著者
渡部 直樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.143-170, 2000-04

ゲーム理論は,行為者にとっての状況を理念的に再構成することで,行為者の選択を説明するものである。近年の進化論的ゲーム理論の誕生以来,協調的な制度や規則の説明がより容易になってきた。協調的な関係を分析する場合,以前より注目されていた問題は,囚人のジレンマ・ゲーム状況で,外的な拘束力なしで協調関係が出現し,維持できるかということであった。多くの研究者がこの問題に取り組んだが,その中で最も高い評価を受けたのが,アクセルロッドの研究であった。彼はESSに近似した集団安定性という観点から,常にフリー・ライディングが存在する問題状況でも,「シッペ返し」という協調的な規則が自生的に集団安定(ESS)になると主張した。しかし当稿では「シッペ返し」も少数では,「全面裏切」が支配する集団には侵入が困難であると明確にされた。一方,タカ-ハト・ゲーム(チキン・ゲーム)は,フリーライディングのインセンティブの下でも協調関係が可能な問題状況である。この状況下で協調的な慣習・規則が,自生的に出現できることを示したのが,サグデンの「自生的秩序」の議論である。この議論はナッシュ解が協調的な規則によって実現可能になるというもので,わが国企業をめぐる協調的関係,つまりカシカリ関係や系列生産を説明する上でも有効なものである。
著者
黒川 行治 高橋 正子 渡瀬 一紀
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.87-107, 1998-06

企業の決算行動を説明する要因を明らかにする研究の一環として,アンケート調査を実施した。企業の決算行動は,(1)企業・経営者の状況・属性,(2)アカウンティング・ポリシー,(3)重要性,(4)財務政策・財務上の要請の四つの分類に属する各種の要因によって説明できるのではないかという仮説を立てている。今回,これらの要因から50の質問事項を選択し,各社の経理部長宛に質問用紙を郵送し,回答結果を返送してもらう方法で1997年8月に調査を実施した。アンケート配布対象企業は,わが国における1997年6月6日現在の株式公
著者
村井 純子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

DNA複製の異常(複製ストレス)は、がん遺伝子の活性化やDNA障害型抗がん剤など様々な原因によって引き起こされ、遺伝子変異やがん化の促進、がんの薬剤耐性獲得の要因となる。よって、複製ストレスにさらされる細胞を排除することができれば、がんの発症、進展、再発の抑制が可能となる。近年、全く新しい複製ストレスの抑制因子として特定されたSchlafen 11(SLFN11)について、がん抑制遺伝子としての機能を細胞レベルと個体レベルで検証する。特に、マウスにSLFN11のホモログが見つかっていないことから、SLFN11の遺伝子導入マウスを作成し、がん抑制機能を研究する。
著者
前嶋 信次
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.499-528, 1969-03

一 アレクサンドロス伝説の流布二 日本角(ドゥル・カルナイン)という名称三 ゴグとマゴグの長城四 マルコ・ポーロの伝えたゴグ・マゴグの長城五 アッバース朝カリフの長城への遣使六 サルラーム等の行程についての諸説
著者
宮家 準
出版者
慶應義塾大学
雑誌
哲學 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.353-374, 1990-12

文学部創設百周年記念論文集ITreatise序1. 熊野別当系図の種類2. 初代と中興者3. 別当職継承の論理結The Kumano betto (steward) families controlled the "Theree Mountains of Kumano" (Kumano Sanzan) from the beginning of the 11th century until the end of the thirteenth century. This essay analyzes the social meaning of the Kumano Betto lineage chart. This lineage has its origin in the conferring of a public rank (sogo) on the fifteenth betto Chokai (1037-1123) in 1090 by the imperial family (the retired emperor Shirakawa). After this the betto status became hereditary. We can thus divide the history of the Kumano betto into those before and those after this time. In the earlier period there were the first to fourteenth betto, when the betto were chosen from among the people in general at Kumano. However, the lineage chart claims that the first betto was either the daughter of a powerful provincial family which served the Fujiwara aristocracy and the Kumano avator (gongen), or a shugenja (ascetic) who practiced asceticism on Mt. Omine and worshiped the Kumano avatar. The next betto in turn up to the fourth betto were the eldest son, second son, third son, and son of the eldest son (of the first betto). Later betto also followed this pattern, with brothers taking precedence over father-son succession. This kind of succession was of the same type as the succession of the betto post which was made hereditary after the time of Chokai. Thus the Kumano betto lineage chart sought to show that, first, the betto family has its origins in the powerful provincial family which served the Kumano avator in the distant past, and is thus most eminent of all families in that area. Second, in order to assure a smooth hereditary succession, it attempted to show that traditionally the succession of the betto followed rules of seniority. On the basis of these two points, the Kumano betto family was able to control the Kumano area through hereditary succession; it is here that we find their soial meaning.
著者
清水 竜瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.p135-185, 1993-06

バブル崩壊後,新聞,その他のジャーナリズムは,この金融自由化による複合不況はかつてないものであり,いままでの大量生産,大量販売の製造方式や,地に足のつかない高級品消費は全面的に変わるだろう,さらにこの不況は世界の不況と連動しているため,その回復は容易ではないだろう,と喧伝している。しかしこの鍋底のような先のみえない複合不況の下でも,日本・台湾の経営者は守りばかりでなく,次の飛躍の手がかりに確実に着手し,実行しはじめている。巷間問題となっているような,中間管理者の退職勧奨などという企業は,今回のインタビューに関する限り1社もなく,本社ビルの一部を売却してもその雇用を守りつづけようとしている。全体的にみて日本の経営者は,財務的,物的資源を縮小させても,人的資源は減少させることなく,その能力開発・意識改革によってこの未曽有の不況に対応しようとしている。製造業は本業重視,組織改革,コスト削減にまず力を入れている。事業領域を産業構造の変化に合わせてPA→FA→LA→HAと変えていく場合,人々の意識を変えるため新しい組織を導入してショック療法を行う(横河電機)。新しい技術情報・市場情報を積極的に利用すれば,売上が伸びなくても利益は無限に出しつづける(カヤバ工業)。電炉メーカーの参入や不況の長期化に対して本業重視の戦略をたて,高級品シームレスパイプのための900億の新設備投資をする(住友金属)。不況は波だから底が長くても必ず上がってくる。好況のとき忙しくてできなかった管理者の意識改革を不況のときじっくりやる(マブチモーター)。同じように不況下にある不動産業でも,その不況度によって対処策は異なる。不動産不況撃破推進本部をつくって,損を覚悟の見切り販売や,コスト削減のためのNAシステムを開発した。そして思い切ったぜい肉落しをした(日榮不動産)。マンションの含み損を早く表に出したほうがすっきりする。年俸制と組合わせた独得のリーズナブルな人事評価システムをつくった(長谷工コーポレーション)。バブル崩壊後も膨大な含み資産があり,従業員数も少なく,20数億という高純益をあげている(平和不動産)。一方サービス業のうちでも比較的楽なところと苦しいところがある。事業部別のホテルの個性化,QCサークルの積極的活用,人事評価制度の改善によって人々に一層の創造性の発揮を求める(藤田観光)。売上至上主義から利益重視への転換をするためには年功序列主義の廃止,人事評価制度の抜本改革による意識革令が必要である(東武百貨店)。野球では,悪いときは必ずよくなるから大丈夫だという自信を監督自身が持ちつづける必要がある。わがままな現代の若者については70点平均をとる人間より,120点と0点をとる人間がいい。120点をのばして技術が向上すると人格も向上する(読売巨人軍)。台湾のマクロ的な問題点としては,日台の人事交流の稀薄化,貿易の赤字化があり,その対処策としては台湾における日本語教育の充実,学生同士の交流の促進が考えられる(駐日代表)。経済の問題点として,空洞化,ハングリー精神の喪失,賃金・土地価格の上昇があり,現在その対処策として,外国人労働者の導入,工業団地の建設,ハイテク産業の誘致を考える(経済部部長)。大学問題としては,助教,専任講師は必ず外へ出す。副教授から教授への昇進は3段階の教授会で審査する。教授は副教授を審査する以上,副教授よりいい論文を書かなければ恥ずかしい。また全教員の毎年の研究業績をオープンにして教員全員にくばるから研究不足は恥ずかしい思いをする(國立中山大學)。台湾の金融界もバブル崩壊後の不況に悩んでいる。金融の自由化で一挙に15行の民営銀行ができ競争が激しくなった。またLC,先物取引などの自由化がはじまりその波及効果がわからない。その勉強のためにできるだけ多くの社員を海外研修に出している(中國信託銀行)。大資本の民営銀行が一挙に15行でき,しかも給料が公営銀行より高いので,こちらのエリートが引きぬかれる。しかも公営銀行は関係官庁のがんじがらめの規制で動けない。しかし国際化のための能力開発には力を入れている(臺灣銀行)。
著者
板垣悦子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
共立薬科大学研究年報 (ISSN:04529731)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.1-11, 2001
被引用文献数
1

A stimulation to receive from the five senses becomes a terrible key when we pursue agreeableness of life environment for us. The stimulation that it receives from the five senses is for mental unrest by a personal image to give influence to a body. In this study, we used six colors (red, blue, green, yellow, white, black) as stimulation to receive from sight. As the next experiment, we played music in a color room and examined influence to blood pressure value and heart rate. The purposes of our study are to examine "color environment" and "sound environment" to make better you life environment. The consequences are as follows. In stimulation only of color, "red" let systric blood pressure increase, and "blue" did decrease it. There were many things which such as "blood", "fight", "a sense of being oppressed" become exalted as for the image of "red" that blood pressure value let increase. As for "the blue" that blood pressure value decreased, "the deep sea" "calms", and there were many things which had a feeling of relaxation of "sleepiness". The images of "blue", "red" and "yellow" when they're added musics were so different compared with only the color. "The red" that increased only from the color decreased, and, as for "the blue", dispersion was found in a value. Yellow showed same condusion. In case of the stimulation only from color, the increase and decrease of systric blood pressure during staying the room and after leaving were same tendencies. But we moderated influence of color when we added music. A person of stimulation of music received influence in systric blood pressure than stimulation only of color more, and the person who did not hear music usually was inexpensive. Width of change of heart rate was bigger when we added to music. And the values when he was in the room and he left there were perfectly opposite, and they never settled down. There were various kinds of the images that each people received from the five senses. And blood pressure value and reaction of heart rate count depended on each people. These things mean that it is dangerous to use color environment and sound environment uniformly at the public place. It is not good to watch only from one side to have "better and healthy environment for body" ready. And we must not ignore a characteristic of one person unique in the situation either. In brief, it was thought that a study from wide fields such as psychology, physiology, medicine, human engineering was necessary.
著者
井澤 美苗 青森 達 望月 眞弓
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

プラセボ効果は薬の効果に対する期待と過去に薬が効いたという条件付けが働くことに基づく効果であり、脳の認知機能を司る部位に関連がある。この部位は脳の前頭前野に位置し、近赤外線分光法(NIRS)を使用することでその活性度を非侵襲的に測定できる。また最近10年で、脳内化学伝達物質の遺伝子多型でプラセボレスポンダーとノンレスポンダーを区別するプラセボーム研究が台頭している。本研究では、脳内化学伝達物質の中でも5-hydroxitryptamine transporter ( 5-HTT ) 、Catechol-O-methyltransferase ( COMT )の遺伝子多型に注目し、プラセボ効果との関連性を検討することを目的としている。主観的指標として Stanford Sleepiness Scale( SSS )と Visual Analog Scale ( VAS )による眠気度調査を行い、客観的指標として近赤外分光法( NIRS )による脳血流量変化を測定した。また、5-HTT遺伝子多型 ( L/L、S/L、S/S ) とCOMT 遺伝子多型( Val/Val、Val/Met、Met/Met )を行なった。プラセボ投与前に比べ投与後で SSS と VAS ともに有意に眠気が改善された。NIRS では、認知を司る部位の脳血流量が投与後で有意に増加した。SSSとVASではVal/Met 群の方が Val/Val 群より大きな眠気改善傾向が見られた。またNIRS左脳での脳血流量は Met/Met 群が Val/Val 群と比較して増加傾向が見られた。有意差は見られないものの、Metアレルは Val アレルよりもプラセボ効果との強い関連性が示唆された。この結果は、78th FIP World Congress of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences(英国・Glasgow、2018年9月)にて学会発表した。
著者
岡田 光弘 安藤 寿康 大野 裕
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1)昨年度に引き続き線形論理や種々の新しい論理学理論の立場から、伝統的な認知科学的理論推論モデルや理論哲学的論理推論モデルの批判的分析や改訂を行った。特に、メンタルモデル理論とメンタルロジック理論に関する認知心理学の古典的論争やシンタクスとセマンティクスに関する論理哲学、情報科学等における二元論を現代論理学的観点から見直した。2)これまでは比較的少数の被験者調査を行うのが常であったが、統計的手法による実証的なデータ解析による大規模調査の方法論の研究を行った。「Baroco論理推論課題集」と呼ばれる演繹推論標準課題集を本申請グループが開発してきたが、これをさらに改良した。この課題集を用いて通常のIQ課題の関連性や、図形的表現による論理推論と言語的理論推論の(パフォーマンス)比較、抽象的推論と内容的推論の比較、信念相反的推論や領域依存的推論、論証構成と反例検索などに関わるデータの分析を行った。白血球中のRNAの転写量の差を調べるという方法論を導入することによって認知能力の関連遺伝子の所在とその効果量について調査する方法論を開発した。
著者
馬塲 杉夫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.p17-36, 1995-02

本論文は,人間観(企業において人間をどのように捉えるべきか),及び人間性(そのような人間の特質),加えて,企業組織とそこに所属する人間個人の目的の適合を基礎として,人間資源管理の役割を明らかにするものである。まずテイラーは,企業における人間の存在を明らかにしたが,その人間は,自ら目的を持って意思決定を行う存在ではなかった。そして彼は,人間機械モデルに基づいた管理方法を打ち出した。これに対し,バーナードやサイモン,マクレガー,シャインは,機械モデルを批判した。彼らは,企業における人間について,企業は人間によって機能するという,企業の主体的役割を担荷していることを明らかにし,加えて,物理的,生物的,社会的関係の中で存在している,と指摘した。そして,その人間の特質は,制限された合理性の中で,目的指向的に行動し,それらは,過去の経験,状況,役割的に複雑であることを明示した。このような人間性を論証するために,人間の生理的基盤からもこれらの特質についてアプローチした。まず,人間を情報処理システムとして取り上げ,その中心は脳にあることを指摘する。制限された合理性については,記憶貯蔵能力の制約,人間の体内,あるいは体外の状況により,異なる価値評価を下す機構,記憶想起の限界,無髄神経やホルモンによる神経伝達により説明される。また目的指向性は,生存というレベルを超えた高次の目的達成において,大脳皮質からの制御が行われることによって支持される。複雑性については,様々な長期記憶とそれを基盤とする思考回路から証明される。このような特質を持つ人間と企業との関係について,両者の目的の適合を基盤として考えた場合,企業は人間観を踏まえて,人間個人の持つ目的と,企業の目的の適合がはかられるように,人間個人のアウトプットを高めるよう働きかけていかなければならない。このアウトプットを高める方法は,能力の獲得と能力の発揮という2つが考えられる。そして,人間資源管理において,人間の目的指向的行動を前提とするならば,企業組織と人間個人の目的が適合するよう,合目的的能力の獲得と発揮を目指さなければならない。
著者
田村 悦臣
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1日3-4杯のコーヒー摂取は生活習慣病を予防する効果があることが報告されている。一方、ストレスホルモンや性ホルモンなどのステロイドホルモンの代謝異常は生活習慣病のリスク要因である。そこで、ヒト由来培養細胞を用いてコーヒーの影響を解析した。その結果、コーヒーは大腸がん細胞においてはエストロゲンの活性化、乳がん細胞においては不活性化に寄与する効果を示した。これらは、共にそれぞれのがん細胞の発症を抑制する効果を期待させる。一方、前立腺がん細胞では、男性ホルモンの活性化の傾向が見られ、予防効果との相関はなかった。また、神経系細胞では認知症予防効果が期待される神経ステロイドの産生を増加する効果を示した。