著者
田中 久男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、アメリカ文学を地方主義(regionalism)という観点から究明しようと試みたものである。東部、南部、中西部、西部という従来の合衆国の地域分けを本研究も踏襲した。しかし、E.エリオット編『コロンビア米文学史』(1988)で地方主義を担当したJ.M.コックスも、「西部は未来と移動性そのもの--つまりアメリカなのだ」と、西部を扱うことの難しさを歎いているが、本研究でも、西部の研究は言及程度に留まった。とはいえ、従来の地域分けにつきまとっていた、ニューイングランドを含む東部を合衆国文化の中心とする政治的、経済的力学と連動した地域文化観の偏りを意識して、4地域を平等の力学の中で捉えようと努めた。もっとも本研究者の関心が、W.フォークナー研究にあり、当然、南部に比重が大きく傾くことは避けがたかった。が、それでも、現今の批評の柱であるジェンダー、階級、人種という3視点に注意を払い、宗教やエスニシティや時代の要素にも目配りしながら、各地域のアイデンティティやイメージ、すなわち、その地方が意識し内面化しているアイデンティティと、文学や映画や写真などの外部のメディアや部外者が提供するイメージとが、どのように絡まって重層的に地方の特質を築きあげていくのかを考察しようとした。その際、F・ジェイムソンの『地政学の美学』(1995)やH.K.バーバの『文化の位置づけ』(1994)という文化唯物論的なポストコロニアリズムの視点に立つ研究書を参照することにより、場所の間にも歴史的に構築されたヒエラルキーが存在することを認識し、文学における地方主義の表象解釈が依拠していた審美的な要素に、彼らの先鋭なイデオロギー的な視線を呼び込むことにより、少しは新しい解釈を提供できたのではないかと自負している。
著者
高野 幹久 永井 純也 湯元 良子 永井 純也 湯元 良子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

初代培養ラット肺胞上皮II型・I型細胞を用いて、アルブミンの輸送について比較解析したところ、取り込みはII型のほうがI型に比べて高く、またクラスリン介在性エンドサイトーシスによることが明らかとなった。一方、インスリンの取り込みは両細胞で同程度であり、クラスリンの関与は小さかった。ラット肺胞上皮II型由来のRLE-6TN細胞においてもインスリンはエンドサイトーシスによって取り込まれ、その取り込みはカチオン性ポリアミノ酸によって促進された。カチオン性ポリアミノ酸の効果は、ラットを用いたin vivoインスリン経肺投与実験でも認められた。これらの知見は新たな経肺投与製剤の開発のための情報として重要である。
著者
早坂 康隆
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は舞鶴構造帯に沿う大規模横ずれテクトニクスの実体解明を目的として,テレーンアナリシスに基づく舞鶴帯の拡がりの確定,舞鶴帯に分布する花崗岩類の起源,舞鶴帯のメランジュ様構造形成の運動像と変形時期の解析を行った.また,本研究に資するためEPMA年代測定のシステム確立をめざした.1)JEOL JXA-8200を用いたEPMA年代の測定システムを確立した.2)九州東部朝地変成岩地域の荷尾杵花崗岩のSHRIMP年代の測定結果と朝地変成岩の変成作用および周辺地質体の地質構造を総括し,西南日本の地体再配列が白亜紀前期に起こったことを明らかにした.3)広島県北西部吉和地域の詳細な地質図を作成して構造解析を行い,この地域の舞鶴帯が高圧変成岩や非変成整然層からなる異地性岩塊を含むメランジュ帯であることを明らかにした.4)舞鶴-大江地域の舞鶴帯北帯の圧砕花崗岩類のSHRIMP年代とCHIME年代の測定結果,および周辺地体の地質構造を総括し,舞鶴帯北帯がロシア沿海州のハンカ地塊に対比可能であることを明らかにした。5)島根県江津地域の変成オフィオライトと弱変成田野原川層が,それぞれ,舞鶴帯の夜久野岩類と舞鶴層群に対比されることを明らかにした.また,オフィオライト中の圧砕花崗岩がハンカ地塊と北中国地塊の衝突帯に位置するYanbian地域の後変動時A-type花崗岩に対比可能であることを明らかにした.6)舞鶴帯に分布するトリアス系の砂岩から分離した砕屑性ジルコン・モナザイトのSHRIMP年代とEPMA年代を測定し,東部地域がハンカ地塊を,西部地域が北中国地塊をそれぞれ後背地に持つと推定した.7)以上の成果を総括し,ジュラ紀〜前期白亜紀頃に,舞鶴構造帯と飛騨外縁帯に沿って500km程度の右ずれ変移が起こったと結論した.
著者
林 春男 田中 重好 卜蔵 建治 浅野 照雄 中山 隆弘 亀田 弘行
出版者
広島大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

広島地区(2124名)及び弘前地区(928名)で共通のフォーマットを用いた住民への意識調査を行い以下のような結論を得た。(1)今回の調査では人口109万人の広島市、17万人の弘前市、さらに純農村である青森県平賀町を調査対象とした。人口規模では大きな差異がみられる広島・弘前両市の住民の間には、今回の台風を契機とするライフライン災害に対する対応には差異がみられなかった。しかし、平賀町と市部との差異は顕著なものであり、少なくとも人口100規模までの都市では都市型災害の様相及び防災対策に共通性が存在しうる。(2)被災住民のがまんには3日間という物理的上限が存在すること。(3)復旧に関する情報の提供のまずさが被災住民にとって最も不満であった。住民が求める情報と提供される情報との間には大きなギャップが存在し、情報伝達手段もマスメディア主体となるために、一方的な情報提示に過ぎなかった。こうした事実をもとに被災地域内での情報フロー・システム構築の必要性が議論された。広島地区では中国電力をはじめとする各種行政機関及び指定公共機関を対象に台風9119号に対する危機対応についてヒヤリングを中心にして検討した。その結果、広島市の中央部が配電線の地中化事業が講師が完成していたために、他の地域とは違い停電期間がきわめて短く、広島市における「文明の島」として機能したことが明らかになった。こうした文明の島の存在によって、停電期間中であっても広島市民は「個人的生活」に関する不安は高かったものの、「社会的サービスの提供」に関する不安は低く、それが停電期間中に大きな社会的混乱がみられなかったことに貢献していることが議論された。
著者
高永 茂 小川 哲次 田口 則宏 田中 良治
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

医療面接について社会言語学的・語用論的な分析を行なった結果、相互行為空間の形成の仕方や発話内容の修復などが明らかになった。言語学の分野から社会言語学とポライトネス理論、発話行為論の知見を導入し、歯科医とSP(模擬患者)の意見を総合しながらコミュニケーションモデルを構築した。2006年度から3回にわたって「医療コミュニケーション教育研究セミナー」を開催し、医療とコミュニケーションに関わる各々の研究者が研究成果を持ち寄って知識と経験を共有することができた。
著者
牧平 清超
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

RANKL添加に依存して破骨細胞へと分化するRAW264.7細胞を用いて、TRAFfamilyを中心としたシグナル伝達に関して詳細な検討を行った結果、TRAF1が破骨細胞の分化を負に調節する分子であることが明らかとなった。次に、様々な阻害剤をRAW264.7細胞に添加しTRAF1をマーカーとして骨吸収阻害物質を探究した。Na+/K+ATPase阻害剤であるouabainとvanadateが破骨細胞同士の融合を抑制することを初めて見いだした。
著者
里田 隆博
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

ラット孤束核への入力系を調べるため,孤束核を目標にWGA-HRPを注入した.小脳に対する損傷を最小限にするため,後頭骨の一部を除去して,小脳の一部を吸引除去の後,第四脳室尾側部を確認して,孤束核にトレーサーを電気泳動的に注入した.注入が孤束核中央部に限局した例では孤束内の線維が標識され,またそれは反対側にまでおよんでいた.注入部位の尾側部の孤束核内に標識細胞が見られると同時に,孤束内に軸索を伸ばしている舌下神経核ニューロンと迷走神経背側核ニューロンが観察された.また孤束核より,腹外側方へ伸びる軸索が観察され,孤束核ニューロンと延髄網様体ニューロンとの関連が示唆された.孤束核を中心として大量に注入された例では,同側舌下神経核,迷走神経背側核に標識細胞が見られたと同時に,顔面神経核の最尾側部のレベルにおいて正中部を通過して,反対側へ向かう軸索が観察され,両側性に三叉神経上域から三叉神経運動核内において標識神経終末が観察された.さらに吻側方においては同側の三叉神経中脳路核に多数の標識細胞が,内側・外側結合腕傍核に多数の標識神経終末が見いだされた.これらの神経細胞および標識終末は,孤束核への限局注入例と比較して,孤束核の腹側の網様体よりの入力と考えられる.一方,疑核尾側方網様体にトレーサーが注入された例でも,同側の三叉神経中脳路核に標識細胞が見いだされた.次にこの三叉神経中脳路核ニューロンの延髄および頚髄内の下行性投射を調べるため,咬筋または側頭筋にTrue BlueやFluororubyを注入して,頚髄にFluorogoldを注入し,三叉神経中脳路核内に二重標識されるニューロンの存在を調べた.その結果,中脳路核には二重標識された細胞はみあたらず,中脳路核ニューロンの軸索は頚髄には投射せず,延髄内にとどまっていることが分かった.
著者
里田 隆博
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

ニホンザルを用い,咽頭を支配する運動神経細胞および神経終末について調べた.実験にはニホンザル15頭を用い,舌咽神経を剖出し,その末梢枝(舌枝,咽頭枝)にHRPを注入した.また茎突咽頭筋を剖出しHRPを注入した.48時間生存の後,潅流固定し,脳幹部と末梢の神経節(舌咽神経上神経節,下神経節,迷走神経上神経節,下神経節,交感神経上頚神経節,中頚神経節,下頚神経節)の60μmの凍結連続切片を作製しHRP検出反応を施した.舌咽神経の末梢枝は,頚動脈洞と頚動脈小体を支配する頚動脈洞枝,舌根部を支配する舌枝,咽頭収縮筋を支配する咽頭枝より構成されていた.茎突咽頭筋の支配神経は舌枝より分岐しており,大変細くその枝にHRPを注入するのは困難であった.咽頭枝と頚動脈洞枝は迷走神経とも連絡があり,又,これらの末梢枝は交感神経上頚神経節とも連絡があった.舌枝注入例では,孤束核に多数の標識終末が見られ,また一部の例においては三叉神経脊髄路核の中間亜核の背側部に標識終末が見られた.標識細胞は下唾液核に出現した.神経節は舌咽神経上神経節,下神経節に標識細胞が見られ,交感神経上頚神経節にも標識細胞が見られた.一方,咽頭枝注入例では,脳幹内には,標識終末は見られず,標識細胞が疑核の顔面神経後核と細胞緻密部に出力した.神経節は少数の標識細胞が下咽神経下神経節,迷走神経上神経節,交感神経上頚神経節に出現したのみであった.又,茎突咽頭筋の支配神経細胞は疑核の顔面神経後核にのみ出現し,細胞緻密部には出現しなかった.以上の結果より舌枝は主として求心性の要素よりなり,咽頭枝は主として遠心性の要素よりなるが,少数の求心性要素も含んでいるということが分かった.又,茎突咽頭筋の支配運動神経細胞は疑核の顔面神経後核にのみ存在することが分かった.
著者
松島 龍太郎 里田 隆博 高橋 理 田代 隆
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

カルシトニン遺伝子関連ペプタイド(CGRP)とP物質はともに感覚神経の中でも特に侵害刺激(痛覚刺激)の伝達物質として働くことが考えられている。脳幹部の三叉神経脊髄路核内における両物質の分布と共存関係について検索した。この結果、CGRP陽性線維は三叉神経感覚核群の全亜核に分布しており、三叉神経主感覚核ではその背側亜核に背外側部と腹側亜核の内側縁に、三叉神経脊髄路核の吻側亜核ではその背内側部と内側部に、同中間亜核では腹内側縁と外側縁に、そして同尾側亜核では第I層、第IIo層そして第V層に分布した。これらCGRP陽性線維は大部分がP物質を共有していた。一方、三叉神経節ではCGRP陽性細胞の大部分は小型ないし中型の円形ニュ-ロンであり、P物質を含有するニュ-ロンは他の細胞に比較して小型であった。三叉神経根を切断した実験例では、同側の三叉神経感覚核群においてCGPR陽性線維のほとんどが消失した。以上の結果より、三叉神経系のCGPR陽性線維の大部分は三叉神経節由来の一次求心線維であり、P物質をも含有することが明らかとなった。すなわち、小型神経節細胞に由来する痛覚伝達線維である。一方、実験動物の一側の歯髄に炎症を起こさせた場合、同側の三叉神経脊髄路核の尾側亜核にオピオイド(ダイノルフィン)含有ニュ-ロンが増加した。これらの細胞はCGRP陽性の神経終末と接触している事実が観察された。したがって、口腔領域に発した痛覚情報は、三叉神経節の小型細胞を経由して三叉神経脊髄路核尾側亜核に投射され、上位脳あるいは局所に投射するニュ-ロンに直接に伝達されることが明らかとなった。
著者
内田 隆 村上 千景 里田 隆博 高橋 理 深江 允
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

ブタ歯胚のエナメル蛋白に関して、分子生物学的、生化学的、光顕および電顕免疫組織化学的に検索し、以下の結果を得た。1. 小柱鞘蛋白のクローニングを行い、全アミノ酸配列を決定した、それをシースリンと名付けた。シースリンは380または395のアミノ酸残基よりなり、そのN端側に26アミノ酸残基よりなるシグナルペプチドを持っている。シースリンはラットのアメロブラスチンと塩基配列で77パーセント、アミノ酸配列で66%の相同性を持っていた。シースリンのC端部付近にはリン酸化された糖鎖がついていると考えられるが、その部位は推定できなかった。2. シースリンは分泌後速やかに分解され、そのN端側約100〜150アミノ酸残基を含むフラグメントは13-17kDaの小柱鞘蛋白となって、小柱鞘に局在する。C端側95アミノ酸残基は29kDaカルシウム結合蛋白となり、このC端部約20アミノ酸が切断されると27kDaカルシウム結合蛋白となる。両者はリン酸化された糖蛋白であり、幼若エナメル質表層のみに局在する。シースリンの分子中央部は特定の構造に局在せず、速やかに分解される。3. エナメリンのクローニングを行い、全アミノ酸配列を決定した。エナメリンは1104のアミノ酸残基よりなり、エナメル芽細胞より分泌されたエナメリンは、分子量約150kDaでエナメル質最表層に位置し、ヒドロキシアパタイトに親和性を持たないと考えられる.エナメリンの分解産物のうち、N端側631アミノ酸残基よりなるプラグメントがヒドロキシアパタイトに親和性を持つ分子量89kDaエナメリンとなる。この89kDaエナメリンがさらに分解して、136番目から238番目のアミノ酸残基よりなる部分が32kDaエナメリンとなる。4. エナメル質形成において、アメロゲニンはエナメル質の形態を作り、エナメリンは石灰化開始とアパタイト結晶の成長に関係し、シースリンは小柱鞘の形成に関与していると考えられた。
著者
里田 隆博
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

ニホンザルの舌咽神経内の交感神経およびその求心性線維と遠心性線維の検索を行った。実験にはニホンザル15頭を用い,舌咽神経の末梢枝を剖出し,その末梢枝にHRPを注入し48時間生存の後,灌流固定し,脳幹部と末梢の神経節(舌咽神経上神経節,下神経節,迷走神経上神経節,下神経節,交感神経上頚神経節,中頚神経節,下頚神経節)の60μmの凍結連続切片を作製しHRP検出反応を施した.舌咽神経の末梢枝は,頚動脈洞と頚動脈小体を支配する頚動脈洞枝,舌根部を支配する舌枝,咽頭収縮筋を支配する咽頭枝より構成されていた.頚動脈洞枝は迷走神経とも連絡があり,また交感神経上頚神経節とも連絡があった.この頚動脈洞枝にHRPを注入すると,同側の孤束核に標識終末が見られ,顔面神経核の背内側方の網様体の中にも標識細胞が見られた.また末梢の神経節においては,舌咽神経上神経節,下神経節,迷走神経下神経節,交感神経上頚神経節に標識細胞が見られた.舌枝に注入した例においては,孤束核に多数の標識終末が見られ,また一部の例においては三叉神経脊髄路核の中間亜核の背側部に標識終末が見られた.又,標識細胞に関しては下唾液核に出現した.末梢の神経節に関しては舌咽神経上神経節,下神経節に標識細胞が見られ,交感神経上頚神経節にも標識細胞が見られた.一方,咽頭枝に注入した例においては,脳幹内には,標識終末は見られず,標識細胞が疑核の顔面神経後核と細胞緻密部に出現した.末梢の神経節に関しては少数の標識細胞が舌咽神経下神経節,迷走神経上神経節,交感神経上頚神経節に出現したのみであった.以上の結果より舌咽神経の頚動脈洞枝と舌枝は主に求心性の要素よりなり,咽頭枝に関しては主として遠心性の要素よりなるということが分かった.また今回の実験では舌咽神経のどの枝にも交感神経の要素が多少なりとも入っていることが分かった。
著者
山尾 政博 島 秀典 濱田 英嗣 山下 東子 赤嶺 淳 鳥居 享司
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

東アジアに巨大な水産物消費市場圏ができつつあり、水産物貿易がダイナミックな動きをみせている。日本と韓国では、水産物消費の多様化・簡便化が進み、輸入水産物への依存がいっそう高まっている。日本では、輸入水産物に対する消費者意識、寿司の消費需要動向、回転寿司産業を事例に輸入マグロの利用実態、活魚の輸入、中国からの水産食品輸入の動向などを具体的に検討した。韓国でも中国からの水産物輸入が急増し、国内漁業の存立を脅かしていた。中国では、輸出志向型の水産食品産業が目覚ましい発展を遂げている。当初は対日輸出の割合が高かったが、現在では北米大陸・EU市場などにも水産食品を輸出している。ただ、中国国内での原料確保が容易ではなく、そのため、世界に原料を求めて輸入し,それを加工して再輸出するビジネスが盛んである。日系企業による委託加工が定着すると、日本の大型水揚げ地の中には、中国に原漁を輸出する動きが活発になった。北海道秋鮭の事例を検討したが、加工を必要とする漁業種類の今後のあり方を示すものとして注目される。一方、中国では、経済成長にともなって、水産物消費が急激に増加している。日本を含む周辺アジア各国は、中国を有望な輸入水産物市場として位置づけつつある。東南アジアでは中華食材の輸出が急増して、資源の減少・枯渇が深刻化し、ワシントン条約による規制の対象になる高級水産食材もある。日本の水産物輸入は、近いうちに、中国と競合すると予想される。東アジア消費市場圏の膨張が続くなかで、アジア諸国は水産業の持続的発展をはかるため、資源の有効利用が求められている。「責任ある漁業」の実現が提起され、それに連動する形で、「責任ある流通・加工」、「責任ある貿易」の具体化が迫られている。地域レベル、世界レベルでその行動綱領(Code of Conducts)を議論すべき時代に入った。
著者
久保田 啓一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

近世中期の堂上派武家歌壇では、幕臣や諸大名が京の公家に和歌の指導を仰ぐことが本格化したが、彼らは社会的経済的にむしろ公家を凌ぎ、公家たちの指導振りを俎上に載せて評価し、彼らを競わせた上で、懇切丁寧な指導を行う方を選ぶ姿勢を見せるようになった。江戸の地で多くの門人を持った冷泉家と日野家の競争は、その典型的な事例である。本研究では、享保から宝暦に至る幕臣文化圏の実態、及び天明期以降の松平定信を信奉する層の意識・動向を資料に即して分析し、和歌和文を愛好する武士たちの表現意識が堂上公家を敬いつつも江戸の地に即した詠作の意義を自得するに至る様子を考察した。
著者
伊藤 圭子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

特別支援教育を成功させるために、応用行動分析学の理論を家庭科に導入する意義を検討し、家庭科と家庭とが連携した小学校家庭科における学習プログラムの開発を目的とする。応用行動分析学を用いた家庭科学習プログラムの枠組みの課題として、学校や行政機関による保護者を対象とした家庭科学習内容の実施、教師と保護者との連携強化の必要性、子どもの生活への主体的活用を促す学習教材の検討の3点が提起された。
著者
木庭 亮二
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

学校教育において放射線に関する教育はほぼ皆無であるが,実際には様々な分野で使用され,生活の向上に役立っている。それについて啓発活動を行おうとしても,大学の施設教職員では少人数のため,通常の業務の合間に準備を行うのは難しい。啓発活動の開催についてある程度のシステム化がなされれば,大学の施設職員等の少人数で対応が可能と考え本研究を開始した。一般向けに広島大学自然科学研究支援開発センターアイソトープ総合部門主催の実習「目で見る放射線実習」(以下「実習」)を平成19年8月1日に,公開実験「霧箱で放射線・宇宙線を見てみよう」(以下「公開実験」)を同年11月3日に開催した。実習では広島県及び東広島市教育委員会の後援を得て,周辺の中学校,高校へ開催のポスターを配布し,実験や測定に興味のある参加者を募った。参加者は幼児から一般までの16名で身の回りの放射線についての講義を行った後に霧箱を利用した放射線の観察とγ線測定器を利用した身の回りの放射線の測定を行った。内容について参加者からは概ね好評を得たが,主催者としては募集の際の広報の見直しが今後の課題となった。今後は市の広報誌等の活用を考える。公開実験は広島大学大学祭の参加事業として開催した。来場グループごとにスタッフが一人付き,放射線についてポスターを使い説明を行った後,霧箱の観察,γ線測定器を利用した身の回りの放射線の測定を行った。来場者数は乳幼児を除き77名で,概ね好評を得た。スタッフ側の問題点して随時訪れる来場者への対応のために多くの職員の必要数となることが挙げられるが,説明を開始する時間を固定する等で対応は可能と考える。今後はさらに内容や形態を検討し,少人数での効率的な啓発活動の開催を模索する予定である。
著者
甲斐 章義
出版者
広島大学
雑誌
中等教育研究紀要 (ISSN:09167919)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.231-235, 2005-03-22

広島大学理学部・大学院理学研究科では, 毎年11月初旬の広島大学祭の時期に「理学部・理学研究科公開」が行われている。その一環として, 次世代を担う中高生に「理学」への関心をさらに深めてもらう機会として, 「中学生・高校生による科学シンポジウム」が企画されており, 今年度で7回目を迎えた。ここでは, 自然科学 (数学を含む) に関する日頃の研究活動の成果を, グループあるいは個人で発表する場が設けられており, 多くの学校から熱心な取り組みが毎年発表されている。今年は11月6日 (土) に理学部E002講義室にて開催され, 全部で7校から18件の発表が行われた。その年の研究発表の件数にもよるが, 1つの発表につき, だいたい10分くらいの時間で発表が行われ, その後2〜3分くらいの質疑応答がある。我が校は4年前からこのシンポジウムに毎年参加しており, 2001年度は数学の発表が1件と理科の発表が1件, 2002年度は数学が2件と理科が1件, 2003度は数学が3件, そして今年度は数学が2件, 理科が1件の発表を行った。これらの発表のうち, 数学の取り組みについてごく簡単にではあるが報告したい。
著者
池田 秀雄 渡邉 重義
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

理科の授業において、実験観察は不可欠であり、開発途上国においては簡易的な実験手法の開発、実験材料の開発、地域の実態に合わせた改良工夫などが必要である。また、同時に教科書やシラバスの分析も必要である。本研究の最終年度にあたりまず、バングラデシュ、ザンビア、カンボジア、マレーシアおよびガーナの中等理科教科書・シラバス分析を行った。次いで、バングラデシュ、カンボジアおよびガーナの教育現場の実態調査を行い、問題点を解析した。その結果、シラバスはどこの国においてもあまり大きな問題点は見られなかったが、教科書においては、記述が不正確、教授順序が構造化されていない、生徒の発達段階が考慮されていない、生徒実験が少ない、など多くの問題点が指摘された。また、教育現場においてはほとんど生徒実験がなされていない実態が明らかとなった。そこで、広島大学によってバングラデシュで実施している教員再研修プログラムを通して、現場で実施可能な理科実験観察教材を開発した。開発した教材を実際の教員再研修に組み込んで試行し、その有用性を検証した。さらに、上記で開発した教材を、広島大学の大学院生のインターンシップとしてフィリピン大学理数科教師訓練センターの教員再研修に用いた。以上の結果、本研究で開発した生徒実験教材は、教員再研修において極めて有用であることが実証された。これらの結果は、本科学研究終了後も、ザンビア、カンボジア、マレーシア、ガーナの生徒実験開発の指針となる。
著者
小林 京子 高橋 美与子
出版者
広島大学
雑誌
中等教育研究紀要 (ISSN:09167919)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.39-46, 1999-03-19

今日の食生活は, 食材・調理手法共に国際色豊かになると共に, 「食」の社会化も高まっている。また, 一方家族形態の多様化, 個人の生活重視あるいは家庭事情等によって, 家族揃っての食事回数は少ない。従って「食」を通しての家族の絆は希薄化し, 家庭の味や伝統的な食文化の継承・伝授は困難である。本研究では, 高校生及び高齢者が食文化の継承・伝授について, また今日の食生活の状況や望ましい食生活をどのように考えているのか意識調査し, 多くの高校生や高齢者は食文化の継承・伝授の大切さ・意義を認識しながらも生活時間のずれや食嗜好の差から家族揃っての食事ができていないことが伺えた。そこで, 高齢者と共に伝統的なお菓子作りを授業実践してみた。大半の生徒が交流体験を通して生活の知恵等多々学び, 意義深かったと述べている。今後はこのような体験機会をいかに設定していくかが課題となる。