著者
樫原 修
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の基礎には、広島県神辺町の高橋家に伝わる北條・高橋家文書を中心とした調査がある。そうした調査をもとに、原資料と鴎外史伝の比較検討を次に行った。鴎外が見得なかった資料をも含めた原資料と、鴎外の参照した資料、引用した資料を多面的に比較検討する事によって、鴎外の拠った資料自体の傾向を明らかにするとともに、作品形成の筋道や特色を探り、『北條霞亭』を資料的基礎から検討していったのである。その結果であるが、鴎外の『北條霞亭』、鴎外が執筆に利用した資料(鴎外文庫蔵)、北條・高橋家文書の三者を比較すると、鴎外が作中で述べている以上に、北條・高橋家文書が執筆に寄与した度合いが高いことが分かった。鴎外は、おもに筆写された資料を見ているが、そこには二重の読みが介在するため、誤差も生じていることが確認できた。以上をふまえて、鴎外の考証のあり方を検討したが、鴎外の考証にはいくつかの問題点が含まれていることが確認できた。鴎外の考証は、一つ一つは合理的に行われているが、自己の考証相互に含まれる矛盾を十分顧慮していない場合があること、霞亭の書簡中の文言をあまりに字義通りに受け取ってしまった結果、誤った結論に導かれた例があること、正しい方向に導くべき資料を無視する結果に陥った例があること、などである。そこからして、的矢書牘のうち、霞亭の林崎時代に書かれた書簡の年代に関する鴎外の考証は、全面的に見直すべきであるとの結論も得た。しかし、だから鴎外の『北條霞亭』には意味がないというのではない。そのように分析して見えてくるのは、数々の矛盾に苦しみながら考証を重ねていく、鴎外の思考の過程であり、そこにこそこの作品のボディーがあると見られるのである。
著者
永田 浩
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.103-105, 1992-12-31

永久磁石材料の研究はモーターやアクチュエーターなどの電気部品の小型化,軽量化,高性能化,省エネルギー化に寄与できることなどから,学界や産業界において現在も精力的に研究開発が進められている。Nd-Fe-B系永久磁石材料はNd_2 Fe_<14>B型金属間化合物を主相とする永久磁石材料の総称であり,1983年に発見された。一方,Sm-Fe-N系永久磁石材料は既知のSm_2 Fe_<17>金属間化合物(Th_2 Zn_<17>型結晶構造)の結晶格子間位置に窒素(N)を侵入することにより得られる侵入型窒化物Sm_2 Fe_<17>Nxを主相とする新永久磁石材料の総称であり,1990年に発見された。本論文は,この両永久磁石材料をモデル物質として採り上げ,基礎・応用の両面から総合的に研究した結果をまとめたものである。以下に両系の研究目的,実験結果並びに検討結果を要約する。1.Nd-Fe-B系永久磁石材料 Nd-Fe-B系永久磁石材料は主相であるNd_2 Fe_<14>B化合物相の持つ大きい飽和磁化(I_s=1.6T),高い磁気変態温度(キュリー温度 : Tc=573K),大きな一軸磁気異方性(μoH_A=8T,K_1=4.5MJ/m^3)などにより,最大エネルギー積(BH)_<max>==320kJ/m^3(40MGOe)の永久磁石材料として知られている。Nd_2 Fe_<14>B型化合物は空間群がP4_2/mnmである正方晶構造をとり,NdとBは特定のc面のみに存在する層状構造を持つ。その単位胞は4分子式68個の原子から構成されている。本研究では単結晶試料,粉末冶金法により作製した単相焼結体試料および焼結永久磁石体試料を用い,以下の2つの課題研究を行い,その結果について考察を加えた。(1) R_2 Fe_<14>B化合物(R==Y,Ce,Nd,Tm)の比熱,熱膨張,キュリー温度の圧力効果 Nd-Fe-B系永久磁石材料の主相であるR_2 Fe_<14>B化合物について比熱の測定を行い,デバイ温度,電子比熱,スピン再配列に伴う潜熱の値を求めた。その結果,Y_2 Fe_<14>Bに対して電子比熱係数γ=86 J mol^<-1> K^<-2>,デバイ温度θ_D=400Kを得た。またスピン再配列に伴う磁気エントロピー変化△S=16 J mol^<-1> K^<-2> (R=Nd),および△S=0.2 J mol^<-1> K^<-2> (R=Tm)を得た。電子比熱係数γの実験値は最近のバンド計算より得た値の約2倍の大きさであり,理論的計算が未だに十分でないことを示している。またY_2 Fe_<14> Bの4.2&acd;293Kでの比熱の測定結果はデバイ近似により計算されたフォノンの比熱,分子場近似により計算されたFeの磁気モーメントの磁気比熱,電子比熱の総和により良く表わされることを見いだした。ただし,説明に必要な分子場係数の値はTcから評価した値よりも小さく,Feの磁気モーメントの遍歴性を示唆している。熱膨張はキュリー温度以下でインバー効果的な異常熱膨張を示した。さらに,単結晶試料の測定結果よりこの異常熱膨張は大きな異方性を示し,Tc以下の温度領域ではa軸方向がc軸方向より大きな異常熱膨張を示すことを明らかにした。この異常熱膨張による自発体積磁歪の大きさは0Kで2.4%であり,希土類化合物の中では異常に大きな値であった。さらにTc以上の温度領域でもc軸方向に大きな異常熱膨張が存在することを見いだした。R_2 Fe_<14>B型化合物のキュリー温度Tcの圧力効果を6GPaまでの圧力下で測定した。Tcの圧力効果(∂Tc/∂P)は-30&acd;-100K/GPaの大きさで,圧力依存性を示しながら低下した。Ce_2 Fe_<14>Bに於ては加圧,昇温中にTcが異常上昇することを見いだした。このTcの異常昇温は,この化合物中のCe原子の圧力誘起価数変化によるとみられるが詳細は不明である。得られた圧力効果の結果をR-Fe 2元系金属間化合物に対して得られた結果と比較した結果,R_2 Fe_<14>B 3元系化合物のキュリー温度の圧力依存性は通常の遍歴電子モデルでは説明出来ないことを示した。(2) Nd-Fe-B系永久磁石材料の保磁力並びに保磁力の温度特性 Nd-Fe-B系永久磁石材料は,キュリー温度Tcが593Kであるが,保磁力の大きな温度変化(減少)が実用上の大きな障害になっている。これまで希土類永久磁石の保磁力の温度変化に関して理論的取り扱いはされていたが,実験的な確証は得られていなかった。本研究ではこの点に着眼し,Pr_2 Fe_<14>B単結晶試料を作製し,その異方性磁界H_A,飽和磁化I_sの温度変化を測定し,加えてこの化合物を主相とする焼結永久磁石体を作製し,保磁力H_<CI>の温度変化を測定した。その結果,保磁力H_<CI>は広い温度範囲にわたりμo H_<CI>=C・μo H_A-N・I_s(NとCは定数)の関係で表わされることを実証した。またNd_2(Fe_<1-x> Co_x) _<14>Bの単結晶試料を作り,H_AとI_Sの温度変化を測定した。その結果,前式により,Nd-Fe-B系永久磁石材料の保磁力の温度特性の改善にCoの添加は有効でない原因をつきとめた。
著者
谷田 創
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

近年「食育」の重要性が指摘されるようになり、全国各地で乳幼児から高齢者まで様々な年齢層を対象とした食育が試みられている。米作り、イモ掘り、野菜の栽培など、農業体験を通して子ども達に食生産の大切さを学ばせる試みは以前から行われており、小中高の学校教育に「総合的な学習の時間」が取り入れられたことで再び脚光を浴びているが、これらは一過性の体験に留まっており、体系的な教育とはなっていないのが現状である。また、子ども達が生きた家畜に触れたり、見たりする機会は大幅に減少している。広島大学附属農場では、遠足や社会見学など地域の幼児及び児童を広く受け入れているが、家畜に触りたがったり、餌をやりたがったりする子どもがいる一方で、触りたいけれども恐くて手が出せなかったり、牛の大きさに驚いて泣き出してしまったり、畜舎に入ろうとしない子どもなど、家畜を見る体験が初めてという行動を取る園児がほとんどであり、「農」や「家畜」との分離を目の当たりにしている。本研究は、食材から食事までを扱う「食育」に加え、家畜を介在した教育を効果的に組み合わせることで、幼児に「食」「食材」「食を支える家畜」の関係性を認識させることを目的とし、そのための基礎的データを収集した。その結果、幼児に対する家畜を介在させた食農教育(家畜介在型食農教育プログラム)を実践することで、一般社会の食農リテラシーを高めることが可能となり、人と家畜との関係性も向上することが示唆された。今後は、様々な教育機関で実践可能な家畜介在型食農教育プログラムを開発することで、人及び家畜の福祉の向上、食の安全性の向上につながるものと考えられた。
著者
稲垣 知宏 中村 純 隅谷 孝洋 長登 康 佐々井 祐二 深澤 謙次
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

最先端の研究で利用される数値シミュレーションを通じて自然科学を学習していくための新しい教育について企画し、必要な電子教材の作成支援システムを開発することを目的に,計算機シミュレーションをテーマにした教育コースを作成すると共に電子教材開発を進め,これを利用した教育を実践した。教育の現場と研究の現場の連携とこれを支援するシステム,学問の新たなパラダイムに根ざした新しい教育の中で先端科学に対する社会的関心を引き出す可能性,教育に必要な電子教材開発について明らかにした。(稲垣、中村、隅谷、長登、佐々井、深澤)計算機シミュレーションを利用しようとする場合,必要に応じて電子教材を開発するところから出発することになる。扱いやすい教材開発環境が整ってきたことで,現在いろいろな形で教材開発が進められているが,今回の開発ではFlash(Macromedia社)上のActionScriptを利用して電子教材開発を進めた。数名の大学院生に対する90分程度の講習会から出発して教材開発者を育成し,約1年間の開発期間で70以上の教材を作成することができた。このような開発は大学院生の教育にも効果を上げている。(稲垣、中村、佐々井、深澤)電子教材開発コラボレーションの基盤環境としてWikiを利用したサイトを構築しその役割と可能性について調べた。容易にサイト構築が可能で,情報の掲載,修正方法を簡単にするツールは他にもあるが,Wikiは,普及状況,無料利用可能な事からも,教育現場に導入し易いツールである。Wikiサイト上では,気軽に情報を掲載できることから,従来までとは異なり開発途上にある動的な情報を蓄積することが可能になった。今後,コラボレーション全体の輪を広げることで,継続的な教材開発の道が開けると考えている。(稲垣、隅谷、長登)なお、これら研究成果については、国内の研究会等で報告している。
著者
中村 春作 市來 津由彦 田尻 祐一郎 前田 勉
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究で私たちは、東アジアにおける社会統治・統合と自己修養を語る普遍的な「言葉」として大きな力を有した儒学言説が、中国宋代、日本江戸前期において、どのようなプロセスで社会的意味を持つに至り、人間理解の基盤を形成したかを、個々の言説形成の型を対照比較することを通して、明らかにしようとした。以上の課題に即して、儒学テキストが、実際いかに「読まれ」血肉化したかという点から「訓読」論という新たな問題領域を開発し、他方、経書の一つ『中庸』を取り上げ、その多様な解釈の姿を明らかにした。
著者
小出 哲士 北川 章夫 若林 真一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,ディープサブミクロンVLSIチップのレイアウト自動設計に注目し,ディープサブミクロンVLSIチップの実用化と共に顕著になってきた回路のパフォーマンスの考慮,ハード・ソフトマクロブロックの考慮,及び設計時間の短縮,等の問題を解決するための以下の新しいレイアウト設計手法を開発した.1.パフォーマンスを考慮した回路分割手法の開発回路のパフォーマンスを最適化するために,論理合成後に行われる回路分割において,回路のパス遅延を陽に考慮した回路分割手法を開発した.2.パフォーマンスを考慮したフロアプランニング手法の開発ハード・ソフトマクロを取り扱うフロアプランニングにおいて,バッファ挿入と配線幅調整を考慮した概略配線とフロアプランニングを実用的な計算時間で同時に求める手法を開発した.3.パフォーマンスを考慮した配置手法の開発タイミングを考慮したクラスタリングと新しい配置モデル(アメーバモデル)に基づくタイミングドリブン配置手法を開発した.4.パフォーマンスを考慮した配線手法の開発6層以上の配線層に対して,配線幅とバッファ挿入を考慮したスタイナ木生成アルゴリズムを用いて,与えられたタイミング制約を満たす概略配線経路を階層的に求める手法を提案した.5.パフォーマンスを考慮した階層的バッファブロックプランニング手法の開発チップ領域をグローバルビンに分割し,タイミングを考慮したバッファブロックプランニングを階層的に行う手法を提案した.6.パフォーマンスドリブンレイアトに対する適応的遺伝的アルゴリズムの適用エリート度に基づく適応的遺伝的アルゴリズムを提案し,レイアウト設計手法に適用した.また,高速化のためのLSI化を行い,パフォーマンスドリブンレイアウト手法の数10倍の高速実行の見通しを得た.
著者
杉惠 頼寧 岡村 敏之 藤原 章正 張 峻屹
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は,交通行動のダイナミック分析手法を交通機関の選好意識(以下SPと略す)の分析に適用し,その時間的な変化の構造を明らかにすることである.クロスセクションモデルを改良したダイナミックモデルを構築し,その有効性を明らかにする.さらに,時系列モデルを適用し,TDM施策が実施された後に通勤交通の時刻選択行動が安定するまでの時系列過程を予測するモデルを構築する.3年間の研究によって次のような成果が得られた.1.SPダイナミックモデルの構築これまで我々の研究室で蓄積してきた広島の新交通システム(19994年8月開業)に対するSPデータ(1987,88,90,93,94年)とRPデータ(1994,97年)の合計7時点パネルデータを用いる.これによって,SPデータを用いて予測した新交通システム開業後の選択結果を評価し,SPモデルの信頼性,改善点を明らかにした.2.TDM導入効果の時系列分析時間分散型TDM施策であるフレックスタイム制度と時差出金制度を導入した後の施策対象者および非施策対象者の行動変化について分析した.まず,1996年に広島市内で導入されたフレックスタイム制度に関して,導入後2回(1996,97年)のパネル調査データと導入後1年間の出勤管理データを用いて時系列分析を行い,行動の調整過程と安定過程が存在することを示した.次に,1999年に松江市で実施された時差出勤社会実験前後の観測交通量データを用いて,時差出勤の導入に対する交通渋滞の反応遅れについて分析した.本研究の主要な成果は,1)SPダイナミックモデルを構築し,その有効性を示したこと,2)TDM施策に対する住民の交通行動には反応遅れが生じ,それらを考慮した時系列モデルの適用の重要性を示したことである.今後は本研究で開発した需要予測モデルを多様な交通政策に適用し,より広範な視点からその適用可能性を検討する予定である.
著者
杉惠 頼寧 塚井 誠人 奥村 誠 藤原 章正 POLAK John JONES Peter
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的はアクティビティ・アプローチの考え方を基礎として、調査法、行動モデリング、政策評価に関する問題点を明らかにし、改善を加えることにより新しい都市交通計画手法の開発を行うものであり、2年間の共同研究によって次のような成果が得られた。1.平日買物行動を考慮した週末買物活動発生モデルの開発週末買物活動を対象に1週間の買物活動データを用いて、個人の買物行動特性を把握すると同時に、平日買物頻度と週末買物活動発生の同時決定モデルを提案した。宇都宮市の1週間にわたる活動日誌調査で得られた買物活動のデータを用いて実証分析をした結果、同時決定モデルの妥当性を確認できた。2.交通調査における回答者インセンティブの費用便益分析交通調査において、細かな行動や意識などを含む複雑な調査が増え、精度や回答率低くなることが問題となり、効率的な調査方法の開発が求められている。本研究では、インセンティブ(謝礼)をつけるという方法をとりあげ、その効果を定量化し、一定の精度を得るために最も費用の小さいインセンティブの水準を考察した。3.観光周遊行動を分析するためのNested PCLモデルの開発観光周遊行動における目的地及び経路の選択肢は互いに独立とは言えない。そこで本研究は、観光周遊の目的地及び経路選択行動を予測するためにNested PCLモデルを提案した。ケーススタディの結果、同モデルは観光需要予測に有効であることが示された。4.SP調査における所要時間の信頼性を表現する手法の改善本研究は、運行サービスの定時制に関する鉄道利用者の評価を分析したものである。定時制が旅行者によって高く価値付けられていることがわかった。従来の研究では、必ずしもそうでないと説もあった。この違いは、従来の方法では、SP調査で用いられている所要時間の定時制の表現方法がうまくなされていないためであることがわかった。
著者
永村 和照 池条 清隆
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究は,曲げ強度,歯面強度の伝達負荷能力がインボリュート歯車よりも優れた歯車を得ることを目的として,インボリュート・サイクロイド合成歯形,修正サイクロイド歯形といった特殊歯形はすば歯車を開発・設計し,その強度・性能を計算や実験の両面から検討を行い,つぎに示すような新たな知見等の成果を得た。1.本研究で設計・製作したホブにより特殊歯形はすば歯車の製作が可能となった。ホブの精度はJIS1級,それを用いて歯切りした試験歯車はJIS4級程度であった。 2.本研究のような特殊な歯形形状をもつはすば歯車においても成形方式の歯面研削によってJIS1級の歯形精度が得られ,歯形誤差が小さくなることによって歯車の振動性能が向上することがわかった。 3.設計された歯車の中心距離において,特殊歯形はすば歯車はインポリュートはすば歯車よりも優れた振動性能を有する。 4.特殊歯形はすば歯車は中心距離が設計値からずれた場合にかみあい状態が変化し,振動性能が変化する。特に,インボリュート・サイクロイド合成歯形はすば歯車では,中心距離が設計値よりも100μm以上狭くなると振動性能が低下する傾向があるが,その性能低下は十分に小さいものであり,はすば歯車によることによって振動性能が向上することが確認された。 5.インボリュート・サイクロイド合成歯形,修正サイクロイド歯形の2種類の特殊歯形はすば歯車のピッチング耐久限度はインボリュートはすば歯車よりも高いことが確認できた。このことから,これらの特殊歯形はすば歯車はインボリュートはすば歯車よりも歯面強度の優れた歯車であることが証明された。以上により,本研究で開発・設計した特殊歯形はすば歯車の振動性能,強度の優位性が確認され,実用に十分供することが可能と判断できる成果が得られたことを報告する。
著者
池田 隆 RAOUF A. Ibrahim
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,自由液面を有する正方形断面の剛体容器が水平方向に正弦励振またはランダム励振を受ける場合,容器内に二つの振動モードが同時に発生する液面スロッシングの内部共振現象について,非線形性を考慮した数学的モデルを構築し,数値計算と実験によりスロッシング挙動を明らかにするとともに,スロッシング波高を精度良く予測できることを示した.また,液面スロッシングの内部共振現象を利用した正方形断面容器が構造物の制振装置として有効であることを示した.
著者
木村 昭夫 生天目 博文 井野 明洋 仲武 昌史 坂本 一之
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,空間反転対称性の破れに起因するナノ構造体のスピン分裂バンド構造について,スピン・角度分解光電子分光,高分解能角度分解光電子分光,および低温走査型トンネル顕微鏡を用いて明らかにすることを目的として行った。その結果,ビスマス単結晶のバルク状態のスピン状態の観測,タリウムや鉛吸着半導体表面における巨大なスピン分裂バンドの観測,さらには新しいトポロジカル絶縁体の発見など数々の顕著な成果が得られた。
著者
丸田 孝志 曽田 三郎
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

日中戦争期から内戦期の中国共産党(中共)根拠地における民俗・象徴・儀礼を利用した戦時動員・宣伝政策について分析し、これらの政策が、階層間の流動性が大きく、状況依存的なネットワークが展開する中国基層社会の構成の特質を意識して展開され、強力な動員力を発揮した状況を明らかにした。また、日本傀儡政権の同様の政策と対比して、両者の特質を検討した。この他、清末から民国初期の憲政導入過程の分析を通じて、伝統的統治から近代的統治への転換の問題を長期的な視点から検討した。
著者
安井 弥
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

miRNAの面から食道扁平上皮癌、胃癌の発生・進展機構を明らかにした上で、これらの癌に対する新しい個性診断系を確立することを目的として、最終年度となる本年度は以下のとおり実施した。1)胃癌および正常胃粘膜における網羅的miRNA発現解析と機能解析約250miRNAのプローブを搭載したマイクロアレイおよび188mRNAを解析できる繊維型マイクロアレイ(三菱レイヨンMICH07)を用い、胃癌および正常胃粘膜の新鮮凍結組織を材料としてmiRNAの発現を解析した。胃癌と正常とで有意に発現レベルが異なっていたmiR-21等について、定量的RT-PCRにより発現の検証を行なった。さらに、組織型との関連ではmiR-100,miR-105等が、進行度との関連ではmiR-100,miR-125b等が発現が異なっていた。2)胃癌におけるmiRNAの標的遺伝子の解析miRanda、 TargetScan、 PicTarを用いてその標的遺伝子の候補を検索し、miR-21ではBCL2,CDC25A,E2F3,MADH7,PTEN等を、miR-125bではE2F3,MKNK2,SP1,STAT3等を抽出した。これらについて、miRNAの発現抑制による発現変化の確認を行なっている。3)胃癌特異的miRNAのエピジェネティック発現制御の解析胃癌細胞株をヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAで処理することにより、増殖・浸潤の抑制、p21等の発現の誘導がみられた。この細胞について、上記のマイクロアレイで発現が変化するmiRNAを解析し、1)で捉えた組織型や進行度、予後に相関するmiRNAリストと比較した。ここに得られたデータは、癌の個性診断、治療に直結した診断に有用な分子マーカーと考えられる。今後、これらを搭載した診断用miRNAミニアレイを作成し、診断の場に還元したい。
著者
仙谷 和弘
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、胃癌や大腸癌における腫瘍進展に関連する新たな遺伝子を同定し、その臨床病理学的意義を明らかにすることを目的とした。細胞外基質蛋白lamininγ2はMMP-7とともに腫瘍進展過程で発現が増加したが、逆にギャップ結合構成蛋白connexin30は発現が減少する一方で、腸型粘液形質を示す分化型腺癌の新規分化マーカーであることが明らかとなった。さらにタイトジャンクション構成蛋白claudin-18は予後不良な大腸癌の新規診断マーカーであることが明らかとなった。
著者
木原 成一郎 徳永 隆治 平井 章 梅野 圭史 日野 克博 刈谷 三郎
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度は最終年度にあたるため、研究の総括とそれに必要な作業を中心に行った。1、前年度に日野氏と米村氏が中心となって教員養成段階で身についた「実践的指導力」を調査する方法として、学生に視聴させる体育授業のビデオ教材を開発した。本年度は、学生にこのビデオ教材を視聴後自由に質問紙に感想を記述させ、その記述をKJ法を用いて分類し、「実践的指導力」の下位項目と考えられるカテゴリーを取り出した。2、さらに、研究分担者の所属する大学で行う模擬授業や教育実習の反省会の前後に、この開発したビデオ教材を視聴させて学生に自由な感想を記述させ、この「実践的指導力」の下位項目と考えられるカテゴリーを基準として、「実践的指導力」の到達状況を把握した。その到達状況の結果をもとに、対象とした学部、コースの体育科教育関連科目(教育実習を含む)の改善点を明らかにした。3、これまで得られた知見に基づき「技術的実践」と「反省的実践」の双方からなる「実践的指導力」を向上させるための、模擬授業や教育実習での教える体験とその体験を省察する理論的学習の双方を結合させる体育教師教育プログラムを開発するための原則を提案した。4、以上の研究成果について第59回日本体育学会(早稲田大学)及び第28回スポーツ教育学会(奈良教育大学)で発表し研究成果に対する研究者のご批評とご意見をいただいた。それらのご批評とご意見をふまえて、最終報告書を作成した。
著者
水田 邦子
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究で新たに抗ヒトGDD1ポリクローナル抗体を作製した.また,GDD1遺伝子の機能解析を目的にGDD1発現ベクターを作製し,培養細胞における外来性GDD1安定発現システムの確立を試みてきた.しかし,GDD1タンパクは細胞内で非常に分解を受けやすく,タンパク検出が困難であった.このため,GDD1遺伝子の生理的機能は長く不明であったが,申請者らはGDD1が筋萎縮を症状とするLGMD2の原因遺伝子であることを発見し,筋芽細胞株を用いた発現実験で骨格筋恒常性維持にGDD1遺伝子が重要な役割を発揮していることを証明した.
著者
長田 浩彰
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、祖父母の代に3人以上ユダヤ教徒がいたために、第三帝国下でユダヤ人とされた「ユダヤ人キリスト教徒」の動向に関する研究である。ベルリン工科大学反ユダヤ主義研究センターのアルヒーフや、ルートヴィヒスブルク州立文書館の非ナチ化裁判史料などを主に利用して、整理・分析することで、以下の結果を得た。(1)1943年2月末、ベルリンで発生した「ローゼン通り抗議」の実像を分析し、それが神話化されているドイツの現状を確認した。ユダヤ人一斉検挙で連れ去られた混合婚のユダヤ人配偶者の釈放を求めて、ドイツ人配偶者がベルリン・ローゼン通りに集まって抗議することで、前者の釈放を勝ち取ったという経緯は、後に行動が美化されることで生まれた神話であり、実際には、混合婚のユダヤ人配偶者は当初から東部移送の対象ではなかった、という研究者グルーナーの説を、史料から確認した。(2)混合婚夫婦から生まれた子供たちは、混血者として、部分的な迫害の対象となった。ベルリンにおけるヘルムート・クリューガーの事例に関して、彼の手による回顧録を実際の迫害措置と対比して検証した。(3)「ユダヤ人キリスト教徒」の相互扶助団体「パウロ同盟」のシュトゥットガルト支部を率いたエルヴィン・ゴルトマンの行動に関して、特に彼が子どもたちに残した遺稿を分析した。そこから、国外移住を拒絶してドイツに留まり、一方で対ナチ協力を強いられつつも、自身と家族に降りかかる迫害にゴルトマンが耐えた背景には、ナチ・ドイツとは別のドイツに対する彼の祖国愛と、篤いキリスト教信仰があったことを明らかにした。また、この点に関しては、ゴルトマンの対ナチ協力に関する、戦後の非ナチ化裁判史料を分析する中でも確認できた。さらに、裁判史料から次の点も確認できた。初審では、刑事裁判での検事に相当する公訴人側が求めたとおりの「重罪者」評決が出た。控訴審では、当事者ゴルトマン側に有利な供述書が提出されたにもかかわらず、また、公訴人側も第2グループである「有罪者」へと罪状認定を引き下げたにもかかわらず、評決は「重罪者」で動かなかった。「潔白証明書」を発行して非ナチ化を終了させる、という従来の非ナチ化についてのイメージとは逆の、厳しい評決であった。女性の非ナチ化にも見られたように、必要以上に高い倫理・道徳性が、当事者に求められていた。その理由は、裁くドイツ人の側に、第三帝国下でユダヤ人を見殺しにしたという負い目と、「女性的」とも言える「無辜の被害者」という「ユダヤ人イメージ」が存在したことで説明できる。このイメージから外れる「対ナチ協力者」という嫌疑だけで、事実如何の吟味の前に、ゴルトマンは断罪されたのである。ここに、非ナチ化裁判・控訴審の問題性がうかがえた。
著者
長田 浩彰
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

従来我が国におけるドイツ史研究では、ナチ第二帝国下の対ユダヤ人政策については研究が行われてきたが、それに対するドイツ・ユダヤ人の対応については、あまり関心が向けられてこなかった。本研究は、その点を補うため、今までの同化が否定され、権利が徐々に剥奪されていく当時のドイツにおいて、ドイツ・ユダヤ人がどう対応したのかを分析することで、自身をどう認識していたのかを考察する。例えば、彼らには亡命や移住による出国といった選択も41年まで可能だったが、経済活動からの排除という厳しい措置が実施される直前の38年当初でも、まだ彼らの7割強(33年と比較)がドイツに留まっていた。ここには、第三帝国下でもドイツ国民として、ドイツで生活しようとした彼らの姿勢が想定された。そんな彼らの自己認識を、以下の諸組織の分析から明らかにした。・従来、言動が親ナチ的で否定的な評価を受けてきたユダヤ人青年組織「ドイツ先遣隊」(1933-35)やその指導者シェープスの思想を分析することで、彼らが決してナチズム自体を信奉したのではなく、ナチ政権と保守思想を持つユダヤ人との共存の可能性を模索していたことを明らかにした。・「ドイツ先遣隊」のような小組織だけでなく、ユダヤ系組織のなかで第2位の規模を持つ「ユダヤ人前線兵士全国同盟」(1919-38)もまた、35年の国防法や、ニュルンベルク法まで、ユダヤ人のドイツ社会での生活の存続に尽力した。35年以降は、この組織は、パレスチナ以外後へのユダヤ人移住に尽力することで、自身のドイツ人としての意識の保持に努めようとしたことが明らかとなった。・研究発展のため、ユダヤ人扱いされた「非アーリア人キリスト教徒」の動向の研究史整理をした。
著者
水田 英實
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

西欧中世思想におけるキリスト教および哲学のインカルチュレーション(文化内開花)のあり方をトマス・アクィナスの哲学思想の立脚点から解明し、さらに非ヨーロッパ世界におけるキリスト教および哲学のインカルチュレーションの可能性を問うた。これにより、今日の多文化社会において異文化受容という課題を果たすために、哲学の果たしうる役割を模索する手掛かりを得て研究成果を取りまとめ、図書・雑誌に論文として発表した。