は対照群として,1シーズン7ヶ月間での腰痛発生状況を比較した。TITは①バランスディスク上での臀部バランス,②ストレッチポールEX(LPN 社製)上でのSit-up,③四肢伸展位でのサイドブリッジで構成した。統計処理にはカイ二乗検定を用いて,有意水準は5%とした。</p><p>【倫理的配慮】</p><p> 本研究は当院倫理委員会の承認を得て(承認番号:2430番),対象者に説明と同意を得た上で行った。</p><p>【結果】</p><p> 腰痛発生は対照群で5/18例,TIT介入群で0/22例となり,有意差を認めた(p<0.05)。</p><p>【考察】</p><p> TITは腰痛既往のない選手に対して,腰痛の発生予防を期待できる可能性が示唆された。今後は対象毎の負荷設定を含めたトレーニング内容の検討を行いたい。さらに,TITによって改善が得られる身体機能因子についても検証していきたい。</p>