著者
中村 雅俊 長谷川 聡 梅原 潤 草野 拳 清水 厳郎 森下 勝行 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0153, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】頸部や肩関節の疾患は労働人口の30%以上が患っている筋骨格系疾患であると報告されている。その中でも,上肢挙上時の僧帽筋上部の過剰な筋収縮や筋緊張の増加は肩甲骨の異常運動を引き起こし,頸部や肩関節の痛みにつながると報告されている。そのため,僧帽筋上部線維の柔軟性を維持・改善することは重要であり,その方法としてストレッチングがあげられる。一般的にストレッチングは筋の作用と反対方向に伸ばすことが重要であると考えられている。僧帽筋上部線維の作用は肩甲骨の拳上・上方回旋と頸部伸展・反対側回旋・同側の側屈であるため,ストレッチング肢位は肩甲骨の拳上・上方回旋を固定した状態で,屈曲・同側回旋・反対側の側屈が有効だと考えられる。僧帽筋上部線維に対するストレッチングの効果を検証した報告は散見されるが,効果的なストレッチング肢位を検討した報告は存在しない。そこで本研究では,筋の伸長量と高い相関関係を示す弾性率を指標に,僧帽筋上部線維の効果的なストレッチング肢位を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は上肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない若年男性16名の非利き手の僧帽筋上部線維とした。先行研究に従って,第7頚椎と肩峰後角の中点で,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,弾性率を測定した。弾性率測定は各条件2回ずつ行い,その平均値を解析に用いた。弾性率は筋の伸張の程度と高い相関関係を示すことが報告されており,弾性率が高いほど,筋は伸張されていることを意味している。測定肢位は,座位にて肩甲骨の挙上・上方回旋を徒手にて固定した状態で対象者が痛みを訴えることなく最大限耐えうる角度まで他動的に頸部を屈曲,側屈,屈曲+側屈,側屈+同側回旋,屈曲+側屈+同側回旋を行う5肢位に,安静状態である頸部正中位を加えた計6肢位とし,計測は無作為な順で行われた。統計学的検定は,頸部正中位と比較してストレッチングが出来ている肢位を明らかにするため,頸部正中位に対する各肢位の弾性率の比較をBonferroni補正における対応のあるt検定を用いて比較した。また,頸部正中位と比較して有意に高値を示した肢位間の比較もBonferroni補正における対応のあるt検定を用いて比較した。【結果】頸部正中位に対する各肢位の比較を行った結果,全ての肢位で有意に高値を示した。また有意差が認められた肢位間での比較では,屈曲に対し,その他の全ての肢位で有意に高値を示したが,その他には有意な差は認められなかった。【結論】肩甲骨の挙上・上方回旋を固定した状態で頸部を屈曲することで僧帽筋上部線維をストレッチング出来るが,屈曲よりも側屈する方が効果的にストレッチングすることが可能であった。また,側屈に屈曲や同側回旋を加えても僧帽筋上部線維をさらに効果的にストレッチング出来ないことが明らかになった。
著者
小澤 春香 佐藤 慎也 玉木 宏史 黒川 純
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0975, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】臨床的に下肢筋力強化や足底への荷重刺激,下肢伸展共同運動からの分離運動として患者にブリッジ動作を指導する機会が多い。その際にセラバンドやボールを用い外転筋群・内転筋群の選択的な収縮を図ることも多い。先行研究においてブリッジ動作時の股関節外転角度や膝関節屈曲角度の違いによる筋活動を比較した報告は多いが,内外転筋群への抵抗を加えたブリッジ動作の報告は少ない。そこで本研究では外転の抵抗を加えない通常のブリッジ動作と,外転・内転方向への抵抗を加えたブリッジ動作の中殿筋・大殿筋・内転筋群の筋活動を測定し,各ブリッジ動作が各筋に及ぼす影響を検討することである。【方法】健常成人男性17名(平均年齢25.9±2.9歳,平均身長170.9±5.3cm,平均体重65.5±9.7kg)を対象とし,測定肢位は上肢を胸の前で組み,股関節内外転中間位,膝関節屈曲130°からのブリッジ動作とし,股関節屈伸0°にて5秒静止を3回測定した。ブリッジ動作は無抵抗下でのブリッジ(ノーマル),外転等尺性収縮を加えたブリッジ(外転ブリッジ),内転等尺性収縮したブリッジ(内転ブリッジ)とした。股関節内外転等尺性収縮はハンドヘルドダイナモメーターと自家製固定装置を用い,最大等尺性収縮を基準として100%(max),50%,25%とした。測定方法は,表面筋電計マイオトレースを用い中殿筋・大殿筋・内転筋群の3筋を導出筋とした。ダニエルズのMMT5を基準として正規化し%MVCとした。測定区間は等尺性収縮5秒間のうち中間3秒間とし,3回の平均値を用い,各筋の%MVCを各ブリッジ動作で比較検討した。統計処理は,一元配置分散分析の後にTukeyの多重比較を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】研究の開始に当たり当院の倫理委員会の承認を得た(承認番号2013023)。また被験者には研究の意義・目的について十分に説明し,同意を得た後に実施した。【結果】中殿筋では,ノーマルで11.2±6.0%,外転ブリッジmax(外転max)で92.3±47.1%,外転ブリッジ50%(外転50%)で33.6±12.6%,外転ブリッジ25%(外転25%)で21.2±10.5%,内転ブリッジmax(内転max)で14.8±8.0%,内転ブリッジ50%(内転50%)で9.1±5.9%,内転ブリッジ25%(内転25%)で7.9±4.2%であった。外転max・外転50%ではノーマルより有意に高く,さらに外転maxは外転50%より有意に高かった。外転maxは他の全ての課題より有意に高かった。大殿筋ではノーマルで14.9±8.8%,外転maxで78.6±44.5%,外転50%で24.8±11.9%,外転25%で19.1±12.0%,内転maxで19.6±15.4%,内転50%で11.1±8.4%,内転25%で9.6±6.5%であった。外転maxは他の全ての課題より有意に高かった。内転筋では,ノーマルで12.9±5.8%,外転maxで9.7±5.9%,外転50%で1.8±0.9%,外転25%で3.2±2.5%,内転maxで60.8±19.6%,内転50%で26.3±12.2%,内転25%で15.0±7.0%であった。内転max・内転50%では他の全ての課題より有意に高く,さらに内転maxは内転50%より有意に高かった。【考察】ブリッジ動作において,外転方向へ等尺性収縮を最大努力で実施すると,通常のブリッジ動作よりも大殿筋をさらに活動させることができるが,最大努力の50%以下の抵抗では大殿筋の筋活動に変化はみられない。中殿筋・内転筋群は50%で筋活動が増加し,最大努力によってさらに筋活動は増加する。股関節内外転方向への抵抗を加えたブリッジ動作でさらに中殿筋・内転筋群を選択的に活動させるには,内外転方向への等尺性収縮を50%以上で実施する必要がある。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から,ブリッジ運動を行う際は,目的とした筋に合わせて抵抗の種類・負荷量を変えることで,より効率的に筋活動を増加させることができると考える。
著者
西村 真吾 山内 克哉 蓮井 誠 山下 裕太郎 鈴木 隆範 川嶋 雄哉 久木 貴寛 伊本 健人 池島 直貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-59_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】足部アーチにおける重要な機能として,接地時の衝撃緩和に働くトラス構造がある.中でも内側縦アーチの低下した障害を偏平足といい,足底筋膜炎やシンスプリントなどの原因になりうるとの報告もある.内側縦アーチの高さと筋力の関係は,アーチが高い程,足趾握力が強いとの報告があるが,影響を及ぼさないとの報告もあり,見解は一致していない.また,足関節周囲筋筋力との関係性を調査した研究もみられない.そこで本研究の目的は,アーチ高率と足部外返し,内返し筋力との関係性について調査し,偏平足に対する新たな治療の一助とすることとした.【方法】対象は,健常成人14名14足(男性7例,女性7例),除外基準は足部骨折や脊髄疾患のある者とした.年齢26.2±5.5歳,体重57.9±9.3kg.アーチ高率は,床面から舟状骨までの高さを実足長で除して100 を乗じた値を用い,計測肢位は立位荷重位で足隔は肩幅とした.筋力はBIODEX SYSTEM4で測定し,角速度60°/sと180°/sにおける足部外返し,内返し最大トルクを算出し体重で除したトルク体重比を算出.また,外返し最大トルクに対する内返し最大トルクの比(以下,IE比)は内返し最大トルクを外返し最大トルクで除して算出し,それぞれの値とアーチ高率との関係を検討.統計処理にはSPSS Version22を使用し,解析はPearsonの相関係数を用いた.【結果】平均値は,アーチ高率:17.2±2.9%,トルク体重比は外返し(60°/s):51.6±13.7Nm/kg,内返し(60°/s):37.5±8.2Nm/kg,IE比(60°/s):0.77±0.23,外返し(180°/s):30.8±5.8Nm/kg,内返し(180°/s):22.6±3.8Nm/kg,IE比(180°/s):0.76±0.18であった.アーチ高率と内返し(60°/s,180°/s), IE比(60°/s)には相関が認められなかった.アーチ高率と外返し (60°/s)(r=-0.66),外返し(180°/s) (r=-0.71)には有意な負の相関,アーチ高率とIE比(180°/s)(r=0.68)には有意な正の相関が認められた.【考察】アーチ高率と外返しトルク体重比(60°/s,180°/s)に負の相関がみられたことから,外返しの作用を有する長・短腓骨筋が内側縦アーチを引き下げている可能性が示唆された.加えて,アーチ高率と内返しトルク体重比(60°/s,180°/s)には相関が認められず, IE比(180°/s)に正の相関が認められたことから,内返しの作用を有する前・後脛骨筋筋力のみが内側縦アーチに影響を与えるのではなく,長・短腓骨筋に対する前・後脛骨筋筋力の比が内側縦アーチに影響を与える可能性が示唆された.後天性扁平足の主な原因は後脛骨筋機能不全とも言われているが外返し筋力とのバランスが重要かと思われる.【結論】60°/s,180°/sにおける外返しトルク体重比が大きいほど,また,180°/sにおけるIE比が少ないほど内側縦アーチが低くなる可能性が示唆された.低アーチを改善させるためには外返し筋力を抑制するような方法やIE比を大きくするような方法が有効かは縦断的な調査が必要かと考える.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得て行い,対象者には書面にて研究協力の同意を得た.
著者
永松 隆 甲斐 義浩 政所 和也 中山 彰一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0504, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】近年,肩関節の三次元動態解析により上肢挙上時の肩甲上腕関節および肩甲骨運動に性差が存在することが報告されている。女性が日常的に着用するブラジャーは,ストラップやバンドなどの構造により肩甲骨を締め付けており,肩甲骨運動が低下することが予想される。上肢挙上時の肩甲骨運動の減少は,様々な肩関節疾患患者で観察されることが明らかとなっており,その運動性は重要視されているが,ブラジャーの影響を検討した報告はない。本研究では,女性におけるブラジャーの着用が,上肢挙上および下降時の肩関節動態に及ぼす影響を調査した。【方法】対象は肩に愁訴や既往のない健常女性19例の利き手側19肩とした。運動課題は端座位での上肢肩甲骨面挙上および下降運動とし,下垂位から3秒かけて最大挙上位,最大挙上位から3秒かけて下垂位となるように計測前に十分に練習を行わせた。計測はブラジャー着用下と非着用下の2条件で,各々2回ずつ行った。運動学的データの収集は磁気式三次元動作解析装置LIBERTY(Polhemus社製)とMotion Monitor softwareⓇ(Innovative Sports Training社製)を用いた。収集した三次元データから胸郭に対する上腕骨挙上角(HE)を算出した。挙上・下降運動ともにHE20°から120°までを解析区間とし,解析区間10°毎の肩甲上腕関節挙上角(GHE),肩甲骨上方回旋角(SUR),肩甲骨後傾角(SPT)を算出し,検討した。角度の算出にはオイラー角を用い,代表値は2計測の平均値とした。統計学的検討項目は,測定信頼性の確認と2条件間のGHE,SURおよびSPTの差異の検討の2項目とした。測定信頼性の確認は級内相関係数(ICC(1,2))を用い,2条件間でのGHE,SURおよびSPTの比較は,二元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を用いた。統計学的解析にはSPSS version 17.0を用い,有意水準は5%未満とした。【結果】GHE,SURおよびSPTのICC(1,2)は,いずれも0.9以上であり測定信頼性は良好であった。2条件間の比較では,GHEとSPTにおいてブラジャー着用の有無とHEの間に有意な交互作用効果を認めた。上肢挙上時のGHEは,HE50°以降で着用下が非着用下より有意に高値を示し,下降時は全てのHEで着用下が高値を示した(p<0.05)。SPTにおいては,挙上・下降時ともにHE40°から120°の間で非着用下が有意に高値を示した(p<0.05)。SURにおいては,有意な交互作用効果は認めなかったが,挙上時のHE70°以降および下降時の全てのHEで非着用下が有意に高値を示した(p<0.05)。また,すべてのパラメーターにおいて,下降時は挙上時のリバースパターンを示した。【結論】本研究の結果,ブラジャーの着用により上肢挙上および下降時の肩甲骨運動は減少し,代償的に肩甲上腕関節運動が増加することが明らかとなった。女性患者における上肢挙上時の肩甲骨運動を評価する際には,ブラジャーの影響を念頭に置く必要がある。
著者
酒井 規宇 工藤 慎太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1230, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】中殿筋の筋力低下によるトレンデレンブルグ歩行は臨床上問題になる。加藤らは変形性股関節症の症例の中殿筋に注目して,筋電図周波数解析や組織学的解析から,速筋線維の萎縮,とくに荷重応答期での速筋線維の活動性の低下が問題としている。そのため,荷重応答期における中殿筋の速筋線維の活動を高めることが重要になるとしている。一方,この時期の中殿筋の活動動態を可視化し,定量的に示した研究は見当たらない。歩行などの動作を改善するための運動療法では,課題間の類似性が重要になる。Schmidtは,類似性の要素として,筋収縮力や収縮形態,負荷量などを挙げている。そこで,異常歩行改善のための中殿筋の筋力強化トレーニングを再考するため歩行中の中殿筋の収縮の様態を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は下肢に障害を有していない健常成人12名(平均年齢20.9±2.8歳,平均身長168±3.3cm)とした。歩行計測はトレッドミル上にて,ビデオカメラを用いた2次元動作解析と超音波画像診断装置(以下エコー)(My Lab 25,株式会社日立メディコ社製)を同期して行った。左側の肩峰,大転子,膝関節裂隙にマーカを貼付し,股関節伸展角度と歩幅を算出した。エコーの撮影モードはBモード,プローブは12MHzのリニアプローブを使用した。大転子の近位部で,中殿筋の筋束と羽状角が超音波画像として得られる部位にプローブを固定し,動画にて撮影した。歩行速度は4.2km/hと6.0km/hに設定し,歩行開始より30秒以上経過した定常歩での超音波の動画から,ImageJを用いて,中殿筋の羽状角と筋厚値を算出した。得られた中殿筋の羽状角と筋厚値から筋線維束長を推定し,歩行周期中の経時的変化を確認した。立脚期における筋線維束長の変化量(以下D-MBL),股関節最大伸展角度,歩幅を2条件で比較検討した。統計学的手法には対応サンプルによるWilcoxonの符号付き順位検定を用いた。さらに,2条件での各々の値の変化量の相関関係をspearmanの順位相関係数にて検討した。統計学的処理にはSPSSver.18を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には本研究の意義と目的,対象者の権利を紙面と口頭で説明し,紙面上にて同意を得た。【結果】4.2km/hでの歩幅は平均62.5±3.3 cm,股関節伸展角度は平均16.3±2.6°,D-MBLは平均7.1±1.4 mmであった。一方,6.0km/hでの歩幅は平均77.9±4.0cm,股関節伸展角度は平均21.8±2.5°,D-MBLは平均10.1±3.1mmであった。全てのパラメータで2条件間で有意差を認めた。また,D-MBLと歩幅・股関節伸展角度の変化量の相関係数はそれぞれ0.53,0.71で,股関節伸展角度にのみ有意な相関関係を認めた。【考察】従来,立脚期には骨盤の水平位を保持するため,中殿筋は遠心性もしくは等尺性収縮をしていると考えられていた。しかし,今回の結果から,初期接地から立脚中期にかけて,中殿筋の筋線維束長が減少していた。河上らは中殿筋の前方筋腹は股屈曲,後方筋腹は股伸展に作用するとしている。今回得た超音波画像は後方筋腹であったため,股関節伸展運動に伴い,立脚期前半における中殿筋は求心性収縮をしていることが明らかになった。また,立脚期後半では筋線維束長の変化量は減少するものの,歩行速度が増加することで短縮量が増加していた。歩行速度が増加することで,歩幅・股関節伸展角度が増加し,股関節伸展角度と筋線維束長に有意な相関を認めたことから,この筋線維束長の変化は歩行速度が高まることによる股関節伸展角度の増加の影響を受けていると考えられる。fukunagaらは歩行中の下腿三頭筋において,立脚期で足関節が背屈する際,下腿三頭筋は等尺性収縮しており,腱や筋膜が伸張されることで,筋膜や腱の高い弾性力を利用していると報告している。股関節においては,股関節伸展角度が増加する中,中殿筋が求心性収縮を行うことで,殿筋膜や停止腱は伸張され,筋膜や腱の弾性力が高くなり,効率的に股関節の安定性を高める歩行になっていることが考えられる。つまり,中殿筋の筋力低下により生じるトレンデレンブルグ歩行の運動療法においては,中殿筋の求心性収縮を強調したトレーニングや股関節伸展角度を増加させたステップ課題の提示が重要になると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回,立脚期における中殿筋の後方筋腹の収縮の様態は求心性収縮であった。また,歩行速度の増加に伴う股関節伸展角度の増加が,殿筋膜や停止腱の弾性力により股関節の安定性を高めていると考えられる。今後は,中殿筋の筋力低下を呈した高齢者を対象に比較検討を行うとともに,中殿筋の求心性収縮を中心とした,より具体的な運動療法やそれに伴うトレーニング効果についても検討したい。
著者
野瀬 友裕 横田 裕丈 吉岡 慶
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P2047, 2010

【目的】<BR>足底部の特に母趾はメカノレセプターの分布が豊富であるとされ,体性感覚情報の収集源として重要とされている.足底部からの感覚情報を増加させることで,動的外乱刺激に対して立位姿勢の安定性が増加するといわれている.今回,母趾足底部のメカノレセプターの賦活を目的に触圧刺激を入力し,身体の前方移動距離をFunctional Reach Test(以下,FRT)を用いて検証したので報告する.<BR>【方法】<BR>対象は整形外科的,神経学的疾患の既往のない健常者40名.その内訳は介入群(以下,A群)20名,平均年齢20.8±1.0歳,平均身長168.5±8.8cm.運動学習効果を考慮した非介入群(以下,B群)20名,平均年齢20.4±1.1歳,平均身長167.3±8.7cmである.介入方法は,被検者を背臥位として,左下肢から順に,左右の母趾足底部へ検者の母指腹にて皮膚変異が起こる様に擦り上げ,触圧刺激を1回/秒の頻度で30回ずつ入力した.FRTは試技を2回行った後,休憩を入れずに3回測定し,介入を行った直後に3回測定した.B群には端座位での休憩時間を60秒間設けた.FRTの開始肢位は,裸足で両下肢を肩幅に開き(開扇角は任意),ホワイトボードに体側を向けて立ち,右肩関節90°屈曲位,前腕90°回内位,手指を完全伸展位とした.マグネットにて1mの物差しを被検者の肩峰の高さに固定し,第3指尖位置を読み取った後,合図にてリーチ動作を開始し,最大到達地点を3秒間保持させ,その位置を読み取るまでを1施行とした.また,開始肢位の統一,体幹の回旋を含んでよいこと,踵離地しないこと,目線は手尖とすることを口頭指示して行った.それぞれの試行の最高値を身長で除した値をFRT値として比較を行い,統計処理には対応のあるt検定を用い,有意水準は1%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR>被検者全員に対して,実験前に書面にて本研究の目的,個人情報の保護を遵守する旨を伝え,署名にて同意とみなした.<BR>【結果】<BR>A群では,FRT値が増加した者8名,減少した者9名,変化のなかった者3名であった.FRT値の平均は介入前0.219,介入後0.221であり,有意差を認めなかった(P>0.01).<BR>B群では,FRT値が増加した者14名,減少した者4名,変化のなかった者2名であった.FRT値の平均は休憩前0.228,休憩後0.238であり,有意差を認めた(P<0.01).<BR>【考察】<BR>足底感覚と立位安定性との関係は,先行研究において有意な相関があるとの報告がある.今回,休憩前後の試行において有意にFRT値が上昇したB群に対し,A群では介入前後で有意差は見られなかった.これは,A群において母趾足底部への触圧刺激入力によりメカノレセプターの賦活が起こり,姿勢制御中枢への求心性情報の量的増大が起こり,結果として身体の前方向へのモーメントが制動されたと考えられる.本研究では,賦活されたメカノレセプターによる姿勢制御における働きを,FRT値という量的変化のみで検証したが,今後,重心動揺計や三次元動作解析装置などによる質的変化についても検証していく必要があると考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>中枢神経性・末梢神経性感覚障害を有する疾病や外傷の繰り返し,荷重制限,長期臥床,加齢などにより足底のメカノレセプターは機能低下に陥り,情報の量的,質的低下を招く.その結果,平衡機能障害は誘発される.特に高齢者の皮膚ではコラーゲンが減少して弾性が低下することが報告されており,この現象は刺激に対する閾値の上昇と関連していると考えられている.加齢に伴う,足底感覚の低下は転倒のみならず歩行動作を通じて,関節疾患にも影響を与えると考えられる.今回の研究結果から,対象者は若年成人健常者であるため前述した「高齢者の皮膚」に対する介入は行えていないものの,徒手的な感覚入力のみにおいてもメカノレセプターを賦活でき姿勢制御能力に好影響を与えることが示唆された.臨床場面における介入方法として,母趾足底部に対する徒手的な触圧刺激入力は,患者自身でも行える方法として有用であると考えられる.
著者
知花 徹也 土井 昭二 鳥居 善也 矢野 奉紀 神谷 秀明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C1401, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】現在、アキレス腱炎の治療についての報告は安静、固定(テーピング)、足底板、手術というものが主流を占めている。果たしてこれらの治療のみで根本的な症状の解決は得られるのであろうか。今回、安静、固定などを行わずに運動療法により良好な結果を得られた症例について報告する。【方法】運動部に所属し運動中、運動後にアキレス腱に疼痛を認める10代女性に対し動作分析(片脚立位、45cm台昇降動作、hip up)、Active SLR testにより筋出力、各筋の協調性の左右差を比較した。患側では健側と比較し片脚立位、45cm台昇降動作にて体幹の患側への側屈、knee inを認めた。圧痛所見はアキレス腱内側に強く認める。それに対し安静指導は行わず、体幹筋、股関節周囲筋の運動療法を、筋出力、協調性の制限因子がTightnessによるものである場合stretchを指導した。【結果】運動療法、stretch指導から2週間で体幹側屈、knee inは改善し、圧痛所見は認めるものの動作時痛はほぼ消失する。【考察】運動時に体幹の患側への側屈やknee inにより、距骨下関節の回内が起こり、アキレス腱内側に伸張ストレスが加わる事により炎症所見を増悪させていると考える。体幹の患側への側屈、knee inの主な原因は、殿筋群の筋出力低下、体幹を安定させた状態で股関節を運動させるのに必要な腸腰筋や体幹深層筋の機能低下によるものであると考える。殿筋群の筋出力低下は、股関節外旋筋のTightnessにより中殿筋後部線維、大殿筋の筋長が短くなっており、その状態での収縮を行っていたために生じたと考える。それにより、股関節、骨盤帯を安定させることが出来ず骨盤の側方移動が大きくなりknee inが、それによる立ち直り反応や代償動作にて体幹の側屈が起こり、結果、体幹深層筋の機能低下が生じたと考える。本症例の場合、それらに対する運動療法により、体幹の側屈、knee inが改善されたことが症状の改善に繋がったと考えられる。【まとめ】アキレス腱炎において局所の炎症所見の原因が体幹筋、股関節周囲筋の筋出力、協調性の低下によるところもあり、必ずしも安静は必要でなく、運動療法により症状をコントロール出来ることが示唆された。現状、アキレス腱炎のバックグラウンドには、練習量の増加によるover use、睡眠などの休息時間の減少、痛くても練習を休みたくないという患者本人の強い気持ちなどがあると思われる。理学療法士として、安静という決断は本当に正しいのであろうか。発表内容の検討は大いに必要であるが、安静やテーピングによる対症療法ではなく、運動療法などによる根治療法を目指していくべきであると考える。
著者
福井 勉 大竹 祐子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AaOI2006, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 身体重心を制御するため支持基底面内で足関節と股関節で協調した運動が行われていることはよく知られている。またどちらかの関節で運動制限を有しても他の関節で代償運動している症例を良くみかける。しかしながら、この両方の関節の動作時の関係性を明確に示したものはあまり見当たらない。そこで、我々は荷重位での骨盤前後運動の際の股関節と足関節の角度の相関分析を用いて検討したので報告する。【方法】 対象は下肢などに運動制限を有しない男性健常人14名(年齢24.1±3.38歳、身長172.7±6.43cm、体重64.3±7.00cm)とした。被験者に対して立位足幅25cmの幅で、下肢を平行に立った立位から、骨盤を前方-後方および右方-左方に可及的に移動するよう指示した。それぞれの運動の時間は5秒で最大位置に達するように指示し、数回の練習を行った後に計測した。身体運動検出には、VICON-MX(カメラ8台,sampling rate 120Hz)にて計測した。モデルは、Plugin-gait下肢モデルを用い、足関節底背屈、回内外および股関節屈曲伸展、内外転角度を求めた。マーカー位置は左右(上前腸骨棘,大腿外側,膝外側,下腿外側、外果、踵、第2中足骨頭)計16個であった。足関節(距骨下)回内外角度と股関節内外転および足関節底背屈角度と股関節屈伸角度について時系列データの相関分析を行った。【説明と同意】 本研究は文京学院大学倫理委員会承認を受けた。被験者に対して、本研究への参加は被験者の自由意志によるものであることを十分に説明し、研究に参加しないことによる不利益がないことを述べた。データは匿名化の処理を行い、個人情報を含むファイルは文京学院大学大学院スポーツマネジメント研究所内パソコンに保管した。研究成果の公表の場合は、個人が特定されないよう配慮を行った。被験者各人に書面と口頭で「対象とする個人の人権擁護、研究の目的、方法、参加することにより予想される利益と起こるかもしれない不利益について、個人情報の保護について、研究協力に同意をしなくても何ら不利益を受けないこと、研究協力に同意した後でも自由に取りやめることが可能であること、計測中生じうる危険」を説明し、作成した同意書にて本研究協力に関する同意を得た。【結果】 足関節回内外角度と股関節内外転の相関係数はr=0.85~0.99(p<0.001;n>1000)であり、足関節回内時に股関節内転、足関節回外時に股関節外転が生じた。また足関節底背屈角度と股関節屈伸角度の相関係数はr=0.75~0.99(p<0.001;n>1000)であり、足関節背屈時に股関節伸展、足関節底屈時に股関節屈曲が生じた。それぞれの角度変化は一方が大きくなるほど他方も大きくなる関係であった。【考察】 スクワット動作中の足および股関節の関係を検討した我々の先行研究では、足関節背屈角度制限を人為的に起こすと股関節屈曲角度を大きくして代償し、また逆に股関節屈曲角度を制限すると足関節背屈運動で代償した。すなわち相補的関係を示したわけであるが、これはどちらか一方の関節が可動域制限を有していても他方の関節が補うものであった。Trendelenburg徴候が慢性化すると、徐々に距骨下関節を回内位にして足部を床に接地するようになってくる症例を見かけることは多い。この徴候は股関節内転位であり骨盤外側移動も起こすため本実験結果と良く一致し、原因は股関節にあると考えられ距骨下関節の動きはその結果であると考えられる。一方、前距腓靭帯損傷後には距骨下回外位を避けるため、骨盤を外側へ移動させて代償する症例もしばしば観察できる。その際、当然であるが骨盤側方移動は代償運動であり、内反捻挫を原因とする結果的な代償である。原因は足関節であり、股関節はその結果である。そのため理学療法として骨盤側方移動に対してアプローチするのではなく、原因である足関節を対象とすることが正当であることも示唆していると考えられる。本研究での骨盤運動の指示は足関節、股関節どちらかを制御因子としたわけではないため両者の相関関係は明確にあると考えられる。これは支持基底面上に身体重心を位置させる作用を足、股関節の双方で相補的に有することを示していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】荷重位における足関節と股関節の前額面、矢状面における相互関係が本研究で明確となったと考えられる。足関節、股関節どちらかの関節の機能に障害が生じた場合、もう一方の関節でどのように代償させたらよいか、あるいは治療アプローチの方法論に展開可能となる。また運動学的な関係性とともに、外乱時の身体応答の検討のみでなく日常の姿勢にもこのような現象は合致した。すなわち理学療法の治療介入の順序を規程することにつながると考えられる。
著者
松本 元成 大重 努 久綱 正勇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1822, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】肩こりは医学的な病名ではなく症候名である。「後頭部から肩,肩甲部にかけての筋肉の緊張を中心とする,不快感,違和感,鈍痛などの症状,愁訴」とされるが,明確な定義はいまだない。平成19年の国民生活基礎調査によれば,肩こりは女性の訴える症状の第1位,男性では2位である。このように非常に多い症状であるにもかかわらず,肩こりに関して詳述した文献は決して多くない。我々理学療法士が肩こりを診る場合,姿勢に着目することが多いが肩こり者の姿勢に関する報告も散見される程度で,統一した見解は得られていない。臨床的には肩甲帯周囲のみならず,肋骨,骨盤なども含めた体幹下肢機能についても評価介入を行い,症状の改善が得られる印象を持っている。本研究の目的は,肩こり症状とアライメント,特に肩甲骨,肋骨,骨盤アライメントとの関連性について明らかにすることである。【方法】対象は当院外来患者で,アンケートにおいて肩こり症状が「ある」と答えた女性患者18名である。肩周囲に外傷の既往があるものは除外した。アンケートにおいて肩こり罹患側の左右を聴取した。罹患側の肩こり症状の強さをVisual Analogue Scale(以下VAS)を用いて回答して頂いた。アライメント測定は座位で実施した。座位姿勢は股関節と膝関節屈曲90°となるよう設定した。①体幹正中線と肩甲骨内側縁のなす角②胸骨体と肋骨弓のなす角③ASISとPSISを結んだ線が水平線となす角を,左右ともにゴニオメーターで測定した。①②③の角度を肩こり側と非肩こり側について,対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準はそれぞれ5%とした。またPearsonの相関係数を用いて肩こり罹患側におけるVASと①~③のアライメントとの相関関係を検証した。【結果】①の体幹正中線と肩甲骨内側縁のなす角は,非肩こり側で12.50±6.13°,肩こり側で3.11±7.76°と肩こり側において有意に減少していた。②胸骨体と肋骨弓のなす角においては有意差を認めなかった。③ASISとPSISを結んだ線が水平線となす角は,非肩こり側で7.83±7.74°,肩こり側で3.17±8.59°と肩こり側において有意に減少していた。VASと①②③のアライメントについては有意な相関を認めなかった。【考察】本研究の結果より,肩こり側は非肩こり側に比べて肩甲骨の上方回旋が減少し,骨盤の前傾が減少していることがわかった。座位姿勢において土台となる骨盤のアライメントがより上方の身体へと波及し,肩こりに何らかの影響を及ぼしている事が示唆された。身体アライメントと肩こり症状の強さにはいずれも相関を認めず,症状の強さは今回調べた身体アライメントの異常だけでは説明がつかないことがわかった。本研究の限界として肩甲骨の上方回旋,下方回旋,骨盤では前後傾以外のアライメントには着目できていない。またあくまで同一被検者内での肩こり側,非肩こり側の比較である。今後,他のアライメントについてあるいは,肩こり者と非肩こり者間での検討も必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】肩こりの理学療法において,肩甲帯周囲のみならず骨盤帯周囲に対しても評価,介入が必要となる場合があるかもしれない。また肩こり症状の強さについては,身体アライメントのみならず多角的な視点や介入が必要であることが示唆された。
著者
増田 一太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1443, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】腰痛は,最も有訴者数の多い症状であり,社会的に大きな問題となっている。近年,大人だけでなく,子どもも痛発生位率が高いことが報告されている。自験例における小学5年生から高校3年生の1112名を対象としたアンケート調査において,子どもの腰痛発生率は12.5%であり,その内座位時に腰痛を有するケースは77.2%と運動時に腰痛を有するケースの63.2%より多く,座位時腰痛は子どもにとって大きな問題であるといえる。子どもの腰痛リスクの一つとして椅子に浅く腰掛けるなどの不良姿勢が報告されているが,体育座りに関する報告はない。そこで今回,子どもが学校生活で行う椅座位と体育座り時の脊椎アライメント変化をバイオメカニクス的に調査し腰痛リスクを考察したので報告する。【方法】脊椎・下肢疾患を有さない30歳以下の健常成人男性17名(年齢:24.6±3.1歳;身長173±5cm;体重:66.1±8.7kg)を対象とした。測定肢位は,椅座位と体育座りの2通り測定を行った。すべての肢位で5分間同一姿勢をとらせた後に20分間の測定を行った。脊椎カーブの経時的変化を調査するために,全身の解剖学的特徴点17点に加え,脊椎の第1,3,5,7,9,11,12胸椎棘突起,第1~5腰椎棘突起,第2,3仙椎の14点,計31点に反射マーカーを貼付し,それぞれの3次元座標値を16台のカメラを用い3次元モーションキャプチャシステムで計測した。データ処理は,測定開始から0~1分,4~5分,9~10分14~15分,19~20分に相分けした。その後,各相の各脊椎棘突起の座標をそれぞれ求め,平均座標を算出した。脊椎弯曲角度の算出方法は,得られた平均座標を基に当該椎体より上位2対と下位2椎をそれぞれ結んだ線の近似直線をそれぞれ求めた。得られた両近似直線の傾きを,ラジアン値から角度に変換し2つの角度の差を求める方法により第5,7,9,11,12胸椎角,第1,2,3,4,5腰椎角の平均値をそれぞれ算出した。各相の測定開始0~1分の値と各相の各脊椎弯曲角度との関係をピアソンの積率相関係数を用いて検定した。統計的有意水準は5%未満に設定した。【結果】椅座位は,測定開始4~5分間まで第11胸椎(21°)と第3腰椎(32.8°)を頂点,第12胸椎(7.5°)を底辺とした二峰性のカーブを呈していた。その後測定開始9~10分以降に第1腰椎(39.1°)を頂点とした一峰性のカーブへと推移した。第4腰椎角は,測定開始0~1分間の値6.3°と14~15分間の値3°と間に有意差を認めた(p<0.05)が,それ以外は認められなかった。体育座りは,時間の経過とともに最大後弯角度は低下するもの下位胸椎から全腰椎にまたがる緩やかな一峰性のカーブを描き続けた。脊椎アライメントのピークは測定開始14~15分間まで第2腰椎であった。各値は測定開始0~1分間は38°,4~5分間は37.1°,9~10分間は36°,14~15分間は41.8°であった。その後,測定開始19~20分間のピークを第3腰椎(37.4°)とした。体育座りにおける測定開始0~1分間と各相における有意な差は認められなかった。【考察】子どものライフスタイルは学校や下校後の学習活動など座位時間が圧倒的に多いのが特徴である。持続的な腰椎後弯ストレスは椎間板内圧の上昇をさせるだけでなく,終板軟骨障害を生じさせる可能性も報告されている。このように脊椎の後弯を伴った座位姿勢は,腰椎後方支持機構に過負荷を与え腰痛の引き金となる。今回得られた結果から,椅座位時の脊椎アライメントは,測定開始当初の二峰性のカーブから,測定開始9~10分以降の上位腰椎を頂椎とした一峰性のカーブへと変化している。椅座位は開始10分間以降,一峰性となり腰痛のリスクが上昇するものと考えられる。一方,体育座りは開始当初より上位腰椎のみ中心とした一峰性のカーブを描き続けており,測定開始当初より腰椎構成体への慢性的な負担が生じていると考えられる。その上,体育座りは姿勢の自由度も低く,椅座位と比較し腰痛リスクが高まりやすい姿勢である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】体育座りは日本の教育現場でしか行われていない特殊な座位法であり,バイオメカニクスの観点からの調査報告は行われていない。臨床においても座位時腰痛に対する理学療法を行う上での基礎的情報となるだけでなく,教育現場への啓蒙活動を行う上で必要不可欠な情報であり有益な報告であると考える。
著者
西浦 友香 大野 善隆 藤谷 博人 後藤 勝正
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2038, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】近年、スポーツ現場では筋損傷の回復を促すために、物理療法の1つである微弱電流刺激(microcurrent electrical neuromuscular stimulation:MENS)が行われている。肉離れ等の筋損傷時において、受傷直後からのMENSにより早期に競技復帰可能になるケースが報告されており、MENSには損傷した組織の修復を促進させる可能性のあることが指摘されている。我々はこれまで、MENSは骨格筋組織幹細胞である筋衛星細胞を活性化させることで損傷からの回復を促進することを確認した。しかし、損傷骨格筋回復過程には、筋タンパク合成系シグナルの活性化が必要あるものの、発生するシグナルに関しての報告はみられない。筋タンパク合成に係るシグナルは複数報告されているが、インスリンシグナル下流に位置するAkt-p70 S6 kinase系の関与が注目されている。そこで本研究では、MENSによる損傷骨格筋回復過程におけるAkt-p70 S6 kinase系の関与について検討した。MENSが損傷骨格筋の再生を促進する分子機構が明らかになれば、リハビリテーションをはじめとする広範分野にMENSの適応範囲が拡大すると考えられる。【方法】実験には生後10週齢の雄性マウス(C57BL/6J)のヒラメ筋を用いた。マウスを無作為に、1)筋損傷群、2)筋損傷+MENS群の2群に分類した。マウスに対して2週間の後肢懸垂を負荷した後、通常飼育に戻した。後肢懸垂により荷重が除去されたヒラメ筋では、その後の通常飼育による再荷重により軽微な部分的筋損傷が惹起される。マウスは室温23±1°C、明暗サイクル12時間の環境下で飼育され、餌および水は自由摂取とした。後肢懸垂終了1日後より、麻酔下にてMENS処置を施行した(Trio300、伊藤超短波社製)。MENS処置後、経時的にマウス両後肢よりヒラメ筋を摘出し、即座に結合組織を除去した後、筋湿重量を測定した。筋湿重量測定後、液体窒素を用いて急速凍結し、-80°Cで保存した。摘出したヒラメ筋はprotease inhibitor及びphospatase inhibitorを含むライセートバッファーを用いてホモジネートし、Bradford法により筋タンパク量を測定した。さらに、ウェスタンブロット法により、Akt、p70 S6 kinase、p38 MAPKの発現量ならびに各酵素のリン酸化レベルを評価した。【説明と同意】本研究は、豊橋創造大学が定める動物実験規定に従い、豊橋創造大学生命倫理委員会の審査・承認を経て実施された。【結果】MENSによる体重への影響は認められなかった。後肢懸垂により低下した筋湿重量および筋タンパク量は、懸垂後の通常飼育により徐々に回復した。懸垂解除1日後に、Aktおよびp70 S6 kinaseのリン酸化レベルの一時的な増加が認められた。懸垂後に観察される筋湿重量および筋タンパク量の回復は、MENSにより促進した。また、MENSによりAktおよびp70 S6 kinaseのリン酸化レベルの再度の増加、ならびにp38 MAPKの活性化を引き起こした。【考察】MENS処置は、損傷した骨格筋の再生を促進することが確認された。損傷筋の回復過程において、Aktおよびp70 S6 kinaseの一時的な活性化が生じるが、MENSにより回復後期にもAkt、p70 S6 kinaseおよびp38 MAPKの活性化を引き起こすことが明らかとなった。MENSはこれらの酵素の活性化が筋タンパク合成を促進することで、損傷した骨格筋の回復を促進することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究において、MENSによる損傷筋の回復促進効果にはAkt-p70 S6 kinase系ならびにp38 MAPKが関与していることが示唆された。本研究の知見は、MENSによる損傷骨格筋回復の分子機構の解明につながり、今後種々の疾患や傷害による骨格筋損傷に対する効果的なリハビリテーション技術の開発、ひいては医療費の抑制に寄与できると考えている。さらに、物理療法の1つである電気刺激療法に対して貴重な科学的知見をもたらすことで、理学療法学の発展に貢献できると考えている。本研究の一部は、文部省科学研究費(B, 20300218; A, 22240071; S, 19100009)ならびに日本私立学校振興・共済事業団による学術振興資金を受けて実施された。
著者
新井 武志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0094, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】一般に,筋機能の測定では,徒手筋力測定器などを用いて,等尺性収縮の最大発揮筋力(もしくはトルク)が測定されている場合が多い。しかし,身体機能や生活機能との関係を考えると,固定された関節で発揮される等尺性の能力よりも,トルクと角速度の積で表わされる筋パワーのほうがより臨床的な指標であることが示されている。そこで本研究では,簡便に角速度を測定できるジャイロセンサーを用いて膝関節の最大発揮角速度を測定し,その測定値が筋力や筋パワーを外挿するのか健常若年者を対象に検証した。【方法】対象は健常若年者93名(男性53名,女性40名,平均年齢19.5歳)であった。対象者は,端座位にて下腿下垂位から膝関節伸展位まで最大努力で伸展を行った。その際の最大発揮角速度を,ジャイロセンサーを用いて測定した。その他に,等速性筋力測定器(BIODEX)を用いて,膝関節屈曲45°および90°での等尺性最大トルク,3つの等速度条件における,最大トルクと平均パワーを測定した(角速度はそれぞれ60,180,300°/秒とした)。最大発揮角速度とそれぞれの筋機能測定値との関連は,ピアソンの積率相関係数を用いて評価した。危険率は5%未満を有意とした。【結果】ジャイロセンサーを用いて測定した膝関節伸展最大角速度の測定値は,630.0±119.0°/秒(平均値±標準偏差)であった。この測定値は,他のすべての測定条件におけるトルクや筋パワーと有意な相関を示した(P<0.05)。等尺性最大トルクとの相関係数は,90°屈曲位に対し45°屈曲位との相関係数が大きくなった(r=0.410 vs.0.555)。また,等速度条件では,角速度が大きくなるほど,トルク値との相関係数は大きくなった(r=0.484(60°/秒),0.569(180°/秒),0.589(300°/秒))。同様に,平均パワーとの相関係数も角速度が増すと大きくなることが示された(r=0.320(60°/秒),0.480(180°/秒),0.517(300°/秒))。【結論】ジャイロセンサーを用いて測定された最大発揮角速度は,筋機能と有意な相関を示した。このことにより,高価なトルクマシンがなくても,ジャイロセンサーによって簡便に筋パワー等が外挿できることが示唆された。またジャイロセンサーによって測定された膝関節の最大発揮角速度は,比較的浅い屈曲角度のトルク値や,より速い角速度でのトルク値や筋パワーと近似することが示唆された。今後,身体パフォーマンスとの関連を示していくことによって,ジャイロセンサーを用いた角速度測定の臨床における有意性が示していけるものと考える。
著者
羽崎 完 藤田 ゆかり 山田 遼
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0440, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 筋連結とは,隣接するふたつの骨格筋において,筋膜,筋間中隔などの結合組織や互いの筋線維が交差して接続していることを指し,全身のいたる所で観察できる。Myersは,個々の筋連結による筋の全身におよぶ連続したつながりを経線としてとらえ,ほとんどの運動が経線に沿って拡がるとしている。つまりこれは,ある筋が収縮したとき,その筋に連なる筋にまで活動が伝達されることであり,この概念は広く臨床に応用されるようになっている。しかし,筋連結や経線についての概念は解剖学的な考察や経験に基づいており,筋の機能的な連結について明確にされていない。我々は,Myersの述べる経線のひとつであるラセン線上にある前鋸筋と外腹斜筋に着眼し,両筋が機能的に筋連結していることを明らかにし,第46回日本理学療法学術大会においてその成果を報告した。本研究では,その延長線上にある菱形筋と前鋸筋も機能的に連結しているか否かを明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は,健常成人男性10名(平均年齢21.2±1.8歳,身長170.4±9.7cm,体重65.6±26.2kg)とした。測定は,前鋸筋に負荷を与えたときの前鋸筋と菱形筋の筋活動を導出した。測定肢位は,高さの調節できる椅子に膝関節90°屈曲位になるように座らせ,肘関節伸展位にて肩関節90°屈曲位,肩甲骨最大外転位とした。この肢位で,前腕遠位部に自重(負荷なし),2kg,4kg,6kgの負荷を加え,それぞれ5秒間保持させた。測定筋は第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,菱形筋とした。第6および第8肋骨前鋸筋は肋骨上で触診できる位置に,菱形筋は肩甲骨最大外転位で,僧帽筋下部線維外側縁,肩甲骨内側縁,肩甲骨下角から第5胸椎棘突起を結んだ線でできる三角形内に電極を貼付した。なお、電極が正確に菱形筋に貼付できているか,超音波画像診断装置(日立メディコ社製Mylab25)を用いて確認した。筋活動の測定は,表面筋電計(キッセイコムテック社製Vital Recorder2)を用い,電極間距離1.2cmのアクティブ電極(S&ME社製)にて双極導出した。筋活動の解析は,自重時の平均筋活動量を1として,各負荷における筋活動量の変化率を算出し行った。第6および第8肋骨前鋸筋と菱形筋の関係は,Pearsonの相関係数を求め検討した。さらに,第6肋骨前鋸筋と第8肋骨前鋸筋のどちらがより菱形筋と関係が強いか検討するために重回帰分析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者の個人情報は,本研究にのみ使用し個人が特定できるような使用方法はしないことや研究の趣旨などの説明を十分に行った上で,対象者の同意が得られた場合にのみ,本研究を実施した。【結果】 Pearsonの相関係数を求めた結果,菱形筋と第6肋骨前鋸筋との相関係数は0.791,第8肋骨前鋸筋との相関係数は0.817となり、いずれも有意な強い正の相関が認められた(p<0.01)。重回帰分析の結果,第6肋骨前鋸筋の標準偏回帰係数は0.356,第8肋骨前鋸筋の標準偏回帰係数は0.517となり,第8肋骨前鋸筋にのみ有意な影響が認められた(p<0.05)。【考察】 五十嵐らは解剖実習献体を用いて,菱形筋と前鋸筋が肩甲骨内側縁で線維性結合組織で連結されていることを肉眼にて確認している。また,竹内らも解剖実習献体の大菱形筋付着部を観察し,それが前鋸筋筋膜に折りたたまれるように接着していることを確認している。このように菱形筋と前鋸筋が解剖学的に連結していることは明白であり,菱形筋の筋活動の変化率と前鋸筋の変化率が強い相関を示した今回の結果から,機能的にも連結していることが明らかとなった。一般的に菱形筋は肩甲骨の内転・下方回旋に,前鋸筋は外転・上方回旋に作用し,両筋は拮抗筋の関係にあるとされている。その一方でPatersonが経験に基づき推察しているように菱形筋と前鋸筋は共同筋として肩甲骨の安定に作用していることが知られている。今回の結果は,この推察を科学的に証明した。菱形筋と前鋸筋は,解剖学的にも機能的にもあたかもひとつの筋のように肩甲骨の安定に作用すると考える。また重回帰分析の結果から、第6肋骨前鋸筋よりも第8肋骨前鋸筋の方がより菱形筋との関係が深い傾向が認められた。これは,第6肋骨前鋸筋よりも第8肋骨前鋸筋の方が菱形筋の走行の向きに近似しており,肩甲骨の安定に対して共同筋としてより機能しやすいためと考える。Myersもラセン線は前鋸筋のより下部を通過するとしており,下方の前鋸筋の方が菱形筋との関係が深いことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は,不安定な肩甲骨に対して前鋸筋のみにアプローチするのではなく,菱形筋と前鋸筋をひとつの筋としてアプローチする必要があることを示唆している。
著者
清水 厳郎 長谷川 聡 本村 芳樹 梅原 潤 中村 雅俊 草野 拳 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0363, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】肩関節の運動において回旋筋腱板の担う役割は重要である。回旋筋腱板の中でも肩の拘縮や変形性肩関節症の症例においては,肩甲下筋の柔軟性が問題となると報告されている。肩甲下筋のストレッチ方法については下垂位での外旋や最大挙上位での外旋などが推奨されているが,これは運動学や解剖学的な知見を基にしたものである。Murakiらは唯一,肩甲下筋のストレッチについての定量的な検証を行い,肩甲下筋の下部線維は肩甲骨面挙上,屈曲,外転,水平外転位からの外旋によって有意に伸張されたと報告している。しかしこれは新鮮遺体を用いた研究であり,生体を用いて定量的に検証した報告はない。そこで本研究では,せん断波エラストグラフィー機能を用いて生体における効果的な肩甲下筋のストレッチ方法を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常成人男性20名(平均年齢25.2±4.3歳)とし,対象筋は非利き手側の肩甲下筋とした。肩甲下筋の伸張の程度を示す弾性率の計測は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,肩甲下筋の停止部に設定した関心領域にて求めた。測定誤差を最小化できるように,測定箇所を小結節部に統一し,3回の計測の平均値を算出した(ICC[1,3]:0.97~0.99)。弾性率は伸張の程度を示す指標で,弾性率の変化は高値を示すほど筋が伸張されていることを意味する測定肢位は下垂位(rest),下垂位外旋位(1st-ER),伸展位(Ext),水平外転位(Hab),90°外転位からの外旋位(2nd-ER)の5肢位における最終域とした。さらに,ExtとHabに対しては肩甲骨固定と外旋の有無の影響を調べるために肩甲骨固定(固定)・固定最終域での固定解除(解除)と外旋の条件を追加した。統計学的検定は,restに対する1st-ER,Ext,Hab,2nd-ERにBonferroni法で補正したt検定を行い,有意差が出た肢位に対してBonferroniの多重比較検定を行った。さらに伸展,水平外転に対して最終域,固定,解除の3条件にBonferroniの多重比較検定を,外旋の有無にt検定を行い,有意水準は5%とした。【結果】5肢位それぞれの弾性率(平均±標準偏差,単位:kPa)はrestが64.7±9.1,1st-ERが84.9±21.4,Extが87.6±26.6,Habが95.0±35.6,2nd-ERが87.5±24.3であった。restに対し他の4肢位で弾性率が有意に高値を示し,多重比較の結果,それらの肢位間には有意な差は認めなかった。また,伸展,水平外転ともに固定は解除と比較して有意に高値を示したが,最終域と固定では有意な差を認めなかった。さらに,伸展・水平外転ともに外旋の有無で差を認めなかった。【結論】肩甲下筋のストレッチ方法としてこれまで報告されていた水平外転からの外旋や下垂位での外旋に加えて伸展や水平外転が効果的であり,さらに伸展と水平外転位においては肩甲骨を固定することでより小さい関節運動でストレッチ可能であることが示された。
著者
廣野 哲也 池添 冬芽 田中 浩基 梅原 潤 簗瀬 康 中村 雅俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0610, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年,低強度・高反復トレーニングの筋力増強・筋肥大効果が着目されており,30%1RM程度の低強度トレーニングでも反復回数を12セット程度に増やすことにより,80%1RMの高強度と同等の効果が得られることが報告されている。一方,セット間の休息時間の影響について,高強度トレーニングではセット間の休息時間を長くすると介入効果が減少することが報告されているが,低強度トレーニングにおけるセット間の休息時間の影響を検討した研究はみられない。また,筋力トレーニング直後に生じる筋腫脹は骨格筋へのメカニカルストレスを反映しているとされており,トレーニング介入による筋肥大効果と関連があると考えられている。そこで本研究は低強度・高反復トレーニングにおける休息時間の違いがトレーニング直後の筋腫脹に及ぼす影響について,1)筋腫脹が生じる運動量(セット数)に違いはみられるのか,2)高反復トレーニング直後の筋腫脹の程度に違いはみられるのかに着目して検討した。【方法】対象は健常若年男性42名(年齢22.9±2.4歳)とし,トレーニングのセット間の休息時間を20秒,60秒,180秒とする3群にそれぞれランダムに振り分けた。30%1RMの低強度での膝伸展筋力トレーニングを膝関節屈曲90°から0°までの範囲で求心相3秒,保持1秒,遠心相3秒の運動速度で行った。なお,1RMは膝関節屈曲90°から0°まで膝伸展可能な最大挙上重量を筋機能評価装置(BIODEX社製)にて測定した。10回の反復運動を1セットとし,各セット間休息時間をはさんで計12セット行った。筋腫脹の評価として,超音波診断装置(GEメディカルシステム社製)を用いて外側広筋の筋厚を測定した。測定肢位は端座位・膝関節屈曲90°位とし,測定部位は上前腸骨棘と膝関節外側裂隙を結ぶ線の遠位1/3とした。筋厚の計測はトレーニング直前およびトレーニング3セットごとの計5回行った。統計解析は各群における筋厚の変化について反復測定分散分析および事後検定として多重比較を行った。さらに,多重比較検定を用いてトレーニング前に対する12セット終了時の筋厚変化率の群間比較を行った。【結果】反復測定分散分析の結果,全ての群で主効果を認め,多重比較の結果,休息20秒群と60秒群はトレーニング前と比較して3,6,9,12セット後のすべてにおいて有意な筋厚の増加がみられた。一方,180秒群においては12セット後のみ筋厚の有意な増加がみられた。また,12セット後の筋厚変化率に3群間で有意差はみられなかった(20秒群;5.1±6.0%,60秒群;6.8±1.7%,180秒群;4.4±3.1%)。【結論】低強度トレーニングにおいて,12セットの高反復トレーニング直後の筋腫脹にはセット間の休息時間による違いはみられないが,セット間の休息時間が長くなると筋腫脹を生じさせる運動量(セット数)はより多く必要となることが示唆された。
著者
永井 宏達 建内 宏重 井上 拓也 太田 恵 森 由隆 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C1390, 2008

【目的】これまで,筋機能の改善は,筋力増強に重きをおかれてきたが,近年,活動量だけでなく筋活動の開始時期が注目されている.先行研究では,腰痛の有無に着目し,腰痛群において主動作筋に対する体幹筋の筋活動開始時期が遅延するという報告もされているが,腰椎前彎の有無に着目して,筋活動開始時期への影響を調査した報告は見当たらない.本研究の目的は,腰椎前彎が下肢運動時における体幹筋の筋活動開始時期に及ぼす影響を明らかにすることである.<BR>【対象と方法】対象は健常成人男性9名(平均年齢23.1±2.9歳)とした.表面筋電図の測定にはNORAXON社製TeleMyo 2400を使用した.測定筋は,左側の内腹斜筋・腹横筋群(IO),腹直筋(RA),外腹斜筋(EO),多裂筋(MF),半膜様筋(SM),大殿筋(GM)とし,右SLR時の左体幹・下肢の筋電図を測定した.また,右SLRの主動作筋である大腿直筋(RF)も測定した.<BR>被検者の姿勢は仰臥位とし,LEDによる光刺激に対して,できるだけ速くSLRを行うように指示した.LEDは左右2光源あり,検者による口頭での合図の後,5秒以内に一方のライトを点灯させ,点灯した側の下肢を挙上するように指示した.挙上側は左右ランダムとした.条件は,安静臥位と他動的な腰椎前彎位の2条件とし,腰椎の前彎は,厚さ約4cmの砂嚢を腰椎とベッド間に挿入して設定した.各条件につき7回測定を行い,その内の5回のデータを採用した.各筋の筋活動が生じた時期は,ライト点灯以前での50msec間におけるRMS(Root Mean Square)の標準偏差の2倍の値を25msec間以上超えた時点とした.なお,SLRの主動作筋であるRFの筋活動開始時期を基準として,各筋の筋活動開始時期を算出した.統計処理には,反復測定分散分析,多重比較検定,対応のあるt検定を用いた.有意水準は5%未満とした.<BR>【結果と考察】<BR>分散分析の結果,各筋の筋活動開始時期には有意な差がみられた(p<0.01).安静位での筋活動開始の順番は,SM→EO=RF→RA=IO→MF→GMであった。腰椎前彎位ではSM→RF→EO=IO=RA→MF=GMであった.前彎条件にて,安静条件と比較してSMの筋活動開始時期が有意に早くなった(安静; -11.2±7.8msec,前彎; -18.2±11.4msec).またMFの筋活動開始時期が前彎条件にて有意に遅延した(安静; 22.6±15.5msec,前彎; 32.8±17.6msec).腹筋群では,前彎条件にて筋活動開始時期が遅延する傾向がみられた.本研究の結果より,腰椎が前彎位になることで,下肢運動時におけるMFの収縮が遅延することが示された.一方,SMは体幹筋群による骨盤の固定作用が遅延することの代償として,筋活動時期が早まる可能性が考えられた.したがって,腰椎の過度な前彎を呈している症例では,MFの動員が遅延して,脊柱の安定性に影響を及ぼしている可能性があることが示唆された.
著者
佐藤 俊光 佐藤 成登志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1050, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】四肢の動きに連動した腰部の固定を提供する動作として,Abdominal Hollowing(以下,AH)とAbdominal Bracing(以下,AB)が提唱されている。この動作は,関節運動を起こさずに体幹深部筋を随意的にはたらかせることが可能なエクササイズである。第49回日本理学療法学術大会にて,健常者を対象にAHとABが腰部多裂筋に与える影響を検討した結果,ABは腰部多裂筋の筋厚を有意に増加させることが明らかとなった。腰痛患者において,腰部多裂筋に機能不全が生じる報告が多数されている。近年は,腰部多裂筋の筋内圧上昇による腰椎背筋群コンパートメント症候群による筋・筋膜性腰痛も挙げられている。関節運動を起こさずに行える本エクササイズは,関節組織への負担軽減,非疼痛下での介入が可能であり,腰痛患者に有用なエクササイズになると考えられる。よって,本研究の目的は腰部安定化エクササイズが,体幹深部筋の筋厚に与える影響について超音波診断装置を用いて明らかにすることである。【方法】対象は,当院を受診している女性腰痛患者6名(年齢63.3±14.1歳,BMI 21.8±3.7,罹患期間14.2±13.6ヵ月),神経症状や手術歴のない非特異的腰痛患者である。使用機器は超音波診断装置とした。プローブは,周波数7.5MHzのリニアプローブを使用した。測定筋は,腹横筋と腰部多裂筋とした。測定肢位は,AHは背臥位で股関節・膝関節90°となるよう台の上に下肢を挙上させた。ABは腹臥位にて腹部と下腿にクッションを入れ,安楽な姿勢をとるようにした。いずれも測定筋における重力除去位で行った。測定は,エクササイズ毎に左右の筋厚を2回ずつ計測し,疼痛の訴えがある部位を疼痛側,反対側を非疼痛側とした。問診時に疼痛が両側と答えた対象者は,測定者が評価を行い,疼痛側を同定した。得られたデータは,統計学的解析を行い,有意水準を5%とした。筋厚測定の信頼性は,級内相関係数(以下,ICC)を用いて,検者内信頼性を確認した。【結果】各筋厚測定のICC(1.1)は0.829以上あり,高い相関を認めた。エクササイズ間の筋厚変化率において,腹横筋は疼痛側でAH 139.7±26.1%,AB 134.2±21.7%,非疼痛側で,AH 159.7±22.9%,AB 149.5±20%であり,疼痛側・非疼痛側ともにAHとABでは有意な差は認められなかった。腰部多裂筋では,疼痛側でAH 101.9±2%,AB 105.7±2.8%でありAHと比較してABで有意に高値を示した(p<0.05)。非疼痛側では,AH 100.8±1.9%,AB 105.8±1.4%であり,同様にAHと比較してABで有意に高値を示した(p<0.01)。各エクササイズでは,腹横筋,腰部多裂筋ともに疼痛側・非疼痛側において有意な差は認められなかった。また,罹患期間と各筋厚変化率の相関関係も認められなかった。【考察】本研究より,腰部安定化エクササイズにおいて,ABはAHより腰部多裂筋の筋厚を増加させ,体幹筋の同時収縮を高めることが示唆された。Richardsonらによると,AHは腹横筋を中心に体幹深部筋の収縮を促すことで腰部安定化が図られると報告されている。しかし,McGillらは,腹横筋だけでは腰部の安定性は不十分であり,腹斜筋群の収縮も用いることで安定性を高められると報告している。さらに大江らは,下肢挙上動作前にABも用いることで腰椎部の可動性が小さかったことを報告している。本研究は,超音波診断装置を用いて,定量的にエクササイズ間の体幹深部筋の筋厚変化率を明らかにした。各エクササイズでは,腹横筋,腰部多裂筋ともに疼痛側・非疼痛側において有意な差が認められず,また罹患期間と各筋厚変化率の相関関係も認められなかった理由としては,運動療法が慢性腰痛患者に効果的であることや,痛みに応じた活動性の維持を早期から行うことで,安静期間の縮小,運動の再学習が筋厚に影響を及ぼしたと考える。しかし,本研究の限界として,横断的研究であり,対象は運動療法が効果的な慢性腰痛患者であること。また,リハビリ目的に通院しているため,治療介入因子が関与していた可能性が考えられる。今後は,急性期・亜急性期におけるエクササイズの効果および,縦断的研究における継時的変化を明らかにする必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究により,ABを用いることで腰部多裂筋の筋厚を増加させ,体幹筋の同時収縮を高めることが明らかとなった。これにより,腰部への負担軽減,および腰痛予防の観点から意義のある研究であると考えられる。
著者
松田 涼 隈元 庸夫 世古 俊明 三浦 紗世 濱本 龍哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0316, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに】近年,非特異的腰痛に対する運動療法として,立位での体幹伸展運動が推奨される。しかし,運動時における腰背筋群の生理的変化を検討した報告は少なく,その運動効果の機序は明確ではない。本研究の目的は,体幹伸展運動時の腰部脊柱起立筋(腰背筋)と腰部多裂筋(多裂筋)の血液循環動態と筋活動について検討し,腰痛に対する理学療法の科学的根拠に一助を得ることである。【方法】対象は健常成人男性13名(年齢22.0±3.0歳,身長170.0±5.1 cm,体重62.4±6.9 kg)とした。課題運動は体幹伸展運動とし,測定肢位は両手を両腸骨稜後面に位置した立位と座位とした。測定条件は,仙骨に対する腰椎の角度を電気角度計(ノルアングル,Noraxon社製)で計測し,座位では0°,10°,最大伸展(max)の3条件,立位では0°,10°,20°,maxの4条件として,それぞれ10秒間保持させた。座位と立位の各測定条件における腰背筋と多裂筋の血液循環動態は,近赤外線分光法(NIRS,Dyna Sense社製)を用いて,酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb),脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb),総ヘモグロビン(total-Hb)を計測し,平均値を算出した。また腰背筋と多裂筋の筋活動量は表面筋電計(TeleMyo2400,Noraxon社製)を用いて計測し,各測定条件での積分筋電値を最大等尺性収縮時の筋電値で正規化し%MVCを算出した。なお,血液循環動態および筋活動量は,後半5秒の値を採用した。左腰部で筋活動量,右腰部で血液循環動態を同期測定した。検討項目は座位と立位における測定条件間での血液循環動態(oxy,deoxy,total-Hb),筋活動量(腰背筋,多裂筋)の多重比較とし,Holmの方法を用いて検討した。なお有意水準は5%とした。【結果】座位での腰背筋のoxy-Hbはmaxが他より,10°が0°より高値を示し,total-Hbはmaxが0°より高値を示した。deoxy-Hbは差を認めなかった。座位での多裂筋のoxy-Hbとtotal-Hbはmaxが他より高値を示し,deoxy-Hbでは差を認めなかった。立位での腰背筋のoxy-Hbは20°とmaxが0°より高値を示し,deoxy,total-Hbは差を認めなかった。立位での多裂筋のoxy,deoxy,total-Hbは差を認めなかった。座位と立位の筋活動量は腰背筋,多裂筋ともに差を認めなかった。座位における腰背筋の筋活動量は1~16%MVC,多裂筋の筋活動量は1~12%MVCの値であった。立位における腰背筋の筋活動量は0.9~14%MVC,多裂筋の筋活動量は1~16%MVCの値であった。【結論】体幹伸展運動は腰背筋群の高い筋活動を伴わず,立位では腰背筋,座位では腰背筋と多裂筋の血中oxy-Hbの増大を期待できることが示唆された。よって,座位は立位よりも多裂筋を含めた疼痛緩和を望める可能性が考えられた。今後は腰痛症者を対象とした検討が必要である。