著者
清水 忍 池田 由美 前田 真治 引間 香織
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.B0687, 2004

【目的】<BR>脳卒中片麻痺患者の麻痺側による視覚的注意機能の差異について,視覚刺激に対する単純反応時間(RT)を用いて検討した.<BR>【方法】<BR>北里大学東病院に外来通院中で一側上下肢に麻痺を呈する脳血管障害患者のうち,知的障害,重度失語,半側無視を伴わない,右片麻痺患者10名(67.0±13.3歳)(RH群),左片麻痺患者10名(64.8±9.5歳)(LH群),計20名を対象とした.さらに,健常高齢者20名(75.4±5.2歳)を比較対照群とした.RT測定にはパーソナルコンピュータ(DELL社製Dimension XPS R450)と「反応時間測定ソフトウェアVer.1」(都立保健科学大学作成)を用いた.被検者は座位姿勢とし,顔面から前方30cm離れた位置にCRT画面を置き,顎台にて頭部を固定した.画面上に提示した直径 3mmの白円を反応刺激,画面中央に提示した白色十字を注視点とした.反応刺激の提示位置は注視点を中心とした半径11cm(視角約20度)の円の円周上に,等間隔で8箇所(円の上縁と中心を結んだ線を0°として時計回りに45°毎)とした.各反応刺激は1箇所ずつランダムな順に,各5回ずつ,計40回提示した.各試行の始めに注視点を提示し,500ms後に反応刺激を提示した.刺激の提示時間は被験者のキー押し反応があるまでとし,最大2s間に設定した.各試行間隔は2.0,2.2,2.4,2.6,2.8,3.0sの6種類とし,無作為に設定した.被験者には注視点を注視したまま,刺激が提示されたらできるだけ早くスペースキーを押すよう指示し,刺激提示からキーが押されるまでの時間をRTとして記録した.この際,RH群は左示指,LH群は右示指を用い,健常者のうち10名は左示指(CL群),残り10名は右示指(CR群)を用いた.統計学的解析は,利き手の影響を避けるために,RH群とCL群(左手使用),LH群とCR群(右手使用)間で行い,麻痺(有,無)と提示位置(0,45,90,135,180,225, 270,315°)を要因とした二元配置分散分析を行った.<BR>【結果および考察】<BR>LH群とCR群では提示位置による違いは認められなかったが,麻痺の有無による差異が認められ,LH群のRTはCR群よりも有意に遅かった.一方,RH群とCL群間では,麻痺の有無による差異は認められなかったが,刺激提示位置による違いが認められ,0°のRTよりも225,270°のRTの方が有意に速かった.これは,これまで,我々が報告した健常者におけるRTの結果と同じ傾向を示すものであった.左片麻痺患者は健常者よりも視野全体にわたってRTが遅いのに対し,右片麻痺患者のRTは健常者と差がなかったことから,脳卒中片麻痺患者の視覚的注意機能は,右片麻痺患者よりも左片麻痺患者で視野全体に対する注意機能が低下している可能性があることが示唆された.
著者
島田 裕之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.48, pp.E-17-E-17, 2021

<p> 人口の高齢化に伴い疾病構造も変化し,認知症の問題が大きくなってきている。令和元年には認知症施策推進大綱が関係閣僚会議により取りまとめられ,認知症基本法案が衆議院閉会中審査の段階に入っており,国家戦略として認知症に対する施策が推進されようとしている。認知症施策推進大綱では認知症との共生と予防を両輪として推進するとしており,認知症者や家族に対するケア,認知症の重度化予防や発症遅延の取り組みが,今後推進されることになるだろう。ただし,財源は限られているので,有効かつ効率的な対策が求められており,実証研究によるエビデンスに基づいた標準的なケアや予防のあり方を示していく必要がある。それを基盤としつつ,対象者の状況に応じた柔軟な対応ができるのは理学療法士であると考えられ,認知症分野における理学療法士の役割は大きい。</p>
著者
辻村 康彦 秋山 歩夢 平松 哲夫 三川 浩太郎 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】COPD患者が実施する歩行トレーニングを中心とした在宅呼吸リハビリテーションにおいて,歩数計を用いた活動目標設定と歩数の自己管理が,身体活動量に与える影響を検討すること。【方法】対象は,外来呼吸リハを開始するCOPD患者のうち,GOLDIII・IVで,かつm-MRC2以上,CAT10以上,計画された評価を完遂できた6例(男性4例,女性2例,平均年齢75.5±3.9歳,BMI 19.7±3.9kg・m<sup>2</sup>,m-MRCII/III:3/3例,CAT18.5±2.5,%VC75.1±19.2,%FEV<sub>1</sub>40.1±8.5,GOLDIII/IV:5/1例)とした。呼吸リハプログラムは歩行トレーニングを中心として,口すぼめ呼吸などのコンディショニングや筋力トレーニングを在宅中心で12週間継続した。この中で歩行トレーニングは,第1段階として最初の4週間は従来通りの指導(歩行スピードや時間)のみを行い,第2段階として以後8週間は,歩数計を用いた目標歩数の設定と歩数の自己確認を行い,目標に達するように努力を求めた。目標歩数は各評価時点に算出した1日の平均歩数に1000~2000歩プラスとし,患者と相談した上で決定した。歩数計の使用に関しては,呼吸リハ開始前評価時および第1段階は歩数計をパッキングし歩数を確認できないようにした。第2段階では,自己管理として午前1回,午後2回,就寝時の計4回歩数を確認するよう指示した。これら歩数計の使用に関しては,書面を用いて十分に説明を行った。プログラムの実施状況は,来院時や電話を用いて2回/月で確認を行った。検討項目は,1.息切れ問診票,2.生活のひろがり(Life-Space Assessment),3.歩数(ライフコーダー(スズケン))とし,呼吸リハ開始前,リハ後4・8・12週に評価を実施した。さらに開始時およびリハ後12週の変化につき,1.MNAフルバージョン,2.6分間歩行距離にて検討を加えた。解析は2元配置分散分析法および多重比較検定を用いて経時的変化を検討した。【結果】各項目の経時的変化は(開始前/リハ後4/8/12w),息切れ問診票:32.8/28.6/22.5/20.5,生活のひろがり:45.3/55.8/66/77,歩数:1941/2744/3903/4282歩,であり呼吸リハ開始により,全例がすべての項目・評価時点において向上を示し,開始前とリハ後8/12wおよびリハ後4wと12wに統計学的有意差を認めた。さらに,MNAフルバージョン:20/25.2,6分間歩行距離:231/320mと有意な向上を認めた。【結論】歩数計による目標設定や活動量の自己管理が,身体活動性を高めたことから,活動には明確目標を持つことが重要であることが認められた。また,長期的に見た場合,息切れや生活空間だけではなく,運動耐容能や栄養にも効果を与えることが示唆された。さらに,12wで一定の効果を示したことから,歩数計を加えた在宅トレーニングは,単に治療効果を高めるだけではなく,治療効果を得るまでの時間を短縮できる可能性があると思われた。今回の方法は,活動量の少ないCOPD患者にも有効であったことから,幅広い患者に適応できると思われる。ただし,今後症例数を増やし,さらなる検証が必要である。
著者
福留 千弥 竹内 大樹 青山 倫久 太田 夏未 中村 崇 平田 正純 綿貫 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年,超音波画像診断装置(以下,US)を用いた研究報告が盛んに行われている。理学療法の実施場面でもUSによる動態評価が用いられてきている。USによる動態評価は徒手評価では得られない体内の深層筋の動態評価も可能である。特に,体幹筋の筋機能は針筋電図よりも低侵襲で簡易的に評価の実施が可能であり,USによる臨床研究が進んでいる。しかし,USによる体幹筋の動態評価を行い,検者間信頼性を検討した研究報告は少ない。そこで,本研究はUSを用いて異なる運動課題を行い,内腹斜筋(以下,IO)と外腹斜筋(以下,EO)の動態評価における検者間信頼性を検討することを目的とした。【方法】健常成人男性4名(平均年齢:25.0歳 身長:171.5cm体重:60.5kg)を対象とした。運動課題は自動下肢伸展挙上(以下,Active SLR)と片脚ブリッジを行い,左右のIOとEOの最大筋厚を測定した。また,安静時も同様に最大筋厚の測定を行った。安静時の測定は呼吸による影響を除くため呼期終末時に測定した。最大筋厚の測定はUS(HITACHI社製 Noblus)を用い,プローブは7.5MHzのリニアプローブを使用した。測定モードはBモードとし,撮像位置は被験者の臍高位で,腹直筋鞘,IOおよびEOが描出できる位置とした。プローブは体幹に対して短軸像となるように検者が手で把持して固定した。超音波画像の撮像は3名(理学療法士2名,日体協公認アスレチックトレーナー1名)が行い,最大筋厚の計測はそのうち1名が行った。統計解析にはSPSS Ver.20を使用し,検者間信頼性には級内相関係数:ICC(2.1)を用いた。【結果】ICCは安静時においては0.44~0.73であり,中程度~良好な信頼性を得た。Active SLRにおけるICCは0.45~0.70であり,中程度~良好な信頼性を得た。片脚ブリッジのICCは0.41~0.62であり,中程度の信頼性を得た。【結論】検者間信頼性は安静時およびActive SLRは良好な信頼性を示した。一方,片脚ブリッジにおいては安静時およびActive SLRと比較し,信頼性が劣る結果となった。Active SLRよりも片脚ブリッジはIOまたはEOがより大きな筋収縮を必要とするため,測定誤差が大きくなり,信頼性に影響を与えたと考える。先行研究において,検者間信頼性が良好とする報告はプローブを固定する専用器具を製作し,プローブが一定の位置に保たれるように配慮している。しかし,臨床場面においてUSを用いて動態評価を行う際は今回の研究と同様に手で把持して固定することが多い。そのため,筋収縮の大きい運動課題の動態を臨床場面でUSを用いて異なる検者が動態評価をする際は,プローブを固定する必要があると考える。さらに,検者の撮像技術の習熟度に差があった可能性も考えられるため,検者の撮像技術についても検討が必要である。しかし,Active SLRのような筋活動の少ない運動課題では良好な信頼性を得たため,今後臨床場面で体幹筋の動態評価を行う際にUSを十分活用することが出来ると考える。
著者
千野根 勝行 佐藤 宏樹 尾崎 啓次
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】急性期など侵襲が特に強い場合,あるいは持続的な場合には迷走神経の活動が退縮しその防御機構が破綻,交感神経が過緊張を呈し主要臓器障害から多臓器不全にいたることがしばしばである。このようなクリティカルケア領域の治療手段として用いられている呼吸介助手技は,生体にとって外部からのストレッサーとなり交感神経活動の亢進を助長していないのであろうか。そこで,今回,用手的呼吸介助手技の安全性を明らかにすることを目的に,呼吸介助手技が自律神経に与える影響を検討した。【方法】対象は自律神経障害の既往がなく,薬物の服用をしていない健常学生18名(男性9名,女性9名)とした。年齢は20.9±0.7歳,身長は170±0.1 cm,体重は63.9±13.4kgであった。測定項目は心拍数,呼吸数,血圧,唾液アミラーゼ活性値,心拍変動(HRV)解析から得られる諸指標とした。測定肢位は枕のない背臥位で自由呼吸とし,十分に安静が取れた時点(安静時)から測定を開始した。その後,呼吸介助を実施(介助中)した。データは各5分間ずつ記録した。心拍数および心電図は,Daily Care BioMedical社製ポータブル心拍変動測定器チェック・マイハートを用いて測定した。血圧はオムロン・コウリン社製の自動血圧計(コーリンST-12B)を使用,唾液アミラーゼ活性値はニプロ(株)社製の唾液アミラーゼ式交感神経モニタ(COCORO METER)を使用し,安静時と介助中の各終了30秒前に呼吸数とともに測定した。解析方法は,チェック・マイハートHRV解析ソフトウェアを用いてRR間隔を自動算出した後,波形の誤認識をマニュアルで校正した。HRVの周波数解析は,超低周波数成分(VLF),低周波数成分(LF),高周波数成分(HF)とした。LF/HFを交感神経活動,HFを副交感神経活動の指標とし,正規化(normalized unit,以下nu)して自己回帰(AR)法で分析した。また,RR間隔については,ローレンツプロット法を用いて解析し,Toichiら(1997)が示したL(対称軸方向の広がり)とT(対称軸を横切る方向の広がり)から,L/Tを交感神経の指標,log(L×T)を副交感神経の指標として比較検討した。統計解析はSPSS ver.21(IBM社製)用い,安静時と介助中のHF成分,LF/HF比,唾液アミラーゼ活性値,血圧,呼吸数の各測定値の比較をWilcoxonの符号付き順位検定で行った。また,各測定値の相関をspearmanの順位相関で求めた。いずれも有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,演者所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:414)。対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨に沿い,本研究の目的,方法,期待される効果,不利益が生じないこと,および個人情報の保護について説明を行い,書面にて研究参加への同意を得た後に実験を実施した。【結果】実験中に不整脈など著明な症状を示すものはなかった。また,各指標の性別による差は認めなかった。心拍数(bpm),拡張期血圧・平均血圧(ともにmmHg),唾液アミラーゼ活性値(kIU/L)はそれぞれ,66.3±8.7と65.3±8.2,66.1±8.1と64.8±8.2,83.6±8.9と83.0±8.6,44.8±26.8と42.2±17.9であり,いずれも有意な変化はなかった。呼吸数(回)は,14.1±2.9と9.7±1.6,収縮期血圧(mmHg)は118.3±2.4と114.9±11.8で有意に減少した。HRV周波数解析の変化ではHF成分・LF成分(nu),LF/HFはそれぞれ,51.2±12.9と47.6±21.1,48.8±12.9と52.4±21.1,1.1±0.6と1.7±1.7であり,いずれも有意な変化はなかった。log(L×T)は3.4±0.2と3.5±0.2で,介助中でより有意に増加した。自律神経の各指標の関連では,安静時のHFとlog(L×T)はかなりの正の相関を認めた(r=0.55 p<0.05)。安静時のLF/HFは安静時L/Tとかなりの負の相関を認めた(r=0.56 p<0.05)。介助中のHF.とlog(L×T),介助中のLF/HFとL/T,唾液アミラーゼ活性値に有意な相関はなかった。【考察】用手的呼吸介助手技は収縮期血圧を下げ,log(L×T)がより有意に増加したことから,従来の報告と同様に呼吸数をコントロールしたことで交感神経の活動を高めず,副交感神経を賦活したものと考えられた。また,唾液アミラーゼ活性値やHRV周波数解析パワースペクトル分析よりもローレンツプロット法は感度が高いことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】用手的呼吸介助手技は,交感神経が緊張を示すクリティカル領域の理学療法実施におけるリスク管理の観点から,少なくとも健常成人において副交感神経を賦活させる安全な手技であることが示唆された。心拍(脈拍)数の変動を解析することで,Vital signとしての全身モニタリングとして応用できる可能性を示した点で意義がある。
著者
寺田 勝彦 藤田 修平 田端 洋貴 脇野 昌司 井上 美里 中前 あぐり 小尾 充月季 辻本 晴俊 中村 雄作
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ac0400, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 脊髄小脳変性症(Spino-cerebellar degeneration:SCD)の立位・歩行障害の改善には,体幹の前後動揺,体幹・四肢の運動失調によるバランス障害,脊柱のアライメント異常による歩行のCentral pattern generator(CPG)の不活性化に対応した多面的アプローチ(the multidimensional approach:MDA)が必要である.今回,SCDの立位・歩行障害へのMDAの有効性について検討した.【対象および方法】 当院の神経内科でSCDと診断され,磁気刺激治療とリハビリテーション目的に神経内科病棟に入院した40例である.無作為に,従来群(the conventional approach group:CAG)20例(MSA;5例,SCA6;12例,SCA3;3例),多面的アプローチ群(MDAG)20例(MSA;8例,SCA6;8例,SCA3例;ACA16;1例)に分別した.CAGでは,座位・四這位・膝立ち・立位・片脚立位でのバランス練習,立ち上がり練習,協調性練習,筋力増強練習,歩行練習を行なった.MDAGでは,皮神経を含む全身の神経モビライゼーションと神経走行上への皮膚刺激,側臥位・長座位・立位・タンデム肢位での脊柱起立筋膜の伸張・短縮による脊柱アライメントの調整,四這位・膝立ち.立位およびバランスパッド上での閉眼閉脚立位・閉眼タンデム肢位での身体動揺を制御したバランス練習,歩行練習を行なった. 施行時間は両群共に40分/回,施行回数は10回とした.評価指標はアプローチ前後の30秒間の開眼閉脚・閉眼閉脚・10m自立歩行可能者数,10m歩行テスト(歩行スピード,ケイデンス),BBS,ICARSの姿勢および歩行項目,VASの100mm指標を歩行時の転倒恐怖指数とし,両群の有効性を比較検討した.統計分析はSPSS for windowsを用い,有意水準はp<.05とした.【説明と同意】 本研究に際して,事前に患者様には研究の趣旨,内容および調査結果の取り扱い等を説明し同意を得た.【結果】 CAGの開眼閉脚の可能者数は13例(65%)から14例(70%)(p<.33), 閉眼閉脚は7例(35%)から9例(45%)(p<.16),10m自立歩行は14例(70%)から14例(70%)(p<1.00)と有意差は認められなかった.MDAGでは,開眼閉脚が14例(70%)から20例(100%)(p<.01),閉眼閉脚が6例(30%)から14例(70%)(p<.002),10m自立歩行が12例(60%)から20例(100%)(p<.002)と有意に改善した.CAGの歩行スピード(m/s.)は,0.56±0.24から0.69±0.28(p<.116),ケイデンス(steps/m.)は101.4±20.2から109.8±13.3(p<.405)と有意差は認められなかった.MDAGの歩行スピードでは,0.69±0.21から0.85±0.28(p<.000),ケイデンスは110.6±13.6から126.6±22.4(p<.049)と有意に改善した.CAGのBBS(点)は33.2±14.6から37.4±14.0(p<.01),ICARS(点)は17.2±7.9から15.4±8.5(p<.000)と有意に改善した.MDAGのBBSでは,30.0±9.1から40.9±6.8(p<.000),ICARSは16.1±4.9から9.4±3.0(p<.000)へと有意に改善した.CAGのVAS(mm)は55.7±28.1から46.3±29.0(p<.014)と有意に改善した.MDAGのVASでは72.4±21.6から31.4±19.4(p<.000)へと有意に改善した.また両群で有意に改善したBBS・ICARS・VASの改善率(%;アプローチ後数値/アプローチ前数値×100)は,CAGでは順に,15.2±17.3,15.0±18.0,22.1±44.3,MDAGでは33.1±17.3,43.7±9.9,59.2±21.7と,それぞれにp<.03,p<.001,p<.002と,MDAGの方が有意な改善度合いを示した.【考察】 今回の結果から,磁気治療との相乗効果もあるが,MDAGでは全ての評価指標で有意に改善し,BBS・ICARS・VASでの改善率もCAGよりも有意に大きく,立位・歩行障害の改善に有な方法であることが示唆された.その理由として,SCDでは体幹の前後動揺,体幹・四肢の運動失調による求心性情報と遠心性出力の過多で皮神経・末梢神経が緊張し,感覚情報の減少や歪みと筋トーンの異常が生じる.皮神経を含む神経モビライゼーションで,皮膚変形刺激に応答する機械受容器と筋紡錘・関節からのより正確な感覚情報と筋トーンの改善が得られた.また神経走行上の皮膚刺激で末梢神経や表皮に存在するTransient receptor potential受容体からの感覚情報の活用とにより,立位・歩行時のバランス機能が向上したといえる.その結果,歩行時の転倒恐怖心が軽減し,下オリーブ核から登上繊維を経て小脳に入力される過剰な複雑スパイクが調整され小脳の長期抑制が改善された事,脊柱アライメント,特に腰椎前彎の獲得により歩行のCPGが発動され,MDAGの全症例の10m自立歩行の獲得に繋がったといえる.【理学療法研究としての意義】 SCDの立位・歩行障害の改善には確立された方法がなく,従来の方法に固執しているのが現状である.今回のMDAにより,小脳・脳幹・脊髄の細胞が徐々に破壊・消失するSCDでも立位・歩行障害の改善に繋がったことは,他の多くの中枢疾患にも活用し得るものと考える.
著者
寺田 勝彦 藤田 修平 田端 洋貴 脇野 昌司 松本 美里 中前 あぐり 辻本 晴俊 菊池 啓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3P3179, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】脊髄小脳変性症(SCD)では,立位保持および歩行障害が在宅生活での支障となる.現状においても,フレンケル体操,重り負荷法,弾力包帯装着などが行なわれている.今回,SCD患者への立位保持および歩行障害への介入法を,模索・検討したので報告する.【対象】本院の神経内科にてSCDと診断された10例(平均年齢63才,男性5例,女性5例,多系統萎縮症;5例,SCA6;2例,SCA2/SCA4/遺伝性SCD;それぞれ1例).【介入法】SCDでは,立位・歩行時に,開脚や身体の前後動揺が見られる.開脚位では骨盤が挙上位となり,歩行時の平衡機能の安定を図る下腿三頭筋の伸張反射の抑制や倒立振子モデルに必要な骨盤の上下運動が阻害される.また身体の前後動揺では,体性感覚の情報のずれによる運動感覚の錯覚を生じ,同時に遠心性コピーをも歪め,立位保持・歩行を困難にする.歩行の交互リズムの獲得には,Central Pattern Generator (CPG)を駆動する必要がある.CPGを形成する神経回路にはFlexion Reflex Afferents(FRA)からの情報を受容する介在ニューロン群の活動が必要となる.介在ニューロン群の活動には,FRAを伝導する皮膚,関節の圧・触覚受容器などの興奮性入力が必要である.そして重力下における姿勢調整にとって,頚筋を含めた固有背筋のコントロールは極めて重要である.以上の観点を考慮し,仰臥位,側臥位(ステップ肢位),長座位,四つ這い位,膝立ち位,バランスパッド上での開閉眼での閉脚立位・タンデム立位において,脳神経・末梢神経・頭頸部および四肢の皮神経,体幹の脊髄神経後枝の内外側皮枝からの伸張により,体幹動揺・骨盤挙上の改善と頚筋を含めた固有背筋のコントロールを行い,立位保持および歩行障害の改善に繋げた.実施回数は10回,一回の施行時間は40分であった.なお介入の実施を行なうにあたり,全患者の同意を得た.【Outcome Measures】 International Co-operative Ataxia Rating Scale (ICARS)の姿勢および歩行項目,10m自立歩行者数,最大歩行速度,ステップ数,歩行時のBalance Efficacy Scale(BES),Berg Balance Scale(BBS),静止立位時の重心動揺,閉眼閉脚立位(30秒)可能者数を介入前後で比較した.【結果】ICARSの姿勢および歩行項目,10m自立歩行者数,最大歩行速度,ステップ数,歩行時のBES,BBSで有意差を示した.しかし静止立位時の重心動揺,閉眼閉脚立位(30秒)可能者数では,有意差を示さなかった.【考察】今回の介入法において,筋に存在する筋紡錘,腱に存在するゴルジ腱器官,皮膚および関節に存在する機械受容器からの体性感覚入力の過多になっているSCDにおいて,緊張の亢進している脳神経・末梢神経・頭頸部および四肢の皮神経,体幹の脊髄神経後枝の内外側皮枝をコントロールすることで,各動作での姿勢共同運動や脊髄の運動制御の獲得が得られ,SCDの立位姿勢調節や歩行能力の向上に寄与したといえる.
著者
横川 正美 野本 あすか 佐々木 誠 三秋 泰一 井上 克己 洲崎 俊男 立野 勝彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0572, 2007

【目的】消化器系への血流分布や交感神経系の活動は、運動時と食後とでは対照的であり、食後の運動療法では時間帯や方法を考慮する必要がある。本研究では食後経過時間の違いが中等度運動時の代謝および心拍血圧反応に及ぼす影響を検討した。<BR>【方法】対象は研究内容について同意の得られた健常男性12名であった。運動は3分間のウォーミングアップの後、各自の60% peak Vo2強度の負荷量で15分間、自転車こぎ運動を行った。運動は食後30分後に行う「A条件」と、食後2時間後に行う「B条件」の2条件を設けた。2条件の測定順序はランダムとし、7~14日間の間隔を空けて別の日に測定した。対象者は測定前日夜より12時間以上の絶食とし、測定当日は午前中に食事摂取と運動行った。食事は市販されているカレーライス (500g、571kcal相当)を用いた。その主な栄養成分は糖質 114.5g、タンパク質 14.1g、脂質6.3gであった。食事の際の水分摂取は200-400mlの範囲であった。運動中は酸素摂取量、ガス交換比(R)、心拍数、酸素脈、収縮期血圧、拡張期血圧(DBP)、二重積を測定し、安静時、運動開始5分、10分、15分の値を算出した。統計学的分析は、Bonferroniの方法で条件内と条件間で各測定項目の平均値の比較を行った。<BR>【結果】条件内の比較では2条件ともに、DBP以外のすべての測定項目で運動中の値は安静時に比べて有意に増加していた(すべてp<0.001)。DBPは、A条件では安静時との間に有意差が認められた運動時間はなかった。運動開始15分は5分よりも有意に低く(p<0.05)、安静時よりも低値であった。B条件のDBPは運動開始5分が安静時よりも有意に高く(p<0.05)、5分以降は下降し、15分は10分よりも有意に低かった(p<0.05)。RはA条件では運動開始5分が1.086±0.052と最も高く、10分、15分と時間経過に従い低下し、すべての組み合わせで有意差が認められた(p<0.05)。B条件では運動開始5分が1.068±0.046と最も高く、10分、15分では5分よりも有意に低値を示した(いずれもp<0.001)が、10分と15分の間には有意差はなかった。条件間の比較では、Rの運動開始10分の時点にのみ有意差が認められ、B条件がA条件よりも低値であった(p<0.05)。<BR>【考察】今回の結果から、食後30分では運動初期に消化器系血管床の反応遅延や糖質代謝優位の影響により、食後2時間に比べて運動定常状態に至るまでに遅れが生じていることが示唆された。本研究では3分間のウォーミングアップを行ったが、食後十分な休憩をとらない時間に運動を行う場合、十分なウォーミングアップがより重要となると考えられた。
著者
桜田 由紀子 對馬 均
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1456, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに】草取り作業は,農村部に居住する高齢者の生活時間の中で大きな割合を占めている。この草取り作業では,長時間に渡って前屈・しゃがみ姿勢をとるため,腰や膝関節など身体面への負担や悪影響が危惧される反面,屋外作業での爽快感や達成感,役割を果たした充実感等を得る心理・社会的な効果も期待される。このような草取り作業を,身体機能の低下している在宅高齢者が行なうことについて考える場合,理学療法士として身体的影響を考慮して作業中止を勧めるべきか,心理的効果を期待して継続を見守るべきか大いに迷うところであるが,今のところ,指導の拠りどころとなるような研究は見当たらない。本研究の目的は,地域在住高齢者の草取り作業について横断的に調査し,高齢者の草取り作業の実態を,活動内容・身体機能面・心理社会面から明らかにすることである。【方法】対象は草取り作業を行っている地域在住の女性高齢者で,通所リハビリテーションを利用する要介護・要支援者10名(平均年齢82.0±4.9歳,以下デイケア群),地域支援事業に参加する一般高齢者12名(平均80.9±4.0歳,以下地域支援群),地域の老人クラブに所属する活動的な元気高齢者10名(平均年齢75.2±3.9歳,以下老人クラブ群)とした。日常生活における介助の有無,歩行補助具等の使用については問わないものとしたが,要介護認定を受けていたのはデイケア群の10名のみで(要介護2が1名,1が4名,要支援2が3名,1が2名),このうち9名が移動に歩行補助具を使用していた。調査項目は,①一般的情報(家屋状況,同居家族状況等),②草取り作業実態調査(頻度,時間,草取り作業時の痛み発生経験),③膝・腰の状態(VASによる自覚的疼痛評価,整形外科疾患,骨折歴等),④身体計測(身長,体重,膝関節可動域,両膝顆間距離,両果間距離,円背度,骨密度)とした。統計処理にはSPSS 13.0Jを使用し有意水準を5%として解析を行なった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,演者が所属する大学院の倫理委員会の承認を受けた上,対象に研究の趣旨を文書ならびに口頭で説明し,研究への参加について書面にて承諾・同意を得た。【結果】家屋環境では全員が一軒家の持ち家に居住し,庭,畑あるいはその両方を所有していた。同居家族のいない独居者はデイケア群4名,地域支援群1名,老人クラブ群2名であった。同居家族がいても自分以外に草取りをする人がいないと答えた者はデイケア群3名,地域支援群8名,老人クラブ群6名であった。1回あたりの草取り作業時間の全体平均は3.0±1.0時間,1週間の作業日数の全体平均は3.0±1.5日であった。3群間の比較では,作業時間・日数のいずれも老人クラブ群で低い傾向がみられた。草取りとからだの痛みに関する質問では,草取りで腰や膝が痛くなったことが「何度もある」と答えた者はデイケア群7名,地域支援群9名,老人クラブ群4名であった。疼痛発生回数により0~3回群と「何度もある」群に分けて比較したところ,作業時間,日数とも有意差を認めなかった。骨密度を若年成人平均値に対する割合でみると,デイケア群(平均56.0±14.7%),地域支援群(平均67.4±10.9%)より老人クラブ群(平均79.1±12.8%)の方が有意に高かった。両膝顆間距離についてはデイケア群が他の2群より有意に大きく,膝関節伸展制限については地域支援群が他の2群より有意に大きかった。また全対象を両膝顆間距離の平均以上群と未満群とで比較したところ,平均以上群では未満群に比較して年齢および作業日数(ともにp<0.05),作業時間のいずれも高い傾向を認めた。【考察】在宅高齢者を身体機能や活動性の違いから3つの群にわけて草取り作業実態を調査した。3群間の比較において,デイケア群では歩行補助具使用者が多く,骨密度が低下し,膝の変形が進んでいるにも関わらず,草取りの時間・日数とも他群と有意差がなかった。加齢とともに身体機能が衰えた高齢者も行っている作業であるということが明示された。また,草取りが原因での腰痛・膝痛の発生回数が多くても作業時間,日数に有意差が見られなかったことから,痛みが緩和すれば疼痛発生以前と同様の作業を行っている高齢者が多いと考える。一方,両膝顆間距離が大きい者ほど,草取りに費やす作業時間が長く日数が多い傾向が認められた。これは,頻回で長時間の草取りが膝の変形に影響を及ぼしている可能性を示唆する。以上のことから,身体機能が衰えた高齢者の草取りに対しては痛みの発生等に伴って作業時間,頻度を減少させていくような指導が必要と考える。【理学療法研究としての意義】本研究は理学療法士が,高齢者の草取り作業実態を把握しその身体的影響を知る意味で有意義と思われる。
著者
楠本 泰士 松尾 篤 高木 健志 西野 展正 松尾 沙弥香 若林 千聖 津久井 洋平 干野 遥
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】日本では脳性麻痺に対する痙性の治療として,筋解離術や関節整復術などが行われてきた。現在では選択的痙性コントロール術として,脳卒中後後遺症患者や痙性麻痺を呈する様々な疾患の方々に応用されている。当院は痙性麻痺に対する整形外科的手術を行う数少ない専門病院であり,手術件数は年間250件以上と日本最多である。しかし,痙性麻痺に対する整形外科的手術の認知度は,発達障害領域では比較的高いが,その他神経系の領域では低い。また,発達障害領域であっても手術部位によって,手術の効果に関する認識に大きな差がある。これら認識の差は,術後理学療法を受ける患者や手術適応の患者にとって不利益となる。そこで本研究も目的は,当院における手術部位と対象者を調査し,痙性麻痺に対する整形外科的手術の変遷と新たな取り組みについて検討することとした。【方法】平成16年から平成25年までの10年間の手術件数と手術内容を調査し,対象疾患ごとに手術の傾向を調査,分析した。【結果と考察】過去10年間の総手術件数は2301件で,平成18年以降は年間200件以上の手術件数を維持していた。平成16年の手術対象者の内訳は脳性麻痺患者が89件,脳卒中後後遺症患者が14件,その他が7件,平成25年の手術対象者の内訳は脳性麻痺患者が210件,脳卒中後後遺症患者が40件,その他が14件と脳卒中後後遺症患者の手術件数が徐々に増えていた。また,脳性麻痺患者の手術部位では,上肢や頚部,体幹の手術件数が年度ごとに増加していた。手術部位が疾患によって異なっていたことより,障害別の運動麻痺の程度や二次障害による問題に違いがあると考えられる。上肢と体幹の手術件数が増えていたことから,手術技術の向上や患者の機能改善への期待が関与していると思われる。理学療法士として,痙性麻痺に対する整形外科的手術の効果と限界を把握し,日々の臨床に努める必要がある。
著者
壇 順司 池田 真人 神吉 智樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100248, 2013

【はじめに】クライマーは,様々な形状のホールドを把持し自重を支えることで指にかなりの負担がかかるため,指の関節可動域(以下ROM)制限ひきおこすことが多いが,その原因についてはまだよく解明されていない.今回クライマーの指の筋力とROMを調査し,さらに前腕の筋の構造からROM制限を起こしやすい指とその原因を考察し,予防法を考案したので報告する.【方法】対象は,クライマー群(以下C群):中級レベル以上のクライマー男性74名(年齢30.2±7.4歳),一般群:クライミング経験のない一般男性40名(年齢23±2.3歳)であった.深指屈筋と浅指屈筋の形態は,2007年熊本大学医学部で解剖された解剖実習体23体左右46肢を用いた.筋力は指の保持力をみるために,2~4の各指で,デジタル握力計(竹井機器工業社製)を頭上で垂直に固定し,そのグリップ部を下方に引くようにして測定した.その後,対象者の体重で除して体重比を算出した.またROMは,2~4指までのDIP,PIP,MP関節(以下DIP,PIP,MP)の屈曲と伸展を指用ゴニオメーターにて測定した.統計解析は,対応のないt検定と多重比較検定を用いた.解剖は深指屈筋と浅指屈筋を剖出し,各指の腱に対応する筋束の数を分類した. 【説明と同意】対象者に,事前に研究目的および内容を説明し同意を得たうえで実施した.また解剖は2007年に熊本大医学部の教授に研究の目的・方法を説明し,許可を得て調査を行った.【結果】筋力は,C群(右2指0.25±0.5,3指0.34±0.9,4指0.22±0.6,左2指0.25±0.6,3指0.34±1.0,4指0.23±0.6)と一般群(右2指0.17±0.4,3指0.22±0.5,4指0.18±0.4,左2指0.16±0.3,3指0.19±0.5,4指0.17±0.4)の各指では,左右ともにC群が有意に強かった(p<0.05).C群では,左右ともに3指が他指よりも有意に強かった(p<0.01).ROMは,全ての関節・運動方向においてC群が有意に小さかった(p<0.05).またC群における左右差はなかった.C群の各関節の屈曲ROMの比較では,右DIPでは,2指72.9±8.4°,3指66.3±8.8°,4指70.5±10.6°であり,左DIPでは,2指74.7±6.8°,3指64.9±15.9°,4指70.9±11.4°で3指が有意に小さかった(p<0.05).右PIPでは,2指99.6±3.2°,3指95.3±8.2°,4指98.2±4.1°であり,左PIPでは,2指99.9±3.1°,3指92.3±8.6°,4指99.3±4.7°で3指が有意に小さかった(p<0.05).右MPでは,2指91.9±8.5°,3指95.3±7.6°,4指96.6±7.5°であり,左MPでは,2指92.4±8.3°,3指95.8±7.2°,4指96.5±7.2°で差はなかった.各関節での伸展に差はなかった.深指屈筋は,2指と3~5指の2筋束(32%)と2指,3指,45指の3筋束(68%)の2タイプであった.浅指屈筋は,全てにおいて25指,3指,4指の3筋束の1タイプであった.またその中でも3指の筋腹が最も大きかった. 【考察】クライミングは,ホールドを把持するときに指に全体重がかかることが多々ある.よって指の屈曲保持に関与する筋は常に最大筋力を発揮する環境にあるため,筋力は向上しやすいと考えられる.特に浅指屈筋の3指の筋腹が大きいことや深指屈筋3指が分離しているタイプが多いことから,3指は使いやすく最も力が入る指であり,他指よりも筋力が強いと推察される.また,3指のDIP,PIPの屈曲制限は,浅指・深指屈筋を過剰に使用することで,これらの腱が腱鞘A2pully(以下,A2)を掌側方向への正常圧を超えてストレスを与え,A2の炎症により腱鞘内で腱の滑走不全を生じさせると考えられる.また,掌側方向への腱が骨より離れる力は,PIPの位置にある腱鞘A3pully(以下,A3)へのストレスとなる.A3はPIPの掌側版に付着しており,これにも掌側方向への牽引ストレスが加わり,炎症・柔軟性の低下が生じ,PIP屈曲時に掌側版が基節骨と中節骨に挟まることで,屈曲制限が生じていると推察される.DIPも同様の理論で屈曲制限が生じていると考えられる.クライマーは,基本的に安静や休息をあまり取る傾向に無いため,腱鞘や掌側板にかかる負担を軽減する方法を考案した.ホワイトテープを指の幅に合わせて裂き,約40cmの長さを準備する.まず,その一部を利用し指関節を軽度屈曲位に保持した状態で,指の掌側基部から爪部にかけてテープを貼る.次に残りのテープをPIP掌側部でクロスしながら,屈曲位を保つように巻く.最後に初めに貼ったテープをDIPより遠位の部分で切る.これにより腱が腱鞘にかける負担を軽減でき,指の痛みやROM制限の予防に繋がると考えられる.【理学療法学研究としての意義】スポーツ障害を治療・予防するためには,スポーツの特性を理解し,障害部位の身体内部の構造より原因を追及し,それに基づく治療・予防法を考案する必要がある.指の詳細な解剖学的構造を踏まえた予防方法を伝えていくことは,理学療法士の役目であり,研究していく意義があると考える.
著者
安岡 良訓 梅本 安則 児嶋 大介 木下 利喜生 星合 敬介 大古 拓史 坪井 宏幸 谷名 英章 橋崎 孝賢 森木 貴司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Aa0126, 2012

【はじめに】 運動負荷が糖代謝,脂質代謝へ影響を与える機序として,骨格筋の収縮により産生されるインターロイキン-6(IL-6)が重要な役割を果たしていると報告されている.IL-6はこれまで炎症性サイトカインとして知られていたが,運動によるIL-6上昇は,TNF-αなどの炎症性サイトカインの上昇なしに,IL-1raやIL-10等の抗炎症サイトカインの上昇を導くことが報告されている. これまで,健常者ではランニング,自転車エルゴメーターや膝伸展運動で血中IL-6濃度が上昇したと報告され,IL-6の骨格筋からの分泌には,ある程度の運動時間と強度が必要とされている. 運動を連続して行うためにはスポーツへの関与が望ましく,その中でもゴルフは長時間の運動が可能であり,歩行を中心とした中等度の活動量が得られることが報告されている.この事からゴルフによる運動でIL-6上昇が予測されるが,これまでゴルフラウンドによるIL-6動態に関する報告はない.そこで我々は,18ホールのゴルフラウンドが血中IL-6濃度に変化を与えるがどうかを検証する目的で実験を行った.【方法】 被検者は健常者9名(平均年齢31.1±4歳,平均±SD)とし,除外基準は糖尿病の既往,心疾患,進行性の疾患,骨関節疾患を有する者とした.被検者は実験室に到着した後,心拍数をモニターする為の無線測定器を装着し,30分の安静座位をとった.その後,血中IL-6濃度,血中TNF-α濃度,hsCRP,ミオグロビン,CK,アドレナリン,白血球分画,HCTを測定するため採血を行った.採血後,被検者はこちらで用意した朝食を摂取した. その後,被検者は18ホールのゴルフラウンドを行った.ラウンド中,被検者は歩いて移動し,ゴルフバック,クラブ等は電動カートを使用し搬送した.ラウンド中の飲食はこちらで用意したスポーツドリンクのみとした.ラウンド終了後,直ちに採血を行った.その後,安静座位をとり,1時間後に再び採血を行い実験を終了した.統計学的検討には,ANOVAを行い,post hocテストとしてSheffe's testを用い,有意水準5%未満を有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は倫理委員会の承認を得た上で行った.被験者には実験の目的,方法および危険性を書面と口頭で十分に説明し,実験参加の同意を得て実験を行った.【結果】 全被検者は18ホールのゴルフラウンドを終了し,所要時間は303±4.3分であった.ラウンド中の平均心拍数は安静時と比較して有意な上昇を認め,回復1時間後で安静レベルへ戻った.血中IL-6濃度は安静時と比較し,ラウンド終了後で有意に上昇し,回復1時間後でもその上昇は維持した.ミオグロビン,CK濃度もラウンド終了後に有意な上昇を認め,回復1時間後で上昇を維持した.血中TNF-α濃度,hsCRP濃度に変化はなかった.白血球,単球数はラウンド終了後に有意な上昇を認め,ラウンド1時間後もその上昇は維持された.アドレナリンは実験を通して変化はなかった.HCTはラウンド終了後に変化はなく,回復1時間後で低下した.【考察】 IL-6濃度が上昇した要因に関して,本実験ではミオグロビン,CK濃度に上昇が認められるものの,TNF-α,CRP濃度に変化を認めなかった.この事から炎症性カスケードによるIL-6上昇の可能性は低いと考えられる.またアドレナリン濃度が変化しなかった事から,骨格筋のアドレナリン刺激によるIL-6mRNA転写促進の可能性も低いと考えられた.さらに,単球数の上昇を認めているが,先行研究において運動による末梢血単球数の上昇はIL-6濃度に関与しないことが報告されており,IL-6濃度の上昇が単球由来である可能性も否定的である.よって,本実験のIL-6濃度の上昇は,骨格筋の収縮によって誘発されるといった過去の報告を支持する. 筋収縮に由来する血中IL-6濃度の上昇は,運動強度と時間,活動筋肉量に関連があると言われている.ゴルフは18ホールのラウンドで約7km歩き,その歩数は10,000歩以上になると報告されている.我々の知る限り,歩行を運動方法としたIL-6濃度の上昇は,運動後変化しないか上昇しても約1.5倍程度である.今回,ラウンド終了後の血中IL-6濃度は安静時の約7倍の濃度を認めた.これは18ホールのゴルフラウンドが,骨格筋からIL-6を誘発するには十分な時間と強度であった事が考えられる. 本実験により,18ホールのゴルフラウンドを行うことで,TNF-αの上昇なしに血中IL-6濃度が上昇することが証明された.ゴルフラウンドはIL-6上昇の観点から,炎症を誘発せずに行うことが出来る有益な運動方法であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 運動が身体に及ぼす影響を科学的に調査し,新たな知見を得ることは,健康の維持・増進に関して、リハビリテーション医学の貢献に寄与するもだと考える.
著者
薄 直宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G2S2036, 2009

【目的】臨床教育実習生(以下実習生)が臨床教育実習(以下実習)期間中にどのような事を考え実習に向き合っているのか、その心理を明らかにすることを目的に調査、研究を行った.<BR>【方法】対象は、平成20年4月から9月まで当院にて実習を行っていた実習生3名(男性2名 女性1名 平均年齢28.7歳)とし非構造面接を実施した.初回の質問は「当院での臨床実習はいかがでしたか?」とした.面接は、実習最終評価を行った後に施行した.場所は、個室を使用し面談内用をICレコーダーにて録音した.得られたデータは、グラウンデッド・セオリー・アプローチの手法に沿って継続的比較分析を行った.なお本調査、研究を行うに当たり、趣旨説明をし、すべての対象者から同意を得た後に面接を施行した.<BR>【結果】<BR>実習生は実習開始当初には、施設内のルールを把握することに努めると共に実習指導者や各スタッフのキャラクターを理解しようとしている姿勢がうかがえた、その背景には自分を理解してもらうことで実習が円滑に運ぶと考えているが、過度な低姿勢によってストレスを感じることも十分のあることがわかった.また充実している実習とは実習生自身が学び、考えることが尊重されていると実感していることが要素としてあがり、指導者の的確なフィードバックでより自信を強めていることがわかった.また、実習当初はその環境にとまどいながら実習を進めていくが、実習生は指導者や各スタッフの言動や立ち振る舞いを真似てその施設に馴染んでいく傾向がみられことも分かった.<BR>【考察】<BR>指導者との円滑なコミュニケーションには共通の言語として担当患者の存在は大きく、ケースを担当することで自分の意見を表出することが出来るとより指導者、学生間のコミュニケーションが図りやすいと考えられる.また、真似るという行為は患者治療を行う際にもみられ現在各養成校で取り入れられている模擬患者養育は有効であると考えられるが、言動(声のトーンや患者との会話)や患者との距離感も模擬患者教育で取り入れることが出来るのであればより充実した実習が行えるのではないと考える.
著者
太田 恵 小川 智美 遠藤 正樹 森島 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100446, 2013

【目的】近年の学生の一部には、教育上無視できないコミュニケーションスキルやソーシャルスキルの低さが認められる。それらの能力不足は、臨床実習で不合格になる要因になり得るが、学力とは必ずしも相関しないため、学科試験だけで見抜くことは難しい。そこで本研究では、入学試験時における面接試験の成績とその後の臨床実習の成績との関係を明確にし、入学直後からの学生指導の可能性を検討した。【対象と方法】平成18年度から21年度までに当校に入学した者のうち、臨床実習より以前に退学した者および現在の在校生を除外した190名(男性136名、女性54名、平均年齢25.9±6.3歳)を解析対象とした。当校では、入学試験において、口頭試問および集団面接の二種類の面接試験を実施している。前者は、3名から4名の受験者に対し、試験官である教員が一人ずつに質疑を行う形式である。一方後者は、8名から10名の受験生がグループになり、他の受験生と提示された課題を進めていく形式で、他者との関わりを見るものである。それぞれ3名から5名の教員が試験官となり、服装・言葉使い・積極性・適正・対人適応等の観点から 1点(非常に悪い)から4点(非常に良い)の段階評価を行なった。複数回受験している者に関しては、最後の試験の成績を採用した。全試験官の評定がいずれも3点以上だった群85名(入試高位群: 男性56名、女性29名、平均年齢24.4±5.3歳)と2点以下の評定が付いた群105名(入試低位群: 男性80名、女性25名、平均年齢27. 2±6.8歳)に分けた。各群において、臨床実習で合格した者(実習合格者)、学生自ら臨床実習を中止した者(実習中止者)、臨床実習指導者の判断で不合格となった者(実習不合格者)について、それぞれオッズ比を算出し、Fisher直接確率検定を用いて解析した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本校は倫理委員会設置しておらず、同等の権利を持つ組織の承認を得て実施した。尚、個人を特定するようなデータは含まれていない。【結果】入試高位群は、実習合格者68名、実習中止者6名、実習不合格者11名であった。それに対して入試低位群は、実習合格者69名、実習中止者5名、実習不合格者31名であった。実習中止者については群間で有意差はなかったが、実習不合格者については、入試低位群は入試高位群と比較しオッズ比2.777(95%信頼区間1.292-5.969) と高値を示した。また実習合格者137名のうち、いずれの形式の面接でも3点以上だった者が68名(男性42名、女性26名、平均年齢24.7±4.9歳)、口頭試問のみ2点以下だった者が10名(男性5名、女性5名、平均年齢25.3±6.5歳)、集団面接のみ2点以下だった者が34名(男性25名、女性9名、平均年齢26.2±4.8歳)、いずれの形式の面接でも2点以下だった者が25名(男性20名、女性5名、平均年齢28.0±8.3歳)であった。しかし、実習不合格者42名では、いずれの形式の面接でも3点以上だった者が11名(男性9名、女性2名、平均年齢22.5±5.0歳)と少なく、口頭試問のみ2点以下だった者が4名(男性2名、女性2名、平均年齢27.8±10.4歳)、集団面接のみ2点以下だった者が12名(男性12名、女性0名、平均年齢27.7±8.5歳)、いずれの形式の面接でも2点以下だった者が15名(男性11名、女性4名、平均年齢29.0±6.7歳)と多かった。【考察】臨床実習では、理学療法士になるために必要な知識や技術は勿論だが、医療従事者や社会人としての姿勢や資質も要求される。本研究により、面接試験で成績不良だった学生には実習不合格者が多いことが示された。このことから、入学試験時の面接試験は、学生の臨床実習における問題点を早期に把握する上で有効な手段だといえる。また入学試験で一般的に行われている口頭試問だけでなく、集団面接を合わせて実施することにより、問題点をより明確に抽出できると考える。今後は学生の問題点を早期に把握するだけでなく、臨床実習を念頭に置き、入学当初からどのような学内教育に取り組んでいくのが有効なのか、検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 入学試験において面接試験を実施して教員が評価することで、学力以外の問題点に対しても、臨床実習に向けてより早期から指導をすることが可能になると考える。
著者
藤本 智久 皮居 達彦 田中 正道 石本 麻衣子 大谷 悠帆 久呉 真章 大城 昌平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>近年,新生児のケアにディベロップメンタルケア(DC)が導入されてきており,本邦でも日本DC研究会が中心となりNIDCAP(Newborn Individualized Developmental Care& Assessment Program)を普及するべく活動がなされ,現在,日本でも13名の国際NIDCAP連盟が認定するNIDCAP Professionalが誕生している。NIDCAPは,Alsが開発した赤ちゃんの行動を根拠とした新生児のケアを提供するプログラムであり,赤ちゃんと家族を中心としたケアを推進していくものである。現在,当院でも2名(PT,Ns)のNIDCAP Professionalがおり,NIDCAPを展開している。また,NIDCAPの効果についての報告は,海外では散見されるが,本邦ではNIDCAPの効果について検討した報告はない。今回,NIDCAPの効果を修正6か月前後の発達指数を用いて比較検討したので報告する。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は,2013年以降に出生し当院NICU,GCU入院し,修正6ヶ月前後で新版K式発達検査2001が実施できた超低出生体重児17名(平均出生体重706.6±181.8g,男性6名,女性11名,在胎26.1±1.6週)である。そのうちNIDCAPの継続観察を実施した児(NIDCAP群)8名とNIDCAPの観察対象とならなかった児(Control群)9名に分けた。対象を外来で修正6ヶ月前後に発達検査を行い,姿勢運動(P-M)領域,認知適応(C-A)領域,言語社会(L-S)領域,全領域のそれぞれについて発達指数を算出し,NIDCAP群Control群で比較検討した。なお,統計学的検討は,Mann-WhitneyのU検定を用いて危険率5%以下を統計学的有意とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>NIDCAP群とControl群の修正6ヵ月時の平均発達指数(NIDCAP群/Control群)は,P-M領域では,100.3±14.8/102.9±9.4,C-A領域では,103.4±6.3/102.9±7.5,L-S領域では,110.5±7.2/101.2±7.5,全領域では,103.2±8.2/103.5±7.0であり,L-S領域でのみ有意にNIDCAP群が高値を示した(p<0.05)</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>今回のNIDCAP群とControl群の比較の結果,L-S領域にのみ有意差を認め,NIDCAP群が言語社会面の発達指数が高くなっていた。これは,NIDCAPによって赤ちゃんの行動観察を根拠としてケアを行うことで,相互作用が促され,また退院後も家庭で母親が継続することより,赤ちゃんとのアイコンタクトやコミュニケーションが増え,修正6ヵ月時点での言語社会面の発達につながっていた可能性も考えられる。また今回,運動面や認知面では有意差がみられなかった。これは,NIDCAPを開始するにあたってすでに浸透しているポジショニングや環境への配慮などベースとなるDCによる影響もあり,今回の違いとして出てこなかった可能性も考えられる。今後はNIDCAPの介入例を増やし日本での長期の予後等についても検討していく必要があると考える。</p>
著者
長井 桃子 黒木 裕士 飯島 弘貴 伊藤 明良 太治野 純一 中畑 晶博 喜屋武 弥 張 ジュエ 王 天舒 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>近年,様々な疾患に対し多能性幹細胞を用いた臨床試験が行われている。神経再生には神経のミエリン鞘とシュワン細胞の補充が肝要とされ(Zhiwu, 2012),末梢神経損傷動物モデルを用いて,幹細胞やiPS細胞移植による治療効果を検討した報告は多数あり,幹細胞を用いた臨床試験も始まっている。また,conduit(人工神経鞘)を断端部に連結させる手法においても,その中に自家培養細胞を移植する取り組みが行われている。一方,末梢神経損傷に対する介入効果として,運動は神経発芽や再生軸索の成熟を促進し(Sabatier, 2015),電気刺激は神経再生を促す(Gordon, 2010. Wong, 2015)報告もあり,細胞移植後のリハビリテーション介入が神経再生を促す可能性がある。しかし,同疾患患者の再生治療におけるリハビリテーション効果について,現時点でどこまで明らかになっているか不明な点が多い。本研究の目的は,末梢神経損傷患者に対してconduitや幹細胞を用いた治療方法と効果を報告した論文を系統的かつ網羅的に収集することに加え,これらの治療方法とリハビリテーションのかかわりにおける現状を明らかにすることである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>研究デザインはシステマティックレビューとし,PRISMA声明に準じて実施した。検索式にはhuman,peripheral nerve,stem cell transplantation,nerve regenerationを用い,データベースはPubMed,PEDro,CINAHL,Cochrane libraryを用いた。2016年9月までに報告された,査読のある英語で記載された論文かつ,ヒトを対象に実施された臨床試験(シングルケースを含む)を対象として,conduitと細胞移植に関するものを抽出した。内科疾患や遺伝疾患に関するものは除外した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>キーワードを用いたデータベースの検索では1220件が抽出された。適合基準に合致するものは16件(全体数比:1.31%,出版年:2000~2016)であり,そのうち,リハビリテーションに言及しているものは7件(適合論文内比:43.7%,出版年:2000~2011)だった。うち6件が手部に関するものであり,その内容は,手術直後から穏やかに手指屈伸運動を長期に行うものや実施の記載のみなど,リハビリテーションプログラムの内容や期間について詳細について記したものはなく,統一した見解は得られなかった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>末梢神経損傷患者に対する再生治療介入の臨床試験数は少なく,リハビリテーション介入に関しても十分に検証されていない現状が明らかとなった。今後さらに,臨床試験の蓄積と,末梢神経損傷の再生治療におけるリハビリテーション効果に関するエビデンスが求められることが予測される。これらのエビデンスを,基礎的研究を通じて理学療法士が自ら示してくことは,理学療法介入の重要性を示す一助になると考える。</p>
著者
長田 美沙季 植田 拓也 柴 喜崇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】高齢者が運動をすることの意義は数多く報告されているが,いかにして長期にわたり運動継続するかが問題となっている。地域在住高齢者が運動を継続するための要因としてグループでの運動が必要であるとの報告がある(吉田,2006)。一方,体操グループへ自主的に参加している地域在住高齢者における参加継続に関連する要因について縦断的に検討している研究はない。そこで本研究では自主参加型体操グループ(以下,体操会)に参加している地域在住高齢者における,5年間の体操会への参加継続に関連する要因を縦断的に検討することとした。【方法】対象は神奈川県内のR公園でのラジオ体操会会員から募集し,2010年のベースライン調査に参加した地域在住高齢者の内,調査不参加者に対する電話調査を得られなかった13名を除外した84名(男性43名:平均年齢73.2±6.3歳,女性41名:平均年齢70.1±5.2歳)とした。参加者には体力測定および質問紙調査を実施した。調査項目は,基本的属性,握力,開眼片脚立位時間,立位体前屈,Timed Up and Go Test(TUG),5m最速および快適歩行時間,膝伸展筋力,老研式活動能力指標,WHO5精神的健康度評価表(WHO-5),Falls Efficacy Scale International(FESI)である。調査への不参加者には電話調査を実施し,体操会への参加の有無を調査した。また,参加中止者には中止の理由も聴取した。統計解析は,体操会への参加継続の有無を従属変数(継続=1/中止=0)とし,変数減少法による多重ロジスティック回帰分析を行った。【結果】2010年の調査参加者の内,5年後の体操会への参加継続者は53名(63.1%;平均年齢71.8±5.1歳),参加中止者は31名(36.9%;平均年齢71.7±7.4歳)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,5年後の体操会への参加継続に関連する要因として,ベースライン時のFESI(オッズ比:0.953,95%信頼区間:0.978-0.990,p=0.012,平均点±標準偏差;継続群:25.7±10.3点,中止群:33.3±14.9点)が抽出された。体操会への参加中止の理由は疼痛の出現1名(3.2%),疾病の罹患・増悪6名(19.4%),家族の怪我・介護2名(6.5%),死亡2名(6.5%),人間関係2名(6.5%),身内の不幸1名(3.2%),朝起きるのが辛い5名(16.1%),他の運動を始めた1名(3.2%),時間を自由に使いたい2名(6.5%),歳だから1名(3.2%),不明8名(25.8%)であった。【結論】本研究では5年後の体操会への参加継続を低減させる要因として,ベースライン時の転倒自己効力感が関連しており,ベースライン時の転倒自己効力感が低いほど5年後の体操会継続が難しいことが明らかとなった。また,体操会への参加中止理由から,自主参加型体操グループに参加している高齢者においては,疾患への罹患・増悪などの身体的な要因だけでなく,人間関係,家族の介護など,環境及び社会的な要因も参加継続に関係していると推察された。
著者
峯田 真悠子 新井 康弘 野本 真広 横山 敦子 稲葉 晶子 木村 泰 橋元 崇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-212_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【目的】椎体骨折は高齢者の代表的な骨折であるが、明確な安静臥床期間が定まっておらず、安静にて椎体変化や偽関節の予防が困難と報告されている。そのため、早期離床による活動量の確保が重要であるが、体動痛のために身体機能の詳細な評価が困難な場合が多い。椎体骨折の予後不良因子として、椎体の後壁損傷や骨密度低下といった骨要因による報告は多いが、骨要因以外の報告は少ない。近年、椎体骨折を始めとする骨折患者のサルコペニアの有病率が高く、骨折の危険因子であると報告されている。サルコペニアの評価はCTの大腰筋面積から診断する研究が散見されるが、対象は消化器や循環器疾患であり、椎体骨折患者の大腰筋面積とリハビリテーションの関連は明らかになっていない。大腰筋は、歩行能力と密接に関係することが明らかとなっており、大腰筋面積は椎体骨折患者の身体機能を予測する一助になると考える。そこで本研究では、椎体骨折患者の大腰筋面積を基にしたサルコペニアとリハビリテーションの関連性を検討することを目的とした。【方法】当院に入院した椎体骨折患者233名のうち、死亡と入院前歩行不能例、骨折合併例、転移性骨腫瘍による骨折例、陳旧性骨折例、手術施行例、データ欠損例を除いた130名(平均年齢79.7±9.6歳、男性42名、女性88名)を対象とした。サルコペニアの指標はCTの第3腰椎レベル横断像で大腰筋面積を算出し、身長の2乗で除した値をPsoas muscle index(以下PMI)として用いた。PMIを各性別における下位1/4をサルコペニア群と定義し、2群に分類した。調査項目は基本情報(年齢、Body Mass Indexなど)、医学的情報(既往、椎体骨折数、椎体圧潰率、血液データ、geriatric nutritional risk index(以下GNRI)など)、リハビリ経過(入院から離床開始までの日数、各歩行補助器具による歩行練習開始まで日数、入退院時歩行様式、Functuonal independence measure(以下FIM)など)とし、2群間で比較検討した。また、PMIと各調査項目の相関関係を検討し、そこで有意な相関関係を認めた項目を独立変数、従属変数を退院時歩行FIMとする重回帰分析を実施した。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】非サルコペニア群(年齢:81.7±9.8歳、男/女:11/21名、PMI:6.20±1.54cm2/m2)は、サルコペニア群(年齢:79.1±9.5歳、男/女:31/66名、PMI:3.49±0.62cm2/m2)と比較してBMI、GNRI、退院時独歩の割合、退院時歩行FIMは有意に高値を示し、椎体骨折数と椎体圧潰率は有意に低値を示した(それぞれp<0.05)。またPMIと年齢、GNRI、椎体圧潰率、退院時独歩の割合、退院時歩行FIMは有意な相関関係を示した(p<0.05)。さらに重回帰分析の結果、抽出された因子は年齢、入院時独歩の割合、大腰筋面積を基としたサルコペニアの有無であった(p<0.05、R2=0.31)。【結論】椎体骨折患者の大腰筋面積は退院時の歩行能力に関連することが示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき、調査から得られたデータは個人が特定されないよう統計処理を行った。