著者
川嶋 昌美 大滝 周 高木 睦子 津川 博美 浅野 和仁
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.652-656, 2015 (Released:2016-09-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

妊婦は,妊娠により子宮が増大し下大静脈を圧迫することにより,骨盤内の血液循環が悪化し,下半身の体温が低下しやすいと言われている.妊婦の体温低下は,早産や微弱陣痛などさまざまな異常の誘因であると言われている.しかし,早産になる危険性が高い切迫早産と体温低下との関連について明らかにされていないのが現状である.そこで本研究では,初産婦を対象とした切迫早産と体温低下との関連について調査を行った.まず,切迫早産妊婦と正常妊婦を対象に質問紙を用いて体温低下の自覚に関する調査を行ったところ,両者間で有意差が認められ,切迫早産妊婦では体温低下を自覚している者が多いことが明らかとなった.次に,切迫早産妊婦と正常妊婦の体温を測定し,体温低下との関連性について検討した.その結果,腋窩温では有意な差が認められた.これらの結果より,切迫早産妊婦と体温低下に関連があることが推察され,切迫早産妊婦の体温低下に対する介入が必要であると考える.
著者
神保 洋之 阿部 琢巳 花川 一郎 国井 紀彦 西野 猛 桑沢 二郎 岩田 隆信 松本 清
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.312-316, 1993-06-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
7

過去3年間に当科で経験したいわゆるyoung adults (15歳~45歳) の, 高血圧性出血を含めた脳内出血20例のうち, 出血原因不明であった5例に対し検討を加えた.年齢は, 15歳から29歳 (平均21.4歳) でいずれも若年者であり, 出血部位は皮質下出血3例, 尾状核頭部1例, 被殻1例であった.治療は開頭血腫除去術を施行したもの2例で, その他は保存的に経過をみた.予後はいずれも良好であった.推察し得る出血原因については各症例ごとに異なっており確定診断を得ることは困難であったが, 様々な観点から出血原因を検討することが必要であると考えられた.
著者
澤登 洋輔 高塩 理 橋本 龍一郎 林 若穂 小島 睦 小野 英里子 西尾 崇志 青栁 啓介 太田 晴久 板橋 貴史 岩波 明
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.229-241, 2021 (Released:2021-08-24)
参考文献数
30

社交不安は自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder, 以下ASD)の主要な併存症状の一つであるが,その神経解剖学的基盤は未だに十分に研究されていない.本研究では,成人ASDの社交不安の神経解剖学的相関を神経学的定型群(Neurotypical Control,以下NC)と比較して検討した.対象は,昭和大学附属烏山病院の外来患者の内,精神障害者の診断と統計マニュアル第4版改訂版でASDと診断された40名の男性と,健常者43名のNC男性であった.社会統計学的および臨床的特徴を収集し,リーボヴィッツ社交不安尺度日本語版(Liebowitz Social Anxiety Scale,以下LSAS-J),自閉症スペクトラム指数,ウェクスラー知能検査第3版(Wechsler Adult Intelligence Scale, Third Edition,以下WAIS-Ⅲ)を用いて,それぞれ社交不安の重症度,ASD症状,知的プロフィールを評価した.全脳1.5T磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging,以下MRI)スキャンを実施した.LSAS-Jスコアの神経解剖学的相関を調べるために,Voxel-based morphometry(以下VBM)解析を行った.ASD群ではLSAS-Jスコアが左上側頭回および右感覚運動野の灰白質密度(Gray Matter Density,以下GMD)とそれぞれ正と負の相関を示した.一方,NC群ではLSAS-Jスコアが両側前頭極および左被殻のGMDとそれぞれ正と負の相関を示した.関心領域解析を行った結果,上記4領域のうち,左上側頭回以外の右感覚運動野,左前頭極および左被殻における平均GMDはLSAS-Jと群要因の交互作用を認めた.ASD群は,NC群と比較して,社交不安の神経解剖学的相関に特徴があり,おそらく社交不安の高まりに対する代償メカニズムが異なるためであろうと考えられる.このことは,ASDにおける社交不安の特徴を示唆している.
著者
鈴木 慎太郎 本間 哲也 眞鍋 亮 木村 友之 桑原 直太 田中 明彦 相良 博典 柳川 容子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.282-288, 2018 (Released:2018-10-20)
参考文献数
24

症例は38歳男性.自家製のお好み焼きを食べている最中から喉頭違和感,呼吸困難,眼球結膜の充血などを訴え救急搬送された.アナフィラキシーの診断で加療し,後日当科へ精査目的で来院した.患者には著しいダニ・ハウスダストによるアレルギー性鼻炎の既往があった.お好み焼きの具材に対する抗原特異性IgEによるアレルギー検査とプリックテストを行ったが全て陰性だった.問診上,開封後密封せずに常温で6か月以上経過した市販のお好み焼き粉を用いて調理したことが判明し,お好み焼き粉に混入したダニによるアナフィラキシーを強く疑った.お好み焼き粉を鏡検した結果,多数のコナヒョウヒダニが検出され,さらに,Dani Scan®(生活環境中のダニアレルゲン検出を目的とする簡易型検査キット)を用いた検査においても強陽性を示した.近年,お好み焼きやパンケーキ等の小麦粉製品に混入したダニを経口摂取して生じるアナフィラキシーの報告が急増している.診断のためには,調理に用いた小麦粉製品の保管状況の聞き取りと,感作が成立した同種のダニを発症前に摂取した調理材料中に証明することが求められる.今回,使用したDani Scan®は,一般家庭においても食品中のダニ汚染を検知する簡便なキットであり,本病態の診断や発症の予防に一定の効果が期待できるものと推察した.
著者
池本 英志 砂川 正隆 片平 治人 世良田 紀幸 小林 喜之 樋口 毅史 岡田 まゆみ 清野 毅俊 久光 直子 久光 正
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.213-221, 2015 (Released:2015-11-07)
参考文献数
28

経皮的神経電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS)は,皮膚に導電性電極をあて,電気刺激を生体に与えることで様々な治療効果が得られる,非侵襲的な治療法である.鍼やTENSなどを用いた刺激療法の鎮痛作用には,ゲートコントロール説,下行性疼痛抑制系の賦活,内因性オピオイドの関与などいくつかの作用機序が報告されている.本研究では,ラットアジュバント関節炎モデルを作製し,TENSの慢性炎症性疼痛に対する鎮痛効果を検証するとともに,内因性オピオイドの関与について検討した.1) TENSの鎮痛作用の検証.7週齢のWistar系雄性ラットを使用し,Control(Con)群,Control+TENS(TENS)群,アジュバント関節炎(AA)群,AA+TENS (AAT)群の4群に分けた.関節炎は右足底に完全フロイントアジュバント0.1mlを皮下投与して誘発した.Con群には同部位に生食を投与した.TENS(4Hz,30分)は週3回,14日間にわたって実施し,その間,足容積,機械刺激ならび熱刺激に対する逃避閾値を測定した.関節炎の誘発によりAA群の足は腫脹し,足容積が有意に増大した.TENSによってこの腫脹は抑制されなかったが,機械的刺激及び熱刺激に対する逃避閾値は,AA群ではCon群と比較し有意に低下し,AAT群ではその低下が有意に抑制された.2) 内因性オピオイドの関与の検討.同種ラットをCon群,AA群,AAT群,AAT+naloxone (AAT+N)群の4群に分けた.AAT+N群には,μオピオイド受容体拮抗薬ナロキソン(3mg/kg)をTENS開始30分前に皮下投与した.先の実験と同様に逃避閾値を測定し,脊髄μオピオイド受容体の変化を組織学的に検討した.その結果,ナロキソンの前投与はTENSの鎮痛作用を有意に減弱させた.またAA群の脊髄後角ではμオピオイド受容体の発現が有意に増加したが,TENSによってその増加が有意に抑制された.4Hzの低周波TENSは慢性炎症性疼痛に対し鎮痛作用を示したが,その作用はμオピオイド受容体拮抗薬の前投与によって減弱した.また脊髄では,AA群の脊髄後角の浅層にμオピオイド受容体の発現が増加したが,AAT群ではこの増加が有意に抑制された.以上より, TENSはμオピオイド受容体を介して,慢性炎症性疼痛に対し鎮痛作用を示したと考えられる.低周波TENSは慢性炎症性疼痛に対し有用であり,鎮痛効果の発現には内因性オピオイドが関与していることが示唆された.
著者
村井 聡 塩沢 英輔 鈴木 髙祐 佐々木 陽介 本間 まゆみ 瀧本 雅文 矢持 淑子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.296-306, 2022 (Released:2022-08-31)
参考文献数
28

濾胞性リンパ腫は低悪性度B細胞リンパ腫であり一般に緩徐な経過を示す.経過中に組織学的形質転換Histological transformation(HT)をきたすと予後不良とされる.十二指腸型濾胞性リンパ腫Duodenal-type follicular lymphoma(DFL)は濾胞性リンパ腫の一亜型である.DFLではHTは稀であるとされるが,その発生頻度に関して報告は少ない.DFL のHTの発生頻度を明らかにすることは治療方針を考えるうえで重要な意義を持つ.DFL症例を長期観察と内視鏡検査による連続的な病理組織診断によって組織学的変化を評価しHTの発生を病理学的に検討する.十二指腸・小腸生検により濾胞性リンパ腫と診断された37症例をデータベースから抽出した.節性濾胞性リンパ腫の消化管浸潤例を除外するため,消化管リンパ腫Lugano分類における臨床病期Ⅰ期のみを対象とした.Hematoxylin-eosin染色標本による組織形態学的評価と免疫染色標本による評価を行いHTの発生を評価した.条件を満たしたDFLの症例は20症例だった.診断時のHistological gradeは20症例全例でGrade 1-2だった.臨床的な観察期間は中央値56か月(範囲:12か月~147か月)だった.経過中に臨床的に臨床病期の進行した症例はなかった.病理組織学的にHTが認められた症例はなかった.DFLにおけるHTの発生頻度を評価するうえで,本研究のように単一施設で同一患者において定期的な内視鏡検査・生検を長期の観察期間に渡って行いHTの有無を組織学的に確認すること,ならびにDFLの診断において節性のFLの十二指腸浸潤を確実に除外することは高い信頼性があると考えられた.DFLと的確に診断できる場合にはHTのリスクは低く,節性のFLに準じた集学的治療を行うことは過剰な治療となる可能性がある.
著者
森田 勝 門松 香一 保阪 善昭 藤村 大樹
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.203-210, 2010-06-28 (Released:2011-05-27)
参考文献数
23
被引用文献数
2

先天性外表疾患である口唇口蓋裂は,比較的発生頻度が高く,当教室では現在までに複数の疫学的研究を行ってきた.本疾患の発生には,遺伝および胎児期の環境など複数の要因が関連しているとされているが,その要因は未だ特定されていない.本研究は1989年1月より2005年12月までに昭和大学病院形成外科を未治療で受診した1273名の口唇口蓋裂患者を対象とし,本疾患の発生要因として考えられる(1)母親の出産時年齢,(2)両親の喫煙習慣,(3)母親の飲酒習慣を調査した.そして,調査によって得られたデータと当教室の過去の報告,厚生労働省の統計と比較し検討を行った.解析方法として,F分布による検定とχ2検定を用いた.その結果,母親の出産時年齢,両親の喫煙習慣は本疾患の発生に関連があることが示唆されたが,飲酒習慣については関連性を認めなかった.
著者
須長 史生 小倉 浩 堀川 浩之 倉田 知光 正木 啓子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.530-545, 2018-10-20 (Released:2018-03-13)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本研究の目的は18歳から20代前半の男女の,セクシュアル・マイノリティに対する意識や態度を明らかにすることである.目的を達成するために,首都圏の医療系のA大学の一年生439名(男性137名,女性300名,その他2名)に対してアンケート調査を行った.本調査はその性質上,プライバシーの確保と回収率の向上が課題となる.そこで,今回はその双方への効果を期待して,手段としてインターネットを活用することとした.学生はスマートフォンもしくはタブレット端末を用いてアンケートに回答した(回収率76.9%).質問紙の作成およびデータの分析では先行研究として釜野さおりらが行った「性的マイノリティについての全国調査(2016年)」の報告会資料を参考にし,その比較において若者,特に今回は18歳から20代前半まで大学生の,性的少数者に対する意識や行動の実情の把握を試みた.調査の結果,調査対象者の持つセクシュアル・マイノリティに関する客観的知識は「全国調査」が明らかにした一般的な傾向に比べてより正確であることが分かった.また,セクシュアル・マイノリティに対する意識や態度も差別的な内容を含む項目では,より抑制しようとする傾向を示した.これらのことは本調査の対象者が「全国調査」に比べて高学歴かつ医療系という独自性を有していることが関係している可能性がある.それゆえこの結果は社会の全体像をそのまま映し出したものとは言えないが,医療に関する知識がより広範に普及するであろう将来の社会像の一端を予見させるものとしての価値は有しているといえよう.なお,本研究は3か年に渡って毎年同大学の1年生に対する調査が予定されており,その1年目の中間報告に位置づけられる.
著者
木村 忠直 永井 真由美 白石 葉子 白石 尚基 猪口 清一郎
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.601-609, 2000-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
29

声帯筋を含む甲状被裂筋における横断面の100ポイントから求めた単位面積1mm2あたりの筋線維数は, 男女25例 (♂14, ♀11) の平均値で639.8±48.6であった.収縮機能が異なる筋線維型の比率の平均値は, 緊張性収縮と持久力を有するタイプIの赤筋線維が43.7%で最も高かった.次いでタイプIとIIの両形質を示すタイプIIIの中間筋線維が28.8%, 速動性と瞬発力を発揮するタイプIIの白筋線維が27.6%となり, タイプIの赤筋線維の割合は有意に高かった.また筋線維型の性差を比較すると女性ではタイプIIIの中間筋線維が, わずかに高いのに対し, 男性ではタイプIの赤筋線維とタイプIIの白筋線維が高かったが, それぞれ有意差はみられなかった.また甲状被裂筋と前脛骨筋との比較では, 甲状被裂筋の赤筋線維が有意に高かった.以上の結果よりヒトの発声に関与している声帯筋を含む甲状被裂筋はタイプI型の赤筋線維の比率が多い筋であることが示された.
著者
福留 厚
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.425-435, 1977-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
80

Fot the determination of lactose by galactose-oxidase peroxidase (GOP) method, it is necessary to measure the amount of galactose liberated after the hydrolysis of lactose.(1) Hydrolysis of lactose-Lactose was hydrolyzed with 0.2% H2SO4or with living cells of Escherichia coli3-MT (a mutbile-type variant which decomposes lactose but not galactose) . By H2SO4method, the calculated dose of galactose was liberated after 2 hours. By MT method, free galactose increased rapidly after 2 hours and reached maximum after 3 hours. The volume of lactose solution was diluted to 1: 4 in the procedures of acid hydrolysis and neutralization, but not in MT method.(2) Determination of galactose liberated from lactose after hydrolysis- (i) Free galactose in the H2SO4hydrolysate of standard solution of lactose was measured by GOP or a cup-plate method using M (galactose-sensitive mutant of enteric bacteria) as the test organism. The amount of galactose was measurable in the range of 25-200γ/2 ml in the case of GOP method, and 1.25-10γ/0.1 ml in the case of M-cup method. (ii) Galactose in the MT hydrolysate was measured by GOP or M-cup method. The amount of galactose could be estimated in the range of 25-100 γ/2 ml by GOP method, but the volume of MT hydrolysate was diluted to 1: 8 because of the necessity of deproteinizing. On the contrary, the amount of 1.25-10γ/0.1 ml could be estimated by M-cup method without the need of deproteinizing.(3) Determination of lactose in the biological material- (i) Free galactose in the H2SO4 hydrolysate of milk was measured by GOP or M-cup method. Although deproteinizing of the hydrolysate was necessary, the determination of galactose in the range of 25-100γ/2 ml was possible by GOP method. By M-cup method, 1.25-10γ/0.1 ml of galactose could be determined without the need of deproteinizing. (ii) The amount of galactose in the MT hydrolysate of milk was measured by GOP or M-cup method. While the estimation of 25-100γ/2 ml of galactose was possible by GOP method after deproteinizing, 1.25-10 γ/0.1 ml of galactose could be estimated by M-cup method without deproteinizing.From these experimental results, the combination of MT hydrolysis and M-cup method proved to be most sensitive for the determination of lactose in the biological material.
著者
鈴木 孝臣 伊東 由夫 寺沢 富士夫
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.403-413, 1985-06-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
45

左軸偏位の成因について, 1956年Grantは臨床病理学的検討を行ない, 心筋梗塞ならびに冠動脈疾患による心筋線維症に関係し, かつ伝導障害が左脚の分枝様態と深く関係しているという考えでperi-infarction blockなる概念を導入した.また, Rosenbaumが三束ブロックの概念を提唱して以来, 特に右脚ブロックとの関連において注目されてきた.本論文では, 老年者にみられる左軸偏位例の特徴を明らかにするため, その臨床病理学的検討を行なった.60歳以上の老年者連続剖検例1000例を対象とした.左軸偏位例は前額面平均電気軸角度-30°以上をとりあげた.残る853例から対象189例を選んだ.左軸偏位と加齢との関係は, 加齢に伴って増加傾向を認めたが, 男女共に80歳代以上で有意に左軸偏位の頻度が高かった.主要な心合併症として, 心筋梗塞17.0%, 脚ブロック13.0%, 両者合併4.0%を認めた.心筋梗塞, 脚ブロック以外の心疾患を有しない正常心に合併するいわゆるIsolated LADが30.6%に認められた.病理学的検討として, 心重量, 左室肥大, 冠動脈硬化の程度は, 心筋梗塞合併例で強く, 他合併例では対照例と比べ差異は無かった.左軸偏位例に合併する心筋梗塞および心筋梗塞+脚ブロック例の特徴として, 中隔を含む梗塞例が, それぞれ43.8%, 50.0%に認められた.また, 左軸偏位例の前額面平均電気軸の決定に, 梗塞の有無にかかわらず終期0.04秒ベクトルの影響が大きいことが認められた.脚ブロック例でも同様であった.以上の結果から, 左軸偏位の成因は, 心筋梗塞のような心筋壊死により一部説明されるが, その大部分は心肥大, 冠動脈硬化とは無関係であり, 脚ブロックと同様刺激伝導系の変性および線維症を示唆する成績を得た.
著者
井上 昌彦 若山 吉弘 野本 和彦 自見 隆弘
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.30-34, 1998-02-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
10

鏡像書字 (mirror writing) の出現機構, 責任部位は現在のところ不明であるが, 本態性振戦患者やパーキンソン病患者で高頻度にみられることから, 視床との関連を示唆する報告がある.今回, 脳卒中患者において, 視床と他の病変部での鏡像書字の出現率を調査し, 健常人および他の神経疾患患者での出現率と比較・検討した.対象は脳卒中31名 (視床10名, その他21名) , パーキンソン病34名, 本態性振戦18名, 健常人84名で計167名である.Mini-Mental Stateテストを施行し, 痴呆患者は除外した.それぞれ右手および左手で名前, 数字, アルファベット, 時計の図等を書かせた.書かれた文字の50%以上が鏡像パターンの場合を陽性とした.鏡像書字は, 脳卒中12.9% (視床10%, その他14.3%) , パーキンソン病26.5%, 本態性振戦33.3%, 健常人8.3%にみられた.パーキンソン病患者, 本態性振戦患者で頻度が高いことは過去の報告とほぼ一致したが, 脳卒中患者では視床と他の病変部位で, 鏡像書字の出現率に明らかな差を認めなかった.
著者
中村 節子 森田 佐加枝 井上 浩一 広田 保蔵 小林 瑛児 磯山 恵一 山田 耕一郎 石川 昭
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.481-488, 1992-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
28

未熟児貧血の存在はよく知られているがその成因は充分に解明されたとは言い難い.赤血球系造血因子であるエリスロポエチン (Epo) がいかに未熟児貧血に関与しているかを知る目的で早期新生児の血清Epo濃度の測定を行った.被検対象は成熟児42例 (出生体重2, 558~3, 9469, 在胎日数245~295日) , 未熟児28例 (出生体重1, 450~2, 4509, 在胎日数224~266日) であり, 検体採取は日齢5に行った.また, 貧血発症を早期新生児期のEpo濃度より予測し得るか否かを知る目的で, 日齢6以内の未熟児38例について生後12週までに貧血 (Hb<10g/dlとする) を発症した群17例と非発症群21例に分けてEpo濃度を測定し, 検討した.臨床的に明らかな異常の認められるものは対象から除外した.Epo測定はラジオイムノアッセイにより行い, Epoと同時にヘモグロビン (Hb) , ヘマトクリット (Ht) も測定した.日齢5の成熟児群のHb値は17.02±1.739/dl, Ht値は52.41±5.33%であり, 未熟児群のHb値は15.96±2.359/dl, Ht値は48.80±6.99%であった.Hb値, Ht値いずれも未熟児で有意に (P<0.05) 低値を呈した.これに対して, 日齢5のEpo値は成熟児群で9.83±3.14mU/ml, 未熟児群で10.02±3.48mU/mlでありいずれも健康成人の正常値下限に分布したものの, 両群問において有意差は認められなかった.すなわち, 未熟児群では成熟児群に比し, Hb, Htが低値にもかかわらず, Epo値は高値を示さなかった.また, 日齢6以内の未熟児で貧血発症群のEpo値は11.37±4.92mU/ml, 非発症群は9.17±3.10mU/mlであり, 貧血発症群でやや高値を示したが, 統計学的有意差は認められなかった.したがって, 早期新生児期のEpo値から将来の貧血発症を予測することは, 今回の結果からは困難であった.未熟児のHbとEpo濃度の関係についても検討したが, 相関は認められなかった.未熟児における赤血球系計測値は出生体重や在胎期間の影響をうけ, 一般に成熟児より低値を示す.Epoについてこれらの影響を検討したが出生体重, 在胎期間いずれとも相関を示さなかった.
著者
有田 要 玉置 元 堀田 博 奥山 清一 志村 豁 井口 喬 遠山 哲夫 堀田 和一
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.213-227, 1983

分裂病者同士の結婚についてはいまだまとまった研究報告はみられない.昭和大学付属烏山病院において, 1979年9月30日現在, 10年以上にわたって診療を続けている長期経過の分裂病者501例のなかで, 結婚したのは7組 (すべて恋愛結婚) である.そのうち5組が結婚生活を継続しており, 2組が離婚となっている.経過年数は3年から15年である.今回われわれはこれらの病者夫婦をとりあげ, 分裂病者同士の結婚について主として長期経過の病状とのかかわり (欠陥の程度) を中心に考察した.欠陥の程度については精神症状, 社会適応状況, 社会生活能力についてそれぞれ良好, 中間, 不良の3段階に区分したがいずれにしろこれら3項目は相関している.1) 夫の平均は良好群に属し妻のそれは中間群であるが, 夫はいずれにおいても妻と同程度, もしくはそれ以上の安定した能力を保持している.2) 結婚の成立および維持については夫婦単位でみた時, 中間ないし良好の状態に位置しているが, 必ずしも個々が上記の状態に位置する必要はなく, 不良群に属する妻とのペアで結婚生活を維持している例も存在する.3) 夫および妻ともに前記3項目の評価が中間に属する場合でも治療者や周囲の者の濃厚な援助や指導があれば, 結婚生活は維持できる.4) 結婚後3項目の評価が変動 (悪化) した場合は, 治療者のより積極的な介在が必要である.しかしそれが著しい場合は維持が困難である.5) 病状や生活能力等からも出産育児については相当に困難をともなう.6) 子供への遺伝については未解決な問題も多く, 慎重な配慮と指導が必要である.
著者
北川 真希 田 啓樹 村國 穣 小風 暁 末木 博彦
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.325-332, 2021 (Released:2021-10-27)
参考文献数
20

鶏眼と胼胝は皮膚科領域で頻度の高い疾患であり,その臨床的特徴から区別されるが,同一の病態に基づく一連の疾患として扱われる.2008年から2018年の10年間にむらくに皮フ科を受診し,足底の鶏眼・胼胝と診断された患者2,133例を対象とし,診療録情報をもとに鶏眼・胼胝患者の年齢,性別,発生部位,発生数を中心に統計学的解析を加え,鶏眼・胼胝の疫学的事項につき共通点,相違点を明示することを目的とした.さらに生活習慣に関する問診事項から患者背景,発症誘因を検討した.その結果,以下の事実が明らかになった.鶏眼病変と胼胝病変はともに年齢層を問わず単発例より多発例が多い.鶏眼と胼胝を合わせた全体の男女比は1:2.1と女性に多い.対象者全体の34.4%に鶏眼と胼胝が合併し,合併例では鶏眼と胼胝が別部位に生じる症例より同一部位に混在する症例が多い.患者の年齢分布を鶏眼と胼胝で比較すると,男女を合算したピークはともに30歳代であった.男性の鶏眼は,高齢者では足底外側に,若年者では中間足趾に好発する(χ二乗検定事後解析,p<0.001).女性の鶏眼は,高齢者では中間足趾に,若年者では足底外側に好発する(χ二乗検定事後解析,p<0.001).女性の胼胝は,若年者の胼胝は第2, 第3中足骨関節部に多く発症する(χ二乗検定事後解析,p<0.001).ハイヒール使用群は非使用群と比較し第2, 第3中足骨関節部で有意に胼胝を多発する(χ二乗検定事後解析,p<0.001).以上より鶏眼と胼胝の好発部位は年齢層,性別により異なるため,属性別に発症のリスク因子を解析し,それぞれの再発予防策を検討する必要があると考えた.
著者
大瀬戸 隆 惠 京子 神田 実喜男
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.32, no.8, pp.438-442, 1972-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
17

A 46-year-old woman noticed the muscle pain of the bilateral femur and diagnosed dermatomyosis.She was dead on July 1 1969 and diagnosed miliary tuberculosis including muscle tuberculosis by autopsy.
著者
重政 香代子 森山 浩志
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.549-556, 1999-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
10

ヒト顎二腹筋の前腹と後腹を結ぶ中間腱の詳細な形態を検討するためにその形状, 支持組織, 滑液包様構造, 角度, 舌骨からの距離などの観察を行った.前腹側の腱膜形態と中間腱の支持形態をそれぞれ4型に分け, 顎二腹筋の中間腱部分の形状と舌骨との関係についての形態計測学的な評価を行い, 滑液包様構造物が加齢に伴なって増加することを見出した.顎二腹筋の中間腱部分についての教科書の記述は加齢変化を含めて修正の必要がある.