著者
茶谷 直人 中尾 佳亮 村上 正浩 岩澤 伸治 伊東 忍 川口 博之 真島 和志 後藤 敬 城 宜嗣 林 高史
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

研究は、当初予定していた以上の成果を挙げることができました。領域全体として、5年間で発表した論文数は、1400報近くあり、多くの特許申請もありました。本領域は若手育成に積極的に取り組んできました。例えば、若手研究者の海外講演派遣・国際若手セミナーの開催をおこないました。企業との交流や共同研究への展開を促進することを目的として、企業班友を設立しました。HPだけでなく、班員の研究、トッピクスなどを紹介するニュースレターは、毎月1回、50号まで発行しました。さらに、国際シンポジウムの開催や分子活性化に関連するシンポジウムやセミナーなども主催あるいは、後援し、分子活性化の活動をサポートしてきました。
著者
豊福 利彦
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、個体発生の過程で神経提細胞による心臓流出路形成、網膜の光受容体形成におけるセマフォリンの役割を解析した。クラス6セマフォリンは心臓流出路形成の細胞移動を制御すること、クラス4セマフォリンは網膜の光受容体形成を膜輸送制御を介して制御することを明らかにした。
著者
鍋島 祥郎
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

同和地区住民の学歴構成は一般的水準と比較して著しく低い。学歴構成上の格差は地区児童・生徒の教育達成水準の著しい低さによって再生産され、同和問題の解決の大きな障壁となっている。地区住民の生活過程で発生する問題に対処するものとして従来より隣保館が設置され、青少年向けに児童館・青少年会館等も設置されている地区も少なくない。本研究ではこれらの施設における教育施策について、1)生涯学習体系への移行、2)同和行政の一般施策への移行、3)「地区住民の自律精神の涵養」という視点から実証的な再評価を、大阪府・鳥取県・福岡県下において観察・インタビューを中心とするフィールドワークによって行った。その結果得られた知見は以下の通りである。1)隣保館の施設・設備、職員配置、事業運営費は必ずしも地区の人口・就労・生活実態に応じたものではない。とりわけ財政規模の小さい市町村において遅滞が目立つ。2)都市型部落の一部を除いて、生涯学習体系への移行を視野に入れた事業展開を試みているところは皆無である。成人教育事業として着付け・書道・茶道などが大部分の隣保館で行われているが、住民の学習ニーズと合致しておらず参加社の減少が続いている。同和地区の学習ニーズに応じた生涯学習事業の展開は、自治体にも隣保館職員にも重要だとは認識されていない。3)青少年向け学習事業は、算盤・習字などの隣保館事業、学校教職員の手による学力補充事業、都市部を中心に子ども会が組織されているところもあるが、地区によるばらつきが大きい。低学力や家庭の教育力の脆弱さを鑑みた事業展開とはなっていない。4)地区住民は学歴・教育達成上の大きな格差に危機感は持っているが、その解決方法については、家庭教育・社会教育・学校教育のいずれのレベルについてもノウハウも情報も持っていない。5)一般の生涯学習(社会教育)施策水準の低さと、同和対策という特別施策の中で行いうる事業の限界が、地区の教育水準の上昇を促す行政施策に必要な質と柔軟性を損なっている。
著者
神林 恒道 渡辺 裕 上倉 庸敬 大橋 良介 三浦 信一郎 森谷 宇一 木村 和実 高梨 友宏
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

この「三つの世紀末」という基盤研究のタイトルから連想されるのは、十九世紀末の、いわゆる「世紀末」と呼ばれた時代の暗く停滞したム-ドかもしれない。われわれはいままさに「二十世紀末」を生きている。そこからややもすれば「世紀末」という言葉に引きずられて、われわれの時代をこれと同調させてしまうところがあるのではなかろうか。しかしまた実際に、六十年代頃から現在に及ぶ芸術の動きを見やるとき、そこには芸術それ自体としてもはや新たなものは生み出しえない一種の先詰まりの状況が指摘されもする。といってかつての「世紀末」のような暗さはあまり感じられない。ダント-の「プル-ラリズム」、つまり「何でもあり」という言葉が端的に示すように、その気分は案外あっけらかんとしたものだと言えなくもない。今日の「何でもあり」の情況の反対の極に位置づけられるものが、かつて「ポスト・モダン」という視点から反省的に眺められた「芸術のモダニズム」の展開であろう。ところで「ポスト・モダン」という言い方は、いってみれば形容矛盾である。なぜならばmodernの本来の語義であるmodoとは、「現在、ただ今」を意味するものだからである。形容矛盾でないとすれば、この言葉のよって立つ視点は、「モダン(近代)」を過ぎ去ったひとつの歴史的時代として捉えているということになる。それでは過去にさかのぼって、いったいどこに「芸術における近代」の始まりなり起点を求めたらよいのだろうか。そこから浮かび上がってくるのが、「十八世紀末」のロマン主義と呼ばれた芸術の動向である。ロマン主義者たちが掲げた理念として、「新しい神話」の創造というものがある。そこにはエポックメイキングな時代として自覚された「近代」に相応しい芸術の創造へ向けての期待が込められている。この時代の気分は、「世紀末」の暗さとは対照的であるとも言える。つまりこの「三つの世紀末」という比較研究を貫く全体的テーマは、「芸術における近代」」の意味の問い直しにあったのである。
著者
小木曽 啓示 今野 一宏 後藤 竜司 高橋 篤史 角 大輝 藤木 明 臼井 三平 川口 周
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

複素力学系及び双有理幾何学の融合により, 双方の未解決問題に貢献すること, 関係する新しい現象の発見が本研究の主目的である. 成果として, 正のエントロピーをもちかつ原始的正則自己同型を許容する3次元有理多様体, カラビ・ヤウ多様体の存在問題の肯定的解決, Wehler型と呼ばれる任意次元のカラビ・ヤウ多様体に対するKawamata-Morrison錐予想の完全解決, Ueno-Campaana問題の肯定的解決, Gizatullin問題の否定的解決, 正標数の代数幾何への複素力学系の応用などを得た. また, 成果が高く評価され, 2014年の国際数学者会議の招待講演者に選定された.
著者
金田 安史 種村 篤
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

我々は複製能を欠いた不活化 Sendai virus (HVJ envelope ; HVJ-E)が様々な抗腫瘍作用を有することを見出している。これを用いた癌治療の臨床研究も開始された。そこでさらに抗腫瘍効果を増強するため、HVJ-E に封入する分子を検討したところ、抗腫瘍免疫を増強できる分子として IL-12, IL-2 の有効性が見出された。IL-12 遺伝子を封入する代わりに、IL-12 蛋白質を表面にもつ HVJ-E はさらに強力な癌治療効果を示した。また抗がん剤(ダカルバジン)の効果を高めるために Rad51siRNA の封入が効果的であった。
著者
小清水 右一
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1. マウスPB-カドヘリンのcDNAクローニングに成功し,その胎児期における発現様式の検討を行なった. Northern blotではPB-カドヘリンは胎生9日齢ごろよりその発現が認められ,胎生後期にかけてその発現量の上昇がみられた. より詳細な発現部位を明らかにするためin situ hybridizationを行なったところ,きわめて特異的なPB-カドヘリンの発現様式が確認できた. すなわちPB-カドヘリンは胎生10日齢では神経管と肢芽にのみシグナルが観察できる. 神経管における発現は腹側に限局して認められ,また将来小脳形成のオーガナイザー領域として機能する中脳-後脳境界領域(いわゆる峡脳)に特に強い発現が認められた. 一方,肢芽における発現はその後端,いわゆるZPA(zone of polalizing activity)領域に限局しており,その後,指骨軟骨凝集塊にその発現部位が変化する. PB-カドヘリンのこの様な発現様式は各種組織・器官の形成に関与する形態形成関連遺伝子,特にShhやFGFファミリー,wntファミリーの各種因子の発現とよく似ており,PB-カドヘリンの発現がこれらの因子により制御されている可能性を推測させるものである.2. マウスおよびヒトPB-カドヘリン遺伝子のゲノムクローニングを行った. マウスに関してはすでにほぼ全長に相当する領域の構造決定を済ましており,現在,マウスおよびヒトにおける染色体マッピングを行っている.3. dominant-ncgalivc型PB-カドヘリンを小脳形成領域に特異的に発現するトランスジェニックマウスの作製を試みた. その結果,すでに5系統のトランスジェニックマウスを得ることに成功しており,順次,その表現型の解析を進めている.
著者
大野 陽子
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

初年度の現地調査の結果、アントニオ・カンピ作品のうちミラノのサンタンジェロ聖堂ガッララーティ礼拝堂とミラノ近郊の巡礼地インヴェリゴの聖堂の作品に研究を絞ることとなった。前者はミラノ北辺の聖カテリーナ巡礼地への注文者の崇敬に結びつていると判明し、後者とともにカトリック改革期における巡礼地と美術の関係、民衆的信仰心により生まれたイメージの排除と残存の問題という更なる研究テーマへ繋がった。画家の制作背景に関する研究の一環として外国支配下にあった16世紀のミラノにおける外来の芸術家と地元画家の軋轢を明らかにした。
著者
塩谷 捨明 野村 善幸 星野 貴行 酒井 謙二 片倉 啓雄 仁宮 一章
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、東南アジア各国の乳酸菌研究者及び菌株のデータベースを構築することによって、乳酸菌の実用化に向けた相互利用・共同研究を促進させることを目的としている。平成16年度には次年度に向けた予備的な調査を行った。そして平成17年度は「海外調査」ともに「データベース作成とデータ登録」を行った。本研究では、ベトナム、マレーシア、フィリピン、モンゴル、インドネシア、タイにおける大学及び研究機関を中心に訪問し、調査を進める一方、研究者への協力を依頼した。なかでもインドネシアで開催されたアジア乳酸菌学会では多数のアジア乳酸菌研究者の集まる中、本調査の趣旨説明と協力要請を行うことができた。また、日本生物工学会では、韓国、タイ、ベトナム、フィリピンより乳酸菌研究者を招聘しシンポジウムを開催し、乳酸菌研究の相互理解をさらに促進することができた。以上より、合計約30名の研究者情報、および、30株程度の乳酸菌株情報が得られた。一方、各国の乳酸菌研究者及び菌株データを集計・整理するためのデータベースの作成に当たっては、充実すべき調査項目等を議論した上、フォーマットを決定した。データベースについては、ホームページ上にてアクセス・入力可能なフォームを完成させデータ入力準備完了となった。東南アジアの乳酸菌研究者情報に加えて、国内の研究者ならびに乳酸菌株情報を登録した。現在、データベースには、350超の菌株情報とその所有者等の情報が登録されている。
著者
森原 剛史 武田 雅俊 工藤 喬 田中 稔久
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

NSAID誘導体によるAβ42産生の抑制作用は認められなかった。背景遺伝子を混合させたAPPトランスジェニックマウスはAβ蓄積を修飾する遺伝子群の収集には大変有効であった。候補遺伝子アプローチで炎症関連遺伝子の関与を調べたが、有意な関係は認められなかった。高齢者の血中CRPと認知機能の変化の関係は本研究機関では認められなかった。
著者
高杉 英一
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

当研究の目的は電磁弱統一模型の現象論的解析、およびこの模型では起こり得ないような現象の可能性を調べこの模型の妥当性を吟味することにある。そのために次のような3つのテーマについて研究を行った。1)CPの破れの起源の研究:CPの破れの起源は小林・益川機構によるものか、他の機構なのかは重要な問題である。Bメソン系でCP非対称性は純粋に弱い相互作用だけで決定されることから、CPの破れの起源解明の重要な鍵となってきた。当研究では、CPが最初から破れている小林・益川理論とは対照的なCPが自発的に破れる理論での諸現象を考察し、小林・益川理論の予言と比較した。特にこの模型ではトップクォークの質量は、500GeV程度の軽い質量でよいことや、色々の崩壊モードで差が現れることがわかった。[論文1]2)超粒子を探る研究:超粒子は超対称性理論に現れる粒子である。たいてい質量は1000GeVぐらいと考えられているが、ジーノZ^^〜と呼ばれているZボソンの相棒の質量はよく分かっていない。νの相棒のν^^〜が非常に軽い場合があるが、その場合2つの電子と共に2つのν^^〜を放出する二重ベータ崩壊が考えられている。この崩壊巾はZ^^〜の質量にのみ依存するため、二重ベータ崩壊の寿命からジーノの質量の下限がえられ、MZ^^〜>1GeVを得た。[論文2]3)ダイバリオンを探る研究:最近筑波大の岩崎らは格子ゲージ理論の計算により6つのクォークssdduuの束縛状態であるH粒子の質量が核子の質量の2倍より軽いことを示した。当研究ではN_i→N_f+H,N_i→N_f(H)+e^++νの理論計算と実験との比較を行い、M_H>18700GeVをえた。結果としてHが2つに核子の質量より軽い可能性はほとんど排除された。[論文3]
著者
木島 由晶
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

ニューヨークでのフィールドワークをもとに、販売員の国際比較をおこなった。1.組織構造の逆転日米ともに、通説とは逆の組織構造を発見することができた。日本ではMLMは俗にネットワーク・ビジネスとも呼ばれ、知人を勧誘することでグループを成長・拡大させてゆく。したがってその組織構造は官僚制的なヒエラルヒーではなく、ゆるやかな横のつながりを基調としたものであるとされる。けれども実態は大きく異なり、微視的にみれば販売員は「友だちの輪」によって結びついているが、巨視的にみればピラミッド型の階層構造のなかでインフォーマルに職務の分担がおこなわれている。米国ではMLMはダイレクト・セリングと呼ばれ、直接、企業と消費者を取り結ぶ販売組織であると認知されている。代理店を通さない代わりに、販売組織の中では武道の段位制にも似た階級が設定されており、それに応じてバックマージンの給付率も変わる。だが、明確な階級が設定されていても、販売員の職務には反映されていない。上級クラスに権限は乏しく、販売員は各自の裁量に基づいた販売計画を実行している。2.文化的要因の格差米国の販売スタイルを踏襲した日本のMLMが異なる販売組織の形態をとるようになった背景には、地理的要因、歴史的要因などのさまざまな要因が絡みあっているが、最も重要なのは文化的要因と考えられる。元来MLMは、合理性を追求する米国の気風のなかで生まれた商法だったが、通常のビジネスとは異なる副業としての価値が認知されるにつれ、他に仕事をもつ人が自由におこなう余暇的側面を強めることになった。一方で、日本を中心とした諸外国では、高度経済成長期に流入することにより、旧来の職業的観念とは異なる外資系ビジネスとしての価値を獲得する。そのため筆者の類型でいえば、米国にはMLMに商売以上のものを求める<ディストリビューター>型が多く、日本には現世利益を追求する<ネットワーカー>型が多いということになる。
著者
荒川 正晴 吉田 豊 武内 紹人 吉田 豊 武内 紹人
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

コータンより出土した豊富な文字資料のうち、漢語およびコータン語・ソグド語・チベット語関係の資料について精査し、新たな資料を発見するとともに、従来の研究の不備を補った。とりわけ大英図書館が所蔵するコータン出土木簡に未発表のものがあることを公表するとともに、これまで等閑にされてきたスウェーデン国立民族学博物館所蔵のコータン出土資料を調査し、これまでの研究の誤りを訂正したことは, 今後の文書研究および中央アジア史研究に資するところ大である。
著者
木原 善彦
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本年度は主に、現代アメリカ文化における「エイリアン的なもの」を、ポストヒューマンな領域に探求した。近年のアメリカ文化において「エイリアン」は常に巨大科学の暗黒面として現れてきており、外宇宙探査に対応する地球外知的生命体、人体という内宇宙研究に対応するバイオテクノロジカルな異星人などがイメージされてきた。それらは詰まるところ、科学技術の加速や暴走に対する畏れ/恐れを外宇宙に投影したアイコンだった。さらに最近、そうした畏怖の対象となりつつある科学技術がナノテクとサイボーグ技術であり、それらはともに生物と無生物との境界を侵す技術であるため、もはや「エイリアン的なもの」が異星「人」や異星「生物」として現れることはなく、もっと身近なところでの不安に反映される。結局、この「生物と無生物との境界」でのせめぎ合いは、すなわち人間そのものを変える可能性として、「ナノ粒子の環境への影響」、フランシス・フクヤマの言う「人間の終わり」などの議論で脅威として取り上げられる一方で、大衆文化的にはSF映画・小説に頻出するナノマシンやサイボーグという形を取っている。この変化は、リメイクされた映画『宇宙戦争』(1953,2005)やSF映画界での近年の宇宙ものの不振などに典型的に現れている。現在、「エイリアン的なもの」は人体改造や向精神薬、ナノ粒子やコンピュータプログラムのバグなどに存在し、それらは一方で各人の生活様式や文化と密接に結びついているため、エイリアン的畏怖が文化的摩擦と極度に接近しており、また他方では偶然性に結びついているために感情的鈍磨にも一役買っていると言えるだろう。
著者
渡辺 秀樹
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

3年間に1)古英詩の詩語と定型句の意味と系譜、2)動物名人間比喩義の収集分類と構造性の考察、3)研究基礎資料となる英語各種辞書における定型表現と比喩義の扱いの比較を続けてきた。第1分野は柱となる研究で、20年来取り組んで来た古英詩Beowulfのメタファー研究を進め、英文論文2点を雑誌に発表、博士論文を基に古英詩の比喩と定型表現研究書を出版した。論文1点は日本中世英語英文学会の機関誌、学会創立20周年記念号に寄稿を依頼されたもので、それを機にミュンヘン大学Hans Sauer教授より本詩の日本人研究文献表の作成を依頼された。論文は後にBeowulfの研究ハンドブックや最新校訂版に言及されることになって英語史学界に成果を広く認められた。第2分野では3年間で英語鳥名および犬科の名詞群の人間比喩義の体系を明らかにし、特定メタファー表現としては諺的直喩表現"as dead as a dodo"の発生と変化・拡散過程を中世英語の類似表現から論を起こし、19〜20世紀の200年のスパンで示した。両方の研究テーマおよび成果は先行研究が全くない当該研究者のオリジナル論考である。発表論文に対する反応および進捗状況を見て、英語動物名メタファー研究は、他の動物名に拡大して深化させる価値と必要があると判断し、これを研究テーマとする新たな科学研究費補助金研究を申請、採択されて継続中である(平成19〜22年科学研究費補助金基盤(C)(2)英語における動物比喩の総合研究:その歴史・構造・ジャンル(課題番号19520421))。第3の分野は辞書学とメタファー研究の複合で、比喩義や定型表現の独特な説明で名高い英和辞書『熟語本位英和中辞典(齊藤秀三郎)』を参照することが多かったため、研究副産物の形でこの辞書の英文序文の比喩・イディオムの使用法を解読した。これは後に英文書評論文に発展してヨーロッパの歴史的言語研究誌Historigraphia Linguistica(2006)に掲載された。3年間の研究では本来の古英詩文体研究が進み、重要テーマ、英語動物名の比喩体系研究が見出された。研究成果は出版論文・著書・学会口頭発表により公にされて反響を呼び、学界を刺激し一定の評価も得て、今後のBeowulf関係のシンポジウム企画・司会や英語連語研究のシンポジウムの講師を依頼されている。内外の古英詩研究者、英語メタファー研究者、英語辞書編纂者、諺・定型句研究者に新たな知見と資料を提供するものであると信ずる。
著者
伊藤 正 枝松 圭一 村松 宏 松村 宏
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

近接場光学顕微鏡(SNOM)のナノスケール分光と高機能化を研究した。1.ポリスチレン微小球配列結晶の近接場効果(1)結晶のフォトニックバンドに共鳴する波長をはさんで、SNOM透過光像が反転した。長波長側は球の周辺部、短波長側は球の中心部が明るい。共鳴付近では全体に広がった。この様子は計算でも再現できる。(2)照射モードと集光モードにおけるSNOM像は一致した。計算との比較によると、SNOMプローブは2次元面内に平行な偏光成分を主に検知している。(3)微小球の直径、プローブの開口径、光波長の3つの要素により、SNOM像は大きく変化するので、プローブの解像度を知る方法として有効である。(4)反応性イオンエッチングによって配列位置は変えずに微小球の大きさを削ると、フォトニックバンド幅が減少した。微小球に固有なWGモードの球間重なり積分の変化が原因であり、結晶中の電子のバンド構造形成と類似ている。2.高機能化(1)プローブの縦方向の位置制御用に水晶振動子を用い、非光化プローブを作製した。(2)クライオスタット内にSNOM装置を設置し、試料を熱伝導で約100Kまで冷やした。(3)ストレートタイプのプローブを用いて、偏光度測定の感度を向上させ、サブミクロンサイズのペリレン微結晶の方位を決定した。(4)石英ファイバープローブを用いた紫外光近接場測定や、バネ定数の小さなプローブにより基板に密着力の弱い微結晶試料の測定を可能とした。3.ナノスケール光加工(1)ペリレン微結晶表面への近接場光照射により直径100nm以下、深さ数10nmの穴を光加工できた。光生成された表面励起子が表面分子の蒸発又は光分解を引き起こすものと解釈される。(2)加工後の微結晶表面形状に経時変化が見られる。AFM観察により室温における表面分子の平均拡散速度は2-3nm/minと求まった。
著者
大竹 文雄 有賀 健 黒澤 昌子 佐々木 勝
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、職場における訓練需要の決定メカニズムおよび生産性ショックに対応するための組立ラインの組内の持ち場のローテーションおよび組間の配置転換を通じた組織変化と訓練需要との関連を分析した。具体的には、OJT(職場での仕事をしながらの訓練)の決定要因に関する推定とOJTが生産性に影響を与える効果についての推定を行った。この分析を行うために、二つの自動車組み立て企業における組み立てラインの作業員と組長について継続的な独自調査を行なった。
著者
西田 伸子 久保庭 雅恵 山本 裕美子
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

歯周病メインテナンスのために通院している患者のうち、当該研究への同意および協力の得られた者を対象に調査および分析を行った。現在喫煙者を除外して分析したところ、歯周病メインテナンスの向上には、内服薬の有無、喫煙履歴が強く関与していることが明らかとなった。内服薬服用者は、非服用者と比較して歯周病進行部位数が統計的に有意に多かった。また、内服薬非服用者を抽出してさらに分析したところ、元喫煙者は、非喫煙者と比較して歯周病進行部位数が統計的に有意に多かった。
著者
荒尾 晴惠 小林 珠実 田墨 惠子
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

【研究目的】本研究は、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害について明らかにし、患者自身が必要なセルフケアを実行できるよう支援する有効な看護介入を考案することにある。最終年度の平成22年度は、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害の様相を明らかにすることを目的として2つの研究に取り組んだ。【研究方法】研究(1)外来通院中の化学療法を受ける乳がん患者を対象に、認知機能障害の様相について質的研究を行った。半構成的面接法を行い共通したコードを集めてカテゴリー化した。研究(2)在宅療養中の乳がん患者を対象に研究者らが作成した認知機能障害の項目について自記式質問紙による調査を行った。研究の実施にあたっては、調査施設の研究倫理委員会で審査を受け承認を得た後に実施した。【結果と考察】研究(1)対象者は10名で、全員が女性、平均年令は53.5歳、2名が術前化学療法。〈自覚する認知機能の変化〉として《記憶力の低下》《思考力の低下》《注意力の低下》があった。さらに、《家族からの認知機能の評価》があり、自分では気づかないが同居者から指摘を受けていた。影響を与える状況として、末梢神経障害や倦怠感などの〈身体機能の変化〉と同時に〈心の在り様の変化〉があった。これらは《注意力の低下》に影響し〈いつもの暮らしの継続の支障〉として《自動車運転への支障》《対人関係への支障》を来していた。また《記憶力の儀下》は、《家事遂行の支障》を引き起こしていた。研究(2)対象者は30名(回収率62.5%)全員が女性平均年齢は55.3歳。認知機能障害の項目として対象者の自覚があったのは短期記憶、運動機能、情報処理速度だった。以上の研究成果から、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害の様相の特徴が明らになったが、加齢による認知機能障害との識別など課題も明確になっており、対象者の人数を増やし程度や時期による変化についても検証していくことを今後の課題とした。