- 著者
-
平内 健一
- 出版者
- 広島大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2009
本年度は蛇紋岩を用いた摩擦実験を行い,沈み込み帯プレート境界における蛇紋岩の存在状態とその流動特性に関する研究をさらに進める目的で,以下のとおり実施した.1.実験はユトレヒト大学設置の熱水回転剪断装置を用いて行い,温度20^~500℃,有効法線応力200MPa,間隙流体圧200MPa,滑り速度0.1^~30μm/sの条件で行った.試料は厚さ約1mmの蛇紋石と石英の混合粉末試料を断層模擬物質(ガウジ)として用いた.2.結果:試料は,温度300^~500℃の条件において,初期の最大摩擦強度後(変位1^~2mm),定常状態に至るまでに著しい歪弱化を示した.弱化の程度は,温度の上昇および滑り速度の低下に伴い増加する傾向が見られた.また,薄片観察の結果,弱化は滑石を伴うboundary(B)shearの発達に起因して起こり,B shearの層厚が増加(最大70μm)するに従ってガウジ全体の摩擦強度が減少していくことがわかった.3.結論:本実験は,前弧マントルウェッジにおいてシリカに富んだスラブ由来の流体が供給されれば,蛇紋石とともに滑石が形成される可能性を示唆する.滑石の生成は不均質で断層境界に平行なB shearとして存在し,著しい歪弱化を引き起こす.定常摩擦強度値は温度と滑り速度に関係するが,これはそれぞれの実験中に溶解したシリカの生成量の違いによって説明できる.滑石は蛇紋石よりも摩擦強度が非常に弱いため,沈み込みプレート境界近傍に形成される薄い滑石層がプレート境界全体のレオロジーを支配すると思われる.