著者
石川 真暉 新家 隆佑 鈴木 学
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>理学療法士養成校には,教育課程の中に臨床実習(以下実習)が設定されている。これは学生が理学療法士になるためには重要な科目であるが,学生は実習に対して多かれ少なかれ不安を持っていて,それには学生の知識や技術レベル,性格など様々な要因が関係していることが考えられる。実習に対する学生の不安に関する先行研究で,杉戸らは,実習中では,自由な子の方が睡眠時間が長く,ストレスが低い,と報告しているが,個人の性格が実習に対して実習前の不安及び実習中のストレスとの関連しているという報告は極めて少ない。本研究では,個人の性格による実習への不安および実習中のストレスとの関連を明確にし,円滑な臨床実習の一助にすることを目的とした。</p><p></p><p>【方法】対象はA大学の理学療法学科3年の学生69名とした。方法は実習前に性格診断と実習不安に関するアンケート,実習後に実習中のストレス検査を実施した。性格診断の調査は淡路・岡部式向性検査表を用いて,50項目の二者択一で性格を外向性,内向性に分類した。また実習への不安調査は,21項目からなる5段階評価(1=不安~5=安心)で,ストレス検査は,SRS-18(Stress Response Scale=心理的ストレス反応尺度)を用いた。これは18項目の質問からなり,実習中の心理状態を想起し,4段階評価(0=全く違う~3=その通りだ)とし,3タイプのストレス(抑うつ・不安,不機嫌・怒り,無気力)を算出し合計得点を総合的ストレス得点とした。統計処理は性格による不安およびストレスとの差異をマンホイットニーのU検定で検討した。また性格毎に不安とストレスとの関係をスピアマンの順位相関分析にて検討した。統計ソフトはSPSSstatistics23を使用し,有意確率は5%未満とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>アンケート回答者は69名(男性37名,女性32名)であった。内向性と外向性による不安に関しては,有意差はないが,ストレスでは外向性の方が有意に高かった(p<0.05)。外向性の性格では不安はストレスとの間には「総合的ストレス」(ρ=0.995)であった。内向性の性格でも不安とストレスとの間には「総合的ストレス」(ρ=0.979)であった。不安は3タイプのストレス反応および総合的ストレスとの間には有意な強い正の相関が見られた。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>性格による不安の程度に差はないが,ストレスは外向性の性格の方が高かった。不安とストレスの関連では,不安の程度とストレスの程度は反比例することが示唆された。不安が強いことで,実習に対する学習意識が強くなり,実習中のストレスが低くなると考える。また,不安が低いことで実習に対する準備不足になる可能性があり,実習の遂行に支障をきたしストレスの増強に繋がると考えられる。今後不安が少ない学生に対しても,適度な緊張感を与えることが必要であると考える。</p>
著者
岡邨 直人 相馬 俊雄 関根 裕之 大野 健太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P3003, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】近年,スポーツ施設や医療機関,地方自治体などで,筋力増強,柔軟性向上などを目的に,振動刺激装置(以下,ガリレオ)を用いたトレーニングが行われている.ガリレオは,振動板上で立位や軽いスクワット姿勢保持を行う全身ガリレオと,手で把持しながら振動刺激が得られる上肢把持型振動刺激装置(以下,上肢ガリレオ)がある.しかし,上肢ガリレオの効果について筋電図学的に検討を行なった報告はほとんど見られない.そこで本研究の目的は,上肢ガリレオを用いて,振動周波数と上肢の肢位を変化させた時の肩関節周囲筋の筋活動量を明らかにすることである.【対象と方法】対象は本研究内容を十分に説明し,同意を得た健常成人男性10名(平均年齢:26.0±4.7歳,身長:169.8±5.7cm,体重:65.8±8.0kg)とした.使用機器は,表面電極,筋電図解析装置一式,上肢ガリレオ(株式会社エルクコーポレーション)を用いた.課題動作は,右手で上肢ガリレオ(重さ3kg)を保持して(1)端座位で肘関節90°屈曲位,(2)端座位で肩関節90°屈曲位,(3)背臥位で肩肘関節90°屈曲位,(4)背臥位で肩肘関節60°屈曲位の4条件とし,その肢位で10秒間保持した.筋電図(EMG)導出は,右側の上腕二頭筋,上腕三頭筋,三角筋(前部・中部・後部線維)とした.振動周波数は振動なし,10Hz,20Hz,30Hzの4条件とした.動作中のEMGは,サンプリング周波数1KHz,バンドパスフィルタ35~500Hzで計測した.解析は,運動開始から5秒後以降の3秒間の各2回の平均値を算出した.正規化は,各筋の最大随意等尺性収縮中の区間300msecの積分値(IEMG)を基準とした(%IEMG).統計処理は4条件において一元配置分散分析を行い,事後検定にはTukey-Kramer法を用いて,有意水準を5%とした.【結果】すべての筋・肢位において,振動なし・10Hz・20Hzより30Hzで有意に大きな値を示した.肩関節90°屈曲位保持の三角筋前部線維の30Hzでは46.7%MVC,三角筋中部線維の30Hzでは59.6%MVCの筋活動量がみられた.また,すべての筋において,振動なしの活動量に対して,30Hzで1.5~4倍の活動量がみられた.【考察】結果より,30Hzで振動なし・10Hz・20Hzより大きな筋活動量を示した.これは実際に機器を把持した際の筋活動量に加え,振動刺激により筋に反射性収縮が発生しているため,筋活動量が増加したと考えられる.また,肩関節90°屈曲位の三角筋前部・中部線維で約50~60%という筋活動量が得られた.このことから30Hzでは,肩関節周囲筋の筋力増強としての効果が期待できると考えられる.
著者
小林 裕生 森田 伸 田仲 勝一 内田 茂博 伊藤 康弘 藤岡 修司 刈谷 友洋 板東 正記 田中 聡 金井 秀作 有馬 信男 山本 哲司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Fb0802, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 温熱療法は臨床において,加温による生理反応を利用し疼痛軽減,循環改善,軟部組織の伸張性向上などを目的に施行されている.温熱療法は一般に筋力トレーニングや動作練習といった運動療法前に施行される場合が多く,温熱負荷が筋力へ及ぼす影響を理解しておく必要がある.しかし,温熱負荷による筋力への影響についての報告は,種々の報告があり統一した結論には至っていない.本研究の目的は,一般的な温熱療法である HotPack(以下,HP)を使用した際の,深部温の変化に伴う等速性膝伸展筋力への影響を検討することである.【方法】 対象は,骨関節疾患を有さず運動習慣のない健常人9名(男性6名・女性3名,平均年齢29.2±5.2歳,BMI 22.4±3.3)とした.測定条件は,角速度60deg/sec・180deg/secの2種類の等速性膝伸展筋力(以下ISOK60・ISOK180)をHP施行しない場合と施行する場合で測定する4条件(以下 ISOK60・HP-ISOK60・ISOK180・HP-ISOK180)とした. HPは乾熱を使用し,端坐位にて利き脚の大腿前面に20分施行した.温度測定には深部温度計コアテンプ(CT‐210,TERUMO )を使用.皮下10mmの深部温の測定が可能であるプローブを大腿直筋中央直上に固定.安静時と HP 施行直後にプローブを装着し,測定器から温度が安定したという表示が出た時点の数値を深部温として記録した.等速性膝伸展筋力は, CYBEX Norm を使用.測定範囲は膝関節伸展0°・屈曲90°に設定,各速度で伸展・屈曲を3回実施した.なお,測定は筋疲労の影響を考慮し各条件は別日に実施した. 深部温の変化は,HP施行前とHP施行直後の深部温の平均値を算出し,等速性膝伸展筋力はピークトルク値を体重で正規化し平均値を算出した.いずれも統計学的検定は,各速度で HP を施行する場合と施行しない場合を対応のあるt検定で比較した.なお有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に本研究の趣旨と内容,起こりうるリスクを説明し,書面にて同意を得た者のみ実験を行った.【結果】 深部温の変化は, HP 施行前34.44±0.52℃, HP 施行後37.57±0.24℃であり有意に温度上昇を認めた(p<0.001).等速性膝伸展筋力に関しては,ISOK60で1.9±0.7Nm/Kg,HP-ISOK60で2.0±0.5 Nm/Kg, ISOK180で1.2±0.4 Nm/Kg, HP-ISOK180で1.4±0.5 Nm/Kg という結果を示し, ISOK180と HP-ISOK180で有意差を認めた(p=0.01).【考察】 一般に HP は表在を加温する温熱療法であるが, HP 施行により深部温度は有意に上昇していた.加温による筋への影響について,生理学的には組織温が上昇することで末梢循環では代謝亢進や血流増大,ATP利用の活性化,神経・筋系では末梢神経伝達速度の上昇,筋線維伝導速度上昇に伴う筋張力の増加が期待できるという報告がある.今回の研究では,等速性膝伸展筋力の変化に関して, ISOK60とHP-ISOK60は有意差がみられなかったが, ISOK180と HP-ISOK180で有意差がみられた.したがって,深部温の上昇に伴う組織の生理学的変化はより速い速度での筋収縮に影響することが示唆された.この生理学的背景としては,組織温の上昇に伴う ATP の利用の活性化が第一に考えられる.筋肉は強く,瞬発力を要する筋張力を発揮する場合,運動単位としては速筋線維の活動が初期に起こるとされている. ATP 産生が酸化的に起こる遅筋線維と比較しても速筋線維は ATP 産生が解糖系であるためエネルギー遊離速度が速いといわれていることから,温度上昇により速筋線維の活動が賦活され筋力増加につながったのではないかと考えられる.さらに,神経伝達速度の上昇に伴い筋収縮反応性が向上したことも影響した要因の1つだと予想される. 今後は温度上昇部位の詳細な評価や温熱の深達度に影響を及ぼす皮下脂肪厚測定,誘発筋電図による神経伝達速度の評価を行い,今回の結果を詳細に検討していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 等速性膝伸展筋力は,筋収縮の特異性として速い角速度ほど動作能力に結びつきやすいといわれている.今回の研究において,深部温の上昇に伴いより速い角速度での等速性筋力が増加したことは,温熱療法が筋力へ影響することを示唆する結果となった.このことは,運動療法前に温熱療法を行うことの意義が拡大すると考えられる.
著者
比屋根 友恵 仲西 孝之 比嘉 淳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>女性療法士の増加に伴い,就労環境やワークライフバランスに関する研究が報告されている。我々は回復期リハビリテーション病棟協会第21回研究大会in金沢において,当院で勤務するママ療法士を対象に働きやすさの調査を行った際,当院は働きやすいという調査結果を報告した。今回我々は,当院で勤務する産前産後休暇・育児休暇(以下:育休)から復職した女性療法士に対して,復職する際の不安や復職後の課題や要望などについて把握し,必要な復職支援を行うため,育休時,復職時,復職後の状況調査を行ったので,考察を加えて報告する。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は平成25年4月~平成28年6月の期間,育休から復帰した当院で勤務する女性療法士20名(PT8名OT9名ST2名。平均年齢33.1歳,お子さんの人数1.9人)とした。方法は質問紙法(無記名)とし,調査内容の大項目は1)育休中の状況,2)復職する際の不安内容(複数回答),3)必要と感じたサポート,4)復職後の状況や課題,5)子育てをしながら仕事をするために必要な設備や制度などとした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>調査票の回収率は95%(19通)であった。育休中は上司や同僚など相談できる人がおり,サポートは必要ないと答えた者は74%であったが,必要・欲しい情報として,手続きなどに関する情報,復帰先や職種の状況,勉強会などの情報が欲しい答えた者は53%(10名)あった。復職時の不安として最も多かったのは,仕事と子育ての両立であり,89%が上位(1~3位)の回答であった。続いて体力・知識・残業の順であった。復職直後は,勤務時間の考慮や人数などの体制についてサポートを望む者が63%(12名)であった。また復職時の手続きは63%(12名)がわかりやすいとの回答であったが,いつ,どう動いていいかわからず困った者や面談をしたいという声もあった。復職後は,95%(18名)が子供の体調不良による年休消化,仕事と子育ての両立,保育園の送迎,勤務時間外の勉強会への参加困難など,何らかの不安や課題を抱えながら仕事をしていた。子育てをしながら仕事を継続できそうかという質問に対しては,できそうが37%,どちらともいえないという回答が53%(10名)であった。今後,当院に取り入れてほしい制度やサポートについては,年休制度の変更や看護休暇や時短正社員制度,保育施設の導入,勤務時間内の勉強会開催などであった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>本調査から当院における女性療法士の復職時は,適宜状況や意思の確認をするとともに,復職マニュアルを作成することでスムーズな復職につながると考えられた。復職後は"仕事と子育ての両立"に不安や課題を抱えながらも,専門職として働く意義を感じている状況のため,個々の状況を考慮しながら,サポートする必要性を感じた。</p>
著者
土田 和可子 波之平 晃一郎 梶村 政司 森田 哲司 政森 敦宏 小川 健太郎 児玉 直哉 山本 真士 松井 和寛 河原 裕美 藤村 昌彦 弓削 類
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E0763, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 最近,クリニカルパスの導入に伴い,入院日数が短縮され,病棟での自主練習や自宅でのホームエクササイズの重要性が高まっている.しかし,対象者は高齢者であることが多く,運動内容や負荷量・回数などを一度で覚えることは容易ではない.そのため,本研究では,説明パンフレットを患者個別に対して容易に作成できるソフトウェア(以下ソフトウェア)を開発し,理学療法の場面に活かしていける要素を検討した.【方法】 本研究に同意の得られた病院勤務の理学療法士20名(8施設,女性8名,男性12名,平均年齢27.3±5.75)を対象とし,ソフトウェア使用群10名,パンフレット使用群10名の2群に分けた.対象の2群に対し,患者数,ホームエクササイズ指導の現状と介入効果について調査研究を行った.また,ソフトウェアもしくは6種類の運動パンフレットを配布し,使用方法を説明した.この説明の2週間後,4週間後,6週間後に,質問紙にて調査を行った.調査項目は,ホームエクササイズ指導回数,パンフレット作成回数,パンフレット配布の重要性,等とし比較検討した.統計処理は,T検定を行い,有意水準を5%とした.【結果】 ホームエクササイズの指導状況は,指導回数平均8.7回/月(3.9回/2w),指導時間7.9分/回,また全体の60%が既存のパンフレットがあると答えた.パンフレットの作成・使用回数は1.08回/2w,パンフレットの重要性は4.9(7段階評価),ホームエクササイズの重要性は5.1(7段階評価)であった.介入前のソフトウェア群とパンフレット群においては,各項目において有意差は認められなかった.ソフトウェア群,パンフレット群ともに介入後において運動パンフレット作成回数が介入前より増加した.作成回数の介入前後の変化量は,パンフレット群に比べソフトウェア群の方が有意に高かった.【考察】 パンフレットを配布することは,患者が治療の目的,運動回数,実施期間等を理解する上で必要である.アンケート調査によりホームエクササイズの指導は,2週間に平均3.9回行っていた.しかし,パンフレットは,その27.4%しか用いられてなかった.アンケートによると,配布しない理由として,「忙しい」「作成に時間がかかる」との回答があった.本研究では、ソフトウェアを導入することによって,パンフレット作成回数が増加した.これは,セラピストにとって,業務負担が少なく,実用的なツールとなったためと考えられる.今後は、個別対応したパンフレットの患者への効果も明らかにしてく必要がある.
著者
森岡 周 大住 倫弘 坂内 掌 石橋 凜太郎 小倉 亮 河野 正志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第52回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2017-03-24

【はじめに,目的】運動イメージの想起を求める臨床手続きはメンタルプラクティス課題を含め,脳卒中後の上肢運動障害に対して効果を示すことが数多く報告され,医学的根拠も明確になっている(Langhorne 2009)。加えて,運動イメージ時の脳活動は実運動と等価的であることが我々の研究(Nakano, Morioka 2014)他,多くの研究で明らかになっている。しかしながら,運動イメージの定量的評価が臨床場面に導入されていない背景から,運動イメージ能力が直接的に片麻痺上肢機能に関与するかは不明である。本研究では,両手協調運動課題(bimanual circle-line coordination task:BCT)を用いて,運動イメージ能力を定量的に調べ,運動イメージ能力が片麻痺上肢の運動機能や麻痺肢の使用頻度に関係するかを明らかにする。【方法】対象は認知障害のない脳卒中片麻痺患者31名である。BCTにはタブレット型PCを使用し,その課題はunimanual-line(UL):非麻痺側のみで直線を描く条件,bimanual circle-line(B-CL):非麻痺側で直線を描き麻痺側で円を描く条件,imagery circle-line(I-CL):非麻痺側で直線を描き麻痺側で円を描くイメージを行う3条件で行い,各々12秒間3セット,ランダムに実施した。描かれた直線を記録し,その軌跡をMatlab R2014b(MathWorks)を用いて解析した。解析は軌跡を1周期ごとに分解し,その歪みを数値化するためにovalization index(OI)を求めた。OIは[X軸データの標準偏差/Y軸データの標準偏差]×100により算出した。運動麻痺の評価にはFugl-Meyer Motor Assessment(FMA),日常生活での使用頻度にはMotor Activity Log(MAL)のAmount of Use(AOU),動作の質にはMALのQuality of Movemen(QOM)を用いて評価した。一元配置分散分析後,多重比較検定(t-検定)を用い3条件のOI値を比較した。また,I-CLのOIとFMA,AOUおよびQOMの関係を調べるためにピアソン相関係数を求めた。有意水準は5%とした。【結果】ULに対しB-CLおよびI-CLのOIで有意な増加を認めた(p<0.00001)。I-CLのOIとFMAの間に有意な相関がみられないものの,I-CLのOIとAOM(r=0.3883,p<0.0154)およびQOM(r=0.3885,p=0.0153)に有意な相関関係を認めた。【結論】本結果から,非麻痺側で直線を描き,麻痺側で円を描くイメージを行う条件であっても有意な楕円化を認めた。すなわち,運動イメージの存在を定量的に確認することができた。一方,それは運動麻痺の程度に直接に関係しないものの,麻痺肢の使用頻度や動作の質に関係することが明らかになった。今後は,運動イメージ能力が向上することで,麻痺肢の使用頻度が増加し,それに基づき運動障害が質的に改善するか,縦断的調査を試みる必要がある。
著者
大重 匡 村山 光史朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101204, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに・目的】 スポーツ競技の前には軽度ないし中等度の運動でウォーミングアップをおこなう。ウォーミングアップの目的の一つは体温を上昇させる事にある。体温の上昇は骨格筋温を上昇させ筋収縮の粘性抵抗を減少させる。粘性抵抗減少は筋収縮の機械的効率を高めることになる。そこで、運動前にウォーミングアップではなく、手軽に行える部分浴が体温を上昇させ運動効率向上効果を示すことができるのかについて検討した。【方法】 対象者は健康な若年男性9名(内訳:年齢22.3±1.0歳、身長174.0±3.8cm、体重63.6±10.3kg(Mean±SD)) である。部分浴は下腿浴とした。下腿浴は十分な安静後、室温21℃前後の環境で、41℃の部分浴を10分間施行後エルゴメータによる運動負荷を実施した。同一被験者にはcontrol群としてランダムに1日以上の間隔を空け部分浴を施行せず運動負荷のみ行った。湯温はTERUMO社製MODEL CTM205を使用し、41℃に保つよう設定した。下腿浴時の測定項目は舌下温、呼吸数、心拍数、血圧とした。測定は安静時と部分浴10分経過時に測定した。舌下温はTERUMO社製MODEL CTM-205、呼吸数・心拍数は日本光電社製BSM-2401、血圧は水銀血圧計を使用した。運動負荷はCOMBI社製エアロバイク75XLを使用し十分な安静後ウォーミングアップ程度の運動を考慮し75W3分間施行した。安静時および運動負荷中はアニマ社製携帯型酸素消費量計 AT-1100を用い酸素消費量、分時換気量、呼吸数を測定した。血圧は水銀血圧計で測定した。また運動負荷終了時には主観的作業強度Borg Scaleを用い測定した。統計処理は主観的温感強度以外対応のあるt検定で行った。主観的作業強度についてはノンパラメトリック検定(Wilcoxon検定)を行った。【倫理的配慮 説明と同意】 本研究は当国立大学医学部の倫理審査会において、審査を受け承認されたのち行った研究である。なお、被験者に対して本研究の説明を行い、同意文書を得て行った。【結果】 下腿浴後舌下温は安静時より有意に0.22±0.14℃上昇した(P<0.01)。呼吸・循環反応は呼吸数が2.8±4.4回/分に有意に増加し、心拍数も有意に5.3±7.7bpm増加した(P<0.05)。血圧は収縮期血圧、拡張期血圧ともに一桁程度低下したが有意差は認めなかった。運動負荷時の心拍数はcontrol群127.0±15.4(bpm)、下腿浴群123.4±15.1(bpm)となり有意に低下した(P<0.05)。酸素消費量はcontrol群15.8±1.4(ml/min・kg)、下腿浴群14.5±1.9(ml/min・kg)となり有意に低下した(P<0.01)。分時換気量はcontrol群29.5±2.8(ml/min)、下腿浴群27.5±2.7(ml/min)となり有意に低下した(P<0.05)。呼吸数・血圧は、control群より下腿浴群で減少したが有意差は認めなかった。主観的作業強度のcontrol群の平均は13±1.8点、下腿浴群の平均は12.4±.9点となり有意差は認めなかったが、運動強度はおおよそややきつい程度の運動強度であった。【考察】 ウォーミングアップを行わなくても下腿浴のみ施行することで、舌下温が0.2℃程度上昇し、下腿筋へ加温によって運動に対する準備が行えたと考える。下腿浴群とcontrol群と比較すると心拍数、酸素摂取量、分時換気量において75Wの運度強度で有意に減少したことは、温熱効果によって筋の柔軟性の向上、筋へ血流促進、運動時の内呼吸効率向上、さらに安静時の心拍出量の円滑化が全身の呼吸循環機能を円滑にしたため運動負荷強度が減少したと考えられる。また確認は出来ていないが温熱刺激によるHeat Shock Protein(HSP70)作用も一因となっていると考える。【まとめ】1.本研究では健常若年者に対して運動前に下腿浴を施行し運動負荷強度に変化がみられるか検討した。2.下腿浴施行により体温が上昇し、呼吸数・心拍数がわずかに増加した。3.下腿浴後に運動を行った群と下腿浴を行わずに運動を行った群と比較して同一運動時の酸素消費量、分時換気量、心拍数が下腿浴後に運動を行った群で有意に減少した。【理学療法学研究としての意義】下腿浴でも深部体温を上昇させることができ、中等度(ややきつい)負荷強度において身体かかる負荷強度が減少できることが明らかになった。これにより循環障害により運動強度に制限のある者に対して運動前の下腿浴施行で運動強度を減少させることができ、運動の施行がより安全に運動がおこなえることに役立つと考える。
著者
大塚 浩一 江口 拓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101327, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】地域在住高齢者の身体活動量は外出形態に関連し,中でも自転車運転の活動量は在宅高齢者の余暇活動量や外出量との関連性が見られるとされる(角田.2007).自転車運転に関連する先行報告としては視覚性認知機能や片脚立位保持能力の関連性は指摘されているが,現在自転車運転動作においてこれといった評価法は存在しない.今回脊髄梗塞を発症し2年経過した症例を経験し,訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)にて短期間の介入で実生活での自転車運転を獲得した症例について,考察を交えて報告する.【方法】対象は約3年前にTh8.9の範囲にて脊髄梗塞を発症した67歳女性.訪問リハは発症1年後に開始.理学所見としてMMT両下肢外転及び伸展4,体幹3レベル.両下肢の表在感覚及び深部感覚の鈍麻を認める.関節可動域は両膝関節屈曲120°と軽度制限有り.MMSE30点.身辺動作自立しており屋外歩行自立.発症前は自転車及び自動車での移動自立されていたが,発症後は非実施.訪問リハ時の聴取にて自転車走行の再獲得が希望として挙げられた.具体的な目標として「自転車を自走して買い物に行く」と定めて評価・介入を開始した.事前評価として行った片脚立位保持時間は左右共に10秒以上可能.Trail Making Test(以下TMT)はpartA32秒、partB1分12秒であった.そして自動車運転余裕評価の先行報告を参考に(自動車交通安全センター.2000),立位での足踏み運動に聴覚刺激による振り向き動作を組み合わせた二重課題を実施したが問題なく遂行可能であった.またスタンドをした状態でのペダル操作,片足での床面支持,外乱に対してのブレーキ維持といった自転車の前提動作(今井.2009)も問題なく実施可能であった.それらの評価を行った後に実際の運転練習に移った.【倫理的配慮、説明と同意】症例にはヘルシンキ宣言にのっとって発表に関する趣旨及びプライバシー保護について,また自転車運転のリスクについて十分な說明を行い,同意を得た.【結果】運転練習開始初期は、走り初めの低速時にハンドルの動揺が著明に観察され介助が必要な状態であった.そのためPTが後方で介助しながら乗り始めのハンドル・ペダル操作を反復して練習した.訪問リハの無い日には,片脚立位練習やスタンドをしてサドルに座り,片足支持やペダルに足を着く・離す動作の自主練習を指導した.訓練開始後15日目にて低速時の動揺が改善し,ペダルの踏み直しや状況に応じた停止・再発進も可能になり,直線50m以上の運転が自立して可能となった.その後指定場所における一時停止,駐車車両脇の通過をそれぞれ安全に実施できるかを確認した.訓練開始後28日目にて目標の買い物先までの運転動作を実際にPT同行のもとで2回実施した.いずれも安全に実施可能である事を確認した後に,症例の日中の買物時における自転車運転での移動自立とした.【考察】今回訪問リハにて脊髄梗塞患者に対し自転車運転自立を目指して介入を実施した結果,運転自立の獲得に至った症例を経験した.先行研究を元に事前評価を実施しその後実演項目を経て自立に至ったが,実演項目における自転車運転の運動技能の評価についてはこれといった評価法や先行報告は存在しない.運動技能の要因として外界の状況の把握能力,動きの速さ,動きの正確さ,持続性があるとされる.そしてその評価としては,動作場面での誤りの減少や自由度の増加,そして努力量の減少にてある程度の評価が可能である事が示唆されている(丸山.2002).今回本症例に対して行った事前評価では,視覚性注意機能や身体機能面そして二重課題において著明な問題を認めなかった.その後実際の実演項目による運動技能の経過観察にて,低速時のブレに対して予期を働かせて上肢や体幹による動きの正確性に改善が見られた.更に外界や身体の状況に応じて適切に運転を中断する,再開するといった状況把握能力や一定距離を運転し続ける持続性も身についていった.それらの経過から症例は自転車運転の技能向上を認め,自立に至る事が出来たものと考えた.【理学療法学研究としての意義】高齢者の自転車運転については,自動車の運転同様自転車運転の自信が年代とともに上がる現象が見られており、自分の運転能力を客観的に評価させることも必要であるとされる(元田.2001).高齢者にとって重要な移動形態の一つである自転車運転の実用性の評価に対して,今回実施した先行研究による身体機能面・認知機能面の評価更には運動技能の観点からの理学療法士による客観的な評価・介入は有用な可能性がある.今後は地域在住高齢者を対象により妥当性のある評価方法の検討を進めていきたい.
著者
半沢 嘉基 西郡 亨 原 泰裕 久住 治彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1726, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】現在,医療現場において安全管理への取り組みが積極的に行われている。某リハビリテーション科(以下リハ科)も平成26年度よりインシデント対応・対策係り(以下係り)を発足した。現状の報告書は,アクシデント中心の報告様式であり,インシデントを把握するには不十分であり,提出は所属する病棟・チームの役職者,所属長へ内容の確認をしていた。事故事例の提出はあるがヒヤリハットレベルでの提出件数は少ない状況である。現状では件数が少なく,ハインリッヒの法則を下にヒヤリハット件数を増やすことを係りの課題とした。また,管理されていない点も問題としシステムの修正を行った。科内独自のヒヤリハット報告書(以下報告書)を作成し,個人で記入し所定の箱へ提出する様に変更した。報告書は係りで月ごとに分析し病棟・チームごとにフィードバックを行った。報告書導入後スタッフへ意識調査を行い,提出件数と併せて今後のリハ科の安全管理について検討したので報告する。【対象および方法】平成27年度4月から報告書を作成し,リハ科全スタッフ(PT49名,OT16名,ST10名)へ報告過程の変更,報告書の活用方法を指導し提出を促した。報告書は無記名で,日付,事例内容,可能であれば対応策を記載させた。対象期間は平成27年4月1日~9月30日で,スタッフに対し意識調査を無記名選択記述方式,自由記載にて実施した。アンケートは報告書導入後ヒヤリハットが増加した・安全への意識が高まったか,報告書の提出方法,自己意識についての9項目の二項選択形式とした。統計学的処理は報告書の提出の有無で2群に分け,各設問に対してx二乗検定を用いて比較した。解析にはR2.8.1を用い有意水準は5%とした。【結果】アンケートの回収数は70名(回収率93.3%)で,報告書を提出したスタッフが56名であった。報告書総数は76件,月平均は12.7件。アンケート調査で「報告書導入後安全に対する意識は高まった」と回答したのが全体で59名(84.3%)。提出をしていない14名の内11名も意識は高まったと回答した。「報告書を書くのは面倒」と答えたのが全体で31名であった。各設問の二群比較の結果は「報告書導入後にヒヤリハットすることが増えたか」で有意差はみられた(p<0.05)。その他の質問には有意差はみられなかった(n.s)。【結論】全体的に安全に対する意識は高まった結果となり,科内へのフィードバックにより各スタッフが安全に対して考える一助となったと思われる。報告書の提出の有無で安全に対する意識の変化に有意差はなかった。しかし,「報告書を書くのは面倒」という回答もあり,報告書の運用方法を再検討する必要があることが分かった。また,インシデントを精査する為に報告書の記載内容の検討も必要である。今後は科内でのフィードバックと共に知識・技術を高めるように講義を行い,安全管理能力・意識の向上が望ましいと考える。
著者
小原 智永 山﨑 一史 鈴木 啓介 廣野 文隆 小林 敦郎 甲賀 英敏 岡部 敏幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】静岡県高校野球メディカルサポート(以下:MS)は,静岡県高校野球連盟の要請を受け昨年の第95回全国高等学校野球選手権静岡大会(以下:夏季大会)にて11年が経過した。静岡県のMSは,県士会の公益事業として組織的に活動が可能となっているため,1回戦から決勝までの県内全10球場にて試合前・中に関わる処置や試合後のcooling downを行っている。近年では,熱中症に対する処置(観客も含む)や啓蒙活動において力を入れており,その一つに球場内で暑熱環境の指標として運動時の熱中症の予防措置に用いられるWet-bulb Globe Temperature湿球黒球温度(以下:WBGT)を測定し,場内の注意喚起を促している。夏季大会のWBGTと熱中症罹患との危険性の関連を明らかにすることは,大会での熱中症予防・パフォーマンス低下回避の一助となると考えられる。そこで,本研究の目的は球場内のWBGTなどの暑熱環境と熱中症罹患の特徴を明らかにすることとし,分析・検討を行った。【方法】平成25年7月13日から同年7月29日の暑熱環境を計測するために乾球温・湿球温・黒球温・WBGTを熱中症指標計(京都電子工業製WBGT-203A)を用いて測定した。県内全10球場のうち4球場(西部・東部地区の各1球場と中部地区2球場)にて,各試合前・試合中(5回終了時)と全ての試合終了後にグランド中央で計測を行った。分析は,観客を含めた熱中症有りの計測群(以下:有群)と熱中症無しの計測群(以下:無群)に分け乾球温・湿球温・黒球温・WBGTの差を独立したt検定を用いて求めた。また,熱中症罹患についてはROC曲線を用いWBGTのカットオフ値を算出した。有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】大会役員,責任教師,審判,選手に対してWBGTの測定について説明し,同意を得た。今回の報告にあたっては,個人情報の保護,倫理的配慮に十分注意し集計を行った。【結果】全計測回数は150回であり,その内有群は24回(観客を含む)であった。1回戦で17回,2回戦で1回,3回戦で2回,4回戦で1回,準々決勝で2回,準決勝で1回であった。選手の罹患件数は,1回戦で9人,2回戦で0人,3回戦で2人,4回戦で1人の計12人であった。また,ポジション別では投手3人,捕手1人,1塁手2人,3塁手1人,遊撃手3人,中堅手1人,補欠1人であった。重症度別では,筋痙攣などのI度が8人,頭痛や倦怠感などのII度が4人,意識消失などのIII度が0人であった。各測定項目の平均値は,乾球温30.9±2.0℃,湿球温62.9±8.5℃,黒球温35.8±3.9℃,WBGT28.3±1.4℃であった。無群の平均値は,乾球温27.9±2.75℃,湿球温70.4±10.4℃,黒球温32.9±4.2℃,WBGT26.4±2.0℃であり,有群と無群との比較では乾球温,黒球温,WBGTが有意に高く,湿度は有意に低かった(p<0.05)。またWBGTは,曲線下面積0.77(漸次有意確率p<0.05),カットオフ値27.35℃であった(感度83.6%,1-特異度39.7%)。【考察】日本体育協会運動指針(以下:運動指針)では,WBGTの27.35℃は「警戒レベル」である。中井らによるとWBGT28℃以上になると熱中症罹患が増加するとしている。今回の静岡県の夏季大会におけるWBGTのカットオフ値が指針や先行研究よりも低値であったことは,野球が全身を覆う着衣での競技であり熱放散しにくい着衣環境であるため,通常より熱中症罹患率が高いと考えられる。そのため,野球では運動指針を一段階下げて注意喚起を促す必要があると考えられる。一方で,夏季大会においてWBGTが31℃の「運動は原則中止」の段階に至ったとしても,中止になることはない。熱中症罹患時は,1回戦に最も多く認めておりMSによる1回戦からの介入や熱中症予防の啓蒙活動は,有意義な活動と考えられる。重症度別では,III度の救急搬送を必要とする重度の選手を出さなかったことも,MSによる活動が浸透し予防または早急に対応が出来たこともうかがえる。選手の熱中症罹患の傾向を見ると,最も運動頻度が高い投手だけでなく,様々なポジションで熱中症罹患が生じることが考えられる。今回の結果は,観客を含めた球場全体の熱中症罹患件数での検討であったため,この結果を,来年度から球場全体への注意喚起を具体的な数値とリスクや対応を示し,観客を含めた熱中症予防に活かしていく必要がある。さらに今後,一昨年から開始した高校へMSが指導に出向くMS訪問事業においても,統一した適切な熱中症予防の指導を行い,熱中症予防における啓蒙活動の実施が重要な課題である。今回選手のみのデーター数が少なかったため,今後もデーターを蓄積し,選手のみのWBGTカットオフ値を求めて熱中症予防に活かしていきたいと考える。【理学療法学研究としての意義】熱中症予防における啓蒙活動の発信により,障害予防・パフォーマンス低下を未然に防ぐことが期待される。
著者
吉田 有輝 三岡 相至 松本 直人 大野 英樹 吉田 生馬
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】1998年の厚生労働省の調査によると,ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:以下,GBS)は人口10万人あたりに対し1.15人の年間発生率であり,平均発症年齢は39歳で男女比は3:2である。また,GBSは一般的に予後良好であるとされており,1998年の英国の調査において,走行可能な状態まで回復した症例は約62%と報告されている。このように,GBSは若年性の神経難病であり,やや男性に多いことから,働き盛りの労働者に発生しやすいという特徴を持っている。それにも関わらず,GBSを発症した症例がその後どのような過程を経て社会復帰を実現したのかを示す報告は少ない。そこで,今回,当院において急性発症から自宅退院,その後の訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)により社会復帰を達成した症例を経験したので報告する。【方法】平成25年3月5日~4月16日までに神経内科に入院したGBSの1例を対象とした。年齢は40代後半,性別は男性,職業は建設施工会社の現場監督であり,妻と3人の息子と同居していた。退院時のBarthel Indexは85点,100mの連続歩行や1時間の座位保持は疲労感が強く継続は困難な状況で,外出には車椅子が必要であった。筋力は,徒手筋力検査にて,上肢では前腕筋が概ね3+,股関節伸展筋および外転筋が3+,足関節底屈筋が2+,握力は右14.5kg,左14.0kgであった。退院時の主訴は「新たな身体を作りたい」であり,HOPEは「最終的に復職したい」であった。入院中は1日3回のリハビリテーションを毎日実施し,自宅復帰後は週に3日,1回40分の訪問リハを医療保険下で平成25年4月18日~9月27日まで実施した。訪問リハでは,屋内生活の安定を目標とするとともに,過用性筋力低下(overwork weakness)のリスクを考慮したADL指導や自主練習の提示を行っていった。その後,徐々に活動範囲を拡大させながら,日常的な活動性とADLおよびIADLの状況を毎回確認し,最終的には,復職した際の具体的な通勤方法や仕事内容を評価し,指導を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り,利用者に十分な説明と同意を得た後に実施した。【結果】自宅復帰後,社会参加に対するHOPEに早期復職や完全復帰と変化が認められるようになった。しかし,介入時の主訴からも推測される通り,疾患や身体機能,それに伴うADLへの理解が不十分であり,復職に関して焦燥感があることが考えられた。本人が同年6月末を復職時期として希望していたため,まず,通勤手段である自転車走行や電車移動を家族とともに行ってもらったが,電車移動中や外出先では疲労が強く頻回な休息が必要という結果であった。そこで,本人と相談しながら復職時の課題を明確化し,問題解決方法をその都度確認していった。その結果,8月初旬には1日の外出を実施することが可能となった。その際,移動時の疲労やそれらの翌日への持ち越しが確認されたが,デスクワークは可能であることも確認できた。そして,9月には訪問リハを週2回に変更し,復職後の業務内容は会社と相談した結果,内勤へと変更することが決まり9月27日に訪問リハは終了,10月初旬に復職を達成した。【考察】若年の男性にとって,労働者や夫,父親としての社会的地位や尊厳,名誉が失われることは大きな問題である。また,あらゆる神経難病の中で,GBSが予後良好と言われていても,罹患した方々は常に不安と隣り合わせの状態で自宅退院を迎えていることが容易に予測できる。今回の症例では,入院中から復職という社会復帰の目標が明確に設定されていた。しかしながら,退院直後は自宅内生活を送ることが精一杯であり,外出時には車椅子を使用しなければならない状況であった。そのため,まずは居宅生活の安定を目標としリハビリテーションを実施していった。その中で,徐々に生活が安定すると,可及的早期に復職をしたいというHOPEの変化が認められた。本人は復帰時には仕事への完全参加を希望していたが,病態やより具体的な復職のプロセスを考慮すると,本人との間で課題の明確化と問題解決方法をその都度確認していく必要があった。そのような介入をした結果,利用者の焦燥感は徐々に緩和していったと考えられる。そして,社会的側面や経済的側面も考慮し,可能な限り利用者の地位や名誉,尊厳に配慮した形で目標を共有していけたため,安全な方法や形式での社会復帰が可能であったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】理学療法の目的および理学療法士の役割が,身体の機能回復ではなく,個々人の権利・名誉・尊厳の回復であるならば,本症例のような神経難病を有する患者に対し,退院後も居宅サービスとしての支援を行い,社会復帰を実現していくことは大変重要なことであると考えられた。
著者
松本 拓哉 金澤 浩 大津 知昌 成尾 政一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0642, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】ストレッチングには,スタティックストレッチング(SS)やダイナミックストレッチング,バリスティックストレッチングなど,多様な方法がある。中でもSSは,伸張反射が起こりにくく,筋腱の損傷が少ない安全な方法であるとされている。筋の伸張性が筋力に及ぼす影響を調査した研究は多数行われているが,筋のストレッチングが拮抗筋へ与える影響を調査した報告は少ない。中島ら(2012)は,ハムストリングのSSを1週間継続した結果,膝関節伸展トルクの有意な増加が認められたと報告している。我々は,SS直後に拮抗筋の筋力が向上すれば,運動療法をより効果的に実施することが出来るのではないかと考えた。本研究の目的は,股関節内転筋群(AD)にSSを加え,拮抗筋である股関節外転筋群(AB)の筋出力が向上するかを確認することである。【方法】対象は,整形外科的疾患や神経学的疾患がない健康な成人男性50名(平均年齢25.1±2.5歳,身長171.1±4.5cm,体重65.5±9.1kg)とした。はじめに,右股関節外転角度を,角度計で他動的に計測し,疼痛の出現する直前の角度を記録した。続いて,右ABの最大随意等尺性収縮(MVC)を,サイベックスノルムCN77(CSMI社)を用い,肢位は「筋力測定装置CYBEX NORM User's Manual」に準じて側臥位とし,股関節外転のMVCを3回行った。その後,背臥位で,右ADに対するSSを,30秒間保持の4セット,疼痛の出現する直前の強度で実施した。SS後,股関節外転角度,及びMVCの測定を再度行い,ABのピークトルク,体重比(%BC)を算出し,SSの前後で比較した。股関節外転角度とABのピークトルク,%BCの差の比較には,Wilcoxonの符号付き順位和検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】SS前後の股関節外転角度の平均は,SS前42.6°±4.4°,SS後47.2°±4.1°で,SS後の股関節外転角度の有意な増大を示した。ABのピークトルクの平均も,SS前87.5±26.8Nm,SS後は94.3±29.5Nmとなり,SS後が有意に増大した。ABの%BCの平均についても,SS前135.1±42.5,SS後145.8±46.6で,SS後は有意な増大が得られた。【考察】股関節外転角度はSSにより11%の有意な増大を示したことから,ADの伸張性は改善し,SSの効果は得られていたと考えられる。Siatrasら(2008)は,30秒以上のSSで関節可動性が有意に増大したと報告していることから,本研究のSSの実施時間は,ADの伸張性を改善させるには,十分であったといえる。対象筋に対するSSの効果を調査した報告は多く,濱田ら(2008)は筋パワーの低下をもたらすとし,Rubiniら(2007)は最大筋発揮やパフォーマンスを低下させると報告している。本研究ではADのSS後に,拮抗筋のABのピークトルクが7.7%,%BCは7.9%向上したことが確認され,SSは拮抗筋の筋出力の向上に即時的な効果があることが示された。筋力発揮に関わる因子は多く挙げられるが,その中でも効果的な筋力発揮を得るための相反神経支配の関与が重要視されている。通常,関節運動時には拮抗筋の活動は完全には抑制されず共収縮が生じており,本研究ではSSによってADの伸張性が増大した結果,ADの共収縮が低下し,拮抗筋であるABの筋出力が改善したことが一つの要因ではないかと考える。本研究の結果,筋力強化の対象筋が明確な場合,SSは拮抗筋の筋出力を即時的に改善させることから,SSを行うことで拮抗筋の筋力を効率よく発揮出来ることがわかった。【理学療法学研究としての意義】主動作筋の筋力増強運動を行う直前に拮抗筋のSSを行うことで,より効果の高い運動療法が実施出来ると考える。
著者
海部 忍 北中 雄二 横野 志帆 土橋 孝之 椛 秀人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】発達障害とは「学習障害(LD)」,「注意欠陥多動性障害(ADHD)」,「広汎性発達障害(PDD)」「軽度の知的障害」,「発達性協調運動障害」を称したものである。近年,発達障害はまれな障害ではなく,我々理学療法分野においても発達性協調運動障害に対する介入が求められている。そこで今回は,発達障害児の描写する自画像と運動発達の関係性を検討したので報告する。【方法】対象は当院小児外来リハビリテーションに通院している発達障害児11名(平均月齢66±17.5ヶ月)である。対象児にはA4用紙に鉛筆を用い,自己の全身像を描写するよう教示した。描写された自画像はグットイナフ描写テスト(以下DAM)を用いて採点し,精神年齢を算出した。また,児の運動機能評価には乳幼児発達スケールを使用し運動領域における発達年齢を算出した。統計学的解析には児の生活年齢,DAMから算出される精神年齢,乳幼児発達スケールから算出される運動発達年齢を対応のある一元配置分散分析にて分析した。また,児の生活年齢および精神年齢,運動発達年齢の関係性を検討するためPearsonの相関係数にて分析した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に準拠し,対象児の保護者には口頭および紙面にて同意を得た上で実施した。【結果】描写された自画像の一例として頭部は描写されているが頸部や体幹が描写されず,頭部から直接四肢が描写されているものや,頭部・頸部・体幹は描写されているが四肢の描写が曖昧なものなど,生活年齢に対して描写内容が不十分なものが多かった。統計学的分析結果としては対象児の生活年齢に対して精神年齢および運動発達年齢に有意な低下が認められた(p<0.05)が,精神年齢と運動発達年齢との間に有意差は認められなかった。また,生活年齢と精神年齢の間(p<0.01 r=0.73),精神年齢と運動発達年齢の間(p<0.01 r=0.89)には有意な相関関係が認められた。【考察】今回,発達障害を有する児は自己身体に対する認識の低下が自画像に現れており,生活年齢に対し精神年齢および運動発達年齢の低下が認められた。行為および運動を学習する上で自己身体の認識は大切であり,発達障害児において自画像を描写する事は自己身体をどの程度認識できているのか評価するのに有用であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は発達障害児に対する理学療法が運動機能面の評価と運動課題の提示だけではなく,児が自己身体を認知できているのかを知る必要性が確認できたと共に,リハビリテーションアプローチ立案の一助となると思われる。
著者
重田 美和 増田 洋子 関口 由紀 畔越 陽子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1327, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】女性性機能障害(Female Sexual Dysfunction;以下FSD)は,第2回国際性医学国際会議により「性的欲求や興味の障害」,「性的興奮障害」,「オルガズム障害」,「ワギニスムス(腟痙攣)」,「性交疼痛障害」,「性嫌悪障害」に分類されており,その中でもワギニスムスと性交疼痛障害(以下性交痛)は苦痛が大きく,受診動機となりやすい。また,性機能障害は男性に比較し有意に女性に多く,性交痛は男性の4倍以上であることが報告されている(Laumann et al.1999)。ワギニスムスや性交痛の原因は,腟潤滑液の減少,腟の不随意収縮(骨盤底筋群のスパズム),骨盤底筋群のうっ血や慢性的緊張である。先行研究では,理学療法介入により性交痛を有する女性の71%で疼痛が半分以下に軽減,62%で性生活の改善,50%で全体的なQOLが向上したとの報告がある(D.Hartmann et al.2001)。当院の女性泌尿器科ではFSDの治療として理学療法が重要な役割を担っている。しかし,本邦ではFSDに対する理学療法は周知されていないのが現状である。そこで今回は,当院のFSD患者数の推移を調査することと,FSDに対する骨盤底トレーニング中心の理学療法効果について検討することを目的とした。【方法】2006年4月から2013年3月までの7年間に,当院女性泌尿器科を受診したFSD患者と骨盤底トレーニングを受けたFSD患者を対象に,患者数の推移をカルテから後ろ向きにデータ分析した。また,2011年4月から2013年3月の2年間に骨盤底トレーニングを受け,質問票に対する回答の同意と全項目回答を得られたFSD患者11名(平均年齢39.8±10.3歳)を対象に,①Female Sexual Function Index(以下FSFI)日本語版,②Visual Analog Scale(以下VAS),③骨盤底筋群筋力測定(Oxford Grading System:以下OS)④自由回答形式の質問票を初期評価と最終評価で実施,比較検討した。介入内容は,transvaginal palpation(経腟触診)または腟ダイレーター(腟挿入練習として使用する棒状のプラスチック製品器具で4段階の太さがある)を使用し性交痛に対する系統的脱感作療法,骨盤底のマッサージとストレッチング,骨盤底筋群の随意運動および協調運動の学習が主であり,これを月に1回のペースで施行した。また,次の来院までに自宅で行うトレーニングプログラムを指導した。【倫理的配慮,説明と同意】研究の内容を十分に説明した上,同意が得られた者を対象とした。【結果】骨盤底トレーニングを受けたFSD患者は,1年目6人,2年目4人,3年目4人,4年目9人,5年目16人,6年目32人,7年目26人であった。FSFI合計点は指導前平均12.4±9.9,指導後平均23.3±5.9で,「性欲」,「性的興奮」,「腟潤滑」,「オルガズム」,「性的満足」,「性的疼痛」の6つ全てのドメインで初期評価に比較し最終評価では有意に高値(改善)を示した。疼痛評価のVASは指導前平均94.6±3.2,指導後平均41.8±25.0で,初期評価に比較し最終評価で有意に低値(改善)を示した。骨盤底筋群筋力評価のOSは指導前平均2.4±1.1,指導後平均3.8±0.7で,初期評価に比較し最終評価で有意に高値(筋力向上)を示した。自由回答形式による質問では,「精神的にも楽になった」などの意見が多数を占めた。【考察】FSDで受診する患者は年々増加傾向であるが,治療対象となることが十分に周知されているとは言い難く,潜在的FSD患者は多数存在することが推測される。今後積極的な情報提供が必要であると考える。性交痛とワギニスムスはFSDの各症状に影響を与えるとされており,これに対する理学療法介入がFSFI全てのドメインスコアに有意な改善をもたらしたと考えられる。骨盤底筋群の筋力および随意的コントロールが向上したことで筋弛緩効果をもたらし,性交痛の改善に繋がったと推察された。また,骨盤底トレーニングのみならず,問診での十分なカウンセリング,生活習慣の見直しや,自宅での系統的脱感作療法の指導などが性に対する恐怖の脱感作を導き,良好な結果に繋がったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】骨盤底トレーニングは,骨盤底機能不全によって女性に特異的に起る様々な症状が対象となり得るものであり,FSDに対しても有効な治療手段の1つであることが示唆された。今後本邦においても理学療法分野として発展させていく必要がある。
著者
丸山 剛 鈴木 康裕 石川 公久 江口 清 正田 純一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Db0578, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 近年、肥満や運動不足に伴い非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が増加しており肝硬変から肝細胞がんへと進展し得ることが指摘されている。NAFLDに対する有効治療のひとつとして運動療法の効果はすでに実証されているが随意収縮と電気刺激を組み合わせたハイブリッド訓練法による治療効果も報告されている。治療効果の検証としてインスリン抵抗性(HOMA-R)の改善が肝機能の改善にもつながりえることが明らかになっている。一方、インスリン分泌能(HOMA-β)を指標とした検証はあまりみられていない。本研究の目的はNAFLD患者を対象としたハイブリッド訓練法の介入をHOMA-βを指標として検証することである。【方法】 対象は当院消化器内科に通院するNAFLD患者の中から空腹時血糖値130mg/dl以下で就労していない患者6名(男性1名、女性5名)、BMI 28.7±1.9、平均年齢59.3±10.3歳、HbA1c6.07±0.89である。電気刺激装置はハイブリッド訓練器(アクティブリンク株式会社)を使用し、両大腿前後面に各2枚電極を貼付し椅子座位で膝関節屈伸運動を実施。通電時間は1分間で拮抗筋に電気刺激を与え膝関節屈伸運動を休憩することなく15回(伸展2秒、屈曲2秒)、セット間の休憩は1分とする。一側ずつ3セットごとに左右交代し左右各6セット、計23分の訓練を週2回の頻度で計30回(15週間)の訓練を行った。電気刺激強度は耐えうる限りの最大電圧(訓練器最大電位50V)とした。評価項目はBIODEX system3(酒井医療株式会社製)で膝関節60度屈曲位での5秒間の最大等尺性筋力:最大トルク平均/体重(%)で大腿四頭筋、ハムストリングスそれぞれ左右の平均を採用。血液生化学検査はAST、ALT、HOMA-R:空腹時インスリン値×空腹時血糖値/405、HOMA-β:空腹時インスリン値×360/(空腹時血糖値-63)、HbA1cの5項目とし運動介入前後で比較を行った。介入前後の比較にはWilcoxonの符号付順位検定を用い、また有意差を認めた項目に関してはHOMA-βを従属変数とし各パラメータとの単相関をSpearmanの順位相関係数を用いて統計解析を行った。使用統計ソフトはSPSS(ver19)を用い、すべての統計的有意判定基準は5%未満とした。【説明と同意】 充分なインフォームド・コンセントを施行し文章にて同意が得られた症例のみを本研究の検討対象とする。【結果】 介入前後において生化学はAST(57.3±16.1vs 42.0±8.5,p<0.027)、ALT(64.2±21.7vs47.0±16.5,p<0.028)、HOMA-R(4.12 ±1.12vs3.15±0.69,p<0.046)、HOMA-β(120.71±43.08vs96.81±29.26,p<0.046)でいずれも有意に低下を認めた。HbA1cに関しては有意な差は認めなかった。一方、下肢筋力は大腿四頭筋(159.3±50.8vs186.4±55.5,p<0.028)は有意な改善を認めたがハムストリングスでは有意な差を認めなかった。またHOMA-βとALTの変化率の間には有意な相関(r=0.829、p=0.042)を認めた。【考察】 今回のハイブリッド訓練法の介入により肝機能(AST、ALT)、HOMA-R、HOMA-βにおいて有意な減少、大腿四頭筋で有意な改善が認められた。このことはハイブリッド訓練法による筋力トレーニングが有酸素運動で得られる効果と同等の効果が得られたものと考え、結果的にインスリン感受性が改善したことでインスリン分泌、すなわちHOMA-βの抑制が図られたと考えられた。また、HOMA-βとALTの変化率の間には有意に相関があることでインスリン分泌量が脂肪肝に影響を与えることが示唆された。一方、糖代謝の改善がみられるのにもかかわらずHbA1cに変化がみられなかったことに関しては、HOMA-R、HOMA-βの改善では食後血糖上昇に影響を与えず耐糖能の効果に対する限界を示唆するものであった。【理学療法学研究としての意義】 NAFLDに対する運動療法はジョギング・水中運動といった有酸素運動が代表的であるが肥満による関節負荷や運動時間を考えると長期的かつ継続的に行うには努力を要す。今回のハイブリッド訓練法では有酸素運動で得られる効果を座位で得られ、運動時間・頻度についての検討が必要と思われるが予防・改善の観点で有効な運動療法として有用である可能性が考えられる。
著者
市村 千裕 梶山 真紀 原田 沙代子 坂口 重樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1597, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】トイレ動作の自立は,患者およびその家族からの要望が高く,在宅復帰可能かどうかの判断基準となっていることが多い。トイレ動作の中で下衣の着脱を非麻痺側上肢で行うためには,体幹の回旋能力が必要であると考えられる。そこで、体幹回旋時の麻痺側下肢の荷重率・回旋角度とトイレ動作の自立度の関係性を検討する。【方法】本研究に同意の得られた回復期病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者15名(内訳:男性10名・女性5名、左片麻痺8名・右片麻痺7名)を対象とし、トイレ動作自立群8名、非自立群7名の2群に分類した。1)体幹回旋角度:日整会の関節可動域測定に従い、ベッド上端座位にて、両足を10cm離し両上肢を組み骨盤を固定した状態で体幹を回旋し測定した。立位では、骨盤を固定し体幹のみの回旋角度を測定した後、骨盤の回旋を伴った体幹の回旋角度を測定した。2)麻痺側下肢の荷重率:Win Pod(メディキャプチャーズ社製)を使用して、静止立位および回旋動作時の荷重率を測定した。静止立位は30秒間行い、その平均値を用いた。回旋動作は自動運動にて最大回旋時の値を用いた。【結果】1)体幹回旋角度とトイレ動作の自立度との関係座位での麻痺側への回旋角度と立位での麻痺側への回旋角度(体幹のみ)は、2群間に有意差は認められなかった。座位での非麻痺側への回旋角度と立位での麻痺側への回旋角度(骨盤の回旋を伴う)、非麻痺側への回旋角度(体幹のみ、骨盤の回旋を伴う)は、2群間に有意差を認めた(p<0.05)。2)麻痺側下肢の荷重率とトイレ動作の自立度との関係麻痺側下肢の荷重率は、静止立位時、麻痺側・非麻痺側への回旋時全てにおいて2群間に有意差を認めた(p<0.05)。次に、静止立位と回旋時の荷重率の変化を表すために、(回旋時の麻痺側下肢の荷重率/静止立位時の麻痺側下肢の荷重率)×100で算出した値を変化率とし、その変化率をMann-Whitneyの検定で比較したところ、2群間に有意差は認めなかった。【考察】トイレ動作に必要な体幹回旋能力として、体幹回旋角度を2群間で比較した結果、肩甲帯と骨盤帯の回旋動作だけではなく、骨盤帯の回旋を伴った体幹の回旋動作の重要性が示唆された。麻痺側下肢の荷重率の結果から、トイレ動作には静止立位・回旋動作時ともに麻痺側下肢の支持性は必要であることが分かった。変化率は2群間に有意差が認められなかったものの、自立群は100に近い値を示す傾向があったのに対し、非自立群は非麻痺側への回旋時、高値を示すものが認められた。つまり、自立群は静止立位時と回旋動作時の荷重率に変化が少ないのに対し、非自立群は荷重率に大きな変化があり立位の不安定性の一因ではないかと考えられた。
著者
堤本 広大 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 中窪 翔 牧野 圭太郎 島田 裕之 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1499, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】認知症の前駆症状とされる軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)では,客観的な認知機能が低下していることが定義とされ,灰白質容量が低下していることが報告されている。認知機能検査の中でも,遂行機能と灰白質容量との関係は多数報告されており,遂行機能が低下している高齢者ほど灰白質容量が低下していることが明らかとなってきている。しかし,MCI高齢者における遂行機能と灰白質容量との関連については議論の余地があり,遂行機能については下位機能が存在するため,灰白質容量低下に関連する下位機能を明らかにすることで,MCI高齢者の早期発見の一助となると考えられる。そこで,本研究では,MCI高齢者における灰白質容量と遂行機能の下位機能検査との関連を横断的に検討する。【方法】対象は,MCIに該当した高齢者83名(平均75.4±6.8歳)とした。遂行機能の下位機能検査として,注意の切り替え機能(Trail Making Test(TMT)),ワーキングメモリ(Digit Span(DS)),および選択的注意・抑制機能(Stroop test(ST))を実施した。灰白質容量の計測については,MRI装置(Magnetom Avanto,Siemens社製)を用いて撮像を行い,FSL(FMRIB's Software Library,Version 5.0)を用いて全脳における灰白質容量を算出した。統計解析では,灰白質容量と各遂行機能との相関関係を調べるためにPearsonの相関係数を算出した。その後,有意な相関関係が認められた遂行機能検査を独立変数とし,従属変数に灰白質容量,共変量に年齢,性別,body mass index,教育歴,mini-mental status examinationスコアを投入した重回帰分析を実施した。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】遂行機能の中で,灰白質容量との有意な相関関係が認められたのはTMTのみで,TMTと灰白質容量との間には負の相関関係が認められた(r=-0.414,p<0.001)。その後,有意な相関が認められたTMTを独立変数とした重回帰分析を実施した結果,共変量で調整してもTMTと灰白質容量との関連性は有意であった(β=-0.376,p=0.001,R2=0.26)。【結論】本研究では,MCI高齢者における灰白質容量と遂行機能の下位機能検査との関連について検討し,注意の切り替え機能が低下しているMCI高齢者ほど灰白質容量が低下していることが示唆された。今後は,注意の切り替え機能が低下している健常高齢者がより早期にMCIへと移行するかどうかを検討する必要性があると考えらえる。また,本研究結果は,MCIのスクリーニングツールの中でもTMTが有用である可能性を示した。
著者
阿部 広和 花町 芽生 神原 孝子 白子 淑江 吉岡 明美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0877, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】脳性麻痺児における粗大運動能力の評価は,粗大運動能力尺度(GMFM)が一般的に使用されている。現在,GMFM-66はReference percentilesを用いることによって,粗大運動能力の予後を予測できるようになり,効果判定としても用いられている。また,日常生活動作の遂行度との相関関係も立証されている。しかし,GMFM-66のスコアが何点に達すれば日常生活でどのような歩行をしているのかは明らかになっていない。本研究の目的は,粗大運動能力尺度(GMFM)を用いて日常生活での歩行能力を予測することである。【方法】対象者の取り込み基準は脳性麻痺の診断を有するもので,GMFCSレベルI-IVとし,カルテにGMFM-66と日常生活での歩行能力が算出できるデータや記述があるものとし,後方視的調査研究とした。以上の取り込み基準を満たす対象者は脳性麻痺児90名(男児53名,女児37名,平均年齢10.0±4.5歳,年齢範囲:2歳7ヶ月-18歳7ヶ月)であった。GMFCSの内訳はlevel I 42名,level II 17名,level III 11名,level IV 20名(痙直型片側性麻痺18名,痙直型両側性麻痺69名,混合型3名)であった。粗大運動能力はGMFM-66で評価を行い,Gross Motor Ability Estimator 2を使用してGMFM-66スコアとした。日常生活における歩行能力は,「歩行能力の有無」と「独歩の制限の有無」のカットオフ値を算出することとした。歩行能力の有無は,カルテより日常的生活において独歩・クラッチ杖で歩行しているものを「歩行している」とし,車輪付き歩行器や車椅子で移動している場合は「歩行していない」とした。独歩の制限の有無は,階段で手すりを必要としない場合を「制限なし独歩」,階段で手すりを必要とする場合は「制限あり独歩」とした。統計分析については,日常生活での歩行能力を予測するGMFM-66のカットオフ値をReceiver Operating Characteristic(ROC曲線)を用いて分析した。統計的処理にはRを使用し,有意水準は5%とした。【結果】GMFM-66の平均値は68.7±21.1(スコア範囲16.4-100)であった。ROC曲線による分析の結果,「歩行能力の有無」・「独歩の制限の有無」のカットオフ値は,60.0(感度98.4%・特異度100%)・76.75(感度84.6%,特異度92.1%)であった(p<0.05)。【結論】GMFCS level IIIのGMFM-66が歩行能力の有無のカットオフ値前後に多く分布している。そのため,カットオフ値がGMFCS level IIIの脳性麻痺児が日常生活で歩行できるかできないかを判断する指標として有用と考える。独歩の制限の有無は,GMFCS level I-IIの脳性麻痺児の歩行能力を予測するのに役立つと考える。また,このカットオフ値をGMFM-66 Reference percentilesと合わせて使用することにより,より詳細な粗大運動能力の予後予測が行えると考える。
著者
大松 亮輔 伊藤 哲 久保下 亮
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1387, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 投球動作はJobeらによると、Wind-up、early-cocking、late-cocking、acceleration、follow-throwの5つの相に分類されている。また投球動作は、投球側の上肢を振るだけの運動ではなく、下肢から体幹そして投球側上肢への運動連鎖であり、下肢・体幹のエネルギーを使うことにより投球側上肢の負担は軽減する。そのため、一つの関節の機能低下によっても投球動作全体が乱れ、肩や肘の外傷発生やパフォーマンスの低下につながることになる。先行研究において、片脚起立軽度膝屈曲で骨盤後傾する選手は、ワインドアップから投球方向に踏み出す際、股関節、骨盤の安定性が悪く、後方重心になってしまい、上半身、上肢、肩甲帯が動員されバランスをとろうとし、上部体幹の回旋の不足が起こる可能性があり、その補正のため肩が過度に水平外転をとる。つまり、肘を大きく引きすぎる投手はボールリリース時も水平外転位になり肩関節前方に過度に負荷がかかるフォームであることが予想され、肩関節不安定症を起こす可能性がある。そこで今回、肩・肘に故障を有している選手は、下肢・体幹の安定性が低く、そのためバランス能力が低下しているのではないかと仮定し、片脚立位保持能力について重心動揺計を用いて測定を行った。【方法】 対象者は硬式野球を行っている6校の高校1~3年生(16.0±1.0歳)の男子43名(右利き30名、左利き13名)で、野球歴・投手歴関係なく投手のみを選抜し、肩及び肘に痛みがある者を故障群(16名)、それ以外を非故障群(27名)とし測定を行った。最初に研究の目的、方法を説明し、理解が得られた事を確認後、同意書への記入をしてもらい、年齢、身長、体重、野球歴・投手歴・故障部位、疼痛検査(NRS)、痛みの種類を質問用紙に記入し、問診にてどの投球動作で痛みを伴うか確認した。また質問用紙で知り得た情報は、検者以外への公表および、研究目的以外の使用をしないことを確認し、倫理的配慮を行った。その後、片脚立位の支持側(軸脚)の靴下を脱いで裸足になってもらい、普段使用しているボールとグローブを装着・把持し測定を行った。測定は重心動揺計(アニマ株式会社製)を用いて、開眼で姿勢は投球動作wind-up時の片脚立位をとり、動揺計X軸を体幹矢状面、Y軸を前額面とした。視線はY軸正の値方向(捕手方向)に重心動揺計から2m、床から1.5mの位置に目印をつけ、凝視するよう指示を行った。測定時間は、測定開始の指示で片脚立位をとり、開始5秒後からの30秒間を計測した。【結果】 故障群16名、非故障群27名において総軌跡長:故障群(162.80±34.27)非故障群(143.21±29.00)、矩形面積:故障群(18.26±6.60)非故障群(14.47±3.96)、外周面積:故障群(7.22±2.99)非故障群(5.70±1.47)、実行値面積:故障群(4.14±1.77)非故障群(3.22±0.92)となり、故障群と非故障群間において等分散を確認後(F検定)対応のないT検定を実施し、矩形面積・外周面積・実効値面積にて有意水準5%で有意差を示した。【考察】 この結果から障害群は非障害群よりも片脚立位時における重心動揺が有意に大きいことがわかる。つまり障害群は非障害群と比較すると片脚立位バランス能力が低下していると推測される。これは、下肢・体幹の安定性が低下していることによって、制動されるべき重心動揺が上肢等で制動しなくてはならず、より高位で重心動揺を制動することが必要となる。その結果、重心移動が広範囲に及ぶため、非障害群に比べ障害群の重心動揺が大きくなったのだと考える。本来、投球動作の準備にあたるwind-up期では、上半身回旋による投球のエネルギーを貯蓄する必要があるが、この上半身が姿勢保持に動員されてしまうため、そこでエネルギーを作り出すことが困難となる。そこで不足したエネルギーを肩・肘関節が代償することで、これらの関節に過度なストレスがかかり、投球障害を発生するのではないかと考える。したがって、wind-up期における片脚立位保持能力が低下している者は投球障害を引き起こす可能性の一因ではないかと推測される。今後の課題としては、障害群に対して片脚立位保持向上を目的としたトレーニングを実施し向上した場合、投球時の疼痛が軽減されるか、また予防の観点からも片脚立位保持能力向上が有効なのか継時的に検討していきたいと考えている。