- 著者
-
橘 省吾
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 挑戦的萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2009
金星環境を地球と対比しながら理解することは比較惑星学上の重要なテーマである.しかし,金星研究は鉱物学・岩石学・地球化学的探査の困難さもあって,これまでは限られた探査データに基づいた理論的研究が先行し,金星環境の安定性や表層物質循環を論じるための重要な化学反応であるパイライトの分解速度データとして,10年以上前に金星環境とはかけ離れた条件下で求められた実験データ(Fegley et al., 1995)がほぼ無批判に使用されてきた.本研究では,高温超臨界二酸化炭素中で金星表層を再現したパイライト分解実験をおこない,高温超臨界二酸化炭素によるパイライトの分解速度,分解メカニズムを求めることを目的とする.また,結果に基づき,金星表層環境でのパイライトの安定性を明らかにし,金星気候モデルに応用することをめざす.研究期間を通じて,パイライト分解に関する1気圧での予備実験を系統的におこなった。結果,金星表層で予想されるよりも酸化的な環境においては,酸素によるパイライトの分解反応が反応速度を支配することがわかったが,金星表層で推定される酸化還元条件では,反応に対する酸素の影響は大きくないことが明らかとなった.これらの予備実験の結果を踏まえ,高温超臨界環境での実験系の立ち上げた.しかし,金星表層の極低酸素分圧を実験系でどのように作成し,制御するかという問題が大きいことがわかり,その解決を試みた.結果として,実験系に酸素ゲッター(グラファイト,チタン)を設置し,酸素分圧は遷移金属酸化物(V2O5, V2O4, MoO3,Fe2O3,Fe3)4, Na4V2O7)の酸化還元を調べることで測定可能であることがわかった.