著者
深尾 良夫 ゲラー ロバート 山田 功夫 武尾 実 島崎 邦彦
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本計画は、世界最大の沈み込み帯である西太平洋域の地球内部構造を解明するために、(1)カムチャッカに新しい高性能地震観測点を建設し、(2)ミクロネシア観測点のバ-ジョンアップを行ない、(3)これまでに得られた記録から地震学的トモグラフィーを行ない従来より鮮明な地球内部イメージを得ること、が目的であった。以下に、成果の概要を報告する。(1)カメンソコエ観測点の建設平成5年度中は観測点建設のための様々な準備(観測システムの構成部品の入手・組立及び調整、相手側研究者との連絡、相手側研究者による観測壕の建設など)を行なった。平成6年度は、建設された観測壕に地震計システムを設置し運転を開始したが、機材の輸送トラブルにより地震計1成分の部品が足りず2成分観測で出発せざるをえなかった。平成7年度にようやく残り1成分も動きだし、現在は順調に稼働を続けている。データは光磁気ディスクの形で送られてきている。(2)ミクロネシア観測点のバ-ジョンアップ平成5年度、ミクロネシア連邦ポナペ観測点において別途予算で高性能地震観測を開始した。この間、ミクロネシアでは全島に光ケーブル電話回線を敷設する工事が進められた、その結果、平成6年度には電話事情が格段に改善され、日本からの電話呼出しによる地震計のシステムコントロールや準オンラインでの主要地震記録の取り込みが可能となった。平成7年度は、観測壕のかぶりを深くし引込用電柱を撤廃してケーブルを埋設化した。ポナペ観測点は計画期間中総じて順調に稼働し良好なデータを得ることができた。地震学的トモグラフィーによる地球内部解明全マントルP波トモグラフィー(平成5年度):Fukao et al.(1992)が行なったよりもデータ数を5倍にして全マントルトモグラフィーを行ない、特に西太平洋全域で「マントル遷移層によどむスラブ」のより鮮明なイメージを得た。一方、1994年のデジタル波形を用いて相関法によってP-PP波到達時刻差を測定し、全マントルP波トモグラフィーで分解能の高い地域ではモデルと測定とがよく一致すること、逆に分解能の低い地域では一致が悪いことを示した。表面波群速度測定(平成6年度):ポナペ島及び父島において西太平洋の最も古い海洋底(160Ma)と最も若い海洋底(`0Ma)のレイリー波群速度を測定し、従来実測された如何なる地域よりも早い群速度及び遅い群速度を得た。コア・マントル境界P波トモグラフィー(平成7年度):グローバルなP波及びPcP波到達時刻データを用いて、コア・マントル境界付近の水平不均質構造を求めた。特に、新しいモデルを提出するよりも用いたデータから確実に抽出できるイメージを明らかにすることに焦点を絞り、東南アジアと中南米の低速度異常と北極域の高速度異常を見いだした。
著者
牛島 光一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究プロジェクトの目的は健康と教育間の因果関係を明らかにすることである。平成24年度は本研究フロジェクトの第二年目であり、教育が健康に与える影響について研究を進めた。この研究では、親の教育水準が高いほど子供の病気を正確に評価できるという仮説を、二つの自然実験的状況((1)医療保障制度改革、(2)教育制度改革)を利用することで検証する。現在、親の教育水準と子供の健康間の除外変数(遺伝的な健康状態、時間選好など)を考慮した研究の蓄積は進んでおらず僅かに、母親の教育水準と乳幼児の健康の因果関係が明らかになりつつある状況である。本研究の分析方法を用いることで、これまで因果関係が明らかになっていない、母親の教育水準と小児の健康の因果関係を明らかにすることができる。本年度は、前年度にタイの家計調査データ(Health and Welfare Survey、2000、2003、2004、2005)から構築したデータセットを用いて分析を行った。このデータセットを用いて、観察された子供の入院率の医療保障制度改革前後の変化と親の教育水準の関係について分析を行った。分析の結果、以下の4点が明らかになった。(1)就学前の子供は、母親の教育水準が低い場合のみ制度導入によって、他のグループよりも入院率が有意に高くなった。(2)この入院率の上昇によって、就学前の子供の入院率は、就学後の入院率と同程度なったので、就学前の子供が過剰な医療サービスを受けたわけではない。(3)父親の教育水準は子供の入院率の変化とは、有意な関係ではなかった。(4)全国レベルの死亡統計によると、制度改革によって、就学前の子供の死亡率のみが減少していた(約43%減少)。従って、分析の結果より母親の教育水準が低いほど子供の健康評価能力が低く、その結果として、子供の健康資本の蓄積が阻まれることが示唆される。
著者
VOOINEAGU Mircea
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

2012年度は,2011年度に導入したブレドン型の同変モティヴィックコホモロジーの研究を引き続き行った。はじめに,ヴォエヴォドスキーによる移送付き前層の枠組みを,同変の場合に拡張した.ここでは同変とは$\mathbb{Z}/2$同変を意味する。このために同変ニスネヴィッチ位相を導入しなけれはならない。これは,完備正則なcd構造として与えられる。また,同変標準三つ組$(\overline{X}\xto{p}S, X_\infty, Z)$を導入した。ここで,$p$は相対次元1の固有な同変写像,$X_\infty$, $Z$は不変な部分スキームであって,$S$はスムース,$X$は正規,$X=\overline{X}\setminus X_\infty$は準アフィンかつ$S$上スムース,$Z\cap X_\infty=\emptyset$,そして$X_\infty \cup Z$は同変なアフィン近傍を持つものとする。主定理は,任意のスムースな$G$スキームは,局所的には同変標準三つ組の一部である,というものである。これはヴォエヴォドスキーの定理の同変な場合への一般化である。また,同変三つ組がホモトピー不変な同変移送付き前層について,ヴォエヴォドスキーの場合と同様の性質をもつことを示した。同変でない場合の定理の拡張として,$F$をホモトピー不変な同変移送付き前層,$W$を1次元表現とするとき,$(F_{GNis})_{(-W)}(S)=(F_{(-W)})_{GNis}(S)$が成立することを示した。ここに$S$はスムースな半局所$G$スキームである。最終的な結果として,$\mathbb{Z}$-同変簡約定理を示した。この定理は,$X,Y$をスムースな$\mathbb{Z}/2$多様体とするとき,射$Z \to Z \otimes I$により誘導される単体的可換群の準同型\[C_*c(X,Y) \to C_*c(X_+\wedge \mathbb{G}_m,Y_+\wedge \mathbb{G}_m)\]は同変ホモトピー同値であることをいう。この同変ホモトピー同値は,$G$が巡回群の場合に拡張できる。これを示すために,任意の部分群$K \subset G$に対し\[C_*c(X,Y)^K \to C_*c(X_+\wedge \mathbb{G}_m, Y_+\wedge \mathbb{G}_m)^K\]が単体的可換群のホモトピー同値であることを証明した。ここで,$c(X,Y)$は$c_{equi}(Y,O)(X)=Cor(X,Y)$を意味する。結果として,任意のスムース$G$多様体$X$に対し,\[\mathbb{H}_G^n(X; C_*c_{equi}(Y,O)^G) =\mathbb{H}_G^n(X \wedge \mathbb{G}_m; C_*c_{equi}(Y \wedge \mathbb{G}_m, O)^G) \]であることが示される。これらの結果は,フリードランダー,ヘラー,オストヴァーとの共同研究により得られた。
著者
野々瀬 晃平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度では実際の現場観察やシミュレータを使ったより実現場に近い実験環境での行動観察データを用い、チーム協調におけるメタ認知の重要性を検討した。具体的には2006年、2007年に行われた北関東セクターを用いたシミュレータ実験および同様のセクターを用いた東京コントロールで行われた実現場の記録データを用い、対空席と調整席という二人一組で構成されるエンルート航空管制官のチーム認知モデルの構築を行った。まず、航空管制官同士の言語的、非言語的インタラクションを記録データより抽出し、それを相互信念に基づくチーム認知を用いた「意図の次元」(インタラクションの理由)とタスク分析に基づく「内容の次元」(インタラクションの内容)を組み合わせたコミュニケーション分析マトリクスにより分析した。これは、インタラクションが行われた空域状況や航空管制官の指示、理由等について管制官の資格を持つ協力者に確認しつつ行った。その結果、対空席と調整席ではその役割の都合上、協調時の主要なメタ認知のあり方が異なることが示唆された。対空席はレーダー画面の監視を行い、トラフィック状況や航空機の現在の指示状態など自身の認知過程に対するメタ認知を行い、また調整席に対し自身の認知状態の補完を求めるインタラクションが多く見られた。一方で、調整席は自身もトラフィック状況や航空機の現在の指示状態などを確認しつつも、対空席の行動を見ながらその認知状態を推測し、その信念の正確さや十分さを補完するインタラクションが多く見られた。また、対空席の考えを確認した上でより良い管制プランを提案、補助するなどの行動も見られた。そしてこの分析結果及び航空管制官の認知モデルに関する先行研究の知見を合わせ、航空管制官のチーム認知モデルの構築を行った。これらの成果は今後予想される管制システムの自動化の際、チーム協調の観点からシステムを評価することに寄与すると期待される。
著者
塚本 勝巳 西田 睦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

1.集団構造の解析:同一年度に台湾,中国(丹東),種子島,宮城に接岸したシラスウナギ各50個体,計200個体について,ミトコンドリアDNA調節領域(約600bP)の塩基配列を決定し,集団解析を行った結果,明瞭に分化した集団の存在は認められなかった。また,産卵親魚集団の遺伝的組成をより正確に反映している可能性のあるレプトケファルスを5回にわたる調査航海で採集し,これらについて同様の解析を行った結果,産卵時期の異なったレプトケファルス集団間に有意な遺伝的分化の徴候は得られなかった。また,核DNAレベルの詳細な比較を行うために,AFLP分析を宮城,神奈川,種子島で採集した計30個体のシラスについて行ったが,やはり明瞭な地理的分化は認められなかった。今後核DNAの遺伝的変異をさらに調べるための準備として,マイクロサテライトマーカーの単離も進めた。2.耳石解析:国内5地点で,シラス接岸時期の前・中・後期に採集したシラス計150尾について,耳石日周輪の解析を行った。ウナギの接岸日齢は約6ヶ月で,産卵期は4〜11月,産卵ピークは7月にあることがわかった。また,産卵期の早期に生またものは,遅生まれの群に比較して成長がよく,若齢でより低緯度の河口に,早期に接岸することが明らかになった。日本周辺の沿岸域と東シナ海で採集した下リウナギの耳石ストロンチウム濃度をEPMA分析で調べたところ,約75%が淡水に遡上しない個体で占められており,ウナギ資源の再生産に寄与するものの大部分は,河川に遡上しない個体が今えているものと推察された。3.結論:現在のところ東アジアのウナギ資源は巨大な単一集団と考えるのがよく,また河口域がウナギの重要な生息域であると再認識されたので,ウナギ資源の保全のためには,まず河口の汚染を改善すること,河口の親ウナギ漁業の制限,さらには東アジア4ヶ国全体でシラス漁業の国際管理を行うことが重要である。
著者
見上 彪 松浦 善治 川喜田 正夫 児玉 洋 喜田 宏 永井 美之 小沼 操
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

本研究はニュ-カッスル病ウイルス(NDV)の生態と病原性を総合的に解明することを目的とする。そこで病原性に深く関るNDVのヘモアグルチニンーノイラミニダ-ゼ蛋白(HN)ならびに膜融合蛋白(F)をコ-ドする遺伝子をリコンビナントワクチニアウイルス(rVV),リコビナント鶏痘ウイルス(rFPV)あるいはバキュロウイルス(BV)に捜入し,発現HNあるいはFの生物性状、免疫原性などの検討し,以下の成績を得た。1)。NDVのHNを発現するrVVを作出し,NDV感染防御におけるHNの役割を検討した。8×10^6PFUの生rVVを接種した鶏は,すべて強毒NDVによる致死的に耐過した。一方同量の不活化rVVを接種した鶏は,同様の攻撃により死亡した。攻撃耐過鶏はHNに対する抗体産生が攻撃前あるいは攻撃前あるいは攻撃後に認められたのに対して,非耐過鶏では認められなかった。2)。FPVのチミジンキナ-ゼ遺伝子内にVV由来のプロモ-タ-P.7.5制御下にNDVのHNを発現するrFPVを作出した。このrFPVはNDVのHNに特異的なウイルス中和活性のある単クロ-ン性抗体と反応し,SDSーPAGE上でNDV HNとほぼ同じ移動度を示すHNを産生した。3)。NDV宮寺株のHNをコ-ドする _cDNAを組みこんだBVは感染細胞表面にHNを発現した。このrHNはSDSーPAGE上でNDV感染細胞で発現するHNと同じ移動度を示し,ツニカマイシ処理により,そのアミノ酸配列から予想される分子量とほぼ同じ大きさとなった。4)。NDV F蛋白の全長あるいはC端のアンカ-部位を除いた遺伝子を組み込んだ。これらのうち強毒株由来の全長の遺伝子を発現したもののみ下蛋白の前駆体がF_1F_2サブユニットに解裂し,これらはジスルフィド結合でヘテロダイマ-を形成していた。
著者
下島 昌幸
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

低温馴化株をベースにした組換えインフルエンザウイルスの作製HA分節にVSV-G遺伝子、NA分節にVenus遺伝子を持ち、残り6分節を低温馴化ウイルス由来のものとしたインフルエンザウイルスの作製をリバースジェネティクス法で試みたが、増殖するウイルスは得られなかった。そこで、低温馴化ウイルス由来ではないWSN株由来の分節と様々な組み合わせを作り検討したところ、少なくともMおよびPB2分節はWSN株由来でないと33℃で増殖するウイルスが得られないことが判明した。残り4分節をすべて低温馴化ウイルス由来にすることはできなかったが、幾つかの分節が低温馴化株由来で33℃において増殖するウイルスが5種類(5つの組み合わせ)得られた。増殖可能な組換えウイルスの低温馴化得られた5種類のウイルスは33℃では増殖可能だが、この温度では接種対象としたいショウジョウバエは生存できない。そこで、まずこのウイルスの低温馴化(2℃ずつ、BHK細胞、MOI=0.0005で接種)を行った。31℃ではいずれも増殖可能であったが、29℃では増殖性が急激に低下し、5種類のうち2つは増殖不可能となった。残り3種類に対し更に2回29℃で増殖させたところ、増殖能の上昇が認められ約5x10^4~5x10^5PFU/mlのウイルス液が得られた。すべての分節がWSN株由来のものが最も高いウイルス価を示し、低温馴化は予想に反し比較的容易おこることが判明した。
著者
渡部 昌平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

一年目は、「(1)内部自由度を有するボース系の集団励起に対するトンネル問題」、「(2)二成分フェルミ系の集団励起」の研究を計画に挙げた。まず、(1)の研究実施状況を報告する。spin-1 BECの励起において、ポテンシャル障壁による励起の散乱効果は研究されておらず、スカラーBECでの「異常トンネル効果」との関係は未知であった。これらの解明は、ボース系を理解する上で重要である。我々は、この系の透過特性を調べた。まず、強磁性相、ポーラー相で、障壁存在下での凝縮体波動関数を求め、各相に存在する3つの励起について透過係数を求めた。結果として、強磁性相の四重極的スピンモードのみ長波長極限で完全反射を示し、その他のモードには異常トンネル効果と同じ完全透過性があることを解明した。また、接合系での透過係数、波動関数の特徴、変数依存性、可積分条件下での議論も行った。一部は、論文[Watabe and Kato, JLTP, 158,(2010)23]で発表した。一方、超流動流上での励起のトンネル問題の知見を用いて、一様系と非一様系における超流動の安定性を研究した。この研究は年次計画にないが、ボース系を理解する上で重要である。我々は、局所密度スペクトル関数によって、超流動の安定性を判定することを提案した。この方法は、ランダウの判定条件を含む、一般的なものである。このような議論はこれまでになく、新しい結果である。一部は、論文[Watabe and Kato, JLTP, 158,(2010)92]で発表した。次に(2)を報告する。フェルミ多体系の励起はこれまで多く研究されてきたが、第零音波と第一音波のクロスオーバーを、有限温度の効果を適切に入れて一つの枠組みで求めたものはない。我々は、モーメント法を用いて、このクロスオーバーを、温度と相互作用定数の関数として研究した。結果は、論文[Watabe, Osawa, and Nikuni, JLTP,158,(2010)773]で発表した。
著者
石川 隆 山沖 和秀 矢崎 義雄 加藤 裕久 鈴木 亨 塩島 一朗 小室 一成 山沖 和秀
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

1. CSXとGATA-4によるANP遺伝子の転写調節 ヒトCSXcDNAおよびマウスGATA-4cDNAを発現ベクターに組み込みANP遺伝子のプロモーター領域を含むレポーター遺伝子とともにCOS-7細胞に導入しtrans-activation活性を解析した。CSXによるANP遺伝子の転写亢進には、転写開始点上流-100bpおよび-250bpに存在するCSX結合配列が重要であり、CSXとGATA-4を同時に発現させると、ANP遺伝子の転写は相乗的に亢進し、その協調作用には-250bpに存在するCSX結合配列が必要であった。さらに、CSXとGATA-4はin vivoおよびin vitroにおいて蛋白同士が直接会合した。以上より、心筋に発生早期より発現し異なるDNA binding motifを持つ転写因子であるCSXとGATA-4が、直接的な蛋白-蛋白相互作用を介してANP遺伝子の転写を協調的に制御することが明らかにされた。2. CSX1過剰発現マウスの解析 CSX1過剰発現マウス(Tg)を作製し解析した。Tgは生存及び生殖可能であり、外奇形や成長障害、心不全症状を認めず、心重量の増加も認めなかった。Tgにおいて心臓と骨格筋にCSX1 mRNAの過剰発現が認められた。内因性Csxの発現はCSX1 の過剰発現により有意に増加を認めた。以上より、TgにおけるANPの誘導はCSX1の直接の作用である可能性が考えられた。また、内因性Csxの発現が増加していたことからCsxの発現調節に正の自己調節機構があることが示唆された。3. Csx/Nkx2.5と会合する新たな転写因子Zf11の発見と解析 ヒトCSX遺伝子cDNA全長を用いtwo-hybrid systemにてマウス胎生17日のcDNA libraryをスクリーニングした。20個のうち1個はC2H2型のzinc fingerを11個と核移行シグナルを持つ転写因子と考えられ、Zf11と名づけた。two-hybrid systemではCsxのN-末端とhomeo domainが会合に必要と考えられ、pull down assayではZf11のzinc finger domainが会合に重要であった。マウスのES細胞において、分化前および分化誘導後3日では発現がなく、6日目以降より発現が認められた。8日目よりミオシン等の収縮蛋白の発現が認められ、自発収縮が始まることより、Zf11はこれらの心筋特異的な収縮蛋白などの発現に関与していると考えられた。Whole mount in situ hybridizationにおいて、Zf11は心臓の形成されるマウス胎仔8日目頃より心臓の原基において発現していた。
著者
前村 浩二 林 同文 永井 良三
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は末梢組織体内時計の下流アウトプット遺伝子を同定し、中枢と末梢の体内時計が、各組織ごとの概日リズムの形成にどのように寄与しているかを明らかにすることを目的とする。ClockとBmalを発現するアデノウイルスを培養細胞にinfectionし、cDNA Microarrayにより発現が増加する遺伝子を網羅的に解析した結果、転写因子、分泌タンパク、膜受容体などが体内時計の標的遺伝子の候補として同定された。その中の転写因子、Dec1の機能について解析した。心臓や腎臓、大動脈などの臓器でDec1mRNAの発現は日内変動を呈した。Dec1はClockとBmalによりmRNAレベルで誘導され、またDec1はClockとBmalによるPer1プロモーターの活性を抑制した。さらにDec1は低酸素でその発現が誘導された。これらのことより、Dec1が低酸素などの環境因子を関知して体内時計のコアフィードバックループを調整する因子として働いている可能性が示された。今後はDNA Microarrayにより同定された体内時計に関連する他の遺伝子群についてさらにその発現パターン、循環機能調節における役割をさらに解析する。次に、中枢の体内時計は正常に保たれ、血管内皮末梢体内時計のみが異常なトランスジェニックマウスを作成した。このマウスを用いて今後さまざまな循環機能の日内変動を解析することにより末梢体内時計の役割を中枢と末梢に分けて解析できる。本研究により、心筋梗塞の早朝発症機序を初めとする循環器系疾患の日内変動のメカニズムが分子レベルで詳細に解明されることが期待される。組織固有の日内リズム発生のメカニズムを理解することは今後時間に即した治療法の開発にむすびつけるられることが期待される。
著者
永井 良三 森田 啓行 前村 浩二
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2001

血圧や心拍数など心血管系機能、あるいは心筋梗塞や冠動脈スパスムなどの疾患の発症時間には、明らかな日内変動が見られるが、その分子メカニズムは未だ解明されていない。最近、体内時計の分子メカニズムが急速に明らかにされ、CLOCK, BMAL1, PERIODなどの転写因子相互のpositive及びnegativeのfeedbackループから形成されていることが明らかになった。本研究は循環器疾患の日内変動が、心臓や血管に内在する体内時計により制御されているという全く新しい着想により遂行した。マウスをlight-darkサイクルで飼育した後、経時的に心臓や血管などの臓器を採取し、体内時計構成因子群の発現が日内変動をもっていることをNorthernブロット法にて確認した。さらに、血管内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞の培養を行い、個々の培養細胞レベルで体内時計関連遺伝子の発現が概日リズムを呈することが示され、.心血管系を形成する細胞レベルで体内時計の存在が示された。心筋梗塞、不安定狭心症などの急性冠症侯群は早朝に多く発症し、その一因として線溶系抑制因子であるPAI-1の活性が日内変動を呈し、早朝に最高値になることが挙げられている。我々はさらに血管内皮細胞において、我々のクローニングしたCLIFとCLOCKがPAI-1遺伝子発現の日内変動を局所で調節していることを示した。以上の結果より末梢組織にも体内時計が存在し、局所に抽いてPAI-1遺伝子の発現を調節することにより、心筋梗塞発症の日内変動に寄与していることが示唆された。組織固有の日内リズム発生のメカニズムを理解することは、心筋梗塞や冠動脈スパスムなどの病態の理解を深めることにつながる。さらにそれは時間に即した治療法の開発にむすびつけることが期待される。
著者
益田 隆司 河野 健二 千葉 滋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は,近年になって注目されている次世代のオブジェクト指向技術である自己反映計算の技術を応用して,新たなソフトウェアの部品化の手法を開発することであった.本研究は,我々の研究グループで既に開発した自己反映計算に基づいた言語処理系OpenC_<++>を研究開発の基盤として利用した.まず,プログラムの部品間の依存関係をあらわすメタ情報を記述しやすくなるよう,OpenC_<++>の改良をおこなった.さらに部品化の対象となるソフトウェアの範囲を広げ,現状の自己反映計算の能力でもうまく部品化できないソフトウエアを部品化するのに必要な基礎技術の開発を行った.そのひとつとして,フランスの国立研究所LAASの研究グループと協力し,ソフトウェアの耐故障性を高める機能を部品化する研究,オペレーティング・システム(OS)のサブシステムを部品化する研究,分散ミドルウェアを部品化する研究を行った.OS機能の部品化では,実行時性能の他に,故障時の安全性が重要であり,実行時性能と安全性とを両立させる手法の開発を行った.また,OpenC_<++>のようにコンパイル時にメタプログラムを解釈実行する方式では,プログラムの実行時にしか行うことのできないソフトウェア部品間の保護を行うのは難しい.そのため,互いに保護を必要とするようなソフトウエア部品では,部品化することによって性能の劣化が起ってしまう.この性能劣化を押さえるため,部品間の保護を実現しながらも部品間の呼び出しによるオーバヘッドを削減できるような,仮想記憶機構を新たに開発を行った.
著者
東中野 多聞
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

本年度の研究成果の一つとして、「昭和十八年九月三十日の御前会議-国策と戦争指導の相剋-(附)オーストラリア国立戦争記念館所蔵、草鹿任一日誌」(『東京大学日本史学研究室紀要』第8号2004年3月)が挙げられる。従来、昭和十八年九月三十日の御前会議で決定した絶対国防圏については、陸軍と海軍の対立で語られることが多かった。そこで、陸海軍内部の上下対立や、中央と現地軍との対立に注目し、絶対国防圏の設定が日本の国家戦略上どのような意味を持っていたのかを明らかにした。それは、軍事的にみれば、ラバウルに地上部隊を投入するのと同時に、ラバウルを放棄するという矛盾に満ちた非情な決定であった。後方の防備を固めるためには、ラバウルで出来るだけ長く「持久」する捨て石部隊が必要であった。一方、政治的にみれば、絶対国防圏の設定によって陸海軍内部に亀裂が生じ、その結果、陸海軍大臣の統帥部長就任と、海軍中堅層の海相更迭運動とが発生した。そして、両者は、東条内閣総辞職の原因となる。オーストラリア国立戦争記念館に所蔵されている南東方面艦隊司令長官兼第十一航空艦隊司令長官草鹿任一中将日誌の一部の活字化も行った。草鹿は、ラバウルを中心とするソロモン方面の海軍作戦の最高責任者であり、現地軍の史料としてきわめて貴重である。本資料は、連合軍が戦後、草鹿より没収したため、国立戦争記念館に残されている。太平洋戦争においては制空権が重要な意味を持ち、その点では小さな島々の持っていた価値はきわめて高かった。これらは、航空機の発進基地となったのである。太平洋戦争は、いわば、飛行場の争奪戦であったといえる。小さな島々の陥落は、軍事的にも政治的にも大きな衝撃を国内政治に与え、国内体制の崩壊速度を加速させていったのである。
著者
高井良 健一
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.323-331, 1995-02-28

This report focuses upon inquiring what kind of difficulties mid-career teacher faces with and how he overcomes the difficulties. Doing life-cycle research, many have explored the mid-career crisis. Through examining various former research on this issue and describing a teacher's life-history, this paper comes to a conclusion that teachers' mid-career crisis is characterized as the following three features. First, mid-career teachers encounter the stabilization of teaching. Second, they struggle to change their own image of teaching and learning. Third, associates and consociates of mid-career teachers play an important role to facilitate them to enter into the next career-stage.
著者
宮崎 匠
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

ジュネーヴ大学図書館などの研究施設を利用し、18世紀ジュネーヴの絵画論、およびそれとの影響関係が考えられる美術関連書を閲覧・調査した。その結果、同都市の美術理論に関しては、スイスの他の都市の絵画論以上に、フランスやイタリアの理論との関係が密接であることが判明したため、それら他地域の絵画論とジュネーヴの絵画論の特徴的理論の内容を比較分析した。これによりヨーロッパ美術理論史上におけるジュネーヴ絵画論の相対的な位置づけを明らかにした本研究の成果は、口頭での研究発表と外国語・日本語による論文の中で発信された。まずジュネーヴの画家J. E. リオタールが重点的に論じている、作品の「仕上げ」に関する理論を分析した結果、それがオランダの画家J. ファン・フイスムの作品に対する評価や、17世紀イタリアの画家F. アルバーニの自然描写に関する理論と密接に関係していることが明らかになった。またジュネーヴの美術愛好家F. トロンシャンの絵画論については、特に気候風土が作品様式に及ぼす影響に関する理論などは、当時のフランスで知られていた絵画論を発展的に受容しつつ形成された可能性が高いことを明らかにすることができた。他にヴェネツィアの美術愛好家F. アルガロッティの書簡を分析した結果、アルガロッティがリオタールやトロンシャンと同様にアルプス以北の画家の「仕上げ」を高く評価する傾向を持っていたこと、すなわちイタリアとジュネーヴの絵画論には近似する趣味の傾向が認められることが判明した。さらに同時代のフランスで出版された美術辞典などの資料との比較からは、リオタールが絵画論の中で高く評価するパステルに特有の鮮やかな発色などの特徴は、同時代のフランスの美術関係者たちにも利点として認識されていたこと、つまり流行の画材に関する隣国の趣味にも、ジュネーヴの絵画論は敏感に反応していたことを究明することができた。
著者
加藤 久典 JIA Huijuan JIA Hujiuan
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

これまでにパセリの熱水抽出物がヒト結腸がん由来細胞株HT-29の増殖抑制効果が認められたことから、パセリには抗結腸腫瘍活性を有する可能性が示唆された。細胞レベルから生体レベルへのパセリの腫瘍増殖抑制作用を検証するために、まずは最初の一歩として、デキストラン硫酸ナトリウム誘導潰瘍性大腸炎モデルマウスを用いてパセリ摂取による大腸炎の抑制作用を検討した。体重減少、血便、下痢の3つのスコアからなる大腸炎の指標であるDAI (Disease Activity Index)を評価するとともに、トランスクリプトーム解析を基盤とした統合オミクス解析を活用し、その作用分子機構の解明を行った。パセリ摂取マウスにおいて大腸炎の発症に伴うDAI上昇および腸管の短縮は有意に抑制され、血中腫瘍マーカーのSerum amyloid A1 (SAA1)、および炎症マーカーのIL-6 (Interleukin 6)、Matrix metalloproteinase-3 (MMP3)の濃度も顕著に減少した。大腸のトランスクリプトーム解析では、炎症サイトカインのI1-6、ケモカインCc15、下流のHaptoglobin、cluster of differentiation 163、および線維化マーカーのTissue Inhibitor of Metalloproteinase l、Mmp3、Mmpl0の発現が有意に減少し、パセリの摂取により炎症の抑制、腸管短縮の改善に関与すると示された。肝臓トランスクリプトーム解析では、Saa1、c-Jun、S100 calcium binding protein A8など腫瘍マーカーの発現減少、stearoyl-CoA desaturase-1、ELOVL family member 6, elongation of long chain fatty acids、fatty acid synthase、NADP-dependent malic enzymeなど脂肪酸合成関連遺伝子の発現増加から、パセリを摂取したマウスにおいて腫瘍マーカー濃度の減少および体重減少の改善との関与が考えられた。また、肝臓プロテオーム解析では、クエン酸サイクルおよび尿素サイクルにかかわるタンパク質の発現増加、メチオニン・リサイクル経路にかかわるタンパク質発現減少から酸化的リン酸化の改善、酸化ストレスの低減が示唆された。以上のように、トランスクリプトミクスとプロテオミクスを組み合わせた統合的な解析から、パセリ摂取による大腸炎抑制作用メカニズムの遣伝子-タンパク質ネットワークを解明できた。今後、メタポロミクス解析を加えさらに詳細に解析する予定である。
著者
水崎 富美
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.87-96, 2000-03-15

Before the war, school songs have been generally believed to be utilized for "cultivating a moral character" by the basic policy of the ministry of education. In addition to this ordinary aspect, we shed light on the existence of a policy in the standardization of national language by a vocal sound, which had been driven by the ministry of education in modern ages.
著者
尾上 圭介
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

漫才を中心とする話芸とテレビドラマの会話の分析によって,以下のことが明らかになった。[1]ある言語表現が,聞き手に対して何らかの言語的反応(広義応答)を要求ないし期待するというのは,なにも質問(回答要求)表現に限ったことではない。聞き手に対する積極的な働きかけの意志を帯びた表現は,以下の13種に分類することができるが,(1)命令,(2)禁止,(3)要求,(4)依頼,(5)質問,(6)相手状況評価,(7)訴え,(8)注意喚起・教え,(9)宣言・宣告,(10)同意確認,(11)勧誘,(12)あいさつ,(13)呼びかけこのすべての種類の言語的働きかけに対して,聞き手はまず言語によって反応することが普通である。この中には,聞き手の言語的反応が,聞き手の反応の中心である場合から,反応の前ぶれ的一部分である場合(命令に対する応諾など)までの幅があり,また,無言による応答という場合さえあるが,概括すれば,上記13種類の言語的働きかけは,すべて,広義応答(言語的反応)を要求,ないし期待するものだと言える。[2]上記のほかに,(つまり聞き手に対する働きかけの発話でなくても)ディスコ-スの中で,聞き手が黙っていられなくなるようにしむけるという種類の発話ー反応の型が見られる。(1)長い発話を「ネ」で切って、そこまでの聞き手の理解を確認する.(2)意外な内容を唐突に持ち出して,聞き手からの説明催促,質問などを誘い出す.(3)話し手の困惑,喜びなどの情動を表明して,聞き手の反応を誘う。(4)判断や意志決定をめぐる躊躇・逡巡を表明して,相手の援助の発言を誘い出す.これらの発話も、広義応答(言語的反応)を要求するものと言える。