著者
石井 紘
出版者
東京大学
雑誌
東京大學地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.67-77, 1992

Anomalous uplift continues at the eastern part of the Izu peninsula. Temporal and spatial variations from 1980 to 1988 were studied in detail by ISHII (1989). In 1989 a submarine volcanic eruption occurred off the east coast of the uplift area. Vertical movements from 1980 to 1990 were studied by focusing on variation before and after the eruption.伊豆半島の隆起の時間・空間変動について1980年から1988年まで石井(1989)に報告されているが,同様の解析法を適用し,その後1990年までのデータを加えて時間的・空間的な特徴について調べた.特にこの期間は1989年7月13日に伊東沖の海底噴火が起こっており,前後の上下変動についても注目して調べた。積算隆起量の最大値は10年間で24cmに達した.隆起のピークの位置は解析期間の始めには内陸にあったが,その後,東側の海岸の富戸付近に移動して固定し, 1989年7月の海底噴火後は富戸より10km北の伊東付近に位置した.東海岸の隆起域における隆起の時間変化は一様ではなく時間的に変動しているが, 1987年頃から全点で加速し,海底噴火直前に噴火点に近いところのみさらに加速した.また噴火地点に近い海岸沿いの点における1年間の隆起量の時間変化を見ると噴火前に以前より大きくなり,その後停滞して噴火に至るというパターンを示した.解析期間中発生した群発地震は隆起のコンターのピークが東側の海岸の富戸付近にあるときに発生している.
著者
出口 智之
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

まず合山林太郎氏とともに、森鴎外旧蔵の『宗旨雑記』(現東京大学総合図書館蔵)に裏貼りされた、鴎外が小倉から東京の母に宛てた書翰を整理し、未翻刻の書翰に解題を附して「未翻刻森鴎外書翰紹介」(以下副題省略)として発表した。これにより、鴎外の伝記研究に有用な資料を公にするとともに、同時代の文人との関わりを明らかにできた。次に、第54回「書物・出版と社会変容」研究会で、「根岸党の旅と文学」と題して発表した。これは、文人サークルである根岸党の人々が明治25年11月に妙義山に旅したおりの紀行『草鞋記程』(同年12月)を取上げ、慶応義塾図書館蔵の稿本を手がかりに、その成立過程を考証したものである。この研究により、集団で旅する遊びの空気を描き取った本作の方法の考察を通じて、明治期の文人たちが持つ遊びの精神を明らかにできた。また、「夏目漱石「琴のそら音」の素材」では、これまで明らかでなかった漱石「琴のそら音」(明治38年)の材源について、幸田露伴「天うつ浪」其四十六以降との設定および主題の類似を指摘し、出発期の漱石が同時代の小説作品にも鋭敏に反応していたことを明らかにした。さらに、露伴の史伝「頼朝」(明治41年)を考察対象とした「幸田露伴「頼朝」論」では、執筆に用いられた資料を特定し、作中では雑多な資料が同列に扱われていることを指摘した。そのうえで、資料にない事実の捏造を嫌った露伴が、本作で用いた随筆に近い様式によって、個々の逸話の背景にある頼朝にまつわる広大な言説空間が浮かびあがり、小説形式では不可能な作品世界の広がりが生れたことを考察した。そして、露伴とおなじく明治20年代に出発した作家たちが、明治末期になって一様に、小説以外の形式で歴史を扱おうと試みていることに着目し、そこに逍遙の『小説神髄』など彼らの世代の積残した、文学はいかに歴史を扱うべきかという課題の解決法の模索を見た。
著者
寺澤 敏夫 浅野 勝晃 天野 孝伸 羽田 亨 山崎 了
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、宇宙空間・宇宙の極限環境におけるさまざまな粒子加速機構について、最新の理論と観測結果を用いた研究を行い、長年の謎である宇宙線陽子・電子比決定メカニズムに迫った。中心的に扱われたのは衝撃波加速機構、乱流統計加速機構であり、それらを共通のキーワードとして、地球定在衝撃波から超新星衝撃波、ガンマ線バーストに伴う相対論的衝撃波まで、広範なパラメタ領域における加速機構の描像の最新化に寄与した。
著者
高藪 縁 青梨 和正
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、第一に衛星データを利用して降水システムの特性を統計的に表現する手法を開発すること。第二に、現実の熱帯域における気候条件と降水システム特性との関係を解析することによって、大規模場の気候条件が降水システム特性に及ぼす影響の解明を目指すことである。初年度の2003(平成15)年度には、熱帯降雨観測計画(TRMM)衛星の降雨レーダー(PR)データの統計解析を行い、PRによる降雨データから3ヶ月ごとの卓越降雨タイプ(夕立、大規模組織化システム等)分類を特定する手法の開発に成功した(第1章:片山・高薮)。2004(平成16)年度は、TRMMマイクロ波放射計(TMI)データから求めた海面水温と海上の降雨特性の関係を調べるとともに、熱帯積雲対流活動と大規模場との相互関係を、高層ゾンデ観測データを用いて解析した(第2章:横森・高薮)。また、「熱帯域の背の高い降雨の特性の海面水温依存性に関する研究」を行った(第3章:高薮)。一方、PRとTMIとのマッチアップデータを作成し、より多くのデータが得られるマイクロ波観測から降雨タイプ特定を可能にするための調査を行った。2005(平成17)年度は、「衛星搭載マイクロ波放射計データを使った降水タイプの特定の研究」においては、2003年度に降雨レーダーを用いて行った片山と高薮による降雨タイプ分けをTMIデータのみから行うための統計解析を行った。その結果TMIとPRとの降雨特性の顕著な対応を見出すことができ、TMIによる降水タイプ分類に見通しがたった(第4章:青梨)。また、2004年度に行った「熱帯積雲対流活動と大規模場との相互関係」についての解析結果を再検討し推敲して発表した(第2章:Takayabu他2006,学術誌発表)。以上の成果はすでに高精度降雨推定手法の開発に利用されている。
著者
高薮 縁 松井 一郎 杉本 伸夫 住 明正
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

地上での雲の放射効果に関しては、GMS/TBB(気象衛星「ひまわり」相当黒体輻射温度)等の雲データと放射コードを用いた研究や精密な放射観測を用いた研究から、雲の鉛直分布特性の把握が必要であることが明らかであったが、雲底情報も含めた雲システム特性についての理解は十分でない。本研究では、ジャカルタおよび観測船「みらい」に設置した小型ミーライダー観測により雲底高度を算出し、衛星雲データ・降雨データおよび気象データを併用し、熱帯域の陸上・海上の雲降水システム特性を解析した。1.ジャカルタ設置のライダーによる雲の連続観測から雲底高度を算出した。またGMS/TBB、およびTRMM PR(熱帯降雨観測計画衛星降雨レーダー)、NOAA衛星の長波放射、高層観測データを収集・処理した。これらのデータを用いて雲底高度分布の特性と大規模大気循環との関係を解析すると共に、雲底分布・衛星からの雲頂情報・降雨の関係を日変化に着目して解析した。観測は1998年1-2月、6-7月、10-11月、12月-1999年3月、6-8月に行われ、湿循期と乾燥期に分けて解析した。湿潤期には、高度1km以下・約4.5km・約11kmの雲底の3層構造が明らかになった。1km以下の雲底は、12-18LTの陸上の境界層の発達で現れる夕立に伴い、乾燥機にも出現する。一方、4.5km高度の雲底は夕方〜朝方に観測され深夜00-03LTに卓越するもので湿潤期特有である。TBBデータやTRMM降雨データとの比較から、これは対流システムと組織化したアンビル雲の融解層高度に広がる雲底と解釈できる。2.「みらい」搭載のライダーによる観測から雲底高度を算出し、ジャカルタの結果と比較しながら熱帯海上での雲底高度分布の特性と気象場・雲頂・降雨の関係を日変化に着目して解析した。陸上との第一の相違は、1km以下の雲底を持つ雲が昼夜を問わず常に現れることである。やはり1km以下、約4.5km、約11kmの3層が顕著である。4.5kmのピークは03-09LTと15-18LTにあり、前者が大きい。夕方から夜明け前に上層11km付近のピークがあり、00-03LTに大きい。TRMM PRからは海上では03-09LTの早朝に対流雨と層状雨が組織化した降水の卓越が解析され、4.5kmのピークは組織化した雲システムのアンビルの早朝の発達を示す。これはジャカルタと同様、湿潤期特有の現象であった。
著者
佐藤 尚毅
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

日本周辺での気圧偏差場の解析によって抽出された,盛夏期の天候と関係する偏差パターンである,「亜熱帯ジェット上の定常ロスビー波列」と「オホーツク海高気圧の出現に関連する偏差パターン」の2つについてその力学的な特性を調べた.このうち亜熱帯ジェット上の定常ロスビー波列は,これまで日本の南海上での対流活動に対応して現われるとされてきた北太平洋上のロスビー波列を含んでいるが,統計的にはむしろヨーロッパ付近から日本を経て北アメリカまで伝播する一連の定常ロスビー波列として認識できることが分かった.ヨーロッパ付近での出現には,基本場から偏差場への順圧的運動エネルギー変換が関係していることを確かめるとともに、日本の南海上での対流活動に対応した出現に関しては,線形化されたプリミティブモデルを用いることにより,基本場の東西非一様性が応答の符号や形状を決めるうえで本質的な役割を果たしていることを明らかにした.「オホーツク海高気圧の出現に関連する偏差パターン」については,気侯場を基本場として線形化した順圧モデルを作成し,線形定常応答問題を解いた.各々独立で北半球に一様に分布する渦度強制について応答パターンをそれぞれ計算したところ,オホーツク海高気圧に関連する偏差パターンが統計的に現われやすいことが分かったこの結果は,必ずしも特定の強い励起源が存在しなくても,ある特定の形をした偏差パターンが生じやすいということを示している.より狭い空間スケールでの陸面過程,海面過程とに関連の例として,関東平野における海陸風循環に対する人工排熱の影響と,熱帯域での対流活動に対する力学的応答として生じる盛夏期の北太平洋上での亜熱帯前線帯について調べた.前者に関しては,大規模場が特定の形になっている場合に限って人工排熱の大気への影響が極端に大きくなることを,数値実験によって明らかにした.これはこれまでに報告されている経験的事実と整合的である.後者に関しては,これまでの梅雨前線帯を亜熱帯前線帯とみなす考え方に対して,むしろ梅雨明け後に日本の南海上に前線帯が見られ,この前線帯の力学的構造が典型的な亜熱帯前線帯を一致することを観測データの解析によって確かめた.相当温位の勾配が逆転している点が特徴的であるが,このことは逆に,相当温位の勾配の方向と関係なく,熱帯域での対流活動に対する力学的応答として亜熱帯での降水帯が形成されることを示している.
著者
加藤 照之 木下 正生 一色 浩 寺田 幸博 神崎 政之 柿本 英司
出版者
東京大学
雑誌
地域連携推進研究費
巻号頁・発行日
1999

本研究は,海面に浮かべたブイいGPSを搭載して陸上基地局との間でRTK解析を実施することにより海面高の実時間監視を実現し,襲来する津波を沿岸への到達前に検出して津波防災に役立てるシステムを構築しようとするところに究極の目的がある.このために過去に実施してきた基礎実験をうけ,本研究課題においては大船渡市と連携して,同市沖にGPS津波計を敷設し,1年間の長期実験を実施したものである.平成11年度に開始された本研究では,同年度中にシステムの設計を行い,平成12年度にGPSブイ及び周辺システムを製作・構築し,平成13年1月23日に大船渡市長崎地区沖に敷設して実験を開始した.陸上基地局はブイから約1.6km離れた場所に設置した.特小無線によってデータをブイからリアルタイム伝送し,基地局におかれた小型計算機でRTK処理を施すと共に,計算結果は専用電話回線によって大船渡市役所と同市消防署に伝送されて実時間監視に役立てられた.初期不良や時折の観測・解析の中断はあるものの,1年を経た現在でもほぼ順調に稼動している.実験の途中の平成13年6月25日未明には前日のペルー沖で発生した地震津波をとらえるのに成功した.このときの振幅は10-20cmであった.本実験によって「GPS津波計」がほぼ当初の目的とした1cm程度での検出が可能であることを実証した.また,解析データを準リアルタイムにホームページ上で公開することにより誰でもどこでも気軽に海面の様子を知ることが可能となった.なお,今後実用化に向けてはいくつかの課題を解決すべきであることも明らかとなった.例えば,より沖合いに展開するために10km超の長距離RTKで1cm程度の精度を達成すること,水深の深いところでのブイの安定作動と長距離データ伝送,津波の自動判別アルゴリズムの開発などである.今後こうした課題を解決して真に防災に役立つシステムを完成させたいと考えている.
著者
浅井 冨雄 松野 太郎 光田 寧 元田 雄四郎 武田 喬男 菊地 勝弘
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

(1)1988年度は観測期間を2週間とし、1988年7月6日〜7月19日まで初年度とほぼ同じラジオゾンデ観測網を展開した。本年度は目標(2)にも重点を置いて、レーダー観測網の展開をはかった。即ち、名大・水圏研は福江、北大・理は西彼杵半島北大・低温研は熊本、九大・農は福岡でそれぞれレーダー観測を実施した。2週間の観測期間を通常観測(12時間毎の高層観測と定時レーダー観測)と強化観測(6時間〜3時間毎の高層観測と連続レーダー観測)に分け、研究者代表者の指示によりそれぞれ実施した。観測中前半は梅雨明けの状況となったが、後半には、特に16〜19日にはかなりの豪雨が観測され、目標(2)の研究が可能な観測資料が得られた。現在、各分担者がそれぞれの資料を整理し、解析しつつある。(2)1987年7月の特別強化観測期間中は降水現象は殆ど観測されなかったが、その前後にはかなりの降水が見られるので、7月の1カ月間について総観的解析をその期間の中間規模擾乱に焦点を合わせて行いつつある。7月上旬の降水の特徴と中旬のそれとの間には顕著な差異が見出された。前者は比較的広域に一様な降水、後者は狭い範囲へはの集中豪雨的な特徴を示した。後者については中間規模低気圧とそれに伴うクラウドクラスターと降水系の南側に下層ジェットが見出され、その生成機構が水蒸気凝結潜熱の解放による中間規模低気圧の発達に伴うものであることが示された。(3)数値モデルの研究では(a)特別観測を含む梅雨期間中について微細格子モデルを用いて中間規模低気の予報実験を行い、モデルの改良を試みつつある。(b)現在開発中の積乱雲数値モデルに地形効果を導入して本年度の観測資料等と対比しながら、豪雨生成に関与する対流雲の組織化、移動、停滞などの機構を調べるためにモデルを改良しつつある。
著者
野崎 京子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

二酸化炭素は炭素化合物の燃焼最終生成物であり,熱力学的に安定な,不活性な化合物である.一方で,二酸化炭素は安価で豊富な炭素資源であり,その有効利用は科学的興味に留まらず,社会的にも大きなインパクトをもつ.二酸化炭素を活性化し有機合成にもちいるには,より安定な結合を生成する系を選び,かつ反応の活性化エネルギーを下げる触媒を開発しなければならない.本研究では,二酸化炭素の活性化を鍵とする以下の二つの反応について,新規9族金属錯体の開発に重点をおき触媒開発に取り組み、以下の成果を挙げた。1)二酸化炭素還元反応の高活性化と可逆性の検討われわれが開発したピンサー配位子をもつイリジウム錯体は,水酸化カリウム存在下での二酸化炭素と水素の反応で,これまでで最高の活性を示した.この塩基をトリエタノールアミンに変更することで逆反応であるギ酸の分解も行えることを示した。水素の安定的な貯蔵方法としてギ酸を用いる可能性を拓いた。2)エポキシドと二酸化炭素の交互共重合反応の触媒開発これまでの研究で最も高い活性を示していたクロムやコバルトのサレン錯体に代えて、チタンやゲルマニウムなどの錯体が触媒作用を示すことを明らかにした。クロムやコバルトが3価の金属であり、サレンがジアニオン配位子だったのを、チタンやゲルマニウムなどの4価金属に変更した際、配位子もトリアニオン性にしてトータルの電荷を保ったことが成功の鍵である。より低毒性の金属を用いられるようになったことで、生成物の利用範囲が格段に広がった。
著者
鈴木 隆史
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

勾配を持つポテンシャル中に閉じ込めたボーズ粒子系で現れる有限温度下の秩序状態について調べた。まず調和ポテンシャル中の擬2次元希薄ボーズ気体の有限温度特性についてProjectedグロスピタエフスキー方程式を数値的に解いて調べた。その結果、位相相関関数の減衰冪がポテンシャル中心付近で現れるコヒーレント(凝縮)領域とその周囲に現れるインコヒーレント(非凝縮)領域の境界でコスタリッツ-サウレス型の臨界特性を示すことがわかった。続いて一軸方向にのみポテンシャル勾配を持つハードコア2次元拡張ボーズハバードモデルで現れる秩序状態の空間分布について量子モンテカルロ法を用いて調べた。この系は一様ポテンシャル下で化学ポテンシャルを変化させた場合に固体状態から超流動状態へ一次転移を示す。ポテンシャルの勾配を変えた場合に固体状態と超流動状態の境界付近で現れる秩序状態に注目した。その結果ポテンシャル勾配の形を変化させても両者は相分離し、局所密度近似の結果、すなわち一様系で観測される一次転移の振る舞いが相境界で見られることが分かった。
著者
野村 忍 中尾 睦宏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

今回の研究目的は、本態性高血圧症に対する血圧バイオフィードバック(以下BFと略す)の降圧効果を検討することである。また、ストレス負荷テストによる昇圧反応をどのくらい抑制できるかの検討を行った。本態性高血圧症を対象にした血圧BFの治療効果の検討では、30人の外来患者(男性10名、女性20名)を無作為に2群に分けて比較試験を行った。A群ではBF治療を4回行い、B群ではコントロール期間は血圧自己モニターのみ行いその後BF治療を4回施行した。その結果、A群では治療期間前後の比較で平均して収縮期血圧は17mmHg、拡張期血圧は8mmHgの有意な低下が認められた。B群では、コントロール期間では血圧の変化は認められず、治療期間前後で平均して収縮期血圧は20mmHg,拡張期血圧は9mmHgの有意な低下が認められた。また、治療期間前後に施行したストレス負荷テスト(暗算負荷法)による昇圧反応は、A,B両群において顕著な抑制効果が認められた。本態性高血圧症を対象にした暗算負荷法(以下MATと略す)と鏡映描写試験(以下MDTと略す)の循環動態ならびに内分泌的反応性の比較試験を10人の外来患者に施行した。MATおよびMDTにより平均収縮期血圧はそれぞれ37.8mmHg,41.0mmHg、平均拡張期血圧はそれそれ17.5mmHg,21.2mmHg、平均心拍数はそれそれ17.1拍/分,12.5拍/分と顕著な増加が認められた。血中ノルエピネフリン濃度は、MATおよびMDTで同様な反応性を示したが、エピネフリンはMATでより増加する傾向が認められた。その結果、MATはより交感神経-副腎髄質系を賦活するメンタルテストであることが示唆された。
著者
長島 弘明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

3年間にわたる研究の最終年として以下の知見を得、また上田秋成の作品の新目録や秋成の新年譜、新出の資料等を、成果報告書にまとめた。1.秋成の和歌については、これまた新出の『毎月集』(二本)を、従来知られる断簡類と詳細に比較し、自撰歌集『藤簍冊子』以後の、晩年の歌風を明らかにした。2.狂歌については、『海道狂歌合』の現存する全ての稿本、および多数の版本を調査し、諸稿の成立順を明らかにした。また、試みに、序跋を含む『海道狂歌合』の校本を作成し、秋成の狂歌や文章の推敲時における様々な特徴を明らかにした。3.俳諧については、俳諧活動を年次順に整理し、秋成と当時の俳壇との関係を考察した。その結果、若い頃は都市風の俳諧グループと関係が深く、特に小野紹廉やその門人たちとはもっとも深い交流を結んでいること、また、中年期の、蕪村およびその門人たちとの交友が、画賛制作に手を染める大きな契機となっていることを明らかにした。4.随筆については、晩年の一見国学的著述と見られる『神代がたり』が、晩年の秋成の意識に即す限り、国学研究書ではなく、歴史随想とでも呼ぶべきものであることを『胆大小心録』等との比較を通じて明らかにした。5.伝記に関しては、秋成の書簡を網羅的に収集・検討し、それぞれの書簡の年次を考証して明らかにするとともに、今まで書簡の年次が未詳であったために年譜に記載できなかった事項を、相当数、年譜に書き加えることができた。また、最晩年の山口素絢あて書簡2通を新たに発見し、晩年の転居の理由を知ることができた。
著者
岩本 通弥 川森 博司 高木 博志 淺野 敏久 菊地 暁 青木 隆浩 才津 祐美子 俵木 悟 濱田 琢司 室井 康成 中村 淳 南 根祐 李 相賢 李 承洙 丁 秀珍 エルメル フェルトカンプ 金 賢貞
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、外形的に比較的近似する法律条項を持つとされてきた日韓の「文化財保護法」が、UNESCOの世界遺産条約の新たな対応や「無形文化遺産保護条約」(2003年)の採択によって、どのような戦略的な受容や運用を行っているのか、それに応じて「遺産」を担う地域社会にはどのような影響があり、現実との齟齬はどのように調整されているのかに関し、主として民俗学の観点から、日韓の文化遺産保護システムの包括的な比較研究を試みた。
著者
川田 和正
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

当該研究課題では、中国チベット自治区羊八井(ヤンパーチン、標高4300m)に設置されているチベット空気シャワー観測装置の地下2.5mに大面積の地下プールから成る「水チェレンコフ型ミューオン観測装置」を新たに設置し、超高エネルギー(VHE=Very High Energy)ガンマ線に対するバックグラウンドノイズを大幅に低減して感度を劇的に向上させる計画である。そして、この新しい観測装置を用いて我々の住む天の川銀河からのVHE宇宙ガンマ線を、超低ノイズ・広視野という利点を生かし世界で初めて観測することを目指す。前年度迄に、合計で約四千平米の地下ミューオン観測装置の躯体の建設が完了している。当該年度においては、完成したミューオン観測装置への20インチ光電子増倍管(PMT)等の観測設備のインストール及び建設のため撤去されていた地上部分の空気シャワーアレイ検出器の回復作業を行った。今年度の5月から、空気シャワーアレイの回復を行い、その後、プール内壁への防水材の塗装及び高反射素材(タイベックシート)の接着を行った。また、光センサーである20インチPMTを地下ミューオン観測装置内にインストールし、データ収集装置の調整を行った。さらに、約100平米のミューオン観測装置のデータを用いて、ガンマ線と宇宙線バックグラウンドノイズを区別し、銀河面からの200TeV以上のガンマ線の探索を行った。約80%のガンマ線信号を残しつつ約90%の宇宙線バックグラウンド除去に成功した。その結果、有意なガンマ線信号は見つからなかったが、銀河面からの拡散ガンマ線に対する上限値を得た。この結果は2011年に北京で開催された宇宙線国際会議(ICRC)で発表された。
著者
木舟 正 吉越 貴紀 吉越 貴紀
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

約半世紀にもわたる努力の結果、最近になって漸く確立した超高エネルギーガンマ線による宇宙観測の全体像を把握すべく考察を試みるために、これまでに検出されたガンマ線天体についてのレビユー論文を作成し、宇宙の超高エネルギー現象についての今後の発展方向を展望した。銀河系内超高エネルギーガンマ線源の位置、広がりの大きさなどについて、ガンマ線強度の観測データが銀河河円盤内宇宙線による拡散ガンマ線などによって受ける影響の大きさ、データの取り扱い方の違いが解析結果に与える不定性があることを示した。
著者
矢口 祐人 廣部 泉
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

平成19年度は18年度に引き続き、現地調査を通してアメリカのキリスト教原理主義団体に関する情報を収集した。夏季に矢口がサウスダコタ州を訪れ、キリスト教原理主義団体が展開する中絶反対運動の調査を行った。教会内のみならず、教育やコミュニティ活動を通して、中絶問題を巧妙に政治化する様子がみられた。また前年度に引き続き、コロラド大学のトーマス・ザイラー教授と意見交換を行った。さらに研究に必要な保守キリスト教団体関連の書籍・DVDなどを購入して、資料の充実を図るとともに、矢口と廣部で継続的に情報交換を続けた。廣部はそれをもとにキリスト教宣教の有効性を考察する論文を執筆し、発表した。平成20年に入ると、キリスト教原理主義団体の政治活動で注目すべき動きがみられた。同年11月のアメリカ合衆国大統領選挙の共和党候補として立候補したバプテスト派牧師で、前アーカンソー州知事のマイク・ハッカビーが、大方の予想を覆し、1月のアイオワ州予備選挙で勝利をおさめたのである。キリスト教原理主義団体の文化活動がアメリカの政治にどのような影響を及ぼしているかを、教会での活動のみならず、メディアや教育の場などにも注目して研究するためには、ハッカビーの選挙戦略とその効果を調査する必要が生まれた。インターネットなどで情報を収集するとともに、関連資料を購入し、米国キリスト教原理主義団体の文化戦略事業の実体と今後の展開について考察をすすめた。ハッカビーは最終的に敗北したものの、その支持基盤であるキリスト教原理主義の動きは活発であり、最終的に共和党候補となったマケインの戦略にも大きな影響を与えた。その意味では選挙戦を通して、キリスト教原理主義団体の文化戦略の理解を深めることができた。
著者
金井 利之
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度は最終年度ということもあり、これまでの文献資料収集及び自治体ヒアリングを続けるとともに、それらを多様な機会を活用して公表していく作業を行った。例えば、上越市や岡山市の事例調査報告がある。また、特に本年度に力を入れたことは、公共政策系大学院における教育と研究と実務の一体的有機的連関である。この成果として、大学院における「事例研究」(演習形式)で法務管理を採りあげるとともに、その成果を、担当教員として監修しつつ、大学院生に執筆させることを行い、併せて、事例報告の学会への蓄積を行った(『自治体法務NAVI』第一法規、において連載)。こうして採りあげることができたのは、京都市、尼崎市、神奈川県、横浜市、川崎市である。本年度には連載は終了しなかったが、今後も、1県3市町程度の原稿を調整しているところである。これらの事例情報の蓄積を踏まえつつ、法務管理に関する理論枠組みを整理するため、給与管理や第三セクター処理などの他の行政管理との比較をおこなった。特に、後者においては、多面的な側面を有する第三セクター管理では、財務・人事・法務・情報などの管理が全体として整合している必要があり、第三セクター処理という限られた側面ではあるが、他の行政管理との対比のなかで、法務管理の占める位置と特徴を分析した。このようにして、事例を蓄積することで、自治体の法務管理の全体像ないしは平均像が、おぼろげながら浮上しつつあると考えられる。また、これらの蓄積を公表することで、学界・実務界の関係者には重要な基盤情報を提供できたものと考えられる。今後は、この蓄積を踏まえて、自治体の法務管理に関する実証的な仮説を提示し、それに沿って文献・ヒアリング調査を行い、検証していく作業が必要と考えられる。
著者
石川 征靖 武田 直也
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

私達は国内の4大学4研究室(電通大、京大、東大教養、明治学院大)から提供された有機化合物試料における強磁性の発現を希釈冷凍機中で交流磁化率やM-H磁化曲線を測定して調べた。その結果、芳香族メチレンアミノ基をもつTEMPOラジカルをはじめとする7個の異なった化合物において0.07〜0.5Kの温度領域で強磁性転移を確認した。それぞれのグループの化合物は構造をはじめ全く異なった性質の物質であることを考えると、本研究で調べたような温度領域では有機強磁性の発現は相互作用は小さいながらもかなり普遍的な現象であることがわかった。どのような条件下で(どのようなラジカルで、どのような構造で)強磁性が発現し、その転移温度が高められるかを系統的に調べることが今後の課題で、TEMPOラジカルに関して結晶構造と強磁性の発現の相関についての研究を開始した。。また一方で、早大理工の研究室と強磁性ポリマーの探索に関する共同研究を開始した。本年度の研究成果は3篇発表済み、2篇投稿中である。
著者
久保田 実 鰭崎 有 柄木 良友 稲田 ルミ子 信貴 豊一郎
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1988

本研究は、絶対温度0.01K以下までの低温を容易に室温から数時間で作り出し、また急速に室温まで戻すことができる、しかも必要とあれば長時日に及ぶ連続運転が可能な"運搬が容易にできる新しい型式の希釈冷凍機"を試作開発するものである。第2年度末までに、開発の第1段階である'室温に ^3He回路のみを持つ ^3He JーT希釈冷凍機'で32mKを安定に作ることに成功し、第2段階の' ^3Heを室温部のポンプや圧縮機を使わずに循環する低温 ^3He回路の開発'をスタ-トさせた。今年度はこれを更に推進するために(1)4.2K〜30Kで働く活性炭吸着ポンプー圧縮機の試作とその基本特性の測定、(2)低温 ^3He加圧回路に欠かせない低温バルブの試作と、性能試験を行い、所期の目的の100μmole/s程度の循環を可能とする条件を見いだした。この結果は1990年4月の低温工学国際会議ICEC13(北京)、および低温物理学国際会議LTー19(1990年8月Brighton)に於て発表した。しかしながら複数の低温バルブと複数の吸着ポンプとを組み合わせて低温 ^3He回路を自動運転するには未だ至っていない。我々は低温バルブにはインコネル製の"Cーリング"と呼ばれるシ-ルを用いているが繰り返し使用するバルブの閉りと信頼性を改善するために"Cーリング"の表面をみずからインジュウムメッキして使用している。信頼性の向上にはシ-ル面の工作精度も問題でありその試験に長時間を要する。一方分溜室の温度を下げ冷凍機の性能向上を計るために吸着ポンプも3*10ー2mb程度の圧力まで十分機能する必要がある。ポンプ内のコンダクタンスの改善が望まれる。これらの問題点を解決して総括報告が1年以内にできるものと考えている。
著者
土屋 昭博 菅野 浩明 粟田 英資 太田 裕史 中西 知樹 林 孝宏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

Zhu の有限性条件をみたす頂点作用素代数の表現のつくるアーベル圏がArtin かつNoethern であり、また既約対象が有限個であることを示した。さらに、対応する共形場理論を使ってこのアーベル圏がbraided tensor 圏の構造を持つことを示した。典型的な例として、頂点作用素W(p) について、その表現のつくるアーベル圏が一の巾根における制限されたs12(C)型の量子群の表現のつくるアーベル圏と同値であることを示した。