著者
安原 洋 小見山 高士 新本 春夫 布川 雅雄 重松 宏 久保 淑幸 畠山 卓弥 大城 秀巳
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

再潅流障害における微小血管透過性の亢進と浮腫発生は局所の障害程度を推定するうえで重要なパラメータのひとつとなる.一方,四肢や腸などの重症虚血障害成立には微小循環下での組織の全血流量よりも血流の組織内分布がより大きな役割を演じていることが知られている.今回,われわれは再潅流障害の重症度を推定するパラメータとして,微小循環における浮腫発生部位の血流分布測定の有用性を実験的に検討した.微小循環モデルとしてはhamster cheek pouchを用い,生体顕微鏡下でpostcapillary venulesのアルブミン透過性を観察した.血管透過性は血管周囲に漏出した標識アルブミンの発する蛍光輝度で測定した.再潅流障害の発生はpostcapillary venules内腔における内皮細胞への好中球の付着をもって確認した.再潅流障害の発生が確認されたぶいでは透過性亢進血管が有意に不均一な分布をすることが観察され,生体顕微鏡を用いた微小循環の浮腫分布パターン解析が組織障害推定の有用なパラメータとなりうることが示唆された.
著者
松本 文夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

小型・分散・連携型の空間群からなる「領域型ミュージアム」のシステムデザインについて、建築・都市・情報の3つの視点から研究を行った。建築系研究では空間の小型化の手法を検討し、各種の展示空間ユニットの企画開発を行った。都市系研究では施設の分散配置のあり方を検討し、東京丸の内や札幌の領域型ミュージアムの配置案を検討した。情報系研究では空間の相互連携の手法を検討し、i-Compass(自分専用のコンパス)というiPhoneアプリケーションの試作開発を行った。
著者
西田 究
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

USArray,F-net,IRIS,ORFEUSの広帯域地震計データの大量のデータを用いることにより、グローバルに伝播する実体波の抽出に成功した。今後速度構造の時間変化を研究する上でも重要な知見である。海底地震計の自己相関により、東北地方太平洋沖地震に伴うS波速度の低下およびその後の回復、また異方性の時間変化を検出した。浅部の堆積層内が地震時に強く揺すられた事により、これらの現象を説明することが出来る。防災科学研究所のV-net観測点(岩手山)の上下アレーデータを用いて相互相関解析をしたところ、地震にともなう速度の低下と、それに続く地震波速度の回復を検出した。
著者
五野井 郁夫
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、国際社会での規範形成においてグローバルに連携した人々やNGO、すなわちトランスナショナルな市民社会(以下TCSと略す)が果たしている役割について、(1)国際政治理論と(2)TCSのキャンペーンにかんするフィールドワークを通じた事例研究の架橋から明らかにすることである。本年度もMake Poverty Historyキャンペーンの政治過程を把握すべく英仏各国の研究機関・NGOに調査をすることでTCSによるメディアを駆使したアドボカシーの手法を学び、一部を研究成果として発表した。海外査読誌発表では、第二次大戦後の国際経済体制の制度構想と実務家の実践において周縁化されていた地域の存在、途上国債務発生メカニズムの関連性を"Conceptual Relevance of "Embedded Liberalism" and its Critical Social Consequences", PAIS, Graduate Working Papers Number 03/06で明らかにした。海外学会では、米国ISA研究大会の査読を通過した報告要旨において、戦後日本の社会運動と現在のグローバル公共圏へのリンクについて論じた。国内実績では、現在日本の若い世代で旧来とは異なる市民意識が醸成されつつあり、それらを基底としたポスト新しい社会運動的方向への移行を「ホワイトバンドの国際政治学-トランスナショナルな市民社会による国際規範形成と途上国重債務救済をめぐって-」『創文』491号でひろく江湖に問うた。また、日本国際政治学会と日本社会思想史学会で報告を2本行った。これら研究調査から得られたTCSによる規範形成の理論と実践にかんする知見の一部を、査読誌『相関社会科学』に「世界秩序構想としてのコスモポリタン・デモクラシー」として発表した。さらに国際政治学会院生研究会を組織するとともに、TCSの可能性とグローバル規範の動態についても、青山学院大学と筑波大学のシンポジウム等で報告と討論を行い、国際関係論と政治思想史の欧米を代表する政治哲学者と国際関係論研究者の翻訳をし、うち一冊が出版された。
著者
酒井 寿郎 川村 猛
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

エピゲノム修飾酵素であるJMJD1A、SETDB1、および活性未同定のSET蛋白の抗原となるタンパクを昆虫細胞Sf9および大腸菌から精製し、免疫を開始した。また全長のタンパクを精製し、in vitroにおけるアッセイを開始した。活性未同定のSET蛋白はmesenchymal stem cellで発現させFLAGタグで免疫沈降を行い、これをヒストンメチル化アッセイに供し、活性を新規に同定することができたため、どのヒストンテールにメチル化を入れるか、質量分析器で解析することとした。さらに、このSET蛋白の発現量が骨分化に関与するという知見を得て、トランスクリプトームを細かい時間分解能で解析することとした。本研究は現在、基盤S (課題番号22229009) にて継続進行中である。
著者
狩野 方伸 崎村 建司 少作 隆子 岸本 泰司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

これまでの研究を継続・発展させ、平成25年度に以下の研究を行った。脳スライス及びin vivoの個体脳の解析は狩野が、培養海馬ニューロンの解析は少作が、行動学的解析は岸本と狩野が担当した。また、遺伝子改変マウスの維持は崎村が担当した。1. 内因性カンナビノイド(eCB)系によるNMDA受容体機能調節のメカニズム: 逆行性シナプス伝達を担うeCBである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)の合成酵素DGLαの欠損マウスと、2-AGの受容体であるCB1の欠損マウスの側坐核中型有棘ニューロンの興奮性シナプスにおいて、NMDA受容体機能の低下が認められた。その原因として、NR2Bサブユニットを含むNMDA受容体の寄与が低下していることを示す電気生理学的所見を得た。2.大脳基底核の運動学習におけるeCB系の役割: 3レバーオペラント課題のマウスへの適用について、平成24年度に引き続き検討した。3.分界条床核の抑制性シナプス伝達の2-AGによる逆行性伝達抑圧のメカニズム:分界条床核の抑制性シナプスの逆行性伝達抑圧が、eCB系遺伝子改変マウスにおいてどのように変化しているかについて、継続して電気生理学的解析を行った。4.eCB系の海馬機能における役割: eCB系遺伝子改変マウスにおいて、瞬目反射条件付けのLI (latent inhibition)課題に関する解析を継続した。5.eCB系の抗炎症作用:U87-MGヒト悪性グリオーマ細胞における、NF-kBシグナルを介する炎症作用に注目し、グリアのeCB系による抗炎症作用のメカニズムを調べるための条件検討を行った。
著者
小池 和彦 森屋 恭爾 新谷 良澄
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

C型慢性肝炎患者においては、いくつかの肝細胞内機能異常が見出さている。核を介した遺伝情報システム異常、小胞体や核における蛋白合成・輸送・分解の異常、そしてミトコンドリアにおけるエネルギー代謝の異常である。私たちはこれまで、主にC型肝炎ウイルス(HCV)コア遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを用いて、HCVの肝発癌への直接的な作用を明らかにしてきた。発癌前の肝ではMAPKシグナル伝達経路が活性化され、HCVは細胞内の遺伝情報システムの異常をもたらすことが明らかとなった。一方、コア蛋白は肝において炎症不在下に酸化ストレス(ROS)発生を亢進させている。コア蛋白を発現している肝細胞ではミトコンドリア機能の異常が存在し、それが酸化ストレス産生に関与していることが明らかにされた。これまでのデータでは、ミトコンドリアのコンプレックス1が主な障害箇所であったが、今回、ミトコンドリア・シャペロンであるプロヒビチンを介してコンプレックス4の機能障害も引き起こし、酸化ストレスの増加へ繋がることも明らかとなった。今回、免疫抑制剤であるタクロリムスがコア蛋白によって引き起こされている肝細胞ミトコンドリア電子伝達系機能障害の改善を介して、脂肪酸増加→PPARα活性化→酸化ストレス増加→ミトコンドリア機能障害→脂肪酸増加という負のスパイラルを改善することが明らかになった。HCVを排除できないC型慢性肝炎患者における肝疾患進行抑制へ向けて重要な意義をもつと考えられる。
著者
藤原 慎一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

昨年、現生四足歩行動物において以下の2つの関係を明らかにした.1)胸郭の中で鉛直方向の圧縮力に対して相対的に高い強度を持つ肋骨の位置と肩帯の位置とは対応する(投稿準備中).2)歩行中ないし走行中に前肢で体重支持を行なっている時の肘関節角度は、肘頭突起のオリエンテーションと対応する(2007年ICVMにて口頭発表:投稿・審査中).また、3)現生ワニ類の肘関節の硬骨の縁辺部に発達する軟骨の立体構造の記載を行なった.これらの立体構造は関節の可動範囲に大きく影響するが、これまで記載されてきた硬骨の立体構造だけからでは認識できなかった.本調査ではワニ類の肘関節の可動性が軟骨構造によって制限されていることを確認した.また、現生ワニ類は哺乳類とは異なり、肘頭突起のテコを有効利用しない立ち姿勢を保っていることが分かった(日本古生物学会にて発表予定:投稿準備中).以上の1〜3の結果を踏まえて絶滅陸生動物の姿勢復元を行なうことにより、より信頼性のおける前肢姿勢の復元を行なうことができるようになった.その結果、一部の絶滅動物の近縁な種間においても前肢姿勢や姿勢維持の仕組みに大きな違いが見られることが初めて示唆された.以下にその例を示す.4)束柱目哺乳類のデスモスチルスとパレオパラドキシアの肘関節では、それぞれ大きな角度と小さな角度で姿勢保持を行なっていたことが示唆され、両種の姿勢の違いが初めて示された(2008年6月に発表予定).5)また、角竜類恐竜の中では、肘頭突起を発達させないプシッタコサウルスとプロトケラトプスの肘は現生ワニ類と同様に肘頭突起のテコを利用しない姿勢保持を行なっていたのに対し、肘頭突起の発達したレプトケラトプスやケラトプス科の仲間は現生哺乳類のように肘頭突起のテコを有効に利用した姿勢保持を行っていたと強く示唆された(Ceratopsian Symposiumにて口頭発表).
著者
伊福部 達 中邑 賢龍 福島 智 田中 敏明 畑一 一貴
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本課題の目的は、筋・神経系障害(筋萎縮や失語症・発話失行)により発話が困難になった障害者のために、テキスト情報に加えて、リズム、抑揚、笑い、怒りなどのノンバーバル情報を表出できるような実用的な発話支援機器を開発するところにある。平成22年度は、21年度に提案した実施項目に従って遂行し、以下のような成果が得られた。実施項目:昨年度はウェアラブルPCとポインティング・デバイス(P.D)を用いて、音声を生成するパラメータを直接的に指やペンの動きで制御できる「構音障害者の音声生成器」を試作した。本年度は、これを利用して家庭内やリハビリ現場を想定し、生成された連続音声や感情音がどこまで正確に認識され得るのかを評価し、誰もが利用できるようにios上でプログラムをダウンロードできるようにした。評価結果:(a)昨年度の評価結果から、摩擦音(サ行)が出だしにあるような連続音声の認識率が低かったことから、P.D上に摩擦音を出せる領域を設け、音声の認識率と操作性の複雑さの観点からその有用性を評価した。その結果、操作性はそれほど負担にならないこと、全ての連続音声を認識させえることなどを確認した。(b)イントネーションやアクセントも付加できるように、表面圧センサの付いたRDを用いて、筆圧や指の押圧により非言語音を生成できるようにした。その評価から、「急ぎ」、「笑い」、「怒り」などを表わす抑揚を30分程度の訓練で単語に付加できるようになった。以上から、使用頻度の高い音声ほど何かを緊急にリアルタイムで伝えたいときに有用であることを確認した。(c)本インタフェースを同時に、多くのユーザに利用してもらうために、歌を生成できるような「音声楽器」へ拡張するとともに、本プログラムをウェブ上でダウンロードすることによって、スマートフォンにより誰もが利用できるようにできるようにした。
著者
鎌倉 哲史
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の当初の目的はオンラインゲームを用いた小学校における効果的な情報モラル教育を実践することであった。しかし昨年度までの取り組みの中で、「子ども達はネット上の追跡可能性を知らないためにネットいじめ等の問題を起こす」という研究の前提に大きな見落としがあることが判明した。具体的には、小学生の子ども達は確かに「技術的には」追跡可能性を把握していないことが多いが、ネット上でプロフィールを紹介している人が多いことを根拠として「実際上は」追跡可能であると考えている可能性が明らかとなった。そこで平成24年度は、こうした「プロフィール主義」と呼ぶべき考えがどの年齢層にどの程度広がっているのか、小・中・高・大学生各200名程度の計787名を対象とした中規模質問紙調査によって検討しだ。その結果、プロフィール主義が各学校段階において10%前後存在すること,小学生では教育的言説の伝聞が,中・高校生ではネット利用頻度が,大学生では追跡関連知識がプロフィール主義の最大の規定要因であることが示された。また、本研究で得られたプロフィールの公開率やプロフィール公開の場、プロフィールに基づく追跡可能性の推定値の平均値と分散といった単純集計データは、これまで実証的に検討されてこなかったものが多く含まれる。その点でも、単にこれまでの仮説がデータで裏付けられたという以上に、本研究領域における初めての実態調査としての資料的価値が認められると考えられる。
著者
水田 岳志
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、2006年の日本経済を対象として、全貿易財産業を対象とした貿易障壁の発生要因を明らかにするため、Protection for Sale(以下、PFS)モデルの検証を行った。PFSモデルとは全産業において発生している貿易障壁を産業ごとの利益団体による政府への政治献金行動によって説明する枠組みである。このモデルの推定及び検証作業には産業別政治献金データ、産業別貿易障壁指標及び産業別輸入価格弾力性の情報が必須である。本稿は第44回衆議院議員総選挙の翌年を分析期間とし、2005年度及び2006年度政治資金収支報告書を収集、各政党・資金団体および政治団体への企業献金・団体献金を整理した。その献金名簿から、「TSR企業情報ファイル」を用いて企業名を業種コード(JSIC.Rev.11.4桁分類)へ分類作業を行った。さらに、総務省政策統括官部局」のご厚意により。国際比較が可能な産業別データ系列も作成した。産業別貿易障壁指標に関しては、非関税障壁の度合いを反映し、かつ、経済理論的な基礎を持つ「産業別TRI」を定義し、Kee,et.al(2009)の推定結果を用い、産業別TRIを推定した。産業別輸入価格弾力性はKee,et.al(2008)が推定した貿易品目(HS88の6桁分類)ごとの輸入価格弾力性を産業レベルに集計した。全貿易産業(JIP産業分類)を対象にPFSモデルの検証を行った結果、PFSモデルが要求する符号条件を確認した。また、貿易障壁を発生させる政治構造パラメータである「政府の経済厚生ウェイト」と「貿易に関わる利益団体組織率」を計算した結果、米国等を対象とした既存研究と比較し、経済厚生ウェイトが大きく、利益団体組織率が小さいという結果を得た。以上のことから、2006年の日本政府の貿易政策決定において利益団体の与えた影響は国際比較という観点から比較的小さいと言える。
著者
石原 孟 山口 敦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、まず鉄道沿線の建物と植物の影響を予測できる一般化キャノピーモデルを開発すると共に、風洞実験と現地観測により、その精度を明らかにした。次に、数値竜巻発生装置を開発し、竜巻に伴う強風特性を明らかにすると共に、竜巻の中心付近に瞬間風速が大きくなっていることを明らかにした。最後に、数値流体解析および現地観測データを利用した鉄道沿線における強風予測手法を提案し、複数地点における最大風速の記録と比較することにより、予測手法の精度を検証すると共に、徐行運転と防風フェンス等の横風対策の効果を定量的に評価した。
著者
高森 昭光
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、地球上で用いる地震計や傾斜計、地球観測用人工衛星で用いる加速度計(重力計)などの観測機器で必要とされるフィードバックのために光の輻射圧を利用する「光アクチュエータ」についての研究開発を行った。具体的には、数ワット程度のレーザー光源を用いることによって磁気浮上支持した小型回転体の姿勢制御が可能であることを示し、光アクチュエータが地球観測装置の参照マス制御手段として有効であることを明らかにした。
著者
岸 保行
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

台湾・香港・中国に進出した日系企業で働く現地人マネジャーたちは、日系ものづくり企業での長期の勤続を経て自らの地位を高めていた。多くの日本人スタッフとの協働体験や思い出を共有することで、日本人スタッフや日本の本社との信頼関係を構築させ、お互いの理解を増幅させていた。このような過程は、まさに日系企業内部における「第二次社会化(secondary socialization) (Berger & Luckmann 1966=1977)」の過程であり、Weick(1995=1999)のいう「センス・メーキング(sensemaking)」の過程そのものであった。
著者
森沢 正昭 大竹 英樹 稲葉 一男 雨宮 昭南
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1991

◇精子運動能獲得機構に関しては、HCO_3^-,cAMP,pHは鞭毛運動装置に作用することが明らかにされた。また、太平洋を回遊中にシロサケの回遊過程における精子の成熟度、運動能獲得度の変化についての研究調査が行われた。◇精子運動開始についてはサケ科魚類精子運動開始タンパク質(MIPP)を見い出し、その抗血清およびモノクロナール抗体を作成し抗体が鞭毛運動装置の運動を阻害し、また、蛍光抗体法を用いてMIPPが鞭毛基部で存在することを明らにした。即ち、精子鞭毛運動調節部位が鞭毛全体でなく特定の部位にあることを初めて明らかにした。◇海産魚および淡水魚では、外部浸透圧増減の繰り返しが精子鞭毛運動の開始・停止の繰り返しを引き起こすという貴重な発見がなされた。また、浸透圧の増減は精子内のK^+濃度及びpHの増減を引き起こし、この細胞内変化が鞭毛運動装置に直接作用し精子運動を調節していることが示唆された。更に、多機能型プロテアーゼ(プロテアソーム)が精子運動性を調節していることを初めて示すことが出来、その作用機序および鞭毛における分布について蛍光抗体法,生理生化学的手法を用いて明らかにした。◇精子活性化機構については、ニシン卵由来のニシン精子活性化物質(HSAPs)の完全精製に成功し、cDNAクローニングをほぼ完了した。現在HSAPsの受容体および細胞情報伝達機構についての解明を始めている。◇精子走化性に関しては、ユウレイボヤで卵より精子活性化及び誘引能を持つ精子活性化走化性物質(SAAP)を見い出し、その精製をほぼ完了した。精製物質は常に精子活性化能と走化性能を持つことが、また、精子活性化にはCa^<2+>とcAMPが、精子走化性にはCa^<2+>のみが必要であることが明らかとなった。即ち、1つの分子が両方の作用を兼ね備えているが、2つの機能は全く異なった機構のもとに制御されているという初めての証拠が得られたことになる。
著者
古米 弘明 片山 浩之 栗栖 太 春日 郁朗 鯉渕 幸生 高田 秀重 二瓶 泰雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

合流式下水道雨天時越流水(CSO)由来の汚濁負荷が、都市沿岸域における雨天後の水質に及ぼす影響を定量評価し、お台場のような親水空間における健康リスク因子の動態評価手法の開発を試みた。多数の分布型雨水流出解析結果に基づき、降雨パターンの類型化によってCSO発生を大まかに特徴づけることができた。また、ポンプ場や下水処理場からの汚濁負荷を降雨パターンごとに表現できるモデルを構築し、干満の影響を考慮した3次元流動・水質モデルによる大腸菌の挙動予測が可能となった。
著者
鄭 佳月
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究では、多民族化する社会における世論の代表と世論の多元性との接点を探るべく、世論の代表形態の変遷について歴史的考察を行った。本年度は、昨年度に引き続き3つの軸に分けて研究を遂行した。第1の軸は、戦後日本における世論の代表形態の変遷を歴史的に分析するものである。特に、世論を調査する側の論理を明らかにするため世論調査に焦点を当て、政府・新聞社・民間機関等の各取り組みを実証的に明らかにするとともに、民主主義と世論調査の関係を再考した。成果は、「世論調査の効用と調査主体の視点に関する一考察」として、日本社会学会年次大会で報告された。第2の軸は、世論の多元性をめぐる市民の側の試みを考察するものである。近年の住民投票やDeliberative Pollingといった市民の実践を歴史的に捉えるため、1950~60年代の日本社会に遡り、世論の代表をめぐる議論を整理することで、世論の代表形態と市民の関係を検討した。第3の軸は、世論の代表と市民概念についての理論的考察である。研究全体を枠づける理論構築に取り組みつつ、世論の代表をめぐる日本社会の認識を、国際的動向の中に位置づけ検討するために海外の文献資料を収集し分析した。その成果の一部は、The Association for Asian Studies Conference 2011において"Social Research as a 'Technology of Governance' in Asian Networks from the 1910's to the 1920's"という題目のもと報告されることが決定している。一連の作業から、本研究では、世論の代表をめぐる日本社会独自の文脈を浮かび上がらせ、今日に通じる問題として、世論の代表形態と世論の多元性の可能性と限界を明確にした。
著者
徳永 朋祥 片山 浩之 知花 武佳 福士 謙介 多部田 茂 原口 強 浅井 和見 松岡 達郎 井上 誠 秋山 知宏 茂木 勝郎 端 昭彦 甲斐荘 秀生 LUN SAMBO 後藤 宏樹 本宮 佑規
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

カンボジア王国のシエムリアップ市、バッタンバン市周辺を対象とし、地下水環境並びに地表水環境、地表水と地下水の関連について検討を行った。シエムリアップ市では、地下水と表流水との交流が比較的活発であり、また、地下水の利用も相対的に容易である一方、バッタンバン市周辺においては、表流水と地下水との交流は活発ではなく、地下水利用も一部の地域を除いてそれほど容易でない状況が見られた。このような違いは、両都市の地質学・地理学的位置づけに依存していることが考えられた。また、トンレサップ湖の堆積物を用いた古環境解析や水中に存在するウイルスの定量化に関する検討も実施し、成果を得た。
著者
西 遼佑
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

織込部におけるファスナー合流のシミュレーション開発を進展する上で、ファスナー合流のロバスト性についての研究は大変重要である。これまでは、車線間相互作用の異方性(局所的な車線間相互作用を拒否する粒子が存在する状況)の影響について主に検証を進めてきた。他の異方性(車のサイズ、最高速度、車線変更ルール、見通しなど)についての検証も当然ながら重要であるが、私は、ファスナー合流のロバスト性において他の重要事項が存在するかどうかについて、突き詰めて研究した。その結果、重要な検証事項として、ファスナー合流のロバスト性を向上する可能性についての検証を認識するに至った。この検証は、合流効率を改善する基礎研究として大きな価値があると考えられる。そして、その向上の手段としては、数理モデルにフィードバックを導入することが有力であると考えている。また、フィードバックの具体的な形式や、フィードバックと車線間相互作用の連動性の有無などが、現象に大きく影響すると予想している。このように、ファスナー合流のロバスト性の向上についての研究の土台作りが大いに進展した。また、これまでは数理モデルとして離散モデルを主に用いてきたが、扱う数理モデルの形式(離散モデルか連続モデルか)でファスナー合流に関連する現象に本質的な相違点が生ずるかどうかについても、詳細に検証する必要があると結論するに至った。さらに、上記のロバスト性だけでなく、車線間相互作用ルールの精密化についても、今後にわたって理論と実験の両面からの詳細な検討が必要であると結論するに至った。
著者
馬場 章 吉見 俊哉 佐藤 健二 五百籏頭 薫 添野 勉 研谷 紀夫 木下 直之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

国内外の名刺判写真の悉皆的な所蔵調査を行ってデジタルデータ化し、デジタルデータを活用した調査研究結果を通じた名刺判写真の生産・流通・消費・保存プロセスの分析と印刷媒体への接続、それによるパブリックな視覚的イメージの生産に注目し、それらが指し示す明治期の社会的高位に属する人々のコミュニケーションモデル、社会モデルの再構築を試みた。これらを通じ、写真資料という、従来歴史資料としての活用が不十分であった資料から読み解くことのできる「歴史情報」とそれに基づいた新たな歴史像、社会像を構築するための基礎を築いた。