著者
後藤 晃 WOOLGAE LeeRichard WOOLGAE Lee Richard
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

この研究テーマは、日本の国立大学は法人化後、どのような方針や組織改革を導入しているかという研究である。大学の研究結果が社会と民間企業に貢献することが期待されている。このことに基づいて、大学の産学連携組織と産学連携戦略的な方針が重要になった。研究は21の国立大学産学連携担当副学長、産学連携組織の長、産学連携コーディネーターへのインタービューと、国立大学、私立大学へのアンケート、さらに公開された資料とビブリオメトリクスにもとづいておこなった。これにより、国立大学における産学連携戦略目標(研究機会の増進)、重要な産学連携の相手となるセクター(医薬、農業・食品)があきらかになった。また、個々の大学による多様な大学改革の取り組みがわかった。この改革は政策的なものと組織的なものとがあり、組織的な改革としては「知的財産戦略本部」、「産学連携委員会」や「産学窓口一体化」、政策的な改革は「知的財産政策」、「産学連携方針」、「利益相反ガイダンス」の導入などがある。そのほか、大学の産学連携に関しての報奨、スタッフの採用と評価などについても調査した。産学連携の促進のためには、「産学連携に関する業務の職員のスキル」が重要な問題である。2003から2005年までの間に、国立大学が多様な改革を導入しているが、政府からの助成は依然として財政的には圧倒的に重要である。しかし、2005年から2010年までの期間においては、共同研究が重要となってきているという変化も見られる。
著者
西村 知紀
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

価電子帯端に強いフェルミレベルピンニング(FLP)を生じる金属/ゲルマニウム(Ge)界面においても、Geの結合する(非金属)元素や界面近傍のGeの構造の変調が大幅にピンニング準位をシフトさせた。このことは界面及び界面近傍のGe原子の結合構造がピンニング準位と相関していることを示している。一方界面への極薄絶縁膜の挿入は膜種によって大幅に異なる緩和の挙動を示しており、金属/Ge界面のFLPの強さの起源は単純な界面準位もしくは金属からの波動関数の染み出しによる描像では難しく、より複合的な効果を考える必要があることを示している。
著者
岡本 徹 枡富 龍一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

高移動度シリコン2次元電子系に対して、磁場に対する角度をその場制御しながら磁気抵抗効果の測定を行った。非整数のランダウ準位充填率においてランダウ準位交差を行ったところ、電子局在に相当する縦抵抗の明瞭なディップが観測された。直流抵抗で金属的温度依存性を示す同系に対して、低温下でサイクロトロン共鳴の測定を行った。緩和時間は、直流抵抗から得られるものと同様の温度依存性を示した。GaAs劈開表面に形成したPb単原子層膜における超伝導を調べた。実験結果は、大きなRashba分裂を持つ2次元金属に対して予想されていた空間変調を有する超伝導状態によって説明された。
著者
小川 和夫 良永 知義
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

単生類Neoheterobothrium hirameは、1990年代半ばに突然新種として日本近海のヒラメに出現した寄生虫である。天然ヒラメの貧血症の原因寄生虫であり、ヒラメ資源への影響が懸念されている。本研究では、本虫の起源を明らかにする目的で、アメリカ合衆国大西洋岸のサザンフラウンダー、サマーフラウンダー、チリ産ヒラメ1種からNeoheterobothrium属虫体を採集し、ヒラメのN.hirameと形態学的・分子生物学的に比較した。サザンフラウンダーから得られた虫体は、ヒラメに寄生するN.hirameと形態学的に差が認められず、また、18S rRNA領域、ITS1-5.8S RNA-ITS2領域、ミトコンドリアのCOI領域のいずれにおいても、塩基配列に大きな差は認められなかった。この結果から、サザンフラウンダーに寄生する虫体はN.hirameであり、本種が近年日本近海に侵入し、ヒラメを宿主として定着したものと結論付けられた。従来、サザンフラウンダーにはサマーフラウンダーを宿主とするN.affineが寄生するという報告があった。そのため、N.hirameがN.affineと同種である可能性も残っていた。そこで、本研究いおいて、サマーフラウンダーから得られたN.affine2虫体について、形態学的再記載とITS1領域の塩基配列の配列決定を行い、N.hirameと比較した。その結果、この2種は別種であることが強く示唆された。ただし、今回は得られたN.affineの数が少なく、今後に検討の余地が残された。チリ産のヒラメ類Hippoglossina macropsから得られたN.chilensisの形態ならびにITS1と28S rRNAの部分領域の塩基配列を決定した。その結果、本虫はN.hirame・N.affineと大きく異なり、これらとは別属である可能性が示唆された。
著者
朴澤 泰男
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

今年度の研究では、主に次の2つの成果が得られた。第一に、高校3年生を起点としたパネル調査のデータを用いて、大学進学選択の規定要因を分析し、成果をワーキングペーパーにまとめた。明らかになったのは、性別や家庭の所得、学力など個人属性がそれぞれ進学行動に影響していることのみならず、そうした要因をコントロールしても、出身県における大学教育供給のあり方の違いによって進学チャンスが異なることである。第二に、同じ調査データを用い、日本学生支援機構の第一種奨学金(予約採用)に申し込み、そして採用されるのはどのような家庭背景をもつ高校生なのかという問題を分析した。成果は2008年5月開催の日本高等教育学会大会で、「予約奨学金に採用されるのは誰か?」と題して発表する。奨学金が低所得層からの大学進学を促すか否かを検討するには、その前提として、必要な人に奨学金が届けられているかを検討しておく必要があるためである。分析の結果、次の四点が明らかになった。第一に、所得や学力をコントロールしてもなお、都道府県別奨学金採用枠の相対的に多い県に住んでいる高校生ほど、予約奨学金に申請する可能性が高い。しかしながら第二に、採用枠の多寡は、(申請の有無にかかわらず)予約奨学金の採否に影響を及ぼさない。第三に、採用枠の少ない県に住んでいる高校生ほど、予約採用制度のことを十分知らない傾向にある。したがって第四に、採用枠の少ない県ほど予約採用制度について十分知られておらず、そのため、(優れた学生で経済的理由により修学に困難がある者であっても)申請も行わない、といった家庭が少なくないことが示唆される。
著者
広瀬 啓吉 SHAIKH Mostata Al Masum SHAIKH Mostafa Al Masum
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度、文の情動の程度を数値として表し、そこに含まれる感情の指標を抽出することを進めた。本年度は、その手法を高度化するとともに、得られる指標を合成音声に反映させることを中心に研究を進め、下記成果を達成した。1.ニュース文について、動詞に着目して各句の肯定/否定の程度を評点として数値化した上で、順接、逆節といった句間の関係から、文全体の肯定/否定の程度を評点として与える手法を開発した。評点を用いて、英語音声合成フリーウェアのMARY音声合成システムの韻律を制御することを行った。お祭りのニュースなど、文内容が肯定的な場合は基本周波数/発話速度を上げ、事故のような、否定的な場合は、下げることを基本とする制御を行うことにより、文内容にふさわしい合成音声を得た。2.認知モデルの立場から、喜び、悲しみなどの感情を、肯定/否定、興奮/抑制といった軸によって定式化し、文内容に含まれる感性情報を抽出する手法を開発した。肯定/否定、興奮/抑制の値によりMARY音声合成システムの韻律を制御することを行い、合成音声の聴取実験により抽出した感情が適切に反映されることを確認した。3.音声からそこに含まれる情動/感性を抽出する手法について、音響部分の構築として、スペクトルの周波数と時間方向の変化の特徴と韻律的特徴を用い、Support Vector Machine等による判別を行うことで、定型文に限定されているが、肯定と否定の情動の判別率90%を達成した。4.人間が生活する際に発生する種々の音から、人間の活動を推定する手法(Life Logging)の開発を進めた。音声認識で使われているMFCCを特徴量としたHMMを用いることで良好な音認識が可能なことを示した。
著者
生駒 久美
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

申請者は、20世紀初頭のアメリカ・モダニズム小説を読漁することを通じて、19世紀リアリズム小説における男性感傷の問題を考察してきました。その結果、モダニズム小説と比較することで、リアリズム小説において、男性登場人物達の感傷が称揚されていることに注目してきました。モダニズム小説に関して言えば、アーネスト・ヘミングウェイの『日はまた昇る』における主人公ジェイクは、感傷的(女性的)な男性登場人物コーンに批判的であるのに対し、(男性性を象徴する)若い闘牛士には強い憧憬の念を抱いています。ウィリアム・フォークナーの『響きと怒り』におけるジェイソンは、恋愛感情よりも家長として振る舞うことを優先します。モダニズム小説において感傷とは女性性を指し、否定的な意味しか持ちませんでした。しかし、それにもかかわらず男性登場人物の感傷(もしくは女性性)の抑圧は必ず失敗に終わるのです。モダニズム小説における男性感傷は、抑圧の失敗といった形で担保されていると見なすことが可能です。一方、社会をありのままに捉えようとするリアリズム小説家は、主に女性の共感に基づいたユートピア的共同体を称揚する感傷小説に反発し、社会から疎外され、苦悩する男性への共感をしばしば描きました。例えば、ウィリアム・ディーン・ハウェルズの『サイラス・ラパムの向上』における、事業に失敗したラパムに対する上流階級トムの共感、マーク・トウェインの『トム・ソーヤの冒険』におけるインジャン・ジョーに対する主人公トムの共感、ヘンリー・ジェイムズの「密林の野獣」における愛する者の墓前でむせび泣く男に対する主人公マーチャーの共感を挙げることができます。このように、男性感傷という主題は、モダニズム小説においては、失敗を前提としながら抑圧されるものであったのに対し、リアリズム小説においては重要であったことを確認してきました。
著者
森田 宏樹
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本年度においても引き続き、発信者情報の開示請求制度に関するアメリカ法およびフランス法における判例法の展開および立法対応の現状と問題点の分析を行った。アメリカ法においては、(1)個人の名誉毀損や企業の信用毀損のケースにおいて、違法情報の発信者を特定しないで匿名者"John Doe"を被告として不法行為訴訟を提起し、その訴訟手続内で被告を特定するためにプロバイダー等に対して発令される連邦民事訴訟規則に基づくsubpoena(罰則付召喚令状)による発信者情報の開示請求と、(2)著作権侵害のケースにおいて、不法行為訴訟とは独立に認められる・デジタル世紀著作権法(DMCA)に基づくsubpoenaによる発信者情報の開示請求という2つの法制度が併存しているが、(1)の系列の判例の検討からは、わが国のプロバイダー責任制限法の立案過程において発信者情報開示請求の要件設定に関して参考としたアメリカ法上の先例が、その後の判例の展開の中でどのように位置づけることができるのかを明らかにするとともに、他方で、(2)の系列については、昨年から今年にかけてP2Pによる音楽著作権侵害のケースに関して下された一連の判決の理由において、(2)の手続が(1)の手続と対比して、発信者の匿名性の保護と不法行為による被害者の救済とのバランスのとり方においてどのような意義を有するものと理解されているのかを明らかにすることによって、(1)と(2)のいわば中間に位置するともいえる・わが国の発信者情報開示請求権の意義を評価ないし再確認する視座を得ることができた。また、フランス法においては、違法行為者の発信者情報の開示をプロバイダー等に命ずる最近の急速審理手続(レフェレ)の決定例を検討するとともに、2003年1月に国会に提出された「デジタル経済の信頼」に関する法案(LEN)の審議過程(現在、審議継続中)をフォローした。以上の検討を踏まえて、わが国の近時の下級審裁判例における解釈論上の論点についても検討を進めた。
著者
内村 太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2009

斜面崩壊事例の大部分を占める小規模な表層崩壊に対象を絞り、安価で簡便な無線モニタリング装置を開発し、斜面災害の前兆を監視して警報を発する実用的なシステムを構築した。これまでに開発してきた、土壌水分量と斜面地表面および内部の傾斜変位に基づく斜面の無線センサーネットワーク機器の機能、信頼性を向上し、国内および中国四川省の地すべり、崖崩れ、堀削工事の斜面に適用し、実証を行った。実測データの分析から、傾斜変位に基づく警報基準を検討した。また、斜面の土壌水分量の増加や、不安定化を検知するための指標として、弾性波速度の低下を利用する手法について基礎実験を行った。また、室内実験に基づき、斜面の降雨と土壌水分量の推移を関係づける水理特性のモデル化、土壌水分量と変位・崩壊危険度を関係づける変形特性のモデル化を行った。
著者
後藤 晃 下田 隆二
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1.本研究は、我が国の公的研究機関のうち、特に国立の研究機関に焦点を絞り、そのイノベーション・システムにおける役割について、具体的な事例分析および論文、特許などの客観的なデータの計量的分析を通じ、実証的な分析を試みるものである。2.13年度においては、(1)12年度の研究調査研究、すなわち;(1)国立試験研究機関(国研)に研究費、研究者の推移、我が国の研究開発活動全般の中での位置付け、国研に関する各省庁の施策、関連の予算の推移を調査するための基礎資料の収集、(2)国研が保有する特許の現状、その実施許諾状況及び企業との共同保有の状況等の調査・分析、(3)工業技術院の筑波研究所学園都市所在の研究所の研究活動等、特に産業界への技術の移転状況、産業界との交流、協力関係などの調査、(4)国研に関する行政部局や政府関係機関への国研と産業界との関係等についての訪問調査、を踏まえ、調査・収集した資料・データに基づき、国研の研究活動とその産業界との関係について調査分析を進めた。(2)この結果;(1)国研の予算、人員については、過去20年間に亘って比較的安定的に推移し大きな変化がみられないこと、(2)新しい状況への対応のため研究機関の名称変更、統廃合等が若干みられるものの、平成13年度の独立行政法人化まで、組織的には大きな変化には乏しかったこと(3)基礎的な研究を行う大学、研究所を持つ大企業や先端技術開発を行うベンチャー企業等の民間との狭間で、これらとは異なる国研独自の役割が不明確となりつつあること、(4)国研保有特許のうちでは、国研と企業等とが共有している特許が実施に結びつき易い傾向がみられること、などが明らかになった。
著者
茂木 信宏
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

大気中の黒色炭素(BC)エアロゾル(微粒子)の形状の分析法の開発は、人為起源エアロゾルの気候影響や微粒子計測技術の分野では最先端かつ重要な研究課題である。本研究では微粒子から放出される熱輻射光の方位.偏光依存性を記述する一般理論(Rytov理論)を実験的に検証することにより、BCの形状分析が可能な新しい原理を提唱した。Rytov理論によって推定されるように、光波長よりも小さなサイズの微粒子についても放出される熱輻射光の方位依存性.偏光状態が粒子形状によって決定されることを実証した。
著者
中村 亮一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

本年度は昨年に引き続き、医療用メカトロニクスシステムを中心とする外科手術支援システムに必要不可欠なシステム構成要素である術中情報獲得(モニタリング)システム及び術中戦略支援(ナビゲーション)システムといったソフトウエアの研究開発を行った。今年度は対象とする術式を腹部領域(主として肝・腎)でのMR誘導下冷凍治療(Cryotherapy)に絞り、この術式を支援するモニタリングおよび及び治療戦略支援システムの構築を行った。今年度のシステム開発においては、システムを構成する大きな要素として次の3つの要素技術を開発した。1.術中に逐次撮像されるMRI画像から術中の氷球形状を三次元的かつ定量的に自動抽出するオートセグメンテーション法2.1.により得られた定量的な氷球形状の経時的変化からオプティカルフロー法を用いて氷球成長速度を推定し、この速度情報を利用して近未来の氷球形状を予測する治療効果予測法3.1.、2.により得られたリアルタイム/将来の氷球情報を基に、治療の進捗・安全性等の評価指標を医師に提示する治療モニタリング法さらにこれらの要素技術を組み合わせ、3次元画像表示ソフトウエアとユーザインタフェースをあわせたMR誘導下冷凍治療支援システムの構築を行った。5例の動物実験と数例の臨床データを用いたオフラインでの実験の結果、本システムで提示されるリアルタイム/近未来の表球データは医師の作成した氷球データとの比較の結果高い精度を持ち、またMR画像取得/計算/描画に要する時間も2秒程度と、精度・リアルタイム性共に高い能力を有し、将来的な臨床への応用が可能であると考えられる。本年度開発したモニタリング・ナビゲーションシステムと、初年度に開発した能動鉗子システムを組み合わせることにより、低侵襲手術を実現する総合的外科支援メカトロニクスシステムの臨床応用が可能となると考えられる。
著者
安藤 岳洋
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、主にレーザ蒸散システムの細経化を行った。これまでの研究では、ガルバノスキャナを用いたレーザ走査型のレーザ蒸散システムを開発してきたが、デバイスの形状が箱型だったため、摘出後にできる脳の空間に挿入して使用することは不可能であった。これを解決するために、内視鏡状のデバイスの開発を目指した。本研究では、焼灼用レーザと励起用レーザおよび蛍光取得の光路を同軸にし、細経形状の先端部から側方に光を照射するシステムを開発した。開発した装置は、蛍光計測部、焼灼用レーザ装置、走査機構部、レーザ切り替え部、細径部および制御用PCで構成されている。励起用のレーザ、焼灼用のレーザ、分光器には、前年度で使用したものと同じものを使用している。本研究では405nm~2.97μmという広い範囲の光を使用するため、既存のレンズを用いることが出来ない。そこで、蛍光計測スポットおよび焼灼スポット径を可能な限り小さくするためのレンズ設計を行った。具体的には、2つのレーザ(波長405nmと2.94μm)はコリメートレンズにより並行光として対物レンズに入射するとし、2枚のレンズの曲率半径・厚み・材質の合計8つをパラメータとして、それぞれの光の間の収差を小さくする最適化を行った。その結果、サファイヤおよびフッ化カルシウムの2枚のレンズの構成となった。焼灼点の走査は、回転および直動機構によって行う。中空シャフトのステッピングモータにより、鏡筒周りの回転を行うことで、焼灼点を円周状に走査が可能となる。また、直動ステージにより、鏡筒軸方向の走査が可能となる。これらを組み合わせることにより、円筒状の空間の内面を走査することが可能である。いくつかの評価実験を行い、脳腫瘍にPpIXが集積した状態を模したファントムを用いた実験により、局所的なPpIX蛍光スペクトル計測が可能であることを、ブタ摘出脳を用いた実験により、脳組織の焼灼が可能であることを確認した。レーザ合焦時の蛍光スペクトル計測スポット径は、直径1.6mm程度であることが示された。
著者
山崎 俊彦 相澤 清晴
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

実写3次元映像の圧縮と処理に関する研究を行った。実写3次元映像は各フレーム独立に生成されることが多く、時間的に連続するフレームにおいても頂点数や結線関係が保存されていない場合が多いため、圧縮が困難であった。そこで、研究代表者が考案したパッチマッチング法に基づき、実写3次元映像の頂点情報、結線情報、色情報を同時に圧縮可能な技術を研究した。具体的な手法について述べる。まず、測地線距離を用いて各フレームの3次元メッシュモデルをほぼ等面積になるようにパッチに分割し、それを圧縮処理の基本単位とした。各パッチの幾何情報、色情報に対してキルヒホッフ行列によるメッシュ周波数解析やベクトル量子化を施すことによりフレーム内圧縮を実現した。さらに、隣接フレーム間でもっとも類似するパッチを探索し、対応パッチからの残渣情報のみを符号化することでフレーム間圧縮を実現した。これにより、フレーム内圧縮で1/8程度、フレーム間圧縮で1/12程度の圧縮率を実現した。
著者
米道 学
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

(目的)千葉県房総半島にはヒメコマツが天然に隔離分布する。この個体群は最終氷期後に局所的に残った遺存分布と考えられ大変貴重であるが、1970年以降マツ材線虫病等で急激に個体数を減少させている。1977年以降の枯死個体からマツノザイセンチュウが確認された。以上からマツ材線虫病が主要因であることが指摘されたため、現存する天然木からクローン増殖等で系統保存を行なっている。今後、保護・回復計画に基づき系統保存個体の自生地への補植の可能性が出てきた。その際には、マツ材線虫病抵抗性個体を植栽することが望ましい。本研究では、両親が明らかな人工交配実生苗や自殖の可能性が高い実生苗について材線虫接種試験により抵抗性の程度を確認し、実生苗における家系と抵抗性との関連性を明らかにする。(方法)。房総丘陵の自生個体は互いに孤立しており、花粉流動が少ないため自殖個体が多いことが報告されている。そこで、接種に用いる個体は人工交配苗(9通りの組み合わせ(自殖が1家系))と天然個体(4家系)・集植所(3家系)からの自然交配個体を用いた。人工交配は雌親を集植所木個体、花粉親を天然個体とした。接種試験は7月に行い、強病原性材線虫(ka-4)を5000頭/本を接種した。比較対照としてアカマツとクロマツの抵抗性苗および未選抜苗についても同様の接種を行い、接種試験の有効性を確認した。(結果と考察)ヒメコマツにおける生存率は人工交配個体50~100%で自殖個体が33%であった。自然交配個体では、天然個体群0~100%、集植所個体39~100%であった。人工交配個体のバラツキが少なく抵抗性が安定していた。アカマツ、クロマツにおける生存率は抵抗性個体群85~100%、未選抜個体群が19~40%でありヒメコマツ個体群の材線虫抵抗性は抵抗性個体群より弱く未選抜個体群より強いと示唆された。自殖の生存率は人工交配個体中で最も低く、自殖による抵抗性の低下が疑わられた。さらに天然個体でも生存率0%の個体群もあり花粉流動の悪さからくる自殖の可能性も示唆された。今後、生存個体を抵抗性個体母樹としてヒメコマツによるマツ材線虫選抜育種を検討したい。また、今回の結果からマツ材線虫抵抗性個体の理想的な組合せが示され今後の抵抗性個体創造の参考としたい。
著者
石井 明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1951年のサンフランシスコ平和条約、それに続く日華平和条約の締結は、アメリカの反対のもとでは、日本は中華人民共和国との外交関係を打ち立てることは不可能であることを明らかにしていた。それから20年たち、アメリカと中華人民共和国との和解が進むなかで、日本は中華人民共和国との外交関係を樹立した。同時に、中華民国政府は日本との断交を決めた。しかし、中華民国政府は日本との間で、経済関係、人的交流などを含むインフォーマルな関係は維持することを選択した。意外なことに、日台関係はその後、外交関係の断絶にもかかわらず発展をとげた。これまでのところ、断交の政治過程についてはかなり研究の蓄積がある。しかし、その後の日台関係については十分な研究がなされているとは言いがたい状況にある。そこで、私は2度、台北を訪れ、1970年代の日台関係に関する文献を収集した。特に党史館(中国国民党の文書館)への訪問は私の研究にとって非常に有益であった。また、台北では、陳鵬仁教授(中国文化大学日本文化研究所所長)を含む何人かの日台関係の専門家に会った。陳鵬仁教授は中国国民党の党史委員会の前主任を勤めた方である。中国国民党の元秘書長、馬樹礼氏にも面会した。馬樹礼氏は、1972年の断交以後、日台関係を処理していたキー・パーソンの一人である。台北でのこれらの調査を通じて、私は、断交以後も日台関係が発展を続けたのは、密接なネットワーク-政治の分野に限らず、経済分野、それに文化の分野を含めた-の存在によるところが大きいことを改めて認識した。
著者
高山 博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ローマ帝国がガリアを支配していた時代からドイツの領邦が強化される中世後期の時代まで、ドイツの王権と諸侯との関係がどのように変化し、王や諸侯の統治システムがどのように変化していったかを検討した。次の7つの時期、すなわち、(1)フランク支配以前(古ゲルマン時代)、(2)フランク時代、(3)東フランク王国と領邦の時代、(4)ザクセン朝の時代、(5)叙任権闘争の時代、(6)シュタウフェン朝の時代、(7)中世後期、に分けて作業を進めた。
著者
橘 省吾
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

金星環境を地球と対比しながら理解することは比較惑星学上の重要なテーマである.しかし,金星研究は鉱物学・岩石学・地球化学的探査の困難さもあって,これまでは限られた探査データに基づいた理論的研究が先行し,金星環境の安定性や表層物質循環を論じるための重要な化学反応であるパイライトの分解速度データとして,10年以上前に金星環境とはかけ離れた条件下で求められた実験データ(Fegley et al., 1995)がほぼ無批判に使用されてきた.本研究では,高温超臨界二酸化炭素中で金星表層を再現したパイライト分解実験をおこない,高温超臨界二酸化炭素によるパイライトの分解速度,分解メカニズムを求めることを目的とする.また,結果に基づき,金星表層環境でのパイライトの安定性を明らかにし,金星気候モデルに応用することをめざす.研究期間を通じて,パイライト分解に関する1気圧での予備実験を系統的におこなった。結果,金星表層で予想されるよりも酸化的な環境においては,酸素によるパイライトの分解反応が反応速度を支配することがわかったが,金星表層で推定される酸化還元条件では,反応に対する酸素の影響は大きくないことが明らかとなった.これらの予備実験の結果を踏まえ,高温超臨界環境での実験系の立ち上げた.しかし,金星表層の極低酸素分圧を実験系でどのように作成し,制御するかという問題が大きいことがわかり,その解決を試みた.結果として,実験系に酸素ゲッター(グラファイト,チタン)を設置し,酸素分圧は遷移金属酸化物(V2O5, V2O4, MoO3,Fe2O3,Fe3)4, Na4V2O7)の酸化還元を調べることで測定可能であることがわかった.
著者
渡邉 秀美代 斎藤 琢 池田 敏之 小笠原 徹 内田 俊也 池田 敏之 小笠原 徹 内田 俊也 鈴木 信周 本田 善一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

腎臓の近位尿細管、ヘンレ上行脚、遠位尿細管に組織特異的に目的遺伝子を発現する方法と、発現させるためのコンストラクトを開発した。まずGFPを組織特異的に発現させてその発現特異性を確認したが、次にカルシウム感知受容体の活性型変異をもつコンストラクトを作成し、この表現型をみることで腎臓におけるカルシウム感知受容体の各部位における機能を比較検討する(この課程は現在途上である)。