著者
ディーター トゥールース
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

有害化学物質による環境汚染は、人間の健康に大きな影響を及ぼしうる。微生物を用いて有害物質を無害なものに変換する技術はバイオレメディエーションとして知られており、こうした環境汚染に立ち向かう方法として有用である。より効率的なバイオレメディエーション法の開発に役立てるため、環境中で対象物質の分解を行う微生物を特定する新規な手法の開発を行った。開発された手法は高い感度と特異性を持つことが示され、さまざまな環境における分解者を特定することが可能であることがわかった。
著者
藤井 恵介 川本 重雄 平山 育男 溝口 正人 後藤 治 上野 勝久 大野 敏 藤川 昌樹 光井 渉 大橋 竜太 加藤 耕一 角田 真弓
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

日本建築史の分野において、従来の建築様式史を批判的に検討し、それがもはや現在においては必ずしも有効ではないことを確認した。そして、新たな研究領域が拡大しつつあることを確認して、日本・東アジアの木造建築を対象とする、新しい建築様式史を提案する必要があることを認識した。この5年間で、新しい建築様式史を構築するための基礎的検討を行ったが、具体的な作業は、建築史の全分野、建築史以外の報告者を得て開いたシンポジウムにおける討論を通じて実施した。その記録集10冊を印刷して広く配布した。
著者
IZUMO Takeshi (2009) SWADHIN K.Behera (2008) IZUMO Takeshi
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究では、観測データ(現場観測データ、衛星観測データ、再解析データ)や様々な階層の数値モデル(浅水モデルから高解像度大気海洋結合モデルまで)の結果の解析により、インド洋・太平洋熱帯域の気候変動の理解を進め、地域的な気候変動の予報精度(特に降水の季節内変動から十年スケール変動の予報精度)の向上を目指した。このような予報は、インド、アジア、アフリカ・モンスーンの影響を受ける発展途上国の人々にとって、重要である。当該年度の研究では、特に、エルニーニョ/南方振動とダイポールモード現象の関係について画期的な研究成果が得られた。エルニーニョ/南方振動には、太平洋熱帯域が暖かいエルニーニョの状態と冷たいラニーニャの状態が、不規則に存在し、世界各地の社会経済活動や環境に大きな影響を与える。しかしながら、エルニーニョ/南方振動を予報することは、いまだに困難である。一方、インド洋にも経年変動するダイポールモード現象が存在し、西インド洋熱帯域が暖かくなり、東インド洋熱帯域が冷たくなる現象を正のダイポールモード現象と呼ぶ。本研究では、負(正)のダイポールモード現象は、エルニーニョ(ラニーニャ)の14ヶ月前の良い予報になることを初めて示した。そして、ダイポールモード現象は、秋季のウォーカー循環を強化するが、11月から12月にかけて急速に減衰することにより、太平洋の東西風偏差を急に衰弱させるため、エルニーニョ/ラニーニャを発達させることが明らかとなった。
著者
大沢 真理
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

日本経済の停滞,貧困と社会的排除の広がりが,「男性稼ぎ主」型の生活保障システムの行き詰まりによるものであることを,国際比較分析により明らかにし、経済・社会の閉塞状況から脱却するうえでの方策を示唆した.さらに,日本やアメリカの生活保障システムの機能不全ないし逆機能が,世界的な経済危機を招いたことを探り当てた.これは,最近注目されているグローバル社会政策論にたいしても,新たな視角を提示するものである.
著者
與儀 剛史
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度は、固体表面における光散乱測定のために、動的光散乱手法そのものの高精度、高感度化開発を行った。その際、測定対象として気体を用いた。それにより装置の性能評価がしやすくなるだけでなく、今まで手つかずの状態であった気体の低周波数域における熱フォノン研究が行えるようになった。はじめに低角光散乱における集光方式を新たに開発した。それにより、感度を失わずに熱フォノンスペクトルの測定誤差を減らすことに成功し、前方散乱においてピーク測定精度の向上、幅の定量的議論が可能となった。開発した動的光散乱装置を用いて、従来観察が十分に行われてこなかった、分子緩和による熱フォノン伝搬の変調を捉えた。さらにでは、上記で開発した動的光散乱手法をより改良することで、freon23,freon22ガスにおける並進-振動緩和によって熱フォノンピーク(ブリュアンピーク)の一部が、ゼロ周波数にピークをもつローレンツ型のモード(カップリングモード)として現れることを確認した。また、スペクトルを動的構造因子でフィッティングすることでえ緩和強度を求め、それらが熱フォノン分散から得られる値と一致することを確認した。ここで、熱フォノン測定または音波測定では、圧力又は測定周波数を変化させることではじめて緩和情報を得ることができるが、一方、カップリングモードスペクトルひとつからは、緩和情報を完全に得ることができる。そこで、各圧力下における緩和周波数、緩和強度をカップリングモードスペクトルから測定したところ、理想気体状態から明確なずれが現れる高圧においても、緩和定数は低圧下における値と一致することを確かめた。音波測定や熱フォノン測定では緩和定数の圧力変化を測定することができないため、このカップリングモード測定は、気体の緩和を詳細に知るための有力な手法と考えられる。
著者
徳田 匡
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は日米安全保障条約の改定から50年という節目に当たり、この期に「60年安保を問いなおす」というシンポジウムを開いた(2010年7月10日)。私は当時の安保闘争などから抜け落ちていた「沖縄」を軸にして、当時の沖縄の政治・言論の状況を報告した。当時の日本では国会議事堂前での大規模な民衆デモが行われ、アイゼンハワー米大統領の訪日阻止が行われたが、同日アイゼンハワー大統領は沖縄に降り立つ。60年の安保改定において日本のデモの中にも国会審議に中にも沖縄の問題は扱われておらず、この米大統領の沖縄訪問は、60年安保がデモ隊にとっても国会にとっても沖縄の外部化によって成立していた政治状況であったことを、その後の日米一体化や密約問題をからめながら論じた。それにより、従来、余論じられていなかった戦後思想史の中の沖縄の位置づけを再確認し、日本の戦後思想が外部化していた安保改定のなかの沖縄の問題を浮き彫りにした。また、沖縄大学地域研究所の依頼による『地域研究』vol.8への書評論文では、田仲康博著『風景の裂け目』(みすず書房、2010)を論じた。そこでは、米軍占領下の沖縄における、主客の構築する「風景」の外在性と拘束性の問題と、田仲の筆致における新たな叙述の可能性を論じた。風景という外部を論じることが翻ってその人間を主体化する。そこから戦後の沖縄の風景の変遷が軍事植民地の主体化の実践であったことを論じた。また田仲による一人称の記述方法を「他者」の問題として捉えなおしポストコロニアルにおける歴史記述の方法の可能性について考察した。上述した研究内容は、日米によって外部化された沖縄が、日米間の戦後の政治史における位置づけを明確にし、さらにそのかなで沖縄を論じることの新たな可能性を示している。
著者
澤田 康幸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

本年度は、以下に述べる3つのサブ・プロジェクトについてそれぞれ予備調査・調査準備を行った。第一のサブ・プロジェクトは、「アフリカ・アジアの貧困と人間の安全保障」プロジェクトである。ここでは、アフリカとアジアの最貧国における貧困削減に必要な新しい技術と制度を識別するようなプログラム評価の準備を行った。アフリカについてはマラリア対策についての研究会を開催した。アジアについては、フィリピンの中部ルソン地域を対象として、灌漑整備の貧困削減効果、とりわけリスクシェアリングを通じた効果を明らかにするため、田植えにおける互酬的な共同作業の構造解明のための実験的な手法を設計し、フィールド実験を行った。その成果を国際開発学会の総会において報告した。第二のサブ・プロジェクトは、「災害と貧困」プロジェクトである。ここでは、日本と東南アジアにおける災害リスクと人々の災害事前事後の行動に関するミクロデータを整備し、理論的な考察を加えた。成果の一部は、Center for Research of Epidemiology on Disasters (CRED)がベトナムにおいて開催した自然災害に関するカンファレンス(MICRODIS CONFERENCE)において報告された。第三のサブ・プロジェクトは、「自殺と貧困リスクの経済分析」である。このプロジェクトでは、元東京大学大学院経済学研究科のYun Jeong Choi講師を連携研究者とし、国立政治大学(台湾)のJoe Chen助理教授を研究協力者として、経済理論の知見とデータによる実証解析という2本の柱から、日本における自殺の決定要因を捉え、有効な政策手段を明らかにする。平成22年度は、これらのメンバーの協力の下で実施した一連の分析を取り纏めた展望論文がJournal of Economic Surveysに採択された。
著者
舘 すすむ 川上 直樹 新居 英明 梶本 裕之 梶本 裕之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

触るという感覚の原理を解明し、高品位な触覚ディスプレイの社会的普及を目的として研究を遂行した。触ることにより生じる皮膚の変形や内部の現象を理論的に検証し設計のための知見を得た上で、電気刺激による皮膚感覚提示デバイス、簡易で普及しやすい把持力提示デバイス及び力覚と皮膚感覚を統合した操縦型ロボットハンドシステムを実現した。さらに、視覚障害者の目を代行する額型電気触覚ディスプレイの工学的基礎を与え、社会的普及へ貢献した。
著者
糸久 正人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

申請者は「イノベーションを追及することは競争優位の源泉になりうるのか?」という問題意識のもとに、主に製品開発プロセスの視点から先発企業(イノベーター)と後発企業(イミテーター)の企業活動について調査分析を行ってきた。前年度の成果としては、後発企業でありながら電気電子製品の分野において高いグローバルシェアを誇る韓国サムスン電子の製品開発プロセスについて分析を行い、『リバース・エンジニアリング型開発プロセス」という概念を打ち出した。これは、通常、機能設計→構造設計へと至る「フォワード・エンジニアリング型開発プロセス」に対して、日本企業などのあるイノベーティブな製品を前提に、そこから構造設計→機能設計→構造設計へとさかのぼっていく製品開発プロセスである。以上の研究成果を踏まえて、本年度は主に3つの方向性に研究を拡張した。一つ目は、上記サムスン電子とブラウン管および液晶パネルメーカーであるサムスンSDIの製品開発戦略を『製品アーキテクチャ」の視点から捉えた研究である。具体的には、藤本(2003)の「アーキテクチャの両面戦略」のフレームワークを用いて同社のブラウン管TV、液晶TV事業を中心に分析したところ、サムスン電子は技術の寄せ集め的で業界に参入し、その後、BRICsなど各市場向けにカスタマイズを行う『内モジュラー・外インテグラル戦略」を、逆にサムスンSDIは自前の技術を利用し、その後、広範囲な顧客に汎用品として販売する『内インテグラル・外モジュラー戦略」をそれぞれ志向することで高い競争力を維持していることがわかった。二つ目は、先発企業の製品開発プロセスに焦点を当てた研究である。具体的には、様々なツールをクロスさせて、3次元CADCAEなどを活用したデジタルエンジニアリング、ロバストネスを達成するタグチメソッドなどを活用して、高品質の製品をいかに早く開発するのか、という問題に対して、インタビュー調査およびアンケート調査から分析を行った。この研究成果に関しては、まだ未公開であるが、現在『組織科学』に投稿中である。三つ目は、製品開発の視点からやや離れて、効率的な生産および需要予測の方法について調査分析したものである。この視点では、現在のところ、先発企業VS後発企業という比較分析が十分でないので、この点は今後の研究課題としたい。
著者
崔 ジュン豪 中尾 節男
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究ではSi-DLC膜の表面に酸素プラズマ処理を施すことで超低摩擦および高硬度を兼ね備えた膜を開発し,その摩擦摩耗機構の検討を行った.シリコン含有量の増加とともにSi-DLC膜の摩擦係数と硬さはともに減少する.酸素プラズマ処理によりSi-DLC膜の膜全体の硬度は維持したまま,摩擦係数は0.02まで低減できる.酸素プラズマ処理により,シリコン酸化物,カーボンで構成される移着膜を増やすことができ,これにより低摩擦化が実現できる.グラファイト化が進んだカーボンの移着は,Si-DLC膜の低摩擦の一つの原因である.以上の結果から酸素プラズマ処理は,Si-DLC膜の低摩擦化,シリコン添加による硬度減少の防止に有効であると考える.
著者
五島 正裕 坂井 修一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

SIMDは,ベクトル処理の方式として中心的な地位を占めているが,プログラマビリティに問題があり,複雑化するアプリケーションに対処することができない.本研究は,プログラマビリティと最大性能を両立することを目標とする.Switch-on-Future-Eventマルチスレッディングは,プログラマビリティを犠牲にすることなく,最大で33.5%の性能向上を達成することができる.マルチスレッディングのために生じるレジスタ・ファイルの大型化は,非レイテンシ指向レジスタ・キャッシュ・システムによって緩和することができる.シミュレーションにより,回路面積は24.9%にまで削減できることが示された.
著者
山本 昌宏 代田 健二 斉藤 宣一
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

逆問題に対して、再生核ヒルベルト空間ならびに多重スケール核に基づいて、多次元の任意形状をもつ領域における数値解析手法の研究と開発を目指したが、この方法は正則化手法と密接に結び付いており、また離散化のためには有限要素法などを駆使しなくてはいけないことが、より鮮明になり、その方面の研究を進めた。実績は以下のとおりである。(1)相転移問題や熱伝動現象で初期値を決定する逆問題などの応用逆問題で上記の着想に基づいた数値解析手法を開発し、成果として公表した。(2)再生核ヒルベルト空間の手法をチホノフの正則化に適用した場合の近似解の安定性・収束の理論や正則化パラメータの最適な選択原理の講究を実施し、成果を出版した。逆問題個有の不安定性があり、データの微小変動に対して逆問題の解の偏差が極めて大きくなる可能性があるが、そのために正則化の数値計算のためには必要な離散化には特別の注意が必要である。すなわち、逆問題の数値解の精度をあげるために離散化を細かくしていくと、逆問題自体の不安定性からしばしば精度が悪くなる。そこで、逆問題の数値解法においては、要求されている解の精度の範囲において離散化の精度を適宜コントロールすることが必要不可欠である。これへの1つの解答を与えた。該当年度においては正則化法に有限要素法を用いて安定な数値解法を提案し、論文を完成させ公表した。(3)また、継続中の課題としては、再生核ヒルベルト空間の1つの数値手法である多重スケール核の方法の逆問題への応用についての研究があるが、これまで得た成果を本萌芽研究での知見を活用して将来的に大きく発展させる素地ができたと判断している。
著者
安井 至 中杉 修身 高月 絋 松尾 友矩 小島 紀徳 川島 博之 山地 憲治 定方 正毅
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

各研究分担者の研究課題については、各人の記述を参照されたい。ここでは、E40班全体としての研究活動について記述する。1.最終報告書の検討最終的な報告書の形態の検討を始めているが、現時点では、次のような形態を考えている。まず、当プロジェクト全体の結論を非常に分かりやすい形にまとめた一般図書を2冊発行する。1冊目は、新書として発行し、両方の図書ができるだけ多くの発行部数が期待できる形にしたい。この図書を目次として、さらに詳しく学術的にも厳密に記述された図書を何冊か発行するために、その企画を計画班の班長と共に検討した。2.共通データベースの構築E40全体としては、一般向けの報告書だけではなく、共通して利用できるデータベースの構築とその一般への公開を目指している。取り敢えず、なるべく多くのデータをコンピュータ可読の形にしておき、CD-ROMなどによるデータ提供を行う予定。3.電子的な手段による情報交換手法の活用E40内部の連絡は、できるだけe-mailなどの電子的な手法によって情報の交換を行い、その際に残った記録を上記データベースに活用できるような可能性を高めた。4.ビジュアルな方法論による結果の表示一般社会に結果をアピールするためには、最終的な結果が比較的短時間にしかもビジュアルなイメージとして受け入れられることが必要である。そのためには、WWW上で用いられる各種手法を検討しながら、最適な方法論を検討した。5.合宿形式による意思の統一本研究班は、以上のような日常的な情報交換によって結論への道のりを探るが、平成10年1月6日から7日に、豊橋ホリディインクラウンプラザにて合宿を行い、最終結論に向けての意見交換会をおこなった。
著者
大場 義夫 川畑 徹朗 丹 公雄
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.125-133, 1978-02-28
被引用文献数
1

We have two chapters in this study. Chapter 1. The main purpose of this chapter is to investigate the effect of Back Ground Music (B. G. M. ) , especially the effect of masking nuisance noises, in case of pupils' performing Intellectual-Tests. And we also investigated the reason why pupils learned their lessons at their homes under the conditions of B.G.M.. The main findings of this chapter is as follows; 1. B.G.M. used to mask nuisance noises softens the suffering given by nuisance noises. 2. In case of performing Intellectual-Tests, the condition under "B. G. M. with nuisance onises" is more efficient than that under "noises only". 3. The main reason of pupils' learning under the conditions of B.G.M. is not that they want to increase the efficiency of their lessons but that they want to listen to music itself. Chapter 2. This chapter is the sequel to our treatise reported in the preceding Bulletin of the Faculty of Education, Univ. of Tokyo, Vol. 16. We investigated whether the effect of music upon intellectual performance varies by each subject's skillfulness or not. We have the following conclusion. "Inhibitory effect" of music was obviously observed in those subjects who had lower skillfulness in performing Intellectual-Tests.
著者
郭 舜
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.121-151, 2007-03

昨今の地域主義の動きの中では,「共同体」という言葉が頻繁に登場する.しかし,そのような政治的な言説の盛り上がりに比して,地域主義における共同体概念の理論的検討はいまだ不十分であるように思われる.本稿は,そのような理論状況に鑑み,地域主義に焦点を当てつつ,社会理論における共同体概念の理論的な位置付けを探る試みである.それは,ロバート・マッキーヴァーの重層多元的な共同体観の一つの応用例を示すものであり,欧州連合(EU),北米自由貿易協定(NAFTA),東南アジア諸国連合(ASEAN)の3つの地域的な枠組みを具体的に取り上げて比較検討することで,理論の含意を明らかにするとともに,個人と社会の相互的な発展過程において地域主義の果たす役割について一定の展望を提示することを目指す.
著者
甲賀 かをり
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

妊娠高血圧症候群の病因として、胎盤の形成不全と、それによって胎盤から母体血流へ分泌されるsFlt1などの血管新生抑制因子の関連が知られている。今回の研究により①血栓形成などの際に生成するトロンビンが血管新生抑制因子であるsFlt1の胎盤での産生を刺激すること、②血管新生抑制因子であるsFlt1および血管新生因子であるPlacental growth factor (PlGF)の血中濃度を測定することにより、本症の予知が可能であること、が明らかになった。
著者
渡邊 雄一郎
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

1)SGS3はRNA-dependent RNA polymerase 6(RDR6)と協働してウイルス由来のRNAに対する小分子RNA、内在性のTAS遺伝子を前駆体とする小分子RNAの生合成に関わる。このSGS3とRDR6が相互作用すること、さらに新規な構造体SGS3/RDR6-bodyとなづけた構造に局在することが明らかとなった。mRNAの分解や貯蓄を担うProcessing-body(P-body)とは独立の構造であった。このことで、tasiRNA生成の過程で中間体が細胞内で複雑に、複数の会合体間を移動することが示唆された。今後一過的な発現ではなく、ナチュラルに近い状態での発現におけるSGS3/RDR6-bodyの存在、組織依存性、発生時期依存性を明らかとする必要性がでてきた。2)免疫沈降法によるAGO1と結合する3種類の候補タンパク質の解析をおこないかたわら、東京大学大学院理学系研究科の上田貴志氏に種々の細胞内膜系のマーカーを発現するラインをいただき、詳細なAGO1あるいはP-bodyとの関係を解析した。3)AGO1,RDR6タンパク質の発現の組織特異性、発生時期特異性を検討するために、各遺伝子のプロモーター(2-3kb)下流にGUS遺伝子をつなぎ、形質転換体を作成した。双方の発現はメリステム近辺で強いが、AGO1タンパク質は発芽後一週間ほど、RDR6はむしろそれに遅れて10日過ぎに発現が多くなることを見いだした。今後SGS3についても同様のプロモーター解析を行い、SGS3/RDR6-bodyの時空間的機能解析の重要性が明らかとなり、解析を継続している。
著者
堀之内 末治
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

A-ファクターは放線菌Streptomyces griseusにおいて二次代謝・形態分化を制御するγ-ラクトン型の微生物ホルモンである。A-ファクターと共同して機能を発揮するレセプター蛋白(ArpA)はDNA結合蛋白であり、A-ファクター非存在下では二次代謝・形態分化の開始に重要な遺伝子のプロモーター領域に結合し、その転写を抑えているものと考えられる。ArpAはA-ファクターと結合することによりDNAから速やかに解離する。本研究はArpAの機能の解明を中心にA-ファクターカスケードの全貌解明を目指したものである。1. ArpAのターゲット遺伝子に関する解析ストレプトマイシン(Sm)生合成遺伝子群の特異的アクチベーターをコードするstrRの転写活性化因子としてAdpA蛋白を精製したが、adpA遺伝子がArpAのターゲット遺伝子であることを証明した。本研究成果によってSm生産に関わるA-ファクターカスケードの主要経路を明らかにすることができた。一方、ゲルシフトとPCRを組み合わせた方法により、S.griseus染色体よりArpAが結合する配列を2つ取得し、周辺のDNA断片を取得し塩基配列を決定した。ArpAターゲット候補遺伝子に関しては、その転写制御機構および遺伝子破壊による生体内での機能について解析中である。2. X線結晶構造解析による3次元構造の決定Streptomyces coelicolorA3(2)のArpA相同遺伝子産物であるCprBの結晶化とその結晶化条件の最適化に成功し、結晶学的パラメーターを決定した。さらに、重原子置換体結晶のx線回折実験を行い、初期位相を決定するに至った。きわめて近い将来、CprBの3次元構造を明らかにすることができると考えている。CprBの3次元構造を決定できれば、比較的容易にArpAの3次元構造が決定できる。
著者
影山 和郎 村山 英晶 大澤 勇 鵜沢 潔 村山 英晶 大澤 勇 鵜沢 潔
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は潮流発電用複合材料製タービンブレードの実現を目標に、高せん断強度を持つ複合材料・構造の研究、複合材料ブレードのスマートストラクチャー化の研究、複合材料ブレードの成形技術の研究をすすめ、スケールモデルの評価試験を実施し、その結果から、日本近海への設置が検討されている潮流発電設備に適用可能な大型・実大タービンブレードを複合材料にて製造するための設計技術、製造技術について検討・評価し、その成立性と技術課題を明らかにした。
著者
上坂 充 中川 恵一 片岡 一則 遠藤 真広 西尾 禎治 粟津 邦男
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

医学物理および医学物理士のあり方については、日本医学物理学会、日本医学放射線学会、日本放射線腫瘍学会や厚労省関連の諸委員会にて長年議論されている。代表者らが主な活動の場としている日本原子力学会や日本加速器学会などに加わっている多くの学生、研究者、理工系大学教員が医学物理に興味を持ちその発展に参画したいと考えている。それらの方々が、放射線医療の新科学技術の開発研究を行っている。アメリカではこの40年で5,000人以上の医学物理士が単調増加的に誕生しているが、それには新技術の開発と普及が定常的に行われたことの証でもある。今の日本ではライナックを始め、国産治療装置が撤退し、輸入品に席巻されている。「研究開発型」医学物理士に掛けた思いは、輸入品のメンテナンスのみでなく、欧米のような機器開発を伴った医学物理の学問の創成と人材育成である。その議論の場を円滑に運営するため、日本原子力学会に「研究開発的医学物理」研究特別専門委員会を設立した。議論の対象として以下のテーマを設定した。1.イメージガイドピンポイント照射システム開発(1)X線・電子線(2)イオンビーム(3)中性子(4)レーザー、2.生体シミュレータ開発(1)DDS(Drug Delivery System、薬品送達システム)設計(2)人体線量分布高精度評価(3)薬剤流れの解析(4)治療計画の高度化、3.教育プログラムの充実と人材育成(1)欧米を目指したカリキュラム(2)大学院生の奨学金(3)ポスドク制度(4)留学。ここまで4回委員会(9月4日午前、28日、11月1日、2月28日午前)と2回の研究会(第6,7回化学放射線治療科学研究会、9月5日午後、2月28日午後)を開催し、上記テーマについて深く議論を行った。結果、1については白金が入ってX線吸収と増倍効果のある抗がん剤シスプラチンミセル、金粒子を手術して注入せず注射でがん集中させて動体追跡できる金コロイドPEG、シンチレータとPDT(光線力学療法)剤を一緒に送達してX線PDTを行う、3つのタイプのX線DDSの開発が始まったことが特記事項であった。また陽子線治療しながらPETで照射部が観察できる国立がんセンターの手法も画期的である。2については、粒子法による臓器動体追跡シミュレーションの可能性、CTのダイコムデータ形式からのシミュレーションメッシュデータ生成、地球シミュレータを使ったDDS設計など、日本に優位性のある技術が注目された。放射線医療技術開発普及のビジネス価値の定量分析(リアルオプション法など)も実用化に向けて有用である。教育体制につては、特に北大、阪大、東北大、東大にて整備されつつあった。これら革新的研究テーマと人材育成プログラムを、すでにスタートした粒子線医療人材育成プログラムのあとに用意すべきである。その際国際レジデンシー(研修生)など欧米機関との連携も重要である。アメリカMemorial Sloan Kettering Cancer Centerがその窓口としての可能性が高くなった。本活動は日本原子力学会研究専門委員会としてもう2年継続できることとなった。特定領域研究相当のものを立案してゆきたい。