著者
濱田 孝喜 貞清 正史 坂 雅之 竹ノ内 洋 伊藤 一也 蒲田 和芳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1577, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】野球では外傷よりも野球肩などスポーツ障害の発生率が高いことが知られている。近年,肩後方タイトネス(PST)に起因する肩関節内旋可動域制限の存在が示され,PSTと投球障害肩発生との関連性が示唆されたが,高校野球においてPSTおよび肩関節可動域制限の予防策の実施状況は報告されていない。また,予防策実施と肩障害発生率との関係性は示されていない。そこで本研究の目的を高校野球において,肩関節可動域制限の予防策の実施状況および予防策実施と肩関節痛の存在率との関連性を解明することとした。【方法】長崎県高等学校野球連盟加盟校全58校へアンケート用紙を配布し,アンケート調査を高校野球指導者と選手に実施した。指導者には練習頻度・時間,投球数に関する指導者の意識調査,選手には肩障害の有無・既往歴,ストレッチ実施状況・種類などを調査した。調査期間は平成25年1月から3月であった。【倫理的配慮,説明と同意】アンケート調査は長崎県高校野球連盟の承諾を得た上で実施された。アンケートに係る全ての個人情報は調査者によって管理された。【結果】1.選手:対象58校中27校,673名から回答を得た。対象者は平均年齢16.5歳,平均身長170.1cm,平均体重66.1kgであった。アンケート実施時に肩痛を有していた者は全体の168/673名(24.9%)であり,肩痛の既往がある者は全体の367/673名(54.5%)と約半数にのぼった。疼痛を有する者のうちストレッチを毎日または時々実施している者は147/167名(88%)であった。疼痛の無い者のうちストレッチを実施している者は422/490名(86%)であった。投手のみでは,肩痛を有する者が22/133名(16.2%),肩痛の既往は82/136名(60.3%)であった。疼痛を有する者のうちストレッチを毎日または時々実施している者は20/22名(90.9%)であった。疼痛の無い者のうちストレッチを実施している者は107/111名(96.4%)であった。2.指導者:58校中24校,33名から回答を得た。練習頻度では,週7日が9/24校(38%),週6日が13/24校(54%),週5日が8%(2校)であった。練習時間(平日)では,4-3時間が14/24校(58%),2時間以下が9/24校(38%),回答なしが1校であった。練習時間(休日)では,9時間以上が2/24校(8%),7-8時間が8/24校(33%),5-6時間が9/24校(38%),4-3時間が5/24校(21%)であった。投球数(練習)では50球以下が3%,51-100球が24%,101-200球が24%,201球以上が0%,制限なしが48%であった。投球数(試合)では50球以下が0%,51-100球が9%,101-200球が42%,201球以上が0%,制限なしが48%であった。3.指導者意識と肩痛:投手の練習時全力投球数を制限している学校は12校,制限ない学校は12校であった。全力投球数制限ありの投手は45名で,肩痛を有する者は8/45名(18%),肩痛が無い者は37/45名(82%)であった。全力投球数制限なしの投手は60名で,肩痛を有する者は11/60名(24%),肩痛が無い者は49/60名(75%)であった。【考察】肩関節痛を有する者は全体の24.9%,投手のみでは16.2%であり,肩痛の既往歴が全体の51.5%であった。ストレッチ実施状況は肩痛の有無に関わらず約80%の選手が実施していた。肩関節可動域制限に対してスリーパーストレッチ,クロスボディーストレッチによる肩関節可動域改善効果が報告されている。本研究ではストレッチ実施の有無を調査しているためストレッチ実施方法の正確性は明らかではないが,ストレッチのみでは投球障害肩予防への貢献度は低いことが考えられる。障害予防意識に関して練習時・試合時共に制限をしていない指導者が48%であった。高校生の全力投球数は1日100球以内と提言されているが,部員が少数である高校などの存在は考慮せざるを得ない。練習時全力投球数を制限している者のうち肩痛を有する者は18%,制限の無い者のうち肩痛を有する者は24%であった。1試合または1シーズンの投球数増加は肩障害リスクを増大させると報告されている。アンケート調査を実施した期間はオフシーズンであり,指導者の投球数に関する意識が選手の肩障害に関与する可能性があると考えられる。以上より,高校野球選手において一定の効果があるとされるストレッチを約8割の選手が実施していたにも関わらず肩痛の存在率は高かった。この原因としてストレッチ方法の正確性及びオーバーユースや投球動作など他因子との関連が考えられる。今後はこれらの関係性を明確にし,障害予防方法の確立が重要課題である。【理学療法学研究としての意義】スポーツ現場において障害予防は重要課題である。これまで障害予防方法の検証はされてきたが,現場ではその方法が浸透していないことが示唆された。医学的知識や動作指導が可能な理学療法士の活躍がスポーツ現場での障害予防に必要である。
著者
鈴木 俊明 鬼形 周恵子 谷 万喜子 米田 浩久 高崎 恭輔 谷埜 予士次 塩見 紀子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A1506, 2008

【目的】第9回アジア理学療法学会にて鍼灸医学の循経取穴理論を理学療法に応用し開発した経穴刺激理学療法を紹介した。循経取穴は、症状のある部位・罹患筋上を走行する経絡を同定して、その経絡上に存在する経穴を鍼治療部位とする理論である。経穴刺激理学療法は、動作分析から筋緊張異常が問題であると判断した場合に用いる。筋緊張抑制には垂直方向、筋緊張促通には斜方向から治療者の指で経穴を圧迫する。本研究では、胸鎖乳突筋に対応する経穴のひとつである左合谷穴への経穴刺激理学療法により右頸部回旋動作の主動作筋である左胸鎖乳突筋と右板状筋の運動前反応時間を検討し、右合谷への経穴刺激理学療法によるPMTの変化が胸鎖乳突筋に特有な変化であるか否かを検討した。<BR>【方法】本研究に同意を得た健常者9名(男性7名、女性2名、平均年齢33.2±7.7歳)を対象とした。座位で、経穴刺激理学療法(Acupoint Stimulation Physical Therapy:ASPT)前後に音刺激を合図に頸部右回旋を連続10回実施した際の左胸鎖乳突筋、右板状筋の音刺激より筋電図出現までの時間である運動前反応時間(pre motor time:PMT)を測定した。ASPTは、検者の指で痛みを伴わず耐えられる最大の強度で、筋緊張促通目的で用いる斜方向に左合谷を5分間圧迫した。ASPT群の左胸鎖乳突筋、右板状筋のPMTは、安静時、刺激終了直後、10分後、20分後、30分後に記録し、安静のPMTを1とした時の相対値(PMT相対値)で比較した。コントロール群としてASPTを行わずに同様の検査を実施した。<BR>【結果】ASPT群の左胸鎖乳突筋のPMT相対値は刺激直後0.98、10分後0.96、20分後0.95、30分後0.93であり、刺激直後より刺激30分後まで短縮する傾向であった。ASPT群の右板状筋のPMT相対値は刺激前後で変化を認めなかった。また、コントロール群でも時間経過によるPMTの変化は認めなかった。<BR>【考察】ASPTは循経取穴という経絡・経穴を用いた治療理論を理学療法に応用した方法である。今回用いた合谷は胸鎖乳突筋上を通過する手陽明大腸経に所属する経穴である。PMTは中枢神経機能を示す一つの指標である。左合谷への5分間のASPTにより左胸鎖乳突筋のPMTが短縮したことから、合谷への圧刺激は胸鎖乳突筋に対応した中枢神経機能の促通に関与したと考えられた。しかし、手陽明大腸経とは関連しないが右頸部回旋動作の主動作筋である右板状筋のPMTは合谷刺激で変化なかったことから、経穴刺激理学療法における効果は循経取穴に関連した経絡・経穴の影響が関連していると考えられた。<BR>【まとめ】左合谷への5分間の経穴刺激理学療法は、循経取穴に関連した左胸鎖乳突筋に対応する中枢神経機能の促通に関与すると考えられた。
著者
手塚 純一 大塚 洋子 長田 正章 岩井 良成
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI2176, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 長い間、小脳は純粋に姿勢の制御や随意運動の調節を行なうための神経基盤であると考えられてきた。1980年代半ばから、神経心理学・解剖学・電気生理学などの発展により、運動・前庭機能以外にも様々な認知過程に関与することが明らかになってきた。1998年にはSchmahmannとShermanが小脳病変によって生じる障害の4要素(遂行機能障害・空間認知障害・言語障害・人格障害)を小脳性認知・情動症候群(CCAS)として提唱した。しかしながらリハビリテーションの領域では小脳と高次脳機能についての報告は散見されるが症例報告に留まっており、特に理学療法における報告は少ない。本研究の目的は、小脳の損傷部位と臨床症状の関係について量的研究を行ない、理学療法における小脳損傷に伴う高次脳機能障害に対する対処の必要性を明らかにすることである。【方法】1.対象: 対象は2008年1月から2010年10月の間に脳卒中を急性発症し当院に入院した患者連続895例のうち、小脳に限局した病変を有する39例である。除外基準は1)脳室穿破、2)水頭症、3)発症前より明らかな認知機能低下を有する例とした。2.方法 調査項目は年齢、性別、梗塞・出血の種別、画像所見、臨床症状とした。画像所見は入院時に撮影した頭部CTもしくはMRI画像を利用し、小脳の損傷部位を虫部、中間部、半球部に分け列挙した。臨床症状は意識清明となった時点での運動失調、見当識障害、注意障害、記憶障害、言語障害、空間認知障害、人格障害について次の基準で有無を判定し列挙した。運動失調は鼻指鼻試験もしくは踵膝試験での陽性反応を、人格障害はFIM(Functional Independence Measure)社会的交流項目での減点を認めた場合に有とした。それ以外はMMSE(Mini-Mental State Examination )、HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)の、見当識障害:見当識項目、注意障害:計算項目及び逆唱項目、記憶障害:遅延再生項目、言語障害:物品呼称項目もしくは語想起項目、空間認知障害:図形模写項目、において減点を認めた場合に有とした。3.解析 損傷部位と臨床症状に関連があるかを、フィッシャーの正確確率検定を用いて検討した。なお統計学的判定の有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究は個人情報を匿名化した上で、その取り扱いについて当院の規定に則り申請し許可を得た。【結果】1.最終対象者 39例中5例は脳室穿破、水頭症もしくは発症前からの認知機能低下を有し対象から除外した。従って最終対象者は34例(男性18例、女性16例、平均年齢70.2±11.0歳)であった。2.脳損傷様式 小脳梗塞11例、小脳出血23例、損傷部位は虫部~半球部に渡るものが15例、虫部~中間部が8例、中間部~半球部が9例、半球部のみが2例であった。3.臨床症状 項目毎に発生数を計上すると、運動失調31例(91.2%)、記憶障害23例(67.6%)、見当識障害17例(50.0%)、注意障害14例(41.2%)、言語障害9例(26.5%)、人格障害5例(14.7%)、空間認知障害5例(14.7%)であった。上記の症状の多くは合併し、総合すると24例(70.6%)に何らかの高次脳機能障害を認めた。半球部に損傷がある26例のうち22例(84.6%)に何らかの高次脳機能障害を認めた。半球部に損傷がない8例のうち6例(75.0%)には高次脳機能障害を認めなかった。4.解析 検定の結果、有意な独立性を認めた項目は1)虫部~中間部の損傷と運動失調の発生率(p<0.01)、2)半球部の損傷と何らかの高次脳機能障害の発生率(p<0.01)、3)半球部の損傷と記憶障害の発生率(p<0.001)であった。【考察】 半球部は歯状核から視床外側腹側核を経由して運動前野や前頭前野・側頭葉に投射し、小脳-大脳ループとして認知機能に関与している。本研究で半球部損傷の多くに高次脳機能障害を認めたことは、SchmahmannとShermanの報告と一致した結果となった。多くの例に記憶障害を認めたことにより、CCASの概念で取り上げられている作動記憶の障害や視空間記憶の障害だけでなく、エピソード記憶の障害にも小脳が関与している可能性が示唆された。 記憶障害・注意障害等による生活指導の定着率低下や、人格障害による練習の拒否等の問題は、理学療法の進行に大きな影響を与える。半球部に損傷を認めた場合には、高次脳機能障害の有無を精査し対処していく必要があると考える。今後は半球部損傷のみの症例数を増やすと同時に、各臨床症状の半球部における責任領域について検討を重ねていきたい。【理学療法学研究としての意義】 小脳損傷に伴う高次脳機能障害は患者の学習や社会復帰において多大な影響を与える要素であり、理学療法においてもその研究と対策は重要である。本研究はその一助となると考える。
著者
窪内 郁恵 薦田 昭宏 橋本 聡子 川口 佑 中谷 孝 中島 利博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】線維筋痛症(Fibromyalgia;以下FM)は,3カ月以上持続する原因不明の全身痛を主症状とした,精神・自律神経系症状を伴う慢性疼痛疾患である。中高年の女性に多く,日本では推定200万人以上の患者がいるとされている。経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimulation;以下TMS)は,磁気エネルギーを媒体として,頭蓋骨の抵抗を受けずに大脳皮質を刺激することができる治療法である。反復性経頭蓋磁気刺激法(Repetitive TMS;以下rTMS)は,アメリカ食品医薬局(Food and Drug Administration;FDA)より薬物治療抵抗性うつ病への治療的使用が承認され,線維筋痛症診療ガイドライン2013でも推奨されている。副作用は非常に少なく,安全性が高いと言われている。今回FM例に対してrTMSを施行し,施行前後の痛み・心理面の経過を追ったので報告する。【方法】対象はFMにて当院フォロー中の症例で,12例中rTMS治療の全過程を終了した9例である。内訳は,入院対応4例,外来対応5例,平均年齢44.7±13.9歳,全例歩行自立レベルであった。ACR2010線維筋痛症予備診断基準(Fibromyalgia activity score 31;以下FAS31)は平均総得点18.6±5.8点,平均広範囲疼痛指数(widespread pain index;以下WPI)11.6±4.8点,平均症候重症度(symptoms severity score;以下SS)7±1.3点であった。除外項目は,rTMS装置の絶対禁忌・相対禁忌である人工内耳,頭蓋内金属使用などの開頭手術歴,てんかんの既往,人工ペースメーカーなどとした。rTMS装置は,NeuroStar(Neuronetics社製)を使用し,左前頭前野に10Hzの高頻度刺激を行った。標準治療時間は4秒間刺激,26秒間休息の繰り返しで約40分,これを週3~5回,合計30回施行した。評価として,痛みの部位はWPI,強度はVisual Analog Scale(以下VAS),質は神経障害性疼痛重症度評価ツール(Neuropathic Pain Symptom Inventory;以下NPSI),認知・心理面においては痛みの破局的思考評価であるPain Catastrophizing Scale(以下PCS),不安・抑うつのHospital and Depression Scale(以下HADS),生活の質(quality of life;以下QOL)は日本語版線維筋痛症質問票(Japanese fibromyalgia impactquestionnaire;以下JFIQ)を評価し,経過を追った。全て自己記入式で,rTMS施行前,施行10回毎に評価した。統計学的処理は対応のあるt検定,一元配置分散分析を用い,有意水準5%未満とした。【結果】FAS31の総得点,WPI,SSでは,rTMS施行前,施行10回,20回,30回で有意差を認めなかった。VASにおいては,rTMS施行前と施行20回,30回で有意差を認めた。NPSIの総得点では施行間の有意差を認めなかった。PCSは総得点,下位項目3つとも有意差を認めなかったが,継時的な減少を認めた。HADS,JFIQにおいても,有意差は認めなかったものの減少傾向を認めた。【考察】慢性疼痛例は,健常例と比較して前頭前野の活動が乏しく,下行性疼痛抑制系機能が減弱状態であると考えられている。今回,VASにおいてrTMS施行前と施行20回,30回で有意差を認めたことから,前頭前野を活性させることで,痛みの関連組織である扁桃体,前帯状回,島などの活性も促通することができたと推察する。またPCS,HADS,JFIQにおいても,有意差は認めなかったが改善がみられ,rTMSが認知・心理面やQOLの向上に繋がる因子になったのではないかと考える。しかし痛みの悪循環を示す恐怖・回避モデルと照らし合わせると,痛みに対する無力感,自宅生活だけでなく就労などにおける社会への適応に対しても,さらなる評価・検討が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】FM例などの慢性疼痛疾患は,感覚的痛みに加え情動・認知的痛みの要素が大きく関わってくる。rTMSは副作用が少なく,磁気刺激によって痛みの関連領域を含めた脳の活性を図ることができると本研究で示唆されたため,今後のFM治療への有効性が考えられる。
著者
福谷 直人 任 和子 山中 寛恵 手良向 聡 横田 勲 坂林 智美 田中 真琴 福本 貴彦 坪山 直生 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1512, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腰痛は,業務上疾病の中で約6割を占める労働衛生上の重要課題であり,特に看護業界での課題意識は高い。近年では,仕事に出勤していても心身の健康上の問題で,労働生産性が低下するプレゼンティーイズムが着目されている。しかし,看護師の腰痛に着目し,急性/慢性腰痛とプレゼンティーイズムとの関連性を検討した研究はない。したがって,本研究では,看護師における急性/慢性腰痛がプレゼンティーイズムに与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】大学病院に勤務する看護師807名(平均年齢:33.2±9.6歳,女性91.0%)を対象に,自記式質問紙を配布し,基本属性(年齢,性別,キャリア年数),腰痛の有無,腰痛の程度(Numeric Rating Scale)を聴取した。腰痛は,現在の腰痛の有無と,現在腰痛がある場合,その継続期間を聴取することで,腰痛なし,急性腰痛(1日から3ヶ月未満),慢性腰痛(3ヶ月以上)に分類した。さらに,プレゼンティーイズムの評価としてWork Limitations Questionnaire-J(WLQ-J)を聴取した。WLQ-Jは,労働生産性を数値(%)で算出できる質問紙であり,“時間管理”“身体活動”“集中力・対人関係”“仕事の結果”の下位尺度がある。統計解析では,対象者を腰痛なし群,急性腰痛群,慢性腰痛群に分類し,Kruskal Wallis検定(Bonferroni補正)およびカイ二乗検定にて基本属性,WLQ-Jを比較した。次に,従属変数に労働生産性総合評価および各下位尺度を,独立変数に急性腰痛の有無,または慢性腰痛の有無を,調整変数にキャリア年数・性別を投入した重回帰分析を各々行った(強制投入法)。統計学的有意水準は5%とした。【結果】回答データに欠測のない765名を解析対象とした。対象者のうち,363名(47.5%)が急性腰痛,131名(17.1%)が慢性腰痛を有していた。単変量解析の結果,腰痛なし群に比べ,急性および慢性腰痛群は有意に年齢が高く,キャリア年数も長い傾向が認められた(P<0.001)。加えて,“労働生産性総合評価”“身体活動”“集中力・対人関係”において群間に有意差が認められた(P<0.05)。重回帰分析の結果,急性腰痛が労働生産性に与える影響は認められなかったが,慢性腰痛は“集中力・対人関係”と有意に関連していた(非標準化β=-5.78,標準化β=-1.27,P=0.016,95%信頼区間-10.5--1.1)。【結論】本研究結果より,看護師の慢性腰痛は“集中力・対人関係”低下と有意に関連することが明らかとなった。急性腰痛は,発症してから日が浅いため,まだ労働生産性低下には関連していなかったと考えられる。しかし,慢性腰痛では,それに伴う痛みの増加や,うつ傾向などが複合的に“集中力・対人関係”を悪化させると考えられ,慢性腰痛を予防することで労働生産性を維持していくことの重要性が示唆された。
著者
都能 槙二 中嶋 正明 倉田 和範 迎山 昇平 龍田 尚美 野中 紘士 秋山 純一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F1015, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】関節拘縮は生じると日常生活に支障をきたすことがあるため、その発生を未然に防ぐことが重要である。関節拘縮の発生予防に対して温熱療法と運動療法を併用し、その効果は知られている。しかし、温熱療法のみで関節拘縮の予防効果を検討した報告はない。そこで今回,我々は温水負荷による温熱療法が関節拘縮の発生予防に対して単独で効果があるのかを検討し興味深い知見を得たので報告する。【方法】関節拘縮モデルの実験動物として72週齢のWistar系雌ラット30匹を使用した。関節拘縮モデルの作成は右後肢を無処置側、左後肢を固定側として左膝関節を屈曲90°でキルシュナー鋼線による埋め込み式骨貫通内固定法によりに固定した。固定処置後のラットは無作為に、温熱療法群と対照群の2つに分け、それぞれ2週間固定、4週間固定、6週間固定の5匹ずつに分けた。温熱療法は固定後3日間の自由飼育の後、41°Cの温水に下腿部を15分間、一日一回,週5回浸漬した。関節拘縮の進行の度合いは関節可動域を測定し評価した。関節可動域の評価は温水負荷期間終了後、麻酔下で膝関節に0.049Nmのトルク負荷にて最大屈曲角度、最大伸展角度を測定した。組織学的評価は川本粘着フィルム法を用い、矢状面で薄切しHE染色を行った。【結果】関節可動域は、関節固定前が135.7±7.4°、2週間後、温熱療法群が66.2±5.7°、対照群が64.8±7.9°、4週間後、温熱療法群が59.8±6.8°、対照群が45.0±3.2°、6週間後、温熱療法が53.4±7.7°、対照群が43.4±4.5°であった。2週目では有意差は見られなかったが、4週目・6週目では有意差が見られた。【考察】1ヶ月以内の関節不動で起こる拘縮は、筋の変化に由来するところが大きく、それ以上不動期間が長くなると関節構成体の影響が強くなると言われている。関節構成体の主な変化としては、線維性癒着、関節軟骨の不規則化などが報告されている。今回の結果では固定4週間以降に有意差が見られるため、温熱療法が筋の変化に対してよりも関節構成体に対して抑制効果があったと考えられる。本研究において温熱療法が関節拘縮予防に有効であると言う結果が得られたため、臨床現場に温熱療法を積極的に使用するべきだと考える。【まとめ】今回の実験では温熱療法によって関節不動による関節可動域の減少が抑制されることが明らかになった。多くの患者が関節拘縮の発生により回復後においても日常生活に支障をきたす例があることを考えると貴重な発見である。今後,温熱療法による関節拘縮発生予防効果の機序とその効果的な適用条件を検討していきたい。
著者
山野 宏章 和田 哲宏 田坂 精志朗 福本 貴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1264, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】野球肘は成長期の野球選手に多く,発見が遅れ重症化すると選手生命に関わることから,予防,早期発見が重要視されている。その発生要因としては投球数や練習量だけでなく,肩関節周囲筋の筋力や柔軟性などの身体的要因も関わっているとの報告がされている。しかし,野球肘を発症する選手の身体的特徴は,一貫した報告がされていない。また,スポーツ現場で野球肘の評価をするにはポータブルエコーを用いて医師が行うのが一般的で,理学療法士や指導者が簡易に評価できる指標はストレステストや痛みの問診等しかなく,十分ではないのが現状である。そこで本研究の目的は,エコー診断や各種身体機能検査を含めた評価をもとに,野球肘の発症あるいは重症度に関係する要因を包括的に検討することとした。【方法】奈良県の少年野球選手436名を対象とした野球肘検診において野球歴・投球時痛などのアンケート調査,医師によるエコー検査とストレステスト,理学療法士による柔軟性検査を実施した。そこで得た結果を基に野球肘の重症度を5段階に分けた。統計解析は,5段階の重症度を従属変数,アンケートの結果,エコー所見,ストレステストの結果,柔軟性検査の結果を独立変数とし,重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。なお,統計解析にはSPSS statistics ver. 22(IBM,Chicago,IL)を使用した。【結果】重回帰分析の結果,外側エコー異常所見,内側エコー異常所見,肘関節伸展での違和感,肩関節水平内転テスト(以下:HFT),投球時痛,肩関節外旋での違和感,肘内外側のしびれ感の7項目が独立した因子として抽出された。標準偏回帰係数は外側エコー異常所見0.684,内側エコー異常所見0.331,肘関節伸展での違和感0.268,HFT0.056,投球時痛0.045,肩関節外旋での違和感0.052,肘内外側のしびれ感-0.037であった。自由度調整済み決定係数は0.882であり,Durbin-Watsonの検定は2.134であった。【結論】柔軟性検査のうち唯一抽出されたHFTの減少については,肩関節後方の軟部組織の柔軟性の低下を示している。これは投球動作時に体幹,肩甲帯から受けるエネルギーを適切に上肢に伝えることを困難にし,肘関節の適切な運動を阻害する。その結果,肘関節に異常なストレスを与え,野球肘の発症に繋がると考えられる。本研究の結果から,エコー検査が重症度予測に有用であると考えられるが,通常医師が行うエコー検査と比較した場合,エコー検査以外の重症度に影響する因子である痛みやしびれ,違和感の聴取,HFTの測定は理学療法士や指導者が簡易的に実施できる。そのため,スポーツ現場でこれらの評価を定期的に実施することにより,野球肘の予防や早期発見に繋がる可能性があると考えられる。
著者
時任 真幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】自己効力感(self efficacy)とは,社会的学習理論あるいは社会的認知理論の中核をなす概念の一つであり,1977年,バンデューラ(Albert Bandura)によって提唱された。これは個人がある状況において必要な行動を効果的に遂行できる可能性の認知を指している。学生の自己効力感が臨床実習によって,どのように変化し,また自己効力感へ影響をおよぼす因子の特徴などを知ることで,臨床実習の成果(学び)や不安・緊張の様子を明らかにすることが本研究の目的である。【方法】本校理学療法学科在校生38名を対象に,成田らの特性的自己効力感尺度(以下GSE)を用い,調査した。調査は実習前の4月,臨床実習I終了後の6月,臨床実習II終了後の8月の計3回実施した。3回の比較を行い,臨床実習成績との関係を調査した。また,8月の最終調査時にGSEとの関連で自己効力感の源泉についても併せて調査した。【倫理的配慮,説明と同意】研究の趣旨を口頭と文書で説明した。質問紙は継続的なため記名式とし,研究の参加・不参加による成績への影響は全くないこと,研究結果を公表することを説明した。回収は回収箱により学生が自由投函できるようにした。また,研究同意書に署名し,質問紙と共に回収することで研究参加の同意とみなした。【結果】GSEの結果は4月が65.63±13.03,6月が67.95±11.87,8月が68.18±12.68となった。一元配置分散分析の結果,主効果が認められた(p=0.0270)。さらに,Bonferroniの方法で多重比較検定を行った結果,4月と6月,4月と8月において5%水準での有意差が認められた。また,臨床実習成績との相関関係は,臨床実習Iでは相関係数r=0.261,危険率p=0.11,臨床実習IIでは相関係数r=0.09,危険率p=0.59といずれも5%水準において相関関係は認められなかった。自己効力感の源泉(情報源)についての影響は「言語的説得」「遂行行動達成」「代理的体験」「情緒的喚起」の順に自己効力感に対する源泉を認めた。【考察】仮説ではGSEの平均値は徐々に高まると考えたが4月と6月,4月と8月には有意差がみられたものの6月と8月の間に有意な差は認められず,一部の仮説のみ支持される結果となった。これは,4月の計測時に臨床実習前の不安要素が大きく自信のなさが自己を過小評価する傾向にあり,自己効力感が低くなっていると考えられる。そのため,6月の臨床実習I終了後には自己効力感源泉の「遂行行動達成」によるGSE向上が考えられる。これに対して臨床実習IIでは,臨床実習Iに対して緊張感は和らぐものの,一人の患者に対し,レポート作成までの時間が短くなる傾向があり,学生はタイムプレッシャーにより達成感は前期の実習よりは減少傾向にあると考えられる。しかしながら,経験値が増すことによって全体の平均値としては上昇傾向にあった。続いて,GSEと臨床実習成績の相関関係について検討した。これについては関連がみられなかった。浅川らの理学療法学科学生と原らの言語聴覚学科学生における先行研究でも関連はみられず,これらのことより臨床実習成績は10週間,8週間という限りある期間の,それぞれ異なる指導者による第三者評価であり,評価判定にはブルーム(Bloom,B.S.)の教育目標の分類学(タキソノトミー)にある認知領域,情意領域および精神運動領域が総合されて加味されるため,学生のGSEは臨床実習成績に反映されにくいのではないかと考えられる。GSEの源泉では,「言語的説得」が最も高く「遂行行動の達成」「代理的体験」「情緒的喚起」と続いている。これは,臨床実習指導者とマンツーマンで行う理学療法養成課程の実習スタイルが大きく影響しているものと考えられる。一人の患者を担当し,ケースレポート作成を行いながら実際の診療(治療)を行う方法で,レポートの出来不出来が実習成績や患者に関わる時間を左右してしまう。このため,診療時間終了後に行われるフィードバックが重要であり,指導者からの「金言」を漏らさずレポートに反映させていく作業に大きな労力を費やすこととなる。養成校の教員がが臨床実習訪問を行う中で,レポートは非常に良くできているものの,患者の状態把握が全くできていない実習場面に遭遇することがある。これは,先ほど述べた「言語的説得のみでは困難に直面した場合,簡単に消失してしまう」典型例といえるだろう。【理学療法学研究としての意義】自己概念が形成される青年期の臨床実習における自己効力感は,彼らが理学療法士として職業観を確立するために大切なことである。そのことに関わる養成校教員や臨床実習指導者は協同して自己効力感を集積できるよう学生支援に努め,現状の患者担当制からクリニカルクラークシップへ移行するための根拠になる資料したい。
著者
朴 文華 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0255, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】自転車エルゴメーターによるトレーニングは主に持久力のトレーニングとして用いられているが、高負荷で行うことにより筋力トレーニングとして用いることができると報告されている。しかし、高負荷ペダリングトレーニングの下肢筋への影響は、膝伸展筋力に関しては等尺性、等速性ともに意見が一致しておらず、また、体幹筋にどのような影響を及ぼすかについての報告は見当たらない。さらに、これらの報告はトレーニング期間が6~8週で行われており、4週間という短期間で行われたものはない。本研究の目的は、4週間という短期間での高負荷のペダリングトレーニングが下肢および体幹筋力と下肢のパフォーマンスに与える影響を検討することである。【対象と方法】本研究に同意を得た健常学生17名を対象とした。トレーニング群として10名(男5名、女5名:平均年齢22.8±2.8歳、平均体重55.4±6.3kg)に自転車エルゴメーター(COMBI POWERMAX V)によるトレーニングを実施した。残りの7名(男4名、女3名:平均年齢23.6±4.2歳、平均体重60±16.5kg)はコントロール群とした。トレーニング期間は週4回、4週間とし、体重の7.5%の負荷(平均4.2±0.5kp)で30秒間最大速度でのペダリングを30秒間の休息をはさみ4回行わせた。4週間のトレーニング前後に等速性膝屈伸筋力(角速度60,180,300deg/sec)、等尺性膝屈伸筋力、脚伸展筋力(CKC筋力)、腹筋力、背筋力、ストレングスエルゴを用いた回転数20,40,60,100rpmでの最大トルク、エルゴメーターによる体重の7.5%の負荷を用いた最大パワー、パフォーマンステスト(幅跳び、垂直跳び、6m hop、stepping test)を評価した。統計処理にはトレーニング前後で対応のあるt検定を用いた。【結果と考察】等速性の膝屈曲及び伸展筋力においてはどの角速度でも有意差は認められなかった。等尺性伸展筋力は207.5±48.8Nmから222.7±63.8Nmへと、CKC筋力は1144.7±409.8Nから1404.4±197.7Nへと有意に筋力が増加した。また、腹筋力においても143.4±47.7Nから175.0±87.0Nとなり筋力増加が認められたが背筋力は有意な差は認められなかった。ペダリング筋力においては、ストレングスエルゴによる等速性の全ての速度で筋力の変化はなく、エルゴメーターによる最大パワーの変化も見られなかった。パフォーマンステストにおいては6m hop, ステッピングテストにおいて有意にトレーニング効果が認められたが、その他は認められなかった。以上の結果より、4週間の高負荷ペダリングトレーニングは、1)等尺性膝伸展筋力だけでなくCKC筋力と下肢パフォーマンスを改善させることができること、2)下肢だけでなく腹筋筋力を増加させることができることが示唆された。
著者
国分 貴徳 金村 尚彦 西川 裕一 井原 秀俊 高柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0476, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに】 我々はこれまで,ラットにおいて膝前十字靭帯(以下ACL)完全損傷後に,関節の異常運動を制動することでACL完全損傷でも治癒しうることを報告した.これによりACL損傷後の靱帯治癒能には,損傷後における膝関節キネマティクスが関与していることを明らかにした.一方で,臨床における靱帯損傷からの回復には,靱帯自体の治癒という視点以上に,関節機能が正常化するかどうかという視点が重要でとなる.すなわち,組織学上は断裂した靱帯において連続性が確認されれば「治癒」ということができるが,臨床上ではその治癒した靱帯が,損傷以前に担っていた関節運動上の機能的役割を果たして初めて「治癒した」ということができる.本研究の目的は,我々がこれまで報告してきたACL完全損傷の保存治癒モデルを対象として,治癒したACLの機能的側面を力学的破断試験と免疫組織化学染色法を用いて明らかにすることである.【方法】 Wistar系の雄性ラット(16週齢)39匹をControl(12),Sham(12),実験(15)の3群に分類した.実験群に対して,麻酔下にて右膝関節のACLを外科的に切断し,徒手的に脛骨の前方引き出しを行いACLが完全断裂していることを確認した.続いて膝関節の異常運動を制動するため,脛骨粗面下部に骨トンネルを作製し,同部と大腿骨遠位部顆部後面にナイロン製の糸を通して固定することで大腿骨に対する脛骨の前方引き出しを制動した.術後はゲージ内にて自由飼育とし,水と餌に関しても自由摂取とした.術後8週経過時点で屠殺して膝関節を摘出した. 力学試験群は,採取組織をラットの膝関節構造に合わせて特別に作製したJigを使用して試験機(INSTRON社製)にセットした.Jigが膝関節裂隙の大腿骨・脛骨それぞれに引っかかるように試料を設定後,予備荷重として1.5Nを加えた状態を変位原点として荷重速度5mm/minで上下方向に引っ張り測定した.最大荷重(N),最大荷重時変位量(mm)を測定し,これらの結果から,stiffness(N/mm)を算出した.統計解析はSPSS16.0J for Windowsを用い,測定結果の比較にKruskal Wallis検定を適用し,有意な主効果を認めた場合にShafferの方法を適用して多重比較を行い,2群間の比較を行った.全ての分析において,0.05未満を有意水準とした. 免疫組織化学染色群(各群6匹)はcollagen typeI,II,IIIの一次抗体を用いてovernightで反応させ,その後はABC kit(Vector社,United States)を使用し行い,Dako Envision + kit /HRP(DAB)にて1分間発色し検鏡・撮像を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は,埼玉県立大学動物実験実施倫理委員会の承認を得て行った.【結果】 実験群では15匹全てでACLの連続性が確認された.力学試験の結果は,破断時最大荷重とstiffnessで,実験群が他の2群に比べて有意に低い値となった(p>0.05).最大荷重時変位には群間内に有意差を認めなかった.免疫組織化学染色の結果は,collagen typeIIIは,実験群において他の2群と比較してACL実質部において明確な陽性所見が確認された.【考察】 力学試験結果で実験群の強度が有意に低かったことから,本実験モデルの治癒ACLは関節運動における機能的側面を満たしているとは言えず,現時点では不十分な回復であると言わざるを得ない.また,免疫組織化学染色の結果では,collagen typeIIIは,実験群において他の2群と比較して,ACL実質部で明確な陽性所見が確認された.内側側副靱帯を対象とした先行研究ではcollagen typeIIIは,正常靱帯における含有量は少ないが,治癒靱帯では一時的に増加することが報告され,その後徐々にtypeI線維へ置き換わっていくことで靱帯の力学的強度が回復するとされている.このことから,本研究モデルは,治癒経過の一期間である可能性があり,今後collagen typeI・III含有量の比率が推移していくことで力学的強度も更なる回復が得られる可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 近年の健康志向の高まりにつれ,ACL損傷患者の年齢層も広がってきている.中年以降のACL損傷患者においては,様々な理由から保存療法は重要な治療の選択肢となりうる.しかし現状で行われている保存療法の治療満足度は非常に低く(Strehl.2007),変形性膝関節症のリスクを高める(Spindler .2007)とも言われる.より機能的で効果的な保存療法の確立は,理学療法領域における 重要な課題であり,本研究はこれに寄与するものである.
著者
田口 飛雄馬 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101113, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに,目的】全身持久力評価は,最も客観的な心肺運動負荷テスト(CPX)やフィールド歩行テストである漸増シャトルウォーキングテスト(ISWT),6 分間歩行テスト(6MWT)を用いられることが多いが,これらの評価法は高価な機器や,広いスペースが必要であり,また高負荷であるためリスクの観点からも通所施設や在宅分野では使用しにくい問題がある.一方,CS-30 はJanesらによって考案された下肢筋力評価法であり,片麻痺患者の最速歩行速度や排泄自立度,転倒予測などとの関連も報告されている.また,試験は椅子から立ち座りを繰り返すことから,全身持久力の評価になり得る可能性がある.そこで今回,健常者を対象にCS-30 とCPXを行い,CS-30 から最高酸素摂取量(VO2peak)を予測可能であるか,またCS-30 の運動強度や呼吸循環器系・筋酸素動態への影響を検証することを研究目的とした.【方法】健常大学生20 名(男性10 名,女性10 名,年齢21.0 ± 1.1 歳)を対象に,2 種類の負荷試験(CS-30,CPX)を実施した.その間,血圧監視装置tango(Sun teck社)を用いて収縮期血圧(SBP),心拍数(HR)を,呼気ガス分析装置(MataMax, Cortex社)を用いて分時換気量(VE),酸素摂取量(VO2)を,組織血液酸素モニター(BOM-L1TRM,オメガウェーブ社)を用いて右外側広筋の骨格筋酸素動態{総ヘモグロビン量(totalHb),脱酸素化ヘモグロビン量(deoxyHb)}を,自覚的運動強度は旧Borgスケールを用い呼吸困難感,下肢疲労感を測定した.またCS-30 は立ち上がりの回数も測定した.負荷プロトコル:CS-30 は高さ40cmの椅子に腰掛け,両下肢を肩幅程度に広げて両腕は胸の前で組ませ,30 秒間で可能な限り立ち座りを繰り返させ,その回数を数えた.CPXは自転車エルゴメーターを用い,ランプ負荷(男性:20W/min,女性:15W/min)で,ペダル回転数60rpmを維持させ症候限界まで運動させた.CPXとCS-30 の測定は1 日以上を空けランダムに実施し,中止基準は目標心拍数・自覚症状などとした.解析方法:1)CS-30 とCPXの各測定項目の比較:安静時を基準とした100 分率を用い,最大値(max),回復1 分(rec1),2 分(rec2)の値を算出した.解析は二元配置分散分析を用い,同時間における比較には対応のあるt検定を用いた.2)CS-30 の回数とVO2peakとの関係:従属変数VO2peak,独立変数をCS-30 の回数とする単回帰分析を行った.いずれも有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者の保護には十分留意して実施した.全対象者には本研究の趣旨と目的を説明し,自署による同意が得られた後に実施した.また研究は,事前に本学倫理委員会の承認を得た.【結果】1.CS-30 とCPXの各測定項目の比較:totalHb,deoxyHbを除く全ての指標でCS-30 の方がCPXよりも有意に低値であったが,全てにおいて時間要因との交互作用を認めた.また各時間における比較は,SBP,HR,呼吸困難感,下肢疲労感,VEで,全ての時間帯で有意差を認めた.また,最大値におけるCS-30 のCPXに対する割合は,SBP:83%,HR:84%,VO2:49%,VE:38%,呼吸困難感:74%,下肢疲労感:71%,totalHb:94%,deoxyHb:91%であった.2.CS-30 の回数とCPXのVO2peakとの関係:相関係数0.484(p<0.05)の有意な相関が得られ,VO2peak=-0.58+0.928 ×CS-30(回数)の予測式が得られた.【考察】CPXに対するCS-30の割合では,VO2maxで49%であった.これは運動強度がCPXの49%であることを意味している.また循環器系,呼吸器系の各パラメーター,呼吸困難感,下肢疲労感もCPXに対して有意に低値を示したことより,CS-30はCPXに対して負荷の少ない評価法であることが確認された.一方, deoxyHbは有意差がなく,骨格筋にはCPXと同等の脱酸素化が起こっていると考えられた.更にrec1:129%・rec2:126%と高く,CS-30 で回復が遅延することを示しており,これは骨格筋への負荷はCPX以上であることが推察された.また,CS-30 の起立回数とVO2peakには有意な相関があったが,決定係数は低いため,大まかな予測は可能であるが,精度を高めるには他の要因も考慮する必要があると思われた.【理学療法学研究としての意義】症候限界まで運動を行うCPX に対して, CS-30 は短時間で終了し,安全で理解しやすい利点がある.また本研究から,CS-30 は低負荷であり,全身持久力(VO2peak)との相関が確認された.CS-30 による全身持久力予測が可能となれば,通所リハビリテーション施設・在宅分野など,測定環境が不十分な施設で有用であると考える.しかし,下肢筋への負担は大きいことから実施後の転倒には十分気をつけなければならない.
著者
中島 卓三 木下 一雄 伊東 知佳 吉田 啓晃 金子 友里 樋口 謙次 中山 恭秀 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0737, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 我々は人工股関節全置換術(以下THA)後の靴下着脱動作に関与する機能的因子について検討している。靴下着脱動作は上肢・体幹・下肢の全身の複合的な関節運動であり、先行研究では靴下着脱動作における体幹の柔軟性の影響を明らかにすることが課題であった。THA患者の靴下着脱には脱臼防止のために股関節を屈曲・外転・外旋で行う長座位開排法(以下 長座位法)と端座位開排法(以下 端座位法)があるが、両法における脊柱の分節的可動性の違いを明らかにした報告はない。本研究の目的は、THA患者での検討の予備研究として、健常成人を対象に、靴下着脱肢位の違いによる脊柱の分節的可動を明らかにするとともに、靴下着脱時の脊柱分節性をより反映しうる評価方法を検討することである。【方法】 対象は健常男性20名(平均年齢31.6±6.3歳,身長172.4±4.6cm,体重65.8±7.0kg)、靴下着脱方法は長座位法・端座位法の2肢位で行った。体幹柔軟性の評価は一般的に使用されている長座位体前屈(以下 LD)と、今回新たな評価方法として下肢後面筋の影響を排除した端座位で膝・股関節屈曲90度、腕組みの状態から骨盤を後傾し体幹を屈曲させ肩峰と大転子を近づけるよう口頭指示して行う方法(SF)で評価した。測定にはスパイナルマウス(Index社製)を使用し、長座位法・端座位法・LD・SFの4肢位について、Th1~Th12までの上下椎体間が成す角度の総和を胸椎彎曲角、L1~L5までの上下椎体間が成す角度の総和を腰椎彎曲角、仙骨と鉛直線が成す角度を仙骨傾斜角として計測した。脊柱後彎(屈曲)および仙骨前傾は正、脊柱前彎(伸展)および仙骨後傾は負で表記した。長座位法・LDは安静長座位との差を、端座位法・SFは安静端座位との差を算出した。統計処理にはSPSS(ver19)を使用し、長座位法と端座位法およびLDとSFの相違を確認するためにWilcoxonの符号付き順位和検定を用い、靴下着脱動作それぞれとLD・SFとの関連にはSpearmanの順位相関係数を求め検討した。【説明と同意】 本研究は、当大学倫理委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言に則り施行した。【結果】 各測定値の平均は胸椎彎曲角(長座位法:端座位法:LD:SF=37.65±23.54度:44.45±8.89度:47.10±31.40度:64.55±18.03度)、腰椎彎曲角(41.00±9.44度:32.25±7.77度:44.80±13.71度:36.75±6.74度)、仙骨傾斜角(-18.30±5.00度:-16.75±9.04度:-5.45±10.84度:-19.20±7.33度)であった。長座位法と端座位法の違いでは腰椎彎曲角・仙骨傾斜角で有意差が認められ(p<0.01)、LD とSFの違いでは全ての項目で有意差が認められた(胸椎彎曲角・仙骨傾斜角:p<0.01、腰椎彎曲角:p<0.05)。また長座位法とLD・SFの関係では、LDの仙骨傾斜角(rs=0.77、p<0.01)で相関を認められた。端座位法とLD・SFの関連性では、SFの腰椎彎曲角(rs=0.72、p<0.01)・仙骨傾斜角(rs=0.52、p<0.05)で相関を認めた。【考察】 着脱肢位の違いによる脊柱の分節性では腰椎彎曲角・仙骨傾斜角が異なっており、下部体幹の分節性に違いがみられた。宮崎ら(2010)は、LDはSLRを代表とするハムストリングスや股関節の柔軟性を反映し、脊柱の柔軟性まで反映し難いと報告している。今回の結果からも長座位法は下肢の柔軟性の影響により、腰椎の後彎・仙骨の後傾の可動性が必要であると考えた。しかし、THA患者の場合では腰椎前彎、股関節屈曲制限を呈することが多いため、胸椎の後彎やその他の部位での代償が必要であると考えられた。一方、体幹柔軟性の評価方法の比較ではLDとSFは胸椎・腰椎・骨盤すべてにおいて異なった分節性であることが確認された。また、長座位法とLDの仙骨傾斜角で相関を認め、端座位法とSFの腰椎彎曲角・仙骨傾斜角で相関を認めた。LDは下肢の柔軟性の影響により仙骨の分節性を反映する評価方法であると考えられた。一方、SFに関しては端座位での腰椎・仙骨の分節性を反映し得る体幹柔軟性の評価方法であると考えられた。しかし、いずれの結果も健常人での比較であるため、股関節やその他の部位による多様の運動方略を持ち合わせていると考えられる。今後は股関節や腰椎の可動制限を認めるTHA患者を対象として測定を行い、着脱肢位の違いによる体幹分節性の違いを明らかにし、体幹の柔軟性を反映しうる簡便な評価方法を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 体幹柔軟性評価としてLDとSFは脊柱分節性に違いがあった。靴下着脱肢位の違いによって、その評価方法は使い分ける必要があると考えられた。
著者
長島 正明 蓮井 誠 永房 鉄之 美津島 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1576, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】自己免疫疾患などの炎症性疾患の急性期治療として,一般的に高用量ステロイド治療(30~60mg/日)が実施される。しかし,高用量ステロイド治療によって,ステロイド筋症が危惧される。主に速筋線維の萎縮が惹起され,筋力低下から転倒リスクが高まる。一方,骨格筋は身体の40%前後の重量を占めている。そこで我々は,筋力の推移は体重の推移から推測できると仮説した。本研究の目的は,高用量ステロイド治療中患者の筋力と体重の推移の関係性を検証することである。【方法】対象は高用量ステロイド治療目的で当院に入院した患者で,運動療法目的にリハビリテーション科に紹介となりADLが自立している17例とした。クレアチンキナーゼの上昇がない間質性肺炎合併皮膚筋炎および多発性筋炎4名,微小変化型ネフローゼ3名,全身性エリテマトーデス2名,肺サルコイドーシス2名,成人スティル病1名,天疱瘡1名,顕微鏡的多発血管炎1名,血管炎1名,非IgA腎症1名,膜性腎症1名で,男性10名女性7名であった。平均年齢は50±14歳,平均在院日数は68±18日,運動療法開始から退院時までの平均期間は49±14日であった。運動療法は,有酸素トレーニングとして嫌気性作業閾値の強度での自転車駆動20-30分,筋力トレーニングとしてスクワット運動や上肢ダンベル運動をBorg Scale13-15の強度で週5回実施した。測定は運動療法開始時と退院時に実施した。筋力は筋機能評価運動装置BIODEXを用い膝屈曲90°位で等尺性膝伸展最大筋力を測定した。体重,ステロイド服用量を診療録より記録した。骨格筋量は体組成計インボディを用い計測した。運動療法開始時と退院時の比較に,対応のあるt検定を用いた。また,筋力変化率と体重変化率の関係は,Pearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。結果は平均±標準偏差で示す。【結果】運動療法開始時/退院時で,1日あたりのステロイド服用量は45±8/30±5mgであった。体重は56.8±12.6/54.2±10.7kg(変化率-4.0±4.6%),骨格筋量は23.5±6.1/22.1±5.8kg(変化率-5.7±6.0%),膝伸展筋力は右113±60/101±58Nm(変化率-9.3±24.9%),左109±59/101±60Nm(変化率-6.8±27.1%)で有意に低下した。体重変化率と右膝伸展筋力変化率(r=0.67 p=0.004),体重変化率と左膝伸展筋力変化率(r=0.57 p=0.018)は有意に相関した。【結論】高用量ステロイド治療中患者の筋力は,運動療法を実施したにも関わらず有意に低下した。高用量ステロイド治療中患者の筋力減少と体重減少は有意に相関した。したがって,高用量ステロイド治療中患者において,筋力測定をせずとも体重減少から筋力低下を推測でき,転倒リスクの把握に有益である可能性がある。
著者
吉岡 美佐子 沖田 学 佐々木 克尚 森垣 浩一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Bf0848, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに】 顔面神経麻痺後遺症のなかで病的共同運動は頻度が多く,難治性である.病的共同運動は,顔面神経の過誤あるいは迷入再生に伴って,同じ側の顔面神経支配筋が同期して収縮する顔面筋の運動である.顔面神経麻痺の治療法として,従来から顔面筋の粗大筋力訓練,低周波治療などが用いられてきた.しかし,H.Diels(1998)によれば,それらの運動が病的共同運動を増悪させることから用いないとされている.今回,脳梗塞により中枢性顔面神経麻痺を呈した症例に対し,顔面筋の病的共同運動の抑制を目的に,口角部の求心情報に着目して認知運動療法を行った結果,改善が認められたため報告する.【症例紹介】 症例は,右脳梗塞により左下肢の脱力感,左口角の麻痺を訴え当院に入院となった90歳代の男性である.発症から2日後の初期評価では,Br. stageは全てstage6,額のしわ寄せは可能であったが患側口角の低下がみられ,中枢性顔面神経麻痺が認められた.顔面神経麻痺の評価として,Sunnybrook Facial Grading System(SFGS)が72/100点,Yanagihara40点法(Y法)が26/40点であり,いずれも上歯を見せる,口笛を吹くといった口の運動時に口角部の部分麻痺がみられた.ADL面では食事の際,患側口角部から水分の流涎があり,それを防ごうと頚部伸展位で嚥下を行い,その結果むせ込みが認められた.主訴として口が動きにくいと訴えがあり,安静時に左右口角の位置の違いや,患側の口輪筋部の触圧覚が「わかりづらい」と述べていた.また,安静時,運動時ともに左右の口角,口輪筋へ注意を向けることが可能だが促さないと自ら注意を向けることが困難であった.【説明と同意】 対象者及び家族には,本研究の主旨を口頭で説明し書面にて同意を得た。【経過】 本症例は患側口角部の感覚が不明瞭で,顔面を動かした際の口角部の感覚フィードバックが不十分なため,過剰努力によって粗大な運動になる可能性が考えられた.この病態に対し,2週間後の目標を患側口角部に自ら注意を向けることが出来る,6週間後の目標を患側口角部の求心情報を正確に判断し,安静時,開口時ともに左右口角部の対称性を獲得することを目標に,二つの課題を40日間実施した.一つ目の課題は,求心情報を正確に判断するとともに口角部への注意を促すことを目的に,閉眼下にて左右口角部への硬度識別課題と,素材の識別課題を行った.方法として,硬度が異なる4種類のスポンジと,柔らかい素材,キメが粗いザラザラとした素材,キメが細かいザラザラとした素材の3種類を用いて,閉眼にて硬度の識別と,素材の識別を行った.経過に応じて段階的に(1)健側での触覚,圧覚のイメージを患側へ移すこと,(2)左右口角部へ触覚・圧覚刺激を加え,左右の触覚・圧覚の違いを識別すること,(3)患側での2種類の触覚・圧覚の違いを意識するように教示を行った.二つ目の課題では,実際の運動と運動感覚の一致を目的に,小さくゆっくりとした運動を行い,鏡を用いてのフィードバック課題を治療介入当初から実施した.その結果,発症から約40日後の最終評価では,SFGSが91/100点,Y法が32/40点と,特に口輪筋部の麻痺の改善が認められ,安静時や開口時の口角部が左右対称となった.また,最終評価では患側口角部の感覚が「やわらかくて沈み込んでくる感じ」などと述べており,内省の変化もみられた.さらに,初期評価では安静時,運動時ともに促しがなければ左右の口角,口輪筋へ注意を向けることが困難であったが,最終評価では促しがなくても,自ら注意を向けることが可能となった.さらに食事場面においては,ゆっくりとした口角部の運動であれば患側口角部からの流涎もなく,むせ込みも認められなかった.【考察】 今回,病的共同運動を軽減させるために求心情報に注意を向け運動プログラムの再構築を図った.患側の口輪筋部の求心情報を正しく判断し,努力性収縮を制限した結果,異常な病的共同運動の抑制が可能となり,顔面の対称性の獲得へと繋がったと考えられた.【理学療法学研究としての意義】 四肢に対するリハビリテーションは既に,運動学習の原理に沿ったかたちで求心情報に注意を向け,運動プログラムの再構築を図っていくことが臨床展開されている.顔面神経麻痺の回復過程も構造的特殊性はあるものの,それらを含えたアプローチが重要と考えた.
著者
山科 典子 柴 喜崇 渡辺 修一郎 新野 直明 植木 章三 芳賀 博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1561, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】福祉用具はその使用により高齢者の日常生活動作の向上や介助量軽減,生活範囲の拡大を図ることができる。これまでに福祉用具の販売・貸与数は報告されているが,高齢者の福祉用具使用状況を報告したものはない。よって本研究は,一般高齢者(要支援・要介護認定を受けていない高齢者),要支援・要介護高齢者について,無作為標本抽出による実態調査を行い,高齢者の福祉用具使用状況を明らかにすることを目的とした。【方法】札幌市手稲区在住の65歳以上の一般高齢者,要支援・要介護高齢者から各2500名を無作為に抽出し,無記名の質問紙票による郵送調査を実施した。福祉用具使用に関する質問は,「あなたが普段使用している福祉用具すべてに○をつけてください」とし,杖,シルバーカー,歩行器,車いす,移動用リフト,補聴器,視覚補助具(拡大鏡など),ポータブルトイレ・尿器,食事介助器具,コルセット,上肢装具,下肢装具,その他,どれも使用していない,の中から回答を求めた(複数回答)。集計は介護度別に行い,統計解析として福祉用具使用率の性別比較についてχ2検定を行った。なお,5%未満を統計的有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】質問紙票の返送をもって同意とした。また,本研究は研究倫理委員会から承認を得た上で実施した。【結果】分析対象者は,一般高齢者1386名(男性715名,女性671名,平均年齢72.8±6.2歳),要支援・要介護高齢者998名(男性307名,女性691名,平均年齢82.7±7.4歳)であった。1.何らかの福祉用具を使用している人の割合何らかの福祉用具を使用している人の割合は,一般高齢者で22.4%(男性19.3%,女性25.6%),要支援・要介護高齢者全体で80.4%(男性75.6%,女性82.5%)であった。さらに,要支援1-2では80.2%(男性73.3%,女性83.2%),要介護1-2では76.7%(男性72.6%,女性78.5%),要介護3-5では87.6%(男性85.1%,女性88.7%)であった。なお,一般高齢者と要支援1-2では女性で福祉用具使用率が有意に高かった。2.使用率の高い福祉用具-要介護度・性別の検討-(1)一般高齢者男性では,コルセット6.2%,杖5.7%,補聴器5.2%,視覚補助具4.9%,下肢装具1.5%の順に,女性では,杖9.2%,コルセット7.6%,視覚補助具4.6%,補聴器4.3%,下肢装具2.2%の順に使用率が高く,杖・シルバーカーは女性で使用率が有意に高かった。(2)要支援1-2の高齢者男性では,杖51.7%,補聴器19.8%,視覚補助具19.8%,コルセット16.4%,下肢装具6.0%の順に,女性では,杖71.8%,コルセット26.7%,視覚補助具16.4%,補聴器10.7%,シルバーカー7.6%の順に使用率が高く,杖・シルバーカー・コルセットは女性で,補聴器は男性で使用率が有意に高かった。(3)要介護1-2の高齢者男性では,杖50.8%,視覚補助具16.9%,補聴器15.3%,車いす12.9%,ポータブルトイレ・尿器10.5%の順に,女性では,杖54.8%,車いす21.9%,コルセット16.5%,歩行器14.3%,補聴器13.3%の順に使用率が高く,車いす・コルセットは女性で,視覚補助具は男性で使用率が有意に高かった。(4)要介護3-5の高齢者男性では,車いす65.7%,杖20.9%,ポータブルトイレ・尿器19.4%,移動用リフト14.9%,食事介助器具13.4%の順に,女性では,車いす66.0%,杖31.3%,ポータブルトイレ・尿器20.7%,歩行器10.7%,補聴器8.0%の順に使用率が高く,移動用リフト・食事介助器具は男性で使用率が有意に高かった。【考察】一般高齢者の福祉用具使用率が2割以上であったことから,給付対象でなくとも何らかの支援が必要な対象が存在することが考えられた。また,福祉用具使用率には性差がみられ,介護度が低い高齢者において女性の使用率が有意に高かった。福祉用具の種類別では,使用率が高いものとして杖や車いす,コルセットが挙げられ,これらの福祉用具調整に関する知識・技能向上が求められると考えられた。また,補聴器や視覚補助具についても使用率が高く,高齢者の生活機能向上を考える上で理学療法士が使用方法等理解しておくことは必要であると考えられた。今後の研究発展として,使用率が高い福祉用具を中心に,需要と供給のバランスに関する調査や,使用方法・調整について適切か否かを調査する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】これまでに高齢者の福祉用具使用状況を報告したものはない。本調査の結果は,理学療法分野において今後の福祉用具に関する教育・研究を行う上での一助となると考えられる。
著者
湯口 聡 森沢 知之 福田 真人 指方 梢 増田 幸泰 鈴木 あかね 合田 尚弘 佐々木 秀明 金子 純一朗 丸山 仁司 樋渡 正夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D0672, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】 開胸・開腹術後患者に対して呼吸合併症予防・早期離床を目的に、呼吸理学療法・運動療法が行われている。その中で、ベッド上で簡易に実施可能なシルベスター法を当院では用いている。シルベスター法は両手を組み、肩関節屈伸運動と深呼吸を行う方法で、上肢挙上で吸気、下降で呼気をすることで大きな換気量が得られるとされている。しかし、シルベスター法の換気量を定量的に報告したものはない。よって、本研究はシルベスター法の換気量を測定し、安静呼吸、深呼吸と比較・検討することである。【方法】 対象は呼吸器疾患の既往のない成人男性21名で、平均身長、体重、年齢はそれぞれ171.0±5.2cm、65.3±5.6kg、24.9±4.0歳である。被験者は、安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸・深呼吸・安静呼吸または、安静呼吸・深呼吸・安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸のどちらか一方をランダムに選択した(各呼吸時間3分、計15分)。測定姿位は全てベッド上背臥位とし、呼気ガス分析装置(COSMED社製K4b2)を用いて、安静呼吸・シルベスター法・深呼吸中の呼吸数、1回換気量を測定した。測定条件は、シルベスター法では両上肢挙上は被験者が限界を感じるところまでとし、どの呼吸においても呼吸数・呼吸様式(口・鼻呼吸)は被験者に任せた。統計的分析法は一元配置分散分析および多重比較検定(Tukey法)を用い、安静呼吸、シルベスター法、深呼吸の3分間の呼吸数、1回換気量の平均値を比較した。【結果】 呼吸数の平均は、安静呼吸13.02±3.08回、シルベスター法5.26±1.37回、深呼吸6.18±1.62回であった。1回換気量の平均は安静呼吸0.66±0.21L、シルベスター法3.07±0.83L、深呼吸2.28±0.8Lであった。呼吸数は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法と安静呼吸・深呼吸との間に有意差(p<0.01)を認めたが、シルベスター法・深呼吸との間に有意差は認めなかった。1回換気量は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法・深呼吸のいずれにも有意差を認めた(p<0.01)。【考察】 シルベスター法は深呼吸に比べ1回換気量が高値を示した。これは、上肢挙上に伴う体幹伸展・胸郭拡張がシルベスター法の方が深呼吸より大きくなり、1回換気量が増加したものと考えられる。開胸・開腹術後患者は、術創部の疼痛により呼吸に伴う胸郭拡張が制限されやすい。それにより、呼吸補助筋を利用して呼吸数を増加させ、非効率的な呼吸に陥りやすい。今回、健常者を対象に測定した結果、シルベスター法は胸郭拡張性を促し、1回換気量の増加が図れたことから、開胸・開腹術後患者に対して有効である可能性が示唆された。
著者
白石 明継 熊代 功児
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0308, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】わが国の「大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン」によると,大腿骨近位部骨折患者の入院中の死亡原因となる合併症は肺炎が最多で,30~44%を占めるとされる。また,金丸らは大腿骨近位部骨折患者における術後1年以内の死因のうち,術後に発症した合併症の死亡率が術前に比べて有意に高く,その原因として肺炎が最も多いと報告している。そのため,術後の肺炎予防は生命予後において非常に重要である。先行研究では大腿骨近位部骨折の手術待期日数が合併症と関連があるとされる一方,早期手術と術後合併症は関連がないとする報告も散見され,術後の肺炎発症の要因について一定の見解が得られていない。そこで本研究の目的は大腿骨近位部骨折患者における術後の肺炎発症に影響する因子を検討することとした。【方法】対象は2013年1月~2016年6月に大腿骨近位部骨折にて当院整形外科に入院した65歳以上の患者459例のうち,術前に肺炎を発症した23例を除いた436例とした。対象者を肺炎非発症群(非発症群)422例,術後肺炎発症群(術後発症群)14例に分類し,患者要因として年齢,性別,神経学的疾患既往の有無,認知症の有無,呼吸器疾患既往の有無,医学的要因として受傷から手術までの日数(手術待期日数),血中ヘモグロビン濃度(Hb値),血清タンパク質値(TP値),血清アルブミン値(Alb値),理学療法要因として入院から理学療法開始までの日数(PT開始日数),手術から端座位開始までの日数(術後座位開始日数)を後方視的に調査した。統計解析は,非発症群と術後発症群間の比較を性別,神経学的疾患既往の有無,認知症の有無,呼吸器疾患既往の有無はχ2検定,年齢,手術待期日数,Hb値,TP値,Alb値,PT開始日数,術後座位開始日数は対応のないt検定またはMann-Whitney検定を用いて実施した。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】非発症群と術後発症群の比較の結果,術後発症群で有意に男性が多く(p<0.05),Alb値が低かった(p<0.05)。【結論】本研究におけるAlb値は入院時に調査した値であり,骨折受傷前の状態を反映していると考えられる。金原らは栄養状態と生体防御機構は密接に関わり合い,低栄養状態下では免疫能が低下すると報告している。そのため,本研究においても低栄養状態で入院した患者は感染に対する抵抗力が弱く,肺炎発症のリスクが高くなったと考える。本研究では理学療法で介入可能な要因は抽出されなかった。しかし,術後座位開始日数の平均値は非発症群2.2日,術後発症群3.6日であった。肺炎発症の要因として,長時間の仰臥位が報告されており,男性で入院時より低栄養状態を呈している症例は術後の肺炎発症のリスクが高くなるため,より早期から離床を図り,術後肺炎発症の予防を行うことが重要であると考える。
著者
田野 聡 鶯 春夫 高岡 克宜 松村 幸治 田岡 祐二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Da0983, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 小胸筋は,第2~5肋骨前面から起こり肩甲骨烏口突起に停止する。筋機能としては,肩甲骨の前傾,下方回旋の他に,吸気補助筋としての作用もある。臨床現場では,姿勢不良や肩こり,また呼吸器疾患においても,小胸筋の短縮または過緊張が認められる場合がある。このことから小胸筋の短縮が,肋骨の位置に影響を及ぼす可能性があると考えられる。そこで本研究では,擬似的に小胸筋短縮位にした状態(以下,小胸筋短縮位)での呼吸時の肋骨の動態を,超音波画像を用いて検討することを目的とした。【方法】 対象は,健常男性13名(年齢25.9±5.1歳)とした。超音波画像は,超音波画像診断装置(東芝,SSA-660A)とリニアプローブ(東芝,PLT-704AT,7.5MHz)を用い,Bモード法により表示した。リニアプローブは,右第4肋骨を標識とし乳頭ライン上に縦方向に置いた。測定肢位は座位で,上肢下垂位を基準肢位(以下,基準肢位)とし,小胸筋短縮位は自動運動にて肩関節を伸展,内転,内旋させることにより,肩甲骨前傾位とした。測定1:基準肢位と小胸筋短縮位での,肋骨の位置の相違をみる目的で,安静呼吸の吸気時と呼気時にそれぞれ分け,その位置を測定した。具体的な方法は,基準肢位における吸気時の第4肋骨の位置と,小胸筋短縮位における吸気時の第4肋骨の位置を比較した。呼気時も同様に実施した。測定2:安静呼吸の呼気時から吸気時までの肋骨の移動範囲をみる目的で,基準肢位と小胸筋短縮位で呼気時から吸気時までの第4肋骨の移動距離をそれぞれ測定した。また,その移動距離を比較検討した。測定3:深呼吸の最大呼気時から最大吸気時までの肋骨の移動範囲をみる目的で,基準肢位と小胸筋短縮位で最大呼気時から最大吸気時までの第4肋骨の移動距離をそれぞれ測定した。また,その移動距離を比較検討した。統計処理はt検定を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】 対象者には,本研究の主旨および内容を説明し,同意を得てから研究を実施した。【結果】 測定1:小胸筋短縮位の吸気時では,基準肢位吸気時より頭側に5.9±2.5 mm移動した。また,小胸筋短縮位の呼気時では,基準肢位呼気時より頭側に4.4±1.8mm移動した。測定2:基準肢位での肋骨の移動距離は3.2±1.2mmであった。小胸筋短縮位での肋骨の移動距離は2.0±1.1mmであった。小胸筋短縮位は基準肢位に比べ, 肋骨の移動距離は有意に小さかった(P<0.01)。測定3:基準肢位での肋骨の移動距離は8.5±5.4mmであった。小胸筋短縮位での肋骨の移動距離は5.7±4.3mmであった。小胸筋短縮位は基準肢位に比べ, 肋骨の移動距離は有意に小さかった(P<0.05)。【考察】 今回,擬似的な小胸筋短縮位では,測定1の結果より,吸気時,呼気時ともに肋骨が挙上した。小胸筋の短縮により,胸郭と肩甲骨の位置関係に影響を与え,烏口突起に付着する小胸筋を介して,肋骨の挙上変位が起こったと考える。また,測定2,3の結果より,小胸筋短縮位では,安静呼吸時と深呼吸時ともに,肋骨の移動距離は低下した。通常,肋骨は吸気時に挙上し,呼気時には挙上位から下制する。今回,吸気時に肋骨が挙上した後,呼気時において下制の移動が少なかったことにより,肋骨移動範囲が狭くなったと考える。小胸筋は,吸気補助筋として肋骨を挙上させることにより,胸郭を拡張させるといわれている。しかし,常時,小胸筋が短縮した場合,吸気時,呼気時ともに肋骨が挙上した状態であるため,胸郭の拡張は起こりにくくなるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 小胸筋に関しては,胸郭出口症候群や不良姿勢の際に重要視されているが,呼吸に関連した報告は少ない。今回,臨床で遭遇する小胸筋の短縮に対し,呼吸の観点より,その影響を超音波画像を用いて検証した。本研究の結果により,小胸筋短縮が,肋骨挙上を引き起こし,胸郭拡張が制限されると推察された。この結果は,臨床的有用性が高く,理学療法の治療にも反映するため,本研究の意義は大きいと考える。
著者
高木 祥 金岡 恒治 大久保 雄 大塚 潔 宮本 渓 辰村 正紀 椎名 逸雄 宮川 俊平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O2042, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】骨盤傾斜角度は脊柱アライメントに影響を与え、骨盤前傾位では腰椎前彎角は増加し、骨盤後傾位では逆に減少する。腰椎の過剰な前彎は腰痛の原因の一つと考えられ、腰痛のリハビリテーションとして腰椎前彎角を減ずることを目的に下肢のストレッチや骨盤後傾運動が行われている。骨盤前後傾運動においては,体幹の表層に位置するグローバル筋だけでなく,深層に位置するローカル筋の関与が最近の研究によって明らかにされてきているが,まだ詳細については不明な点が多い。また臨床において骨盤前後傾運動を実施する際,その運動範囲や運動様式には個人差が見られ,その評価は評価者の技術・経験などに影響される主観的なものであるため、より客観的に評価するための指標が望まれる。その指標の一つとして,骨盤前後傾可動域は比較的簡便かつ定量化が可能であり,有用だと考える。しかし,これまでに骨盤前後傾運動時の筋活動と可動域との関係を報告した研究は見当たらない。そこで本研究の目的は骨盤自動前後傾運動時の骨盤周囲筋の筋活動を明らかにし,さらに矢状面での骨盤前後傾可動域と筋活動との関係性を明らかにすることとした。【方法】健常成人男性12名(22.6±1.4歳,169.9±5.7cm,69.6±7.6kg)を対象とし,動作課題は立位骨盤中間位から最大前傾位までの骨盤前傾運動,次いで最大後傾位までの骨盤後傾運動を指示し,各運動中の筋電図を計測した。筋電図測定には,両側の腹直筋(RA)、外腹斜筋(EO)、脊柱起立筋(ES)および片側(右側)の広背筋(LD)、大殿筋(GMA)、半腱様筋(ST)、大腿直筋(RF)に表面電極(Vitrode F-150S; 日本光電)を貼布し,両側の腹横筋(TrA)、多裂筋(MF)にはワイヤ電極(UNIQUE MEDICAL社)を超音波ガイド下に23G注射針をガイドとして整形外科医によって挿入した。その後,電極が適切に刺入されていることを確認するために,電気刺激を加えて目的筋の収縮を超音波で描出した。ワイヤ電極刺入に関しては筑波大学倫理委員会の承認を得て実施した。サンプリング周波数は2000Hz,バンドパスフィルターは20-500Hzとした。等尺性最大随意収縮(MVC)時の筋活動で標準化した%MVCを算出し,さらに立位姿勢を保持するために要する筋活動の影響を取り除くため,骨盤前後傾運動時と安静立位保持時の%MVCの差で各筋を比較した。また骨盤前後傾可動域測定には,被験者の上前腸骨棘(ASIS)と上後腸骨棘(PSIS)にマーカーを貼付し,デジタルカメラを用いて矢状面における骨盤前傾位・中間位・後傾位の静止画を撮影した。その後,画像解析ソフトimage-J(NIH)を用いてASISとPSISを結んだ線が水平となす角度(骨盤傾斜角度)から骨盤前後傾可動域を算出した。さらに骨盤前後傾運動でそれぞれ大きい活動を示した筋を抽出し,筋活動と骨盤前後傾可動域との関係性について検討した。分析には骨盤前後傾運動時の各筋の筋活動の比較にTukey HSD法による多重比較検定を用い,骨盤前後傾可動域と筋活動との関係にはPearsonの積率相関係数を算出した。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】被験者には事前に研究について書面と口頭による説明の後,同意を得て研究を実施した。【結果】骨盤前傾運動時には骨盤中間位に比較して,両側のMFが23.9%,右ESは19.0%,左ESは13.6%と有意に増加した。また骨盤後傾運動時は左TrAのみ14.7%と有意に増加した。また,特に大きい活動を示した両側MF(前傾)、左TrA(後傾)と骨盤前後傾可動域との相関係数はそれぞれ,0.68(右MF),0.62(左MF),0.53(TrA)であり,骨盤前傾可動域と両側MFでは有意に高い関係を示した。【考察】骨盤前傾運動では骨盤の上後方に付着するMFやESによって,骨盤の後方が引き上げられ,骨盤の前傾運動が生じると考えられる。一方の骨盤後傾運動では,これまで恥骨に付着するRAが主に作用すると考えられていたが,今回の結果ではRAよりもTrAの筋活動が大きかった。TrAは骨盤前方の腸骨稜や鼠径靭帯にも付着するため,収縮により骨盤の前方が引き上げられ,骨盤後傾運動が生じると考えられる。また,骨盤前傾可動域とMFの間には有意に高い関係が認められたことから,より大きく骨盤を前傾させるには,MFの大きい筋活動が必要とされることが考えられた。骨盤後傾運動では左TrAと後傾可動域に正の相関は認めたものの,ばらつきが大きく個人差や左右差が大きいことも推察された。【理学療法学研究としての意義】本研究により,骨盤自動前後傾運動時の筋活動が明らかとなり,骨盤の運動を客観的に評価する指標として,骨盤前後傾可動域の有用性が示唆された。