著者
礒部 年晃
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

■研究目的本研究は、次期学習指導要領で新設されることが決まった低学年「数量関係」領域の具体的なカリキュラムを開発することを目的とした。そのため、関数的な考え方へとつながる内容を第1・2学年の「数と計算」領域の中から抽出し、新たな単元として設定して実践的に研究を進めた。■研究方法新しい単元開発の着眼点として(1)関数的な考え方の伸張、(2)数学的内容の系統・発展、(3)子どもの課題意識の連鎖、の3点を設定した。そして、第1学年、第2学年それぞれ2クラス、計4クラスを取り上げ、授業実践を比較しながら、常に妥当性・客観性を検討して進めていった。■研究成果本研究をとおして、低学年において「数量関係」領域の単元を開発する際には、複数の事象間に共通する性質を帰納的に一般化していく「『きまり』を創発する活動」を位置づけた発展的学習の設定が有効であることが明らかになった。この「きまり」づくりの活動を中核にして、事象の条件を連続的に変化させ、一般化された法則づくり(学級文化づくり)を行うことに、児童は興味をもって追究できることも明らかになった。さらには、「きまり」を考察する活動を設定することで、関数的に事象を追究する主体的な児童の態度を育成することができることが明らかになった。第1学年において、新たに開発した単元は、次の通りである。1.10までの数をつくるたし算はいくつできるか:式の見方と変化2.差が□になる○-△(一位数同士)のひき算は何種類:変化と対応3.繰り上がりがあって和が11〜18の式はいくつできる:式の変化4.繰り下がりがあって差が2〜9の式はいくつできる:差の変化5.数の並びのきまりはずっと変わらないの:数表の見方と数の拡張
著者
大西 潤一
出版者
広島大学
雑誌
音楽文化教育学研究紀要 (ISSN:13470205)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.27-35, 2004-03-25

音楽科の大学生, 大学院生17名に基準音(C)に続いてさまざまな音高を, その音高に対応する異名同音的に等価な複数の音名のうち,その音高の呼称として接触する頻度の高い音名のシラブル(C#であれば「ド」)で歌ったもの, 接触する頻度の低い音名のシラブル(同「レ」)で歌ったもの,および統制条件として母音で歌ったものを提示し,口頭およびキーボードの該当する鍵盤を押すことにより音高の同定を行わせた。その結果,口頭,鍵盤いずれの反応方法をとった場合でも,接触する頻度の低い音高シラブルで歌われた場合には,音高の同定に干渉効果が生じることが示された。
著者
李 敏
出版者
広島大学
雑誌
大学論集 (ISSN:03020142)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.89-105, 2011-03

This paper studies the changes in the process of job seeking by university graduates in China through comparison of the data of two graduate employment surveys in Shanghai in 1999 and 2004. The dramatic expansion of higher education in 1999 is an important turning point in Chinese higher education history. The environment for university student's employment also changed and since 1999 the supply of university graduates has exceeded demand; accordingly, low employment for university graduates became an object of public concern. At the same time, along with deregulation of job seeking, graduates obtained more and more freedom to seek employment.Based on an analysis of the two surveys, the author has examined: 1) the time of starting job seeking; 2) the period of job seeking; 3) the number of the resumes sent and the number of informal assurances of employment received; and 4) the route for job seeking and the regulated factor about which route to choose.This study's brief conclusions are as follows. 1) With the expansion of higher education, a graduate labor market has been established. Especially in the years since 1999, the development of online recruitment has led to great changes in job seeking and recruitment. 2) Compared to 1999, graduates now start their job seeking earlier, and they need to send many more resumes to obtain an assurance of employment. This can perhaps be interpreted as an evidence of job scarcity. However, the influence of online recruitment should be taken into account. This change in the way of job seeking has made it possible for students to start their job seeking at an early stage and continue it for a longer period. 3) The graduate labor market has differentiated into two parts: a university-based internal market and social external market. Which labor market students choose is strongly determined by the university's rank and the students' major. Generally speaking, graduates from high ranking universities tend to use the university internal market, while others tend to begin their job seeking in the external social market: especially for graduates of low ranking universities, the personal network is the most effective way to find a job. Meanwhile, graduates whose majors provide high specialization tend to find jobs through campus recruitment, since they can meet the employee's needs well. Thus, functional differentiation can be found between the university internal market and the external social market. The information quality in the former market is high, but in the latter market lacks guarantees, despite the enormous quantity of recruitment information.
著者
岡本 泰昌
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

うつ病はネガティブな情動刺激に対する自己関連付けをおこなう特徴を有する。これまでの画像研究の結果から、自己関連づけ処理と内側前頭前野(MPFC)と前帯状回(ACC)の機能の関連が指摘されているが、うつ病を対象としたこれらの機能異常は明らかになっていない。そこでわれわれはいくつかの検討を行い、以下のような知見を得た。ネガティブ刺激の自己関連付けにおいてうつ病患者の内側前頭前野・前帯状回の活動は対象健常者より有意な活動上昇が認められた。さらに、うつ病患者を対象として認知行動療法(CBT)後には、ネガティブ感情語の自己関連付けにおいてCBT後に内側前頭前野、腹側前帯状回の活動が有意に低下することが明らかになった。われわれの研究の結果は、CBTによって自己に対するネガティブな認知に関わる脳機能が変容することによりうつ病の症状が改善することを明らかにした。
著者
廣田 隆一
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

申請者らは、これまでにバクテリアのリン酸レギュロンの制御因子であるphoUに変異を導入することで、ポリリン酸が高蓄積することを明らかにした。しかし、phoU変異株は継代するとポリリン酸を蓄積しないリバータントを急速に生じる。本研究ではこの原因の究明を行い、安定性の高いphoU変異株を取得するための方法論を確立した。これによりphoU変異株を利用したリン資源のリサイクル技術開発に貢献できる可能性がある。
著者
田村 耕一
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

地域金融機関の中小企業に対するビジネスモデルである地域密着型金融(リレーションシップ貸出)では、資産を引当てとするトランザクション貸出における担保像(換価処分目的)は妥当しない。具体的な譲渡担保の機能は、(1)在庫や債権管理の情報を一体的に共有するため、(2)取引や事業展開に積極的に関わる経営関与のため、(3)M & Aや事業譲渡の際に事業の一体性を保全するためである。九州の金融機関へのアンケート調査においても、上記の傾向を確認することができた。今後、実態に応じた法的認識を行う必要がある
著者
藤原 由弥
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は,小学校体育科で行われるボールゲーム・ボール運動に注目して,これらの運動に必要な「空間認知力」を6年間で育成するための系統表作成,ならびに,作成した系統表に基づいて単元開発授業研究を行うことを目的とした。ボールを扱うゲームの中では,攻撃の際により自分がパスをもらえるように有効な空間へ動く,または得点へとつなげるためにより有効なパスが出せる位置を探すことが必要になってくる。このように「運動をする中で瞬時に空間を認知し,より有効な空間へ移動したりパスを出したりする力」を「空間認知力」という。研究方法としては,小学校6年間で「空間認知力」を育成するための系統表を作成後,小学校2年生の単元「ゲーム『鬼遊び』」の中の「ボール運び鬼」を基本とした単元開発,授業研究を行った。授業は毎時間ビデオで録画した。「ボール運び鬼」は,宝(ボール)を持ったオフェンス(OF)が決められた空間にいるディフェンス(DF)を突破し,宝を運ぶ鬼遊びである。この運動には,OFが空間を認知し活用しながら攻撃する(空間認知力)という特徴がある。また,コートやチームの人数,ボールの数など,様々な要素を工夫することによって低学年から空間認知力を育成することができると考えた。本単元では,DFの制限区域を広く設定しDFの動きの自由度を高めることで,中学年以降のゴール型ゲームと近い状況を作り出した。また,5対5という少人数を基本としたり,単元の中でアウトナンバーの場も設定したりすることで,空間が生じやすいようにした。さらに,攻撃ではランプレー中心とすることで低学年でも取り組みやすい運動になるようにした。成果としては,空間認知力における「わかる」(認識目標)に対する子どもたちの変容が見られた。DFを突破するためのホイントを記述式で回答させたところ,92%の子どもがフェイクやストップなどの個人的な技や,おとり作戦や時間差攻撃,コートを広く活用するなどのチームの作戦がDFを突破するためには必要だと理解していることが分かった。また,技能目標に対する変容を見るため,抽出児童を決定して宝を運ぶ決定率を分析していくと,どの子どもも単元が進むにつれて決定率が上がっていることから,子どもたちは単元が進むにつれてDFを突破するために必要な空間認知力が向上していることが分かった。以上,アンケートおよび抽出児竜の決定率の変化から,本単元は,小学校2年生の「空間認知力」の育成に有効な単元であったと考えられる。
著者
角本 法子
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

造血幹細胞移植を受ける小児を対象として3DSを応用した口腔除菌プログラムを開発し適用したところ,口腔内の細菌数を減少させ,それを維持することができた。また口腔粘膜の状態にも改善が見られたことから, 3DSが患児の全身的感染予防とQOLの向上に寄与できる可能性が示された。
著者
牧野 暢男 伊藤 友子
出版者
広島大学
雑誌
大学論集 (ISSN:03020142)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.65-81, 1981-11
著者
黒瀬 智之
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

炎症性サイトカインの発現と関係のあるNF-κBや、HIF-1α、酸化ストレスを起こすNOS(nNOS、iNOS、nNOS)の発現をリアルタイムPCRで調べたところ、iNOSのみ著しく増加した。INOSを阻害することで酸化ストレスを抑制すれば、褥瘡の発生を抑えるかもしれない。圧迫を繰り返した臨床的な褥瘡モデルでは、1回の圧迫よりも炎症性サイトカインが増加していた。炎症性サイトカインの重要性のさらなる裏付けとなると考える。
著者
奥村 誠 杉恵 頼寧 塚井 誠人 小松 登志子 岡村 敏之 藤原 章正
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は,交通工学,衛生工学,水資源工学などの立場からの知見を総合し,中小都市に即した緊急時の給水計画のあり方と,その立案の効率化のためのシステムの開発であり、基本的な分析ツールの開発を行った。第1に代替水源としての可能性の高い地下水利用を念頭におき,地震時の地上・地下構造物の破損により新たな汚染源が発生した場合の飲用可能性を検討するためのシミュレーション方法を開発するとともに,簡便水質測定法の精度の検討を行った。第2に緊急給水作業に対する道路ネットワーク,耐震配水池,井戸水での代替の効果を検討するため,給水車による飲料水の配送計画モデルを作成した。次いで,東広島市西条地区を対象に,収集した各種のデータを地理情報システム上に整理するとともに,それを用いた具体的な検討を進めた。まず,残存井戸における地下水位と流向流速調査に基づいて利用可能水量の検討を行った。つぎに汚染シミュレーションに基づく汚染拡散を踏まえた簡易水質検査井戸の選定方法の検討,人口と井戸の分布を踏まえた緊急給水点配置の計画モデルを加えて,緊急時の簡易水質測定体制,給水点の設置,給水車の配備を事前に立案する手順を整理した。いずれの問題も複雑な計算を内包するものであり,現時点でパソコン上の簡便な検討システムの構築は困難であることがわかった。具体的な知見は以下の通りである。第1に地下水の季節的な量的変動にかかわらず,緊急時に必要な水量はほぼ確保できる。第2に芸予地震時に断水した広島県島嶼部では,日常的に井戸水を用いている世帯を中心にかなりの井戸水が飲用に使われていた。第3に汚染シミュレーションを用いれば,井戸の汚染リスクが計算でき,その影響を最小にするような検査井戸が選定できる。第4に使用可能井戸を踏まえて緊急飲料水の配送を考えれば,一定のコスト削減が可能である。
著者
曽田 三郎 岡 元司 松浦 章 山崎 岳 太田 出 佐藤 仁史 藤田 明良 岸田 裕之 曽田 三郎 鹿毛 敏夫 佐藤 亜聖
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、国家間の次元ではなく、よりミクロな地域に視点を置き、東アジア海域における交流の歴史を、多角的に分析することにある。これまで、海は国境という観点からとらえられることが多かった。我々は、多くの地域を相互につなげる交流の場という海の役割に注目した。具体的には、浙江省の寧波と江蘇省や福建省の海港地域に着目して、文化的・経済的交流の諸相を分析し、東アジア海域における日中交流の歴史的展開を解明した。
著者
嶋本 利彦 MITCHELL Thomas Matthew MITCELL Thomas Matthew
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,断層帯の内部構造,力学的性質,浸透率のような水理学的性質に関する構造などを調べて,地震の発生過程および地下深部における流体移動の定量的な解析に必要な断層モデルを提示することである.南米チリのアタカマ断層では,断層帯の内部構造と断層帯に接する母岩中のダメージ分布をより詳細に解析して論文で報告した(Mitchell & Faulkner,2009)。この研究では,顕微鏡スケールの微小クラックから地質断層に至る5桁におよぶ規模で,ダメージ分布が定量的に解析された.その結果,ダメージの程度を示すクラック密度は断層コアからの距離のべき乗に比例して減少することが明らかになった.断層帯のダメージ分布がこのように詳細に調べられたのは初めてである.今後クラック密度と浸透率,弾性波速度などの関係を決めることによって,断層帯全体の浸透率・速度構造モデルを決める道が開けた.有馬-高槻構造線と米国カリフォルニアのサンアンドレアス断層では,衝撃粉砕岩の野外調査と変形組織の解析をおこなって,結果を国際会議で報告した(論文は現在執筆中).衝撃粉砕岩(pulverized rock)とは,著しく粉砕しているものの,母岩の組織(花崗岩の等粒状組織など)を残していて,通常の断層のような著しい変形をうけていない岩石のことである.最近命名されて何故そのような岩石が断層沿いに形成されるかが議論されている.本研究では,両断層とも,断層コアの両側で断層帯の幅が著しく違うこと,破砕物の粒径分布で共通性が認められることなどを見いだした.その他,蛇紋岩断層ガウジ',無水石膏とドロマイトからなる断層ガウジの高速摩擦実験を共同でおこない,断層は高速時に大きな強度低下を起こすこと,摩擦熱で層状鉱物からなる断層ガウジは脱水・脱ガス分解をして天然の組織とよく似た剪断組織が形成されることを見いだした(学会で発表).
著者
鈴木 一郎
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ヒドラジン、ヒドラジド型不斉有機触媒を用いた不斉Biginelli反応に関して検討を行った。ピラゾリジン塩酸塩が高活性を示したことから、これを元にアザプロリン型不斉触媒を合成し、Biginelli反応に応用した。しかしながら、ピラゾリジンに比べ、触媒活性が大きく低下したほか、不斉収率は低いことが解った。このほかにジアミイミダゾリジノン、アミノオキサゾリジノン型触媒を検討した。これらの触媒はDiels-Alder反応においては高活性を示し、不斉収率も極めて高かった。
著者
岡村 寛之
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成16年度の主な成果として,確率モデルによるコンピュータウィルスの挙動解析,統計的不正検知アルゴリズムの開発,チェックポイント生成アルゴリズムの開発を行った.(1)確率モデルによるコンピュータウイルスの挙動解析確率モデルによるコンピュータウイルスの挙動解析では,連続時間マルコフ連鎖を使ったウイルス増殖のモデル化を行った.特に,ウイルス増殖における確率的事象に着目して,ウイルスの増殖能力を定量的に評価する尺度の導出を行った.また,現存するウイルス感染数のデータを用いて提案した尺度を算出し,ウイルスに関する特徴分析を行った.この結果は平成16年度に出版された学術雑誌で発表された.(2)統計的不正検知アルゴリズムの開発統計的不正検知アルゴリズムの開発では,サーバの利用状況(プロファイル)を常に監視して,DoSアタックなどの異常を検知するためのモデルを構築した.異常を検知する技術として,ベイジアンネットワークを導入することで,従来の統計的な手法よりも多くのデータを矛盾なく利用することが可能となり,検知の精度が向上した.この結果を平成16年度8月に開催された国際会議で発表した.(3)チェックポイント生成アルゴリズムの開発リアルタイム制御が必要なアプリケーションに対するチェックポイントアルゴリズムを新たに提案した.提案されたアルゴリズムは動的計画法に基づいており,従来のアルゴリズムと比較してどのような環境でも安定して解を算出することができる.この結果を平成17年度8月に開催される国際ワークショップで発表する予定である.その他にも本研究に関連するものでは,ソフトウェアシステムの信頼性を向上させるための予防保全手続きの一種であるソフトウェアレジュビネーションに関する研究と,ソフトウェア開発工程で利用されるソフトウェア信頼度成長モデルに関する研究がある.これらの成果も学術雑誌や国際会議で発表を行った.
著者
犬丸 啓 福岡 宏 山中 昭司
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,系を特徴づける分子レベル,ナノレベルあるいはそれ以上のレベルの階層同士が機能面で絡み合っている系を,「機能階層系」と定義し、これをキーワードにした材料の探索を、薄膜合成や超高圧合成などの特殊反応条件を活用し行った。酸化チタン粒子や金属Pd粒子をメソポーラスシリカで包含した複合体の(光)触媒作用、超伝導金属窒化物や反強磁性窒化物の高圧合成や薄膜合成などにより、特殊反応条件の特徴の現れた、あるいは界面における相互作用が物性に大きく影響を与える系が見出された。
著者
山下 隆男 塚本 修 大澤 輝夫 永井 晴康 間瀬 肇 小林 智尚
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,地球温暖化による気候変動に伴い巨大化する台風,ハリケーン,サイクロンを対象として,わが国の主要湾(大阪湾,伊勢湾,有明海・八代海),メキシコ湾およびベンガル湾における,高潮,高波,強風,豪雨、洪水に関する災害外力の上限値を評価することを目的とする。このため,以下の3研究課題について,各々のサブテーマを分担課題として研究を進め,災害外力の上限値解析を行った。(1)スーパー台風(ハリケーン・サイクロン)の数値モデル(2)台風と海洋との相互作用(3)スーパー台風による災害外力の上限値解析。最終年度に得られた成果をまとめると、以下のようである。1.海水温の上昇により、熱帯性低気圧がどの程度巨大化するかを、地上風速、降雨量とについて数値的に検討した。海面水温の2度の上昇は海面風速(せん断応力)降水量(陸上および海上)に極めて甚大な影響を及ぼすことを示した。2.台風と海洋の相互作用では、台風による海水混合で台風が弱体化する機構を示した。さらに、海上の降水量、河川からの出水により海洋表層の淡水成分が増加すれば、成層構造が強化され、台風による海水の混合過程が弱まれば、台風が減衰しにくくなる可能性を示した。3.災害外力の評価では、沖縄県において台風の巨大化を考慮した高潮ハザードマップを作成し公表した。4.気候変動の捉え方として、地球の平均気温のように指数関数的に増加するトレンドとしての上昇以外にも、太平洋、大西洋、インド洋等の海洋振動の影響による数十年周期の変動(ゆらぎ)を、適応策において考慮することの重要性を指摘した。
著者
小谷 朋弘
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

本研究は、現代社会における紛争処理の能様について明らかにすることをネライとしており、主に3つの部分から構成されている。第1は、市民の法意識であり、ここでは法意識の方向と水準の2つの視点からアプローチされている。「方向」は、個人主義ー相互主義と公志向ー私志向の2つの尺度でとらえられ、「水準」は、規範主義ー順応主義の尺度でとらえられている。平民においては、相互主義が圧倒的に優勢であるが、公志向と私志向では私志向が優勢であり、平民はよりよい社会をつくることには賛成しているが、かといったそのために個人の権利まで放棄するものではないことがわかる。第2は、市民の紛争処理の態様である。ここでは紛争処理の志向と紛争処理の経験の2つの視点からアプローチしている。前者からは、市民が紛争処理にあたって、第1次的紛争処理機関よりも第2次的紛争処理機関の利用に傾斜しており、他方後者からは、実除に、恵2次的紛争処理機金の役割がきわめて重要な位置を占めることがわかる。第3は、紛争処理における弁護士と市民との相互の関係である。ここでは、弁護士職に対する職業行価、弁護士アクセス、弁護士職の職業構成の3つの視点からアプローチされている。前者からは、市民と弁護士の間にとくに弁護士職の安定性と高収入性の2点について認識の中カップが大きいことがわかる。中者からは、アクセス経路が困難的であり、かつまたクライアントの階層が上層に傾斜していることがわかる。そして後者からは弁護士職が員訴訟業務に特化していることが明からになっている。