著者
盛田 健彦 杉田 洋 磯崎 泰樹 吉野 正史 松本 眞 岩田 耕一郎 川下 美潮 滝本 和広 須川 敏幸 仲田 均
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

初年度は、繰り込まれたRVZ誘導変換に対して、代表者の先行研究で既に得られていた局所型中心極限定理を、応用上重要な関数を含むクラスに拡張した。2008年度以降に予定していたタイヒミュラー計量に付随した自然な拡散過程の構成については、当初予測していなかった難点にぶつかったが、幸いにしてディリクレ空間の方法によりタイヒミュラー空間のブラウン運動と思しき拡散過程の候補に至ることができた。
著者
石井 浩二郎
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、これまで未解明であったセントロメア新生反応機構について、分裂酵母の卓越した遺伝学を用いた新たに分子的な解剖を試み、セントロメア生来の必須機能の分子的な本質の理解を行ってきた。セントロメア機能傷害の発生に際して、染色体上の別座位に新たにセントロメア機能(ネオセントロメア)が獲得される現象は既に高等細胞で見出されているが、その出現を偏りなく人為的に誘導する実験系はこれまで報告がない。私たちは、高等生物と同等の分子構造を示す分裂酵母セントロメアに人為操作を加え、細胞内で条件的にセントロメアを染色体から切除するシステムを構築し、セントロメア欠失という致死的な傷害を既定の細胞集団に誘発する系を確立した。ネオセントロメアの新生をこの致死的細胞集団からの復帰生存株の出現という細胞応答として検出し、その反応素過程を分子生物学的に解析した。昨年までの解析により、分裂酵母第一染色体および第二染色体からのセントロメア欠失はネオセントロメア獲得細胞を再現性よく生成し、そのネオセントロメア形成領域として染色体両端のテロメア近傍が集中して選ばれていることが判明していた。テロメアの重要性を探るため、本年度はまずテロメア末端を欠失した染色体でのセントロメア欠失を行った。その結果、テロメアを欠く細胞ではいかなる復帰生存株も生まれないことを見出した。テロメア構造は染色体再編成に必須なことが示唆された。また、ネオセントロメア形成後の遺伝子発現の変動を人為的発現誘導によって解析し、セントロメアの転写に対する柔軟性がさらに明確に示された。
著者
上田 真世
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度、アヒル(水禽類)及びニワトリ(家禽類)各線維芽細胞に対するA/duck/HK/342/78(H5N2)感染実験において、ニワトリ細胞でのみ生じる進行性のアポトーシスの要因としてミトコンドリアの膜電位低下を明らかにした。これに基づき、今年度は膜電位低下の主要因とされる活性酸素の過剰産生ならびに細胞内Ca^<2+>濃度の変化に焦点をあて、ニワトリ細胞におけるアポトーシス誘導に関与するか検討した。ニワトリ細胞における活性酸素マーカーの発現はH5N2感染・非感染群間で大差は認められなかったが、抗酸化剤存在下において細胞生存率の回復が認められた。次に発育鶏卵を用い抗酸化剤処理・非処理両群にH5N2感染実験を行ったが、両群間で鶏卵平均死亡時間に変化は見られなかった。以上の結果より、H5N2感染時細胞単位では活性酸素の過剰産生がニワトリ細胞における進行性のアポトーシスに関与している可能性が示されたが、個体単位における病原性には活性酸素に加えさらなる因子の存在が示唆された。一方、細胞内Ca^<2+>濃度に関してはニワトリ細胞においてH5N2感染時顕著な濃度変化は認められず、Ca^<2+>キレート剤存在下においてもアポトーシスは進行した。これらの結果よりH5N2感染時のニワトリ細胞におけるアポトーシスにはCa^<2+>濃度変化は関与しないことが明らかとなった。アポトーシスに関与するウイルス因子として、昨年度組み換えウイルスを用い高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)のヘマグルチニン(HA)が重要であることを示したが、今年度はHPAIV-HAが細胞外から内へのCa^<2+>の流入を促す因子であり、その結果細胞内Ca^<2+>濃度の上昇をもたらしアポトーシスを誘導することを見出した。またHAと相互作用する宿主因子として小胞体シャペロン蛋白質であるGRP78を同定した。
著者
真下 節 柴田 政彦 井上 隆弥 阪上 学 中江 文 松田 陽一 住谷 昌彦 喜多 伸一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

神経障害性疼痛モデルマウスでは疼痛出現後しばらくしてうつなどの情動異常が発症するが、うつ行動の発現にはα2Aアドレノ受容体が深く関与していることを明らかにした。さらに、モルヒネ耐性マウスではデクスメデトミジンの鎮痛効果が増強し、後根神経節のα2A、α2Cアドレノ受容体mRNAの発現増加がみられた。また、神経障害性疼痛モデルラットでは、セロトニン2C受容体のRNA編集が起こり、受容体作動薬の疼痛軽減効果が増強された
著者
水島 恒和 伊藤 壽記 竹田 潔 中島 清一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

炎症性腸疾患(IBD)患者の炎症部では、マクロファージ様の形態を呈し、単球系マーカーのCD14 と樹状細胞マーカーの CD11c 両者が陽性である CD14+CD11c+細胞が増加していた。IBD 患者の非炎症部において、CD14+CD11c+細胞は非 IBD 患者と著変を認めなかった。CD14+CD11c+細胞は、腸管粘膜固有層において CD14-CD11c+細胞,CD14-CD11c-細胞に比し、有意に Th17 細胞を誘導していることが明らかになった。
著者
岡田 千あき
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、ポストコンフリクト(紛争後)期という社会の混乱期に実施された「地域住民による自発的なスポーツ活動」に期待された役割を明らかにすることを目的に、カンボジア王国シェムリアップ州で実施されている事例の検証をした。現地調査の結果から、「開発手段としてのスポーツ活動に期待された役割は、内発性を引き出すことである」という結論を得た。内発性とは、開発途上国の社会開発、人間開発の議論の中心になりつつある概念であり、人々の内発性が引き出され、適切なエンパワメントがなされることが、開発分野に求められている課題でもある。
著者
細谷 裕 波場 直之 尾田 欣也
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

標準理論を超える物理がLHCの実験で見えるか。ヒッグス粒子、フレーバー混合、ブラックホール生成の物理を鍵に、余剰次元の存在を検証できるか。これが本研究課題で追求する中心テーマであり、ゲージ・ヒッグス統合理論、フレーバー混合、ブラックホール生成を、主に余剰次元の観点からLHC実験への帰結に焦点をあて研究する。ヒッグス場の起源については、細谷機構により電弱ゲージ対称性をダイナミカルに破るゲージ・ヒッグス統合理論を中心に調べ、暗黒物質の正体に関わる宇宙論的帰結もあきらかにした。細谷達はRandall-Sundrum時空上で、現実的なクォーク・レプトンを含むSO(5)xU(1)モデルで、W,Zボゾン、ヒッグスボゾン,クォーク・レプトンの波動関数を決定し、電弱相互作用のゲージ結合の大きさ、湯川結合の大きさを決定した。前年度に、すでに、Aharonov-Bohm位相の値が量子効果により、90度となることが示された。このことを使い、ヒッグス場との3点結合は、厳密に零になることが明らかにされた。このことより、ヒッグスボゾンが安定になるという驚くべき描像が帰結される。さらに、その結果として、現在の宇宙の暗黒物質は実はヒッグスボゾンであるという可能性が生じ、WMAPのデータから決められた宇宙の暗黒物質の質量密度から、ヒッグスボゾンの質量が約70GeVと決定される。これらは、画期的な結果であり、今後、暗黒物質探索、加速器実験で更なる検証がなされるであろう。また、波場、尾田達は、5次元オービフォルド上で、ヒッグス場がある場合、ブレーン相互作用のために湯川結合が大きくずれることを示した。
著者
大鹿 健一 宮地 秀樹 相馬 輝彦 和田 昌昭 遠藤 久顕 河澄 響矢
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

まずKlein群について,Thurstonが1980年代に提示した問題群を中心にして基本的な理論の構成の仕事を行った.その中で,Thurstonの未解決問題のうち2つを完全に解決することができた.そこで得た結果をもとに,Klein群の変形空間の器楽的研究を行った.変形空間の境界の位相構造について新しい知見をえるとともに,指標多様体の中での変形空間の力学系的性質の研究を進め,原始安定性の必要十分条件を得ることに成功した.Klein群の成果をTeichmuller空間の研究に応用し,様々なコンパクト化の共通の地盤としての,簡約化されたコンパクト化の研究を進めた.
著者
生田 和良 小野 悦郎 岩橋 和彦 LUFTIG Ronal RICHIT Juerg 鐘 照華 ARUNAGIRI Ch
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

1)HIV-1はウイルス遺伝子変異が容易である。実際、HIV-1は幾つかのサブタイプに分かれる。しかし、これまでの大部分のHIV-1に関する知見は欧米や日本に蔓延しているB型ウイルスを用いて行われた結果である。HIV-1感染により引き起こされるAIDS病態を理解するためには、サブタイプ間に共通する現象とそれぞれのサブタイプにのみ認められる現象を正確に把握する必要がある。タイにおけるHIV-1E型感染者から得られた末梢血単核球(PBMC)と健常者由来PBMCとの共培養により2株のウイルス(95TNIH022および95TNIH047)を分離した。これらのウイルスを感染させたPBMCから抽出したプロウイルスDNAを用いて、HIV-1全長にわたりPCR増幅を大きく3領域に分けて行った。これらのPCR産物を用いて全長のHIV-1E型の遺伝子配列を決定した。さらにこれらのPCR産物を用いて、HIV-1E型ウイルスの感染性DNAクローンを作製した。また、このウイルスのnef遺伝子を大腸菌で発現し、Nef蛋白に対する免疫応答能を検討した結果、B型感染者の約40%で検出されたが、その大部分がB型HIV-1に特異的な抗体であった。一方、E型感染者での大部分では抗Nef抗体が極めて低かった。2)コスタリカにおいて、ウマおよびうつ病患者においてボルナ病ウイルス(BDV)感染例が認められた。また、中国の精神分裂病患者末梢単核球内のBDV遺伝子検出を試み、約40%に認めた。これらの多くに抗BDV抗体も検出した。3)米国の神経疾患患者の剖検脳サンプルを入手し、現在BDVおよびHIV-1遺伝子の検出を行っている。
著者
石原 盛男 豊田 岐聡 植田 千秋 内野 喜一郎 圦本 尚義 倉本 圭 松本 拓也
出版者
大阪大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2004

まず新規に開発する超高感度極微量質量分析システムの構想決定を行い,その検討結果をもとに装置の製作を行った。その後,質量分析部,1次イオン照射系,レーザーイオン化について,それぞれ装置性能評価を行った。
著者
岸田 泰浩
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本課題は、アルメニア語のe-ラーニング教材の開発と電子版辞典の編纂を目的として遂行した。研究期間前半で作成したデータベースから学習教材という視点で文法項目や基礎語彙を抽出して再整理し、特にアルメニア文字の提示方法に重点をおいて教材サンプルを作成した。電子辞書については、単なる語彙集にならないように、品詞・不規則活用・構文情報等を記載し、アルメニア語学習に役立つ情報を積極的に取り入れた。また、基礎資料として蓄積した文法データベースそのものも、今後のアルメニア語研究に活用できる付随的成果となった。
著者
三宅 真紀
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、聖書学におけるギリシャ語新約聖書の主要な校訂本を対象にして、写本の異読情報を付帯した意味ネットワークを構築し、グラフ理論に基づいたネットワーク分析を適用した。また、共通箇所が多い校訂本に埋もれている微小な違いに焦点をあてながら、類似テキストの差異の抽出を試みた。さらに、類似性を表す統計値とTEI(Text Encoding Initiative)エンコードガイドラインに準拠して作成したディジタル批判本を組み合わせた、異本比較研究ツール開発した。
著者
小口 一郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、近年の文化研究における「身体性」の再発見に基づき、ロマン主義文化の物質・肉体面を超領域的に考究し、ロマン主義の身体意識を宗教、文学、政治、哲学に通底し、ヨーロッパ全土に渡る超域的文化運動として再定義することを目的としている。文化史および文化理論の分野に棹さすものであるため、方法論的な原理を考察した後に、研究対象の時代順に研究に着手した。平成16年度は、ロマン主義以前の科学、政治思想、そして擬似科学の調査を実施した後、最初期ロマン主義の身体性の研究への見通しをつけた。まず、ヤコブ・ベーメ、カドワースを始めとする17世紀までの神秘主義者やプラトン主義思想家の宇宙観と、神の恩寵たる「流出」の概念、そしてそれを受けたニュートンの物理学と、宇宙に遍在する「能動的原理」の思想、そしてプリーストリーら18世紀の非国教会派の科学的世界観を、ロマン主義の身体性に繋がる思想の流れとして捉え直した。こうした思想が、政治思想における共和主義、民主主義政治運動そして革命的急進主義の流れとへ結びつくことを、資料のレベルで確認した。この成果を基に、ロマン主義最初期の身体意識を概観した。1780年代から90年代にかけての英国および大陸ヨーロッパの急進主義と自然哲学、そして非国教会系の神学運動を調査し、ロマン主義文化のインフラストラクチャーとして位置付けた。この結果、ゴドウィン、エラズマス・ダーウィン、ウィリアム・ペイリーなどの政治思想が、神学および自然哲学の観点から再解釈され、ロマン主義的身体性の枠組みを構成することが明らかになった。同時に、18世紀の神経生理学が、神学と政治学を思想的に結び付け、ロマン主義初期の唯物論的な身体意識を産む思想的枠組みとなっていたことを突き止め、この観点から本研究の本年度における暫定的な結論付けを行った。
著者
加藤 洋介
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の主たる目的は、『源氏物語大成 校異篇』(以下、『大成』と略称)の別本校異について、刊行の際に割愛された音便や表記の異同などに関する校異を増補し、合わせて『大成』校異の誤脱を修正することにある。これにより『大成』青表紙本校異と『河内本源氏物語校異集成』(加藤洋介編、風間書房、平成13年2月。)を合わせ、ほぼ同一の採用基準によったデータに基づいて比較研究を行なうことができる環境を整えることになる。本研究は同研究課題名での前年度申請によって採択されたものであるが、すでに先の研究期間における研究成果報告書では、桐壺巻から幻巻を対象として、約16,000項目の校異を増補し、3,600箇所ほどの『大成』校異の補訂を行なった(加藤洋介『河内本源氏物語の本文成立史に関する基礎的研究』(平成12〜14年度科学研究費補助金 基盤研究(C)(2)研究成果報告書)、平成16年6月。)。この研究期間においては、残りの匂宮巻から夢浮橋巻までを対象とした調査とその結果のとりまとめを目指した。『大成』所収の別本伝本に関する調査を行い、データの集約と整理を実施した。約8,300項目の校異増補と『大成』の誤脱2,000箇所程度の補訂作業を終え、その結果を研究成果報告書としてまとめたところである(研究成果報告書は『大成』の判型に合わせるためB5判とした)。これにより『大成』の別本校異すべてにわたる増補補訂作業を終了したことになる。今後は『大成』未収伝本へと調査対象を拡大し、『別本源氏物語校異集成』(仮称)として書籍刊行できるよう、研究の継続を計画している。また今回の調査研究の過程において、『大成』の青表紙本校異についても同様の調査が必要であることが判明しつつあり、こちらについても近々研究を開始したいと考えている。
著者
川村 邦光
出版者
大阪大学
雑誌
待兼山論叢. 日本学篇 (ISSN:03874818)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.1-11, 2006-12-25