著者
高木 堅志郎 藤島 啓 崔 博坤 酒井 啓司
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1991

音波緩和法は、分子や分子集合体レベルで物質の動的な挙動を調べる非常に有効な手段である。しかし従来の技術は、周波数が主に100MHz以下に限られているため、昨今の要求である「より速く、よりミクロな現象」の研究に対応することは極めて困難であった。我々は高分解能ブラッグ反射(HRB)法という新しい音速吸収測定技術を考案し、1.5GHzまでの広帯域測定を可能にした。本研究の目的は、この測定法を実用化の観点から見直し、GHz域で音波緩和スペクトルを求める新しい物性測定装置として確立することにある。本年度まで3年間にわたって行われた研究の成果は以下のようにまとめることができる。1)HRB法の高性能化と汎用化を行った。これまで用いられてきた特殊な周波数分析機器に替えて、スペクトラムアナライザーなどの汎用器を用いた測定システムを試作し、2GHzを越える領域での迅速測定が可能となった。2)自動化・汎用化されたHRB法則定システムを、i)液晶性分子の配向緩和現象の研究 ii)たんぱく質、脂質などの生体高分子の広帯域超音波音波物性 iii)高分子ゲル系における高周波表面波伝搬、などソフトマテリアルの高周波音波物性の研究に応用した。その結果、ソフトマテリアルの分子ダイナミクスに関する多くの知見を得ることができた。3)本研究の中で示された、まったく新しい高周波フォノン測定手法である光ビ-ト分光ブリュアン散乱測定の可能性を検討し、現在のHRB法と極めて類似の光学系によって実現可能であることを確認した。この光ビ-トブリュアン散乱測定法の予備実験を進め、GHz域の熱フォノン測定に成功した。4)これらの最終的な研究成果を評価・総括し、HRBシステムを用いた今後の高周波超音波物性研究についての検討を行った。
著者
小松 輝久 ROTHAUSLER EvaAnja ROTHAUSLER Eva Anja
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

流れ藻はブリやマアジ稚魚の生息場として非常に重要である.特に,ブリ養殖では,流れ藻ごと採集するブリ稚魚のモジャコに種苗を全面的に依存しており,流れ藻の生態について正確に知りたいという要望は非常に強い.ブリの最大の産卵場である東シナ海では,アカモクのみからなる流れ藻しかなく,流れ藻は中国から輸送されると考えられている.しかし,アカモクの浮遊期間や,それに影響を及ぼす環境要因も明らかになっていない.そこで,研究対象としてアカモクを選び,その浮遊期間を推定するために必要な,水温や光合成有効放射,紫外線などの環境条件とアカモクの生理生態および浮遊期間の関係を調べることにした.平成23年度は,青森県にある東北大学浅虫海洋生物研究センターにおいて,アカモク流れ藻に及ぼす水温の影響の評価を目的に,アカモク8個体を実海域で,20日間,人工流れ藻としてロープで縛り生長と環境条件について,また,アカモクの葉片を採集し,低水温(6.8±0.2℃),環境水温区(15.8±1.9℃),高水温(20.7±0.3℃)に制御して,それぞれ8個体の生長と生理状態を20日間調べた.野外実験の結果,実験終了時に3個体のみが浮いていた.海底に固着していた個体には,生殖器官がなく,20日間浮かんでいた人工流れ藻は沈んだ人工流れ藻よりも多くの生殖器を発達させていた.このことは,成熟期に流れ藻となり,環境に順応できた個体は20日以上浮遊でき,新しい場所へ分散し,再生産して定着できる可能性があると考えられる.室内実験の結果,高水温区では,気胞は低水温区よりも早く脱落したが,高水温区の生殖器のバイオマス(25%)は,低水温区(3%)や環境水温区(11%)よりも多かった.高水温環境は海藻を早く沈降させ,分散のポテンシャルを減少させることになることが示された.
著者
日比谷 紀之 木田 新一郎 升本 順夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

インドネシア通過流(ITF)は、インドネシア多島海の海面水温や水塊の性質を大きく変化させることで、海盆規模の気候変動をコントロールすると考えられている。本研究では、高解像度数値実験を実施し、同海域における潮汐混合の定量化を行うとともに、そのITFへの影響を議論した。数値実験の妥当性は、既存の乱流観測との比較・検討を通じて検証した。数値実験の結果、ITFの東流路において海面水温や水塊の性質が著しく変化すること、さらにそれらの変化が多島海内の狭い海峡内で励起された内部潮汐波の砕波に伴う鉛直混合や、直径数キロメートルのサブメソスケール渦に伴う水平混合に起因するものであることなどが明らかとなった。
著者
沼野 充義 野谷 文昭 柴田 元幸 加藤 有子 毛利 公美
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、ロシア東欧・広域英語圏・広域スペイン語文学の専門家の共同作業により、国・言語の枠を超えた広い視野から現代世界の文学の複雑なプロセスを総合的に調査し、新しい文学研究のあり方を探った。その結果、グローバル化時代にあっても世界の文学は一方的に均質化することはなく、全体として豊かに多様化していることを明らかにするとともに、欧米中心に組み立てられてきた従来の世界文学像を拡張し、日本も視野に入れた新たな世界文学カノンの可能性を探究することができた。
著者
奈良 一秀 木下 晃彦 田中 恵 村田 政穂
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

樹木の多くは養分吸収の大部分を外生菌根菌に依存しており、効果的な菌株な選抜・育種ができれば、樹木の成長や定着を促進できる。本研究では、厳しい土壌条件でも効果が期待される菌根菌の選抜や樹木に与える影響の評価を行い、有効な菌群を特定した。また、交配育種に役立つ情報を整備するため、主要な菌群の遺伝子流動や系統進化についても新規知見を得た。
著者
松崎 浩之 笹 公和 堀内 一穂 横山 祐典 柴田 康行 村松 康行 本山 秀明 川村 堅二 瀬川 高弘 宮原 ひろ子 戸崎 裕貴
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

南極ドームふじアイスコア中の過去72万年にわたる宇宙線生成核種記録を加速器質量分析で分析した。特徴的な宇宙線イベント(ラシャンプ、ブレーク、アイスランドベイズン)を詳細に解析したところ、宇宙線生成核種(特にベリリウム10)の記録が、グn一バルなイベントの記録となっていることが証明された。これにより、古環境研究における、より信頼性の高い年代指標を確立する道が拓けた。
著者
日比野 晶子 (兵頭 晶子)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究では、かつて狐が憑くなど<もの憑き>の概念で理解されていた状態が、日本近代において精神病という概念に置き換えられていく過程で、病者の処遇や治病にどのような変容が起こったのかを歴史的に検討した。本年度は最終年度として、これまでの成果を単著として刊行し、その延長上に近現代の「心理療法」の問題性について考察した論文を公表した。<もの憑き>は、神々や生き霊・死霊だけでなく、牛馬や五毅などの動植物も含め、自らを取り巻く全てのおりようとの<繋がり>に異変が起きた時に生じる事態であり、そのバランスを調整することで病気も治ると信じられていた。日本近代精神病学は、このような<繋がり>において理解されていた状態を、病者「個人」の遺伝や生活歴といった「素因」に基づいて必然的に発病する「精神病」なのだと再定義し、臨床化していった。こうした<存在>の病としての再定義は、「素因」の発生源とされる病者と家族に重い影を投げかけた。さらに私宅監置の制度化も加わり、精神病は文字通り「家」の問題として可視化され、かつては<繋がり>の異変の修復に参加していた近隣の人々からも、「危険」を忌避されるようになっていった。のみならず、病者が落ち着いている状態でも「潜在的危険性」を警戒すべきだと喧伝されたことから、罪を犯して世間を騒がせた精神病者は死ぬまで精神病院に監禁され、その一日も早い死が待ち望まれるようになる。このような、「個人」という<存在>と精神病に基づく「危険」を同一的に重ね合わせる発想は、今日の医療観察法にも、形を変えて引き継がれていると思われる。そして、潜在意識に隠された「個人」の「経歴(ヒストリ)」を読み解くことで症状を解決しようとする心理療法も、同じ轍を共有しており、人間が独りで生きている訳ではないという当たり前の事実を狭めてしまう可能性を持つと考える。
著者
六反田 豊 森平 雅彦 長森 美信 石川 亮太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

朝鮮半島における主要河川の一つである漢江を主たる対象として、高麗および朝鮮時代において、人々が河川という水環境といかなる関係を築き、またそれがどのように変化してきたかを検証するために、関連資料の収集をおこなうと同時に、5回にわたり漢江流域での現地踏査を実施した。そして、その結果を、関連する文献情報とともに資料集にまとめて刊行した。また、日本国内の研究者と勉強会や意見交換の場をもち、水環境史研究の課題や方法についての認識を深め、朝鮮史研究における水環境史の構築のための研究基盤を形成した。
著者
原田 晶子
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

中世ドイツ都市史研究では、長い間、法的特権を持つ聖職者は都市の中の異分子と考えられ、対立の構図で描かれてきた。しかし近年、中世後期の都市を「聖なる共同体(注:市参事会は市民の宗教生活にも責任を負っているという意)」とみなす概念が受け入れられつつあり、都市と聖職者の関係も再考を迫られている。このような研究動向を考量して、本研究では都市と聖職者の関係を、従来あまり注目されてこなかった教会組織の末端に位置する教区主任司祭の活動に着目し、「共生」という観点から考察し直した。
著者
菅原 琢
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本課題では、日本の国政選挙での有権者と候補者のそれぞれの過程における地元志向(選挙においてその地域の代表であることなどを重視する傾向)について研究を行っている。かつての衆院の中選挙区制では、強い地元志向が自民党の一党優位体制を生みだしていたが、参院選挙でもSNTVの理論予測であるM+1ルールを阻害することで自民党を利していた。また、新制度下では同一政党の公認候補同士の争いがなくなったことから選挙における地元志向は消えると考えられたが、政党の公認過程に地元志向の反映の場面が移動したという仮説を立てて分析を行っている。
著者
加藤 和弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

東京都およびその近県にある11の緑道で、緑道内の鳥類相と緑道の植生構造、緑道周囲の都市化の程度の関係を調査した。緑道内の鳥類相の場所による違いは、緑道周辺の都市化の程度にも影響を受けていたが、緑道内と隣接部における植被の発達の程度、特に上層の植被の発達の程度によってよく説明された。但し、緑道内外の下層植生が発達していない場合には、出現する鳥類種が限定され、アオジ、ウグイス、シロハラなどの下層植生や地表を利用して採食する森林性鳥類は出現しなくなる傾向が認められた。また、緑道内で記録された鳥類個体の多くは、移動する場合には緑道に沿った形での移動が多いことが示された。
著者
尾形 邦裕
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は人の持つ高度な運動スキルを解明し,ロボットの新たな運動制御法を確立することにある.本研究では,高度な運動スキルとして他者の身体を扱う動作に注目し,これを解析するために甲野善紀に実験協力を得た.そして片手で人を引き上げる動作,人を押す動作,竹刀で相手の姿勢を崩す動作など様々な動作の計測解析を行なってきた.そして各動作において動作の成否を分ける重要な運動特徴を抽出した.これらの運動特徴の有効性を検証する必要がある.そこで,片手で人を引き上げる動作及び押し動作において力学モデルを導出し,動力学シミュレータによってそのモデルの妥当性を検証した,その結果,いずれにおいても動作の主体者のみならず,受け手の運動も重要でありことが分かり,甲野は受け手に任意の運動を誘導することで少ない労力でタスクを成功させていることが分かった.本研究では,押し動作に注目し,解析から得た運動特徴に基づくロボットを開発した.押し動作では腕部の高剛性と全身を活用した瞬間的な加速度変化が重要であることが動作解析の結果から分かっている.腕部の高剛性は多関節筋の拮抗が重要な役割を果たしていると考えられ,これを実現するために空気圧人工筋をアクチュエータとして用いた.このロボットを用いた押し動作の実験の結果,受け手の運動誘導が確認され,運動特徴に基づくロボットの有効性が確かめられた.本研究で開発したロボットは運動特徴の重要な点を実装したに過ぎず,複雑な人の身体において運動特徴が重要な役割を果たしていることを正確には示していない.そこで,運動特徴をコツという簡易な表現にまとめ,このコツを人に教示することで動作に変化が生じるかどうかを検証した.実験の結果,コツの教示による主体者の運動に統計的に有意な変化が確認できた.このように,人の運動解析から重要な運動特徴を抽出し,その再現性,工学的応用などを示すことができた.
著者
小寺 敦
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

出土資料に関する研究会・学会に参加し、新発見の出土文献の史料的性格に関する研究を進めた。日本国内外の研究機関を訪問し、遺跡調査や資料調査・収集を行った。これらの諸活動の成果として、「ゆずり」のような日常的行為が、王権を思想的に支える要素として取り込まれていく過程を明らかにした。これは家族のように「普通のもの」として認識されているものが、いかに「宗法制」という社会秩序に化するか解明することに繋がる。
著者
水島 昇 斉木 臣二 野田 展生 吉森 保 小松 雅明 中戸川 仁 岩井 一宏 内山 安男 大隅 良典 大野 博司 木南 英紀 田中 啓二 佐藤 栄人 菅原 秀明
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

本新学術領域研究は、オートファジーの研究を推進するために、無細胞系構成生物学、構造生物学、細胞生物学、マウス等モデル生物学、ヒト遺伝学、疾患研究を有機的に連携させた集学的研究体制を構築することを目的として設置された。本総括班では、領域における計画研究および公募研究の推進(企画調整)と支援を行うとともに、班会議・シンポジウムの開催、領域活動の成果の発信、「Autophagy Forum」の開設と運営、プロトコール集公開などを行った。
著者
野口 博司
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

パセリのCHS制御領域-46〜+8(ATG)とBoxI-IIをGUSにつなぎPUC-19に組み込んだpBTu1-2、ベチュニアのCHS-Aの-800までをCATに繁いだ遺伝子、同様にして金魚草のCHSの-357までをPUC-19に組み込んだ遺伝子をブドウの色素生産株に導入しそれぞれの発現の比較を行った。対照としてCAMV35Sプロモーターを用いた。この発現を調べたところ強弱はあるもののいずれも発現した。さらにキントキニンジンの培養系で2、4Dを加えた増殖培地中と2、4Dを除いた分化培地中で発現を調べたところ何れでも発現が見られ、果たして以上の実験がアントシアンの生産に関与する制御領域のポジティブなコントロールとなるか否か、再考察が必要となった。さらにこれらをタバコ培養系に導入したところイーストエキス処理の有無にかかわらず発現が誘導された。最近欧米では上記の遺伝子をフラボノイドをファイトアレキシンとしないタバコの培養細胞に加えて発現の見られることが報告されており、植物の外界からの刺激に対する応答の複雑さの一環と思われる。クズ培養細胞より刺激に対応してえられたCHSライブラリーから独立なCHSを検索したところ、独立なクローン1-14が得られた。この14はインゲンの5上流と極めて相同性が高く、エリシター由来であることをうなずかせるものだったが、ダイズのchs-1、chs-2との相同性は低く、またパセリのCHSとの比較では全く近縁性がないことは上の結果と考え合わせると、刺激に対応する配列はひとつでなくより緻密な解析を行わなくては植物の応答性を論じることは難しいという結果となった。
著者
佐竹 健治 藤井 雄士郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

環太平洋で過去に発生した巨大地震による津波を系統的に調査した.1960,2010年チリ地震,2006,2007年千島列島の地震,2009,2010年インドネシアの地震について,すべり量分布の特徴を明らかにした.2004年スマトラ島沖地震より古い地震を地質学的痕跡から調べた.2011年東北地方太平沖地震は869年の貞観地震型と1896年明治三陸津波地震型のほぼ同時発生であった.M9の巨大地震について,M8の海溝型地震の相似則が適用できる.
著者
高田 礼人
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

現在までに多くのウイルス感染症は予防、制圧されてきたが、エイズ、ヘルベス、インフルエンザあるいはエボラ出血熱等の感染症に対する効果的な治療法は未だ確立されていない。本研究の目的は特定のアミノ酸配列をもつ合成ベプチドによってウイルスの感染を選択的に阻害する方法を開発する事である。pSKANファージディスプレイシステムを用いて、現在までにインフルエンザウイルス蛋白質に特異的に結合するファージを選択した。また、エボラウイルスの表面糖蛋白をプラスミドから発現させ、精製する事に成功した。これを用いて、この糖蛋白に特異的に結合するファージを選択した。さらに、エボラウイルス糖蛋白の幹部に存在する螺旋状部位が機能的に重要である事が判明したので、その部位と同様のアミノ酸配列を有する合成ペプチドを作成し、エボラウイルス表面糖蛋白でシュードタイプした豚水泡性口炎ウイルスを用いてウイルス感染性中和試験を行った。その結果、約80%のウイルスの侵入が阻止された。この成績は、この合成ペプチドがエボラウイルス表面糖蛋白の立体構造の変化をさまたげ、その侵入を特異的に阻害したためと考えられる。また、エボラウイルスの糖蛋白に対して誘導される抗体の中には、ウイルスの感染性を増強するものがあり、エボラウイルスの強い病原性に関わっている事が示唆された。したがって、この抗体が認識するエピトープを解析し、そのアミノ酸配列をもつ合成ペプチドを感染個体に投与すれば、抗エボラウイルス薬として有効であるかもしれない。
著者
細谷 紀子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

生殖細胞と癌細胞において特異的に発現する「癌精巣抗原」が体細胞における染色体不安定性の誘導に果たす役割を解明するため、癌精巣抗原であるシナプトネマ複合体形成分子SYCP3とSYCE2について、体細胞を用いた機能解析を行った。我々は既に、シナプトネマ複合体形成分子SYCP3が体細胞において遺伝性癌抑制遺伝子産物BRCA2と複合体を形成して相同組換え修復によるDNA二本鎖切断修復を阻害して染色体不安定性を誘導することを報告している。前年度までに、SYCP3とBRCA2の複合体形成によって相同組換え修復が抑制されるメカニズムを明らかにするために、BRCA2におけるSYCP3との相互作用部位の解析を進め、BRCA2のN末側とC末側の2箇所に、SYCP3との相互作用領域があることを同定した。今年度は、引き続き、SYCP3およびBRCA2の組換え蛋白の作製を行い、in vitro binding assayにより、SYCP3とBRCA2のN末端が直接結合することを明らかにした。シナプトネマ複合体形成分子SYCE2については、前年度までに、体細胞においてDNA損傷応答の活性化とDNA二本鎖切断修復の亢進をもたらすことが示唆されていた。今年度、DR-GFPアッセイやDNA二本鎖切断末端結合解析を行い、SYCE2が相同組換え修復と非相同末端結合の両経路の修復効率を上昇させることを明らかにした。また、DNA損傷応答が活性化する背景を調べるために、SYCE2発現細胞におけるヒストンの翻訳後修飾やクロマチン構造の変化の有無について解析を進めた。
著者
福岡 安都子
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究課題は、主権理論、また信教や思想の自由が歴史上どのように発展したのかを、その重要な舞台をなす17世紀のオランダにつき、特に、国家と教会の関係という当時の同国最大の政治問題に焦点を当てて分析することを試みたものである。聖書からの引用を多用しそこに複雑な解釈を施すという当時の議論スタイルと正面から取り組むことを通じ、「聖書世界において啓示を媒介するのは誰で、それはどのようにであったか、また今日において対応する役割を負うのは誰か」という一連の「啓示の媒介者の問い」が、グロティウスを中心とする1600~1620年のいわゆる「レモンストラント論争」時の理論家に、主権の限界及び教会の自律性を巡って見解が対立する際のまさに分岐点として意識されていたことが明らかとなった。これにより、その後のホッブズやスピノザの世代との議論枠組の連続性が改めて確認された。