著者
李 成喆 島田 裕之 朴 眩泰 李 相侖 吉田 大輔 土井 剛彦 上村 一貴 堤本 広大 阿南 祐也 伊藤 忠 原田 和弘 堀田 亮 裴 成琉 牧迫 飛雄馬 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0161, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年の研究によると,心筋こうそく,脳卒中など突然死を招く重大な病気は腎臓病と関連していることが報告されている。クレアチニンは腎臓病の診断基準の一つであり,血漿Aβ40・42との関連が示されている。また,糖尿病を有する人を対象とした研究ではクレアチンとうつ症状との関連も認められ,うつ症状や認知症の交絡因子として検討する必要性が指摘された。しかし,少人数を対象とした研究や特定の疾病との関係を検討した研究が多半数であり,地域在住の高齢者を対象とした研究は少ない。さらに,認知機能のどの項目と関連しているかについては定かでない。そこで,本研究では地域在住高齢者を対象にクレアチニンが認知機能およびうつ症状とどのように関連しているかを明らかにし,認知機能の低下やうつ症状の予測因子としての可能性を検討した。【方法】本研究の対象者は国立長寿医療研究センターが2011年8月から実施した高齢者健康増進のための大府研究(OSHPE)の参加者である。腎臓病,パーキンソン,アルツハイマー,要介護認定者を除いた65才以上の地域在住高齢者4919名(平均年齢:72±5.5,男性2439名,女性2480名,65歳から97歳)を対象とした。認知機能検査はNational Center for Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Tool(NCGG-FAT)を用いて実施した。解析に用いた項目は,応答変数としてMini-Mental State Examination(MMSE),記憶検査は単語の遅延再生と物語の遅延再認,実行機能として改訂版trail making test_part A・B(TMT),digitsymbol-coding(DSC)を用いた。また,うつ症状はgeriatric depression scale-15項目版(GDS-15)を用いて,6点以上の対象者をうつ症状ありとした。説明変数にはクレアチニン値を3分位に分け,それぞれの関連について一般化線形モデル(GLM)を用いて性別に分析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の主旨・目的を説明し,書面にて同意を得た。【結果】男女ともにクレアチニンとMMSEの間には有意な関連が認められた。クレアチニン値が高い群は低い群に比べてMMSEの23点以下への低下リスクが1.4(男性)から1.5(女性)倍高かった。また,男性のみではあるが,GDSとの関連においてはクレアチニン値が高い群は低い群に比べてうつ症状になる可能性が高かった1.6倍(OR:1.62,CI:1.13~2.35)高かった。他の調査項目では男女ともに有意な関連は認められなかった。【考察】これらの結果は,クレアチニン値が高いほど認知機能の低下リスクが高くなる可能性を示唆している。先行研究では,クレアチニン値は血漿Aβ42(Aβ40)との関連が認められているがどの認知機能と関連があるかについては確認できなかった。本研究では先行研究を支持しながら具体的にどの側面と関連しているかについての検証ができた。認知機能の下位尺度との関連は認められず認知機能の総合評価指標(MMSE)との関連が認められた。しかし,クレアチニンとうつ症状においては男性のみで関連が認められたことや横断研究であるため因果関係までは説明できないことに関してはさらなる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】老年期の認知症は発症後の治療が非常に困難であるため,認知機能が低下し始めた中高齢者をいち早く発見することが重要であり,認知機能低下の予測因子の解明が急がれている。本研究ではクレアチニンと認知機能およびうつ症状との関連について検討を行った。理学療法学研究においてうつや認知症の予防は重要である。今回の結果は認知機能の低下やうつ症状の早期診断にクレアチニンが有効である可能性が示唆され,理学療法研究としての意義があると思われる。
著者
梶本 寿洋 長勢 大介 秦 菜苗 坂上 未咲 高橋 由依 安住 昌起 吉川 文博 高橋 光彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI1084, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 ブリッジ動作は臨床で頻繁に使用される一般的な理学療法プログラムのひとつである。これまで下肢の肢位や負荷条件の違いによる検討が多数報告されているが、十分に解明されているとは言えない。両脚・片脚にて膝屈曲70~130°の角度変化では膝屈曲角度が増すにつれて大殿筋の筋活動量は増加し、ハムストリングス(Ham)では減少したとされる。膝屈曲の参考可動域は130°とされるが、実際にはさらに屈曲可能である。今回、参考可動域以上に膝を屈曲した場合のブリッジ動作を筋電図学的に検討し、筋力トレーニングとして有効かを検討した。【方法】 対象は健常成人男性8名で、平均年齢25.5歳、平均身長172.6cm、平均体重65.8kgである。試行動作は、両脚膝屈曲130°位ブリッジ動作(両膝130°)、両脚膝屈曲150°位ブリッジ動作(両膝150°)、片脚膝屈曲130°位ブリッジ動作(片膝130°)、片脚膝屈曲150°位ブリッジ動作(片膝150°)の4種目で、終了姿勢は股関節伸展0°位とした。 筋活動量は表面筋電計を用いて計測し、大殿筋(GM)、大腿二頭筋(BF)、半腱様筋(ST)、脊柱起立筋(ELS :L4レベル)、中殿筋(Gm)、外側広筋(VL)の計6筋から導出した。測定は終了姿勢で3秒間の筋電図測定を各3回実施し、計測開始から2秒間の筋電積分値(IEMG)を算出し3回の平均値を求めた。また、徒手筋力検査法における正常段階でのIEMGで正規化し、各筋の%IEMGを求めた。統計学的処理は一元配置分散分析後に多重比較を行い、有意水準を5%未満で検討した。【説明と同意】 対象者には本研究の趣旨および目的を説明し、同意を得て行った。【結果】 筋活動量は、GMで両膝130°・150°、片膝150°で21.5%・21.2%、22.2%であった。片膝130°は47.5%とその他と比べ有意に増加した。BFは両膝130°・150°で18.5%・12.3%、片膝130°・150°は37.3%・32.8%であり、両脚・片脚ともに130°に比べ150°で活動量が低かった。また、両膝130°と片膝130°、両膝150°と片膝130°・150°に有意差を認め、両脚ブリッジ動作に比べ、片脚ブリッジ動作が有意に高値を示した。STでは両膝130°・150°は14.5%・9.3%、片膝130°・150°は24.9%・21.6%であり、BFと同様に両膝150°に比べ、片脚でのブリッジ動作が有意に高値を示した。ELSの筋活動量は60.5%~63.6%間で、全てで有意差はなかった。Gmは両膝130°・150°は19.8%・14.8%、片膝130°・150°は50.6%・54.5%で両脚ブリッジ動作に比べ、片脚ブリッジ動作が有意に高値を示した。VLでは両膝130°・150°は5.1%・15.0%、片膝130°・150°は24.3%・65.7%で片膝150°が両膝130°・150°に比べ有意に高値を示した。【考察】 膝の角度変化と作用する筋に特異性が認められた。片膝130°はGMが他の肢位に比べ有意に増加したが、片膝150°では増加しなかった。このときVLで筋活動量が増加した。膝屈曲130°位では下腿長軸が頭側へ傾斜し、ブリッジ活動で足底を床に押し付けるとHamによる膝屈曲が生じる。これに対し、膝屈曲150°位では足部が殿部に近づき下腿長軸が尾側へ傾斜する為、膝においては大腿四頭筋による膝伸展が生じる。このことから膝屈曲130°と150°では主動作筋と拮抗筋が逆転する現象が起こり、目的動作の遂行に対する運動特性が変化すると考える。 ELSは両脚・片脚の膝屈曲70~130°で、膝の角度変化はGMとHam間で比率が変化し、体幹筋活動に影響しないとされる。今回の結果も60.5%~63.6%の範囲で同様の結果が得られた。両膝90°でELSは37.7%MVCであったと報告がある。筋電位と発揮筋力には直線関係があり、30~40%MVC負荷で筋力増強が得られるといわれる。ELSは膝の角度に影響されず、臥床を強いられる術後や虚弱高齢者に対して簡便に行える筋力トレーニング方法と言える。 Gmは片脚で著しく増加し、骨盤固定に対する股内旋作用が高まった為と考える。股外転筋は骨盤の側方安定性に重要であり、高齢者の歩行安定性に関連がある。今回の結果では片脚で50.6%・54.5%であり股外転筋のCKC筋力トレーニングとして活用できると考える。【理学療法学研究としての意義】 片脚ブリッジ動作は膝を過度に屈曲するとGMの活動量が低下し、筋力増強としての負荷条件を満たせないことが示唆される。また、膝屈曲150°位ではVLの高い筋活動が観察され、床からの立ち上がりに必要となる膝深屈曲位からの膝伸展筋力トレーニングとして活用できる可能性を有している。ELSは膝屈曲角度に影響されず筋力増強の負荷が得られ、臥床を強いられる場合でも簡便な筋力トレーニングとして有用であると考える。
著者
増田 一太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】腰痛は,最も有訴者数の多い症状であり,社会的に大きな問題となっている。近年,大人だけでなく,子どもも痛発生位率が高いことが報告されている。自験例における小学5年生から高校3年生の1112名を対象としたアンケート調査において,子どもの腰痛発生率は12.5%であり,その内座位時に腰痛を有するケースは77.2%と運動時に腰痛を有するケースの63.2%より多く,座位時腰痛は子どもにとって大きな問題であるといえる。子どもの腰痛リスクの一つとして椅子に浅く腰掛けるなどの不良姿勢が報告されているが,体育座りに関する報告はない。そこで今回,子どもが学校生活で行う椅座位と体育座り時の脊椎アライメント変化をバイオメカニクス的に調査し腰痛リスクを考察したので報告する。【方法】脊椎・下肢疾患を有さない30歳以下の健常成人男性17名(年齢:24.6±3.1歳;身長173±5cm;体重:66.1±8.7kg)を対象とした。測定肢位は,椅座位と体育座りの2通り測定を行った。すべての肢位で5分間同一姿勢をとらせた後に20分間の測定を行った。脊椎カーブの経時的変化を調査するために,全身の解剖学的特徴点17点に加え,脊椎の第1,3,5,7,9,11,12胸椎棘突起,第1~5腰椎棘突起,第2,3仙椎の14点,計31点に反射マーカーを貼付し,それぞれの3次元座標値を16台のカメラを用い3次元モーションキャプチャシステムで計測した。データ処理は,測定開始から0~1分,4~5分,9~10分14~15分,19~20分に相分けした。その後,各相の各脊椎棘突起の座標をそれぞれ求め,平均座標を算出した。脊椎弯曲角度の算出方法は,得られた平均座標を基に当該椎体より上位2対と下位2椎をそれぞれ結んだ線の近似直線をそれぞれ求めた。得られた両近似直線の傾きを,ラジアン値から角度に変換し2つの角度の差を求める方法により第5,7,9,11,12胸椎角,第1,2,3,4,5腰椎角の平均値をそれぞれ算出した。各相の測定開始0~1分の値と各相の各脊椎弯曲角度との関係をピアソンの積率相関係数を用いて検定した。統計的有意水準は5%未満に設定した。【結果】椅座位は,測定開始4~5分間まで第11胸椎(21°)と第3腰椎(32.8°)を頂点,第12胸椎(7.5°)を底辺とした二峰性のカーブを呈していた。その後測定開始9~10分以降に第1腰椎(39.1°)を頂点とした一峰性のカーブへと推移した。第4腰椎角は,測定開始0~1分間の値6.3°と14~15分間の値3°と間に有意差を認めた(p<0.05)が,それ以外は認められなかった。体育座りは,時間の経過とともに最大後弯角度は低下するもの下位胸椎から全腰椎にまたがる緩やかな一峰性のカーブを描き続けた。脊椎アライメントのピークは測定開始14~15分間まで第2腰椎であった。各値は測定開始0~1分間は38°,4~5分間は37.1°,9~10分間は36°,14~15分間は41.8°であった。その後,測定開始19~20分間のピークを第3腰椎(37.4°)とした。体育座りにおける測定開始0~1分間と各相における有意な差は認められなかった。【考察】子どものライフスタイルは学校や下校後の学習活動など座位時間が圧倒的に多いのが特徴である。持続的な腰椎後弯ストレスは椎間板内圧の上昇をさせるだけでなく,終板軟骨障害を生じさせる可能性も報告されている。このように脊椎の後弯を伴った座位姿勢は,腰椎後方支持機構に過負荷を与え腰痛の引き金となる。今回得られた結果から,椅座位時の脊椎アライメントは,測定開始当初の二峰性のカーブから,測定開始9~10分以降の上位腰椎を頂椎とした一峰性のカーブへと変化している。椅座位は開始10分間以降,一峰性となり腰痛のリスクが上昇するものと考えられる。一方,体育座りは開始当初より上位腰椎のみ中心とした一峰性のカーブを描き続けており,測定開始当初より腰椎構成体への慢性的な負担が生じていると考えられる。その上,体育座りは姿勢の自由度も低く,椅座位と比較し腰痛リスクが高まりやすい姿勢である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】体育座りは日本の教育現場でしか行われていない特殊な座位法であり,バイオメカニクスの観点からの調査報告は行われていない。臨床においても座位時腰痛に対する理学療法を行う上での基礎的情報となるだけでなく,教育現場への啓蒙活動を行う上で必要不可欠な情報であり有益な報告であると考える。
著者
中村 恵理
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】先天性両側性傍シルビウス裂症候群は,シルビウス裂周囲の構造異常により,上肢優位の痙性麻痺や嚥下困難,てんかん発作,高次脳機能障害を併発する。先行報告では,運動発達遅滞は少なく,仮性球麻痺や言語発達遅滞が報告されている。確定診断例が全国で約500例と非常に稀であり,リハビリテーションの介入報告は皆無に等しい。今回,同症例が疑われる児をNICU入室時から外来フォローまで担当し,他職種間の連携を心がけた結果,哺乳・摂食機能,運動機能面に発達が認められたのでここに報告する。【症例提示】在胎40週3日,出生体重3685gにて出生した女児であり全身の低筋緊張を認め,特に頭頚部が著明であった。出生3週間後よりNICUにてリハビリを開始し出生2ヶ月で自宅退院,その後,当院で1回/月の外来リハを開始し,現在は療育センターでのフォローも行っている。【経過と考察】NICU介入時,頭頸部の低緊張の為,十分な体重増加の為の哺乳量を経口摂取で確保することが難しく経鼻栄養管理であった。哺乳時の姿勢検討や,舌への感覚刺激入力,抗重力活動の促しを図り,哺乳頻度の調節を行った。また,スタッフ間でのポジショニングの周知や,哺乳時間にNICUへ出向きDr.,Ns,STと共に児の自発的経口摂取獲得に向けて何度もディスカッションを行なった。退院時は経口摂取が可能となったが,その後経口摂取量が伸びず現在経鼻栄養である。外来フォロー時は,哺乳時の姿勢や抱っこの仕方を母親に指導した。1歳10ヶ月で寝返りを獲得し,2歳現在は未定頸,腹臥位ではon elbowsで頭頸部挙上し保持可能,座位では頭頚部正中位保持が困難である。離乳食は嫌がり吐き出してしまうが,少量の重湯であれば自ら開口し飲水でき,徐々に経口摂取が可能になってきている。NICUから広がったチームの輪は,児の成長とともに形を変え外来でのSTとの強固な連携,そして療育施設のスタッフとも結びつきながら現在に至っている。
著者
山田 将弘 江島 加渚 吉田 英樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F4P2305, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】直線偏光近赤外線(以下SL)の星状神経節照射は、副交感神経優位になると多々報告がされている。その反面あまり効果がないのではないかという報告もされている。そこで、SLの星状神経節近傍照射は副交感神経優位になるのかということ、さらに、SLの星状神経節近傍照射により副交感神経優位になるという仮説の元、睡眠を誘うか否かという2点を検討することを目的とした。【方法】SLの星状神経節近傍照射には、東京医研株式会社製スーパーライザー(HA-2200・TP1)を使用した。スーパーライザーの先端ユニットをSGユニット・照射モードをTミックスとし、身体に重篤な既往及び疾患のない健常成人25名(男性14名、女性11名、25.1±2.5歳)の星状神経節にSLを体表から10分照射を行った。自律神経機能評価にはフクダ電子株式会社製解析機能付きセントラルモニタ(ダイナスコープ7000シリーズ・DS-7600システム・DS-7640)を用いて、連続する100心拍の心電図R-R間隔変動係数(以下CVR-R)を計測した。対象者に対して、温度(26~27°C)及び湿度(50%前後)を可能な限り一定に保った室内にて、可能な限り交感神経の緊張状態を回避するために安静臥位での馴化時間を設定した。馴化時間については、17例を対象とした予備実験において10分の群と30分の群を比較した結果、明らかな違いは認められなかったので、10分を採択した。CVR-Rの測定は、馴化時間後のSL照射前と照射終了直後とし、両者の値を対応のあるt検定にて検討した。なお、統計学的検定での有意水準は5%未満とした。なお、対象者の内、男性3名、女性2名の計5名には、日本光電株式会社製脳波計(EEG-1714)を使用したSLの星状神経節近傍照射前後での脳波計測を実施し、睡眠段階判定を行った。睡眠段階の判定は医師が行い、睡眠段階判定の基準としては国際基準(Rechtschaffen&Kales,1968年)に基づき判定を行った。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究の目的と内容を事前に説明し、研究参加の同意を得て実施した。【結果】SLの星状神経節近傍照射前後でのCVR-Rの変化については、SLの星状神経節近傍照射前と比較して照射後にCVR-Rの上昇を示した例が13例、逆に低下した例が12例であり、SLの星状神経節近傍照射に伴うCVR-Rの変化パターンに一定の傾向は認められなかった(P=0.16)。一方、脳波計側によるSLの星状神経節近傍照射前後での睡眠段階の結果については、男性ではstage1からstageWへの変化例が1例、stage1からstageWへの変化例が1例、stageWから変化なしの1例となり、女性ではstage1からstage2への変化例が1例、stage1からstage3への変化例が1例であった。全体として、睡眠段階のstage変化なしが1例、低下が2例、上昇が2例であった。【考察】本研究では、SL照射は睡眠を誘うか否かを検討した。CVR-RについてはSLによる星状神経節刺激により、自律神経系に影響を及ぼすのではないかと思われたが、副交感神経優位となる傾向は見られなかった。これは、佐伯らの先行研究(2001)と同様の結果であった。本研究で対象とした若年健常例は、自律神経活動が正常と考えられるため、SLの星状神経節近傍照射により大きな影響を受けなかったことも考えられる。また、若年者では安静時交感神経活動が低いとされており、あまり効果が期待できないのではなかろうか。また、脳波計測によるSLの星状神経節近傍照射前後での睡眠段階の結果では、睡眠段階の変化なしが1例、stage低下が2例、上昇が2例となり、睡眠に効果があるとは言い難い結果となった。睡眠段階の判定を担当した医師の見解でも、SLの星状神経節近傍照射は睡眠に効果があるとは言い難い結果となった。しかし、睡眠段階については、女性2名中2名においてSLの星状神経節近傍照射に伴いstageが上昇していたことを考慮すると、性差による違いも考慮した更なる検討が今後必要と考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果を見る限り、SLの星状神経節近傍照射は、自律神経系への効果の面で疑問が残る。他の光線(レーザーやキセノン光)を用いた星状神経節近傍照射との比較研究や、効果の検証を進める必要があるのではなかろうか。その一方で、今回の結果は、女性に対するSLの星状神経節近傍照射が「睡眠への介入の可能性」という観点で、今後更なる検討の余地があることも示している。このことは、理学療法上、極めて意義深い示唆ではないかと考えられる。
著者
中野 圭介 増見 伸 中村 浩一 中野 吉英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1374, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】パルスオキシメーターは非侵襲性を特徴とし,簡易的にセンサーを装着するだけで,連続的かつリアルタイムに経皮的酸素飽和度(以下,SpO2)をモニタリングすることが可能である。センサーの種類には手指に装着する透過型の指尖部センサー,前額部に軽く圧迫を加え固定する反射型の前額部センサーなどがある。なかでも前者は,指先に装着できることから,一般・救急外来,集中治療室,手術室をはじめ,リハビリテーションの現場においても広く用いられている。しかし,手指の障害や体動が激しい場合などには,足趾に装着されるケースも少なくない。これまで,実際の患者での吸痰操作において前額部,耳朶,手指の順にSpO2が低下し,各装着部位で同様の変動傾向があったことを報告した研究はあるものの,足趾と他部位の関係性を検討した研究は我々が探索する限り見当たらない。そこで本研究では,まず手指と足趾におけるSpO2低下度合いの相違およびSpO2が最も低下するまでに要する時間差(タイムラグ)を比較検討し,さらに身体・検査データからSpO2測定に影響を及ぼす関連因子を検討することで,手指・足趾におけるSpO2測定の特性および有用性を明らかにすることを目的に実施した。【方法】対象は循環器障害および上下肢に形態的変化の既往が無い健常な男性33名とし,平均年齢27.0±2.9歳,身長171.8±10.6cm,体重66.2±3.4kgであった。すべての被験者は,ベッド上背臥位にて5分間の安静を行った後,最大呼気に引き続き30秒の息こらえを行った。その後,手指および足趾のSpO2を経時的に追い,最も低下した時点でのSpO2(以下,最低SpO2)および最大呼気終了後から最も低下した時点までに要した時間(以下,所要時間)を測定した。測定する手指および足趾は右側の第2指とし,測定機器にはPumoRi7165(ユビックス株式会社製)を用いた。なお,測定肢位は解剖学的肢位とし,室温を25℃,時間を健康診断直前に設定し,外光などにも注意を払った。身体・血液データは健康診断で得られた情報を基とし,血液通過時間に影響を与える因子である肥満度(身長・体重・BMI),血圧(収縮期血圧・拡張期血圧),赤血球変形(赤血球数・血色素量・赤血球容積),動脈硬化・高脂血症(総コレステロール・低密度リポたん白質・高密度リポたん白質・中性脂肪)を選択した。統計手法は最低SpO2,所要時間ついてPaired t-testを用いて比較検討した。さらに,最低SpO2および所要時間,身体・血液データについてPearsonの相関係数により検討した。なお,それぞれの統計学的処理について有意差の判定は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,全対象者に対して研究の主旨,内容について口頭および紙面にて十分に説明し,同意を得た上で研究を開始した。【結果】最低SpO2は手指89.3±4.9%,足趾90.8±5.6%,また所要時間は手指50.5±6.3秒,足趾62.9±10.1秒であった。手指と足趾の最低SpO2の比較において,有意差が認められず,手指と足趾における最低SpO2の相関では正の相関関係が認められた(r=0.80,p<0.001)。所要時間の比較において,足趾は手指と比べ有意に遅延していた(p<0.01)が,有意な相関関係は認められなかった(r=0.28,p>0.05)。手指所要時間と身体・血液データの相関において,手指所要時間は身長との間に正の相関関係(r=0.39,p<0.05)が認められ,血色素量・赤血球容積との間に負の相関関係(r=-0.42・r=-0.43,p<0.05)が認められた。【考察】手指と足趾における最低SpO2の比較では,有意差が認められず,手指と足趾の間に正の相関関係が認められた。このことから,足趾で測定する場合も手指測定と同様の結果が推測できるため,足趾測定における評価の有用性が示唆された。しかしながら,所要時間の比較において足趾は手指と比べて有意に遅延し,また有意な相関関係は認められなかったことから,足趾でのSpO2測定では,これら特性を考慮する必要がある。手指所要時間と身体・血液データの相関において,手指所要時間は身長との間に正の相関関係,血色素量・赤血球容積との間に負の相関関係が認められたことから,身長が高いほど,また血色素量・赤血球容積が低値であるほど,所要時間が遅延する可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は手指・足趾間におけるSpO2の有用性と関連因子について検討し,一定の見解を得ることができた。この結果をもとに,理学療法評価の一助となることを期待したい。
著者
工藤 慎太郎 中村 翔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】外側広筋(VL)の滑走性の低下は,膝屈曲可動域制限や,VLの伸張性の低下を惹起するため,臨床上問題となるが,その計測手法は確立されていない。一方,超音波画像診断装置(US)は,運動器の形態や動態を高い再現性のもと計測できる(佐藤,2015)。我々は膝自動屈曲に伴い,VLが後内側に滑走することを示している(中村,2015)が,この動態が筋の硬度や張力,疲労など,どのような要素を反映しているかは不明である。我々はVLの動態に合わせた徒手的操作により,VLの伸張性や圧痛と共に,筋の動態が改善することを明らかにしている(中村,2015)。そこでVLの動態には筋硬度や圧痛が関係していると仮説を立てた。本研究の目的はVLの膝屈曲運動時の動態が筋の柔軟性や圧痛を反映しているか検討することである。【方法】健常成人男性20名40肢(平均年齢20.0±2.3歳,身長167.4±5.8cm,体重59.9±6.9kg)とした。USにはMy-Lab25を用い,自動屈曲運動時のVLの後内側への変位量(VL変位量)を計測した。測定モードはBモード,リニアプローブを用い,腹臥位にて大腿中央外側にてVLと大腿二頭筋を短軸走査で確認し,プローブを固定した。膝関節完全伸展位から90度屈曲位までの自動運動中のエコー動画から,完全伸展位と90度屈曲位の画像を抽出しVL外側端が移動した距離をVL変位量としてImage-Jを用いて計測した。また筋硬度,圧痛を大腿中央外側にてそれぞれ筋硬度計,圧痛計を用いて計測した。さらに,自作した装置に徒手筋力測定器を設置し,膝他動屈曲時の抵抗力(以下,抗力)を測定した。VL変位量と筋硬度,圧痛,抗力の関係性を検討した。統計学的処理にはR2.8.1を使用し,Spearmanの順位相関係数(有意水準5%未満)を用いた。【結果】VL変位量と抗力はr=0.51と有意な相関関係を認めた。またVL変位量と筋硬度はr=0.71と有意な相関関係を認めた。一方,VLの動態と圧痛は有意な相関関係を認めなかった。【結論】本研究の結果,VL変位量はVLの筋硬度を反映するが,圧痛の程度は反映しないものと考えられた。抗力は筋の長軸上に発生する弾性力を示すのに対して,筋硬度計による計測は,筋以外の皮下組織や皮膚の硬度も反映する(Ichikawa, 2015)。我々の先行研究では,大腿外側の筋硬度計を用いた計測は,VLの硬度と相関を認めず,周囲の結合組織の硬度と相関を認めた(洞庭,2015)。つまり,大腿外側部の筋硬度計による硬度は皮下組織や外側筋間中隔などのVL周囲の結合組織の硬度を反映していると考えられる。筋周囲の結合組織は隣接する筋間との滑走性を保証する。すなわち,VL変位量はVLの硬度とともに,周囲組織との滑走性を反映するものと考えられた。蒲田らは筋間の滑走性の重要性を指摘しているが,定量的測定は困難であった。USによるVLの動態評価はVL周囲の滑走性を定量的に測定でき,今後の外傷予防や疼痛発生機序の解明に有効になる可能性がある。
著者
吉本 麻美 千葉 哲也 松井 理絵子 渡邉 真巨 五十嵐 麻子 酒匂 啓輔 谷口 亜図夢 戸田 雄 菊池 佑至 松原 正明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0350, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】近年人工股関節置換術(以下THA)施行後の治療プログラムは、早期離床、早期荷重に移行している。当院では、2週間プログラムを施行し、術後2日目より歩行練習を開始し、歩行自立とともにADL動作の自立を目標に行ってきた。ところで荷重能力の改善は歩行自立にあたり重要な因子と考えられる。今回、荷重能力と股関節外転筋力、歩行能力、ADL動作の関係を検討した。【対象】2003年1月より2004年9月までに当院にてTHAを施行した88例(両側同時THAを除く)を対象とした。平均年齢は63歳、男性6例、女性79例であり、平均体重は55.6kgであり、全例、術後2日目より全荷重が許可された。【方法】術前および術後7日目の荷重能力と股関節外転筋力を測定し、術後の歩行能力、ADL能力を評価した。立位にて術側足底に体重計を設置し、体重に対する比として荷重能力を測定し、背臥位における股関節外転筋の等尺性収縮による最大筋力(Nm/kg)を外転筋力として測定した。T字杖連続歩行400m、階段昇降、床上動作、正座動作、靴下着脱動作については、その自立達成までの日数を各々記録した。なお、荷重能力80%を概ね荷重が可能となった時期と判断し、術後7日目に荷重能力が80%以上となった群(以下、可能群)と80%以下の群(以下、不十分群)に分け、比較検討した。【結果】外転筋力は、不十分群0.28Nm/kgに比し、可能群0.45Nm/kgと有意に可能群で高値を示した(p<0.01)。また、術前の非術側筋力ならびに術側筋力に対する回復率はそれぞれ不十分群35%、53%に比し、可能群71%、85%であり、いずれも可能群にて有意に高い回復を示した(p<0.05)。T字杖歩行は、可能群9.3日、不十分群14.2日、階段昇降は、可能群9.7日、不十分群13日、床上動作は、可能群12日、不十分群15.9日、正座は、可能群11.8日、不十分群15.3日であり、可能群で有意に動作獲得までの期間が短かった(p<0.05)。しかしながら、靴下着脱動作は、可能群9.7日、不十分群10.7日であり、両群間に有意差は見られなかった。【考察】可能群では不十分群に比し、股関節外転筋力の回復が有意に早く、T字杖歩行達成までの期間も有意に短かった。歩行自立と外転筋力の回復が、股関節の安定性をもたらした結果、早期に階段昇降、床上動作、正座動作も可能となり、ADL動作の早期自立が達成できたと考えられる。靴下着脱動作については、荷重能力とは無関係に11日以内に可能となり、2週間プログラムに影響は及ぼさなかった。当院では2週間プログラムを施行してきたが、術後7日目で荷重能力が80%以上可能であれば、T字杖歩行とADL動作の自立が2週間プログラム内でほぼ達成できた。このことから、術後7日目での荷重能力は、T字杖歩行やADL動作自立が2週間以内に達成できる有効な指標の一つと考えられた。
著者
野澤 直也 中澤 裕貴 立部 将 畠田 将行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.E-139_2-E-139_2, 2019

<p>【はじめに・目的】</p><p> 回復期リハビリテーション病院(以下,回リハ病棟)の主たる目的に日常生活動作(以下,ADL)の再獲得がある。当院では各患者に対して入院時から10日毎に担当看護師が「しているADL」の評価としてFIMを採点し、平行して担当セラピストが「できるADL」の評価として原則とは異なるが同じFIMの基準で採点をしている。当院回リハ病棟退院時の脳卒中患者の「しているADL」と「できるADL」の差の実態把握を目的とした比較検討を行ったため、若干の考察を加え報告する。</p><p>【方法】</p><p> 対象は2018年1月から3月の間に当院回リハ病棟を退院した脳卒中患者69名のうち、急変に伴い転院となった3名を除く66名(男性36名、女性30名)とした。平均年齢は71.7±11.8歳、平均入院日数は94.9±43.8日、疾患は脳梗塞50名、脳出血13名、クモ膜下出血3名であった。退院時における「しているADL」と「できるADL」のFIMの点数を、運動項目の合計値および階段を除く下位12項目それぞれでWilcoxonの符号付順位和検定にて統計処理した。有意水準は1%とした。なお、下位項目の階段は「できるADL」を「しているADL」として採点しているため除外した。</p><p>【結果】</p><p> FIM運動項目の合計値は「しているADL」の平均点数が72.9±21.6点、「できるADL」の平均点数が75.0±20.6点で有意差を認めた。また、下位12項目に関しては、更衣(下)、トイレ動作、移乗、トイレ移乗の4項目で有意差を認めた。有意差を認めた下位項目それぞれの平均点数は更衣(下)が「しているADL」5.8±1.8点、「できるADL」6.0±1.7点、トイレ動作が「しているADL」5.8±1.8点、「できるADL」6.1±1.7点、移乗が「しているADL」5.9±1.6点、「できるADL」6.2±1.3点、トイレ移乗が「しているADL」5.9±1.6点、「できるADL」6.2±1.4点であった。</p><p>【考察】</p><p> 岩井ら(2015)は入院時、退院時を問わず実行ADLと潜在的ADLの差は常に存在すると考えるのが妥当と思われると報告している。本研究においてもFIM運動項目の合計値より、退院時において「しているADL」が「できるADL」を下回っている傾向が確認された。原因としては下位12項目のうち有意差が認められた、更衣(下)、トイレ動作、移乗、トイレ移乗の4項目の影響が大きいと考えられた。これら4項目はいずれも日常生活の中で転倒が発生しやすい場面であるため、「できるADL」と「しているADL」との間に差が生じやすかったと考えられた。また、更衣(下)とトイレ動作に関しては、動作に必要とする時間との関係からも「できるADL」に比べ「しているADL」で介助量が多くなる傾向があったと考えられた。「しているADL」を「できるADL」により近づけていくにあたっては、有意差の認められたこれら4項目に関して、より差が生じている原因を分析したうえでアプローチをしていく必要性が示唆された。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p> 本研究は倫理的側面から個人情報保護に配慮し、個人を特定できない形式で後方的にデータの分析・検討を行った。</p>
著者
吉尾 雅春 村上 弦 西村 由香 佐藤 香織里 乗安 整而
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0826, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】座位で骨盤の傾斜角度を変えて,屍体の大腰筋腱を他動的に牽引して股関節を屈曲する際の張力を調べることによって,座位における大腰筋の機能について検討した。【方法】ホルマリン固定した屍体10体で,明らかな骨変性のない17股関節,男性10股関節,女性7股関節を対象とした。第11,12胸椎間で体幹を切断し,脊椎,骨盤を半切,膝関節で離断,大腰筋腱,股関節の関節包,各靱帯のみを残し,骨格から他の組織を除去して実験標本を作製した。背臥位で両側の上前腸骨棘と恥骨結節とを結ぶ面が実験台と水平になるように,実験台に骨盤をクランプで固定した。実験台は股関節部分で角度を任意に調節できるようにし,床面と水平になるように設置した。骨盤側の台を座位方向に起こして,骨盤長軸と大腿骨とで成す股関節屈曲角度を0度,15度,30度,45度,60度,75度,90度に設定した。それぞれの角度で大腰筋腱を起始部の方向から徒手的に牽引して,股関節が屈曲し始めたときの張力を測定した。張力の測定にはロードセル(共和電業,LU-20-KSB34D)を用い,センサーインターフェイスボード(共和電業, PCD-100A-1A)を通してパーソナルコンピュータで解析して求めた。大腿骨の重量や長さなどの個体因子を排除するために,股関節屈曲角度0度での張力を1として,張力の相対値を求めて検討した。牽引時の主観的抵抗感も検討因子に加えた。統計学的検討はt検定により,有意水準を5%未満とした。【結果】各角度での張力の相対値は0度:1.00,15度:1.05±0.08,30度:1.04±0.11,45度:1.07±0.12,60度:1.25±0.11,75度:1.44±0.15,90度:1.82±0.29であった。15度と30度との間で差が認められなかった以外は,0度から45度まで有意に張力は微増,60度,75度で著明に増加,90度で張力は激増し,60度以上での張力はすべての角度との間で有意差がみられた。牽引時の主観的抵抗感は60度以上で強く,75度でかなり強さを増し,90度では股関節屈曲が困難なほど極めて強い抵抗があった。【考察】第40回大会で骨盤を固定した健常成人の他動的股関節屈曲角度が約70度であることを報告した。主観的抵抗感も加味すると,通常の生体座位における自動的股関節屈曲に75度,90度で得られた張力を求めるとは考えにくい。座位で大腰筋を用いて股関節を自動屈曲するためには骨盤後傾位が効率的で,骨盤前傾位では股関節を屈曲することが困難になる。逆の視点で考えれば,骨盤後傾位で体幹を伸展した座位姿勢を保持するためには下肢が挙上しないようにハムストリングなどの作用が求められるが,前傾位では下肢は挙上しにくいために大腰筋の作用によって体幹伸展保持が保障されるという,60度を境にした役割の切り替えがなされる筋機能を有していると考えられた。
著者
関野 良祐 釜野 洋二郎 石井 真理子 中崎 慶子 中俣 修 上田 泰久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2222, 2011

【目的】側腹筋は外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋に分けられ、それらの腱膜は1つの機能単位を構成して体幹の運動に関与している。特にインナーユニットの一つである腹横筋は体幹の安定性に重要といわれている。腹横筋の収縮を促すために,Abdminal Drawing-in(腹部引き込み運動)やPelvic tilt(骨盤後傾運動)などの運動療法が実施されることが多い。しかし,これら運動療法で収縮を促すことが難しい症例に対して,仰臥位での股関節内転運動を実施すると体幹の安定性が向上した。股関節の内転運動に関する先行研究では,股関節の運動(内転・外転・外旋)が骨盤底筋の収縮を活発にするという報告(小林ら2008) がある。また解剖学的な連結として,大内転筋が坐骨結節や内閉鎖筋を介して骨盤底筋と連結される(Thomas W. Myers 2009)。骨盤底筋と腹横筋はインナーユニットを形成する筋であり,内転筋群の収縮を促通することにより骨盤底筋を介して腹横筋の活動も高まると考えられる。本研究の目的は,股関節の内外転運動と側腹筋との関連性を検討することである。<BR><BR>【方法】対象は,健常成人20名(年齢20.9±1.3歳、身長165.8±7.2cm、体重56.9±7.7kg)とした。計測機器は,側腹筋の筋厚の測定として超音波診断装置My Lab25(日立メディコ社製)を使用した。測定肢位は,上肢を体側へ伸ばし,下肢が股関節内外旋中間位(第2中足骨が床へ垂直) になる背臥位とした。運動課題は背臥位での等尺性の股関節内外転運動とした。筋力の測定はhand-held dynamometer(以下、HHD)を用い,股関節内外転運動の最大等尺性収縮時の発揮筋力を調べ,負荷量は各々20%と60%の2種類とした。測定部位は軸足側の中腋窩線上で,肋骨下縁と腸骨稜の中間点とし,安静時・20%内転・60%内転・20%外転・60%外転の5条件における腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋の筋厚を測定した。測定はランダムに行い,十分に休憩をはさみ5条件を各3回実施して,その平均値を求めた。統計処理は一元配置分散分析後、多重比較(Bonferroni)を用いて行った。有意水準は5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】本研究の内容を書面にて十分説明し,同意書に署名を得た。<BR><BR>【結果】腹横筋の筋厚は、安静時2.79±0.69mm・20%内転3.10±0.66 mm・60%内転3.48±0.83 mm・20%外転2.91±0.86mm・60%外転3.05±0.89mmであった。安静時と比較して,20%内転・60%内転では筋厚が有意に増大した(p<0.01)。また20%内転よりも60%内転で有意に増大した(p<0.05)。さらに、20%外転よりも60%内転で有意に増加した(p<0.01)。<BR>内腹斜筋の筋厚は、安静時8.59±1.66 mm ・20%内転8.90±1.65 mm・60%内転9.39±2.04 mm・20%外転8.87±1.99 mm・60%外転9.04±2.05mmであった。安静時と比較して20%内転(p<0.05)と60%内転(p<0.01)で筋厚が有意に増大した。さらに、20%外転よりも60%内転で有意に増加した(p<0.05)。<BR>外腹斜筋の筋厚は、安静6.37±1.24 mm ・20%内転6.38±1.39 mm・60%内転6.53±1.55 mm・20%外転6.25±1.39mm・60%外転6.32±1.38mmであり,有意差は認められなかった。<BR><BR><BR>【考察】腹横筋では安静時に比べ20%・60%内転時に有意な筋厚の増加がみられた。これは骨盤底筋群との筋膜を介した連結を大内転筋がもつために生じたと考えられる(Thomas W. Myers 2009)。大内転筋の収縮は閉鎖筋膜・肛門挙筋腱弓に伝わり、骨盤底筋を収縮させたと考えられる。その結果、骨盤底筋の収縮により腹腔内圧は上昇し、インナーユニットが活性化され腹横筋が収縮したと考えられる。内腹斜筋では、安静時に比べ20%・60%内転時に有意な筋厚の増加がみられた。これに対し、外腹斜筋の変化については、すべての課題動作に対して筋厚の増加がみられなかった。これは、胸腰筋膜を介し内腹斜筋には腹横筋との連結があるが、外腹斜筋では連結がなかったために変化が起こらなかったと考える。胸腰筋膜は、内腹斜筋と腹横筋の収縮を繋いだ水圧ポンプ作用があり、これが腰椎の安定性に寄与しインナーユニットの収縮を促す(Diane Lee 2001)。これらのことから、股関節内転筋運動により骨盤底筋を介した、インナーユニットである腹横筋と腰椎安定に関わる内腹斜筋の、筋膜連結による活性化が可能であることが分かった。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今回の実験で、股関節内転筋収縮により腹横筋の収縮を促すことが可能であることが解った。腹横筋エクササイズは体幹のみだけでなく、股関節内転筋からの介入によりインナーユニットの活性化も可能であることを理解し、これらを併用した運動療法の有効性が示唆された。
著者
高山 正伸 二木 亮 阿部 千穂子 松岡 健 江口 淳子 陳 維嘉 長嶺 隆二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100438, 2013

【はじめに、目的】 股関節疾患のみならず膝関節疾患においても股外転筋力の重要性が指摘されており,なかでも中殿筋は特に重要視されている。中殿筋の筋力増強運動として坐位での股外転運動(坐位外転運動)を紹介している運動療法機器カタログや病院ホームページを散見する。しかし坐位における中殿筋の走行は坐位外転の運動方向と一致しない。坐位においては外転ではなく内旋運動において中殿筋は活動すると考えられる。本研究は①坐位外転運動における中殿筋の活動性は低い,②坐位内旋運動における中殿筋の活動性は高いという2つの仮説のもと,坐位外転運動と坐位内旋運動における中殿筋の活動量を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は下肢に既往がなく傷害も有していない20~43歳(平均29.6歳)の健常者14名(男性9名,女性5名)とした。股関節の運動は①一般的な股屈伸および内外転中間位での等尺性外転運動(通常外転)②坐位での等尺性外転運動(坐位外転),③坐位での等尺性内旋運動(坐位内旋)の3運動とし,計測順序はランダムとした。筋電図の導出にはTELEMYO G2(ノラクソン)を使用しサンプリング周波数1000Hzで記録した。表面電極は立位にて大転子の上方で中殿筋近位部に電極間距離4cmで貼付した。5秒間の等尺性最大随意収縮を各運動3回ずつ記録した。筋の周波数帯である10~500Hz以外の帯域をノイズとみなしフィルター処理を行った。5秒間の筋活動波形のうち3秒間を積分し平均した値を変数として用いた。統計解析は有意水準を5%としFriedman検定を行った。多重比較についてはWilcoxon符号付順位検定を行い,Bonferroniの不等式に基づき有意水準を1.6%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者にはヘルシンキ宣言に基づき結果に影響を及ぼさない範囲で研究内容を説明し同意を得た。【結果】 通常外転積分値の中央値(25パーセンタイル,75パーセンタイル)は149.5(116.0,275.0)μV・秒で坐位外転のそれは127.5(41.8,204),坐位内旋のそれは219.5(85.1,308)であった。Friedman検定の結果3運動には有意差が認められ,多重比較の結果坐位外転は坐位内旋に対して有意に活動量が劣っていた(P=0.0054)。通常外転と坐位外転にも中央値に違いがみられたが統計学的な差は認められなかった(P=0.0219)。通常外転と坐位内旋にも有意差を認めなかった(P=0.124)。最も大きな筋活動量が得られた被験者の数は通常外転4名,坐位外転1名,坐位内旋9名,逆に最も筋活動量が小さかった被験者の数は通常外転3名,坐位外転10名,坐位内旋1名であった。MMTの方法に類似している通常外転によってその他の2運動を正規化すると坐位外転の中央値は76.9(31.2,102.3)%,坐位内旋のそれは119.2(86.9,183.7)%であった。坐位外転では筋力増強運動に必要な筋活動量40%を下回る被験者が4名(14.9~31.2%)みられ,100%を超える者は3名だけであった。一方坐位内旋においては40%未満の被験者はみられず,9名の被験者が100%以上であった。最小値は69.7%であった。【考察】 股関節は球関節のため肢位によって筋作用は変化する。股関節が屈伸中間位のとき矢状面でみた中殿筋の走行は大腿骨長軸と概ね一致しており同筋は外転作用を有する。しかし股関節が屈曲位となる坐位では走行が大腿骨長軸と一致せずむしろ直角に近くなり,中殿筋の作用は外転ではなく内旋になる。本研究結果では通常外転と坐位外転に有意差を認めなかったが,効果量を0.5,有意水準を0.016,検出力を0.8に設定すると48名のサンプル数が必要で我々のサンプル数は不足している。差がないと結論付けることには慎重であるべきである。この状況下においても坐位外転と坐位内旋には有意差が認められた。本研究結果は坐位外転運動が中殿筋の筋力増強運動として非効率であることを明らかにした。加えて坐位内旋運動では通常の外転運動と同等以上の筋活動が得られることも明らかとなった。この傾向は前部線維で強くなり,後部線維では異なる結果をもたらすと予想される。どの運動によって最も大きな筋活動が得られるかは被験者によって異なっていた。その原因として坐位における骨盤の肢位が影響していると考えられる。骨盤が後傾すればするほど中殿筋の走行はより大腿骨長軸と一致する。多くの被験者に関しては坐位内旋運動で高い中殿筋の筋活動が得られたが,一部にそうでない被験者もみられた。骨盤が後傾することによって内旋運動における筋活動は低下し,逆に外転運動における活動が増加すると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究によって中殿筋に対する誤った運動指導は是正されるであろう。
著者
楠元 正順 吉里 雄伸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1256, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】競技パフォーマンス向上にはスポーツ障害・外傷予防が大きく関与している。そのため,スポーツ障害・外傷に関する調査は多く報告されている。しかし,ウエイトリフティング競技に関する報告はほとんどみられない。そこで,我々は,H26年度よりウエイトリフティング競技者へのアンケート調査を行い,第51回日本理学療法学術大会にて高校生における調査結果を報告した。今回,大学ウエイトリフティング競技者を対象にアンケート調査を行った。本研究の目的は,大学ウエイトリフティング競技者における痛みの現状を明らかにすることである。【方法】男子大学生50名(平均年齢19.88±1.14)のウエイトリフティング競技者を対象とし,痛みについてアンケート調査を実施した。回答方法は,選択回答と自由記載とした。質問内容は,痛みについて,質問1「現在,練習中に痛みがありますか?」,質問2「痛みはウエイトリフティング競技を始める前からありますか?」,質問3「どのように痛くなりましたか?」,質問4「痛いがある部位はどこですか?(複数回答可)」,質問5「どのような動作をしていて痛くなりましたか?(複数回答可)」,5項目について集計を行った。【結果】アンケート回収率は100%であった。競技者は大学1年生17名(34.0%),大学2年生16名(32.0%),大学3年生12名(24.0%),大学4年生5名(1.0%)であった。質問1については,ある35名(70.0%),ない15名(30.0%)であった。質問2については,ある5名(14.3%),ない30名(85.7%)であった。質問3については,徐々に痛くなった23名(65.7%),1回で痛くなった12名(34.3%)であった。質問4については,肩12名(20.7%),肘2名(3.4%),手首8名(13.8%),腰14名(24.1%),膝12名(20.7%)であった。質問5については,スナッチ4名(8.0%),クリーン10名(20.0%),ジャーク9名(18.0%),スクワット15名(30.0%),デッドリフト8名(16.0%),その他2名(4.0%),練習外2名(4.0%)であった。【結論】今回の調査では,痛みを有している競技者は7割であり,多くはウエイトリフティング競技開始後に発生していた。痛みの発生は,1回で痛くなった場合よりも徐々に痛くなった場合が多かった。痛みのある部位は腰,肩と膝,手首,肘の順に認めた。痛みが発生した動作は,スクワット,ジャーク,クリーンなどバーベルを床から持ち上げる,または肩より上方で支える動作であった。今回の結果は,ウエイトリフティング競技における痛みに関して注目すべき動作や痛みの発生部位を示した。痛みの発生要因は,競技者の技術的な差や特異的な競技動作の各局面の特徴が影響していると考えられるため,今後は学年別や競技動作と痛みとの関連を検討していく必要がある。
著者
清田 有希 大森 茂樹 河原 常郎 土居 健次朗 倉林 準 門馬 博 八並 光信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101860, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】臨床では、Electrical Muscle Stimulation(以下EMS)を使用する機会は多い。EMSは、電気刺激によって筋収縮を起こし、筋ポンプ作用を働かせ、疲労物質の貯留が解消されることで、疲労が回復することが予想される。筋血管内の疲労物質は、この筋ポンプ作用により貯留が解消される。筋疲労は、最適な周波数と最適な刺激間間隔を定めることにより、筋ポンプ作用が促進され、筋疲労を回復させると考えられる。しかしEMSは、異なる周波数や刺激間間隔の違いにより筋疲労の回復に差が生じるかは不明な点が多い。本研究では、筋疲労を回復する最適周波数と最適刺激間間隔を比較し、筋疲労回復の電気治療の有効性について検討した。【方法】対象は、整形外科的、神経学的に問題のない健常成人24名、年齢27.2歳±4.0、BMI21.9±2.2であった。対象筋は、大腿直筋とした(電極:大腿四頭筋の筋腱移行部と大腿直筋のモーターポイント)。各療法の刺激間間隔は、1:1(5sec on:5sec off)、1:5(10sec on:50sec off)の2パターンとした。周波数は、1Hz、5Hz、10Hzの3パターンを行った。筋力測定は、対象の肢位をLeg Extension-Curl(HUR社製)の装置に股関節屈曲50°、膝関節屈曲60°、足関節背屈0°で固定した。最大筋力は、計測器PERFORMANCE RECORDER 9100(HUR社製)をLeg Extension-Curlに取り付け、大腿四頭筋の等尺性収縮での最大筋力を計測した。運動課題は、最大筋力測定時の膝伸展角度を制限として、最大筋力の40%の負荷量で膝関節の屈伸運動を行わせた。運動課題中は、メトロノーム(110bpm、4拍子)を使用し、4拍子目を最大伸展位となるように運動を行わせた。運動課題の終了は最大伸展位まで運動が行えない場合が2回続いた場合、運動課題中メトロノームのリズムから逸脱した場合とした。運動終了後、直ちに計測器で筋力の計測を行った。その後、マルチ電気治療器インテレクト アドバンス・コンポ2762CC(CHATTANOOGA GROUP社製)でEMSを各パラメータで20分間行った。電気刺激強度は、運動閾値の2倍の強度で行った。電気治療後、計測器により筋力の計測を行った。コントロール群は、EMSを施行せず、パッドを貼ったのみの施行を6人に行った。最大筋力を回復筋力で除したものを疲労回復率とし、統計処理は、コントロール群と各周波数の刺激間間隔群を比較した。有意水準は、5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】所属施設における倫理委員会の許可を得た。対象には、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを口頭および文書にて説明した。同意が得られた者のみを対象に計測を行った。【結果】刺激周波数別に疲労回復率を比較すると、疲労回復率は、1Hzの1:1は120.0%、1Hzの1:5は134.0%、5Hzの1:1は103.0%、5Hzの1:5は116.7%、10Hzの1:1は115.4%、10Hzの1:5は117.4%となった。コントロール群の回復率は102.0%となった。コントロール群と各周波数別の比較では、コントロール群と1Hzの1:5の群のみに有意な差(P<0.02)を認めた。【考察】疲労回復の度合いをみると、EMSを施行した場合とコントロール群では、EMSを施行した場合の方が疲労回復率は高かった。EMSを行うことで、筋肉の収縮が起こり、筋肉内の疲労物質である乳酸の流動が生じ、疲労回復が促進されたと考えられる。Lindstromらは、活動筋における血液循環が低下することによって、筋中に産生された乳酸が除去されにくくなったことにより筋疲労が起こるとある。市橋らは、主運動後に軽い運動を行なうと血液循環が改善され体内の化学反応が促進されて回復が高まることや運動後の血中乳酸の除去率をクーリングダウンと安静で比較すると軽い運動をした方が、除去率が高いことが報告されている。このことから、EMSにより筋収縮が起こることで疲労の除去が行えると考える。コントロール群と比較し、EMSの各パラメータでは、周波数1Hz、刺激間間隔1:5のものが疲労回復に大きく貢献していた。Bentonらは、電気刺激による筋収縮は生理的収縮より疲労しやすく、長めの休息を設定する必要があるといっている。刺激間間隔は、1:1よりも1:5のパラメータでEMSを施行した方が、有意に差が生じたと考える。【理学療法学研究としての意義】現在、電気療法のパラメータの違いによる筋に与える影響についての研究や疲労回復に関して電気療法を行った研究はまだまだ少ない状態である。本研究により、電気療法のパラメータの適切な選択や電気療法が筋疲労の回復にも影響があることを証明し、理学療法やスポーツ場面の治療法の一助となると考える。
著者
細谷 匠 渡邊 昌宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】跳躍力は陸上競技やバレーボール,バスケットボールなど多くの競技種目で必要とされる。近年,スポーツでは体幹筋トレーニングが数多く取り入れられているが,競技で必要とされる跳躍力にどのような影響を及ばしているかは明確になっていない。そこで本研究では,体幹筋トレーニングが跳躍力にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることとした。【方法】対象は健常男子大学生21名(年齢19.5±1.1歳,身長169.9±5.4cm,体重65.3±6.5kg)とした。介入方法として体幹筋トレーニング(TMT),跳躍に影響を与えるといわれている下腿三頭筋へのDynamic stretching(DS),腹部圧迫(COMP)の3種類を実施した。TMTとしてFront Bridge,Back Bridge,side Bridgeをそれぞれ1分30秒ずつ保持させた。DSでは最大努力で膝を曲げず真上に連続ジャンプを10回おこなわせた。COMPでは臍部直下から腸骨稜にかけて弾性包帯を使用しできるだけ強く巻いた。それぞれの介入は3日以上の間隔を空けランダムにすべて実施した。跳躍力の評価は垂直跳びとし介入前と介入後それぞれ2回の計測をおこなった。計測には上肢の影響を取り除く為,腰に手を当てた状態でおこない,ジャンプMD(竹井機器工業株式會社)を用いて計測した。介入前と介入後に計測された値はそれぞれ平均値を用いた。統計処理にはSPSS statistics Ver19を用い,各種目における介入前と介入後を対応のあるT検定で比較した。有意水準は5%とした。【結果】TMTでは,介入前(47.0±5.5cm)に比べ,介入後(48.4±6.1cm)に有意に高くなった(P=0.003)。COMPでは,介入前(47.3±5.2cm)に比べ介入後(48.0±5.7cm)において高くなる傾向が認められた(P=0.071)。DSでは介入前後で有意差は認められなかった。【結論】体幹部の安定性には体幹深部筋の活動が重要であると報告されている。また,体幹を安定させる能力が高い者ほど,下肢の生み出す力を無駄なく上方へ伝達できるといわれている。今回の結果から,体幹筋トレーニングによって深部筋の活動が増加し体幹部の安定性が得られたことで,跳躍力が増したと推察された。また,腹部圧迫によっても腹腔内圧が高まり体幹の安定性が得られることで,跳躍力に影響を及ぼす可能性があることが考えられた。これらのことから単に腹圧を高めるだけではなく,自発的に筋収縮を促し筋活動を高めることが,より体幹の安定性に影響を与えることが示唆された。体幹トレーニングによる上下肢の筋活動の影響も関与している可能性もあることから,今後は体幹筋トレーニングによる上肢・下肢への筋活動と跳躍力に及ぼす影響について明確にしていきたい。
著者
荒井 知野 宇賀田 翔 佐々木 瞳 篠澤 千明 西村 沙紀子 具志堅 敏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102149, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】Berg Balance Scale(以下BBS)は動的バランスのみならず、静的バランスの評価も含まれていることから、包括的なバランス評価であると言われている。臨床においてBBSの評価項目である「継ぎ足」、いわゆる「タンデム肢位」は患側を前脚とするか後脚とするかによって、主観的な不安定さの違いを経験する。しかし評価実施にあたって、前後脚の違いや荷重のかけ方、得点の採用基準などについて詳細な規定がされていない。そこで我々は片脚立位能力がタンデム肢位に及ぼす影響について検討し、タンデム肢位の特徴について明らかにすることを目的とした。【方法】対象は若年健常成人18 名(平均年齢:21.6 ± 0.6 歳、男性:11 名、女性:7 名)とした。計測機器は重心バランスシステムJK−101 Ⅱ(ユニメック社製)を用い、サンプリング周期50ms、サンプリング時間は30 秒で計測した。計測肢位は片脚立位では、1 枚の重心動揺計上に、裸足で示指と踵が一直線となる様に足を接地させた。タンデム肢位では2 枚の重心動揺計を使用した。裸足で前脚となる足の示指と後脚となる足の踵が一直線となる様に接地させ、前脚と後脚がそれぞれの重心動揺計上に乗るように指示した。片脚立位とタンデム肢位を左右3 回ずつ施行し、施行間には5 分間の休息時間を設けた。1 施行目を練習とし2、3 施行目の総軌跡長最小値を対象者の重心動揺とした。タンデム肢位については左右の下肢荷重率も算出した。また片脚立位総軌跡長とタンデム肢位荷重率の関係を確認するため、片脚立位総軌跡長変化率(安定側の総軌跡長を不安定側の総軌跡長で除したもの)とタンデム肢位荷重変化率(安定側前脚荷重率と不安定側前脚荷重率の差)をそれぞれ算出し、関連性を検討した。統計学的分析にはWilcoxonの符号付順位検定とピアソンの相関係数を使用し、有意水準は5%未満とした。統計解析には統計ソフトSPSS 18J(SPSS Inc.)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】研究実施にあたり対象者に研究目的と実験方法について十分に説明を行い、参加の同意を得た。【結果】片脚立位の重心動揺について、総軌跡長が小さい側を安定側、大きい側を不安定側とし、2 群間で比較を行った。タンデム肢位総軌跡長は安定側前脚時で550.3 ± 113.0mm、不安定側前脚時で573.6 ± 105.7mmであり片脚立位総軌跡長とタンデム肢位総軌跡長との間に有意差は認められなかった。タンデム肢位の下肢荷重率について、後脚荷重率は安定側前脚時で64.9 ± 5.1%、不安定側前脚時で70.1 ± 8.4%となり、後脚荷重率が有意に減少していた(P<0.05)。また、片脚立位総軌跡長変化率とタンデム肢位の下肢荷重変化率との間には強い負の相関関係が認められた(r=-0.68、P<0.01)。【考察】結果より、すべての対象者においてタンデム肢位は後脚に優位に荷重がかかる肢位であることが分かった。このことから、重心位置が安定性限界内の後方に位置していると考えられる。望月らは、バランス能力を安定性限界と身体重心という観点から考えると、相対的に安定性限界が大きく、身体重心の動揺が小さく、安定性限界の中心から重心位置の偏倚が小さいほどバランス能力が高いと述べている。本研究の結果より片脚立位総軌跡長変化率とタンデム肢位下肢荷重変化率の関係に強い相関関係が認められたことから、片脚立位総軌跡長が小さい人ほど、タンデム肢位前脚荷重率が増加することが明らかとなった。つまり片脚立位安定側が前脚時には、後方にある身体重心位置が安定性限界内で中心に近づくことが示唆され、バランス能力の要因の一つが向上したと考えた。バランス能力のもう一つの要因である身体重心動揺について検討すると、有意差は認められなかったが、安定側が前脚時、タンデム肢位総軌跡長が小さくなる者が18 名中13名となり動揺が減少する傾向がみられた。しかし、総軌跡長が大きくなった者もおり、この要因については今後検討が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】臨床場面でBBSを行う際は、どちらか一方ができれば項目通過とするものや最高得点を採用するとしているものがある。しかし、本研究よりタンデム肢位は後脚荷重率が優位となることが明らかとなったことから、片麻痺患者や整形疾患患者などでは麻痺側や患側が後脚となるときに動揺が大きくなると推測され、検査実施においては十分にリスク管理する必要があることが明らかになった。また、包括的なバランス能力を示す指標であることを考えると、得点の高い側だけでなく、低い側について把握することで転倒予防につながることが考えられる。以上のことから、評価項目に応じて評価方法を規定することの必要性が示された。
著者
小泉 利光 安斎 徹 小野 典子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.743, 2003

【はじめに】当院は回復期リハビリテーション病棟を有し、自宅退院を目標に早期から退院前訪問指導(以下、家庭訪問)や患者家族に対して外泊を促している。そこで、今回、これらの取り組みが入院日数と関連性があるかを調査した。【対象】平成13年4月から平成14年3月までに当院の回復期リハビリテーション病棟から自宅退院した67例を対象とした。内訳は男性37例、女性30例、平均年齢71.54±11.13歳である。疾患は脳血管等疾患46例、脊髄損傷2例、大腿骨頚部骨折等の骨折13例、廃用症候群6例である。なお、内科治療等で回復期リハビリテーション病棟から一般病棟転棟後に自宅退院したものは除外した。【方法】調査項目は、初回家庭訪問日、外泊日、入院日数、当院入院日から初回家庭訪問日までの日数で、家庭訪問と外泊、家庭訪問と入院日数についての関連性を検討した。【結果】家庭訪問を実施した者は50例(74.6%)で、実施内容は環境整備や患者家族に対する生活・介護指導等である。一方、家庭訪問未実施者は17例(25.4%)で、障害が軽度で外泊時に問題がなかった者、以前に家庭訪問済みで環境整備が整っているため必要性が少ないと判断した者、家族の受け入れが不十分で実施できなかった者などである。なお、初回家庭訪問までの平均日数は64.26日であった。 当院入院後の初回外泊の傾向としては、家庭訪問以前に初回外泊し訪問後も何度か外泊した者50例中14例(28%)、家庭訪問当日にそのまま初回外泊した者6例(12%)、家庭訪問後1ヶ月以内に初回外泊した者10例(20%)、2ヶ月以内に初回外泊した者9例(18%)で、家庭訪問実施者の54%は訪問後に初回外泊をしていた。一方、家庭訪問を実施したものの一度も外泊せずに退院した者が5例(10%)、家庭訪問以前に初回外泊し訪問後外泊せずに退院した者4例(8%)であった。 入院日から初回家庭訪問日までの日数と入院日数はr=0.64(p<0.001)と高い相関を示した。なお、平均入院日数は116.60日であった。【考察】早期家庭訪問は退院後の在宅生活をイメージしたアプローチが可能である。また、外泊は患者家族に対する退院への意識付けができ、自宅での介護力の評価や新たな問題点の抽出、家屋改造後のリチェックなどその意義も大きい。今回の結果より家庭訪問実施者の54%は訪問後に初回外泊をしており、家庭訪問は外泊を促す一要因と考えられた。 また、早期家庭訪問は入院日数の短縮にも寄与していると考えられた。これは家庭訪問が早いほど、先に述べた外泊協力も得ながら具体化した目標・問題点に対してチームスタッフが連携して取り組めた結果の一つと思われた。