著者
武村 重和 バビリオ・ウマンカ゛イ マ 池田 秀雄 小原 友行 小篠 敏明 中山 修一 溝上 泰 MANZANO Virgilio U.
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

本研究では、オ-ストラリア、ニュ-ジーランドの文部省の担当官の要請と協力で、両国の11ー15歳の児童・生徒を対象に、日本の児童・生徒向きに作成された日本の文化・社会、科学技術、日本人の生活様式などの視聴覚メディアを、解説しながら視聴させ、学校レベルでの国際理解の推進を図ることをねらいとした。さらに、日本に関する教育用教材として何が求められているかを調査し、ニ-ズアナリシスを行うこににより、これからの海外向けの教育用視聴覚ソフト開発の基本方針を究明することを目的にした。小篠敏明は、「異文化コミュニケ-ションに関する教育情報とソフト教材」について、オ-ストラリアのカンベラのテポベア・パ-リ中学校、ブリスベンのケドロン中学校の生徒たちに視聴したい日本文化の内容を調査した。5月5日、3月3日の子供の日、忍術使い、柔道、剣道などの武道、相撲、茶道、華道、歌舞伎、盆栽、四季、桜、武士道、伝統音楽、日本食、着物、日本建築、生活様式、宗教、祭り、庭、舞踊、文化行事などをあげている。日本の現代については、交通、通信、電子・電気機械、コンピュ-タ-産業、自動車・カメラ産業、建築、スポ-ツ、学校、家庭生活、若者の日常生活、食べ物、余暇の利用、婦人の社会進出、両親と子供の関係、日本の近代化の過程、教育、田園生活、環境問題、文化の保存、東京、旅行、ビジネス生活、新旧生活スタイルなどをあげている。教育委員会の職員や教師たちは、日本の急速な、社会、文化、経済、科学技術の変化に注目し、日本人の現代の生活様式の変化に関する視聴覚教材に関心をもっていることがわかった。画面については、カラフルで、美しく、自然と人間の調和があり、言葉少なく、適切な英語で興味・関心を持続するものがよい、という意見が多かった。武村重和は、オ-ストラリアのカンベラとメルボルンで教育関係者や一般人にインタビュ-を行い、国際理解の教育で視聴覚教材の編集の視点を導き出すことに努めた。その結果、(1)自然、歴史、社会、文化、生活、言語、宗教、価値観などの自国と他国の違いの理解と尊重、(2)国家間の対立・環境汚染、人口増加、富の遍在、などの国際問題の把握と解決への協力参加、(3)国際化によるコミュニケ-ションと交流の活性化、(4)貿易等による相互依存関係と共存の認識、(5)平和、自由、平等、人権、正義、人類愛などの世界共通の思想や地球共同社会という世界意識の育成に関する教材こそが、国際理解に通じるという視点を得た。溝上泰らの社会班は、ニュ-ジ-ランドの10〜17歳の児童・生徒及び小・中学校の教師を対象に、日本で作成された市民生活、歴史や伝統文化、生活様式などを中心に日本の都市・広島市の社会生活を紹介するビデオ教材を視聴させ、日本学習に関する経験の有無とその内容、ビデオ教材に関する興味・関心の程度とその内容、異文化理解に関する実態、日本学習に求める内容と方法などを調べる調査を行い、解答を得た。調査の集計結果に基づいて、児童・生徒及び教師はどのような日本学習を求めているのか、日本学習に関する教育用教材として何が求められているのか、ニュ-ジ-ランドにおけるニ-ズアナリシスを行った。その結果、日本の歴史、伝統文化、人間生活、日本と海外の国々との関係などの教材化の要請が強く、気候、自然、宗教、観光、産業などの日本の実情については小中学生・教師の間で関心が低いことがわかった。さらに、事実認識やデ-タ・情報の提供だけを意図したものではなく、現状や問題点の背景にある条件や原因を究明するような、また、問題解決のための判断を行うような問いを発見することができる教材の開発を要求した。さらに、貿易や文化やスポ-ツなどの相違点や共通点の両面を取り入れた教材の要請があった。また、日本人の立場から日本の社会や文化を理解させたいという教材が現地に少ないことがわかった。池田秀雄は、海外向けの環境教育用視聴覚教材ソフトを開発する目的で、英語版のビデオ環境教材を持参して、多面的な調査を11〜15歳の生徒に行った。その結果、特定地域の環境汚染に目を向けることだけではなく、グリ-ンハウス効果、オゾン層の破壊など全地球レベルで理解、ロ-カルな環境問題に各国相互の共通理解の必要、環境破壊や保全の社会的、歴史的背景の理解が重要である。
著者
海野 徹也 長澤 和也 小路 淳 斉藤 英俊
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

放流事業によって漁獲量が著しく回復した広島湾のクロダイについて、産卵場、卵分布、稚魚の分布、成長、食性などの初期生態を解明した。クロダイの主産卵場は広島湾の湾口部に形成され、産卵は夜間であり、卵は幅広い水深に分布した。卵密度と稚魚の日周輪解析より、産卵ピークは5月下旬から6月中旬であり、着底は7月上旬から中旬にピークを迎えることがわかった。稚魚の主食はヨコエビ類、カイアシ類、であったが、生息環境に応じ柔軟性を示していた。
著者
長田 浩彰
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究において研究代表者は、ナチの言うドイツ人とユダヤ人の「人種混淆」に対する住民意識が、それを禁止したニュルンベルク法(1935)以前と以後では、どう変化していったのかを、当時の小説や映画、ナチ党関係の雑誌類、現実の裁判事例などを分析対象として研究した。ナチ体制下では、性犯罪者的ユダヤ人イメージとえせ科学的劣等人種イメージが並存する中、禁止立法を経ても、「混血」を罪悪とするイメージが一般化するまでに至らなかったことが、最終的な本研究の結論となる。
著者
植村 誠
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

矮新星のアウトバーストを可視光と近赤外線で同時に観測することによって、降着円盤の最外縁に起因する変動現象の機構を研究した。その結果、アウトバースト極大時に最外縁の低温部分が一部、縦方向に膨張し、非軸対称な形状に変化することがわかった。この変形は、おそらく伴星からの強い潮汐効果が原因と考えられる。また、アウトバースト終了後、円盤は即座には静穏状態に戻らず、中間的な状態が存在することも判明した。
著者
小笠原 道雄 国安 愛子 関谷 融
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

本研究は、フレーベルの晩年の主著でもあり、極めて独創性の強い家庭育児書でもある『母の歌と愛撫の歌』(1844年)の曲、つまり、ローベルト・コール(Robert Kohl,1813〜81)作曲によるオリジナル(原曲)版「遊戯の歌」50曲の成立を考察し、それとの関係でa)フランス版(1861)b)イギリス版(1895)c)アメリカ版(1906)d)日本版(1934,1981)の比較考察をおこない、本書の特色を明らかにすることにある。その際、作曲者の略歴をみる必要がある。作曲者ローベルト・コールは当時カイルハウ学園の教師としてフレーベルの協力 者であった。彼はアルテンブルクの聖歌隊指揮者の息子として生まれ、1834年神学を学ぶためライプチヒ大学に入学、そのかたわら熱心に音楽を研究した。その後1838年牧師となる試験に合格の後、1839年から45年までカイルハウ学園で宗教教授および音楽の教師として活動し、学園の生徒たちの人望をえた。この略歴からもうかがえるように、コールは専門の作曲家ではなく、『母の歌と愛撫の歌』を「きわめて道楽趣味的(dilettantische)に作曲した」ようである。(参照F・Seidel編『母の歌と愛撫の歌』1883年、5版、S.208)。絵画家のウンゲルと共に学園の教師達が共に協力して本書を作成した点は、高く評価されるが、「曲」そのものについての評価については問題なしとはしない。フレーベルの希望でもあったが、メロディーは子ども達が「歌うための歌」としての性格を堅持している。従って、本書が各国版として普及する際、自由に編曲され(むしろその国独自に、子供の活動をうながすものとして)、コールの原曲とは全く無関係に改編されることになった。換言すれば、コールが専門の作曲家でなかったが故に、本書は各国版において、とりわけ1860〜80年代にかけて、各国の「子どものうた」(Kinderlied)の影響を受け、編曲されることになった。
著者
金田一 智規
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

広島湾底泥を植種源としたカラムリアクターにより海洋性アナモックス細菌を集積培養し、高い窒素除去速度を達成した。リアクター内の微生物相を解析した結果、二種類の"Candidatus Scalindua"に属する海洋性アナモックス細菌が存在した。さらに、それぞれを対象としたFISHプローブを設計し、可視化することができた。このうち一方の種に対して、回分試験により最適培養温度、塩分濃度、pHを明らかにした。
著者
松尾 雅嗣
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

峠三吉資料については日記及び書簡の電子画像を、既に完成済の資料目録と統合し、資料画像目録として整理する作業を進め、予定より完成は遅れているが、来年度には完成の目途が立った。但し、日記、書簡については個人情報の問題が絡むので、研究成果として一般公開することは困難であり、画像つき目録を広島大学文書館など信頼できる機関に寄託し、研究者の用に供することも検討中である。また、原民喜資料についても自筆資料に関して同様の作業を進めたが、資料目録の整理に手間取り、進捗度合いははかばかしくない。これと並行して、海外での同様の試みについて情報を収集する一環として、「西部戦線異状なし」で知られる作家エーリッヒ・レマルクの資料を収集・保存するドイツ・オスナブリュック市のエーリッヒ・レマルク平和センターを訪問し、戦争文学資料の保存、目録作成、電子画像化の実態について情報を収集した。同時にオスナブリュック大学を訪れ、文学、歴史学研究者と空爆により市街の大半を失った同市の戦争被害にかかわる文書史資料の保存と電子化について意見を交換した。これに加えて、原爆により多くの死者を出した旧広島一中の生存者、遺族の手記集である『ゆうかりの友』の原資料を含む原民喜の甥、原邦彦の関連資料目録を完成し、『「ゆうかりの友」関連原邦彦資料目録』として刊行した。資料の電子画像化は完了し、現在画像目録の編集中である。具体的な研究成果ではないが、定年退職後の研究代表者の本研究を神戸大学の宇野田尚哉氏に引き継いでいただけることとなった。
著者
今川 真治
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は, 幼児・児童・生徒および学生を受け入れているグループホームや高齢者福祉施設において, これら若年者との交流が, 入居している認知症高齢者にどのような影響を与えうるのかを,高齢者の行動を分析することによって検証することを目的とした。若年者の適度で穏やかな関わりかけは, 認知症高齢者に肯定的な感情を惹起したと思われたが, 認知症度が重度である場合には, 交流に対する忌避的な行動が生起しやすかった。
著者
安嶋 紀昭
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、鶴林寺(兵庫県加古川市)の国宝太子堂内部に描かれている絵画群について、第一にその全図様を把握し、第二に表現や技法の検討を通じて、絵画史上の位置付けを明確化することにあった。荘厳画は、(1)来迎壁の表裏、(2)四天柱、(3)四天柱筋上小壁、(4)側柱筋上小壁、(5)格狭間、(6)東壁春日厨子内壁に分別できるが、(6)以外は永年の薫煙等が画面上を厚く覆い、黒化して、肉眼による識別はほとんど不可能な状態にある。そこで、最新のデジタル撮影装置を駆使して膨大なデータを収集したが、本年度はこれらをパソコンによって合成した復元的図様について、主に表現・技法の観点から詳細に分析した。また、石山寺所蔵重要文化財絹本著色仏涅槃図など、特に線描の質の比較考察に有効な資料をも検証した結果、以下のような成果を得た。荘厳画の図様は、(1)が表面に九品来迎図、裏面に仏涅槃図。(2)が東柱に八菩薩・十二神将、南柱に二菩薩・十羅刹女・八部衆、西柱に倶利迦羅龍剣・五童子、北柱に不動明王・三童子・五部使者・孔雀明王。(3)が飛天と楽器。(4)が千仏。(5)が獅子・麒麟等霊獣。(6)が聖徳太子毘沙門天感応霊験図といった内容であることが確かめられたが、これらの表現は(4)を除き、童子の指や耳の細部、雲や蓮弁のふくらみ、巴文の多様など極めてよく共通していて、すべてが卓抜した技量を誇る一人の画家によって主導されたことを窺わしめる。その異国的描写は、藤原道長の頃に盛んに輸入された北宋の影響を強く感じさせ、古い粉本に拠ることが想定されるが、鋭い打ち込みや抑揚を強調して線描自体に表情を持たせる特徴は、1200年頃の石山寺本には未だ不慣れな点があるのに対し、荘厳画の線描は習熟度の頂点に達しており、その制作は定説の天永3年(1112)ではなく、太子堂改築修理の宝治3年(1249)であることが証明できた。
著者
佐々木 巌
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.181-182, 2001

本論文は,永久磁石材料の性能を左右する問題として残されている,保磁力発生の機構解明をテーマに取り上げ,高圧窒化法を用いて合成された良質なSm_2Fe_17N_3をモデル系として,実験的研究を行った結果を論じたものである。本論文は7章から構成されている。第1章は序論として,永久磁石材料の性質および研究の歴史を概観し,Sm_2Fe_17窒化物について,その研究の歴史,結晶構造,磁気特性であるCurie点および飽和磁化について概説した後,研究の中心となる技術,高圧窒化法について概説している。さらに保磁力のこれまでの研究を概観し,その問題点を指摘した。第2章は,本論文の研究目的を記述している。これまでの保磁力研究は基礎的な疑問に対して明確な回答を与えていないという問題点を指摘し,本研究の意義を論じている。さらに,具体的にSm_2Fe_<17>N_3が取り上げられた理由を述べている。第3章では,本研究で行なった実験の種類及び方法など実験手法について記述している。第4章では,強磁場磁化測定の実験結果を基に,以下のような事実を明らかにした。保磁力の目安を与える磁気異方性のパラメーター,一軸磁気異方性定数K_<U1>=2.3×10^3 J/kg,K_<u2>=2.5×10^3 J/kgを得た。この値を用いて,絶対零度でJ-混成が無視できると仮定することにより,結晶場パラメーターA_2^0は&acd;-660K/a_0^2であると評価した。この値はバンド計算による理論的研究より求められた値とよく一致している。この窒化により誘起される一軸磁気異方性は,c面内のSm原子付近のN-2p電子とSm-5d電子との異方的混成による価電子の非球対称電荷密度によるA_2^0の増強として説明できる。第5章では,磁気異方性から決定される異方性磁場H_Aと保磁力H_cとがどのように結びついているかを明確にするため,メカニカルグラインド法(MG法)による粉砕法を用いた保磁力の粒径依存の実験結果を基に以下のような事実を明らかにした。(1)MG法を用い粉砕したSm_2Fe_<17>N_3粒子において,2μm以上の粒径では,保磁力は平均粒径の減少により増大する。これは保磁力が粒径に反比例するという逆磁区の核生成型(ニュークリエーション型)による磁化反転機構と一致する。一方,2μm以下では,保磁力はほとんど飽和する。この飽和は粒径減少による保磁力増大効果とMG中の表面元素析出,内部歪などのニュークリエーションサイトの増加による保磁力減少効果の競合によるものと推論された。(2)最高保磁力値は1.32Tが得られたが,この値は異方性磁場に比べるとなおオーダーが1桁小さい。これは,保磁力を低下させる様々な要因の存在を想定し,中でも粒表面における逆磁区の発生が保磁力低下を導いていると推論された。(3)飽和磁化は粒径の減少とともにわずかながら減少した。これは,MG粉砕中に表面相からわずかに窒索が抜け,それに伴い磁化が低下するものと推論される。なお,この高圧窒化法により合成した良質なSm_2Fe_<17>N_3粒子をMG法により粉砕した実験により,Sm_2Fe_<17>N_3における世界最高の(BH)_<max>値&acd;330kJ/m^3を得た。第6章では,保磁力の粒径依存性から推察された保磁力に対する粒表面効果すなわちニュークリエーションサイト発生の効果を明らかにするために,Znとの合金化で粒表面のニュークリエーションサイトを磁気的に除去する実験結果を基に以下のような事実を明らかにした。まず,保磁力が1TにおよぶSm_2Fe_<17>N_3を,等重量のZnと共に磁気的に等方的なZnボンド磁石を作製することにより,保磁力が3Tにおよぶことを推定した。これにより,保磁力に対する表面の効果が極めて大きいことが確認でき,本研究で用いたSm_2Fe_<17>N_3において,ニュークリエーションサイトが粒子全体に分布するのではなく,主に表面に分布すると推論できた。次に,平均粒径40μmのSm_2Fe_<17>N_3粒子を用いて磁気的に異方性のZnボンド磁石を作製し,保磁力の温度変化の測定により,保磁力の表面処理効果に関して以下の事を明らかにした。(1)保磁力は,温度上昇とともに単調に減少する。この時の保磁力は,異方性磁場H_Aのべき乗則に従い,表面処理前において保磁力はH_Aの2乗に従っていたのが,表面処理後はほぼH_Aに比例する。これは表面の清浄効果によるものと推論された。(2)保磁力の温度変化は熱活性型過程の2つの重ね合わせで表わされることを明らかにした。つまり,高温領域(100&acd;200℃)ではニュークリエーションサイトが生成する頻度が保磁力の温度依存を決め,低温領域(-200&acd;-150℃)では生成した磁壁が試料を通過する時のポテンシャルの深さが保磁力の温度依存を支配していることを明らかにした。従って,低温領域において表面処理効果は顕著に現われず,高温領域で表面清浄効果が顕著に見られたと結論された。
著者
大槻 和夫 山元 隆春 牧戸 章 植山 俊宏 位藤 紀美子 吉田 裕久
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本科研の最終年度である平成8年度は,本プロジェクトの集約をめざして、本調査およびその分析に取り組んだ。また,新たに国語能力全体の発達に関わる総合モデルが提出され,プロジェクト全体の研究仮説とするための理論的整備が進められた。これまで取り組んできた説明的文章班,文学作品班,文章表現班,音声表現班の4領域による本調査の計画・実施・分析を行った。その際,予備調査の結果を分析・考察した結果得られた研究仮説を整備し,本調査の調査仮説とした。それをもとに大規模・広域の本調査を計画し,実施した。本調査は,おおむね平成8年末から9年初頭という年度末に行われたため,現時点で集計・分析は継続中である。本年度の研究成果を大きくまとめると次の2点に集約される。1.前年度までの調査研究によって明らかになった各領域における国語能力の発達の諸特徴を,より多くのデータをもとに確かめることができた。2.予備調査・本調査を通じて,各領域班ごとに取り組んできた研究の成果を,「統合モデル」というというかたちで,仮説の域を出ないながらもまとめることができた。本調査についての精細な考察は今後を待たねばならないが,本調査設計時に設定した研究仮説との照合を中心に得られた研究成果を研究成果報告書にまとめている。また,一部の領域班では,集計・分析の所要時間の都合上,収集したデータ全体のうち一部分を取り上げて集計・分析し,その後全体に広げていく方法を採っている。
著者
澤尻 昌彦 野村 雄二 滝波 修一 谷本 啓二
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

放射線生物学や環境変異原の研究にメダカが利用され,咽頭歯骨には破骨細胞の存在するため放射線照射後の破骨細胞性骨吸収における変化の解析を試みた。放射線照射メダカの破骨細胞の活性を経時的に計測した。炭素線照射メダカでは抑制され炭素線照射によって破骨細胞の活性は低下することが示された。免疫染色によって破骨細胞誘導因子を確認すると炭素線照射メダカの咽頭歯周辺では破骨細胞誘導因子が阻害されることが示された。
著者
今村 展隆 ZHAVORONOK S 蔵本 淳 木村 昭郎 ZHAVORONOK Sergey v.
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故により原子炉中の37エクサベクレル(EBq)の放射性物質の1/10、3.7EBq(約1億キュリー)が環境に放出され、その大半は^<133>Xeや^<85>Krなどの希ガスであり、従って広汎な環境汚染を招来した。現在の重要な被曝経路は、地上に蓄積された放射性物質からの外部被曝と、食品を通じて摂取する内部被曝で、主な核種は^<137>Csである。Vitebskはベラル-シの北西部に位置する地区であり、チェルノブイリ原子力発電所事故による放射能汚染が最も少ない地域とされている。又、ビテブスクには放射線に被曝し、避難した多数の人々が居住している。従って非汚染地区であるビテブスクにおいて、白血病発症の増加が認められる様になればチェルノブイリ原発事故に基ずくものと推考し得ると考え、本研究を実施した。ビテブスクにおいて、チェルノブイリ原発事故(1986年)前後の急性白血病発症率(人口10万名対)は3.29(81)、1.09(82)、2.45(83)、3.34(84)、1.09(85)、1.53(86)、1.61(87)、1.08(88)、2.60(89)、2.39(90)、2.05(91)、1.43(92)とほぼ同様で増加は認められていない。また慢性リンパ性白血病に関しても6.59(81)、5.92(82)、6.35(83)、8.14(84)、4.16(85)、8.09(86)、7.98(87)、6.48(88)、2.69(89)、2.21(90)、2.94(91)、3.13(92)とほぼ同様であった。多発性骨髄腫も2.0(81)、1.27(82)、1.36(83)、0.99(84)、0.81(85)、1.08(86)、1.26(87)、1.08(88)、1.53(89)、0.88(90)、0.62(91)、1.16(92)と同様であり、多血症も1.55(81)、1.18(82)、1.91(83)、2.08(84)、0.72(85)、2.43(86)、2.42(87)、2.16(88)、1.44(89)、0.44(90)、0.53(91)、0.99(92)と同様であったが、低形成性貧血は1.28(81)、0.73(82)、0.91(83)、1.27(84)、0.36(85)、1.08(86)、0.72(87)、0.72(88)、0.81(89)、0.53(90)、0.36(91)、0.18(92)と低下傾向を示した。一方、小児(14歳以下)の急性白血病発症率も4.1(81)、2.4(82)、3.8(83)、1.7(84)、2.7(85)、2.4(86)、4.8(87)、5.4(88)、5.0(89)、4.6(90)、1.6(91)、4.0(92)とほぼ同様であった。成人は1992年度に16名の急性白血病を発症しており、慢性白血病は35名の発症を見た。一方、小児(0-14歳)は1992年に13名が急性白血病を発症している。小児における白血病発生率は事故前の1979〜1985年で39、事故後の1986〜1991年で42(小児人口百万対)であった。ベラル-シ全体では各々40.7及び41.3であり、統計学的有意差は認められていない。又、最汚染地区であるゴメル、モギリョフにおいても事故前各々35及び48であったものが事故後40及び41であり、統計学的有意差は認められなかった。以上の事実より、放射線被爆により最も誘発されやすい小児の白血病発症率は現在までの所、チェルノブイリ事故によってほとんど影響を受けていないといえる。一方、ビテブスクに居住中の事故後の消火作業、放射性物質除去作業に従事した人々(Liquidator)においては、現在までに5名の急性骨髄性白血病(AML)症例及び1症例の真性多血症を確認した。FAB分類では3例のAML,M1、1例のAML,MO、1例のAML,M6であった。発症数は1988年2名、1989年2名、1990年、1991年各々1名であり全例死亡している。Liquidator数は年々増加し、1986年2914名であったが、1987年1289名、1988年561名、1989年608名、1990年60名ずつ移住しており、合計5441名である(1994年12月末現在)。発症率を人口百万対に換算すると、1988年420、1989年372、1990年184、1991年184と明らかに高率となっている。現在すべてのLiquidatorに関する資料を集積しており、各個人の健康診断を施行している。これらの集団の注意深い観察が必要と考える。
著者
小林 芳恵
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

平成17年度は、本研究の目的達成の為に、バルトリハリ著『ヴァーキヤパディーヤ』第三巻及びそれに対するヘーラーラージャの注釈「プラカーシャ」について、次の研究を実施した。まず、前年度のインド渡航時に収集した写本写真を含む現在使用可能な『ヴァーキャパディーヤ』及び「プラカーシャ」の写本資料を整理し、同時にコンピューター上で画像ファイル化した。これによって写本使用の便が図られ、かつ永続的な保存が可能となった。次に、それら収集・整理された写本資料を利用して、『ヴァーキャパディーヤ』及び「プラカーシャ」のこれまでの読了部分、すなわち第一章「種詳解」章前半分(第一詩頌から第四十詩頌まで)、第二章「実体詳解」章、第四章「再実体詳解」章、第五章「属性詳解」章について、テキスト・内容・翻訳を再検討した。その成果は広島大学に提出予定の学位請求論文「ヴァーキャパディーヤ研究」に附論として収録の予定である。同論文は、既発表の論文を含むこれまでの研究成果と本科学研究費による成果等を集大成するものであり、それによって、抽出された語意の観点からバルトリハリの言語理論が明快に示されることとなろう。なお、研究計画において同論文は本年度中に広島大学に提出される予定であったが、『ヴァーキャパディーヤ』及び「プラカーシャ」の写本の整理編集作業と写本研究の成果反映に予定外の時間と労力を要したため、今年度中の提出は見合わせざるを得なくなった。しかし研究の内容そのものに変更がないことはいうまでもない。そのほか前年度に開催された国際バルトリハリ学会での口頭発表の内容を論文としてまとめた。近刊の同学会報告書に掲載予定である。
著者
栗原 英見 佐藤 勉 鴨井 久一 石川 烈 花田 信弘 伊藤 公一 村山 洋二 岩山 幸雄 丹羽 源男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

唾液を用いた歯周病検査の開発について多角的に検討した.侵襲性歯周炎患者においてPorphyromonas gingivalis(P.g)に対するfgA抗体産生がみられ,唾液中の特異的IgA抗体測定によってP.g感染を検出できる可能性を示した.PCR(polymerase chain reaction)法での唾液を使った歯周病原性細胞検査が可能であることを明らかにした.血清とActinobacillus actinomycelemcomltans(A.a)の外膜タンパク(Omp)が強く反応した歯周病患者の唾液を使って,A.aのOmpを抗原としたfgAレベルでのA.a感染の同定を行う有効な手段を示した.Streptococcus-anginasus(S.a)をPCR法で特異的に検出する技術を確立し,上皮組織の抗菌ペプチド(hBD-2)とS.aの関連によって,S.aが病原性を示す際に必要な分子メカニズムの一端を解明した.歯周治療によりインスリン抵抗性や血糖コントロールを改善した糖尿病患者モデルを使うことで,唾液を用いた歯周病検査の開発に利用できることを明らかにした.糖尿病患者の唾液を検体とした生化学検査によって歯周疾患群と歯周疾患なし群とで有意差をは認めず,糖尿病と歯周疾患の関連性を明らかにすることはできなかった.唾液中の好中球のエラスターゼ活性や活性酸素産性能は歯周疾患の病態やリスク判定に有用である可能性を明らかにした.唾液中のMMP-8量の測定から,その活性型の値によって歯周疾患活動性の高い患者を特定できることを明らかにした.健常者に比べ歯周病患者では唾液中の酸化ストレス産物(8-OhdG)が有意に高く,歯周病診断の検査項目として有用なことを明らかにした.歯槽骨代謝マーカーとして有用性の示唆されている硫酸化グリコサミノグリカン(S-GAG)について,唾液での測定を行ったが測定できなかった.
著者
飯田 操
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、イングリッシュネスすなわちイングランド覇権を容認したブリテン体制を基盤にして帝国をめざしたイギリスの国家形成において、自国意識を醸成するために大きな役割を果たした国家表象の諸相について論述したものである。序章においてはブリテン体制の実態はイングランドを中心においたイングリッシュネスの構想に他ならないことを考察した。第1章においては貨幣の意匠における国家表象の役割について考察した。第2章においては風刺画に現れるブリタニア像のさまざまな様態を概観し、それらが自国意識の醸成に果たした役割を考察した。第3章においては第二の国歌とも言われる「ルール・ブリタニア」の起源について考察し、隷属を恐れ、自由を希求する願望の歌が、帝国としての発展とともに支配的で好戦的な歌に変貌することを論述した。第4章においては文明化の使命を具体化したとも言える大英博物館の創設の目的とその展示物に次第に膨張する自国意識が見られることを、特にパルテノン・マーブルの問題に焦点をあてて論じた。第5章においては1851年にロンドンで開催された万国博覧会もまた、産業国家としての発展を誇示し、自国意識を醸成する一つの国家表象であったことを論述した。第6章においては、『パンチ』に頻出するブリタニア像が自国意識を高揚させるためだけではなく、社会矛盾を批判するものとしても存在することを分析し、その国家表象としての意味について論述した。このように国家表象をさまざまな側面から分析することにより、帝国形成期のイングリッシュネスの本質に追ることができたものと考える。今後の課題は、個別的に論じたこれらのテーマを有機的に結びつけ、よりダイナミックに論じることである。また、帝国形成に果たした国家表象の意味を、西洋の列強にならって近代化をはかった当時の日本における国家表象の実態との関連でより詳しく論じることが残されている。
著者
中尾 敬
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本年度は,答えが1つではない事態における行動選択過程を明らかにするため,事象関連脳電位を用いた実験1〜4と,行動指標を用いた実験5を実施した。実験1,2では,答えが1つでない事態における行動選択(職業選択課題:どちらの職業に就きますか?「高校教師大工」)時に認められる陰性電位が,競合(迷い)の程度を反映しているのかどうかを検討した。その結果,職業選択時の陰性電位の振幅が,競合の程度によって変化することが明らかとなった。このことにより,答えが1つではない事態における行動選択過程を探るための1っの指標(CRN,conflict related negativity)を確立することができた。実験3では,CRNを指標とし,内側前頭前皮質の表象(自己知識)が,職業選択時の競合を低減するのかどうかを検討した。自己知識課題(例:あなたにあてはまりますか?「やさしい」)の遂行直後に職業選択を行った場合と,他者知識課題(例:小泉首相にあてはまりますか?「陽気な」)の遂行直後に職業選択を行った場合とで,職業選択時のCRNの振幅を比較したところ,自己知識が活性化されやすい状況で職業選択を行ったときの方がCRNの振幅は1」小さかった。また,実験4から,実験3の結果が,自己知識課題と職業選択の両方が自己についての判断であったことにより認められた結果ではなく,自己知識が行動選択の基準として機能したためにみられた結果であることが明らかとなった。このことから職業選択時には自己知識が行動選択の基準として機能していることが示された。実験5はfMRI(functional magnetic resonance imaging)を用いた実験を行うための予備実験として実施した。実験5からは,行動選択の基準として機能している情報の特性(行動選択の基準に記銘語を関連付けると記憶が促進される)が明らかとなった。今後はこれらの実験結果の公表を進めつつ,fMRIを用いて,答えが1つでない事態における行動選択の脳内過程についての検討をさらに進めたい。
著者
岡村 美由規
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

初等教育の完全普及は、人権としても経済・社会発展の土台としても今日広くその意義が国際社会で認められている一方で、その道程はまだ険しい。そこで本研究は、開発途上国における教育政策の成否のメカニズムとその要因について、ボリビア・チリ・ペルーを対象に、教育関係当事者に注目して、彼らが持つ思想、それに基づく教育政策への活動関与、それを支える行動原理、そして当事者間の相互作用について、当事者の認識というミクロの視点から教育社会学的に明らかにした。
著者
丸山 一平
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

高強度コンクリートは,硬化体の密度が高く乾燥収縮量が小さい反面,自己の水和に基づく内部乾燥によって自己収縮することが知られている。この自己収縮に起因して,微細なひび割れが鉄筋による拘束条件によって鉄筋周辺に生じる可能性があり,もし,この微細なひび割れが存在すれば,付着の劣化による構造挙動の変化,かぶり厚さの低減による耐久性の劣化が懸念される。昨年度は,高強度コンクリートの自己収縮に起因する微細なひび割れが発生するかどうかを,溝切り鉄筋を埋設し,材齢1日より,着色アルコールを溝に流し,ひび割れ発生を検証する法を開発し,実際にひびわれが鉄筋周囲にひびわれが入ることが明らかとなった。本年度は,鉄筋拘束供試体の鉄筋ひずみを検証対象として,増分型3次元クリープ解析を行ったところ,鉄筋ひずみは想定される小さくなった。つまり,ひびわれを想定しないで生じる理想状態の応力と実際の応力では大きな隔たりが生じることが解析的に明らかになった。そこで,この原因が鉄筋周囲のひび割れ発生に基づく付着の劣化によるものであると仮定し,水和継続中の部位のひびわれを既往の破壊エネルギーを用いた有限要素スメアードひび割れモデルの概念を発展させ,時間依存性ひび割れモデルとして提案した。このモデルを用いて,様々な鉄筋比の試験帯を用いて検証したところ良い一致を見た。本モデルは,過去に生じた最大ひび割れ幅と引張強度の進展に依存して,ひび割れた部位であっても剛性が水和によって進展するというモデルである。付着の影響とひびわれの影響がいまだ混在しているモデルではあるが,鉄筋周囲のコンクリート要素という適用範囲を考えれば,十分に実用的なモデルであると考えられる。
著者
前原 俊信 笠井 聖二
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

特殊相対性理論におけるローレンツ変換によって,慣性系における同時刻が相対的になることを仮想体験するための動画変換システムを開発した。人の前を物体が横切る場合,物体の静止系では,物体の前方ほど未来が見えるようにすることによって,変換前の動画では物体がローレンツ短縮しているが,変換後の物体の静止系では物体のローレンツ短縮が解け,逆に人がローレンツ短縮している様子をシミュレートできる。また,逆に変換前を物体の静止系と見て変換することもできるようなシステムとした。この開発において,次のような成果を得た。・正しいシミュレーションとするためには,変換後のフレームサイズとフレームレートを変えなければならないことを理論から明らかにし,システム上で実現した。・高速度撮影カメラによって撮影された動画も変換することができるシステムとした。それにより,スムーズな時刻変化を実現し,臨場感のある動画への変換が可能になった。・USBカメラで撮影してその場で変換できるようにし,その場で撮影することによる実体験を通して実感できる教材とした。・人の静止系と,物体の静止系とを,それぞれを静止させた映像として同時に表示し,その違いを実感できるので,二つの系の関係を理解させるのに有用な教材となった。大学生に対する授業とともに,中学生・高校生にもローレンツ短縮について紹介する自由参加の授業を試行した。アンケートでは,「難しかった」とともに「面白かった」,「また参加したい」という回答が多く,自由記述にも「図や動画があったおかげで,すこしわかったような気がします。」「すこし難しかったですが,動画はわかりやすくて面白かったです。」「動画がとても楽しかったです。でも相対性理論は難しいと思いました。」とあり,専門家だけでなく,初学者にもこのシステムが有用であることを確かめられた。物理学科での検証ができなかったことと,時間の遅れを理解させる教材までは発展できなかったことを,今後の課題としたい。