著者
河上 淳一 田原 敬士 宮崎 優 光野 武志 尾池 拓也 曽川 紗帆 宮薗 彩香 桑園 博明 嶋田 早希子 中村 雅隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P2183, 2010

【目的】我々は第6回肩の運動機能研究会で、投球動作でのボール把持違いによる上肢帯の可動域変化を報告した。結果としては、ボール把持時の母指と示指の位置違いは上肢帯可動域に影響を及ぼさず、ボールと母指の接触面の違いは、3rdTRの可動域に影響していた。しかし、肩関節可動域の変化と投球障害発生は直結するものではない。そこで、今回は投球障害歴の有無に対し、身体的特徴とボール把持項目が投球障害発生にどのような順列で関わるかを検討した。<BR>【方法】対象は、中学生の軟式野球部で、野球歴が一年以上ある65名(年齢13.1±0.8/身長158.88cm±20.42/体重50.39kg±9.75)とした。対象者を、投球障害歴あり群19名(以下:あり群)(肩障害2名/肘障害13名/肩肘障害4名)と、投球障害歴なし群46名(以下:なし群)に分けた。群分けの方法は、過去に病院を受診し、肩または肘に対し投球障害の診断名が下ったものをあり群とし、野球経験の中で肩または肘に疼痛がなかったものや病院を受診しなかったものをなし群と決めた。障害歴に関与する因子、A.個人因子4項目(年齢/身長/体重/野球経験)、B.身体チェック36項目(両側SLR/HBD/HER/HIR/DF/HFT/CAT/2ndER/2nd I R/2nd TR/3rd ER/3rdIR/3rdTR/Elbow-Flex/Elbow-Extension/Supination/Pronation、一側FFD/Latissimus Dorsi)、C.ボール把持8項目(示指と母指の位置関係/母指とボールの接触部位/投球側握力/非投球側握力/母指示指長/母指中指長/示指中指長/ボールと皮膚の距離)、D.ボールの握りに対するアンケート12項目(a.握りを意識するかb.ポジションで握りは変化するかc.ポジションによって握りを気をつけるかd.キャッチボールと守備練習中では握りが違うと感じるかe.指にかかる事を意識しているかf.キャッチボールで縫い目を気にするかg.守備練習中で縫い目を気にするかh.理想の握りがあるか i.ボールを強く投げる時強く握るかj.ボールを強くに投げる時軽く握るかk.握りを習ったことがあるかl.ストレートを習ったことがあるか)を調査した。以上60項目に対し平均値の差の検定はT検定、独立性の検定にはχ二乗検定を行い、群間の有意差を確認した。そこで有意差が認められたものを説明変数とし、障害歴の有無を目的変数に設定した。その変数に対し、多重ロジスティック回帰分析を用いて、どのような順列で判別されるかを確認した。<BR>【説明と同意】本研究はヘルシンキ条約に基づき実施し、同意を得た。<BR>【結果】群間の結果は、A.個人因子では年齢(P=0.0002)、野球歴(P=0.0006)、身長(P=0.014)の3項目で有意差が認められた。B.身体チェックでは有意差を認めなかった。C.ボール把持項目では母指と示指の位置関係(P=0.0008)、母指示指長(P=0.0160)、母指中指長(P=0.0161)、ボールと皮膚の距離(P=0.0249)、投球側握力(P=0.0022)、非投球側握力(P=0.0091)の6項目で有意差が認められた。D.アンケートではa.(P=0.0000)、b.(P=0.0354)の2項目に有意差が認められ、これら計11項目を説明変数に採用した。ロジスティック回帰分析では、変数減少ステップ法を用いP値が0.2000以下になるまで説明変数を減少させた。結果として有意な変数が4項目選択され、P値が低値なものから順に年齢(P=0.0348)、母指と示指の位置関係(P=0.0407)、野球歴(P=0.0502)、アンケートb(P=0.0533)であった。<BR>【考察】一般的に投球障害は、フォームの乱れを持ち合わせたまま、投球を長期継続した結果起こるオーバーワークだと考えられている。本研究においても、オーバーワークの要素となりえる年齢と野球歴の説明変数に高い判別値を認めた。同様の結果が先行研究にあるため、今回の研究の妥当性がうかがえる。ボール把持に関しても、アンケートbと母指と示指の位置関係の説明変数に高い判別値を認めた。そのため、ボール把持は投球障害に強く関与していると考えられる。当院の先行研究をふまえて結果を考察すると、ボールと母指の接触面は上肢帯の可動域に影響を認め、投球障害に影響を認めない。一方で、母指と示指の位置関係は上肢帯の可動域には影響を認めず、投球障害に影響を認める。今回の結果だけではフォームへの影響などは検討できない。そのため、今後は症例数を増やし障害部位別で検討を実施し、ボール把持と身体的特徴との関連性を検討したい。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は、理学療法場面での遠位運動連鎖を検討する重要性を示唆している。<BR>
著者
塩見 誠 糸数 昌史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】日本での腰痛の有訴者率は高く,年代が上がるにつれて高くなる。太田らは腰痛患者を対象とし体幹深層筋に焦点を当てた運動療法を施行した結果,腰痛の程度が改善し,さらに腹横筋,第3,4腰椎高位における多裂筋の筋厚が増加したと報告しており特定の運動療法の効果は認められている。国民のスマートフォン(以下スマホ)所持率は近年67.4%と高い。スマホには様々なアプリケーション(以下APP)が存在しており運動学的解析APPでは,妥当性,再現性は低速歩行にて三次元位置解析装置と同様の性能を有することを示しており,簡便である。またスマホにはミラーリング機能(以下MS)があり携帯端末の画面を投影することが可能である。そこでスマホAPPとMSを組み合わせ視覚的バイオフィードバックシステム(以下BFS)を考案した。本研究は一般的に普及されているスマホを用いて腰痛患者に効果的な運動療法の姿勢特性を捉え,BFSを用いて姿勢の制御を行うことが可能かどうかを明らかにする。</p><p></p><p></p><p>【方法】健常成人男性9名(年齢25.1±2.5歳),測定環境はiPhoneとiPod touchを重ね仙骨後面に固定し,iPhoneのデザリング機能を用い同一Wi-Fi環境とした。使用APPはCSV出力用として「ジャイロくん3」,視覚提示として「水平器Pro」を使用,BFS画面は「Reflector2」を用いてMacBook Pro(Apple Inc)に投影した。</p><p></p><p>姿勢保持は1分間行い,四つ這い対側四肢挙上運動(右上肢-左下肢挙上)とし,条件は1)FB有り,2)FB無しの2条件をランダムに選び,計測は四つ這いでの骨盤の位置を基準とした。運動は「ドローイン後,手と足を地面に水平になるように挙上する様に」と指示した。基準は地面(前後傾,左右回旋0°)とし,FB有りでは画面上に映し出される目印を基準0°に姿勢を合わせるよう指示した。解析は運動開始から20~60秒の40秒間を採用(50Hz)。FBの有無による骨盤前後傾,左右回旋角度を得た。運動中の骨盤角度変化の傾きを恒常誤差(CE)基準値からの誤差を全体誤差(TE)角度変化のばらつきを変動誤差(VE)にて算出し,2条件の平均を対応のあるt検定を用い統計ソフトSPSS用いて解析した。(有意水準5%)</p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>CEでは骨盤は前傾,左回旋する傾向にあった。FBありで前傾は有意に基準に近づいた。</p><p></p><p>TEでは骨盤前後傾角度でFB無しでは6±4°FB有りでは3±2°と有意な変化を認めた。</p><p></p><p>VEでは骨盤左右回旋角度でFB無しでは2±1°FB有りではと1±1°と有意な変化を認めた。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>四つ這い対側挙上運動においてFB無しで骨盤位置がより左回旋かつ前傾の傾向になっているため姿勢保持に大臀筋の膨隆,体幹背筋が作用した可能性が考えられる。骨盤位置の制御では視覚的BF有りの方が目標の位置からの誤差が小さく,運動中の動揺が少ないことが明らかになった。スマートフォンを用いたBFSにより姿勢特性を捉えられかつ制御できる可能性が示された。</p>
著者
岡西 奈津子 木藤 伸宏 秋山 實利 山本 雅子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100352, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】妊娠中および産後に腰痛,骨盤帯痛,尿失禁に悩まされる女性は多く、これらは妊娠に伴う姿勢変化が発症要因として報告されている。しかし,妊婦の姿勢について,脊柱平坦化,骨盤前傾または後傾等一定の見解はみられない。我々は昨年の同学会にて,腰仙椎の弯曲と立位時の傾斜が姿勢評価の指標となることが示され、非妊婦群と比較して妊婦群は腰仙椎後傾することが明らかとなった。しかし,姿勢変化と身体症状の関係について明確なエビデンスは存在しない。そこで本研究は,妊婦の姿勢と身体症状の関係について,スパイナルマウスから得られる脊柱弯曲指標と静止画像から得られた姿勢指標を用いて明らかにすることである。【方法】被験者は,医師により研究参加許可の得られた妊娠16 週− 35 週の妊婦20 名とした。切迫早産や内科的疾患等の妊娠継続が困難となり得る合併症,その他明らかな骨関節疾患等の疾患がある者は除外した。姿勢評価では,デジタルカメラで矢状面より撮影した静止画像を,画像解析ソフトImage J 1.42(NIH)を用いて体幹と骨盤のなす角度,体幹と下肢のなす角度を計測した。併せて,スパイナルマウス(R)(Aditus Systems Inc.,Irvine)を用いて,頚椎から仙椎までの脊柱アライメントを計測し,仙骨傾斜角,胸椎前弯角,腰椎後弯角,立位時の傾斜角を算出した。得られたデータからSPSS for Windows 15.0J(SPSS Japan Inc.)を用いて,主成分分析を行った。求めた主成分得点より,妊婦群と非妊婦群の姿勢の特徴を比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】研究に先立ち,研究内容およびリスク,個人情報の保護,研究成果の学会発表,研究参加中断可能であることについて,十分な説明を口頭にて行った。すべての被験者において同意が得られ,同意書に署名を頂いた。また,本研究は広島国際大学倫理委員会の承認を得た。【結果】被験者のプロフィールは年齢31.4 ± 4.3 歳(平均±標準偏差),身長157.4 ± 5.2cm,体重54.9 ± 7.1kg,妊娠週数23.6 ± 6.2週,初産婦13 名,経産婦7 名であった。身体症状では腰痛の経験がある者17 名,骨盤痛10 名,尿失禁9 名であった。主成分分析の結果,固有値が1 以上を示したのは第1 主成分は腰椎後弯-0.88,第2 主成分は仙骨傾斜角0.71,第3 主成分は胸椎後弯0.63 で高い負荷量を示した。また,累積寄与率は84.8%であった。以上の結果より,第1 主成分および第2 主成分は腰仙椎の弯曲の強弱,第3 主成分は胸椎の弯曲の強弱を示していた。脊柱アライメント指標である仙骨傾斜角は,大きな正の値なら骨盤前傾,小さな正の値または負の値であれば骨盤後傾を意味する。腰椎後弯角は,角度が正の値なら後弯,負の値なら前弯を示す。立位時の傾斜角は、角度が負の値の場合は全体の姿勢が後傾を表す。体幹と骨盤のなす角度は、角度が小さいと体幹後傾を表す。これに基づき第1 主成分と第3 主成分の主成分得点より姿勢を分類し,症状の有無での特徴を検討したところ,骨盤痛と尿失禁を有する者は腰仙椎が前弯減少・後傾し,胸椎は後弯する者がそれぞれ7 名ずつ分布していた。腰痛については症状のない被験者が2 名と少なく,特徴が不明だった。【考察】本研究の結果、腰仙椎の弯曲と胸椎の弯曲の強弱が、姿勢評価の指標となることが示され、骨盤痛と腰痛を有する妊婦は腰仙椎後傾と胸椎後弯を示すことが明らかとなった。妊婦は増大する腹部を保持し抗重力姿勢を保つために,体幹の質量中心を後方へ変位させなければならない。そのためには,脊椎と骨盤の形状を変化させる必要があり,腰仙椎後傾と胸椎後弯により対応していることが推測された。それに伴い腹部の安定化機構であるインナーマッスルの機能不全が生じやすく,結果として骨盤痛や尿失禁という腹部の筋機能不全による症状が発生していると推測された。【理学療法学研究としての意義】妊婦の姿勢と身体症状との関連性を明らかにすることで,身体症状の改善やその発症を予防するための理学療法介入方法が明らかとなることにつながる。そのため,本研究の結果はその根本的な指標となりうる。また,本研究を通して日本のウーマンズヘルスケアにおける理学療法士の職域拡大に寄与できるものと考える。
著者
村上 康朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0456, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】端座位姿勢は理学療法中に多くみられる姿勢であり、また我々理学療法士がその姿勢について評価・指導することも多い。評価や指導においてはアライメントを観察することが多いが、実際理学療法プログラム中など長時間の座位となる場合、同一アライメントにおいても筋活動には変化があるのではないかと疑問を持った。しかし静的座位保持における筋活動を検討した先行研究は少ない。そこで本研究では同一アライメントにおける端座位姿勢保持においての筋活動の変化を検討することを目的とした。【方法】対象は健常人男性7名である。被験者には安楽座位を30秒間、骨盤中間位体幹正中位での端座位姿勢(以下中間位座位とする)を5分間保持させ、表面筋電図(Noraxon社製myoresearch)を用いて両側の内腹斜筋、腰部脊柱起立筋、大腿二頭筋、大腿直筋の筋活動を記録した。安楽座位は被験者が力を抜いて行う端座位とした。中間位座位では両側上肢は手部を膝関節の上に位置し、骨盤・体幹正中位、膝関節90°屈曲位、足底は床に接地し、同一アライメントの保持を意識させた。実験中の姿勢は矢状面より観察した。得られた筋電図波形は全波整流し、30秒間隔での筋積分値を求めた。安楽座位で得られた積分値を基準とし、端座位での10期の筋積分相対値を算出し、安楽座位に対して中間位座位における筋活動の変化の検討を行った。【結果】最も活動量が高くなる筋は腰部脊柱起立筋(以下背筋群)と内腹斜筋(腹筋群)に分かれ、その人数は背筋群2人、腹筋群5人であった。背筋群においては両側の腰部脊柱起立筋が高い活動を示し、内腹斜筋は低い活動を示した。腹筋群では、一側の内腹斜筋活動が高く両側の腰部脊柱起立筋にも活動が認められる傾向であった。下肢筋群の活動は被験者間で差があったが、安楽座位と比べて著明な増加はなかった。また、全ての筋活動において左右差は認められたが、特に内腹斜筋に差の大きい傾向が見られた。【考察】姿勢保持において、腰部脊柱起立筋は腰椎前弯を生じさせ、腹筋群は腹腔内圧を上げることにより横隔膜を下方から押し上げ、姿勢保持に影響する、とある。今回の実験では内腹斜筋を活動させて姿勢保持を行う被験者が多い結果であった。腹筋群では両側の腰部脊柱起立筋にも活動を認めたことから、中間位座位姿勢保持において、内腹斜筋が腹腔内圧の上昇、腰部脊柱起立筋が生理的腰椎前弯保持に関与して姿勢保持を行っていることが考えられる。一方背筋群においては内腹斜筋の活動は低い状況であったことから腰部脊柱起立筋に依存して姿勢保持を行っていることが考えられる。腰痛を有する患者や背部の筋緊張が高い患者においては腹筋群の収縮を意識させた座位姿勢を指導する必要があると考えられた。また、内腹斜筋には左右差が大きく出現したという結果から、細部にわたる姿勢の左右差も評価する必要性を再認識した。
著者
井上 和久 原 和彦 須永 康代 荒木 智子 西原 賢 菊本 東陽 丸岡 弘 伊藤 俊一 星 文彦 藤縄 理 髙柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E4P3192, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】現在、平衡機能低下に対するバランストレーニングとして様々な方法が取り入れられ臨床現場で実施されている。ただ、トレーニングを実施するのであれば、より効果的に楽しみながら実施出来ればそれに超した事はない。昨今、Wiiを使用したトレーニングソフトが話題として取り上げられている。昨年の第44回本学術大会においても、Wiiに関する発表が2題報告された。また、ロンドン・スコットランド・オーストラリアなどの海外においても健康増進・平衡機能向上・健康なライフスタイル等についてWiiおよびWii Fitを使用したトレーニングの効果について現在検証されている。本研究は、2006年に任天堂(株)から発売された家庭用ビデオゲーム機WiiのソフトであるWii Fit(2007年発売)を使用したバランストレーニングの効果を検証した。【方法】対象は、骨・関節系の既往歴のない若年健常成人10名とした。使用機器は、重心動揺計(グラビコーダGS5500、アニマ社製)とWii・Wii Fit・バランスWiiボード(任天堂製)を使用した。Wii Fitソフトの映写機器としてプロジェクターを使用しスクリーンに映写して実施した。測定方法として、最初に1))静的重心動揺計にて重心動揺(開眼閉足30秒:総軌跡長・単位面積軌跡長)を測定、2)バランスWiiボードでWii Fitのバランストレーニング(9種類:ヘディング・バランススキー・スキージャンプ・コロコロ玉入れ・綱渡り・バランスMii・ペンギンシーソー・バランススノボー・座禅)を20分間実施、3)トレーニング直後に再度静的重心動揺計にて重心動揺を測定。バランストレーニングは、1週間のうち被験者の任意の3日間(1日1回20分間)をバランストレーニングとしてWii Fitで実施させ、それを4週間継続的に実施した(計12日間:240分)。バランストレーニングの種類は、最初はヘディング・バランススキー・スキージャンプ・コロコロ玉入れの4種類を必ず実施させ、その後は被験者の好みによりランダムに実施した。なお、9種類のうち5種類のバランストレーニングについては、トレーニングの実施経過時間により順次増えていく内容となっている(10分実施後:綱渡り、60分実施後:バランスMii、90分実施後:ペンギンシーソー、120分実施後:バランススノボー、180分実施後:座禅の順にトレーニング項目が追加されていく)。また、バランストレーニングの前に必ずバランスWiiボードで重心を測定し、被験者の重心位置を確認させた上でトレーニングを実施した。バランストレーニング前後の統計処理は、PASW Statistics Ver.18.0を使用し、ウィルコクスンの符号付順位検定を行い、有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に則り被験者に研究の目的や手順を説明して署名による同意を得た。【結果】総軌跡長においては、バランストレーニング前後で何ら有意な差は認められなかった。単位面積軌跡長においては、バランストレーニング開始前と開始1・2・3週間後とにおいて有意な差が認められた(p<.05)が、バランストレーニング開始前と開始4週間後とにおいては有意な差は認められなかった。【考察】今回の研究結果からWii Fitのバランストレーニング効果は、静的な立位重心動揺に明らかな効果が認めらない事が示唆された。しかし、固有受容性姿勢制御度の指標である単位面積軌跡長の結果においては、バランストレーニング開始前に比べ開始1・2・3週間後に有意な増加傾向が認められた。Wii Fitのバランストレーニングの種類として主にバランスWiiボード上で前後左右の重心移動によりゲーム感覚で得点を競う特性があるため、総軌跡長というパラメータの特性には変化が認められず、重心を細かく制御する単位面積軌跡長というパラメータの特性に変化が認められたと考えられる。なお、Wii Fitのバランストレーニングとして9種類用意されているが、それぞれトレーニングの方法が違うため今後各被験者が実施したバランストレーニングの種類についても因子分析を行う必要性がある。【理学療法学研究としての意義】今回のバランストレーニングは週3日4週間継続という短い期間での実施だったが、今後はより継続的に実施した場合の効果についても検証し、より効果のあるトレーニングかどうか明確になれば臨床現場でのバランストレーニング以外に、家庭でも容易にバランストレーニングを実施する事が提案でき、継続的なバランストレーニングの効果を期待できる可能性があると考えられた。さらに、国民の健康増進や平衡機能向上にもつながる事が期待される。
著者
中瀬 智子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.B-39_2-B-39_2, 2019

<p>【はじめに】今回,交通事故による頭部外傷により遷延性意識障害と筋緊張低下を呈し,基本動作に全介助を要した症例に長下肢装具を用いた歩行練習を行った.これにより,起居動作と端坐位保持能力の改善を認めた症例を経験したので報告する.</p><p>【方法】症例紹介:10代後半,男性,家族と5人暮らし,受傷前ADL自立.診断名:びまん性軸索損傷,両側前頭葉脳挫傷.現病歴:乗用車の後部座席に乗車中,正面衝突により受傷,救急搬送され入院,回復期病院を経て当院入院となる.</p><p>介入初期,意識レベルE4V1M3,MAS全般的に0~1と筋緊張低下を認めるが,足関節は2と足クローヌスを認めた.起きあがりは伸展パターンが出現し,端坐位保持は立ち直り反応を認めず頸部保持困難で姿勢保持に全介助を要した.立ち上がりは長下肢装具の使用に関わらず全介助を要し,声掛けによる頭部挙上は困難なため動画視聴による刺激入力を行い立位訓練を実施した.足関節背屈角度に制限が認められたためヒール付き長下肢装具を使用していたが背屈角度が0度に改善したためヒールを除去し背屈角度を5度に設定し歩行練習開始、その後背屈角度を8度に変更し歩行練習を継続した.</p><p>【結果】介入後意識レベルはE4V1M4と改善を認め,筋緊張は介入初期と著変なく推移した.起き上がりでは頸部の立ち直り反応が認められるようになりon handからon elbowは動作介助に対する協力が得られるようになった.端坐位保持は軽介助となり動画視聴による刺激入力を行うと自力での頸部保持が10分可能となった.長下肢装具による歩行では前方より動画視聴による刺激入力を行うと頸部保持での歩行が可能,また重心移動の介助を行えば自力で右下肢の振り出しがみられるようになった.</p><p>【考察】脳卒中ガイドライン2015によると,脳卒中に対し早期から装具を使用した歩行練習が推奨されており有効性が認められている.本症例は頭部外傷であるが長下肢装具を使用した歩行練習により覚醒状態の改善と歩行能力の改善を目指した.介入当初足関節背屈角度には制限が認められヒール付き長下肢装具を使用した立位練習を行いながら足関節可動域改善目的にてウルトラフレックス足継手の短下肢装具を使用した.歩行練習当初背屈角度5度に設定したが歩行介助量軽減と歩行距離が一番伸びるようにその後8度に設定し歩行練習を継続した.抗重力伸展位と股関節の伸展を伴う歩行は歩行能力の改善が期待できるだけでなく,覚醒状態の改善も期待ができる.今回は股関節と体幹の抗重力保持だけでなく,頸部の保持も確保したうえで歩行距離を伸ばせたことが覚醒状態と基本動作能力の改善に寄与したと考えられた.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本報告はヘルシンキ宣言に基づき,本人同席のもと家族に口頭にて説明,書面にて同意を得た.</p>
著者
溝田 勝彦 村田 伸 堀江 淳 村田 潤 大田尾 浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3O1193, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】わが国では世界に類を見ない速さで高齢化が進んでいるが,高齢者の自殺や閉じこもり,介護者による高齢者の虐待など,必ずしも長生きしている高齢者が幸福に暮らしているとはいえない状況にあり,高齢者のQOL(Quality of life)の向上は大きな課題といえる. これまで,主観的幸福感や日常生活満足度など,QOLの一領域に影響を与える要因分析の報告は多く,その要因の一つとして経済状態や経済状態への満足感が挙げられている.しかし,QOLを多面的に捉え,経済状態の主観的評価が,QOLの各領域にどの程度影響を与えるかについての報告はほとんど見あたらない.そこで今回,福岡県の地域在住高齢者を対象として,実際の収入の程度とは関わりなく,現在の自分の暮らし向きについてどのように感じているかという主観的経済状況感とQOLの各領域(活動能力,主観的健康感,生活満足度,生きがい感,人間関係の満足度)との関係について検討することを目的として調査を実施した.【方法】F町のミニデイサービス事業に登録している高齢者の内,331名(男性66名,女性265名)から調査協力が得られた.調査は2008年8月から9月にかけて実施した.しかし,男性の対象者数が女性の約4分の1と少なかったため,今回は女性高齢者265名(平均年齢は73.5±6.5歳)のみを対象とした.なお,重度の認知症を疑わせる者(Mini-Mental State Examination;MMSEで19点以下)はいなかった. 方法は,個人の基本的属性(氏名,年齢,性別,家族人数,教育年数)に関する情報の収集とMMSEを実施した後,主観的経済状況感として暮らし向きの主観的評価,健康関連QOLの評価として老研式活動能力指標,主観的QOLの評価として主観的健康感,生活満足度,生きがい感,人間関係に関する満足度を質問紙にて評価した.主観的経済状況感の評価は,「ゆとりがあり,まったく心配なく暮らしている」「ゆとりはないが,それほど心配なく暮らしている」「ゆとりがなく,多少心配である」「生活が苦しく,非常に心配である」の4件法で求めた.主観的QOLの評価にはVisual Analogue Scale用いた.統計処理は対応のないt-検定を用いて行った.なお,統計解析ソフトはStatView5.0を用い,有意水準を5%とした.【説明と同意】参加者に対し,研究の趣旨と内容について十分に説明をした後,書面で同意が得られた高齢者のみを対象者とした.また,調査の途中いつでも自由に拒否できることも伝えた.【結果】暮らし向きについては,「ゆとりがあり,まったく心配なく暮らしている」が57名,「ゆとりはないが,それほど心配なく暮らしている」が171名,「ゆとりがなく,多少心配である」が37名で,「生活が苦しく,非常に心配である」と回答した者はいなかった.そこで,「ゆとりがあり,まったく心配なく暮らしている」57名をゆとりあり群,「ゆとりがなく,多少心配である」37名をゆとりなし群として,2群を比較検討した.その結果,年齢,MMSE,健康関連QOLにおいては有意差は認められなかった.一方, 主観的QOLのすべての領域において有意差が認められ,ゆとりあり群がゆとりなし群よりも高い値を示した.また,家族人数はゆとりあり群が有意に多く,教育年数も有意に長かった.【考察】今回の結果から,経済状況の主観的評価が主観的QOLの各領域すべてに影響を与えることが示唆された.このことは,高齢者を取り巻く経済環境が厳しくなり,経済状況についての主観的評価が低下すれば,その結果として高齢者の主観的QOLの各領域(主観的健康感,生活満足度,生きがい感,人間関係の満足度)が低下する可能性があることを示している.2006年度の高齢者の経済生活に関する意識調査では,60歳以上の対象者において「現在の暮らしに経済的に心配がある」者は,5年前の調査より約1 割増加している.さらに今日の日本の経済状況を考えると,高齢者の経済状況についての主観的評価は更に低下することが予想され,高齢者の主観的QOLの低下が危惧される.最後に,今回の対象者は町からの呼びかけに対して自主的に参加した活動的な女性高齢者であることから,今回の結果が高齢者一般に適用できるか否かについては検討する必要がある.【理学療法学研究としての意義】リハビリテーションの究極の目的は,対象者やその関係者のQOLの向上であるといわれており,理学療法においても同様と考えられる.今回の結果は,客観的な経済状況(年収など)のみならず,主観的QOLに影響を与える一因子としての主観的経済状況感も把握しておくことが,理学療法を進めていく上で不可欠である事を示している.
著者
石原 望 纐纈 良 山本 剛史 渡辺 侑一郎 安藤 易輔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】現在,スポーツ場面や学校,職場などで障害予防を目的に様々なストレッチが行われている。身体の総合的な柔軟性を評価する検査としては,立位にて膝関節を完全伸展させたまま体幹を前屈させ指先と床面との距離を測定する指床間距離(以下,FFD),ハムストリングスの伸張性に着目した検査では背臥位にて膝・股関節を90°屈曲させた状態から他動的に膝関節を伸展させる膝窩角(popliteal angle以下,PA)などがある。近年,柔軟性が低下した者に対する新たなストレッチ法としてジャックナイフストレッチが提案されている。現時点で健常成人を対象にその効果を検証する研究がいくつか行われているが,従来から行われてきた立位にて体幹を前屈させるストレッチとジャックナイフストレッチの効果を比較した報告はない。本研究の目的は,全身的な柔軟性の指標としてFFD,ハムストリングスの伸張性の指標としてPAを用い,ジャックナイフストレッチが柔軟性に及ぼす効果を明らかにすることである。【方法】健常成人22名(男性15名,女性7名,年齢25.3±3.5歳,身長167.5±8.1cm,体重60.1±9.9kg)を対象とした。課題はジャックナイフストレッチを行った群(以下,JS群)と体幹前屈ストレッチを行った群(Trunk Forward Bending以下,TFB群)の2つとし,無作為に割り付けた。課題はそれぞれストレッチ時間10秒×5回とし,JS群はしゃがんだ姿勢から足首を把持し大腿部と胸部を離さないように膝関節を伸展させていくように指示した。TFB群は立位にて膝関節完全伸展位を保持したまま,ハムストリングスの伸張痛が出現する直前まで体幹前屈を行うよう指示した。各ストレッチは朝・夕の1日2回,4週間毎日実施した。FFD,PAの測定は介入開始前,介入終了後の計2回測定した。FFDの測定は被験者は30cmの台上に立位となり,膝関節伸展位で体幹を前屈し上肢を下垂させ,中指と床面との距離をメジャーで計測した。PAの測定は,股・膝関節90°屈曲位からの膝関節伸展の他動運動とし,挙上側の股関節内・外転,内・外旋は中間位,足関節は中間位とした。測定時は,Tilt Table上背臥位にて対側大腿部・骨盤をベルトで固定し代償動作を極力除き,対側股関節・膝関節は伸展位とした。測定により疼痛が出現する直前の角度をPAとし,測定はゴニオメーターを用いて行った。統計解析は介入前の測定値と身体的特性(年齢,身長,体重)において,2群間で統計的に有意差がないことを確認した後,介入の効果判定としてFFD,PAを指標とし,1要因に対応がある二元配置分散分析を用いて比較した。なお,有意水準は5%未満とした。【結果】介入前後での比較では,JS群はFFD 30.2±8.7cmから21.1±6.1cm,PA 155.9±11.3°から165.4±10.3°,TFB群はFFD 35.1±12.0cmから28.1±10.8cm,PA 152.7±11.6°から160.0±14.4°となり,両群においてFFD,PAともに有意差が認められた。ストレッチ間での比較では,FFDではJS群21.1±6.1cmに対し,TFB群28.1±10.8cm,PAではJS群165.4±10.3°に対し,TFB群160.0±14.4°とFFDのみ有意差が認められ,PAでは有意差は認められなかった。【考察】結果より,ジャックナイフストレッチが柔軟性に及ぼす効果として,ハムストリングス以外の要因に対してより大きなストレッチ効果を及ぼす可能性が示唆された。JS群でよりFFDの改善が得られた要因として,ジャックナイフストレッチは自己の股・膝関節伸展筋力によって筋を伸張させるのに対し,体幹前屈ストレッチは自己の体幹重量のみで筋を伸張させる。よって,ジャックナイフストレッチでは筋により高強度な伸張を加えることができると考える。また,ジャックナイフストレッチはその実施方法から,肩峰と足首の距離が規定されるため常に腰椎屈曲位を強制されることになる。一方,体幹前屈ストレッチは,膝関節完全伸展位を規定し体幹前屈を行うためハムストリングスに対してはストレッチが強制されるが,腰椎の屈曲は強制力が働きにくい。そのため,柔軟性低下の原因が腰椎の屈曲制限による被験者ではストレッチの効果が得られにくかった可能性がある。今後の課題として,今回は柔軟性の要素の一つとしてハムストリングスを指標として検討したが,その他にも骨盤や腰椎の可動性などについても検討が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】ジャックナイフストレッチがFFD,PAに及ぼす効果が確認できた。また,ジャックナイフストレッチはハムストリングス以外の関節,筋肉などにより大きな効果を及ぼす可能性が考えられた。本研究が柔軟性向上を目的としたストレッチを行う上での一助になると考えられる。
著者
甲斐 太陽 永井 宏達 阪本 昌志 山本 愛 山本 ちさと 白岩 加代子 宮﨑 純弥
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0792, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】運動場面におけるアイシングを用いた寒冷療法は,これまで広く行われており,運動後の疼痛の制御や,疲労の軽減,その他急性外傷による炎症や腫脹の軽減などが目的となっている。運動後のアイシングについては,オーバーユーズによる急性炎症反応の抑制や,組織治癒の際に伴う熱,発赤などを減少させる効果が確認されている。具体例としては,投球後の投手が肩をアイシングすることがあげられる。一方で,筋力トレーニング実施後に生じる副次的作用として遅発性筋痛があるが,トレーニングした筋そのものに対してのアイシングは,その効果に関する報告が少なく,また統一した見解が得ているわけではない。アイシングによる遅発性筋痛への影響を明らかにすることは,運動療法を効率よく行う上でも重要な知見となる。本研究では,アイシングによる寒冷療法は,遅発性筋痛の軽減に関与するのかを検証することを目的とした。【方法】対象は健常若年者29名(男14名,女15名18.6±0.9歳)とした。層化ブロックランダム割り付けにより,対象者を介入群14名,対照群15名に分類した。研究デザインは無作為化比較対照試験とし,両群に対して遅発性筋痛が生じうる負荷を加えた後に,介入群にのみアイシングを施行した。対象者の非利き手側の上腕二頭筋に遅発性筋痛を生じさせるため,ダンベル(男性5kg,女性3kg)を用いた肘関節屈曲運動を動作が継続できなくなるまで実施した。運動速度は屈伸運動が4秒に1回のペースになるように行い,メトロノームを用いて統制した。運動中止の判断は,肘関節屈曲角度が90°未満なる施行が2回連続で生じた時点とした。3分間の休憩の後,再度同様の運動を実施し,この過程を3セット繰りかえした。その後,介入群には軽度肘関節屈曲位で上腕二頭筋に氷嚢を用いてアイシングを20分間実施した。対照群には,介入群と同様の姿勢で20分間安静をとるよう指示した。評価項目はMMT(Manual Muscle Test)3レベル運動時のVAS(Visual Analog Scale),および上腕二頭筋の圧痛を評価した。圧痛の評価には徒手筋力計(μ-tas)を使用した。圧痛の測定部位は肩峰と肘窩を結んだ線の遠位3分の1を基準とし,徒手筋力計を介して上腕二頭筋に検者が圧追を加え,対象者が痛みを感じた時の数値を測定,記録した。VASは介入群,対照群ともに課題前,課題直後,アイシング直後,その後一週間毎日各個人で評価した。圧痛は課題前,課題直後,アイシング直後,実験一日後,二日後,五日後,六日後,七日後に評価した。圧痛の評価は同一の検者が実施し,評価は同一時間帯に行った。実験期間中は介入群,対照群ともに筋力トレーニング等を行わず,通常通りの生活を送るよう指導した。統計解析には,VAS,圧痛に関して,群,時間を要因とした分割プロットデザイン分散解析を用いた。交互作用のみられた項目については事後検定を行った。なお,圧痛の評価は,級内相関係数(ICC)を算出し信頼性の評価を検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って,対象者には研究の内容,身体に関わる影響を紙面上にて説明した上,書面にて同意を得た。【結果】今回の研究では,最終評価まで脱落者はおらず,全参加者が解析対象となった。圧痛検査のICC(1,1)は0.83であり,良好な信頼性を有していた。VASに関しては,介入群において,疼痛が有意に抑制されていた(交互作用:p<0.05)。VASにおける群間の差が最も大きかったのは,トレーニング三日後であり,介入群4.8±3.1cm,対照群6.8±1.7cmであった。圧痛に関しては,有意ではないものの中程度の効果量がみられた(交互作用:p<0.088,偏η2=0.07)。圧痛における群間の差が最も大きかったのはトレーニング二日後であり,介入群76±55N,対照群39±28Nであった。【考察】本研究の結果,筋力トレーニング後にアイシングを用いることによって,その後の遅発性筋痛の抑制に影響を与えることが明らかになった。遅発性筋痛が生じる原因としては,筋原線維の配列の乱れや筋疲労によって毛細血管拡張が生じることによる細胞間隙の浮腫および炎症反応などが述べられている。一方,アイシングの効果としては血管が収縮され血流量が減少し,炎症反応を抑えることができるとされている。今回の遅発性筋痛の抑制には,アイシングにより血流量が減少され,浮腫が軽減されたことが関与している可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】運動療法後のアイシングにより遅発性筋痛を抑制することができれば,その後のパフォーマンス低下の予防や,よりスムーズなリハビリテーション介入につながる可能性がある。今後,これらの関係性を明らかにしていくことで,理学療法研究としての意義がさらに高くなると考える。
著者
中川 慧 大鶴 直史 猪村 剛史 橋詰 顕 栗栖 薫 中石 真一路 河原 裕美 弓削 類
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】臨床現場においても,難聴者とのコミュニケーションに難渋することが多い。高齢による難聴の多くは感音性難聴といわれており,内耳から脳への伝達経路での障害が原因と考えられている。一般的に感音性難聴を評価する際には,音の聞き分けができるかどうかの主観的評価が用いられているが,加えて大脳皮質応答を客観的に評価することも重要と考えられる。そこで本研究では,聞き取りやすさの条件を変更することで音の聞き分けに対する大脳皮質応答が変化するのかを検討し,感音性難聴を客観的に評価するシステムを確立することを目的とした。【方法】実験に先立ち,難聴者9名を対象に57-S語表(日本聴覚医学会)を用いた50音の聞き取り検査を行い,聞き取りの難しい音・簡単な音を調査した。結果,聞き取りの正答率が最も高い音は『ル』,最も誤答が多かった組み合わせは『ミ』と『ニ』であったため,これらの音を用いて課題を作成した。課題は,約20%の確率で逸脱音を呈示するoddball課題とし,難課題(標準音『ニ』,逸脱音『ミ』)と易課題(標準音『ル』,逸脱音『ミ』)の2課題を設定した。計測は,健聴者10名を対象に,シールドルーム内にて,被験者前方3mの位置のスピーカーから700ms間隔で呈示される音(70dB)を聴いた際の聴覚誘発脳磁界を記録した。スピーカーには,音の指向性および高音域の音圧を高め,聞き手が聞き取りすくなる構造を持つ『COMUOON<sup>Ⓡ</sup>』(ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社)および同一の素材で作られた標準的なスピーカーを使用した。なお計測中,被験者には音に注意を向けないように指示した。各条件500回程度加算し,逸脱音と標準音の差分波形(ミスマッチ反応:mismatch field)をもとに,等価電流双極子推定法を用いて左右聴覚領域それぞれの活動源を推定し,各条件での電流モーメントを比較した。【結果】音の呈示に伴い,刺激後100msをピークとする活動源が両側上側頭回付近に推定された。逸脱音から標準音の応答の差を求めると,易課題では,スピーカーの種類に関わらず100ms(N1m)と220ms付近(P2m)にピークを持つ波形が記録された。一方,難課題ではN1mの振幅が小さく,P2mの潜時が平均288msと遅かったが,『COMUOON<sup>Ⓡ</sup>』を用いることでP2mの潜時が平均259msと短縮した。【結論】感音性難聴の客観的評価システムの導入を目的に聞き分けの難しい言語音を用いた課題を作成し,聴覚誘発脳磁界を指標としてその有用性を検証した。その結果,話し手側から聞き取りやすい音を伝える高精度のスピーカーを用いると,音の認識に関与すると考えられるP2mの出現潜時が短縮した。これは本手法が感音性難聴の客観的評価に対する一つとして有用である可能性を示している。今後は,難聴者を対象に計測を行い,評価システムの確立を目指したい。
著者
河野 芳廣 吉田 裕一郎 田村 幸嗣 森山 裕一 牧原 真治 廣兼 民徳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI1341, 2011

【目的】換気力学では呼吸筋、胸腔内圧や肺容量、肺気量分画(全肺気量、一回換気量、肺活量、機能的残気量など)、姿勢、肺胸郭コンプライアンスの弾性仕事に関する要因や気道抵抗、肺、胸郭の組織抵抗の粘性仕事に関する要因などが関わっている。その中で、呼吸理学療法を行う際に、姿勢の変化で肺気量が影響を受けることは、多くの先行研究により認知されている。陽圧人工換気のポジショニングや体位呼吸療法(腹臥位管理)は、換気改善の効果があり、呼吸生理学的根拠があることは周知のとおりである。今回、陽圧人工換気下の状態で、姿勢の変化(ヘッドアップ)が及ぼす影響について、若干の知見を得たのでここに報告する。<BR>【説明と同意】今回の報告は、当院の倫理委員会の承認を受けている。<BR>【対象】溺水にて救急搬送、搬入時咳嗽あるも、胸部X線にて肺の状態不良、酸素化能低下し、時間を待たず気管挿管、ICUへ。ウィーニングで抜管するも、喉頭浮腫にて気道閉塞し、再挿管。その後、肺炎悪化。PCVの陽圧人工換気にて治療継続。陽圧人工換気管理下で換気モードはPCV(PEEP6cmH<SUB>2</SUB>O、RR30回/min、PCの圧above PEEP24cmH<SUB>2</SUB>O、FIO<SUB>2</SUB>80%)servo i (シーメンス社製)【方法】1日1回を3回にわたり、下記測定項目を理学療法前に計測する<BR>・2肢位における1分間の呼吸(分時換気量、一回呼気量、一回吸気量)をモニタしていく<BR>・ベッド上フラット位(ギャッジアップ0度、下肢挙上なし)から電動にて45度ギャッジアップ座位にし、それぞれの換気量を計測する。<BR>【測定項目】呼吸機能:分時換気量(MVe )、一回吸気量(VTi )、 一回呼気量(VTe )、終末呼気炭酸ガス濃度(EtCO<SUB>2</SUB>)、呼吸数(RR)、動的コンプライアンス(Cdyn)、酸素飽和度(SpO<SUB>2</SUB>)、呼吸パターン(I:E等)循環機能:動脈圧(ART)、心拍数(HR)<BR>【結果】パラメータ平均値は、1回目の仰臥位;MVe7.20±0.02 L/min、VTi238.35±2.33mL,VTe239.23±2.60mL から、45度坐位MVe5.22±0.04 L/min、VTi165.65±4.74mL、VTe171.12±5.13mLと低下、2回目の仰臥位;MVe7.30 L/min、VTi261.50±2.40mL、VTe261.88±1.93mL から、45度坐位MVe5.35±0.05 L/min、VTi200.00±3.66mL、VTe190.27±3.29mLと低下、3回目の仰臥位;MVe6.82±0.04 L/min、VTi259.96±2.49mL、VTe273.27±1.61mL から、45度坐位MVe4.41±0.03 L/min、VTi180.07±4.62mL、VTe175.96±3.11mLといずれも換気量の低下がみられた。<BR>・1、2、3回目における2条件(仰臥位、45度坐位)はいずれも、45度坐位において換気量の低下がみられ、(Wilcoxonの符号付き順位検定)P<0.01で有意差があった。<BR>・Cdynは1,2,3回目いずれも仰臥位は10.4~11mL/cmH<SUB>2</SUB>O、45度坐位は6.3~7.5mL/cmH<SUB>2</SUB>Oと低下した<BR>・EtCO<SUB>2</SUB>は仰臥位では47~57mmHgで45度坐位では64~76mmHgと上昇した。<BR>・姿勢変化時;酸素化能の変化としてSpO<SUB>2</SUB>値は、一回目に97%から93%に低下、2回目は95%から94%、3回目は97%から96%に低下した<BR>【考察】圧規定換気設定の気道内圧は、気道抵抗と肺胸郭コンプライアンスの大、小により、換気量を反映することになる。気道抵抗が大きいほど、肺胸郭コンプライアンスが小さいほど、換気量は減少するということになる。単に、肺胸郭コンプライアンスが小さくなったこともあると考えるが、それに、仰臥位から坐位時に、安静呼気位レベル(FRC)自体が上がり、結果的に気道内圧に影響し、換気量が変化したと考えられるのではないかと推測した。<BR>【理学療法学研究としての意義】陽圧人工換気下では量・圧規定換気や補助換気の付加など、病態にそって設定を変更させる。よって、同条件下での症例が重ねにくい中で、今回は換気量を測定することができた。陽圧人工換気下で、酸素化能の向上、換気改善目的の姿勢アップや呼吸手技を実施する際にはモニターしながら、圧損傷にたいして十分に注意できるようにする必要があることが理解できた。<BR>
著者
壬生 彰 西上 智彦 田中 克宜 山田 英司 廣瀬 富寿 片岡 豊 田辺 曉人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)において,身体知覚に関わる2点識別覚,固有受容感覚および運動イメージの低下や異常が認められており,身体知覚異常が慢性痛に関与する可能性が報告されている。腰痛患者に対して身体知覚異常を評価するために開発されたThe Fremantle Back Awareness Questionnaire(FreBAQ)を基に,日本語版The Fremantle Knee Awareness Questionnaire(FreKAQ-J)を作成し,膝OA患者の身体知覚評価質問票としての信頼性および妥当性を検討した。さらに,Rasch解析を行い,心理測定特性を検討した。【方法】日本語版FreBAQの質問項目にある'腰'を'膝'に置き換えて英語へ逆翻訳し,FreBAQの原著者へ内容的妥当性を確認したうえで暫定版FreKAQ-Jを作成した。対象は,膝OAと診断された65名(男性15名,女性50名,平均年齢68.5±9.1歳)を膝OA群,膝OAの既往がない64名(男性14名,女性50名,平均年齢66.7±7.2歳)を対照群とした。評価項目は,安静時および動作時の疼痛強度(Visual Analogue Scale;VAS),能力障害(Oxford Knee Score;OKS),破局的思考(Pain Catastrophizing Scale;PCS),運動恐怖(Tampa Scale for Kinesiophobia;TSK)及び身体知覚異常(FreKAQ-J)とした。統計解析は,FreKAQ-Jの合計点の群間比較には対応のないt検定を,膝OA群においてFreKAQ-Jの合計点と各評価項目との関連にはSpearmanの順位相関係数を用いた。初回評価より2週間以内にFreKAQ-Jの再テストを行い級内相関係数を求めた。有意水準は5%未満とした。さらに,Rasch解析により,Cronbachのα係数,項目適合度,評価尺度としての一元性,targetingを検討した。【結果】FreKAQ-Jは,対照群に比べて膝OA群で有意に高得点であった(膝OA群12.4±7.6,対照群3.6±4.4)。また,膝OA群においてFreKAQ-Jは安静時痛(r=0.27,p=0.02),運動時痛(r=0.37,p=0.002),PCS(r=0.70,p<0.001),TSK(r=0.49,p<0.001),HADS不安(r=0.46,p<0.001)およびHADS抑うつ(r=0.32,p=0.01)と有意な正の相関を,OKS(r=-0.41,p=0.001)と有意な負の相関を認め,評価尺度としての基準関連妥当性を有することが示された。級内相関係数は0.76であり,高い再テスト信頼性が認められた。Rasch解析の結果,Cronbachのα係数は0.87であり,高い内的整合性が認められた。身体イメージに関する項目7及び9に不適合(misfit)が認められたが,評価尺度としての一元性が認められた。また,FreKAQ-Jは身体知覚異常が高度である対象者をtargetingしていることが示された。【結論】FreKAQ-Jは,膝OA患者の身体知覚異常を評価する質問票として十分な信頼性,妥当性をおよび心理測定特性を有することが示された。今後,本質問票を活用し,膝OA患者の身体知覚異常と疼痛の関連についてさらなる検討を行うとともに,身体知覚異常の改善を目的とした介入の効果検証についても行っていく必要がある。
著者
鵜飼 建志 山崎 雅美 笠井 勉 林 典雄 細居 雅敏 赤羽根 良和 中宿 伸哉 田中 幸彦 宿南 高則 近藤 照美 増田 一太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0974, 2004

【はじめに】<BR> 野球肩の多くは、impingement syndromeやrotator interval損傷などの報告が多く、当院ではquadrilateral spaceでの腋窩神経由来と思われる肩後方部痛が多く認められる。これらは第2肩関節や臼蓋上腕関節での障害であり、肩甲胸郭関節での障害はあまり見られない。<BR> 今回、肩甲胸郭関節での障害と思われる広背筋部痛を訴えた野球肩を少数ではあるが経験した。その発生原因について、考察を加え報告する。<BR>【対象】<BR> 平成14年2月から15年10月までに、当院で野球肩と診断された60例のうち、広背筋部に疼痛を訴えた6例(10%)である。<BR>【理学的所見】<BR> 疼痛誘発投球相は信原分類のacceleration phase(以下A期)に全例認められた。圧痛部位は肩甲骨下角部周辺の内側~外側にかけてに位置する広背筋最上方線維部であった。また疼痛の出現の仕方は、脱力を伴うような鋭い痛みであった。3rd内旋可動域低下は全例に認められた。MMT3以下の僧帽筋筋力低下は中部線維が3例、下部線維が全例であった。投球フォームの特徴として肘下がりは2例と特に多いとは言えず、A期で肘が先行するタイプが4例と多かった。<BR>【考察】<BR> 信原は、「広背筋に攣縮が起きると肩甲骨の外転や肩関節外転・外旋が制限され、肘下がりなど投球動作に支障を来すもの」を広背筋症候群とし、rotator interval損傷やimpingementなどの二次的障害を惹起する可能性を指摘しているが広背筋部痛に対する詳細な説明はない。<BR> 広背筋の最上方線維は、肩甲骨下角部をpulleyのようにして外上方への急な走行変化を生じている。今回、広背筋部痛を訴えた選手は全例A期に疼痛が見られた。A期で肩甲骨が上方回旋する際に肩甲骨下角部で広背筋上方線維をfrictionし、筋挫傷を生じさせることが疼痛の原因と考えられた。今回の症例のほとんどが3rd内旋可動域の低下及び僧帽筋の筋力低下を認められたことから、A期において3rd内旋可動域低下が早期に過剰な上方回旋を、僧帽筋の筋力低下が肩甲骨上方回旋に伴う過剰なprotractionを引き起こしたものと思われる。そのため下角部の外上方移動が通常より大きくなり広背筋上方線維へのより大きなfrictionにつながったものと考えられた。<BR> 肩甲骨下角部周辺は広背筋以外にも大菱形筋、大円筋、前鋸筋などが存在し、疼痛は短時間で鋭く発生するため部位の特定がしづらく、当初は治療に難渋した。現在は、広背筋のリラクゼーション、僧帽筋の筋機能改善、肩下方軟部組織の伸張性獲得などを目的に治療を行い、良好に改善が認められている。
著者
川副 巧成 山内 淳 松尾 亜弓 松本 真一郎 古名 丈人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.E1081, 2007

【目的】効果的な認知症予防を行う為には,認知機能低下の兆候を早期に発見することが重要である.認知機能の低下は,感覚入力から情報統合を経た意識的出力(以下,パフォーマンス)に大きな影響をおよぼすと想定でき,早期発見の為には,パフォーマンスに対する現場の気づきが重要である.そこで本研究では,マシンを使用した運動器の機能向上プログラムに参加する高齢者を対象に,定期的に認知機能及び運動器機能に関する評価を行い,認知機能の状態とパフォーマンスの関係から,認知機能低下を示す兆候について検討した.<BR>【方法】リエゾン長崎およびデイサービスくぬぎ(橡)の利用者で,同デイサービスのマシンを使用した筋力向上トレーニングに週1回以上の頻度で参加している要支援・要介護高齢者83名を対象とした.平成18年4月から10月まで,3ヶ月毎に3回の評価を実施した.評価内容は,属性,および認知機能の指標としてMini- Mental State (以下,MMS)とFrontal Assessment Battery (以下,FAB),運動器機能の指標はバランス,巧緻性,粗大筋力,歩行能力とした.その後,対象者の6ヶ月間の認知機能評価の経過から,6ヶ月後の得点が維持・向上された群と,初期評価の値より低位にある群の二群に分割し,認知機評価の得点の経時的変化について検討を行った.さらに,認知機能評価の結果で分類した二群について,各運動器評価項目の経時的変化の差を検討した.<BR>【結果】83名の対象の内,上記の運動器評価が適切に行え,平成18年10月までに3回の評価を終えた方は46名.男性23名,女性23名,介護度は要支援1から要介護3までで,平均年齢は77.4±7.1歳であった.また,MMS得点の経過で6ヶ月後の得点が維持・向上した方は39名(以下,維持・向上群),初期評価の値より低位にあった方が7名(以下,低位群)であった.維持・向上群の平均得点の推移は24.8±3.1点→25.7±2.9点→27.2±2.1点,低位群は23.1±3.8点→21.5±3.6点→20.8±4.2点で,二群ともに3ヶ月後,6ヶ月後のMMS得点に有意差を認めた.さらに,3ヶ月後,6ヶ月後のMMS得点の結果から二群間にも有意差を認めた.次に,運動器評価の各項目を二群間で比較したところ,リーチテストで維持・向上群が16.7±7.5cm→18.8±7.6cm→23.2±7.7cm,低位群が12.3±5.0cm→10.3±6.3cm→15.1±5.5cm,6m歩行の歩数で維持・向上群が14.1±3.3歩→12.7±2.5歩→13.6±3.3歩,低位群が18.0±7.2歩→18.0±6.6歩→17.4±5.5歩と,この二項目において二群間に有意差を認めた.<BR>【考察】今回の結果は,認知機能低下の「兆し」が,バランス機能や歩数で表出される可能性を示唆した.本研究の低位群においては,運動介入後,運動器機能の向上が認められつつも,実際のパフォーマンスの安定に結びつかない状況にあり,認知機能の低下が要因となり,感覚入力から情報統合を経た意識的出力に不具合を来していると推察された.<BR>
著者
深木 良祐 髙田 雄一 奥村 宣久 松岡 審爾 内山 英一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102091, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに,目的】 ヒトの立位バランス能力は生活を営む上で重要な能力の一つである.転倒の要因には筋力や協調性などの運動要因,深部覚や視覚・聴覚などの感覚要因,注意や意識や学習などの高次脳機能要因,床や照明や障害物などの外的環境要因があるが,立位バランスにはこれらが大きく影響していると考えられる.外的環境要因への介入に,インソール療法があげられるが,近年,立方骨サポート理論を基に作成されたBMZ社製インソール(以下BMZ)が注目されている.しかし,既存のインソールとBMZについて重心動揺を比較している研究はない.よって本研究の目的では,平地及び片斜面上でのインソールなし時,既存のインソール(インパクトトレーディング社製インソール 以下SUPER feet),BMZについて重心動揺を計測し,効果を明らかにすることとした.【方法】 対象者は足部形状に問題のない(以下通常足)学生20名(男性10名,女性10名),足部扁平足(以下扁平足)の学生20名(男性10名,女性10名)の計40名(身長164.4±8.2cm,体重56.8±7.9kg,靴のサイズ25.2±1.1cm)とし,扁平足の分類にはbony arch index(以下BAI)を用いた.計測には多目的重心動揺計測システムzebris(インターリハ株式会社製)を平地と右片斜面(15度の傾斜台)で計測した.紐なし運動靴でインソールなし,SUPER feet,BMZの総軌跡長と外周面積を計測し3条件で比較した.計測肢位は足間を10cm広げた立位とし,目線上に設置したマークを注視させた.計測は平地,片斜面の順とし,インソールの順はランダムとした.計測時間はそれぞれ30秒とし,条件変更の際1分間の休息を与えた.計測回数は各3回とし,平均値を解析に用いた.各条件での3回の測定値の平均を代表値とし,統計ソフトIBM SPSS statistics Version 19による,2要因に対応があり,1要因に対応のない3元配置分散分析を行い,各統計処理の有意水準は5%とした.【倫理的配慮,説明と同意】 全対象者に対して,事前に書面および口頭で本研究の方法と目的を説明し,研究協力の同意を得た上で実施した.【結果】 総軌跡長では,平地時,通常足でインソールなしは381.0±73.5mm,SUPER feetは365.8±76.2mm,BMZは369.1±73.5mmであり,扁平足でインソールなしは449.2±60.1mm,SUPER feetは412.2±57.9mm,BMZは417.6±73.5mmであった.片斜面時,通常足でインソールなしは1038.2±231.0mm,SUPER feetは1090.0±345.0mm,BMZは1001.4±240.3mmであり,扁平足でインソールなしは1150.9±308.4mm,SUPER feetは1168.5±434.1mm,BMZは1069.8±287.0mmであった.平地と片斜面で有意差が認められたが,インソールと足部環境の間に交互作用が発生した.平地では普通足,扁平足ともにインソールなしと比較し,SUPER feet,BMZ挿入後に有意に減少した(P<0.05).また,片斜面ではインソールなし,SUPER feetと比較し,BMZで有意に減少した(P<0.05).外周面積では,平地時,通常足でインソールなしは72.7±31.0mm²,SUPER feetは71.5±38.6mm²,BMZは82.4±51.1mm²であり,扁平足でインソールなしは103.3±56.5mm²,SUPER feetは91.1±40.0mm²,BMZは99.8±52.8mm²であった.片斜面時,通常足でインソールなしは108.6±70.4mm²,SUPER feetは118.6±109.1mm²,BMZは107.0±76.1mm²であり,扁平足でインソールなしは139.1±70.2mm²,SUPER feetは131.2±88.6mm²,BMZは133.0±71.5mm²であった.平地,片斜面ともにインソール挿入による有意差は認められなかった.【考察】 総軌跡長において,先行研究より内側縦アーチへの適度な圧が平地での重心動揺を小さくするという報告がある.内側縦アーチをサポートするSUPER feetではこれにより総軌跡長が有意に減少したと考える.しかしBMZは3つの足部アーチを1つの連動した足ドームとして捉え,これを支えている立方骨を支持する.よってSUPER feetの挿入による平地での重心動揺が安定した機序とは異なる影響である.片斜面ではインソールなし,SUPER feetと比較し,BMZで有意に減少した.SUPER feetでは片斜面に対して下方の足は足部回外がさらに増加するため,不安定になるのに対し、BMZではSUPER feetと比較し足部のアライメントをより中間位に保持できたものと考えられる.今後インソール挿入後のアライメントの変化についても検討する必要がある.【理学療法学研究としての意義】 本研究より,BMZには不整地における重心動揺距離のコントロールを容易にする効果が示唆された.
著者
徳永 由太 高林 知也 稲井 卓真 中村 絵美 神田 賢 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-106_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】膝関節周囲の悪性腫瘍による大腿四頭筋の広範囲切除によって膝関節伸展筋力は大幅に低下し,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作に影響を及ぼすことが報告されている.一般的には,大腿四頭筋が膝関節伸展作用を発揮すると考えられているが,一部の先行研究ではハムストリングス(HAM)が膝関節伸展作用を発揮する可能性が提示されている.しかし,どのような姿勢でHAMが膝関節伸展作用を発揮するのかは明らかとなっていない.そこで本研究は,数理モデルを用いてHAMが膝関節伸展作用を発揮できる姿勢を明らかすることを目的とした. 【方法】身長1.8 m,体重80 kgの対象者を仮定し,体幹,大腿,下腿から構成される矢状面リンクモデルを構築した. HAMの膝関節屈曲および股関節伸展モーメントアーム(MA)はOpenSimのGait2392モデルで報告されており,HAMの筋張力を決定すれば,HAMによる膝関節屈曲および股関節伸展モーメントは一意に決定できる.本研究では10Nmの膝関節屈曲モーメントが発揮されるようにHAMの筋張力を設定した.膝関節を屈曲0度~90度,股関節を伸展30度~屈曲90度の範囲内で変位させ,順動力学シミュレーションを実施した.なお,純粋なHAMの作用を確認するため重力の影響がない姿勢を仮定した.HAM機能の判定には,シミュレーション開始時と終了時の膝関節屈曲角度の差を用いた.先行研究において,HAMが膝関節伸展作用を発揮するためには,HAMの股関節伸展MAが膝関節屈曲MAに比較して大きい必要があると報告されている.そのため,股関節伸展MAを膝関節屈曲MAで除した値(MA比)も算出した.上記の解析はScilab 6.0.0によって実施した. 【結果】HAMは膝関節屈曲7~0度かつ股関節屈曲2~62度(条件1),膝関節屈曲44~90度かつ股関節伸展30~屈曲50度(条件2),の2つの条件下で膝関節伸展作用を発揮した.条件1では膝関節角度が小さいほど,条件2では膝関節屈曲角度が大きいほど膝関節伸展作用が強くなる傾向にあった.また,MA比が大きい場合でも,HAMが膝関節伸展作用を発揮しないこともあった. 【考察】本研究の結果より,HAMの膝関節伸展作用の発揮はMA比の大小だけでは説明できないことが明らかとなった.先行研究において,筋の力学的作用はリンクシステムの姿勢により変化することが報告されている.本研究においても,姿勢の影響によりHAMの力学的な作用が修飾されている可能性が考えられた. 【結論】本研究は2つの条件下においてHAMが膝関節伸展作用を発揮する可能性を提示した.この結果から考えると,条件1・2におけるHAMの膝関節伸展作用をうまく活用することが出来れば,大腿四頭筋の機能不全を有する者であっても,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作を円滑に遂行できる可能性が考えられた. 【倫理的配慮,説明と同意】本研究は数理モデルを用いた順動力学シミュレーションによる検証のため,倫理的配慮および説明と同意に該当する内容は含んでない.数理モデルに必要なパラメータは先行研究で報告されたものや既存のモデルを参照しているため,個人を特定する内容は含まれていない.
著者
片山 訓博 大倉 三洋 山崎 裕司 重島 晃史 藤本 哲也 藤原 孝之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb1236, 2012

【はじめに】 標高1000~3000mに居住する高地住民には,冠心疾患や高血圧症などの発生率が低く,長寿者が多いことが知られている.また,高地トレーニングが脂質糖質代謝の改善に有効なことが指摘されている.しかし,高地トレーニングや低圧低酸素環境下でのトレーニングを実現することは物理的,経済的に極めて困難である.また,低酸素環境における高強度のトレーニングは,重度の低酸素血症を誘発する可能性が高い.心疾患や肺疾患を合併することが少なくない中高年者の生活習慣病予防を目的とした運動としてはリスクが高い.近年,比較的簡易な装置を用いて常圧環境下で低酸素環境を作り出すことが可能となっている.もし,常圧の低酸素環境によって運動時のエネルギー代謝に好影響が与えられるとすれば,効果的なトレーニング環境が容易に実現できる可能性がある.本研究では,常圧低酸素環境における低強度運動時のエネルギー代謝応答を測定し,運動療法施行時の環境としての有用性について検討した.【方法】 対象は健常成人男性13名で平均年齢21.2(20―22歳),平均身長168.8±4.7cm,平均体重62.6±5.1kg,平均体表面積1.72±0.08m2であった.被験者は前日の夕食以降絶食として翌日の午前中に測定を実施した.研究の条件は,研究の条件は,常圧下での低酸素濃度環境(以下,低酸素)(酸素濃度14.5%,0.7atm,高度3,000m相当)および通常酸素濃度環境(以下,通常酸素)(酸素濃度20.9%,1.0atm)とした.低酸素は,藤原らの特許を用いた塩化ビニール製テント(容積4.0m3)と膜分離方式の高・低酸素空気発生装置(分離膜:宇部興産製UBEN2セパレーター,コンプレッサー:アネスト岩田製SLP-22C)を用いて設定した.各条件での測定は,先ず通常酸素条件で行い,その後1週間の間隔を設けて低酸素条件で実施した.両条件とも30分間の安静椅子座位後,嫌気性代謝閾値(以下,ATポイン)の70%定量負荷による自転車エルゴメータ運動(回転数は55回/分)を30分実施した.呼気ガス分析は,エアロモニター(AE-300Sミナト医科学製)を用いた.各データは安静開始から終了まで1分間隔で測定し,5分間毎の平均値で比較検討した.NU(尿中窒素排出量/分)は0.008g/分で一定とした.LOR(mg)=1.689×(VO2-VCO2)-1.943×NU,GOR(mg)=4.571×VCO2-3.231×VO2-2.826×NUで得られたLOR,GORは体表面積で補正した.統計学的手法は,Willcoxonの符号付順位和検定を用い,有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,研究の主旨・内容および注意事項について説明し,同意を得たのちに実験を開始した.【結果】 被検者のATポイント70%における自転車エルゴメータの負荷量は,47.5±5.3wattであった.LORは,すべてのstageにおいて低酸素条件より通常酸素条件が有意に高値を示した(p<0.05).GORは,運動時全てのstageにおいて低酸素条件が通常酸素条件より高値を示した(p<0.05).低酸素条件における運動時GORは通常酸素条件よりも平均で191.1mg/min/m2大きく,逆に運動時LORは,低酸素条件で平均37.5mg/min/m2小さかった.【考察】 低常圧低酸素環境への暴露後の運動が呼吸循環代謝応答に与える影響について分析した.GORは,stageにおいて低酸素条件が通常酸素条件より高値を示した.高地環境における低酸素血症では,ミトコンドリア内では有機的解糖が阻害されるため,ミトコンドリア脱共役タンパク質の減少で代償が図られる.それとともに,嫌気的解糖によるATP合成効率を増やしてATP不足を補う結果,グルコース利用が増加し,血糖値が低下する.結果として,インスリン分泌も低下し,インスリン感受性の改善がもたらされることが報告されている.今回の常圧低酸素環でも同様の効果によりグルコースが多く利用されたと考えられる.低酸素条件におけるGORは30分間の運動中平均は191.1mg/min/m2通常酸素条件よりも大きく,これは通常酸素条件のGORの27.5%に相当した.このことは今回の常圧低酸素設備でも,糖質利用が促進されることを示している.よって,常圧低酸素環は糖質代謝を促進する必要のある対象者にとって有益なトレーニング環境となる可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 低圧低酸素環境では,安静時代謝の亢進および脂質代謝が改善され,より効果的な減量が可能であると報告されている.常圧低酸素環境においても同様の効果が生じる可能性が示唆され,生活習慣病や減量を目的とした理学療法を施行する時の環境として利用できると考える.
著者
本村 芳樹 建内 宏重 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】筋活動バランスの観点から,股関節疾患患者などでは大殿筋に対するハムストリングスの優位な活動などの筋活動不均衡がみられることが多く,また,変形性股関節症患者では大殿筋下部線維の優位な筋萎縮などの不均一な筋萎縮も報告されている。したがって,それらを改善するためには筋の選択的トレーニングが重要であるが,ハムストリングスと大殿筋,さらに大殿筋の上部・下部線維について,種々の運動時の筋活動バランスを調査した報告は少ない。本研究の目的は,トレーニングとして多用される股伸展運動とブリッジ運動を対象として,ハムストリングスと大殿筋上部・下部線維の筋活動バランスを分析し,筋が選択的かつ効果的に活動する運動を明らかにすることである。【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患を有さない健常男性19名とした(年齢21.8±1.4歳)。課題は,腹臥位右股伸展(股伸展)と右片脚ブリッジ(ブリッジ)とした。股伸展では,ベッドの下半身部分を30°下方に傾斜させて骨盤をベルトで固定し,右股関節のみ伸展0°位(内外転,内外旋中間位),右膝屈曲90°位で保持させた。条件は,抵抗なし,外転抵抗(3 kg),内転抵抗(3 kg)の3種類とした。外転および内転抵抗は,伸張量を予め規定したセラバンドを用いて,両側の大腿遠位で外側および内側から抵抗を加えた。ブリッジでは,両上肢を胸の前で組み,両股伸展0°位(内外転,内外旋中間位)かつ右膝屈曲90°位,左膝伸展0°位で保持させた。条件は股伸展と同じく,抵抗なし,外転抵抗,内転抵抗の3種類とした。各課題について,測定前に十分に練習を行った。測定には,Noraxon社製表面筋電計を用いた。測定筋は,右側の大殿筋上部線維(UGM),大殿筋下部線維(LGM),大腿二頭筋長頭(BF),半腱様筋(ST)とした。各筋とも,各課題中の3秒間の平均筋活動量を求め,各筋の最大等尺性収縮時の筋活動量で正規化した。本研究では先行研究を参照し,二筋の筋活動量の比と分子となる筋の筋活動量との積を算出し,筋活動バランスと定義した。まず,正規化した筋活動量を用いて,UGMとLGMの筋活動量の和をGmax,BFとSTの筋活動量の和をHamとしてGmax/Ham(G/H)の比を,またUGM/LGM(U/L),LGM/UGM(L/U)の各比を算出し,それらと筋活動量との積として,Gmax×G/H(G<sup>*</sup>G/H),UGM×U/L(U<sup>*</sup>U/L),LGM×L/U(L<sup>*</sup>L/U)を算出した。股伸展とブリッジの計6課題(全て股伸展0°,膝屈曲90°)について,上記の各変数の課題間の差を対応のあるt検定およびShaffer法による修正を行った。【結果】筋活動量としては,UGMでは,股伸展・外転が他の課題より有意に大きく,股伸展・内転が最も筋活動量が小さい傾向にあった。LGMでは,股伸展・外転がブリッジ・内転より有意に大きかったが,その他の課題間では有意差は認めなかった。BF,STについては,どちらも股伸展の3課題に比べブリッジ3課題がいずれも有意に大きかった。筋活動バランスとしては,G<sup>*</sup>G/Hは,股伸展・外転のみがブリッジ3課題より有意に高かった。U<sup>*</sup>U/Lはブリッジ・抵抗なしよりも股伸展・外転およびブリッジ・外転が有意に高かった。また,L<sup>*</sup>L/Uは股伸展・内転とともに股伸展・抵抗なしも他の課題よりも有意に高値を示す傾向にあったが,この両者の間では有意差は認めなかった。【考察】本研究で用いた指標である筋活動バランスが高い課題は,比が高くかつ筋活動量も大きい運動を示している。6課題の中では,ハムストリングスに対する大殿筋の選択的トレーニングとしては,股伸展・外転が最も効果的と考えられる。大殿筋上部線維については,股伸展,片脚ブリッジともに外転抵抗での運動が効果的であると考えられる。一方,大殿筋下部線維は,筋活動量としては股伸展・外転が大きかったものの,筋活動バランスとしては,股伸展・内転や股伸展・抵抗なしが高値を示した。これらの運動では,大殿筋上部線維の筋活動が大きく減少したためと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,筋活動量の比と筋活動量の積から算出される筋活動バランスを分析することによって,ハムストリングスと大殿筋,そして大殿筋上部・下部線維を選択的にトレーニングするための重要な知見を提供するものである。
著者
吉岡 佑二 南角 学 伊藤 太祐 中村 孝志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A4P2081, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】股関節外転筋群は骨盤の安定性に関して重要な役割を果たし、歩行能力を左右する。股関節外転筋力が低下する代表疾患として変形性股関節症が挙げられるが、臨床現場においてはこういった股関節疾患の患者に対して背臥位での股関節外転運動により筋力トレーニングを行うことがある。同時に変形性股関節症患者で骨盤アライメント異常を呈している場合では、背臥位での股関節外転運動をスムーズに行えない症例を経験する。しかし股関節外転運動についての過去の研究では、股関節外転角度や屈曲角度の違いが股関節周囲筋の筋活動に及ぼす影響を検討したものが中心であり、骨盤肢位が股関節周囲筋の筋活動にどのような影響を及ぼすかは不明な点が多い。本研究の目的は、背臥位での骨盤肢位の違いが、股関節外転運動における発揮筋力および下肢と体幹の筋活動に与える影響を明らかにすることである。【方法】対象は健常成人男性14名(平均年齢24.0±2.8歳)とした。測定肢位は安静背臥位を骨盤中間位とし、その肢位からの骨盤最大前傾位、最大後傾位の3条件とした。骨盤前傾には硬性スポンジを腰仙椎部に、後傾には仙尾椎部に挿入することで傾斜角度を調節した。それぞれの骨盤肢位において、一側下肢を股関節0度外転位から股関節外転の最大等尺性収縮を5秒間行わせ、そのときの発揮筋力および下肢と体幹筋の筋活動を測定した。股関節外転の最大等尺性収縮時の発揮筋力は、徒手筋力計(日本メディックス社製)を用いて測定し、抵抗位置は足関節の外果とした。大転子から外果までの距離を測定し、筋力値はトルク体重比(Nm/kg)にて算出した。筋電図の測定に関しては、測定筋を大腿直筋(RF)、大腿筋膜張筋(TFL)、中殿筋(Gm)の中部線維、腰部脊柱起立筋(LES)とし、表面筋電図計Data LINK(Biometric社製)を使用した。筋電図の波形処理は、測定した生波形から安定した3秒間を二乗平均平方根により平滑化し、各筋の最大等尺性収縮(MVC)時の筋活動を100%として各測定値を正規化し、%MVCを算出した。統計学的分析には反復測定一元配置分散分析と多重比較法を用い、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】各対象者には、本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し、参加の同意を得た。【結果】股関節外転運動時の筋力値は骨盤中間位で2.42±0.33Nm/kg、前傾位で2.13±0.27Nm/kg、後傾位で2.02±0.20Nm/kgであり、多重比較の結果、骨盤前傾位、後傾位のいずれも中間位に比べ有意に小さい値を示した。各筋の筋活動については、RFの%MVCは骨盤中間位で76.4±42.1%、前傾位で54.7±29.4%、後傾位で70.0±37.5%であり、骨盤前傾位では他の2条件に比べ有意に小さい値を示した。TFLの%MVCは骨盤中間位で99.2±36.8%、前傾位で84.6±36.0%、後傾位で96.7±44.2%であり、骨盤前傾位では中間位に比べ小さい傾向を示した(p=0.08)。Gmの%MVCは骨盤中間位で64.2±15.8%、前傾位で66.7±15.2%、後傾位で53.9±19.4%であり、骨盤後傾位では他の2条件に比べ有意に小さい値を示した。LESの%MVCは骨盤中間位で34.3±18.0%、前傾位で37.8±23.9%、後傾位で24.1±16.6%であり、骨盤後傾位では他の2条件に比べ有意に小さい値を示した。【考察】骨盤前傾位ではTFLが短縮位となることで股関節外転運動時のTFLによる筋出力が低下し、骨盤後傾位ではGmの中部線維が短縮位となることで股関節外転運動時のGmによる筋出力が低下すると考えられる。これらのことが要因となり、骨盤前傾、後傾位での股関節外転運動における発揮筋力は、骨盤中間位と比較して有意に低い値を示したと考えられた。以上から、背臥位での骨盤肢位により股関節外転に作用する筋群の走行が変化し、これが股関節外転筋の筋活動に影響を及ぼすことで発揮できる筋力にも関与することが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から、骨盤のアライメント異常がある股関節疾患患者に対してより効率的な股関節外転筋の筋力トレーニングを行うには、骨盤肢位を考慮することが重要であることが示唆され、本研究は理学療法学研究として意義のあるものと考えられた。