著者
梅崎 輝尚 松本 重男
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.364-367, 1989-09-05

本研究では, ダイズの主茎節間における伸長性を明らかにするため, 九州地方の秋ダイズ4品種を供試して, 各節間の伸長経過について経時的に調査を行った。1) ダイズ主茎の各節間は主茎と同様におのおのS字カーブを描いて伸長した。2) 主茎各節間の最終節間長は第1節間 (子葉節-初生葉節) が長く, 第3あるいは第4節間が最短で上位節間になるに従って長くなり, 頂部で再び短くなるパターンが認められた。3) 主茎節間の伸長と出葉には同伸性が認められ, 一般に第N節間の伸長最盛期は第N+2葉期, 伸長停止期は第N+4葉期で示すことができた。以上のようにダイズの主茎節間の伸長には規則性が存在することが明らかとなった。今後, 人為的に節間長を制御しようと試みる場合, この規則性を考慮・活用することにより, より効果的な制御が可能となろう。
著者
小林 和彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-16, 2001-03-05
被引用文献数
8 5

FACE(Free-Air CO_2 Enrichment = 開放系大気CO_2増加)は,何の囲いもしない圃場の空気中に直接CO_2を吹き込んで,植生の周りのCO_2濃度を高める実験手法である.FACEにより,大気CO_2濃度が上昇した時の植物や生態系の変化を,現実の圃場で観察できる.1987年にアメリカで始まったFACEは,今ではアメリカとヨーロッパを中心に世界中で,農作物,牧草,樹木,自然植生を対象にした研究に用いられており,日本でもイネのFACE実験が1998年から行われている.大気CO_2濃度の上昇が植物に及ぼす影響については数多くの研究があり,初期の温室や環境制御チャンバーでのポット実験から,近年のオープントップチャンバー等のフィールドチャンバー実験に至っているが,いずれもチャンバー自体が植物の生長を変化させ(チャンバー効果),それがCO_2濃度上昇に対する植物の応答を変化させている可能性がある.これに対してFACEは,チャンバー効果が無い上に,大面積の圃場を高CO_2濃度にできる特長があり,今や実用的な実験手法として確立しつつある.FACE実験の結果は,農作物の収量増加率については従来の実験結果をほぼ支持しているが,さらに収量増加に至る生長プロセスの変化やメカニズム,生態系の変化について,多くの新しい研究成果を生み出しつつある.今後は,FACE実験結果のモデリングへの利用,複数地点でのFACE実験実施と実験結果の比較解析,そして特に発展途上国でのFACE実験の展開が期待される.
著者
井上 吉雄 森永 慎介 佐々木 次郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.120-121, 1994-04-01

係留気球システムによって線虫に汚染されたダイズ圃場の可視・近赤外の空中同期写真を測定し, 4バンドのデジタル画像からバイオマスと葉緑素濃度の面的評価を行った.
著者
松尾 喜義 岡野 邦夫
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会東海支部会報
巻号頁・発行日
no.118, pp.13-16, 1994-12-01

葉緑素計は葉色を簡便に測定できることから, 稲作のほか多くの作物で日常的に使われている.筆者らは前報までに葉緑素計を用いて, 茶樹新芽の成熟経過や新芽の遮光による変化を測定し, 葉緑素計はチャの研究分野でも有効な方法であることを指摘してきた.常緑の永年生作物であるチャは, 年間を通じて葉をつけており, 葉色は樹体の生理的状態を反映するのではないかと予想される.そこで葉色を簡便に比較計測することによって, チャ樹の状態を知ることが出来れば, 栽培管理上極めて有益である.そのためには葉色に現れる情報が, どういう特性のもので, 何が分かるのかを明らかにする必要がある.ここではその第一歩として, 茶園葉色の1年間の変化を葉緑素計によって追跡調査した結果を報告する.
著者
堀江 武 中川 博視
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.687-695, 1990-12-05
被引用文献数
24 21

イネの幼穂分化, 出穂および成熟などの発育ステージを環境要因の経過から予測するモデルの基本構造とパラメータの推定法を提案し, その考え方のもとに出穂期の気象的予測モデルを導き, 水稲品種日本晴に適用した。本モデルでは, de Witらの発育速度の慨念を適用して, 出芽後n日目の発育指数 (Developmental Index, DVI) はその間の発育速度 (Developmental Rate, DVR) を積算したものとして与える。さらに出芽時のDVIを0, そして出穂時のそれを1と定めることによって, 出芽から出穂に到る発育過程をDVI=0〜1の間の連続的な数値として表すことができる。このようなDVIの制約条件下で, DVRと気温および日長との関係を与える数式を導き, かつそのパラメータを, 筑波と京都での日本晴の作期移動試験および人工気象室実験から得られた出穂日のデータを用いて, シンプレックス法によって決定した。得られたパラメータの値から, 日本晴の出芽から出穂までの最小日数 (基本栄養生長性) は51.4日, 限界日長は15.6時間, 発育の最低温度は12〜13℃, 同最適温度は30〜32℃, そして日長に感応し始める時期はDVI=0.20と推定された。本モデルによる出穂データの推定精度は標準誤差で3.6日であったが, 従来の有効積算温度法によるそれは6.5日であった。したがって, 本報のモデルは従来の方法に比較して高い予測精度を得ることが可能と考えられる。
著者
中路 富士夫 吉富 研一 山本 栄
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会九州支部会報 (ISSN:02853507)
巻号頁・発行日
no.19, pp.3-6, 1962-11-01
被引用文献数
3

昭和36年産の水稲は当初好天に恵まれ豊作型の生育相を示していた。9月16日第2室戸台風が来襲したが,本県では風速も比較的おそく,従って当初は水稲には大した影響はなかったかに感じられたが,日時の経過につれて損傷があらわれ,過去に事例のない様相で大きな被害をあたえ,連続4年豊作の夢はむなしくやぶれ去った。なかでも潮風をまともにうけた玄海沿岸地帯は被害甚大で,収穫皆無あるいはこれに近い被害を受けたところがかなりみられた。又海岸線から遠くはなれた佐賀北部及び東部山麓にも潮風がふきこみ相当な被害をこうむった。その上品質の低下が著しく農家経済にあたえた打撃は大きかった。筆者らは佐賀農試内で行なっている気象感応試験圃場において台風にともなう被害程度を推定するため,防風極を用いて台風被害回避試験を実施したので,その結果の概要を報告する。
著者
一井 真比古
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.281-286, 1982-09-15

水稲の飼料化栽培, 再生を利用した二期作栽培および農業形質の間接選抜手段としての利用において再生は重要な特性である. 再生は遺伝的変異を有する特性であるが, 株および根の内的ならびに外的環境条件によって変異するであろう. しかしながら再生に関する基礎的知見はきわめて少ない. そこで本報告では, 外的環境条件の一部である光および温度が再生に及ぼす影響について検討した. 出穂後10日に地上5cmで地上部を刈取り, ただちに30℃自然光(30L), 30℃暗黒(30D), 20℃自然光(20L)および20℃暗黒(20D)下ヘ移動し, その後の再生重, 再生草丈, 再生茎率および稈基重を調査した. 再生重は高温, 自然光下ほど大きく, 30L>30D>20L>20Dの順であった. 温度による差が光の有無によるそれよりおおむね大きかった. とくに自然光下では温度による差は顕著であった. 一方暗黒区では枯死する再生茎が刈取り後20日前後からみられた. 再生草丈は高温下で高かった. 出穂した再生茎が刈取り後20日前後の高温下ではみられたが, 低温下ではみられなかった. それゆえ高温下では再生草丈の伸長が遅くとも刈取り後20日前後に停止するようである. 再生草丈の光の有無による差は高温下で認められるが, 低温下では認められなかった. 再生茎率も高温下で大きかった. また再生茎率が最大に達するまでの日数も高温下で短く, 低温下で長かった. 温度の差に基づく変異の幅は再生重や再生草丈におけるそれより小さいようであった. 再生茎率は自然光区より暗黒区で少なく, 高温下では光の有無による差が認められるが, 低温区では認められなかった. 再生にとって重要な役割をはたすであろう稈基重はいずれの条件下でもおおむね直線的に減少し, 高温下での減少は低温下でのそれより顕著であった. しかしながら高温, 自然光下における稈基重の減少量は高温暗黒下におけるそれより少なかった. 再生茎葉それ自体が再生に及ぼす影響を知るため, 稈基重+再生重の刈取り後の推移をみた. 高温, 自然光下では再生茎葉それ自体が再生重の増加に刈取り後10日すぎから寄与するが, 低温, 自然光下では刈取り後20日以降でないと寄与しないようである. 一方暗黒下における稈基重+再生重が刈取り後わずかしか減少しないことから, 呼吸基質として利用される稈基の量はわずかであろう. 再生茎率は再生重や再生草丈より温度による変異の幅も小さく, かつ再生茎葉それ自体の光合成による影響も小さいと考えられるので, 農業形質の間接選抜の手段として再生を利用するのであれば, 再生重や再生草丈より再生茎率に注目すべきであろう. 再生重, 再生草丈および再生茎率のいずれもが高温下ほど旺盛であった. それゆえ水稲の飼料化栽培および再生を利用した二期作栽培にとって再生期の温度が高い地域が有利であろう.
著者
藤井 弘志 小田 九二夫 柴田 康志 森 静香 今川 彰教 安藤 豊
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.459-464, 2006-10-05
被引用文献数
6 8

2004年の台風15号に伴い東北地方の日本海側で発生した潮風害の発生要因を台風の特徴から総合的に解析して,今後の東北地域の日本海側における潮風害発生に対する資料とするとともに,台風の特徴から潮風害の発生を予測する手順についても考察する.台風の特徴からみた潮風害の発生要因としては,(1)南西風で風速が強く(15ms^<-1>以上),風速10ms^<-1>以上の継続時間が長いこと(5時間以上)によって,飛散した海塩粒子が平野の内陸部まで運搬されたこと,(2)高い波が海岸線に打ち寄せられ波しぶきが上がったこと,(3)降雨が少ないことによって,農作物に付着した塩分が洗い流されなかったこと,(4)水稲の生育時期が潮風害の被害を受けやすい時期であったことが相互に重なりあって潮風害の被害地域および被害程度の拡大につながったと考えられる.市町村によって収量的には大きな差が認められ,北部地域または海岸に近い地帯ほど減収割合が高かった.北部地域で南部地域に比べて収量が低下した一つの要因としては,南部地域に比べて北部地域で風が強く,海塩粒子が内陸部まで運搬されたことが考えられた.
著者
宮川 修一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会東海支部会報
巻号頁・発行日
no.124, pp.19-26, 1997-12-10
被引用文献数
1
著者
萩原 素之 井村 光夫
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.441-446, 1991-09-05
被引用文献数
3

水稲種子を湛水土壌中に播種すると, 出芽・苗立ちが不良となるが, 酸素発生剤であるCaO_2を種子に被覆して播種した場合には出芽・苗立ちが促進される. これは, CaO_2が嫌気状態の湛水土壌中で発芽している種子に酸素を供給するためと一般に理解されてきた. しかしCaO_2を被覆した種子でも, 出芽後は, 鞘葉を通じて湛水中または空中から酸素が供給されなければ, 本葉抽出が抑制されることが知られている. 本実験では, それ自身では酸素を発生しないが, 土壌を酸化するKNO_3の種子被覆が湛水土壌中に播種した水稲の出芽・苗立ちにおよぼす効果を調査した. KNO_3被覆種子では無被覆種子に比べて出芽・苗立ちが早まり, 出芽・苗立ち率も高まった. KNO_3の効果は温度が低い場合には, CaO_2とほぼ同等ないし, むしろより顕著な傾向であった. これらの結果は, 湛水土壌中に播種した水稲の出芽・苗立ち不良の主要な原因は湛水土壌中の酸素不足ではないことを示唆している. したがって, 出芽・苗立ちの促進に種子への酸素供給が必須かどうか, また, CaO_2がなぜ出芽・苗立ちを促進するのかがさらに詳細に調査される必要があろう.
著者
岩元 保 持留 一成
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会九州支部会報 (ISSN:02853507)
巻号頁・発行日
no.12, pp.12-14, 1958-05-01

鹿児島県に於ける水稲早期栽培は,その成果が極めて顕著で,其の作付面積も急激に増大しつつあるが,この早期栽培の作況も可成り気象的条件によって支配されることが知られている。結論的には早期栽培の収量は気温の関係よりも,幼穂形成期後の日照の多少がより深い関係を持つものと考えられる。特に鹿児島県の早期栽培は8月下旬の台風害を避けるために農林17号の場合で出穂期を遅くとも7月10日頃迄に持って来るような栽培法がとられているので,幼穂形成期直前から出穂期前後迄梅雨期に遭遇することになり,年によっては乳熟期頃迄かかる時もある。鹿児島気象台の観測した過去20ケ年の平均梅雨入り日は6月4日,梅雨上り日は7月15日になっている。しかし,これらの梅雨入り,梅雨上り,梅雨期間及び梅雨期間申の日照時数を色々調査すると可成りの年次差がみられる。例えば,昭和29年度は梅雨入りが早く,梅雨上りは遅く逆に昭和30年度は梅雨入り遅く,梅雨上りは早くなっており,日照時数についてみると,幼穂伸長発育期間は昭和29年度は約41時間,昭和30年度は約80時間であった。叉豊熟期間は昭和29年度は163時間,昭和30年度は192時間であった。そして作況は昭和29年度は稍々不良,昭和30年度は良好であった。以上の事例のとおり,幼穂形成期後の日照の多少が水稲の作況に影響する所が相当大きいと考えられたので,昭和32年は差し当り,人工的に日照を制限した場合,特に稔実関係にどのような悪影響があるかを簡単に試験したので,其の結果を報告したい。
著者
平井 源一 稲村 達也 奥村 俊勝 芦田 馨 田中 修 中條 博良 平野 高司
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.196-202, 2003-06-05
被引用文献数
1 1

本研究は水稲と陸稲の栄養生長期の生育に及ぼす大気湿度の影響を相対湿度60%と90%で比較したものである.その結果,低湿度条件は高湿度条件に比較して,水稲の乾物生産を有意に減少させたが,陸稲では乾物生産の減少は認められなかった.低湿度下の水稲では,単位葉面積当たり気孔密度が増大し,気孔装置面積も大となり葉面積に占める気孔装置面積の割合が高湿度に比較して有意に大きかった.また,水稲は低湿度で,気乱闘度の低下が少なく,単位葉面積当たり蒸散量が顕著に大きくなり,葉身の本部水ポテンシャルが大きく低下することが認められた.一方,陸稲では水稲に比し低湿度によって,気孔密度,気孔装置面積が変化せず,葉面積の中で気孔装置面積の占める割合に湿度間で有意差がなかった.また,陸稲では,低湿度によって気乱闘度が低下し,蒸散量を抑制するため,葉身の本部水ポテンシャルが低下しなかった.さらに,低湿度による葉身の本部水ポテンシャルの低下した水稲では,葉面積の相対生長率(LA-RGR)が,高湿度に比して有意に低下した.なお,純同化率(NAR)は低湿度によって低下したが,高湿度との間に有意差は認められなかった.したがって,水稲では低湿度で有意なNARの低下をまねく以前に葉面積の低下を引きおこし,乾物生産は抑制されたが,陸稲では湿度間で葉面積の生長速度に差を生じなかった.この点が水稲と,陸稲の生育,乾物生産において湿度間に差を生じさせたものと考える.要するに,水稲と陸稲との間には大気湿度,特に低湿度に対する形態的生理的反応のことなることが,湿度間で認められた乾物生産の水稲,陸稲間差異を生じた要因と考えられる.
著者
立田 久善
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.187-193, 1999-06-05
被引用文献数
6

通常の気象条件下において,窒素施肥条件の異なる圃場で栽培したイネの葯長,葯幅および充実花粉数を比較した.基肥窒素量を1m^2当たり0,4,7,10,13gとした圃場で栽培したイネの場合,基肥窒素量が多くなるほど葯長,葯幅は短くなり,充実花粉数は減少した.また,基肥窒素量を1m^2当たり4gまたは10g施用し,穂首分化期,幼穂形成期,減数分裂期に1m^2当たり3g窒素追肥したイネと無追肥のイネの場合,基肥窒素量が1m^2当たり4gのときは,無追肥に比較して幼穂形成期の追肥で葯長,葯幅が短くなり,充実花粉数も減少した.基肥窒素量が10gの場合も同様の傾向がみられたが,追肥時期の違いによる差は基肥窒素量が4gの場合よりも小さかった.これらのことから,イネの葯長,葯幅および充実花粉数には窒素施肥が大きな影響をおよぼしており,低温の影響を受けていない年でも,基肥窒素を多く施用した場合や幼穂形成期頃の追肥は,葯長や葯幅を短く,充実花粉数を減少させる.また,追肥時期の影響は基肥量の多少によって異なった.