著者
高橋 陽子 玄田 有史
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.29-49, 2004-01-31

20万人に達する高校中退者および中学卒非進学者の労働市場には,高校卒以上に就業環境の悪化が予想されるものの,その実像は明らかでない.本稿では35歳以下の無業者に関する調査を用いて実証分析し,高校中退者は卒業者に比べて,明らかに学校をやめた直後に正社員となる確率が低いことを確認した.ただしそれと同時に,中退だから正社員になりにくいという傾向は,年齢を経るに従って解消されていくこともわかった.さらに中退者は学校をやめた直後に正社員となりにくいが,正社員となった後の就業継続でみれば,高校や中学の卒業者との違いは存在しないことも発見された.中退者が正社員としての就業が困難なのも,継続志向の弱さや認知能力といった資質のせいではなく,高卒以上に本人能力や志向に適った就業機会に出会いにくいことの結果である.
著者
秋山 英文
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

高い精度で生物化学溶液発光の絶対定量分光計測を行うための技術装置開発を進め、量子収率の評価や、種の異なる生物など様々な発光酵素にまたがった発光スペクトルの直接比較を行えるようにし、古くから関心の的でありながら未だ理解されていない、ホタル生物発光の発光色決定機構の解明に迫ることが本研究の目的である。産業技術総合研究所・光放射標準グループによって国家標準トレーサブル校正が行われたフォトダイオードと、併せてダングステンランプおよび干渉フィルターを用いた光源を用いて校正を行い、0.29%の集光効率と約5.7%の分光器透過率を経てCCD検出器で19フォトン/カウントの絶対感度で生物発光絶対量分光計が行えるようになった。天然北米産ホタルの精製ルシフェラーゼを用いて、ホタル生物発光の量子収率計測のpH依存性と温度依存性の実験を行い、我々自身による過去の測定値41.0±7.4%に近い、47.1±6.5%という値を得た。天然北米産ホタルの精製ルシフェラーゼを用いて、通常のMgの代わりに、Zn、Cd、Ni、Co、Ca、Mnなどの金属イオンを付加したことによるスペクトル変化の定量計測を行った。Ca、Mnでは、Mgの場合と同様に色変化は起きなかったが、Zn、Cd、Ni、Coを添加した場合には、pH依存性の結果と同様に、緑側の発光成分の量のみが金属イオン量に応じて変化し、赤側の発光成分は変化しないという兆候が見られた。また、発光スペクトルが、1.85eV、2.0eV、2.2eVにピークをもつ3つのガウス型ピークに分解する解析が可能であることもわかっているので、発光スペクトルをピーク強度、位置、幅の3つのパラメータとして数値化して整理し、金属イオン依存性を定量的にプロットした。色変化の感度の大小は、Mg、Ca、Mn<Co、Ni<Zn、Cdのような序列に従っていることがはじめて明らかになった。
著者
浦辺 徹郎 沖野 郷子 砂村 倫成 石橋 純一郎 高井 研 鈴木 勝彦
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008-11-13

地下・海底下に存在する大量の水は、流域の岩石との反応により、海洋を含む地球表層環境や生命活動に大きな影響を与えると考えられてきた。本研究では、海底下の水の流れを地質学的背景から4種類に分類し(4つの大河仮説)、鉱床形成を含めた物質循環システムと微生物生態系システムが4つの大河に対応して制御されていることを、期間中に実施した33の研究航海と物理・化学・生物・地質の分野横断的手法を通じて明らかにした。
著者
深澤 克己 櫻井 万里子 河原 温 北村 暁夫 西川 杉子 篠原 琢 千葉 敏之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、ヨーロッパ史上に出現した諸団体の多くに通底してみられる宗教的・密儀的な性格の比較分析をとおして、長期的時間の視野のもとに、古代から現代にいたる団体・結社の組織原理および思想潮流の展開過程と系譜関係を解明することを目的として組織された。18世紀に急発展をとげるフリーメイソン団を比較分析の十字路としつつ、古代ギリシア、中世ドイツ・ネーデルラント、近世フランス・イギリス、近代チェコ・アイルランド、現代イタリア史の専門家を結集し、合計6回の研究会を組織して、研究報告と討論を積みかさねた。本研究の独自性は、まず第一に、従来の歴史研究では各々の団体の性格に応じて、宗教史・経済史・政治史などの分野で別個に研究したのに対して、機能を異にする諸団体間の連関・重複・継承関係を重視したこと、第二に、伝統的歴史学の重視する団体の制度的・機能的側面よりも、団体内部の友愛・連帯を支える儀礼的・象徴的側面を強調したこと、第三に、これらの儀礼や象徴に素材を与えた密儀・秘教思想を、従来のように哲学的・思想史的観点のみならず、歴史的・社会的視点からも研究しようとしたことにある。もちろん研究成果には対象により粗密の差があり、全体の整合的連関にも課題を残しており、すべての問題に解答できたわけではないが、今回の成果をもとにさらに共同研究を深めれば、ヨーロッパ文明の根底にある非合理的・神秘的世界観、およびその容器となった兄弟団・友愛結社の役割の解明をつうじて、現代世界の批判的理解と実践的な未来構想の一助となる歴史理解を構築することができると信じている。
著者
市野川 容孝 金 會恩 KIM Hoi-Eun
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

2009年11月末に来日以来、金氏は、日本帝国にとって最も重要な(他者)であった朝鮮人を、植民時時代の人類学者たちがどのように位置づけたかに関する研究に力を注ぎ、その研究成果を精力的に発表してきました。金氏がドイツの歴史研究者たちと企画した討論「Asia,Germany,and Transnational Turn」は、イギリスの重要な学術誌であるGerman Historyの2010年12月号に記載されました。この論文で金氏は、ドイツ史を世界史的な視点から再評価する必要性を力説しつつ、中国にのみ関心を集中されている最近のドイツ人研究者たちが、19世紀末のドイツ-アジア関係で最も重要な位置を占めていた「ドイツ-日本」間の複雑な多面的な交流を見落としていると指摘しました。また、金氏は、さらに二つの学術論文を仕上げ、国内外の学会で発表しました。金氏が昨年10月にサンフランシスコで開催されたドイツの学会にて発表した論文「Measuring Asianncss : Erwin Baelz's Anthropological Expeditions in Fin-de-Siecle Korea」は、日本の近代医学の父といわれるE・ベルツが1899年、1902年、1903年の3回にわたっておこなった朝鮮人種研究に関する、初の本格的な学術研究です。この論文では金氏は、アジアの諸人種間の階層とその相互関連性を強調したベルツの人種研究が、その後の人種に関する言説に非常に大きな影響を与えたことを実証しています。この論文は加筆修正の上、2011年に出版予定のM.Richl&V.Fuechtner eds.German-Asian Cultural Studiesの1章として刊行される予定です(その他の研究発表については、下記「11.研究発表」を参照のこと)。
著者
齋藤 慈子 中村 克樹
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、家族で群を形成し、母親だけでなく、父親、兄姉個体も子育てに参加する、小型霊長類のコモンマーモセットを対象に、子の新奇な餌に対する反応が、家族内の個体の存在によりどのように影響を受けるか、内分泌学的側面も同時に調べようと試みた。行動実験から、両親、特に母親は子の新奇餌への接近と摂食を促していることが示唆された。また、オキシトシという神経伝達物質を、マーモセットの尿から測定する方法を確立した。今後この方法を用いて、子が新奇餌に接する場面における家族の影響を、尿中オキシトシンの側面からも検討したい。
著者
鈴木 和夫 奈良 一秀 山田 利博 宝月 岱造 坂上 大翼 松下 範久
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

マツ材線虫病の病徴発現原因物質と宿主細胞との相互関係を明らかにする目的で、材線虫-宿主細胞間で引き起こされる反応について調べた結果、以下の諸点が明らかにされた。(1)感受性の異なる針葉樹5樹種を用いて、宿主の病徴進展とキャビテーション発生との関連についてみると、マツ材線虫病感受性が高い樹種ほど病徴進展にともなって、表面張力が大きく低下することが明らかにされた。このことは、表面張力に関与する物質が病徴進展と密接な関係にあることを示唆している。(2)感染後に産生される異常代謝産物の樹体に及ぼす影響についてみると、材線虫感染によって表面活性物質および蓚酸が産生され、これらの物質によってキャビネテーションの発生が促進されるものと考えられた。(3)表面張力の低下に関与する物質として蓚酸およびエタノール投与では、顕著な影響が認められずエスレル投与によって表面張力は低下した。このことから、病徴進展とエチレン生成が密生な関係にあることが示唆された。(4)キャビテーションの発生は、70%の壁孔閉塞が木部含水率の著しい低下を引き起こすことから、このことが樹体内のランナウェイエンボリズムの発生と密接な関係にあるものと考えられた。(5)光合成阻害処理によって、当年生葉の黄化・萎凋が他処理に比べて促進されたことから、光合成阻害による低糖類の減少が材線虫病の病徴進展と密接な関係にあるものと考えられた。以上の結果から、いままでブラックボックスとされてきた病徴発現原因物質と宿主細胞の相互関係が、病徴進展やキャビテーション発生の観点から明らかにされた。
著者
鈴木 誠
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成21年度は平成20年度の検討をさらに推し進めるとともに,時刻同期機構の開発,無線センサノード向けマルチコアCPUの設計,地震モニタリングシステムの開発を行った.1.時刻同期機構の開発これまでの無線センサネットワーク向けの時刻同期機構は,時刻同期誤差の確率的な相関を考慮しておらず,誤差がホップ数に対して指数関数的に増大してしまうという問題があった.本研究では,時刻同期補正手法をFIRフィルタとしてモデル化し,誤差を増幅させる原因を特定し,新たな誤差補正手法を開発することで,ホップ数に対する誤差の増大を線形に抑えることを可能とした.また,誤差分布について検討を行い,ホップ数と時刻同期間隔の情報のみから時刻同期誤差を推定する手法を開発した.2.無線センサノード向けマルチコアCPUの設計現存する無線センサノードは,無線通信,計算処理,サンプリングなど,複数のタスクを1つのCPUで並列実行しており,スケジューリングの不確定性に伴う測定誤差の増大,パケットロスの発生などの問題が生じる.この問題の解決に向けてはマルチコアCPUによってタスクを分散させることが必要となる.本年度はマルチコアCPUの設計において重要となるコア間通信アーキテクチャの初期的設計を行い,無線センサネットワークの実際のアプリケーションにおいてコア間のデータ通信量を評価することで,設計の妥当性を示した.3. 地震モニタリングシステムの開発平成20年度および今年度に開発したネットワーク基盤技術を利用して,地震モニタリングシステムの開発を行った.ルーティングプロトコルなどの実装を行い,秋葉原ダイビルに8台構成で設置し,20個程度の実地震の取得に成功した.
著者
鈴木 郁郎
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

神経回路システムの動作原理の理解を目指して、1神経細胞単位で任意の回路パターンを作り、その活動を評価する構成的アプローチによる研究を行ってきた、今年度は昨年度までに開発した技術に改良を加え以下のことを行った。(1)<光学計測可能な多電極アレイ基板の開発>既存の電極では、電極上の細胞が可視化できないという問題があったため、白金黒付を薄くして光学計測可能な電極基板を作製した。電極インピーダンスは、従来電極より20倍高かったが、細胞と電極のコンタクトを増すことでS/N比が高い活動記録ができることがわかった.(2)<1神経細胞の発火特性の検出>上記電極を使って、電極上に1細胞単独で培養し、長期自発活動計測を行った。活動が記録されたサンプルの多くは、培養2週間前後から自発活動が観察され、培養1カ月以上の問、長期計測することができた。記録された1神経細胞が示す発火パターンの性質は、計測期間中保たれていたことから、1神経細胞は固有の自発発火パターンを持っていることがわかった。(3)<2神経細胞系からの発火特性の検出>電極上に2神経細胞系を構築し、活動特性を調べた。Burstする神経細胞とsingleスパイクで高頻度発火する細胞(GABA neuron)の共培養した系で計測した結果、burst神経細胞の発火によってGABA neuronが誘発応答を受ける様子が観察され、誘発を受けることによって、自発活動リズムが乱され、時間と共に元のリズムに戻って行く現象等(細胞間相互作用)が観察された。これらの結果により、1細胞単位で構成的に回路を構築することによって、細胞数や発火パターンの組み合わせに依存した神経回路システムの挙動を評価してゆくことが可能となった。この系を使って、高頻度刺激を与えたLTP実験や、医療への応用としてアミロイドβ投与による実験を行い、現在解析中である。
著者
土居 伸彰
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

ロシアの映画作家セルゲイ・エイゼンシュテインが1930年代以降に残した芸術理論とアニメーションとの関係を考察するという目的の当研究は、エイゼンシュテイン芸術理論におけるアニメーションの位置づけを明らかにしたう昨年度の研究成果をふまえて、エイゼンシュテイン芸術理論のアニメーションへの適用可能性を考える後半の考察が行われた。中心的な考察の対象となったのは、エイゼンシュテイン理論に影響を受けたと公言する、ロシアのアニメーション作家ユーリー・ノルシュテインである。学会発表「ユーリー・ノルシュテイン『草上の雪』について」は、2008年にロシアにて出版された初の理論的著作『草上の雪』にみられるエイゼンシュテイン理論の影響を明らかにすると同時に、ノルシュテインが自作の中心概念とする「追体験」(スクリーン上の出来事を観客に体験させることで、他者性に対する気付きを与えること)をキーワードとして、アニメーションにおける他者表象の可能性について、著作での記述と実際の作品の分析をふまえて行った。このテーマはさらに学会発表「追体験としてのアニメーション-ユーリー・ノルシテイン『話の話』を中心に」において、ディズニー作品における一体化のモチーフの頻出と他者性の排除と比較されることにより、より考察が深められた。また、エイゼンシュテイン理論のアニメーションへの適用可能性という観点から、エイゼンシュテイン後期芸術理論における「イメージ」概念(実際には不在であるにも関わらずその存在が感じとられてしまうもの)を用いて現代アメリカのアニメーション作家ドン・ハーツフェルトの作品分析を行う論文「ドン・ハーツフェルト作品におけるシンプルな描画スタイルの意義について」を、海外の映画祭での作家からの直接の聞き取り調査もふまえて執筆した。
著者
武内 和彦 GEETHA Mohan
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

2011年度(4月~10月)は、スリランカAnuradhapura地方とKurunegala地方において、農業気候に関する第1、2次データ収集を行った。同国はアジアでの最後の事例研究の一つである。調査は、異なった気候状況下における農家間の米の全ての品種と農家の純収益所得に主に焦点をあてた。予測される気候シナリオの下、米から得られる現在及び将来の収入を推定するため、両者共リカーディアンアプローチが用いられた。スリランカでの事例研究のデータ集計と分析を終了し、対象国タイ、インド、スリランカ3国間の比較研究を試みた。研究結果から、気候が純収入に影響を与えるのはスリランカであることが示唆された。年間平均降水量が100mm増加すると、調査対象となった全ての農地で収入が平均US$198/ha増加する。適応対策を施していない農地では、収入の増加は平均US$75/haであった。これは、農地での現行の方法が気候変動の影響を緩和していると考えられる。一方、平均気温が1℃増加すると、モデルから適応対策を行っている農地ではUS$75/ha、行っていない乾燥農地ではUS$99/ha収入が減少する。3つのモデルによると、2050年と2100年の気温と降水量の値は、両方の年で増加すると予測された。降水量に関してはCGCM3T63が2050年に増加、2100年に減少を示したものの、ECHAM50MとCSIROMk3.5では両方の年での増加が予測された。気候変動と気候の変動性に直面し、調査を行った米農家は適応対策を進めている。例えば、水及び土壌管理、アグロ・フォレストリー技術、作物管理手法、作物の多様化、新しい米品種の開発、オーガニック肥料、プランテーション、農地拡大などである。本研究の結果から、気候が収入に重大な影響を与えること、また、現在の選択肢を用い、新しい適応対策を発展させることが重要であると確認された。2011年度助成金申請時の通り、助成金はスリランカAnuradhapura地域及びKurunegala地域での現地調査に使用された。また、タイでの国内/国際ワークショップに参加し本研究の結果を発表するためにも使用された。
著者
新野 宏 伊賀 啓太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

塵旋風・蒸気旋風・竜巻の発生機構・構造・力学の理解を多様な手法で進め、以下のことがわかった。塵旋風は、対流混合層の中層で作られる循環が下降流で地表面近くに運ばれ、これが上昇流域に角運動量保存的に収束することにより発生する。湿潤対流混合層で生ずる蒸気旋風は降水の無い場合には塵旋風と似た機構で発生するが、降水がある場合は、隣接する降水域からの冷気プールの衝突が重要な役割を果たす。これら強い渦の接線速度分布には2つのレジームがあり、回転境界層が重要な役割を果たす。
著者
石川 遼子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

太陽観測衛星「ひので」によって発見された短寿命水平磁場について以下の研究を遂行した。第一の研究は、大きさ1000km以下の微細な短寿命水平磁場と大規模対流構造の関係についてのものである。私は、短寿命水平磁場が4000-8000km程度の中間粒状斑と呼ばれる対流構造の沈み込みの部分に密集していることを発見した。この結果は、短寿命水平磁場が1000km程度の粒状斑だけでなく、より大きな対流構造にも影響を受けることを示しており、対流と磁場の相互作用に関して新たな知見をもたらした。この成果はアストロフィジカルジャーナルレター誌にて発表した。第二の研究は、短寿命水平磁場と「ひので」以前からその存在が知られていた垂直磁場との関係についてである。私は水平磁場と垂直磁場の空間分布に着目し、これらが密接な関係にあることを発見した。さらに、垂直磁場は中間粒状斑とさらに大きな対流構造である超粒状斑の両方の沈み込み部分に密集しているのに対し、水平磁場は中間粒状斑の沈み込み領域のみに密集していることも明らかにした。私は、これらの観測結果から、太陽静穏領域磁場を統一的に理解するための新たな描像を得た。この成果はアストロフィジカルジャーナル誌に発表した。
著者
中嶋 康博 荘林 幹太郎 小川 茂男 合崎 英男 高橋 太郎 山田 七絵 佐藤 赳 鄭 暁雲 宋 敏 王 維真
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

メカニズムデザインの手法を用い、中国南西部の湿潤地域と中国北西部の乾燥地域のそれぞれにおいて、農業生産者の土地資源および水資源の利用に対する望ましい政策介入について分析した。分析においては地理情報システムおよびリモートセンシングの技術を活用し、地域の空間的な特徴を内生化した経済モデルの設計を行った。
著者
大川 謙作
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

昨年度までの成果を引き継ぐ形で、文献研究および現地調査を推進した。まず文献研究としては、18世紀から20世紀前半までのチベット語文献に見られる政治体制や社会制度にかんする語彙および事例を収集し、もって昨年度までの調査によって蓄積した20世紀前半のチベット旧社会の社会制度と比較する作業を行った。とりわけ『ドリン・パンディタ伝』に出現するチベットの土地制度に関する情報を体系的に収集して整理することができ、これは今後の研究にとって重要な基礎データとなるだろう。また現地調査については夏季に中国四川省カンゼ・チベット族自治州および中国チベット自治区ラサにおいてフィールドワークを行った。中国からの投資がもたらした村落レベルにおける影響や、おラル・ヒストリーの採録をおこない、また現地研究者との研究交流を行った。さらに冬季には台湾に赴いて、民国期のチベット政策や漢人・チベット人関係についての文献収集を行うとともに、台湾漢人たちのチベット仏教信仰についての基礎データを収集した。こうした成果はこれまで対立と抗争という枠組みによって語られてきたチベット・中国関係における共生と交流の側面に光を与えるものであるといえる。以上のような調査に加えて、編著の刊行、単行本論文集への寄稿、英文学術誌への書評寄稿、チベット語文学の邦訳、国際会議の査読、法務省からのヒアリングへの協力などを行った。
著者
馬 志遠
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.235-243, 2003-03-10

A big gap on a new college graduate's starting salary exists in China. In what factor is such a gap specified? This paper deduces the factors which specify a new college graduate's starting salary based on investigation in Shanghai, and analyzed the degree of the influence. The result of analysis show that three biggest factors; the position in a company, the fields of study in university, and the status of a college graduate's university have influence in a starting salary, and it shows the result which can explain 40% of starting salary distribution. The unique characteristics of Chinese Labor Market effects the job opportunity and the starting salary of graduates.
著者
筒井 晴香
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、R・G・ミリカンの哲学を手掛かりとして人間の自然的側面と文化的側面の関係を解明する統一的理論を構築することである。とりわけ、ミリカンの議論のうちでも未だ注目されることの少ない慣習(convention)についての分析に注目してきた。本年度は以下に挙げる二点の課題に取り組んだ。それぞれを基礎的・応用的課題として位置づけることができる。まず、基礎的課題として、慣習論における重要な基礎概念である共通知識(common knowledge)概念の精査を行った。共通知識は慣習論において基礎概念としての役割を果たしているが、この概念自体、必ずしも自明なものではなく、慣習論の文脈とは独立に議論の対象となっている。慣習概念の分析、ないし、共通知識概念を必要としない慣習概念であるミリカンの「自然的慣習(natural convention)」概念の評価に当たっては、共通知識に関する考察を深めることが不可欠である。この考察の成果は海外学会において発表した。また、現在執筆中の博士論文の一部を構成するものとなっている。次に応用的課題として、昨年度より取り組み始めたセックス/ジェンダーの脳神経倫理学に引き続き取り組んだ。セックス/ジェンダーに関連する脳の差異や特徴をめぐる科学研究と社会との関係において生じうる諸問題には、人間の自然的側面と文化的側面の双方が複雑な仕方で関わっている。本年度は性同一性障害という具体的な事例に焦点を当てた考察を行うとともに、脳科学リテラシーに関する話題の一環として国内学会でのワークショップにおける問題提起を行った。また、脳神経倫理学を専門とする国際学会においても発表・議論の場を得た。
著者
渡辺 義浩
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題の目的は、運動・変形中の物体形状をリアルタイムに取得し得るセンシング技術の確立とその応用展開である。特に、高精度形状復元のためのセンシング情報処理やインターフェースへの応用展開に重点を置いた。まず、3次元センシングの高解像度化技術を開発した。これは、時系列に取得される運動物体の低解像度形状データから、高解像度の形状を復元するものである。次に、非剛体変形の推定を高精度に行う手法を開発した。これは、対象物体の変形に関する物理的特性の数理モデルを推定問題に取り込むことで、計測ノイズや低解像度による取得データの劣化を解消するものである。また、高速3次元センシングを基盤として、インタラクティブなディスプレイシステムを開発した。これは、変形可能なスクリーンを介在物として、仮想空間の3次元物体を操作する機能を提供するものである。さらに、高速な3次元センシングによって、ユーザのめくり動作中に紙面情報をスキャンする技術を開発した。各ページの紙面の変形を連続的に捉え、書籍情報の歪みを3次元の非剛体モデルによって自動補正することが可能であることを実証した。
著者
加藤 省吾 飯塚 悦功 水流 聡子 進藤 晃 杉辺 瑠美子 末政 憲司
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

療法士がリハビリ訓練計画を立案する際の合理的な思考プロセスをモデル化し,プロセスを実行するために必要な知識ベースを設計した.具体的な知識ベースの構築を行い,知識ベースを実装した支援システムを開発した.開発したモデル・支援システムを用いることにより,用いない場合よりも優れた計画を立案できることを検証によって確認した.本モデル・支援システムを用いることにより,医療の質・安全保証への寄与が期待できる.
著者
伊理 正夫 今井 敏行 久保田 光一 室田 一雄 杉原 厚吉
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

本研究は,代表者伊理正夫が1983年に発案した高速自動微分法のためのソフトウェア試作と実際問題への応用を発展させ,実用技術として確立することを目的とした。本研究によって得られた成果をその目的に沿って述べると次のようになる。(1)プリプロセッサの改良:C++による処理系を試作し,既に製作してあったFORTRANによるものとともに改良を重ね,実験用ソフトウェアとしては一応の完成をみた。それらを移植し,種々の計算機上で高速自動微分法を利用可能にした。さらに,勾配の誤差も計算できるようにするなど改良を加えた。現在,サブル-チン等の副プログラムに対する処理,ベクトルプロセッサ向けの処理を導入すべく,処理系をさらに改良中である。(2)丸め誤差の推定の理論の厳密化,丸め誤差の推定値を積極的に利用する算法の開発・実験,実際的な問題への応用:理論的に従来の区間解析よりも優れていることを証明しただけでなく,応用時に問題になる計算グラフの作成方法の改良の必要性を指摘し,解決のためグラフの縮小法を開発した。実用面では,演算増幅器の直流解析などを例にした非線形方程式系解法への応用や,幾何的アルゴリズムを利用した地理的最適化問題に適用し,精度,速度,特に収束性を詳しく調べることを通じ,従来の方法に比べて高速自動微分法が有効であることを確認した。(3)高速自動微分法と数式処理システムとの融合:プリプロセッサが改良中であること,実用面での高速自動微分法の有効性の証明を精密に行なうのに時間と労力を費やしたため,この方面に関する研究は,完成しておらず,今後の課題として残された。上記の成果をふまえて,国際数理計画シンポジウム,京大数理解析研研究集会,情報処理学会研究会,SIAM Workshopなどでの発表,内外の研究者との交流を行い,本研究の成果が国際的に先導的地位にあることを確認した。