著者
羽崎 完 藤田 ゆかり 山田 遼
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0440, 2012

【目的】 筋連結とは,隣接するふたつの骨格筋において,筋膜,筋間中隔などの結合組織や互いの筋線維が交差して接続していることを指し,全身のいたる所で観察できる。Myersは,個々の筋連結による筋の全身におよぶ連続したつながりを経線としてとらえ,ほとんどの運動が経線に沿って拡がるとしている。つまりこれは,ある筋が収縮したとき,その筋に連なる筋にまで活動が伝達されることであり,この概念は広く臨床に応用されるようになっている。しかし,筋連結や経線についての概念は解剖学的な考察や経験に基づいており,筋の機能的な連結について明確にされていない。我々は,Myersの述べる経線のひとつであるラセン線上にある前鋸筋と外腹斜筋に着眼し,両筋が機能的に筋連結していることを明らかにし,第46回日本理学療法学術大会においてその成果を報告した。本研究では,その延長線上にある菱形筋と前鋸筋も機能的に連結しているか否かを明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は,健常成人男性10名(平均年齢21.2±1.8歳,身長170.4±9.7cm,体重65.6±26.2kg)とした。測定は,前鋸筋に負荷を与えたときの前鋸筋と菱形筋の筋活動を導出した。測定肢位は,高さの調節できる椅子に膝関節90°屈曲位になるように座らせ,肘関節伸展位にて肩関節90°屈曲位,肩甲骨最大外転位とした。この肢位で,前腕遠位部に自重(負荷なし),2kg,4kg,6kgの負荷を加え,それぞれ5秒間保持させた。測定筋は第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,菱形筋とした。第6および第8肋骨前鋸筋は肋骨上で触診できる位置に,菱形筋は肩甲骨最大外転位で,僧帽筋下部線維外側縁,肩甲骨内側縁,肩甲骨下角から第5胸椎棘突起を結んだ線でできる三角形内に電極を貼付した。なお、電極が正確に菱形筋に貼付できているか,超音波画像診断装置(日立メディコ社製Mylab25)を用いて確認した。筋活動の測定は,表面筋電計(キッセイコムテック社製Vital Recorder2)を用い,電極間距離1.2cmのアクティブ電極(S&ME社製)にて双極導出した。筋活動の解析は,自重時の平均筋活動量を1として,各負荷における筋活動量の変化率を算出し行った。第6および第8肋骨前鋸筋と菱形筋の関係は,Pearsonの相関係数を求め検討した。さらに,第6肋骨前鋸筋と第8肋骨前鋸筋のどちらがより菱形筋と関係が強いか検討するために重回帰分析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者の個人情報は,本研究にのみ使用し個人が特定できるような使用方法はしないことや研究の趣旨などの説明を十分に行った上で,対象者の同意が得られた場合にのみ,本研究を実施した。【結果】 Pearsonの相関係数を求めた結果,菱形筋と第6肋骨前鋸筋との相関係数は0.791,第8肋骨前鋸筋との相関係数は0.817となり、いずれも有意な強い正の相関が認められた(p<0.01)。重回帰分析の結果,第6肋骨前鋸筋の標準偏回帰係数は0.356,第8肋骨前鋸筋の標準偏回帰係数は0.517となり,第8肋骨前鋸筋にのみ有意な影響が認められた(p<0.05)。【考察】 五十嵐らは解剖実習献体を用いて,菱形筋と前鋸筋が肩甲骨内側縁で線維性結合組織で連結されていることを肉眼にて確認している。また,竹内らも解剖実習献体の大菱形筋付着部を観察し,それが前鋸筋筋膜に折りたたまれるように接着していることを確認している。このように菱形筋と前鋸筋が解剖学的に連結していることは明白であり,菱形筋の筋活動の変化率と前鋸筋の変化率が強い相関を示した今回の結果から,機能的にも連結していることが明らかとなった。一般的に菱形筋は肩甲骨の内転・下方回旋に,前鋸筋は外転・上方回旋に作用し,両筋は拮抗筋の関係にあるとされている。その一方でPatersonが経験に基づき推察しているように菱形筋と前鋸筋は共同筋として肩甲骨の安定に作用していることが知られている。今回の結果は,この推察を科学的に証明した。菱形筋と前鋸筋は,解剖学的にも機能的にもあたかもひとつの筋のように肩甲骨の安定に作用すると考える。また重回帰分析の結果から、第6肋骨前鋸筋よりも第8肋骨前鋸筋の方がより菱形筋との関係が深い傾向が認められた。これは,第6肋骨前鋸筋よりも第8肋骨前鋸筋の方が菱形筋の走行の向きに近似しており,肩甲骨の安定に対して共同筋としてより機能しやすいためと考える。Myersもラセン線は前鋸筋のより下部を通過するとしており,下方の前鋸筋の方が菱形筋との関係が深いことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は,不安定な肩甲骨に対して前鋸筋のみにアプローチするのではなく,菱形筋と前鋸筋をひとつの筋としてアプローチする必要があることを示唆している。
著者
宮垣 さやか 長谷川 聡 梅垣 雄心 中村 雅俊 小林 拓也 田中 浩基 梅原 潤 藤田 康介 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0096, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】胸郭可動域制限は,肋間筋など胸壁に付着する軟部組織の柔軟性低下,呼吸筋の筋力低下,脊柱や肋椎関節の可動性低下などにより生じる。臨床現場においては肋間筋ストレッチングや肋椎関節の運動など,肋骨の動きの改善を目的とした胸郭可動域トレーニングが実施されており,呼吸機能の改善に有用であると報告されている。一方,呼吸時には胸椎も屈伸運動するといわれており,胸椎アライメントが呼吸機能に影響を及ぼすという報告もあるものの,胸椎後弯姿勢の改善を目的とした運動(胸椎伸展運動)が呼吸機能を改善させるという報告は見あたらない。さらには,頚部痛など整形外科疾患患者や脊髄損傷患者において,胸椎可動性の低下が呼吸機能低下に影響するとの報告もあることから,肋骨の動きの改善だけではなく,胸椎の伸展運動が呼吸機能を改善することが予想される。そこで本研究では,胸椎伸展ストレッチング(以下胸椎ストレッチ)が,脊柱アライメント,胸郭拡張性,呼吸機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は喫煙歴のない健常男性15名(平均年齢24±3.4歳)とした。胸椎ストレッチ前後に胸椎アライメント,呼吸機能,胸郭拡張差,上部および下部肋間筋・胸部脊柱起立筋の筋弾性率を測定した。胸椎アライメントの測定はSpinal mouse(Index社製)を用い,安静立位での胸椎後弯角度を測定し,胸郭拡張差は腋窩,剣状突起,臍レベルの三箇所で測定した。呼吸機能はAutoSpiro(ミナト医科学社製)を用い,安静立位で対標準肺活量(%VC),一秒量(FEV)を測定した。筋弾性率は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能で測定し,各筋の筋腹に設定した関心領域の弾性率(kPa)を求めた。上部肋間筋は右側の鎖骨内側1/3から下した垂線上の第2肋間,下部肋間筋は右側の前腋窩線上の第6肋間,胸部脊柱起立筋は第6胸椎棘突起右側方1横指の部位にて,全て安静吸気位で測定した。胸椎ストレッチは,対象者の両肩甲骨下角の位置で背部を横断する方向に株式会社LPN製ストレッチポールハーフカット(以下ハーフポール)を設置し,その上に背臥位となりセラピストが肩関節前方から鉛直方向に3分間抵抗を加えた。統計学的解析は,第2・第6肋間の肋間筋と脊柱起立筋の3筋の弾性率,3箇所での拡張差,%VC,FEVについて,対応のあるt検定を用いて胸椎ストレッチ前後の値を比較した。なお,有意水準は5%とした。【結果】肺機能について,胸椎ストレッチ前後に%VC(前:90.0±10.1%,後:91.3±9.6%)は有意に増加したが,FEVは介入前後で有意な差は認められなかった。筋弾性率について,上部肋間筋(前:18.9±7.5kPa,後:14.7±6.4kPa),下部肋間筋(前:17.6±9.2kPa,後:13.8±7.3kPa),脊柱起立筋(前:18.1±9.9kPa,後:13.1±5.1kPa)は,介入後に有意に低下した。胸郭拡張差について,腋窩レベル(前:5.5±1.8cm,後:6.2±1.9cm),剣状突起レベル(前:6.7±1.9cm,後:7.7±2.0cm)で介入後に有意に増加し,臍レベルでは変化は認めなかった。胸椎後弯角度は,胸椎ストレッチによる変化は認めなかった。【考察】本研究の結果より,胸椎ストレッチは,肺活量を増加させ得ることが示された。胸椎ストレッチにより改善がみられると予想された胸椎アライメントは,介入による変化を認めなかった。一方で,各筋の弾性率の有意な低下から,胸椎ストレッチによって,上部および下部肋間筋,さらに,ハーフポールにより圧迫された脊柱起立筋の柔軟性が向上したことが示された。これにより,腋窩・剣状突起レベルでの胸郭拡張差が増し,上位胸椎部分の胸郭拡張運動が改善したことで肺活量が増加したと考えられる。これまでは主として肋骨の動きに関連の強い肋間筋にアプローチする手技が胸郭可動域トレーニングとして取り上げられ,これらの手技により呼吸機能が改善するという報告がされている。しかし本研究では,胸椎の屈伸運動に着目した胸椎ストレッチによっても上位胸郭可動性が向上し,呼吸機能が改善することが示された。また同時に,肋間筋のみならず,胸郭構成筋として着目されることの少ない,脊柱起立筋の柔軟性も,呼吸機能に関連していることを示唆する結果となった。【理学療法学研究としての意義】本研究では,これまで着目されることの少なかった,呼吸時の胸椎伸展運動を促すようなストレッチによっても胸郭可動性が改善することが示唆され,胸郭の可動性低下を認める拘束性換気障害に対する有用な治療手段の一つとなり得る可能性が示唆された。
著者
生友 尚志 永井 宏達 西本 智一 田篭 慶一 大畑 光司 山本 昌樹 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0851, 2006

【目的】広背筋は上半身の中で最も大きい筋であり、その働きは多岐にわたる。この広背筋の筋電図学的研究は多くなされているが、その中でもPatonらは広背筋を6つに分けて筋活動の測定を行い、機能的な分化があることを報告している。また、前田らも同様の方法により行っているが、両者とも肩関節運動時の筋活動を測定しており体幹運動時の筋活動は測定していない。さらに広背筋の体幹伸展、回旋動作の研究は多く行われているが、体幹側屈動作時の筋活動の研究は少ない。本研究の目的は、体幹側屈動作を先行研究に加えて測定し、広背筋の体幹側屈時の筋活動とその機能的分化について筋電図学的特徴を明らかにすることである。<BR>【対象と方法】対象は上下肢及び体幹に整形外科的疾患のない健常成人男性10名(平均年齢24.9±3.0歳)とした。なお、被験者には本研究の趣旨を説明し同意を得た上で測定を行った。筋電図の測定にはNORAXON社製MyoSystem 1400を使用し、表面電極による双極誘導法にて行った。測定筋は右広背筋とし、Patonらの方法をもとに広背筋をC7棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で等間隔に4つ(広背筋上部、中上部、中下部、下外側部)に分け、筋線維に平行に表面電極を貼付した。また、体側のTh9の高さの筋腹(広背筋上外側部)にも貼付した。測定動作は腹臥位での右肩関節伸展・内転・水平伸展・内旋・下方突き押し、端座位での体幹右側屈・プッシュアップ、側臥位での体幹右側屈・右股関節外転・左股関節内転、背臥位での右骨盤引き上げ運動の計11項目とした。プッシュアップは端座位で臀部を床から持ち上げた状態で3秒間保持した時の積分筋電図値(以下IEMG)を、それ以外は3秒間最大等尺性収縮した時のIEMGを求め、それらを徒手筋力検査に準じた肢位にて測定した肩関節伸展最大等尺性収縮時のIEMGを100%として正規化し、各部位ごとに%IEMGを求めた。統計処理は反復測定分散分析を行った。<BR>【結果と考察】各動作において部位ごとの%IEMGを比較すると、全ての動作において有意な差がみられた。肩関節水平伸展、内旋においては広背筋上部が他の部位に比べて高値を示し、肩関節内転やプッシュアップは広背筋下外側部が高値を示した。肩関節下方突き押しについては広背筋上外側部、下外側部が高値となった。これに対して、体幹側屈動作では側臥位体幹右側屈において広背筋上外側部、中下部、下外側部が高値を示し、座位体幹右側屈、側臥位右股関節外転・左股関節内転、背臥位右骨盤引き上げ運動においては広背筋下外側部が高値となった。本研究の結果より、広背筋は筋線維により機能的に分化していることが確認できた。また、広背筋の上部線維は肩関節運動時に大きく働き、外側線維については体幹の側屈を伴うような運動時に大きく働くということが示唆された。<BR>
著者
正木 光裕 建内 宏重 武野 陽平 塚越 累 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0270, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 腰痛患者では脊柱の安定性に重要な役割をもつ多裂筋が萎縮していることが報告されている(Barker,2004)。また腰痛患者の多裂筋の断面積は脊柱起立筋と比較して選択的に減少していることが報告されている(Danneels,2000)。従って腰痛患者のリハビリテーションでは脊柱起立筋に対して多裂筋を選択的にトレーニングできる方法を検討していくことが必要である。腰痛患者の多裂筋トレーニングとして一般的に実施されている四つ這い位での一側上肢と反対側下肢の挙上運動は,下肢を挙上した側で脊柱起立筋よりも多裂筋の方が高い筋活動量を示すとされている(Ekstrom,2008)。この運動において,挙上した上下肢を外転位にすることや重錘負荷することで脊柱回旋モーメントが大きくなり,多裂筋と脊柱起立筋は回旋方向が異なるために,下肢を挙上した側の多裂筋の筋活動量がさらに選択的に増加する可能性がある。しかし,これまで挙上した上下肢の肢位を変化することや重錘負荷することによる影響について検討した報告はない。本研究の目的は四つ這い位での上下肢の挙上運動において肢位の変化や重錘負荷が,多裂筋および脊柱起立筋の筋活動に及ぼす影響について表面筋電図を用いて検討し,効果的な多裂筋の選択的トレーニング方法を明らかにすることである。【方法】 対象は健常若年男性13名(年齢22.4±1.3歳,身長173.3±3.6cm,体重64.5±12.3kg)とした。測定筋は左側の多裂筋,脊柱起立筋とし,電極を筋線維と平行に電極中心間隔20mmで貼付した。多裂筋の電極貼付位置は第5腰椎レベルで第1・2腰椎間と上後腸骨棘を結んだ線上,脊柱起立筋は第1腰椎棘突起から4cm外側とした。筋電図の測定にはNoraxon社製筋電計を使用した。測定課題は四つ這い位で右上肢と左下肢が水平になるまで挙上する運動とした。測定条件は右肩関節180°屈曲・左股関節0°伸展位(以下F-E),右肩関節90°外転・左股関節0°伸展位(以下A-E),右肩関節180°屈曲・左股関節45°外転位(以下F-A),右肩関節90°外転・左股関節45°外転位(以下A-A)とした。またF-Eにおいて右手関節部に体重の2.5%重錘負荷(以下F2.5-E),左足関節部に体重の5%重錘負荷(以下F-E5),右手関節部に体重の2.5%・左足関節部に5%重錘負荷(以下F2.5-E5)とした。各条件において姿勢が安定したことを確認した後,3秒間の筋活動を記録した。また最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化し,各条件での筋活動を%MVCとして表した。さらに各条件で脊柱起立筋に対する多裂筋の筋活動量を多裂筋/脊柱起立筋比として表した。肢位を変化させた条件間(F-E, A-E, F-A, A-A),重錘負荷した条件間(F-E, F2.5-E, F-E5, F2.5-E5)における多裂筋・脊柱起立筋筋活動量および多裂筋/脊柱起立筋比をFriedman検定と多重比較法(Bonferroni)を用いて比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明した上,書面にて同意を得た。【結果】 肢位を変化させた条件間で筋活動量を比較すると,多裂筋ではF-A(32.4±8.5%)がF-E(26.3±9.2%)とA-E(27.6±9.7%)に比べて有意に高く,A-A(31.9±8.6%)がF-E とA-Eに比べて有意に高かった。脊柱起立筋の筋活動量は条件間で有意な差がみられなかった。多裂筋/脊柱起立筋比はA-A(3.19±1.96)がF-E(2.23±1.20)に比べて有意に高かった。重錘負荷した条件間で筋活動量を比較すると,多裂筋ではF-E5(31.5±13.8%)がF-Eに比べて有意に高く,F2.5-E5(36.2±15.4%)がF-E, F2.5-E(30.1±9.8%), F-E5に比べて有意に高かった。脊柱起立筋ではF-E5(20.2±10.4%)がF-E(13.9±6.5%)に比べて有意に高く,F2.5-E5(23.8±9.3%)がF-EとF2.5-E(17.7±5.3%)に比べて有意に高かった。多裂筋/脊柱起立筋比はF2.5-E5(1.63±0.58)がF-Eに比べて有意に低かった。【考察】 挙上した上下肢を外転位にすることで,多裂筋の筋活動量のみが有意に増加し,多裂筋/脊柱起立筋比も増加する傾向にあった。これは右上肢・左下肢外転位により脊柱左回旋モーメントが増加し,脊柱左回旋作用のある左脊柱起立筋は筋活動を高めず,脊柱右回旋作用のある左多裂筋が筋活動を高めたためと考える。挙上した上下肢に重錘負荷することで,多裂筋とともに脊柱起立筋の筋活量も有意に増加し,多裂筋/脊柱起立筋比は有意に低下した。これは上下肢への重錘負荷により脊柱屈曲モーメントが増加し,脊柱伸展作用のある両筋において脊柱起立筋が多裂筋よりも活動を高めたためと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究により,四つ這い位での上下肢の挙上運動において,上下肢を外転位にすることでより効果的に多裂筋を選択的トレーニングできる可能性が示唆された。また重錘負荷すると逆に多裂筋/脊柱起立筋比が低下し,多裂筋の選択的トレーニングとしては不利になる可能性が示唆された。
著者
角屋 恵 川合 祐貴 井上 登太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D3O3087, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】嚥下障害は咽頭期の機能障害だけでなく、呼吸機能低下や免疫力低下など様々な要因により誘発される。慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)においても全体の約9%に嚥下障害を認めるという報告がある。今回COPD症例を重症度別に分類し、呼吸機能と嚥下機能との関係について検討を行ったので報告する。【方法】COPD症例119例。COPD症例を重症度別にstage1群(FEV1≧80%)58名、stage2群(50%≧FEV1>80%)41名、stage3群(30%≧FEV1>50%)14名、stage4群(30%>FEV1)6名に分類した。なお平均FEV1はstage1群にて104.32±16.79%、stage2群にて66.15±7.60%、stage3群にて41.30±5.83%、stage4群にて24.70±4.84%であった。年齢、BMI、改定水飲みテスト(以下MWST)、反復唾液嚥下テスト(以下RSST)、頚部胸部聴診法(以下CCA)の5項目に関して、各stage間で比較検討を行うために、統計的手法としてスチューデントのt検定を使用し、p<0.05を有意水準とした。【説明と同意】本研究の内容と意義を説明し、結果の利用に同意を頂いたCOPD症例119例を対象とした。【結果】年齢はstage1群70.76±13.26歳、stage2群72.49±10.10歳、stage3群71.14±14.05歳、stage4群68.33±10.71歳であった。年齢は各stageともに有意差を認めなかった。BMIはstage1群22.83±2.98、stage2群21.59±3.82、stage3群19.81±2.87、stage4群18.57±3.37であった。BMIはstage1-2・2-3間において有意差を認めたが、stage3-4間には認めなかった。MWSTはstage1群4.82±0.53、stage2群4.80±0.51、stage3群4.71±0.61、stage4群4.33±1.03であり、各stage間は有意差を認めた。RSSTはstage1群4.71±0.70回、stage2群4.65±0.76回、stage3群4.71±0.73回、stage4群4.17±0.75回であり、各stage間に有意差を認めた。CCAはstage1群で20.7%に、stage2群で24.4%に、stage3群で35.7%に、stage4群に50%に気道侵入を認め、stage1-2・2-3間において有意差を認めたが、stage3-4間には有意差を認めなかった。【考察】結果より、呼吸機能低下の進行に伴い嚥下機能も低下していることがわかった。COPDでは頻呼吸や呼吸困難感により吸気時に嚥下が行われたり、咽頭筋の機能・協調障害などによって嚥下障害が生じると言われている。FEV1≧80%の軽症であってもCCAでは全体の2割に気道進入を認めていることから、高齢COPD症例の場合は呼吸機能低下が軽度でも嚥下障害の可能性があることを配慮しなければならないと思われる。COPDは全身性疾患であり、呼吸機能だけでなく嚥下機能も低下し、誤嚥性肺炎の発症のリスクが高くなる。さらに呼吸不全・嚥下障害が悪化することで、栄養摂取量低下や易感染性を招くという悪循環に陥りやすいため、定期的に呼吸状態の評価を行うだけでなく、同時に嚥下機能の評価も行い、適切なケアを行う必要があると思われる。 【理学療法学研究としての意義】COPD症例に対する呼吸リハビリテーションに理学療法士として関わっていく際に、息切れや歩行能力等の評価も必須だが、嚥下障害が出現していないかを考慮し、評価・治療プログラムの立案を行っていく必要があると思われる。
著者
村本 勇貴 岩本 航 我妻 浩二 田中 直樹 榊原 加奈 村上 純一 石渕 重充 松橋 朝也 笠間 あゆみ 岡田 尚之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1286, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】青少年期のスポーツ選手において,腰痛はスポーツ活動の障害因子となっている。本研究の目的は,当院で行った中学生サッカー選手に対するメディカルチェックから,腰痛のある選手の身体特性を調査することである。【方法】男子中学生サッカー選手21名(平均年齢13.0±0.5歳)を対象とした。事前に身体状態に関するアンケート調査を行い,群分け(腰痛群・非腰痛群)を行った。メディカルチェック項目は,下肢伸展拳上(以下,SLR)・殿踵距離(以下,HBD)・ディープスクワット(以下,DS)・ホップテスト(以下,Hop)とした。疼痛のためメディカルチェックを遂行できない者は除外した。統計処理は群間比較にはSLR,HBD,Hopについては対応の無いt検定を用い,DSについてはマンホイットニーU検定を用いた。有意水準は5%とした。【結果】腰痛を有する選手は21名中5名(23.8%)であった。腰痛群は(身長:159.9±0.7cm,体重:45.8±5.4kg,BMI:17.9±1.3,SLR(右:60.0±7.1°,左:57.5±5.0°),HBD(右:10.5±3.9cm,左:10.3±3.8cm),Hop(右:7.7±1.8秒,左:7.7±0.5秒),DS:2.2±0.5点)という結果であった。非腰痛群は(身長:157.2±0.7,体重:44.1±7.3kg,BMI:17.7±2.0,SLR(右:62.9±9.0°,左:62.4±7.7°),HBD(右:4.9±4.2cm,左:4.0±3.1cm),Hop(右:7.3±0.5秒,左:7.4±0.7秒),DS:2.4±0.7点)という結果であった。HBDは腰痛群で有意に大きかった(右:p=0.05,左:p=0.03)。その他の項目では腰痛群と非腰痛群で有意差は認められなかった。【結論】我々のメディカルチェックの結果では,腰痛群のHBDが有意に大きかった。HBDは股関節伸展位で行う膝屈曲テストであるため,今回の結果は大腿四頭筋の中でも2関節筋である大腿直筋の柔軟性低下による影響が考えられる。先行研究では腰痛を有する青年期のスポーツ選手は股関節屈曲筋の柔軟性が低下すると報告されている。またサッカー競技では,股関節伸展を腰椎の伸展で代償する選手で腰椎に加わるストレスが増加すると報告されている。以上のことから,サッカー選手における股関節屈曲筋群の柔軟性低下と腰痛とは関連があるものと考えられ,本研究での腰痛群でHBDが有意に増加したものと推測された。本研究の結果,HBDが大きいサッカー選手は腰痛が生じやすいことが示唆された。今後は,腰痛を有するサッカー選手に対してHBD改善の介入が有効であるか検証する必要があると考えられる。
著者
佐藤 俊光 佐藤 成登志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1256, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】腰痛患者では腹横筋や腰部多裂筋などの体幹深部筋の活動性・持久性の低下が報告されている。腰部安定性を図るエクササイズにはHollowingとBracingの2種類の方法が提唱されている。Hollowingは,腰椎・骨盤を動かすことなく腹部をへこませる方法であり,表在筋群から独立して体幹深部筋の収縮を促すことで腰部の安定性を図る。それに対して,Bracingは,腹部をへこませることなく腹壁の3層である外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋を活動させることで腹部を硬くする方法であり,腹斜筋群を用いることにより安定性を向上させる。以上のエクササイズを用いた研究は,腹横筋を中心とした側腹部筋に着目した報告が多いが,体幹深部筋である腰部多裂筋の働きを見た研究は少ない。そこで本研究の目的は,体幹エクササイズの収縮様式が腰部多裂筋に与える影響を超音波画像および表面筋電図を用いて定量的に比較,検討することである。【方法】対象は整形外科疾患のない健常男性8名(年齢22.6±1.1歳)である。使用機器は超音波画像診断装置,筋電図計測装置一式とした。測定肢位は腹臥位とし,超音波診画像断装置を用いて画像表示モードはBモード,3.5MHzのコンベックスプローブで撮影を行なった。プローブは,第5腰椎棘突起より外側2cmで脊柱と平行に縦に設置した。超音波画像にて第4腰椎-第5腰椎の椎間関節を確認し,皮下組織と椎間関節までの距離を腰部多裂筋の筋厚として計測した。測定中の運動課題は,安静,Hollowing,Bracingの3つとして,各動作時の筋厚を3回ずつ測定し平均値を代表値とした。表面筋電図は第5腰椎および第1仙椎棘突起の外側にて腰部多裂筋に電極を貼付した。解析はサンプリング周波数1000Hz,バンドパスフィルターは20~500Hzで処理し,全波整流した。MVC計測の後,各動作時の%IEMGを算出した。筋厚,筋活動ともに得られたデータを統計学的に検討した。なお,有意水準は5%とした。超音波画像診断装置における多裂筋の筋厚測定の検者内信頼性は,同一測定を3回実施した。得られた結果に対し級内相関係数(以下,ICC)を用いて検者内信頼性を確認した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究に先立ち,対象者には研究内容に関する充分な説明を行い同意を得た。【結果】超音波におけるICC(1,1)は,安静時0.90~0.99,Hollowing時0.91~0.99,Bracing時0.91~0.99であり,それぞれLandisらの分類にてalmost perfect以上の相関を認めた。各運動課題での筋厚は,安静時28.8±1.7mm,Hollowing時29.3±1.6mm,Bracing時31.5±1.6mmとなり,Bracing時は安静時およびHollowing時よりも有意に増加していた(安静時p<0.01,Hollowing時p<0.05)。なお,安静時とHollowing時では有意な差は認められなかった。筋活動では,Hollowing時5.44±0.87%,Bracing時8.17±3.08%となり,Bracing時はHollowing時に比べて,有意に高い値となった(p<0.05)。【考察】腰部多裂筋厚はBracing時において安静時およびHollowing時より有意に増加した。Bracingの収縮様式は等尺性収縮であり,体幹屈曲筋と伸展筋の協調した働きが必要である。腰部多裂筋は腰部背筋群の中で最も強力で最大であると報告されていることから,Bracingによる腰部多裂筋の働きが考えられる。しかし,腰部多裂筋は腰椎伸展に必要な筋出力よりも,腰部の安定性に寄与していると報告されている。つまり,等尺性収縮による関節運動の代償を抑えるための姿勢制御として腰部の安定性に作用したとも考えられる。今回,表面筋電図を用いて腰部多裂筋を計測したところ,Bracing時の筋活動は8.17±3.08%であった。Bracingは十文字に交差している腹斜筋の補強により十分な腰部安定性を提供する。このため強い同時収縮が必要とされることはなく,MVCの5~10%程度の収縮であると報告されている。この報告より,Bracingにおける腰部多裂筋厚の増加は腰部の安定性に働いたと示唆された。また,安静時とHollowing時では筋厚に有意な差を認めなかった。Hollowingの収縮様式は腹横筋を求心性に収縮させる作用があり,腰部多裂筋への直接的な影響はほとんどない。このために腰部多裂筋への筋厚は変化しなかったと考える。しかし,本研究の限界として健常者を対象にしたデータであり実際に腰痛患者に同様の効果が生じるかは明らかではない。今後は腰痛患者を対象にしたデータ計測より詳細な効果を検討していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究により,Bracingは腰部多裂筋厚を有意に増加させる効果があり,腰部安定性への関与が示唆された。腰痛患者をはじめ体幹深部筋の活動性低下に対するエクササイズの一つとなる可能性が示唆されたことから,理学療法学において意義のある研究であると考える。
著者
西村 朋美 蒲田 和芳 横山 茂樹 杉野 伸治 一瀬 浩志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0897, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】肩関節挙上動作における肩甲上腕リズムについてはInman(1944)以降、それに付随する脊椎伸展運動についてはKapandji以降、数多くの文献に記載されている。しかしながら、肩甲上腕リズムと脊椎伸展の運動学的な連鎖については十分検証されていない。我々は「肩甲骨が胸郭上で安定した肢位を得るには接触面積を増大させる必要があり、脊椎伸展は肩甲骨の位置と安定性を最適化するための胸郭の形状変化に貢献する」という仮説を立てており、本研究では脊椎伸展運動の主要な貢献部位を特定することを目的とした。【方法】本研究は対照群のない縦断研究であり、対象の選択基準を脊柱及び肩関節に既往のない20代男性10名(平均年齢25.4±2.5歳、平均体重60.7±6.34kg、平均身長171.0±6.27cm、平均BMI 20.78±2.09)とした。測定項目は、肩関節屈曲肢位0°30°60°90°120°150°、最大屈曲位における脊柱矢状面弯曲とした。脊椎弯曲の計測にはインデックス社製スパイナルマウスを用い(文献1)、第1胸椎から第3仙椎間の各分節角度を2回計測して各セグメントの屈曲角の平均値を求めた。得られた結果から、上位胸椎、下位胸椎、および腰椎の3つのセグメントの屈曲角度の合計を算出し、肩関節の肢位による弯曲の変化を比較した。統計分析には分散分析およびTukey/Kramer法を用い、有意水準をp<0.05とした。【結果】下位胸椎後弯角では分散分析で有意(p<0.05)であり、屈曲0度と比較して最大屈曲位において有意な後弯角の減少(脊椎伸展)が認められた。上位胸椎および腰椎には有意な運動は認められなかった。【考察】肩関節最大挙上に伴う脊椎伸展の主要貢献部位は下位胸椎であることが示された。スパイナルマウスについては、後弯に対して信頼性高く、前弯を過小評価することが示された(文献1)。しかしながら、前弯部位であっても個人内の変化は十分検出できるため、我々は腰椎伸展が生じないという結果は信頼性のある結果であると解釈している。本研究の対象は、肩関節や脊椎に疾患のない健常者若年成人であり、この結果は正常な肩関節運動における脊椎・肩甲骨リズムを反映しているものと結論付けられる。今後、下位胸椎の伸展が胸郭の形状および胸郭と肩甲骨の接触面積への貢献について検証を進める必要がある。【臨床的意義】この研究の結果、肩関節疾患の治療においては、最大挙上位を獲得させるためには脊椎の中でも特に下位胸椎の伸展可動性および胸椎部の脊柱起立筋の機能改善が必要であることが示唆された。また下位胸椎伸展に伴う胸郭の可動性についても考慮が必要である。【引用文献】 文献1:松尾礼美ら(第41回日本理学療法学術大会、2006)
著者
松宮 美奈 向山 ゆう子 小林 寿絵 中村 大輔 髙木 寛奈 上杉 上 水落 和也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0967, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに】線維筋痛症は原因不明の全身疼痛が主症状で,うつ病など精神神経症状・過敏性腸症候群など自律神経症状を随伴する疾患である。2013年の線維筋痛症診療ガイドラインによれば,有病率は人口の1.7%(日本推計200万人)であり,80%が女性で40~50代に多く,10歳前後に多い若年性線維筋痛症(Juvenile Fibromyalgia:JFM)は4.8%のみである。発症要因として外因性と内因性のエピソードがあり,治療はプレガパリンを中心とする疼痛制御分子の標的療法が中心で,運動療法は,成人例に対して長期間に渡り有酸素運動を行い疼痛が軽減した報告がある(エビデンスIIa)が,JFMでは,いまだ確立した治療法がない。JFMでは患児と母親の相互依存性や,まじめ・完璧主義・潔癖主義・柔軟性欠如などコミュニケーション障害を伴う性格特性が特徴であるとも言われており,当院では,小児リウマチセンターにおいてJFMの集学的治療を実践している。その内容は,生活環境からの一時的な隔離を意図した短期入院による母子分離,臨床心理士による心理評価と小児精神科によるカウンセリング,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン®)点滴静注を中心とした薬物療法,そしてリハビリテーション治療である。【目的】本研究の目的は,JFMに対する理学療法(PT)の実施状況と集学的治療による効果を明らかにし,JFMに対するPTの課題を明確にすることにある。【対象と方法】2007年4月から2012年12月までにJFMと診断され当院小児科に入院し,PTを行った症例を対象とし,患者属性,発症要因,入院期間,PT実施期間,PT内容,PT開始時及び退院時の運動機能と移動能力を診療録より抽出し後方視的に調査した。【倫理的配慮,説明と同意】当院では入院時に臨床研究と発表に対する同意を文書で得ている。【結果】調査期間に小児科に入院したJFM症例は33名であった。33名のうち6名は調査期間内に複数回の入院があり,これを別の入院例とみなして,対象を42例としたが,診療記録不十分のため調査項目の確認ができなかった3症例を除外し,39症例(30名)を対象とした。平均年齢は12.2歳(7~16歳),平均発症年齢12.1歳(7~15),性別は男児7例,女児32例であった。入院期間は中央値17日(7~164日),PT期間は中央値12日(1~149)だった。発症の誘因としては,内因性誘因では家族関係のストレス27例,学校関係のストレス22例であり,外因性誘因と内因性誘因の重複が11例にみられた。主症状は筋・関節痛39例,左上肢の慢性疼痛1例であり,ほぼ全例に睡眠障害や冷感,起立性調整障害など自律神経系合併症状を認めた。PT内容は,独歩可能な症例には歩行練習(屋外歩行やトレッドミル,水中歩行),自転車エルゴメーターなどを実施し,歩行困難な症例には下肢自動運動や座位・立位練習,車いす自走や歩行補助具を使用した段階的歩行練習を行っていた。また,キャッチボールやサッカーなどレクリエーショナルアクティビティも随時行われていた。PT中は疼痛が増強しない範囲で負荷を設定し,疼痛を意識させずに運動できるよう配慮し,受け入れのよい課題を選択し,目標を本人と相談しながら実施するなどの配慮がうかがえた。PT実施率は高く,疼痛や体調不良でPTを欠席したものは1症例,1日のみであった。入院中の疼痛の変化は改善28例,変化なし5例,悪化6例であり,移動能力は入院時に歩行(跛行なし)20例,歩行(跛行あり)9例,車いす移動10例が,退院時は歩行(跛行なし)28例,歩行(跛行あり)6例,車いす移動5例であった。【考察】成人の線維筋痛症では手術や感染などの外因が誘因となることがあるが,今回調査した小児では全例が内因性誘因を有していた。PTの介入は母子分離環境による心理社会的効果と薬物療法による疼痛軽減に合わせて,できる範囲の運動を導入することで,気晴らし的効果と身体機能維持改善の効果が期待できると思われた。PTの効果のメカニズムとして,JFMではセロトニン欠乏が睡眠障害や疼痛を引き起こすという知見が最近得られており,歩行などのリズム活動がセロトニン神経を賦活化し疼痛の悪循環を断ち切る可能性もある。疼痛で活動性が低下し,休学を余儀なくされている症例も多く,生活機能障害に対するPTの予防的・回復的・代償的な関わりはJFMの集学的治療に重要な役割を果たすと思われる。【理学療法学研究としての意義】線維筋痛症に対する運動療法の効果は成人では文献が散見されるが,小児では少ない。今回の調査は,JFMに対して症状の改善に運動療法が寄与した可能性を示唆している。
著者
余野 聡子 西上 智彦 壬生 彰 田中 克宜 安達 友紀 松谷 綾子 田辺 暁人 片岡 豊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0311, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】中枢性感作(Central Sensitization:CS)とは中枢神経系の過度な興奮によって,疼痛,疲労,集中困難及び睡眠障害などの症状を引き起こす神経生理学的徴候である。CSは線維筋痛症,複合性局所疼痛症候群及び慢性腰痛などの病態に関与していることが明らかになっていることから,慢性痛に対して,CSの概念を考慮した評価及び治療介入が必要である。近年,CSの評価として,自記式質問紙であるCentral Sensitization Inventory(CSI)がスクリーニングツールとして開発され,臨床的有用性が報告されているが,CSIの日本語版は作成されていない。そこでCSIの原版を日本語に翻訳し,その言語的妥当性を検討した。【方法】日本語版CSIの開発に先立って,原著者から許可を得た。その後,言語的に妥当な翻訳版を作成する際に標準的に用いられる手順(順翻訳→逆翻訳→パイロットテスト)に従って開発を進めた。順翻訳,逆翻訳を行い原著者とともに翻訳案の検討を行い,原版との内容的な整合性を担保した日本語暫定版を作成した。日本語暫定版の文章表現の適切性,内容的妥当性,実施可能性を検討するため,日本語を母国語とし,当院に来院する外来患者6名(男性:3名,女性:3名,平均年齢51.8歳)を対象に個別面談方式によるパイロットテストを実施した。回答終了後,質問紙に関するアンケートを行い,「はい」「いいえ」「どちらでもない」の3択で参加者に回答を求めた。【結果】原著者に逆翻訳版にて確認を行ったところ,Q11は“I feel discomfort in my bladder and/or burning when I urinate”を“.排尿時に,膀胱に不快感や灼熱感を感じる”としたが,灼熱感は膀胱ではなく性器に生じるとの指摘を受け,“膀胱の不快感と排尿時の灼熱感の両方,またはいずれか一方を感じる”と表現を変更し,了承を得た。Q17は原文では“low energy”となっているが逆翻訳では“no energy”となっているとの指摘を受けたが,同義語であることを説明し了承を得た。また“and/or”と“and”の違いを明確に区別するべきとの指摘を受け,“両方またはいずれか”との表現へ変更した。パイロットテストでの質問票の平均回答時間は219.5秒(範囲:158~314,中央値:207)であった。回答後アンケートでは回答に要する時間,質問数が適当であるかという問いに対して5名が「はい」,1名が「どちらでもない」と回答した。全体的にわかりやすかったかとの問いに対して1名が 「いいえ」と回答し,理由として5つの選択肢の差別化が図りにくいとの意見が得られた。そこで選択肢を差別化しやすい表現に変更し,日本語版CSIを完成させた。【結論】本研究において翻訳版開発の標準的な手続きを経て日本語版を作成し,さらにパイロットテストを実施することで内容の妥当性や表現の適切性が確認され,実施可能性のある日本語版CSIが完成した。今後,臨床的に使用するために信頼性と妥当性の検討を行う必要がある。
著者
鷹澤翔 松本大士 吉沢剛 横田裕丈 岩田泰典 嘉陽拓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【目的】加齢での筋力低下や座位姿勢での作業による体幹の不良姿勢として頭部前方突出位(以下,前突位)が見られる。また,臨床において前突位が上肢機能不全を引き起こしている症例をよく見かけ,前突位を修正する事により上肢挙上角度が増大することをしばしば経験する。先行研究では,前突位による上肢挙上動作での肩甲骨の動きや肩甲骨周囲筋群の活動を中心とした様々な研究は行われている。しかし,前突位と肩関節挙上角度に関して報告している研究は少ない。そこで今回は,頭部位置の違いが肩関節屈曲角度に及ぼす影響を解明することを目的とした。【方法】対象は整形外科的疾患のない健常成人男性10名(平均年齢27.2±4.0歳,身長175±5.9cm,体重65.5±9.9kg,BMI21.4±3.2)の両上肢で測定を行った。測定はベッド上座位(股関節,膝関節屈曲90°)で,足部の位置は肩幅とした。中間位は矢状面上で坐骨結節と肩峰を床面に垂直な直線で結び,この直線の延長線上に耳垂中心がある位置と設定した。前突位は,C7を触知し位置変化がないところまで前方突出してもらい,これを個人の前方突出位と設定した。左右肩関節自然屈曲を3回ずつ測定した。測定は最初に中間位での肩関節屈曲角度を測定し,その後前突位での角度を測定した。なお各測定は疲労の影響を避けるため,各測定時間には十分な休憩をとった。測定は,肩関節屈曲とし,日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が制定する関節可動域検査法で行った。角度計は検者が神中式角度計を使用した。統計処理は,各肢位での最大屈曲角度での2変数の差をt-検定を用いて検定した。すべての統計解析はStatcel3を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき対象者に対し研究の趣旨と内容,得られたデータは研究以外で使用しないこと,および個人情報漏洩に注意することについて十分な説明のうえ同意を得て研究を行った。【結果】頭部両肢位での上肢屈曲角度は,中間位で右150°±11°,左148°±11°,突出位で右138°±11°,左134°±13°であった。中間位と前突位での上肢屈曲角度は有意な差が認められた。突出位で有意に上肢屈曲角度は低下した。(p<0.05)【考察】本研究により,頭部前方突出の増加に伴い肩関節屈曲角度が低下するということが明らかになった。この結果について,野田らの報告では前突位と中間位を比較すると,前突位で肩甲骨は下方回旋を呈したとされており,肩甲骨の可動性が低下したためと考えられる。正常な肩関節屈曲での肩甲骨の動きは,上方回旋・後傾・内転が生じるとされている。また,前突位では頸椎から肩甲骨へ付着している僧帽筋上部線維と肩甲挙筋が伸張され,肩甲骨下方回旋・前傾が起きたのではないかと考える。野田らの報告と前述した筋が伸張されることを踏まえると,肩甲骨上方回旋・後傾が制限され,関節窩上方変位が阻害されたと考える。よって,正常な肩甲上腕リズムが破綻したことにより肩関節屈曲角度の制限に至ったと考える。今回の結果から,頭部位置の変化では肩甲骨への影響が大きいのではないかと考える。しかし,今後の課題として頭部位置の違いだけではなく,脊柱・骨盤の肢位の関係,肩甲骨周囲の筋活動についても検討していくことが必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】肩関節疾患の上肢挙上角度を目指した介入として,頸部アライメントの評価,治療を行うことの有用性があると示唆された。
著者
奥埜 博之 菅沼 惇一 橋本 宏二郎 河島 則天
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1595, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】長期臥床などによる廃用症候群を呈する症例の場合,運動機能の減退や訓練意欲の低下などによって理学療法介入に困難を伴うことが多い。本研究では廃用症候群を呈した2症例に対して,姿勢調節に関わる残存機能の賦活を企図した重心動揺リアルタイムフィードバックを用いた介入を試みたので報告する。この方法は,立位姿勢時の足圧中心(COP)の前後変位をフィードバック信号として床面をリアルタイムに動揺させ,姿勢動揺量を操作的に減弱(in-phase条件),あるいは増幅(anti-phase条件)させることで,立位姿勢調節の改善を図るものである。今回は,重心動揺を増幅させるanti-phase条件を用いて,潜在的に保持している脊髄反射系の賦活を狙いとした介入を行い,重心動揺特性及び筋活動の変化の観点から,その効果について検討することを目的とした。【方法】対象は本研究に同意を得た廃用症候群症例2名とした。症例1(70歳代女性)の特徴は,心不全後の臥床による廃用症候群で立位が不安定となり,後方に重心を移動させた際には立位姿勢の保持が困難であった。症例2(70歳代男性)の特徴は,転倒歴が多く左上腕骨近位端骨折を受傷し,骨折後の活動量の低下により廃用症候群を呈し,歩行には見守りが必要な状態であった。対象者には,重心動揺リアルタイムフィードバック装置(BASYS,テック技販社製)上に立位姿勢を取るよう指示を与え,開眼静止立位を30秒間実施した。立位姿勢に対する介入として,足圧中心の前後方向と逆方向にフィードバックを与えることにより,動揺量を増幅させる設定(anti-phase)を用いた。フィードバックゲインはCOP動揺量の5%,10%,15%の3段階とした。1症例目はanti15%では,立位困難となったため5%及び10%のみの介入とした。各試行30秒を1セットとし,介入前の静止立位,anti-phase条件(5%,10%,15%),介入後の静止立位を測定した。介入効果の評価には,静止立位姿勢時のCOPと筋電図(前脛骨筋,ヒラメ筋)の計測を実施した。【結果】症例1は介入後に,前後方向の平均値は前方に変位し,95%信頼楕円面積,前後の動揺範囲,LF/HF,前脛骨筋及びヒラメ筋の活動量は減少し,後方への重心移動時の立位の保持が可能となった。症例2も介入後にCOP動揺の前後方向の平均値は前方に変位し,動揺速度,95%信頼楕円面積,前後の動揺範囲,LF/HF,前脛骨筋及びヒラメ筋の共収縮に減少を認め,歩行は自立レベルとなった。【結論】本研究の結果は,廃用症候群を呈した症例に対してanti-phase条件での介入を行うことで,下腿筋の共収縮が減弱するとともに,脊髄反射による自律的な姿勢制御が促されたことを示唆するものであった。この方法は,患者自身は装置上に通常の立位姿勢をとるのみで,特別な教示や課題に関する努力要求を要しない。すなわち,BASYSを用いたanti-phase条件での介入は,廃用による立位不安定性を呈する症例に効果的な介入手段となり得る可能性が示された。
著者
藤原 充 長谷川 優子 鈴木 啓介 内山 恵典
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Eb1268, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 院内における入院患者の転倒事故は、排泄への移動を契機に発生することが多いと報告されている。しかし、一般的に理学療法士が、患者に対して行う転倒リスク評価は、いわゆる“尿意がない”状態での運動機能評価に留まっている。先行研究では強い尿意は認知機能を低下させるとの報告もあることから、より現実に近い状況での転倒リスク評価を行うためには、“尿意がある”状態での運動、注意機能評価が必要なのではないかと考えた。本研究では健常成人男性を対象に、“尿意がない”状態と“尿意がある”状態での運動機能、注意機能を評価し、その違いの有無を明らかにすることを目的とする。【方法】 健常成人男性7人(平均年齢27歳)を対象に、尿意を感じない時点“尿意なし”と、強い尿意を感じる時点“尿意あり”における、運動機能と注意機能の違いについて検討した。評価項目としては、尿意に関するものとして、NRSとVASの評価、膀胱容量の測定を行った。運動機能については、10m歩行速度と歩数、左右の最大一歩幅、左右の握力を測定した。また、注意に関する課題としてTMTを施行した。プロトコールは、排尿後に尿意を感じない時点でのNRSとVASを評価し、TMT、10m歩行速度と歩数、最大一歩幅、握力を順次評価した。1Lの飲水後、尿意がNRS“8”となった時点で再度、同一評価を行った。なお、10m歩行テスト、左右の最大一歩幅、左右の握力は各々3回ずつ測定して平均値を算出した。尿意のNRS、VASは“0”を「尿意なし」とし、“10”を「最大に我慢した状態」とした。また、膀胱容量はブラッダースキャンを用いて評価した。評価結果について、尿意ありと尿意なしをSPSSver.19を用いて統計学的に検討した。統計学的手法は、対応のあるt検定を用い、有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の実施の先立ち、被験者に対して研究の意義、目的について十分説明し、口頭および文書による同意を得た。【結果】 最大一歩幅は“尿意なし・右”平均120.1±6.1cm、“尿意なし・左”117.8±7.9cm、“尿意あり・右”109.7±9.3cm、“尿意あり・左”108.9±9.6cmとなり、“尿意あり”で有意に低下した(p<0.05)。その他、TMT、10m歩行速度と歩数、握力については有意差を認めなかった。なお、“尿意あり”の状態でのVAS平均は、8.11±0.81cm、膀胱容量は平均367±100.2mlであり、自覚的、他覚的にも尿意を確認できた。【考察】 “尿意なし”と“尿意あり”の時点における運動機能、注意機能の比較では、“尿意あり”の状態で、最大一歩幅のみが有意に低下した。このことから、日常臨床で行っている転倒リスク評価の結果は患者能力の一側面であり、“尿意あり”の状態での評価では違う結果が生じることが示された。一般に最大膀胱容量は成人300~500mlで、尿意は膀胱容量が150~200mlで感じるとされている。しかし、通常排尿は前頭葉からの橋排尿中枢の抑制、自律神経による蓄尿反射と体性神経による外尿道括約筋収縮により抑制されている。尿意がNRS“8”の時点では、膀胱内圧が急激に上昇した状態と言えるため、随意的に外尿道括約筋の収縮を強め、腹圧を高められない状態での運動を強いられることになったと推測される。これにより体幹が安定せず、運動機能が低下したと考えた。今後の課題は、転倒リスク評価における適切な評価項目の選定と“尿意なし”と“尿意あり”で生じた違いに対する原因追究のための指標を用意することである。【理学療法学研究としての意義】 “尿意なし”と“尿意あり”の状態での運動機能、注意機能の違いを捉えることで、転倒リスクを評価する上での視点が増える。また、今回のように“尿意あり”の状態で、パフォーマンス低下が認められた場合、トイレ誘導に関して、失敗や転倒のない適切なタイミングを示すことができる。これらを通し、排泄を契機に発生している転倒事故を減らすことができるものと考えられる。
著者
武藤 静香 古賀 寛唯 髙宗 智宏 中山 朋大 野瀬 雅美 平田 久乃 細木 悠孝 宮本 朋美 浅海 靖恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AdPF2008, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】利き手、非利き手が持つ、運動機構への影響力の差異についての多くの先行研究がある。なかでも学習転移効果に関しては、利き手から非利き手よりも、非利き手から利き手への方が大きいとする報告が多く、非利き手で練習した後の利き手の課題遂行がその逆順番による課題遂行より成績が良いとする従来からの我々の研究結果とも一致する。今回は、学習転移過程での脳環境の変化を捉える目的で、非利き手から利き手の順による課題遂行時の左・右脳血流量を、近赤外分光法(NIRS)を用いて測定したので、その結果を報告する。【対象と方法】対象は、右利き健常女子学生10名。方法は、20秒間のピンポン玉回転数とNIRSによる脳血流変化量を練習前後に測定する。回転数測定では、ピンポン球を2個把持し、左手は反時計回り、右手は時計回りに、初期学習による影響を除外する目的にて左右とも数回練習させ、回数がプラトーに達した状況下で最高回数を記録する。NIRS計測では、多チャンネルNIRS(日立メディコ、ECG-4000)を使用した。プローブは、脳波国際10/20法を参考にT3-C3-Cz-C4-T4を中央列とし,左プローブ白14をC3、右プローブ白24をC4とするよう設置した。課題条件として、リズム動作課題と最大動作課題を、利き手・非利き手の順に実施した。また、運動感覚領野を同定するために、事前にタッピング動作を行い、脳血流が平均値以上のチャンネルを関心領域(ROI)と設定した。5セット連続して得られた酸素化ヘモグロビンデータをチャンネルごとに加算平均し、ROIの平均値を左右ごとに算出し、被験者10人の平均値を代表値として検定した。統計処理は一元配置分散分析を用い、危険率5%未満を有意とした。【説明と同意】対象者に研究内容を書面にて説明し同意を得て実施した。【結果と考察】1)回転数は、練習後、左手だけでなく右手でも有意な増加が認められた(左手:P=0.0005、右手:P=0.02)。これは、左手の運動学習が右手のパフォーマンス向上に影響を与えたものであると考える。2)血流の練習前後の比較では、左手リズム動作時、左右脳ともに有意な減少(左脳:P=0.04,右脳P=0.02)が、右手リズム動作時、右脳において減少傾向が認められた。これは左手の運動学習により、複雑な動作が容易な動作に変化し、少ない血流で同等の動作が行えるようになったためと考える。さらに、単CHでみると、左手リズム動作時の右脳11,12,16CH(11CH:P=0.02, 12CH:P=0.03, 16CH:P=0.03)と右手リズム動作時の右脳12,21CH(12CH:P=0.05, 21CH:P=0.02)に有意な減少が認められ、これらは一次運動野として報告されているC3,C4の周囲のチャンネルに相当する。最大動作時では、左最大動作時、右脳において増加傾向を示した。これは練習によって運動学習が行われた結果、回数(仕事量)が増加し、左右脳ともに有意に脳血流量の増加がみられたと考える。3)血流の左右脳の比較では、練習前の左手リズム動作において、右脳に比べ左脳の脳血流が有意に少なく(P=0.004)、その傾向は練習後も認められた。それに対し、右手運動時、左脳・右脳の血流変化にほとんど差はなかった。先行研究では、複雑な運動では、同側の運動野、運動前野、感覚野の活動が、また運動学習中には、両側の一次運動野、背側運動前野、補足運動野、大脳基底核、小脳といった領域の活動が報告されており、私たちの結果でも、右リズムに関しては、左脳と右脳に同等の活動が見られた。しかし左手リズムにおいては、左脳の血流が有意に少なく、このことより、私たちは右手と左手では運動学習時のネットワークシステムに違いがあり、左手の複雑動作では同側半球の脳血流を抑制し、補足運動野、大脳基底核、小脳といったNIRSでは測定不能な部位を賦活させたのではないかと考える。単CHでみると前後比較と同様、一次運動野の周囲で有意差が認められた。【理学療法学研究としての意義】今回、非利き手の運動学習は、利き手の運動遂行に転移することが示唆された。学習転移という理論を生かし、非利き手の訓練を行うことで利き手の機能回復の促進につながる可能性があることは非常に興味深いことであり、今後のリハビリテーションにおいて検討していく必要があると考える。また、多チャンネルNIRSは、運動系の生理学的指標となりえ、リハビリテーションに応用可能であることが示唆された。今後、練習の頻度や期間、男女差、利き手が及ぼす影響など条件を変えてさらに検討していきたい。
著者
中村 尚世 石川 大樹 大野 拓也 堀之内 達郎 前田 慎太郎 谷川 直昭 清水 珠緒 福原 大祐 中山 博喜 江崎 晃司 齋藤 暢 平田 裕也 内田 陽介 鈴木 晴奈 佐藤 翔平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101334, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】膝前十字靭帯(ACL)再建術後に荷重制限を設けている施設が多い.しかし,全荷重開始時期に関しては各施設で異なり,未だ統一した見解はない.我々は術後4週にて全荷重を開始し術後リハビリテーション(リハ)を慎重に行うことで良好な術後成績を得たことを報告(2005年本学会)した.さらに,術後3週にて全荷重を開始するも変わらず良好な術後成績を得られたことを報告(2007年本学会)した.そこで今回,更に全荷重開始時期を1週早め,術後3週群と2週群で術後成績を比較検討したため,以下に報告する.【方法】2002年12月~2011年6月までに膝屈筋腱を使用した解剖学的2ルートACL再建術を行った596例のうち,同一術者にてACL再建術のみが施行され,12ヶ月以上経過観察が可能で,再鏡視し得た110例を対象とした.半月板縫合術を同時に施行した例,50歳以上の例,後十字靭帯損傷合併例,ACL再断裂例は除外した.2004年1月より3週で許可した68例(男性45例,女性23例,31.3±8.4歳:3週群)と,2008年4月より術後全荷重を2週で許可した42例(男性24例,女性18例,31.0±7.9歳:2週群)で術後成績を比較検討した.但し,術後リハプログラムでは全荷重開始時期以外はほぼ同一とした.検討項目は,術後6,12ヶ月での膝伸筋の患健比(60°/s),受傷前と術後12ヶ月時のTegner activity score,術後12ヶ月時の膝前方制動性の患健側差,再鏡視時の移植腱の状態,入院期間とした.なお,膝伸筋力は等速性筋力測定器Ariel,膝前方制動性はKT-2000を用いて測定した.再鏡視時の移植腱の状態については,移植腱の太さ,緊張,滑膜被覆の3項目を総合し,Excellent,Good,Fair,Poorの4段階で評価した.統計処理に関しては,術後6,12ヶ月での膝伸筋の患健比(60°/s)と,Tegner activity scoreは,それぞれ反復測定による二元配置分散分析,χ²検定を用いた.また,術後12ヶ月時のKT-2000患健側差 ,再鏡視時の移植腱の状態,入院期間はMann-WhitneyのU検定を用いた.統計学的検討にはSPSS Statistics 17.0Jを使用し,有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の個人情報の取り扱いは当院の個人情報保護規定に則り実施した.【結果】術後6,12ヶ月での膝伸筋の患健比はそれぞれ2週群67.3±2.9%,82.9±2.6%,3週群70.2±2.2%,83.0±2.1%であり,筋力回復の変化量に有意差はなかった.受傷前と術後12ヶ月時のTegner activity scoreの平均値は,それぞれ2週群は6.26が6.26,3週群は5.91が5.88であり,両群にともに有意差はなかった.術後12ヶ月時のKT-2000患健側差は2週群0.13±0.7mm,3週群0.07±0.6mmであり有意差はなかった.再鏡視時の移植腱の状態は2週群はExcellent 31例(73.8%),Good 9例(21.4%),Fair 2例(4.8%),3週群は Excellent 41例(60.3%),Good 27例(39.7%)であり,有意差はなかった.入院期間は2週群22.4±5.6日,3週群25.7±3.2日であり,2週群で有意に短かった(p<0.05).【考察】矢状面断において脛骨は水平面に対し10°程度後方傾斜しているため,膝関節荷重時に脛骨は大腿骨に対し前方剪断力として働き,移植腱へのストレスが増大するとの報告が散見される.しかし,全荷重開始時期は各施設で異なり,可及的早期から5週程度で行なわれており,統一された見解はない.そこで当院では術後の全荷重開始時期を術後4週から開始し,3週,2週へと変更させ術後成績を比較検討してきた.全荷重開始時期を早めたことで術後早期の活動性が上がるため,膝伸筋の筋力回復とTegner activity scoreにおいては2群間に差があると仮定したが,本研究では有意差はなかった.KT-2000患健側差と再鏡視時の移植腱の状態においては2群間に差がなかったことから,術後2週で全荷重を開始しても膝関節の不安定性の増大や移植腱への悪影響がないことが分かった.また,入院期間に関しては2週群の方が有意に短かった.以上より,術後2週での全荷重開始が許容されることが示された.【理学療法学研究としての意義】ACL再建術に関する臨床研究の報告は多数存在するが,全荷重開始時期の違いによる比較検討されたものは少ない.ACL再建術後の全荷重開始時期を3週と2週で比較検討した結果,少なくとも膝関節の不安定性の増大や移植腱への悪影響がないことが分かった.また,入院期間は有意に短縮できることが分かったことからも本研究は有意義だったと思われる.
著者
野中 雄太 増田 一太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-114_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【症例紹介】 大後頭神経三叉神経症候群(以下,GOTS)とは,大後頭神経(以下,GON)と同側の三叉神経支配領域に痛みを生じる症候群である.臨床症状は,GON由来の後頭部痛や三叉神経由来の前頭部痛,頬の感覚低下が生じるとされている.一般的にGOTSの原因には不良姿勢の関与が報告されているが,姿勢評価を用いて発生要因を検討した報告はない. 今回,慢性的な右後頚部・後頭部痛,右前頭部痛や右頬の感覚低下を呈した症例を経験した.姿勢評価から本症例のGOTS発症因子について考察したので報告する.症例は60代男性.誘因はなく,右後頚部・後頭部痛,右前頭部痛を主訴に受診し,運動療法開始となった.【評価とリーズニング】 初期評価は,胸鎖乳突筋,下頭斜筋,頭半棘筋,僧帽筋上部線維,GON,小胸筋に圧痛を認めた.整形外科的テストはSpurling test,Jackson testは陰性,前胸部Tightness testは陽性であった.関節可動域は頸部屈曲50°,伸展30°,回旋は左50°/右50°であった.姿勢評価では,壁肩峰間距離は左5.5㎝/右8.3㎝で,胸椎回旋時の肩峰床面距離は左16.0㎝/右19.8㎝であった.また,立位にて壁から外後頭隆起間を測定したOcciput to wall distance(以下,OWD)は9.1㎝であった.OWDは胸椎後彎程度を軽度,中等度,強度に分類する簡易的な測定方法として用いられ,本症例は強度後彎であった.さらに,壁からC7棘突起間を測定したWall-C7 distance(以下WCD)は5.5㎝,Chin Brow Vertical Angleは35°,C7-Tragus Angle(以下,C7-T角)は40°であったことから,頭部前方位姿勢であると考えられた.X線所見にてC2-7角は18.9°と減少傾向であり,Chibaらの方法を用いた側面像Alignment分類においてはストレートに分類された. これらの評価より,本症例は頭部前方位姿勢による頸椎深層筋群への過負荷により,同筋らの攣縮が,GONへの圧迫・牽引刺激を引き起こしたものと考えられた.GONは,下頭斜筋背側を迂回,頭半棘筋や僧帽筋腱を貫通後,後頭部表層へと走行するため,筋による圧迫刺激が生じやすい.さらに,GONは三叉神経脊髄路核にて三叉神経とシナプス結合しており,GONへの刺激が三叉神経に伝播したことでGOTS症状を呈したものと考えられた.【介入と結果】 GON圧迫要因として考えられた頸椎深層筋群や頭部前方位姿勢を助長する因子である胸鎖乳突筋の攣縮除去を目的としたリラクセーションや同筋へのストレッチングを実施した.また,頭部前方位姿勢,胸椎後彎位の是正を目的とした前胸部柔軟性改善も同時に実施した.その結果,治療4週経過時に,主訴であった後頭頚部,前頭部,頬の感覚低下の消失を認めた.【結論】 本症例は頭部前方位姿勢による過負荷が頸椎深層筋群の攣縮を惹起し,GON圧迫刺激に加え,頭部前方位によるGONへの牽引刺激が合併したものと考えられた.さらに,胸鎖乳突筋の攣縮や前胸部の柔軟性低下も頭部前方位姿勢を助長する可能性が考えられた.【倫理的配慮,説明と同意】本症例に対して,本発表の意義を十分に説明し,口頭にて同意を得た.
著者
生友 尚志 永井 宏達 大畑 光司 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0604, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】広背筋は背部の複数の部位から起始し、停止部で上下の筋線維が反転して付着する。このような広背筋の筋線維による解剖学的な違いはよく知られているが、運動学的な違いについては知られていない。Patonらは広背筋を6つの部位に分けて肩関節運動時の筋活動を測定し、部位別の差異があることを報告している。我々は第41回日本理学療法学術大会において、広背筋を5つの部位に分け、肩関節運動に加え体幹側屈運動時の筋活動を調べ、運動学的に上部線維と下部線維の2つに分けられることを報告した。今回の研究の目的は、前回の測定項目に体幹伸展、体幹回旋運動を加え、広背筋を上部線維(ULD)と下部線維(LLD)に分けて筋活動を測定することで、ULDとLLDの作用について明らかにすることである。【対象と方法】本研究に同意を得た健常成人男性14名(平均年齢20.9±2.4歳)を対象とした。筋電図の測定はNoraxon社製MyoSystem1400を使用し、右側のULDとLLDの2ヶ所にて行った。第7頚椎棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で、ULDは第7胸椎レベル、LLDは第12胸椎レベルの位置にそれぞれ筋線維に平行に表面電極を貼付した。測定項目は肩関節運動として腹臥位にて右肩関節内旋・水平伸展・内転・下方突き押しの4項目、体幹運動として腹臥位体幹伸展、側臥位体幹右側屈、端座位体幹右回旋・左回旋の4項目の計8項目とした。各運動項目を5秒間最大等尺性収縮させた時の安定した3秒間の積分筋電図値(IEMG)を求め、それらを徒手筋力検査に準じて測定した肩関節伸展最大等尺性収縮時のIEMGを100%として正規化し、各筋線維ごとに%IEMGを求めた。また、各運動項目のULDとLLDの筋活動比(LLDの%IEMG/ULDの%IEMG)を求め、Friedman検定を用い比較検討した。【結果と考察】ULDの%IEMGは水平伸展で61.6±20.8%と最も大きく、以下内転41.3±15.6%、体幹右回旋35.4±29.8%、下方突き押し34.7±26.1%、体幹側屈30.5±20.6%、内旋29.5±17.1%、体幹伸展28.1±9.3%、体幹左回旋4.9±3.1%であった。LLDの%IEMGは体幹側屈で100.7±28.4%と最も大きく、以下下方突き押し83.2±28.9%、体幹右回旋66.3±27.5%、内転54.6±21.9%、体幹伸展42.2±11.7%、水平伸展36.8±16.5%、内旋19.8±10.7%、体幹左回旋8.0±5.0%であった。筋活動比は運動項目間において有意な差がみられ(p<0.01)、体幹側屈で最も大きな値を示し、反対に肩関節内旋や水平伸展で最も小さな値を示した。今回の研究により、ULDは肩関節内旋や水平伸展時に選択的に作用し、LLDは体幹側屈時に選択的に作用することが明らかになった。
著者
佐藤 健一 小林 量作 計良 圭一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3068, 2009

【目的】麓(1982,1989)の研究によると、利き足には機能的利き足(以下、機能足)と力発揮の利き足(以下、支持足)に分けられる.前者はボールをける足で右足が多く、後者は高跳びなどの踏み切り足とされ左足であることが多い.本研究の目的は、左右及び利き足の違いによって片脚立ち保持時間に影響を及ぼすか検討することである.<BR>【方法】対象は本学およびA専門学校学生588名(男性394名、女性194名、19.5±1.7歳)の内アンケートにおいて骨・関節障害の記載者を除いた463名(男性316名、女性147名、19.5±1.6歳、身長168.1±8.2cm、体重61.1±9.5kg)である.対象者に開眼・閉眼片脚立ち時間の測定およびアンケートを実施した.片脚立ち時間の測定は上限を120秒とし、開眼、閉眼において左右各2回行い最長時間を代表値とした.アンケートは、年齢、身長、体重、運動器疾患の有無、車酔いの頻度、めまいの有無、機能足(ボールをける足)、支持足(高跳びの踏み切り足)である.統計解析にはSPSS Ver.12を使用し、一元配置分散分析、対応のないt検定、有意水準5%未満とした.なお本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て対象者全員から書面による同意を得た.<BR>【結果】(1)利き足の割合は支持足右42.7%、左52.9%、左右4.3%.機能足右92.6%、左5.2%、左右2.2%で、利き足の組み合わせは9通りみられ、最も多かった組み合わせは支持足左-機能足右49.5%、次いで支持足右-機能足右39.3%であった.(2)片脚立ち時間の性差は、開眼・閉眼とも認められなかった.(3)車酔い、めまいのアンケート結果と片脚立ち時間及びロンベルグ率(閉眼片脚立ち時間 / 開眼片脚立ち時間)の比較でも有意差は認められなかった.(4)左右の片脚立ち時間では、開眼(右117.3秒、左118.8秒)、閉眼(右55.8秒、左60.7秒)のいずれも左右差が認められた.(5)支持足および機能足の左右差では、支持足における閉眼片脚立ち(右50.6±38.9秒、左65.2±44.0秒)のみ有意差が認められた.(6)ロンベルグ率における支持足、機能足の左右差においても支持足(右0.4±0.3、左0.5±0.4)のみ有意差が認められた.<BR>【考察】片脚立ち保持時間については支持足が左であることが他の条件(支持足が右、機能足が左など)よりも有意に長く、特に閉眼片脚立ちで顕著であった.これは、姿勢バランスの視覚による補正が断たれることで顕在化したものと考えられる.また、閉眼では全体的に標準偏差が大きいことから、片脚立ち保持時間の測定には利き足の個人差が影響すると考えられる.
著者
沼澤 俊 寺田 昌史 横山 茂樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F-103, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに,目的】 足関節内反捻挫の受傷において,初発捻挫と再発捻挫ではその危険因子は異なる可能性がある。この点を明らかにすることを目的として,高校生バスケットボール選手を対象としたメディカルチェック活動を通して検討したので報告する。【方法】 対象は大阪府下の高校バスケットボール部,男女193名とした。調査項目は下肢関節可動域や筋力,下肢アライメントやバランス評価など8項目とした。調査開始時に測定を行い,1年間における足関節捻挫の傷害発生を調査した。統計学的処理として,受傷有無別の群間比較についてT検定,および足関節内反捻挫の既往有無別に従属変数を内反捻挫受傷の有無,独立変数を各測定項目としてロジスティック回帰分析を用いた。【倫理的配慮】 京都橘大学倫理委員会の規定に基づき,選手および指導者に対し事前に十分に説明し同意を得た上で本研究を実施した。また本研究に関して開示すべきCOIはない。【結果】 足関節内反捻挫受傷は,初発34名中7名(21%),再発159名中31名(20%)と既往歴による差はみられなかった。再発では,足関節内反捻挫受傷について荷重下の下腿前傾角度,足関節底屈角度,荷重位Q-angleがいずれも受傷群で減少する傾向を示したが,初発ではみられなかった。【考察】 足関節内反捻挫の再発群は,足関節可動域の制限がないことで再発に至る可能性が低くなることが示唆され,既往歴により危険因子が異なると考えられた。
著者
国中 優治 壇 順司 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0448, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】膝関節疾患の治療において膝屈曲時の膝窩部痛はしばしばみられ、一般的にその原因を膝窩筋に絞ることが多々ある。しかし関節運動における膝窩筋の位置やその機能について詳しく説明したものを散見しない。そこで今回遺体ではあるが、膝窩筋の位置と膝関節運動時の機能から膝窩部痛の発生機序について検証したのでここに報告する。【対象】熊本大学大学院医学薬学研究部形態構築学分野の遺体で、大腿骨・脛骨の可動性が充分保証されている右膝1関節を用いた。【方法】1)脛骨に対し大腿骨を最大伸展位から最大屈曲位へと可動し、大腿骨と膝窩筋の接触の有無について後方から観察した。2)脛骨に対し大腿骨を最大伸展位から最大屈曲位に可動し、その外側顆部の回転運動について観察した。又、それに伴う膝窩筋腱の動態及び筋が伸張し始める膝関節角度を計測した。3)脛骨に対し大腿骨を内外旋し、膝窩筋腱の緊張を観察した。4)膝窩筋腱の起始部を大腿骨外側顆部にて精査した。【結 果】1)最大屈曲位においても大腿骨と膝窩筋との距離は保たれ、両者が接触することは無かった。2)大腿骨外側顆部は屈曲開始時、軸回転と共に転がりによる回転軸の後方移動が見られた。その後最大屈曲位に近づくにつれ軸回転主体の運動が見られた。0°から60°屈曲では後下方から前上方に斜走する膝窩筋腱が長軸方向に伸張された。屈曲60°から100°屈曲では膝窩筋腱は伸張されず、大腿骨外側顆部の転がりにて起始部が後方移動し、腱の長軸が垂直位となった。その後弛緩状態が120°まで続いた。120°から最大屈曲では、大腿骨外側顆部の回転軸を中心に膝窩筋腱起始部が上方に移動し垂直方向に伸張された。3)膝窩筋は大腿骨の脛骨に対する内旋にて緊張し、外旋にて弛緩した。4)膝窩筋腱起始部は、大腿骨外側顆部膨隆部にある回転軸(外側側副靱帯付着部位)の下方であった。【考察】膝屈曲時の膝窩部痛は角度が増すことで発生又は増強することから、膝窩筋が大腿骨と脛骨に挟まれ圧迫を受ける可能性が考えられていたが、今回の観察では膝窩筋は大腿骨に挟まれないことが判明した。これは膝窩筋停止部である脛骨後上方が凹状であり、そこに膝窩筋が位置することで大腿骨後顆部の接触を回避しているものと考えられた。解剖書によれば膝窩筋の作用は膝屈曲及び下腿内旋とあるが、今回の観察では、下腿内旋作用は推察できたものの膝屈曲においては初期屈曲及び深屈曲において膝窩筋腱が上方に移動し、特に120°から角度を増すにつれ膝窩筋腱が強く伸張された。また、起始部の精査においても大腿骨外側顆部の回転軸下方に位置していたことからも大腿骨外側顆部を後方に回転させることは不可能であった。つまり膝窩筋の作用は屈曲でないことも示唆された。従って膝の屈曲による膝窩部痛は膝窩筋が伸張され発生することが考えられた。