著者
永田 達 新貝 和也 田中 直 牧野 佳朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0254, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】林は,膝関節周囲組織の硬さは膝蓋下脂肪体(IPFP)の機能変形を阻害し,膝前面部痛と関連している可能性があると報告している。IPFPの機能変形の阻害が膝前面部痛を招くという報告はみられるが,IPFPの機能変形についてIPFPの厚みに関する報告はない。本研究の目的は,変形性膝関節症(OA)患者におけるIPFP厚を,健常者と比較することを目的とした。また,疼痛の有無による違いも検討した。【方法】対象は健常者5例8膝(N群,平均年齢60±9.5歳),OAと診断されIPFPに疼痛が無い者6例7膝(OAN群,平均年齢71.1±7.2),OAと診断されIPFPに疼痛を有する者7例7膝(OAP群,平均年齢71±8.9歳)とした。方法は,測定肢位を背臥位とし,超音波エコー(Xario™ 100,東芝製)を用いてIPFP厚を測定した。IPFPは,膝蓋骨内側縁から大腿骨内顆を描出した長軸走査にてIPFPを同定し,内蔵デジタルメジャーにて厚さを計測した。測定角度は,膝関節屈曲0度,60度,130度とし,各3回測定してその平均値を算出した。解析方法は,IPFPの各角度における群間の比較をTukeyの多重比較検定を用いて解析した。【結果】IPFP厚は0度において,N群(2.3±0.2mm),OAN群(2.7±0.3mm),OAP群(3.4±0.3mm)の順に有意に高値を示した(P<0.05)。60度においては,N群(1.7±0.3mm),OAN群(2.1±0.3mm),OAP群(2.7±0.2mm)と,N群とOAP群,OAN群とOAP群において有意な差がみられた(P<0.05)。130度においては,N群(1.9±0.4mm),OAN群(2.1±0.3mm),OAP群(3.2±0.7mm)となり,N群とOAP群,OAN群とOAP群において有意な差がみられた(P<0.05)。【結論】IPFPは,健常者よりもOA患者の方が厚く,さらに疼痛を有する者で有意に厚かった。IPFP厚の増大は,膝前面部痛および変形と関与していることが明らかとなった。IPFPの機能変形の阻害には,IPFP厚が関係し,その結果として疼痛が生じている可能性がある。
著者
豊田 和典 山本 泰三 矢口 春木
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101156, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】膝蓋骨上脂肪体(suprapatella fat pad;以下SPF)は膝蓋骨上端と膝蓋上嚢前面と大腿四頭筋腱遠位後面で形成される三角形を埋めるように存在しており、その機能は膝関節屈曲時の大腿四頭筋腱の滑走や伸展機構の効率を高めること(H.U.Staeubli,1999)や大腿骨と膝蓋骨間での膝蓋上嚢のインピンジメントを予防すること(C.Roth,2004)が報告されている。SPFに関する報告は、MRIを用いての膝関節前面痛とSPF拡大の関係(C.Roth,2004)や滑膜増殖の指標として有効性を検討した報告(M.E.Schweitzer,1993・Lee HS,2000)、超音波画像診断装置を用いてのSPF浮腫に対する超音波検査とガイド下局所注射の有効性を示した症例報告(B.V.Le,2009)がある。静的な指標はあるものの、膝関節運動時のSPF動態に関する報告はほとんどない。そこで今回、SPFの大腿四頭筋腱側の長さ(以下;腱側長)が膝関節屈曲時にどのように変化するか超音波画像診断装置を用いて検討した。【方法】対象は神経学的および整形外科的疾患の既往がない健常男性10名で、測定肢はすべて左下肢とした。対象者の平均年齢は32.9±4.7歳、平均身長は174±6.4cm、平均体重は66.2±9.0kgであった。測定姿勢は背臥位とし、膝関節伸展時および膝関節屈曲90度・120度・最大屈曲・正座時の長軸像を撮影した。膝関節屈曲角度は東大式ゴニオメーターを使用して設定した。撮影は超音波画像診断装置(esaote社製 MyLab25)を使用して、プローブを皮膚に対して直角にあて、過度の圧が加わらないように注意した。撮影したSPF腱側長を内臓デジタルメジャーにて計測した。測定部位は下前腸骨棘と膝蓋骨中央を結ぶ線上でプローブ端を膝蓋骨上端とし、膝関節屈曲時には膝蓋骨とプローブの位置関係が変化しないように膝蓋骨の動きに合わせてプローブを操作した。測定は3回行い、その平均値を測定値とした。測定および計測はすべて同一セラピストが行なった。検討項目は、膝関節伸展時、膝関節屈曲90度・120度・最大屈曲・正座時のSPF腱側長とその増加率とした。増加率は膝関節伸展時の計測値を基準としそれぞれの膝関節屈曲角度で比較した。統計処理は多重比較法を用い、すべての統計解析とも危険率5%未満を有意水準とした。統計処理にはSPSS Ver.14を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】実験に先立ち、対象者には研究内容について口頭にて十分に説明を行い、同意を得た。【結果】膝関節伸展時のSPF腱側長は18.0±1.1mm、膝関節屈曲90度では22.2±1.8mm、膝関節屈曲120度では23.0±1.6mm、最大屈曲では25.7±1.3mm、正座時は28.5±1.4mmであった。SPF腱側長の増加率は膝関節屈曲90度では123.5±10.0%、膝関節屈曲120度では128.3±10.6%、最大屈曲では143.1±10.7%、正座時は158.6±12.3%であった。それぞれの膝関節屈曲角度のSPF腱側長増加率に主効果が認められた。膝関節伸展は膝関節屈曲90度・120度・最大屈曲・正座時、膝関節屈曲90度および120度では最大屈曲・正座時、最大屈曲では正座時との間に有意差があった。膝関節屈曲90度と120度との間には有意差はなかった。【考察】近年、関節拘縮や疼痛の原因の一つとして関節周囲の脂肪体が注目されている。膝関節周囲の脂肪体は膝蓋下脂肪体や大腿骨前脂肪体、SPFがあり、関節もしくは関節周囲のスペースを埋めるように存在している。大腿骨前脂肪体とSPFの機能は比較的類似しており、筋・腱や膝蓋上嚢の滑走性維持、大腿四頭筋腱のレバーアーム長維持による伸展機構の効率化機能が報告されているが、動態についての報告はほとんどない。今回、SPFの腱側長増加率を指標に膝関節屈曲に伴うSPFの動態を分析した結果、腱側長増加率は膝関節屈曲に伴い増加しており、特に最大屈曲、正座時において顕著であった。関節可動域、特に深屈曲や正座を獲得するためには、SPFは大腿四頭筋腱の滑走を促すだけではなく、大腿四頭筋などの他の軟部組織と連動して十分に変形できる柔軟性が必要であり、SPFは関節可動域を制限する軟部組織の一つである可能性が示唆された。今回は、SPF腱側長のみの分析であったが、膝関節屈曲時にはSPF膝蓋骨側が変形する様子も観察できており、今後はSPF膝蓋骨側の動態や関節拘縮との関連性などの研究をさらにすすめていきたいと考えている。【理学療法学研究としての意義】SPFは膝関節機能改善を図るためには重要な組織であると考えられるが、その動態については明らかにされていない点が多い。今回、健常者のSPF動態の一部が明らかになったことで、理学療法手技や評価に応用していけるのではないかと考える。
著者
花田 定晴 岡戸 敦男 濱野 武彦 平野 佳代子 宮下 浩二 小林 寛和
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.205, 2003 (Released:2004-03-19)

【はじめに】 腰痛の発生は、様々な身体機能の低下が相俟って腰椎-骨盤リズムの乱れなどを生じさせることが問題となる。それが動作時の問題を誘発させ、痛みの発生につながると考えられる症例を多く経験する。その中で、特に股関節の可動域制限は腰痛を誘発する重要な要因の一つである。 今回は腰痛の発生要因の一つである股関節の関節可動域に限定し、動作時の痛みの発生パターンとの関連を定量的に調査した。【対象と方法】 対象は平成4年4月より平成14年10月までに当所にて腰痛症と診断され、理学療法を実施した男性179名とした。 対象を体幹運動の方向と痛みの発生の関係から_丸1_体幹屈曲時に痛みが生じる屈曲型、_丸2_体幹伸展時に痛みが生じる伸展型に分類(川野)した。また、この2項目に分類されないものは対象から除外した。内訳は、屈曲型52名(年齢21.6±9.7歳、身長171.2±5.1cm、体重64.1±11.8kg)、伸展型127名(年齢19.7±8.4歳、身長169.6±8.8cm、体重63.9±14.1kg)であった。 理学療法記録より下肢伸展挙上(以下、SLR)、股関節伸展、外旋、内旋の関節可動域を調査し、各々の項目について屈曲型と伸展型の間で比較した。検定はt検定を用い、有意水準5%未満とした。【結果】 関節可動域の平均値はSLRでは屈曲型74.9±11.1度、伸展型77.9±10.9度であり有意差がみられた(p
著者
永岡 直充 今田 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100802, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】大殿筋下部線維(以下,LGM)は歩行時における立脚初期の屈曲モーメントを制御し,同筋上部線維(以下,UGM)は中殿筋(以下,GMM)と共に立脚中期の骨盤落下を制御する筋として重要視されている。機能的に異なる作用を持つ大殿筋に対し,UGMの筋力強化を意識した股関節伸展外転運動を側臥位にて実施(以下,股関節外転位運動)している。本研究では,股関節外転位運動を伴う大殿筋筋力強化エクササイズ(以下,エクササイズ)を行い,UGM,LGMの筋活動を計測し,従来用いられている同筋の強化を目的とした異なるエクササイズとの比較を表面筋電図(以下,EMG)を用いて検討した。【方法】対象は,健常成人男性4例(年齢28.8±3.7歳,身長173.3±7.3cm,体重61.5±1.6kg,BMI20.6±1.3 kg/m2)であった。エクササイズ時に右側のUGM,LGM,GMMの筋活動を無線筋電計km-818MT(メディエリアサポート社)にて計測した。エクササイズは,腹臥位での股関節伸展運動(以下,腹臥位運動),片脚ブリッジ,股間節外転位運動,レッグプレス,フォワード・ランジの5通りとした。腹臥位運動は骨盤を固定した腹臥位にて,股関節伸展15°で膝窩から抵抗を加え2秒間保持した。片脚ブリッジは腕と左下肢を組んだ臥位にて,下肢90°屈曲,股関節内外転0°の肢位から体幹と大腿長軸が平行になるまで臀部を拳上し2秒間保持した。股関節外転位運動は膝関節90°屈曲位で固定した側臥位にて,足底をセラピストの骨盤に当てた。大腿骨に対し直角に抵抗を加えつつ,股関節屈曲,内転,内旋位から伸展,外転運動を股関節屈曲20°から-20°の範囲で行った。レッグプレスはシート角40°に設定したレッグプレスマシンに座り,下肢90°屈曲位から膝関節伸展0°まで伸展した。負荷量は1RMの60%とした。フォワード・ランジは両手を頭の後ろで組んだ立位にて,下肢90°屈曲位になるよう右下肢を踏み出し,2秒間保持した。運動回数は10回とし,運動開始から終了までの積分筋電図と最大随意筋力(以下,MVC)より相対筋電図(以下,%IEMG)を求めた。Tukeyの多重比較検を用いて5通りの%IEMGを筋ごとに比較した。独立変数は5通りのエクササイズ,従属変数は筋ごとの%IEMGとした。有意水準は1%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に従い,研究の目的,方法について説明し,研究の理解と同意が得られた上で実施した。参加は任意であり同意後もいつでも中断可能であること,それによる不利益を一切被らないこと,収集したデータは厳守されることを説明した。【結果】UGMでは股関節外転位運動,腹臥位運動,レッグプレス,フォワード・ランジ,片脚ブリッジの順に,LGMでは腹臥位運動,股関節外転位運動,レッグプレス,片脚ブリッジ,フォワード・ランジの順に,GMMでは股関節外転位運動,腹臥位運動,フォワード・ランジ,レッグプレス,片脚ブリッジの順に高い筋活動を示した。各筋(UGM/LGM/GMM)の%IEMGについて,腹臥位運動では62.7±14.9/68.4±13.5/38.9±29.1%,股関節外転位運動では84.7±41.6/61.5±26.5/54.1±48.9%であり,UGMにおいて股関節外転位運動は腹臥位運動に対し有意に高い値を示した(p<0.01)。さらに腹臥位運動と股関節外転位運動は,その他のエクササイズに対して有意に高い値を示した(p<0.01)。【考察】股関節外転位運動と腹臥位運動の3筋の%IEMGは同等の値を示し,その他のエクササイズとの比較において有意差を認めた。大殿筋は股関節伸展外転方向で最大の筋活動が発揮され,次いで伸展方向,外転方向の順に高い値を示すとの報告がある。股関節伸展と外転運動を組み合わせた股関節外転位運動においてUGMは高値を示したと考えた。一方,腹臥位運動は大殿筋本来の働きに即した抗重力肢位で行う運動として,UGM,LGMは共に高値を示した。この2つのエクササイズにおいて,UGMとLGMに対する負荷強度はMVCの60%を超えており,大殿筋の筋力強化を意識した運動として有効な方法と言える。さらに股関節外転位運動は,UGMに対し80%を超える負荷強度となり,UGM強化に特化したエクササイズである可能性が示唆された。臨床において,体幹および股関節術による禁忌肢位や片麻痺,円背など身体機能の変化に伴い,腹臥位を設定することが困難な場合が多い。本研究の結果から,患者の設定可能な姿勢に対応できるエクササイズ肢位の選択の幅が広がり,治療プログラム立案の一助になると考えた。【理学療法学研究としての意義】大殿筋は移動動作に重要な筋であり,幾多の筋力強化肢位が考案されてきた。今回の報告より,臨床で実施される代表的なエクササイズと股関節外転位運動について,EMGを用いて定量的に確認できた。股関節外転位運動は大殿筋の最大の筋活動を引き出しやすい肢位として,治療手段の1つとなり得ると考えた。
著者
上田 泰之 田中 洋 亀田 淳 立花 孝 信原 克哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】投球障害肩の治療・予防を考える上で,投球動作中の肩関節に加わる力学的ストレスを3次元的に求め,それに関連する運動学的・動力学的因子を検討することが重要である。これまで投球動作中の肩関節に加わる圧縮力については検討されているが,それ以外の前後方向・上下方向への力学的ストレスついてもそれらに関連する因子を検討する必要がある。本研究の目的は,投球動作中の肩関節に加わる圧縮力,前後方向および上下方向の力学的ストレスに影響を与える運動学的・動力学的因子について明らかにすることである。【方法】対象は次の条件を満たす中学・高校生の野球投手81名とした(年齢15.0±1.4歳,身長172.0±9.8 cm,体重63.2±9.8 kg,右63名・左18名)。1)投球動作の測定時に疼痛がない,2)肩・肘関節の手術経験がない,3)測定より6カ月以内に肩・肘関節の疼痛や障害のために投球動作を禁止された期間がない。投球動作の測定にはモーションキャプチャ・システムを用いた。解剖学的骨特徴点の皮膚上に36個の赤外光反射マーカーを貼付し,投球マウンド周辺に設置した7台の高速CCDカメラ(ProReflex MCU-500+,Qualisys Inc., Sweden)と2台のハイスピードビデオカメラ(HSV500C<sup>3</sup>,nac Image Technology,Japan)を用いて測定を行った。運動学的・動力学的パラメータを算出するために,胸部,上腕及び前腕座標系を設定し,胸部に対する上腕座標系の回転,上腕に対する前腕座標系の回転をオイラー角で示し,それぞれを肩関節,肘関節角度とした。また,水平面上での両肩峰を結ぶベクトルV<sub>s</sub>,両上前腸骨棘を結ぶベクトルV<sub>p</sub>それぞれとマウンドプレートとの成す角度を肩甲帯回旋角度,骨盤回旋角度とした。さらにV<sub>s</sub>とV<sub>p</sub>との成す角度を体幹回旋角度とした。肩関節,肘関節に加わる関節間力ならびにトルクはニュートン・オイラー法を用いて推定した。統計学的解析には,SPSS 12.0J(エス・ピー・エス・エス社,日本)を使用し,ステップワイズ法による重回帰分析を行った。投球動作時の肩関節に加わる最大圧縮力,最大前方関節間力および最大上方関節間力を従属変数とした。独立変数はトップ・ポジション(TOP),非投球側足部接地(FP),肩関節最大外旋位(MER),ボール・リリース(BR)時の肩関節および肘関節の関節角度,肩甲帯回旋角度,骨盤回旋角度,体幹回旋角度,肩関節および肘関節へ加わるトルクの最大値とした。【結果】最大肩関節圧縮力を従属変数とした場合,p<0.01でありR<sup>2</sup>=0.67であった。標準偏回帰係数はBRでの肩関節水平内転角度が0.60,BRでの体幹回旋角度が-0.51,MERでの骨盤回旋角度が-0.40,最大肩関節外旋トルクが-0.33,最大肘関節外反トルクが0.31,TOPでの肩関節水平内転角度が-0.23,最大肩関節内転トルクが-0.22,BRでの肘関節屈曲角度が-0.20,FPでの体幹回旋角度が0.17であった。肩関節最大前方関節間力を従属変数とした場合,p<0.01でありR<sup>2</sup>=0.63であった。標準偏回帰係数はFPでの肩関節水平内転角度が-0.84,最大肩関節水平内転トルクが0.41,FPでの肘屈曲角度が0.25,最大肩関節外旋トルクが-0.18,最大肩関節内転トルクが-0.16であった。肩関節最大上方関節間力を従属変数とした場合,p<0.01であり,R<sup>2</sup>=0.69であった。標準偏回帰係数は最大肩関節外転トルクが0.59,FPでの肩関節内転角度が0.55,FPでの肩関節外旋角度が-0.51,TOPでの肩関節内転角度が-0.36,BRでの肩関節内転角度が0.32,FPでの肘関節屈曲角度が0.32,FPでの骨盤回旋角度が-0.20,最大肩関節外旋トルクが-0.19,BRでの肩関節外旋角度が0.14であった。【考察】投球動作時に加わる力学的ストレスに影響する因子は,そのストレスの加わる方向により異なることが示された。肩関節の圧縮力にはBRでの肩関節水平内転やBRでの体幹回旋角度,肩関節最大前方関節間力にはFPでの肩関節水平外転や最大肩関節水平内転トルク,肩関節上方関節間力には,最大肩関節外転トルクやFPでの肩関節内転角度が影響を与える因子であった。また,それぞれの肩関節に加わるストレスに影響する因子として,FPでの肩・肘関節の関節角度が挙げられることから,この時点での投球動作に着目することは肩関節に加わる力学的ストレスを軽減させるために重要であることが定量的に確認された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,投球障害肩の疼痛部位や病態に応じた理学療法の一助となると考える。また,投球動作を詳細に分析することで,今後起こりうる投球障害肩を予測し,予防するためにも有用である。
著者
齊藤 明 岡田 恭司 髙橋 裕介 柴田 和幸 大沢 真志郎 佐藤 大道 木元 稔 若狭 正彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>成長期野球肘の発症には投球時の肘関節外反が関与し,その制動には前腕回内・屈筋群が作用することが知られている。成長期野球肘おいては投球側の円回内筋が硬くなることが報告されており,特に野球肘の内側障害ではこれらの硬い筋による牽引ストレスもその発症に関連すると考えられている。しかしこれらの筋が硬くなる要因は明らかにされていない。そこで本研究の目的は,成長期の野球選手における前腕屈筋群の硬さと肘関節可動域や下肢の柔軟性などの身体機能および練習時間との関係を明らかにすることである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>A県野球少年団に所属し,メディカルチェックに参加した小学生25名(平均年齢10.7±0.7歳)を対象に,超音波エラストグラフィ(日立アロカメディカル社製)を用いて投球側の浅指屈筋,尺側手根屈筋の硬さを測定した。測定肢位は椅子座位で肘関節屈曲30度位,前腕回外位とし,硬さの解析には各筋のひずみ量に対する音響カプラーのひずみ量の比であるStrain Ratio(SR)を用いた。SRは値が大きいほど筋が硬いことを意味する。身体機能は投球側の肘関節屈曲・伸展可動域,前腕回内・回外可動域,両側のSLR角度,股関節内旋可動域,踵殿距離を計測し,事前に野球歴と1週間の練習時間を質問紙にて聴取した。また整形外科医が超音波診断装置を用いて肘関節内外側の骨不整像をチェックした。統計学的解析にはSPSS22.0を使用し,骨不整像の有無による各筋のSRの差異を比較するため対応のないt検定を用いた。次いで各筋のSRと各身体機能,野球歴や練習時間との関係をPearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を求めて検討した。有意水準はいずれも5%とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>参加者のうち肘関節内側に骨不整像を認めた者は4名(野球肘群),認められなかった者は21名(対照群)であった。浅指屈筋のSRは2群間で有意差を認めなかった(1.01±0.29 vs. 0.93±0.23;p=0.378)が,尺側手根屈筋のSRでは野球肘群が対照群に比べ有意に高値を示した(1.58±0.43 vs. 0.90±0.28;p<0.001)。浅指屈筋のSRと各測定値との相関では,各身体機能や野球歴,練習時間のいずれも有意な相関関係は認められなかった。尺側手根屈筋のSRも同様に各身体機能や野球歴との間には有意な相関関係を認めなかったが,1週間の練習時間との間にのみ有意な正の相関を認めた(r=0.555,p<0.01)。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>成長期の野球選手において浅指屈筋,尺側手根屈筋の硬さは,肘・股関節可動域や野球歴とは関連がないことが明らかとなった。一方,1週間の練習時間の増大は尺側手根屈筋を硬くし,このことが成長期野球肘の発症へとつながる可能性が示唆された。</p>
著者
谷内 涼馬 山本 浩基 田代 桂一 道広 博之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0906, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】聴覚器の悪性腫瘍は頭頸部悪性腫瘍の1%前後とまれな疾患である。中耳悪性腫瘍に対する腫瘍摘出術後の理学療法に関する報告は見受けられず,その経過は不明である。そこで今回,中耳悪性腫瘍に対する腫瘍摘出術後に前庭機能障害を呈した症例の理学療法経過を報告する。【症例提示】70歳代後半,女性。ADLは自立。手術を目的に当院へ入院され,左側頭開頭腫瘍摘出術施行。悪性所見を伴った骨浸潤を認めたため,三半規管は摘出された。術後より悪心・嘔吐,頭位変換に伴う回転性のめまいを認め,歩行時のふらつきが強く自立歩行困難であった。術後3日より,バランス機能改善目的で理学療法開始となる。【経過と考察】理学療法は平行棒内歩行より開始し,術後1週のFunctional Balance Scale(FBS)は15点であった。術後3週までは悪心・めまいが強く,現症を助長する急激な頭位変換に留意した。十分な上肢支持の下,side stepやtandem gaitなどを中心に実施。徐々に悪心・めまいが治まり,術後4週より手放しでの練習に移行。バランス機能も改善を認め,cross stepや振り向き動作を含むback gaitも実施。歩行については病棟内自立となった。術後6週よりダイナミックなバランス練習を開始。術後9週のFBSは51点となり,術後14週で自宅退院となった。一側前庭器官が不可逆な損傷を受けると,中枢前庭系には神経機能の左右差を是正する回復機構(前庭代償)が働く。しかし,健側前庭覚への入力停滞・遅延は前庭眼反射や前庭脊髄反射の低下を惹起し,前庭代償が十分に働かない。本症例では術後早期からバランス練習を実施し,健側前庭覚への入力を継続した。また,現症とバランス機能に応じて練習難易度を高め,前庭代償の停滞を防いだことも機能改善に寄与した可能性が考えられた。急性期の前庭機能障害に対する理学療法では,現症の回復時期に応じて練習難易度を変化させ,前庭代償を促進することが肝要であると思われた。
著者
永谷 元基 中井 英人 井上 雅之 荒本 久美子 林 満彦 佐藤 幸治 杉浦 一俊 清島 大資 鈴木 重行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0767, 2004 (Released:2004-04-23)

【目的】我々は第28回日本理学療法学術大会において、しゃがみ動作の可能・不可能の違いについて3次元動作解析装置を使用し、可能群は足関節背屈可動域が大きいため、重心の前方移動が容易となりしゃがみ動作が可能になることを考察した.しかしながら、可能群においても少数ではあるが、重心が後方にあるにもかかわらずしゃがみ動作が可能となった者もいた.そこで今回しゃがみ込み動作時における重心移動の違いが下肢関節角度、下肢関節モーメントにどのように影響するかについて、3次元動作解析装置を用い比較検討したので報告する.【方法】対象は、今回の実験に同意の得られた下肢に既往がないしゃがみ込み可能な健常青年30名(男性16名、女性14名)とした.被験者は左右独立式床反力計(アニマ社製MG1120)の上にそれぞれ裸足で乗り、足底全接地にて両側足底内側縁が触れる状態で、平行に立ち、肩関節90°屈曲、内旋位、肘関節伸展位にて前方を注視した.検者の合図により約3秒間でしゃがみ込み動作を行わせた.三次元動作解析装置(アニマ社製Locus MA6250)を用い、肩峰、大転子、肩峰と大転子を結ぶ線と第6肋骨、第12肋骨、腸骨稜の水平面との交点、外側上顆、外果、第5中足骨頭の計8カ所に赤外線反射マーカーを付け、しゃがみ込み動作をサンプリング周波数60Hzにて計測した.しゃがみ動作終了を床反力垂直成分(Fz)とスティックピクチャーより求め、これらより足圧中心(COP)がしゃがみ込み終了後に足関節軸より前方にある者(前方群)と常に後方にある者(後方群)との2群に分け、動作中の各関節角度変化、股、膝、足関節モーメントについて2群間で比較検討した. 統計にはMann-WhitneyのU検定を行い、 危険率5%未満を有意な差とした。【結果】2群の内訳は前方群16名、後方群14名であった.関節角度において上部体幹伸展角度では前方群に比べ後方群で有意に小さかった.骨盤後傾角度は前方群に比べ後方群で有意に大きかった.足関節背屈角度は後方群で小さく、股関節屈曲角度は後方群で大きくなる傾向が見られた.下肢各関節モーメントでは足関節背屈モーメントは前方群に比べ後方群で有意に大きく、足関節底屈モーメントは前方群に比べ後方群で有意に小さかった.【考察】後方群は重心が下降する間に、下肢各関節で重心を前方移動出来ないため骨盤の後傾により体幹の前屈を容易にすることで重心の前方移動を助長し、更に重心が後方にあるため膝伸展モーメントが必要になると考えた.しかし今回の結果では、膝関節伸展モーメントに有意差は認められず、足関節背屈モーメントにおいて後方群で有意に大きい値を得た.これらのことより、後方群のしゃがみ込み動作において大腿四頭筋筋力は影響せず、前脛骨筋筋力と骨盤の後傾による体幹の前屈によって重心の前方移動を助長することで可能になると考えられた.
著者
本間 友貴 柿崎 藤泰 石塚 達也 西田 直弥 茂原 亜由美 平山 哲郎 泉崎 雅彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0561, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに/目的】我々は腰部骨盤帯の機能評価の一つとして筋の収縮性左右差を重要視し,理学療法に役立てている。そのなかでも腰方形筋(QL)の収縮性は特に左側において低下を認めることが多い。またQLが付着する第12肋骨(12rib)位置を評価すると,右側に比べて左側が水平面上で外方に位置している例が多い。共通して観察されるこの左右差から,QLの収縮性と12rib位置は関係があると推測される。そこで今回は,QLの収縮性に左右差が生じるメカニズムを明らかにするため,骨盤挙上運動におけるQLや12ribの位置変化,その他の下部体幹筋の左右を比較したところ,興味ある知見が得られたのでここに報告する。【対象と方法】対象は健常成人男性12名とした(平均年齢23.5±2.9歳)。課題動作は腹臥位での骨盤挙上運動(等尺性収縮)とし,大腿遠位部に装着した骨盤下制ベルトを介して体重の20%の重さで牽引した。計測項目は12ribとQL,脊柱起立筋群(ES),広背筋(LD),外腹斜筋(EOA)とし,超音波画像診断装置(EUB-8500,日立メディコ社)を用いて計測した。12ribとLDの測定位置は,上後腸骨棘を通過する腰椎長軸に並行な線と12ribの交点とした。QL,ESは第3腰椎レベルとし,EOAは同レベルの側腹部とした。得られた画像から画像解析ソフトImage J(米国国立研究所)を用いて,安静時12rib位置と各筋の断面積および筋厚,また挙上時12rib内方移動率と各筋の増加率を算出した。左右各3回におけるそれぞれの平均値を用いた。統計学的解析は12rib位置と各筋の左右比較をそれぞれ対応のあるt検定を用い,左右の12rib内方移動率と各筋における増加率の関係はPearsonの積率相関係数を用いて分析した。なお,有意水準は5%未満とした。【結果】安静時12rib位置は右側が内方に位置し(p<0.05),挙上時12rib内方移動率は右側が大きかった(p<0.01)。QL,LD,EOAの安静時断面積および筋厚,挙上時増加率は共に右側が大きく(p<0.05),ESは共に左側が大きかった(p<0.01)。右側の12rib内方移動率とQL,LDの間には正の相関が示された(r=0.68,0.83)。また左側の12rib内方移動率とESの間には負の相関が示された(r=-0.68)。【結論】本研究結果より,骨盤挙上運動におけるQLやLD,EOAの収縮性の優位性は右側に見られた。また右側QLの収縮性は12ribの内方移動と関係していた。解剖学的にLDやEOAは12ribを内方移動させる役割があるとされる。右側に見られるこれらの筋群が12ribを内方移動させ,QLの収縮性を高めたものと考えられる。一方,左側はESが強く運動関与していた。ESは12ribの内方移動を阻害し,QLの選択的収縮を困難にしていることが考えられ,代償的なものと捉えている。今回,QLの収縮性に関与する12ribの位置変化や下部体幹筋の収縮性の左右差が認められた。この左右差は体幹機能を評価する上で重要な基礎データとなり得ると考えられる。
著者
高田 雄一 神谷 智昭 渡邉 耕太 鈴木 大輔 藤宮 峯子 宮本 重範 内山 英一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0445, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 足のアーチ構造は1Gの重力場でヒトの歩行時に有用な働きをしている。後脛骨筋は足アーチを支える重要な動的支持組織であると報告され、後天性扁平足の主な原因は後脛骨筋機能不全だと言われている。足ア−チは骨・関節・靱帯による静的なサポートと筋肉による動的なサポートが互いに協力することにより、重力に逆らい直立二足歩行する人体の重さを支えている。適度な弾性をもった足ア−チは歩行時の衝撃を緩和し、より中枢の関節を保護している。この力学的特性を解明するためには、1回の荷重負荷試験から求められる足アーチの単なる破断強度ではなく、日常生活で実際に骨・関節・靱帯にかかる生理的負荷領域での繰り返し負荷試験(fatigue test,疲労試験)により足アーチの疲労特性を調べることにより、はじめて、より適切な生理的負荷領域での足アーチの力学特性を解明することができる。本研究の目的は反復垂直荷重時に、足内側縦アーチに対する後脛骨筋の動的な効果を検討することである。【方法】 未固定凍結下肢標本を14肢使用した。平均年齢は82歳(59-92歳)だった。標本は7肢ずつ、後脛骨筋牽引群と後脛骨筋非牽引群の2群に分けた。足アーチの疲労特性を計測するために、医療機器開発メーカーであるメディセンス(株)と共同で繰り返し荷重システム、制御・解析アプリケ−ションの開発を行った。万能試験機(株式会社 島津製作所,AG-I)、LEDマーカ(株式会社 パナソニック,1.6 x 0.8 mm 矩形赤色発光ダイオード)とCCDカメラ(株式会社メディセンス,解像度640x480 pixels)で構成する微小変位解析システム、反復荷重負荷システムと組み合わせによる繰り返し荷重−変位解析システムの開発を行った。下腿を中1/3で切断し、専用ジグで固定した標本に万能試験機を用いて、0-500N,1Hzで反復軸荷重を10,000サイクル負荷した。舟状骨高の計測は舟状骨内側に設置したLEDの位置情報を経時的に測定し、それを座標軸に変換して記録した。後脛骨筋牽引群は軸荷重に同期したステップモ−タ(株式会社 メディセンス,最大トルク 6 kg・cm, 回転速度 60 deg / 0.1 sec)荷重負荷システムを用い後脛骨筋腱中枢部をワイヤーでロ−ドセルを介して反復荷重した。そして垂直荷重に同期して、後脛骨筋の筋収縮を模した0-32Nの牽引力が発生するように設定した。最小荷重時と最大荷重時の足ア−チの高さの変化は舟状骨高を足底長で除したBony Arch Index(BAI)で評価し、BAI<0.21をlow archとした。後脛骨筋牽引群と後脛骨筋非牽引群でそれぞれ1,000 cyclesごとの値で両群間を比較し、統計処理はstudent‘s t-test により、有意水準は 5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 遺体は、死亡後24時間以内に本学医学部解剖学第二講座に搬送され、本人の生前同意と死亡後の家族の同意が得られている。【結果】 最大荷重時BAIの初期値は後脛骨筋牽引群0.239±0.009、後脛骨筋非牽引群0.239±0.014だった。両群共に最初の1,000サイクルでBAIは大きく低下した。その後、後脛骨筋牽引群の平均BAIはほぼ一定の値で経過し、10,000サイクルで0.212±0.011となった。一方で後脛骨筋非牽引群のBAIは徐々に低下し続け、3,000サイクルでlow archの基準となるBAI<0.21になった。7,000サイクル以降で両群間に有意差を認め、後脛骨筋牽引群は内側縦アーチが維持されていた。【考察】 本研究結果で後脛骨筋牽引群の平均BAIは、最終的に荷重時BAI>0.21を維持した。このことは反復荷重条件においても後脛骨筋が内側縦アーチ保持に重要であることを示した。一方、後脛骨筋非牽引群では最終的にlow archの基準に至ったことから、静的支持組織のみでは内側縦アーチ保持が困難であることがわかった。【理学療法学研究としての意義】 本研究は扁平足変形の主原因である後脛骨筋機能不全に対する運動療法やその予防に有用な情報を提供すると考えられた。
著者
遠藤 正樹 建内 宏重 永井 宏達 高島 慎吾 宮坂 淳介 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF2078, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 ADLやスポーツでは、肩関節内・外旋運動が繰り返し行われており、内・外旋運動時の肩甲骨運動と肩関節障害との関連が指摘されている。2nd外旋では、肩甲骨の後傾・上方回旋・外旋、鎖骨の後方並進が生ずるとされているが、機能的な問題が生じやすい内・外旋最終域まで詳細に報告したものは少ない。また胸椎の屈曲・伸展は肩甲骨の運動に関連があると考えられているが、内・外旋運動において胸椎の運動を調査した研究はほとんどない。臨床的にも肩関節疾患において、内・外旋運動の障害は多く見られるため、内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動や動態を明らかにできれば、効果的な治療が可能になると考える。よって本研究の目的は、1st、2nd、3rdポジションにおける内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動を3次元的に明らかにすることとした。【方法】 対象は健常若年男性17名(23±3.9歳)とし、測定側は利き手上肢とした。測定には6自由度電磁センサーLiberty (Polhemus社製)を用いた。8つのセンサーを肩峰、三角筋粗部、前腕中央、胸骨、鎖骨中央、Th1、Th12、S2に貼付し、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動学的データを収集した。測定課題は座位での1st、2nd、3rdポジションの内・外旋運動とし、最大内旋位から3秒で外旋し、最大外旋位で1秒静止保持させ、3秒で最大内旋位まで内旋する運動とした。測定回数は3回とし、その平均値を解析に用いた。解析区間は最大内旋位~最大外旋位までを100%として、解析区間内において5%毎の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動学的データを算出した。なお、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動角度は、胸郭セグメントに対する肩甲骨・鎖骨セグメント、および胸椎はTh12に対するTh1の相対的なオイラー角を算出した。運動軸の定義として、肩甲骨は内・外旋、上方・下方回旋、前・後傾、鎖骨は前方・後方並進、上・下制について解析を行った.統計分析では、解析区間における肩甲骨・鎖骨の動態、および同一角度における内旋運動時と外旋運動時の肩甲骨・鎖骨の動態の違いを分析するために、反復測定二元配置分散分析を用いた。有意水準は5%とした。【説明と同意】 対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上、同意書に署名を得た。なお、本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【結果】 1stの外旋では肩甲骨は約17度外旋、約6度下方回旋、鎖骨は約5度後方並進、胸椎は約5度伸展した。2ndの外旋では肩甲骨は約14度外旋、約7度上方回旋、約19度後傾、鎖骨は約11度後方並進・下制、胸椎は約14度伸展した。3rdの外旋では肩甲骨は約12度外旋、約6度下方回旋、約12度後傾、鎖骨は約5度下制、胸椎は約7度伸展した。また、1st、2ndでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の全ての運動で、3rdでは肩甲骨内・外旋、上・下方回旋、鎖骨の挙上・下制、胸椎の屈曲・伸展で交互作用が認められ(P<0.05)、同一角度においても内旋運動中と外旋運動中とでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の動態が異なっていた。1st、2nd、3rdポジションの共通の傾向として、内・外旋運動の最終域付近において、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動は急な増大を示した。【考察】 外旋運動において、1stでは肩甲骨の外旋・下方回旋、鎖骨の後方並進、胸椎の伸展、2ndでは肩甲骨の外旋・上方回旋・後傾、鎖骨の後方並進・下制、胸椎の伸展、3rdでは肩甲骨の外旋・下方回旋・後傾、鎖骨の下制、胸椎の伸展が同時に生じていた。内旋運動では逆の運動を同時に示した。胸椎は全てのポジションにおいて、外旋運動時に伸展し、内旋運動時に屈曲が生じており、内・外旋運動においても胸椎と肩甲骨の運動が協調していることが明らかとなった。また、3ポジション全てで外旋運動時に胸椎は伸展したが、特に2ndでの伸展角度が大きく、2nd外旋では胸椎の伸展がより重要であることが示唆された。さらに、同じ角度であっても内旋運動中と外旋運動中とでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動パターンが異なることが明らかとなった。例を挙げると、外旋最終域付近において、外旋運動中には肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動が大きくなるのに対して、内旋運動中には肩甲上腕関節の運動が大きくなる傾向にあった。肩甲骨・鎖骨・胸椎の動態は、内・外旋運動の運動方向を踏まえて理解することが必要である。【理学療法学研究としての意義】 肩関節疾患を有する多くの患者において、内・外旋運動時の肩甲上腕関節の可動域低下だけでなく、肩甲骨運動の異常も観察される。臨床的に問題が生じやすい内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動や動態が明らかとなり、患者の治療戦略立案にとって有用な情報になると考える。
著者
山内 大士 松村 葵 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101284, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩関節疾患患者では僧帽筋上部(UT)の過剰な筋活動と僧帽筋中部(MT)・下部(LT)、前鋸筋(SA)の筋活動量低下が生じることが多い。また肩甲骨運動に関しては、挙上運動時に上方回旋・後傾・外旋が減少すると報告されている。そこで肩甲骨機能の改善を目的とした様々なエクササイズが考案され、臨床現場で実施されている。特に、体幹や股関節の運動を伴ったエクササイズは近位から遠位への運動連鎖を賦活し、肩甲骨機能の改善の一助となると考えられている。しかし、体幹運動を加えた時に実際に肩甲骨運動や肩甲骨周囲筋の筋活動がどのように変化するのかは不明である。本研究の目的は、肩関節エクササイズに対して体幹同側回旋を加えた運動と体幹回旋を行わない運動とを比較し、体幹回旋が肩甲骨運動や肩甲骨周囲筋の筋活動に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】対象は健常男性13 名とし、測定側は利き腕側とした。測定は6 自由度電磁気センサーを用い、肩甲骨・上腕骨の運動学的データを測定した。また、表面筋電計を用い、UT、MT、LT、SAの筋活動を導出した。動作課題は、1)立位で肩甲骨面挙上運動(scaption)、2)立位で肩関節90 度外転位、肘90 度屈曲位での肩関節外旋運動(2ndER)、3)腹臥位で肩関節90度外転・最大外旋位、肘90 度屈曲位での肩甲帯内転運動(retraction90)、4)腹臥位で肩関節145 度外転位、肘伸展位での肩甲帯内転運動(retraction145)とした。それぞれの運動について体幹を最終域まで運動側に回旋しながら行う場合と、体幹を回旋しない場合の2 条件を行った。運動は開始肢位から最大可動域まで(求心相)を2 秒で行い、1 秒静止した後2 秒で開始肢位に戻り開始肢位で1 秒静止させた。運動速度はメトロノームを用いて規定した。筋電図と電磁センサーは同期させてデータ収集を行った。肩甲骨角度は胸郭セグメントに対する肩甲骨セグメントの オイラー角を算出し、安静時から最大可動域までの運動角度変化量を求めた。筋活動は最大等尺性収縮時を100%として正規化し、求心相の平均筋活動量を求めた。 またMT、LT、SAに対するUTの筋活動比を算出した(UT/MT、UT/LT、UT/SA)。筋活動比は値が小さいほどUTと比較してMT、LT、SAを選択的に活動させていることを示す。統計処理はエクササイズごとにWilcoxon 符号付順位検定を用い、体幹回旋の有無について肩甲骨運動角度の変化量と肩甲骨周囲筋の平均筋活動量と筋活動比を比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】被検者には十分な説明を行い、同意を得たうえで実験を行った。【結果】1)scaptionにおいて、体幹回旋を加えることで肩甲骨外旋・後傾が有意に増加した。筋活動はMT、LTが有意に増大した。筋活動比はUT/MT、UT/LTが有意に減少した。2)2ndERにおいて、体幹回旋を加えることで肩甲骨外旋が有意に増加した。筋活動はUT、MT、LTが有意に増大した。筋活動比はUT/MTが有意に減少した。3) retraction90、4)retraction145 において、体幹回旋を加えても外旋と後傾には変化がなかった。筋活動はUTが有意に減少した。筋活動比はUT/MT、UT/LT が有意に減少した。【考察】体幹の回旋を加えることで1)scaption、2)2ndERにおいてはより大きな肩甲骨外旋や後傾を誘導し、またMT、LT筋活動を増大させることができた。上肢挙上時の上部胸椎の同側回旋と肩甲骨外旋には正の相関があるとされている。よって体幹の同側回旋により上部胸椎の回旋が生じ肩甲骨外旋は増加し、また肩甲骨外旋を引き出すためにMT、LTが促通され筋活動量が増加したと考えた。 MTやLTの活動が低下し、肩甲骨が内旋・前傾する患者にはこれらのエクササイズに体幹同側回旋を加えることが適していると示唆された。3) retraction90、4)retraction145 では体幹を同側回旋させても肩甲骨の外旋や後傾を誘導することはできなかった。retractionは肩甲骨外旋を大きく引き出す運動であると報告されており、そのため体幹回旋を加えたとしてもそれ以上の肩甲骨運動の変化は見られなかったと考えられる。しかし、UTと比較しMTやLTが選択的に筋活動しやすくなるため、UTを抑制しつつMTやLTの筋活動を高めたい場合には適していると示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究で行った体幹回旋を加えたエクササイズエクササイズを肩関節疾患患者に対する従来のリハビリと組み合わせて用いることで、より効果的な理学療法を行うことができる可能性があり、臨床に生かせる理学療法研究として、本研究の意義は大きい。
著者
神田 舞子 小林 量作
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100696, 2013

【はじめに、目的】 バランス機能検査の1つとして,片足立ち検査が頻用されている.高齢者では安全を考慮し,開眼片足立ち検査が多く用いられている.一方,加齢的,健康的条件をより適切に反映することから,閉眼片足立ち検査を推奨する報告もある(Potvin,1980).特に高齢者では視覚への依存度が高く,夜間などの暗環境では視覚情報の低下により転倒のリスクが考えられる.そのため,閉眼片足立ち検査は,暗環境や視覚情報の低下を考慮したバランス能力の指標となり得る. 本研究では,閉眼片足立ち練習が,閉眼片足立ち時間の向上にどのような影響を及ぼすか検証することを目的とした.【方法】 対象は運動器疾患のない健常女性40名のうち,閉眼片足立ち時間が40秒以下(東京都立大学身体適正学研究会,2000)に該当する者20名を介入対象とした.年齢は20.3±0.9歳,身長は160.1±4.4cm,体重は53.3±4.8kgであった.対象者に対し,介入前に開眼・閉眼片足立ち時間,足趾圧迫力(足把持力測定器),足底二点識別覚,下肢筋パワー(可動式床反力計)を測定した.事前の片足立ちの結果より左右の足を比較し,低下している側の足を練習足とし,他側を非練習足とした.練習足は合計120秒の閉眼片足立ち練習を1日3回,週3日,3週間行った.そして,介入後及び介入後3ヶ月,介入後6ヶ月に再び介入前と同様の項目を測定した. 統計処理は,介入前後の比較では対応のあるt検定,練習足と非練習足の比較と,介入前後の変化量の比較では対応のないt検定を行った.介入による経時的変化の比較では一元配置分散分析を行った.有意水準は5 %未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 倫理的配慮は,厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に則り,全ての対象者に対し事前に本研究の目的及び内容を十分に説明し,全員から書面にて同意を得た.【結果】 1.閉眼片足立ち時間における,介入前(ベースライン)の練習足と非練習足の比較では,練習足が19.0±10.2秒,非練習足が28.4±12.4秒と有意差を示した.他の項目については有意差を示さなかった. 2.運動介入後,閉眼片足立ち時間は練習足で52.3±8.4秒,非練習足で45.3±13.6秒とどちらも有意に向上した.他の項目は有意差を示さなかった.また,介入後3ヶ月では練習足50.5±10.0秒,非練習足47.7±12.9秒,介入後6ヶ月では練習足44.9±12.0秒,非練習足45.2±13.4秒であった.介入後6ヶ月は介入前より有意に向上していたが,介入後よりは有意に低下した. 3.閉眼片足立ち時間の介入前後での変化量の比較では,練習足が33.3±8.6秒,非練習足が16.9±11.2秒と有意差を示した. 4.練習足における介入期間中の経時的変化において,120秒に達するまでの回数は1日目が5.3±2.4回,最終の21日目には3.3±2.0回となった.11日目4.2±2.4回から有意に減少がみられた.また,片足立ち練習の1回目の保持時間は1日目が30.6±25.7秒,最終の21日目には60.1±35.6秒となった.11日目46.2±33.2秒から有意に向上がみられた.【考察】 本研究では,3週間の閉眼片足立ち練習を練習足で行った.運動介入後,練習足,非練習足ともに閉眼片足立ち時間が向上し,介入後6ヶ月においても向上が維持されている結果となった.練習足の閉眼片足立ち時間の向上は,練習が3週間と短期間であること,足趾圧迫力,足底二点識別覚,下肢筋パワーに変化がないことから,片足立ちバランスの調整機能が運動学習されたと考えた.また,一度学習した閉眼片足立ち時間は練習をしていなくても6ヶ月間維持されていた.このことから,より難易度の低い運動課題は,一度獲得されるとその運動課題を練習しなくても維持されやすい可能性が考えられる.一方,今回非練習足でも閉眼片足立ち時間の延長がみられたことは,支持足以外の頭部,体幹,骨盤などは練習足と共有していることや運動学習の両側性転移の影響が推察される.また,両側性転移については上肢の巧緻動作や筋力増強においての報告が多い.本研究では,多くの要因が関わっているバランス能力にも運動学習の両側性転移が起きた可能性が示唆された.これらのことより,閉眼片足立ち練習により運動の特異性の原則を基に,閉眼片足立ちバランス能力が向上したと考える.【理学療法学研究としての意義】 閉眼片足立ちは転倒のリスクが考えられるため,本研究の練習方法を高齢者に安易に適応することは避けなければならない.しかし,高齢者においては,暗環境などの視覚情報の低下が転倒を引き起こす要因となり得る.したがって,安全性を保証した条件での閉眼片足立ち練習は,理学療法プログラムの1つとなり得る.
著者
山田 将弘 江島 加渚 吉田 英樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.F4P2305, 2010

【目的】直線偏光近赤外線(以下SL)の星状神経節照射は、副交感神経優位になると多々報告がされている。その反面あまり効果がないのではないかという報告もされている。そこで、SLの星状神経節近傍照射は副交感神経優位になるのかということ、さらに、SLの星状神経節近傍照射により副交感神経優位になるという仮説の元、睡眠を誘うか否かという2点を検討することを目的とした。<BR><BR>【方法】SLの星状神経節近傍照射には、東京医研株式会社製スーパーライザー(HA-2200・TP1)を使用した。スーパーライザーの先端ユニットをSGユニット・照射モードをTミックスとし、身体に重篤な既往及び疾患のない健常成人25名(男性14名、女性11名、25.1±2.5歳)の星状神経節にSLを体表から10分照射を行った。自律神経機能評価にはフクダ電子株式会社製解析機能付きセントラルモニタ(ダイナスコープ7000シリーズ・DS-7600システム・DS-7640)を用いて、連続する100心拍の心電図R-R間隔変動係数(以下CVR-R)を計測した。対象者に対して、温度(26~27&deg;C)及び湿度(50%前後)を可能な限り一定に保った室内にて、可能な限り交感神経の緊張状態を回避するために安静臥位での馴化時間を設定した。馴化時間については、17例を対象とした予備実験において10分の群と30分の群を比較した結果、明らかな違いは認められなかったので、10分を採択した。CVR-Rの測定は、馴化時間後のSL照射前と照射終了直後とし、両者の値を対応のあるt検定にて検討した。なお、統計学的検定での有意水準は5%未満とした。なお、対象者の内、男性3名、女性2名の計5名には、日本光電株式会社製脳波計(EEG-1714)を使用したSLの星状神経節近傍照射前後での脳波計測を実施し、睡眠段階判定を行った。睡眠段階の判定は医師が行い、睡眠段階判定の基準としては国際基準(Rechtschaffen&Kales,1968年)に基づき判定を行った。<BR><BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究の目的と内容を事前に説明し、研究参加の同意を得て実施した。<BR><BR>【結果】SLの星状神経節近傍照射前後でのCVR-Rの変化については、SLの星状神経節近傍照射前と比較して照射後にCVR-Rの上昇を示した例が13例、逆に低下した例が12例であり、SLの星状神経節近傍照射に伴うCVR-Rの変化パターンに一定の傾向は認められなかった(P=0.16)。一方、脳波計側によるSLの星状神経節近傍照射前後での睡眠段階の結果については、男性ではstage1からstageWへの変化例が1例、stage1からstageWへの変化例が1例、stageWから変化なしの1例となり、女性ではstage1からstage2への変化例が1例、stage1からstage3への変化例が1例であった。全体として、睡眠段階のstage変化なしが1例、低下が2例、上昇が2例であった。<BR><BR>【考察】本研究では、SL照射は睡眠を誘うか否かを検討した。CVR-RについてはSLによる星状神経節刺激により、自律神経系に影響を及ぼすのではないかと思われたが、副交感神経優位となる傾向は見られなかった。これは、佐伯らの先行研究(2001)と同様の結果であった。本研究で対象とした若年健常例は、自律神経活動が正常と考えられるため、SLの星状神経節近傍照射により大きな影響を受けなかったことも考えられる。また、若年者では安静時交感神経活動が低いとされており、あまり効果が期待できないのではなかろうか。また、脳波計測によるSLの星状神経節近傍照射前後での睡眠段階の結果では、睡眠段階の変化なしが1例、stage低下が2例、上昇が2例となり、睡眠に効果があるとは言い難い結果となった。睡眠段階の判定を担当した医師の見解でも、SLの星状神経節近傍照射は睡眠に効果があるとは言い難い結果となった。しかし、睡眠段階については、女性2名中2名においてSLの星状神経節近傍照射に伴いstageが上昇していたことを考慮すると、性差による違いも考慮した更なる検討が今後必要と考える。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今回の結果を見る限り、SLの星状神経節近傍照射は、自律神経系への効果の面で疑問が残る。他の光線(レーザーやキセノン光)を用いた星状神経節近傍照射との比較研究や、効果の検証を進める必要があるのではなかろうか。その一方で、今回の結果は、女性に対するSLの星状神経節近傍照射が「睡眠への介入の可能性」という観点で、今後更なる検討の余地があることも示している。このことは、理学療法上、極めて意義深い示唆ではないかと考えられる。
著者
辻田 純三 武村 政徳 渋谷 智也 辻田 大 賀屋 光晴 山下 陽一郎 中尾 哲也 森沢 知之 狩野 祐司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0441, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】近年,筋膜リリースと呼ばれる徒手療法が再び注目されているが,これは筋膜を伸張したり捻じれを解きほぐしたりすることで筋と筋の間や他の組織との可動性や伸展性を改善することを目的に行われる手技であり,軟部組織に起因する多くの関節可動域制限に適応する治療手技と考えられている。しかしながら筋膜リリースを行っている時の筋膜・その他の構造物がどのような変化をしているかを直接示した先行研究はみられない。我々は経皮的な吸引により関節運動や筋収縮の無い状態でも筋群や深筋膜の滑走が起こることを利用し,徒手の筋膜リリースと同様に筋と筋の間や他の組織との可動性や伸展性を改善できることを経験している。この吸引を利用した治療アプローチ(吸引療法)による関節可動域の改善等については既に症例報告等をしている(Tsujita J, et al., 2015他)が,治療中に筋膜・その他の構造物がどのような変化をしているかを直接示したものはなく,また治療前後の深筋膜の滑走性や筋硬度の変化を評価したものはない。本研究の目的は,①大腿外側部の経皮的吸引(吸引療法)により皮下の外側広筋・筋膜の滑走が生じるかを示し,②吸引療法により外側広筋・筋膜の滑走が改善するかどうかを超音波画像を用いて検討することである。【方法】大腿四頭筋の疾患を患ったことのない健常成人7名(31±15.4歳)の両脚を対象とし,先行研究に準じて膝関節0度(伸展)から45度(屈曲)に他動的に関節運動を行った時の大腿外側面超音波画像を1分間の吸引療法前後で観察記録し比較した。吸引療法は,大腿外側部遠位2分の1を特殊なノズルを用いて吸引しながら,そのノズルを長軸方向に沿って約1Hzのリズムで往復させて行った。また7名の内4名(左右8脚)においては吸引療法中も大腿外側面超音波画像を記録した。超音波画像はImageJソフトウエアーを用いて外側広筋の外側部の筋膜および外側広筋と中間広筋との共同中間腱の移動距離を計測した。吸引療法中の筋膜の移動の有無を示すとともに前後の膝関節45度屈曲における移動距離を分散分析を用いて比較し,また先行研究における移動距離とも比較・検討した。【結果】膝関節屈曲45度における中間腱の移動距離(mm)は吸引療法前が吸引中の移動距離(mm)は26.8±7.57,吸引療法後32.2±7.39であり,吸引療法により有意に改善され先行研究の筋膜リリースと同等な効果が確認できた。また吸引療法中,筋膜で5.4±2.56,中間腱で6.0±2.33の移動が認められた。【結論】吸引療法中の筋膜の変化を示すことができ,また吸引療法による筋膜の滑走性も徒手の筋膜リリースと同等な改善が認められ,吸引を利用した治療アプローチ(吸引療法)は徒手療法の筋膜リリースと同様な効果が期待できるといえる。今回の吸引療法は1分間の処置であり先行研究の4分間より短時間で同等な効果を示したことになるが,より効果的であるかどうかはさらに検討したい。
著者
平松 拓也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1316, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】スクワット動作は閉鎖運動として代表的なエクササイズである。スクワット動作において骨盤肢位の変化は二関節筋である大腿直筋の機能が異なりそれを明らかにすることはこの動作での二関節筋の機能的役割の解明につながる。通常の二関節筋の収縮状況を起始と停止が近づくように運動する。しかし,大腿直筋のスクワット動作時の筋長の変化に焦点を当てた研究は渉猟した範囲に見当たらない。そこで骨盤前傾位と中間位でスクワット動作を行った際の大腿直筋長の変化を3次元動作解析機を用い明らかにすることを本研究の目的とした。【方法】被験者は下肢に手術の既往がなく踵部を挙上せずスクワット動作が可能な男性10名(年齢20~22歳,21.90±2.23歳)とした。課題動作の骨盤前傾位スクワットでは下腿と体幹の長軸が平行な状態で行い,骨盤中間位スクワットでは体幹が床に対して直立した状態で行った。被験者は両踵骨マーカー間を上前腸骨棘の幅に合わし立位姿勢をとる。次にスクワット動作を骨盤前傾位と骨盤中間位で3回ずつ行った。これを1セットとし4セット行った。スクワット中の運動力学データは赤外線反射マーカーを身体各標点に貼付し赤外線カメラ8台を用いた三次元動作解析装置VICON MX(VICON社製,Oxford)を使用した。三次元動作解析装置から得られた運動力学データと身長・体重からデータ演算ソフトBody Builder(VICON社製,Oxford)を用いて関節角度,大腿直筋全長,大腿直筋遠位部長,大腿直筋近位部長を以下の方法で算出した。上前腸骨棘と膝蓋骨の上面に貼付したマーカーとの距離を求め,これを大腿直筋全長の近似値とした(大腿直筋全長)。次に大転子と大腿骨外側上顆に貼付したマーカーを直線で結び,その直線の中点を大腿骨中点とする。大腿骨中点から上前腸骨棘と膝蓋骨上面に貼付したマーカーを結んだ線に対し垂線を引きその交点を求めた。交点から上前腸骨棘に貼付したマーカーまでの距離を近位部長,交点から膝蓋骨上面に貼付したマーカーまでの距離を遠位部長とした。スクワット動作時の屈曲動作相の膝関節屈曲15°,30°,45°,60°の各々の大腿直筋全長,近位部長,遠位部長を求めた。骨盤肢位と膝関節屈曲角度を要因として2元配置の分散分析を用いた。また,Tukey法を用い危険率5%をもって有意差ありとした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿っており研究の実施に先立ち広島国際大学医療研究倫理委員会の承認を得た。また,被検者に対して研究の目的と内容を十分に説明し文章による同意を得た後実施した。【結果】大腿直筋全長において骨盤前傾位スクワットでは膝関節屈曲角度が増加するにつれ短くなる傾向にあった(15°:454.47mm vs 30°:443.06mm vs45°:429.66mm vs60°:414.74mm)。しかし,骨盤中間位スクワットは屈曲角度による大腿直筋全長の変化はなかった(15°:456.01mm vs 30°:455.61mm vs 45°:450.56mm vs 60°:447.52mm)。両条件のスクワットともに大腿直筋近位部長は膝関節屈曲角度が増加するにつれ短くなり(骨盤前傾位15°:267.68mm vs 30°:246.84mm vs 45°:221.82mm vs 60°:196.58mm 骨盤中間位15°:271.01mm vs 30°:259.90mm vs 45°243.88mm:vs 60°:230.36mm),大腿直筋遠位部長は角度が増加するにつれ長くなった(骨盤前傾位15°:186.80mm vs 30°:196.22mm vs 45°:207.84mm vs 60°:218.16mm 骨盤中間位15°:185mm vs 30°:195.72mm vs 45°:206.68mm vs 60°:217.17mm)。【考察】本研究は骨盤前傾位スクワットでは膝関節屈曲角度が大きくなるとともに大腿直筋全長は短くなり,骨盤中間位スクワットは有意な長さの変化は認められなかった。骨盤中間位スクワットは大腿直筋全長の求心性収縮を伴う運動様式が行えていないのに対し骨盤前傾位でのスクワットは求心性収縮を伴った運動であることが明らかとなった。また,骨盤前傾位と中間位のスクワット時ともに大腿直筋近位部は短縮され遠位部は伸張された。本研究結果から骨盤前傾位・中間位スクワットともに大腿直筋の近位部では求心性運動が起き遠位部では遠心性収縮が起きていることが明らかになった。園部らは膝関節股関節同時屈曲の際に大腿直筋の近横断面積が最大になる位置から4cm近位に貼付した電極部での筋活動は大きくなり,8cm遠位に貼付した電極では筋活動は小さくなったと報告した。本研究においてスクワット動作時に大腿直筋の近位部が短くなり遠位部が長くなるという結果を反映している可能性が示唆される。【理学療法学研究としての意義】スクワット運動を行う際に骨盤肢位を変化させることは大腿直筋の機能をより特異的にトレーニングできる可能性を示唆しその点において本研究は理学療法研究として意義がある。
著者
粟生田 晋哉 小宮 桂治 髙村 浩司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1097, 2012

【はじめに、目的】 臨床では、対象者の姿勢の安定や動作修正のために、セラピストが徒手的に介入する事が多い。しかし、過度な介入は対象者の運動制御の機会を逆に損なわせる事になりかねない。また運動制御において、感覚情報としてフィードバックに利用できる物は、自身が運動を遂行する事によって変化する体性感覚であり、特に筋・骨格系から入力される手足の動きや位置の情報は重要である。先行研究に、身体位置関係の認識が立位姿勢バランスと関連するという報告があるが、それを用いた運動学習や歩行に言及した報告は少ない。そこで目的として、健常者を通じ、下肢を中心とした身体認識を促す運動学習が立位及び歩行における運動制御に及ぼす影響について検証する事とした。【方法】 対象は下肢・腰椎に整形外科疾患の既往のない健常成人20名(平均年齢25.7±1.7歳)とした。研究デザインは2群間のパラレル比較に基づくランダム化比較試験とし、対象者を乱数表により無作為に介入群と対照群に割り付けた。群の割り付け情報は対象者にのみ盲検化を行った。下肢の空間での身体認識能力の評価として、立位で一側下肢を挙上し母趾にて目標物へのポインティング(以下PTG)を行いその位置を学習させた。その後、閉眼で再試行し認識誤差距離を測定した。これを左右斜め前方と後方の3方向行い誤差距離の合計を計算した(以下PTG誤差)。また、立位バランスの指標として開・閉眼静止立位(30秒)と開・閉眼での両側片脚立位(10秒)の重心動揺検査による総軌跡長(以下LNG)、及び開・閉眼での左右・前後への最大重心移動幅を測定した。測定機器は、任天堂社製Wiiバランスボードを用い、富家千葉病院作成のプログラムを使用しデータ化した。また歩行能力の評価は、10m歩行(最大速度)と応用歩行の評価指標に用いられている障害物歩行テストと方向転換歩行テストを組み合わせた応用歩行テスト(以下応用歩行テスト)を独自の評価指標をとして用い、快適・最大速度で行い歩行速度を測定した。上記評価を課題前後に測定した。介入群には、身体感覚を積極的に認識させる運動学習として、閉眼立位にて片側下肢での目標物へのPTGを自身で探索しながら3方向に各3回ずつ実施した。一方対照群では、介入群と同様の関節運動をセラピストが対象者の足部を徒手誘導することにより同回数実施した。その際、被検者自身に身体認識は一切求めずに行った。そして同群間の課題前後の検定にはWilcoxon符号付き順位和検定を、2群間の検定にはMann-WhitneyのU検定を用いた。なお統計解析には「改変Rコマンダー」を使用し、有意水準5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、被験者全員に研究の目的・方法の説明を行い、書面にて同意を得た。【結果】 介入群では、PTG誤差、開眼静止立位、PTGした下肢を支持側とした開眼片脚立位でのLNG、開・閉眼での左右への最大重心移動幅、及び応用歩行テストでの快適・最大歩行速度において有意差が認められた。また対照群では、PTG時と同じ片脚立位でのLNGのみ有意差が認められた。2群間の比較では、PTG誤差、応用歩行テストでの快適・最大歩行速度で有意差が認められた。【考察】 介入群では、先行研究と同様に立位バランスに一定の効果が認められた。理由として、揺らぎの修正や自身の重心位置や下肢の角度・方向などの身体情報を正確に認識しようとする事により、動的立位での体性感覚フィードバックが活性化した事が考えられる。また対照群においても、意識していなくても下肢を空間制御する中で自律的な姿勢反応による効果が生じていたと考えられる。そして、対照群と比して純粋に身体認識を促す学習を行った効果としては、PTG誤差と応用歩行テストにおいて有意差を認めた。受動的な接触や静的立位、片脚立位では、高次運動野領域には活性化が認められなかったが、識別を要求した認知的課題やより動的な制御や意図的かつ予測的な運動制御が要求される場面では、頭頂葉や前頭前野、補足運動野を中心とした高次運動野等の活動増加が認められたとの報告がある。今回の結果は、身体認識を促す学習を、より動的な制御下で行った事で、高次運動野等に働きかけ応用歩行における予測的な運動制御につながったと推測される。しかし、立位と歩行での制御システムの違いや他の環境・身体要因の影響に対しての配慮が十分ではなく、今後その課題も踏まえ検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 身体認識を促す知覚学習は、皮質等高次脳機能による予測的な運動制御を要する、環境に適応するための跨ぎ動作や方向転換等の応用歩行における治療の一助となる可能性が示唆された。
著者
堤 省吾 浦辺 幸夫 前田 慶明 藤井 絵里 森山 信彰 岩田 昌
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1329, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腸脛靭帯(ITB)は大腿筋膜張筋(TFL)と大殿筋の一部を起始とし,ガーディー結節に付着する筋膜様組織である。腸脛靭帯炎はランニングやサイクリングなどの同じ動作を反復するようなスポーツに多く,ITBと大腿骨外側上顆間に生じる摩擦の繰り返しが原因である。またITBの緊張の高さは,腸脛靭帯炎発症のリスクファクターであることが報告されている。ITBは主にTFLの収縮に伴い張力が変化するため,予防や治療にはTFLのストレッチングが行われる。しかしTFLのストレッチングによってITBの柔軟性がどの程度向上するかは不明である。本研究の目的は,柔軟性の評価のひとつである硬度を指標とし,TFLのストレッチングがITBに与える影響を定量化することとした。仮説は,ITBの硬度はストレッチング後に低下するとした。【方法】対象は下肢に整形外科的疾患の既往がない健常成人男性7名(年齢23.1±1.3歳,身長171.2±7.1 cm,体重62.6±9.5 kg)の利き脚とした。ストレッチング肢位は,検査側下肢が上方の側臥位で膝関節90°屈曲位とした。骨盤の代償運動を抑制するため,非検査側の股関節は屈曲位とした。検者が徒手的に検査側下肢を股関節伸展し,大腿遠位外側部に押し当てた徒手筋力計μTas F-1(ANIMA社)の値が50-70Nの間となるように内転方向へ伸張した。ストレッチング前後のITBの硬度測定には,筋(軟部組織)硬度計TDM-Z1(TRY-ALL社)を使用した。再現性の高さについては既に報告されている(ICC=0.89以上)。測定は硬度計の取り扱いに習熟した検者1名が行った。測定肢位は,検査側下肢が上方の側臥位で,股関節屈伸・内外転・回旋0°,膝関節屈曲90°とした。測定部位は,大腿骨外側上顆から大腿長の5%,25%,50%近位の3箇所とし,下肢を脱力させた状態で5回測定し,平均値を算出した。統計学的分析にはSPSS 20.0 for windowsを使用した。対応のあるt検定を用い,ストレッチング前後の各部位の硬度を比較した。危険率5%未満を有意とした。【結果】ITBの硬度(N)は,ストレッチング前,後それぞれ5%で1.39±0.1,1.25±0.14,25%で1.24±0.08,1.15±0.13,50%で1.08±0.13,1.01±0.13となり,ストレッチング後に各部位で有意な低下がみられた(p<0.05)。【結論】本研究では硬度計を使用し,ストレッチング前後におけるITBの硬度の定量化を試みた。結果,ITBの硬度は遠位になるほど高い傾向があったが,全ての部位でTFLのストレッチングにより有意に低下した。客観性に乏しく表現されることが多い硬度を定量化し,比較指標とすることは臨床的に意義がある。今後は,腸脛靭帯炎の発症部位である大腿骨外側上顆付近のITBにより効果のあるストレッチング法を模索し,硬度変化を検討していく。また硬度計の他に超音波測定装置を併用することで,組織の評価をより客観的に行い,腸脛靭帯炎の予防や治療に最適なストレッチング法構築の一助としたい。
著者
西山 保弘 工藤 義弘 矢守 とも子 中園 貴志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1O2003, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】 本研究では温浴と冷浴との温度の落差が自律神経活動や体温に与える影響を検討したので報告する.【方法】 文書同意を得た健常男性5名(平均年齢23.8±4.91歳)に温浴41°Cと冷浴15°Cならびにその両方を交互に行う交代浴の3つの部分浴を実施した.交代浴の方法は水関らの温浴4分,冷浴1分を4回繰り返し最後は温浴4分で終わる方法に準じた.温浴のみは計20分、冷浴のみは計10分浸漬した.安静馴化時から部分浴終了後120分間の自律神経機能、舌下温度、血圧、心拍数、動脈血酸素飽和度、手足の表面皮膚温を検出した.測定間隔は安静馴化後、施行直後、以下15分毎に120分までの計7回測定した.表面皮膚温度は、日本サーモロジー学会の測定基準に準じサーモグラフィTH3100(NEC三栄株式会社製)を使用した.自律神経機能検査は、心電計機能を有するActivetracer (GMS社製 AC301)を用いて被検者の心拍変動よりスペクトル解析(MemCalc法)を行いLF成分、HF成分を5分毎に平均値で計測した.統計処理は分散分析(one way ANOVA testと多重比較法)を用いた.【結果】 副交感神経活動指標であるHF成分は、交代浴終了後60分以降より有意差をみとめた(P<0.05).温浴と冷浴は終了後60分で変化が一定化し有意差は認めなかった.交感神経活動指標とされる各部分浴のLF/HF比は、温浴と冷浴は変化が少なく交代浴は終了後60分から低下をみたが有意差は認めなかった.舌下温度は、交代浴と温浴(P<0.01)、交代浴と冷浴(P<0.01)、温浴と冷浴(N.S.)と交代浴に体温上昇を有意に認めた.表面皮膚温にこの同様の傾向をみた.最高血圧は、交代浴と温浴(P<0.01)、交代浴と冷浴(P<0.01)、温浴と冷浴(P<0.01)で相互に有意差を認め交代浴が高値を示した.【考察】 交代浴と温浴および交代浴と冷浴の相異はイオンチャンネル(温度受容体)の相異である.温浴は43°C以下のTRPA4、冷浴は18°C以下のTRPA1と8°Cから28°CのTRPM8、交代浴はこのすべてに活動電位が起こる.もう一つは温度幅である.温水41°Cと冷水15°Cではその差は26°C、体温を36°Cとすれば温水温度とは5°C、冷水温度とは21°Cの温度差がある.この温度幅が交代浴の効果発現に寄与する.単温の温浴や冷浴より感覚神経の刺激性に優れる理由は,温浴の41°Cと冷浴の15°Cへの21°Cの急激な非侵害性の温度差が自律神経を刺激しHF成分変化を引き起こす.また交代浴の体温上昇からは、温度差は視床下部の内因性発熱物質(IL1)を有意に発現させたことなる.【まとめ】 温度落差が自律神経活動に及ぼす影響は、単浴に比べ体温を上昇させること、副交感神経活動を一旦低下を惹起し、その後促通するという生理的作用に優れることがわかった.
著者
村田 伸 大田尾 浩 村田 潤 宮崎 正光 甲斐 義浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1O2020, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】高齢者や身体障害者の下肢・体幹機能を定量的に測定する方法は、等速性筋力測定機器やハンドヘルドダイナモメーターによる筋力測定、または立位における重心動揺の測定などが一般的である.しかしこれらの方法は、使用する測定機器が高価なものが多く、測定できる臨床現場は限られている.そこで演者らは、高齢者および脳卒中片麻痺患者の下肢・体幹機能を簡便かつ定量的に評価する方法として、市販体重計を用いた座位での下肢荷重力測定法を考案し、その測定値の有用性について検討したので紹介する.【方法】測定は座位姿勢で、足底に置いた体重計を垂直方向に最大努力下で左右別に3秒間押すのみである.測定は左右2回ずつ行い、左右の最大値を合計して下肢荷重力(kg)とし、体重比百分率(%)に換算して分析した.なお、下記に示す健常成人ならびに要介護高齢者には、研究の趣旨と内容および被験者にならなくとも不利益が生じないことを十分に説明し、同意を得て研究を開始した.【健常成人における検討】座位での下肢荷重力が、下肢や体幹の機能を反映しているのか否かを検討するため、健常成人31名(男性12名、女性19名、平均20.4±0.6歳)を対象に下肢荷重力、下肢筋力(大腿四頭筋筋力)、体幹機能(坐位保持能力)を測定し、それらの関連性を分析した.相関分析の結果、それぞれに有意な正相関(0.46~0.66)が認められ、下肢荷重力は下肢筋力および体幹機能と密接に関連していることが示唆された.【要介護高齢者における検討】座位での下肢荷重力測定法の再現性と妥当性を検討するため、介護老人保健施設に入所中の43名(84.8±6.5歳)の要介護高齢者を対象に、下肢荷重力、Barthel Index(BI)得点、歩行能力を測定し分析した.テスト-再テスト法による級内相関分析の結果、下肢荷重力はICC=0.823という良好な再現性が認められた.また、下肢荷重力とBI得点とは有意な正相関(0.75)が認められ、自力歩行が可能だった25名の下肢荷重力と歩行速度とも有意な正相関(0.53)が認められた.さらに判別分析の結果、歩行可能群(25名)と不可能群(18名)を最もよく判別する下肢荷重力体重比の判別点は42.9%であり、判別的中率は86.0%であった.なお、下肢荷重力体重比が50%以上であれば、対象とした全ての高齢者が歩行可能であった.【考察】これらのことから、本測定法は大まかな基準ではあるが、高齢者の簡易下肢・体幹機能評価法として有用であることが示唆された.とくに、坐位で測定が可能なため、立位や歩行が困難、あるいは治療上立位動作が許可されていない高齢者の予後予測に使用できる可能性が示唆された.なお学会当日は、脳卒中片麻痺患者を対象とした研究結果や本測定法の限界についても報告する予定である.