著者
坂田 雅正 中西 優子 亀島 雅史
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会四国支部会報 (ISSN:0915230X)
巻号頁・発行日
no.44, pp.24-25, 2007-12

2007年高知県の水稲早期栽培地帯において,台風4号(7月14〜15日)通過後,急性萎凋症(以下,青枯れ)が発生した.中でも,奨励品種として普及を開始した「南国そだち」で被害が大きく,著しい減収,品質劣化がみられた.そこで,現地実態調査から発生要因を解析し,風害対策法を検討した.
著者
原 嘉隆
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.342-350, 2010 (Released:2010-07-27)
参考文献数
23
被引用文献数
1

ある温度での日数をArrhenius式に基づいて25℃などの標準温度の日数に換算する温度変換日数は,異なる温度条件での植物生育予測にも用いられる.温度変換日数の精確な算出には日変動を反映した温度データを用いる必要があるが,計算が煩雑なので日平均温度のみで算出されることが多い.そこで,温度変換日数を日平均温度のみで算出した場合の過誤評価程度を試算し,補正を検討した.まず,昼夜別一定温度条件において温度変換日数を算出する式を誘導し,昼夜別一定温度で昼夜の温度差を変えた場合の水稲の出芽日数の変化に適用したところ,温度差が大きいほど出芽が速いという結果を説明できた.次に,日平均温度のみで算出した温度変換日数の過誤評価程度を把握するため,屋外3年間の気温と地温を用いて日変動を反映させた場合と日平均温度のみで算出した場合を比較したところ,日平均温度のみで算出した場合の過誤評価率は地温で1%以下であったが気温で平均6%と大きく,日変動を反映させる必要性が示唆された.日較差と過小評価率には密接な関係があったので,その関係を用いて日平均温度から算出した温度変換日数を日較差で補正する式を導出した.この式を適用すると,気温でも過誤評価率が0.3%以下となったので,この補正式を用いれば日変動を反映した温度変換日数を日平均温度と日較差から簡単に推定できると考えられた.
著者
武岡 洋治 松村 修 KAUFMAN Peter B.
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.544-550, 1983-12-05
被引用文献数
1

作物の恒常的な発育を保つ上で外気に接する表皮系組織の果たす役割は大きい. 表面構造の変化と珪質化の面からこの組織の構造と機能を明らかにする目的で研究を行い, 機動細胞に形成される珪酸体を迅速, 簡便かつ広範囲に測定する方法を検討した. その結果, 非晶質ゲル(amorphous gel, SiO_2・nH_2O)の形をとる珪酸体が軟X線をよく吸収する性質を利用して, 葉内に分布する珪酸体の鮮明画像を得ることが可能になった. 本法は次の二つの過程から成る. すなわち, 1) 試料の調整から葉内の珪酸体画像を得る過程, 2) 得られた画像写真から珪酸体の葉内分布パターン, 面積などを計測する過程. 実験には土耕栽培による水稲品種短銀坊主の第5葉と, 同じく赤坊, 岩賀. 栄光の各止葉を供試した. 過程1: 採取した葉身をホルマリン・アルコール・酢酸混合液で5日間固定したのち水洗し, アイロンで乾燥する. この標本を黒色ビニール袋に密封したFG型フィルム上にのせ, 8KeV, 5mAに調整した軟X線照射装置(ソフテックス, M-1005 NA型)のミクロ照射部で1分間照射する. レンドールにより現像したネガフィルムを焼付けして珪酸体画像を得る. 過程2: 珪酸体の画像写真を対話式画像解析システム(Photem IBAS, Zeiss)にかけ, 調査項目を指定して必要とする図表を描かせる. この方法による利点は, 1) 植物組織の珪酸(体)同定のために開発された従来の灰像法, 組織化学などの方法に比べてはるかに簡便迅速に試料調整ができる. そのため多数の試料を比較的短時間に処理することができる. 2) 広範囲にわたる面積を撮影できるため葉身1枚の珪酸体分布を測定することができる. 3) あらかじめプログラミングをしておけば画像解析システムにより分布密度, 面積などの測定と統計処理を迅速に行うことができる. 4) 組織切片の軟X線画像から珪酸体及び類似性物質の組織内分布を調べることができる.
著者
福田 晟 山谷 聡 小葉田 亨 今木 正
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.193-198, 1993-06-05

前報において, 地表にわずかな積雪があり, 気温0〜-4.4℃, 風速4〜7ms^<-1>のもとで葉身に葉枯れ, 落葉が生じ, この時夜間の葉身水ポテンシャル (Ψ_L) が-1.2MPaに, 翌日の昼間ではさらに最低-2.3MPaまで低下したことを報告した. そこで本報告は, 人工的に1年生苗の茶樹に低気・地温, 強風条件を与え, Ψ_Lの低下と寒風による被害発生との関係, 及びΨ_Lの低下の原因を明らかにしようとした. その結果, 低気・地温, 強風の組み合わせに暗黒後照明条件のもとでΨ_Lは-0.7〜-1.8MPaに低下し, 照明条件下で圃場と類似した枯死被害が生じた. また, 低温照明条件下では蒸散速度の増大に伴うΨ_Lの低下が大きいことから, このΨ_Lの著しい低下は低温による植物体内の水の通導抵抗 (R) の増大にもとずくものと考えられた. そこでさらに葉身, 茎, 根各部分への加圧と出液速度との関係を求めて各器官のRを推定したところ, 葉身と根のRは0℃では10℃に比較し約1.6倍, 20℃に比較して約3.2倍大きくなった. 以上から, 山陰地域における茶樹の寒風による被害は低気・地温によって特に葉身と根のRが著しく増大している時に, 強風, 及び翌日の日射により蒸散が促進されて, その結果, 葉身Ψ_Lの著しい低下, 葉身組織の脱水が生じて引き起こされるものと推定された.
著者
佐々木 良治 星川 清親
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.259-267, 1997-06-05
被引用文献数
2

水稲乳苗の活着における鞘葉節冠根の役割を評価するために, 乳苗の根系を構成する種子根および鞘葉節冠根に種々の断根処理を施したのち移植し, 7日間生育させ活着への影響を調査した. 根の基部から1.5cmあるいは3.0cmですべての根を切断して移植しても, 移植7日後の生育は, 断根処埋をしない無処理苗の生育と同様であった. しかし, 切断位置を根の基部から0.5cmにして移植すると, その生育は, 無処理苗の生育に比べて有意な低下を示した. また, 種子根と4本の鞘葉節冠根の根端を除去して移植しても, 第3葉の抽出速度および移植7日後の生育はほとんど影響を受けなかった. 一方, 種子根と最長の鞘葉節冠根とをその基部で切断して移植すると, 移植後の生育は明らかに抑制された. 移植7日後の総乾物重 (茎葉と根) および移植した苗に残存した根の総根長を, 無処理苗に対する処理苗の割合として表し両者の関係をみると, 総乾物重は残存した根の総根長と密接に関連し, 総根長の減少にともなって低下した. これらの結果は, 移植された乳苗の生育は, 苗に残存した根の総根長によって影響されることを示唆している. 移植された乳苗にとって, 鞘葉節冠根は養水分の吸収という点で大きな役割を担い, 第1節冠根を速やかに発根させることで活着すると推察される.
著者
土屋 幹夫 岡本 正範
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会中国支部研究集録
巻号頁・発行日
no.31, pp.27-29, 1990-07-31

イネの草型は、一般に穂数型、偏穂数型、中間型、偏穂重型および穂重型の用語を用いて表現され、生育の姿あるいは品種の特性を端的に表す有効な方法として、広く利用されている。しかしながら、その判定には数量的基準が用いられず、通常、各地域の標準的品種の姿を対照として経験的に判断されているのが現状である。本研究では、1株穂数と1穂粒数に基づいて、イネの草型を数量的に表現する方法および指数を考案し、その有用性を検討した。
著者
石崎 和彦 金田 智 松井 崇晃
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.301-305, 2007-04-05

糯米の多くは加工された後に流通することから,加工適性が重要視される.切り餅やあられの製造では,餅つきから切断または包装までの時間短縮のため,硬化性の優れた糯米,即ち餅つき直後の生地を冷却したときに速やかに硬化する精米が求められる.そこで,水稲嬬品種の栽培条件と加工適性の関係を明らかにする目的で,穂肥窒素の施用と移植期及び品種の違いが餅生地の冷却後の硬さ(硬化度)に与える影響を調査した.その結果,穂肥窒素の施用は硬化度に与える影響が小さなことが明らかであった.しかし,穂肥窒素の施用と品種との間に交互作用が認められ,"わたぼうし"は窒素施用量の増加にともない硬化度が低下し,"こがねもち"は増大した.一方,移植期の早晩及び品種の違いによって硬化度に有意な差が認められ,それぞれの寄与率は6.4%及び81.0%であった.これに符合して,移植期の15日の遅れにより硬化度が0.90kg cm^<-2>低下し,品種間では"わたぼうし"が"こがねもち"よりも3.10kg cm^<-2>低い値を示し,硬化度は品種の違いに大きく依存することが明らかであった.以上のことから,加工適性の優れた糯米を生産するためには,品種の選択を最も重視し,さらに,登熟気温が高まるように移植期を早めることが望ましい.また,穂肥窒素の施用は品種によつて反応が異なるものの,移植期及び品種の違いに比べて硬化度に対して大きな影響を与えないことから,食味を低下させない範囲内で多収を目指した栽培が可能と思われた.
著者
古畑 昌巳 帖佐 直 大角 壮弘 松村 修
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.10-17, 2012 (Released:2012-01-26)
参考文献数
32

寒冷地の湛水直播栽培条件における水稲品種の出芽・苗立ち性およびそれに寄与する特性について十分明らかにされていないため,寒冷地で育苗箱を利用して低温土中出芽検定を行うと同時に,出芽・苗立ちに寄与する可能性がある発芽特性および嫌気発芽条件における鞘葉の伸長性についても調査を行った.その結果,低温土中出芽検定における出芽速度は,初期生育量と高い正の相関関係(r=0.773)を示し,低温での嫌気発芽条件における鞘葉の伸長速度との間に有意な正の相関関係(r=0.528)が認められた.また,低温でのシャーレ発芽条件における発芽係数と低温土中出芽検定における出芽率(r=0.376)および初期生育量(r=0.215)との有意な正の相関関係は認められたが,この要因については明らかにできなかった.
著者
箱山 晋 田中 日吉 縣 和一 武田 友四郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.219-227, 1977-06-30
被引用文献数
19

To make clear the weed vegetation of paddy fields left off cultivation on account of government paddy acreage-control policy, the investigation were carried out in autumn of 1975. The 25 surveyed plots were located at the north-western parts of Fukuoka prefecture. Coverage and height of plants in their paddy fields were measured and Summed Dominance Ratio (SDR2), which was proposed by NUMATA, was calculated from those two factors. All the species appeared were classified into the following four plant groups from their habitat type: that is, A; perennials in lowlands, B; annuals in lowlands, C; perennials in uplands and D; annuals in uplands. And then, the relations between the SDR_2 of these plant groups and the difference of soil moisture, and years of fallow were compared with each vegetation. Results are as follow. 1. At the beginning one or two years after left off cultivation, species number and SDR_2 of annuals were dominative. With increase of years of fallow, species no. and SDR_2 of perennials became dominative. 2. In the former case, the dominant species were annuals such as Aster subulatus, Aeschynomene indica, Panicum bisulcatum, Echinochloa spp., Leptochloa chinensis, Digitaria adscendens and so on. In the latter case, they were perennials such as Aliscanthus sinensis and Solidago altissima under upland condition, or Isachne globosa, Phragmites communis, Leersia japonica and Paspalum distichum under lowland condition. 3. The vegetation consisting of four groups were largely affected by the difference of soil moisture and years of fallow. The vegetation of paddy fields left off cultivation for many years were mostly composed by the specics of C group under upland condition and by the species of A group under lowland one. On the other hand, that of paddy fields left off cultivation for few years were composed by the species of D group under upland condition and by the species of B group under lowland one, although the relationships were not so clear as in the former. 4. The increase of number of species and SDR_2 of perennials were controlled by means of managing methods such as plowing, cutting of weeds and herbicide application. The repressive effects of management against weeds varied depending on the kind of managements and the characteristics of weed species.
著者
平井 文男
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.333-334, 1952-07-20

In this treatise, the author has described the relations between the flowering order and the node-positions, the flowering time and the not-positions, and the flowering period and the number of flowers. These were all observed in individual varieties of soy-beans in Chichibu. (1) The flowers blooming first are found on the following node-positions: on the stem-on the first three nodes from below that have not grown the branches. on the branch-on the first node or the first two nodes immediately below the half way point of the branch. (2) As to the flowering order on the stem and the branches, two flowering waves-the first flowering wave and the later flowering wave-are recognized. These two waves progress centrifugally from the node-positions of the first, with an interval of about seven days. But this phenomenon does not appear in the daily flowering distribution curves of individuals. (3) In regard to the daily distribution of flowering, the maximum number is common on the 5 th or the 6 th day of the flowering period. (5) In regard to the hourly distribution of flowering, the most flowers bloom between 7.00 AM. and 9.00 AM. And the daily flowering order also progresses centrifugally on the stems and the branches.
著者
内藤 健二 佐藤 一弘 井上 文惠 上野 敏昭 渡邉 耕造
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会関東支部会報 (ISSN:13416359)
巻号頁・発行日
no.14, pp.24-25, 1999-12-03

埼玉県の稲作は4月下旬の早期から小麦あとの6月下旬まで作期が広範に及び、5月連休までの移植では食味評価の高いコシヒカリが作付されている。しかし、米麦二毛作地域を中心とした晩植の水稲では飯米の粘りが劣り、食味の評価がやや低い。この食味を改善する一つの方法として低アミロース米の利用が考えられる。そこで、本県の作期で栽培した低アミロース米の特性について検討するとともに、粳米との混米による食味への影響を検討した。
著者
陳 日斗 井之上 準
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.373-378, 1985-12-05

Using 58 bulu and 54 tjereh rice cultivars of Indonesia, relationship among degree of grain shedding, histological peculiality of abscission region and esterase zymogram were investigated. The results obtained were summarised as follows. 1. The breaking tensile strength of a variety varied from 86 to 249 g in bulu type rice and from 51 to 220 g in tjereh type rice, the average being 180±36 g in the former and 107±41 g in the latter. The strength of 39 out of 57 cultivars in the bulu type rice (68.4%) was larger than 171 g, while the strength of 44 out of 50 cultivars in the tjereh type rice (88.0%) was smaller than 170 g. Especially, the strength of about two-thirds in the latter was smaller than 110 g (Table 1). 2. Both of bulu and tjereh type rices, excepting one cultivar in the former and two cultivars in the latter, had abscission layer. In most tjereh type rice cultivars (90.0%), parenchymatous cells in the abscission layer cracked completely at harvest time, whereas no cracking occurred at the harvest time in most bulu type rice cultivars (93.0%) (Table 2). 3. As to the esterase isozymes, four genotypes of 1 (Est_1 Est_2^S Est_3^F), 3 (Est_1 Est_2^F Est_3^F), 6 (Est_1 Est_2^O Est_3^S) and 8 (Est_1^O Est_2^S Est_3^S) were found commonly in both bulu and tjereh type rices. Additionally, genotype 12 (Est_1^O Est_2^O Est_3^F) was found in the bulu type rice, while genotype 9 (Est_1^O Est_2^F Est_3^F) was found in the tjereh type rice. According to Nakagahra, the esterase genotype 1 corresponded well to the majority of Indian varieties (Indica), genotype 3 to that of southern China (Sinica), genotype 6 to that of the nothernmost areas (Japonica). Genotypes 8 and 12 are representatives of hill and mountain rice in Southeast Asia (Javanica). In the bulu type rice, the proportion of cultivars belonging to the genotypes of 6, 8, 12, 1 and 3 was 79.3%, 10.3%, 6.9%, 1.7% and 1.7%, respectively. In the tjereh type rice, on the other hand, the number of cultivars to genotypes of 3, 1, 6, 8 and 9 was 43.8%, 39.6%, 8.3%, 6.3% and 2.1%, respectively (Table 3). 4. In the bulu type rice, number of cultivars having "hardly shedding-uncracking abscission layer- Est_1 Est_2^O Est_3^S" was largest (78.9%), and next was those having "hardly shedding-uncracking abscission layer-Est_1^O Est_2^S Est_3^S" (7.0%). In the tjereh type rice, the proportion of cultivars having" easily shedding - cracking abscission layer - Est_1 Est_2^F Est_3^F" and those having "easily shedding - cracking abscission layer - Est_1 Est_2^S Est_3^F" was 41.9% and 39.5%, respectively (Table 4). Judging on these three characteristics, bulu type rice was similar to Japonica type rice.
著者
平沢 正 土田 政憲 石原 邦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.145-152, 1992-03-05
被引用文献数
8

水稲の気孔開度, 光台成速度の日中低下の程度は生育条件によって異なり, これには吸水能力が関係すると考えられている. 本報告では, 受動的吸水能力を表わす蒸散の盛んな時の水の通導抵抗と能動的吸水能力を表わす出液速度を生育条件の異なる水稲の間で比較し, さらに両吸水能力の関係, 受動的吸水能力と気孔開度の日中低下の程度の関係を検討した. 土壌に可溶性でんぷんを加え根ぐされをおこした水稲, 低照度, 高湿度条件に生育し, 根の発達程度の劣る水稲では対照の水稲に比較して出液速度が小さく, 水の通導抵抗が大きい, いいかえると能動的吸水能力と受動的吸水能力が低かった. また, 通常の水耕液に生育した水稲に比べて, 窒素濃度の低い水耕液に生育し根群のよく発達した水稲では出液速度が大きく, 水の通導抵抗が小さい, いいかえると能動的吸水能力と受動的吸水能力が高かった. 水の通導抵抗が大きい水稲ほど日中の気孔の閉鎖程度が大きく, 受動的吸水能力と日中の気孔閉鎖程度とは密接な関係があった. 一方, 測定の約1週間前に硫安を追肥し, 葉身の窒素濃度を高めた水稲では出液速度は大きく, 能動的吸水能力は高かったが, 水の通導抵抗, いいかえると受動的吸水能力は対照区と変わらず, 対照区との気孔開度の差は早朝に比べて日中は小さかった. 気孔開度の日中低下には受動的吸水能力が関係するので, 日中の気孔開度が大きく, 高い光合成速度を維持するためには, 葉身の窒素濃度が高いことに加えて受動的吸水能力の高いことが必要であることがわかった.
著者
広瀬 竜郎 大杉 立
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.129-135, 1998-06-05

光合成産物の主要な輸送形態であるショ糖の転流機構に関わる研究は, 近年の分子生物学の発展とともに急速な進展をみせている.本稿ではショ糖転流の場である師部にショ糖が入る過程(ローディング), 師部から出る過程(アンローディング)およびその後のシンク細胞までの移動経路と, それぞれの過程で働く酵素, 輸送タンパク等に関して最近の知見をもとに概説した.
著者
松尾 太 福島 裕助 大賀 康之
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会九州支部会報 (ISSN:02853507)
巻号頁・発行日
no.59, pp.19-22, 1992-12-21

1991年9月14目および27日に相次いで台風が襲来したので,台風襲来直前に防風枠を設置し,品種別,被害回数別に台風が稲体,登熟進行,収量,収量構成要素,品質に及ぼした影響の実態調査を行った。1.防風枠を設置し,被害回避区を設定することにより台風被害の解析を行うことが可能であった。2.籾の褐変は,出穂直後に被害を受けたユメヒカリで最も多く,各品種とも2次枝頂での程度が高かった。また台風19号による褐変はヒノヒカリ,ニシホマレでは認められなかった。3.葉身の裂傷はいずれの品種でもみられたが,その程度は品種により異なった。また台風19号により増大した。4.脱粒は,台風17号では僅かであったが,台風19号により増加した。増加程度はニシホマレで最も大きかった。5.台風被害により登熟進行は阻害された。またヒノヒカリでは2次枝梗着生籾への影響が大きかった。6.台風被害により収量および玄米の品質は低下し,被害回数が多いほどその程度は増加した。減収要因は登熟阻害によるものであり,減収程度は台風遭遇時の生育ステージの差異,および草型の違いによる葉身被害の差異により異なること,品質の低下は,被害時の登熟進行程度が関与していることが推察された。
著者
穂積 清之
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会東海支部研究発表梗概
巻号頁・発行日
no.53, pp.1-2, 1968-12-31
被引用文献数
1

水稲の根に種々の物理的ならびに化学的処理を行ない、人為的に根に障害を与えて溢泌液および無機成分の吸収におよぼす影響につき研究することは根の吸収機能や地上部の生理機能を解明するための一方法として重要であると思われる。そこで西南暖地水田に多くみられる秋落ち現象、その他根腐れの主原因とみなされている硫化水素を添加して根に障害を与え、溢泌液量ならびに液内無機成分におよぼす影響を調査して溢泌液により根の機能障害の一端を解明しうるかどうかにつき実験を行なったのでその概要を報告する。
著者
角 明夫 森 彩恵 村田 和代 朝比奈 愛 郡山 朋子 下敷領 耕一 矢ヶ崎 和弘 箱山 晋
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.344-349, 2005-09-05

乾物生産量と蒸発散量の測定を介して共生窒素固定量を評価する可能性を探るために, 根粒着生に関するダイズの同質遺伝子系統, T201(根粒非着生系統)とT202(根粒着生系統)をそれぞれ3段階および5段階の窒素(N)施用条件下で栽培した.T201の葉緑素含量(SPAD値)はT202より低く推移し, また両系統の差は無Nから多N区へと順次拡大した.さらに, 根粒重(Ndw)とSPAD値における系統間・処理区間差が大きくなるにつれて, 乾物生産量(DM)と蒸発散量(ET)の間の量的関係における違いが拡大した.生育期間中のDMとETとの間には1次回帰式で表せる関係が認められ, DMが0のときを仮定したET (ET_<w=0>)はT201よりもT202で大きく, またT201におけるET_<w=0>は地面蒸発量(E_0)にほぼ一致した.一方, N施用量によりT202のNdwとET_<w=0>はともに変動し, 両者には密接な関係が認められた.T201とT202の間のET_<w=0>差(δET_<w=0>)から推定したDM差(δW)と両系統間のN集積量の差から評価した固定N量との間に有意な正の相関関係が認められた(P<0.001).これらの結果はN固定のエネルギー・コストに着目した共生窒素固定量の推定が可能であることを示している.