著者
松永 典之
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

我々の住む銀河系は、どのような姿をしているのであろうか。その正確な形状や星々の運動状態については最終的な結論が得られていない。本研究では、その構造と進化を探るために、距離や年齢などが正確に得られる脈動変光星の探査と詳細な観測を行う。例えば、銀河中心領域に対する南アフリカ天文台IRSF望遠鏡での観測では、世界ではじめてセファイド変光星を発見し、その領域での星形成史を調べることに成功した。また、東京大学木曽観測所シュミット望遠鏡での探査でも、北半球の銀河面領域で多くの変光星を発見している。さらに、発見した天体の分光観測も行い、それらの運動なども調査し、銀河系の進化についての研究を進めている。
著者
佐藤 次高 加藤 博 私市 正年 小松 久男 羽田 正 岡部 篤行 後藤 明 松原 正毅 村井 吉敬 竹下 政孝
出版者
東京大学
雑誌
創成的基礎研究費
巻号頁・発行日
1997

1.中東、中央アジア、中国、東南アジア、南アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカを対象に、イスラームの諸問題を政治、経済、思想、歴史、地理など広範な分野にわたって検討し、近現代の政治運動、知識人の社会的役割、聖者崇拝など、将来の重要研究課題を明らかにした。2.和文と英文のホームページを開設し、研究情報を迅速に公開したことにより、日本のイスラーム研究の活性化と国際化を実現することができた。研究の成果は、和文(全8巻)および英文(全12巻)の研究叢書として刊行される。なお、英文叢書については、すでに3巻を刊行している。3.アラビア文字資料のデータベース化を推進し、本プロジェクトが開発した方式により、全国共同利用の体制を整えた。これにより、国内に所在するアラビア語、ペルシア語などの文献検索をインターネット上で簡便に行うことが可能となった。4.各種の研究会、現地調査、外国人研究者を交えたワークショップ、国際会議に助手・大学院生を招き、次世代の研究を担う若手研究者を育成した。とりわけ国際シンポジウムに多数の大学院生が参加したことは、海外の研究者からも高い評価を受けた。5.韓国、エジプト、トルコ、モロッコ、フランスなどから若手研究者を招聘し(期間は1〜2年)、共同研究を実施するとともに、国際交流の進展に努めた。6.東洋文庫、国立民族学博物館地域研究企画交流センターなどの研究拠点に、イスラーム地域に関する多様な史資料を収集し、今後の研究の展開に必要な基盤を整備した。
著者
堀 正樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

2007年度は、欧州合同原子核研究機構CERNの反陽子減速器施設を用いて、反陽子ヘリウム原子の二光子吸収分光実験を行った。そして、反陽子ヘリウム原子の二光子遷移エネルギーを、3ppbという世界最高精度で計測することに成功した。これによって、素粒子物理の基本的な定理と考えられているCPT対称性を、従来よりも高い精密で検証した。この実験では、まず反陽子ヘリウム原子を5ケルビンという低温標的中で100万個合成した。次に、出力波長を10桁の精度で安定化させたcwチタンサファイアレーザーをパルス増幅して、この光線を原子に照射した。この際に、特別な波長の組み合わせを利用することによって、原子内で非線形な二光子遷移をひきおこすことに成功した。次に、超伝導ポールトラップを開発して、振幅4キロボルト、周波数35メガメルツ、Q=100万の特性をもった空洞を実現した。このトラップは、高純度ニオブ製で、電子ビーム溶接を用いて建設したものである。超流動ヘリウムで常時、1.8度ケルビンに保たれる。ニオブ電極の表面では、数メガボルト毎メートルという非常に強い電場が発生するが、これによって電子が発生し、放電を誘発するという問題が発生した。現在、表面の洗浄方法や、電極の形状を工夫することによって、この問題を解決しようとしている。また、反陽子ビームを測定する新型の検出器を開発した。これは、厚さ数百ナノメートルのカーボンフォイルに反陽子が衝突した際、発生する二次電子をとらえて、高感度カメラで撮影する仕組みになっている。特殊な加速電極を用いることによって、数ナノ秒という超高速シャッターを切ることができる。
著者
友田 修司 下田 昌克
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

今年度はSe-Se結合をもつ3種類のホスト分子の新規合成およびX線構造解析を行った。さらにホスト分子に取り込まれた銅(II)イオンとSe-Se結合との間に容易に電子移動が起こることを示唆する実験結果が得られた。まず、セレンユニットの最も基本的なモデル系として、無置換のo-異性体o-C_6H_4(SeCN)COClにホスト部位を導入した後に-SeCN同士のカップリングを行い、クラウンエ-テル型ホスト分子(1)、クリプタンド型ホスト分子(2)、およびキレ-ト型ホスト分子(3)をそれぞれ合成した。合成したホスト分子(1,2)についてX線構造解析を自分で行い分子構造を明かにした。1は長方形の空洞をもち2個の金属イオンを同時に取り込む可能性がある。セレン原子の超原子価性に起因すると考えられる分子内相互作用が明かとなった。同様に2においても、SeとOの原子間距離が異常に短くなっており、これらの原子間に引力的相互作用が存在することが判明した。セレン原子の超原子価性は大環状分子の安定化に大きく寄与する一方で、ホスト部位の配座を固定化し、ポリエ-テル鎖の立体配座を歪ませている。3の構造を決定するため、塩化銅(II)とメタノ-ル中で攪はんして生じる緑色沈澱を集め、クロロホルムより結晶化したところ少量の濃青色結晶が得られた。これをX線構造解析したところ、銅は6配位でSe-Se結合が酸化的に返断されセレネニルクロリドとなっていることがわかった。これは銅とSe-Se結合との間に何等かの電子的相互作用があったことを強く示唆している。この錯体はメタノ-ル中でアルケンと反応させると、ほぼ定量的にメトキシセレン化反応を生起した。今後、この錯体の反応性解明も含めて、ホスト分子1-3の錯体合成とその構造・性質に関する検討を行って行きたい。
著者
杉山 純多 斉藤 成也
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

1980年代に登場した分子系統進化学の新しい波は、これまで形態学中心の保守的な立場を堅持してきた菌類分類学にも波及し、1990年代初頭より菌類の分類・系統進化の研究は、新しい局面に入った。すなわち、菌類分子系統分類学と呼ぶ新しい研究分野が登場した。そのような背景を踏まえて、本研究は当初次の諸点を明らかにすることにあった。1.分子進化学的手法を用いて、高等菌類系統論の鍵を握るタフリナ目(Taphrinales)菌類の系統進化的関係を明らかにする。2.担子菌酵母・アナモルフ酵母の超微形態学的、細胞学的研究を行い、それらの形質の系統進化学的指標としての評価を行う。3.分子と形態の両形質の多面的解析から、高等菌類における系統進化の現代的構図を提示し、分類体系再構築の手がかりを探る。4.分子系統樹作成法の開発。その結果、次のような特筆すべき研究成果が得られた。1.18S rDNA 塩基配列の比較解析から、タフリナ目菌類などの系統進化的関係を明らかにして、子嚢菌類中の新主要系統群として“Archiascomycetes(古生子嚢菌類")を提案した。2.分子と形態の両形質の解析から、85年にもわたり子嚢菌類と堅く信じられてきたMixia osmundae(=Taphrina osmundae)は、担子菌類のサビキン菌類系統群に位置づけられることを明らかにした。3.担子菌類における担子菌類系酵母の系統関係を明らかにした。4.高等菌類は単系統であるが、下等菌類のツボカビ類と接合菌類は多系統であることを提示し、さらに複数の系統で鞭毛の消失が起こったことを示唆した。5.植物寄生菌類Protomyces属菌種の18S rRNA遺伝子中にグループIイントロンを発見し、当該遺伝子の異種生物間における水平移動を強く示唆した。6.分子系統樹作成法について、最尤法を用いた分子系統樹作成への並列配列論理プログラムの応用を検討し、論理プログラム言語の一つであるKL1を適用して開発した。
著者
村田 雄二郎 久保 亨 水羽 信男 川尻 文彦 中村 元哉 小野寺 史郎 竹元 規人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

20世紀の中国史は、ナショナリズムや社会主義に加えて自由主義を受容した歴史でもあった。本研究は、自由主義の視点から、新たな中国近現代史像を提示した。その具体的な成果は『リベラリズムの中国』(有志舎、2011年)である。
著者
西原 克成 田中 順三 神田 重信 樺沢 洋 志村 則夫 松田 良一 丹下 剛 蔦 紀夫 梁井 皈
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

最終年度に当たる本年度は、脊椎動物の特徴である骨髄造血系の発生と鰓腸腸管呼吸器の肺呼吸への進化の相関性を人工骨髄器官を用いて骨髄造血巣を原始動物に発生させる実験進化学手法を応用して解明した。これにより骨髄造血系が主役として機能している免疫システムの本態を明らかにし、免疫病の発症の機序を解明し、予防法と治療法を樹立した。この結果、新しい免疫学の概念を樹立することが出来た。原始型の脊椎動物である二種類のサメ、ドチザメとネコザメ及びアホロートル・ゼノプスを陸上げする実験を行い、HLAの発生を解明した前年度に続いて、陸上げを境として白血球の性賞が革命的に変化し、同時に交感神経系と錐体路系が発生することを組織学的に世界に先駆けて検証する事が出来た。これによりこころと精神の発生までも明らかにすることが可能となり、免疫学とこころ・精神の関連性も解明された。本研究により原始型が高等動物の胎児に相当することを異種移植実験により完壁に検証し、ヘッケルの生命反復学説を分子生物学的に検証し、真性生命発生原則として提唱した。また陸上げ実験により、第二革命で鰓〓から発生する肺や胸腺、組織免疫系や交感神経系、臓器の栄養血管系のすべてがLamarckの用不用の法則にもとずいており、この法則が細胞遺伝子の引き金が物理化学的刺激によって引かれる化生(Metaplasia)で起こることを分子生物学的に検証した。これらの成果をBolognaで開かれた第13回国際シンポジウムCramics in Medicineで発表し多大な反響があった。脊椎動物を規定する骨の人工合成物質のヒドロキシアパタイト多孔体を用いて、生体力学刺激により進化で発生する高次組織の骨髄造血巣を、内骨格に軟骨しか持たないサメを用いて筋肉内に発生させる実験進化学手法により脊椎動物の3つの謎、すなわち進化の原因子、免疫システムの発生と骨髄造血系の発生原因のすべてが、重力作用への生命体の力学対応にあることを検証した。これにより新しい免疫病の治せる医学に立脚した正しい免疫学の体系が世界に先がけて樹立された。平成13年2月24日に日本免疫病治療研究会を発足させた。これらの業績を専門の雑誌の他に2001年度に7冊の本にまとめて出版した。年度内に研究を完成させることが出来たことは誠に喜ばしい限りである。
著者
山家 浩樹 林 譲 久留島 典子 鴨川 達夫 高橋 則英 高田 智和 馬場 基 大内 英範 耒代 誠仁 高橋 敏子 遠藤 基郎 山田 太造 渡辺 晃宏 小倉 慈司 高橋 典幸 井上 聰 谷 昭佳 川本 慎自 高山 さやか
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

「ボーンデジタル進捗状況管理システム」を構築して、無秩序に生成されがちなデジタル撮影画像(ボーンデジタル)を、組織として一貫して管理・運用するシステムを確立し、歴史史料のデジタル画像を共有する基盤を整えた。さらに、標準化された仕様に適合しないデジタル画像を、メタデータとともに管理する一例として、ガラス乾板など古写真を取り上げ、「ガラス乾板情報管理ツール」を開発して、ガラス乾板の研究資源化および保存にむけた研究を行なった。あわせて、具体例をもとに、デジタル画像を主たるレコードとするデータベースの構造転換に向けた研究を推進した。
著者
周東 美材
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、「童謡のメディア論--2雑誌『赤い鳥』における「声」の重層と再編」『社会学評論』234号(日本社会学会)の発表を中心として、本研究がこれまで主たる研究課題としてきた近代日本における童謡とメディアに関する歴史社会学的研究の実証的・理論的研究のまとめを行った。本論文では童謡における「声」と「文字」の文化の重なりを考察しながら、「文字」が作り出す「声」の文化のありようや、複製技術時代における音楽文化のありようについての提言を行ったものである。また、「鳴り響く家庭空間--1910-20年代日本における家庭音楽の言説」『年報社会学論集』21号(関東社会学会)では、蓄音機やレコードが音楽のメディアとして「家庭」という空間に浸透していくプロセスについて、それらのメディアが普及する以前の言説、とりわけ音楽雑誌における「家庭音楽」を取り上げて論じた。言説の内容や担い手、言及される音楽ジャンルの変化をたどりながら、レコード普及の言説といかなる関係を結び、接合していったのかを考察した。いずれの論文も研究課題である近代日本の音楽の歴史におけるメディアと子どもの関わりを論じたものであり、メディアによる音楽文化の再編を論じた点に特に独自性がある。ここで言う音楽文化の再編とは、「音楽」概念の再定義と、音楽の制作・流通・受容をめぐるシステムの再編制である。また、本年度は、高校野球における応援演奏に関する研究にも考察の範囲を広げた。いわゆる「夏の甲子園」を取り上げつつ、ブラスバンドによって演奏されている楽曲について論じたものである。甲子園における音楽レパートリーにはいかなるものがあるのか、そのレパートリーはいかなる仕組みによって生み出されているのかを考察した。これまで本研究では、主にメディア技術の変化による制度やシステムの再編を論じ、音楽内容の変化は付随的な変化として位置付けようとする傾向あったが、むしろこの論考では音楽テクストの変容を中心に考察し、音楽テクストをめぐって展開される媒介作用(メディエーション)の一様態を考究した。上記の各論文とも社会学のみならず、音楽学やポピュラー音楽研究に対し社会学の立場から一石を投じるものでもある。
著者
安藤 宏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

太宰治の肉筆原稿は現在確認されているものの八割近くが遺族によって日本近代文学館に寄贈されており、現在同館の「太宰治文庫」に収蔵されている。しかし、これらの原稿の調査は膨大な時間と人手を要するため、これまでほとんど手つかずの状態にあった。申請者はこのうち、いまだに原稿が全集に未収録の22作品、2648枚を対象に、そのすべてに関して訂正後、抹消跡の調査を行い、その成果をCDと二分冊の冊子に集成した。まず、初年度においては全国の原稿の所蔵状況を調査すると共に備品の整備を行い、近代文学館との協議を重ねた。二年目に、青森県近代文学館所蔵の太宰治の肉筆資料に関する貴重な調査を行うことができた。これらと平行し、2〜4年目にかけ、作業補助者の協力の下に現行の調査を推し進めた。本調査の成果は今後の同館の「太宰治文庫」閲覧に大きく寄与すると共に、海外を初めとする遠隔地にあって、原稿の閲覧が困難な研究者にとって、太宰治の原稿を一望できる貴重な資料といえる。また、作者が原稿を訂正しながら書き進めていく過程を再現したものとして、近代文学の原稿調査の方法に一つの実例を提示することができたものと考える。なお、本調査は日本近代文学館との協議のもとに、同館としてはじめて化学研究費補助金にもとづく貴重資料の調査許可を得たケースであり、今後の同館収蔵資料の共同調査のためのテストケースとして、さまざまな可能性を提示するものである。
著者
宮崎 信之 YANG Jian
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

有機スズ化合物は船底塗料や漁網の汚染防止剤などにつかわれ、世界各地で海洋環境に深刻な影響を及ぼしている。本研究では、中国と日本の代表的な水生動物に注目して、その汚染実態と生物影響を調査することを目的としている。(1)中国では、これまで有機スズの研究が少ないので、有機スズ化合物に関する規制が皆無である。本研究では、中国の太湖に五つの調査点を設け、指標生物ドブ貝(Anodonta woodiana)を採集し、プチルスズ(TBT、DBT、MBT)とフェニルスズ(TPT、DPT、MPT)化合物質を測定した。その結果、プチルスズとフェニルスズ化合物質が両方とも初めで検出された。その上、両類汚染物質が有意な地域の濃度差異が見られた。(2)日本三陸沿岸産イシイルカ(Phocoenoides dalli)の親子個体の組織濃度と負荷量を研究し、TBT、DBT、MBT及びTPT、DPT、MPTの蓄積の実態と親子の移行の実証及び特徴を明らかにした。更に、イシイルカ体内のプチルスズとフェニルスズ化合物質の代謝能力、特異的な蓄積臓器としての肝臓におけるチトクロムP450の活性の関係の比較研究を行った。その結果、プチルスズよりフェニルスズ化合物質に対する代謝能力が明らかに弱いことを発見した。これらの一連の研究は水生生物における有機スズ類汚染物資の蓄積、代謝及び毒性のメカニズムの解明に関する重要な知見が得られた。
著者
大西 剛
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究計画では1)単結晶基板表面上の分子層ステップの形状と密度を制御した上で、2)ヘテロエピタキシーと電界効果トランジスターへの応用、そして3)界面修飾による低次元導電層の形成を行う予定であった。テンプレートとなるSrTiO_3単結晶基板表面の分子層ステップの密度を制御する上で必要なSrTiO_3ホモエピタキシーをPLDにて行うに当たり、レーザーによる原料蒸発時にSr/Ti比がずれることが明らかとなると共に、それが分子層ステップの形状(ファセットの有無)を支配することがわかった。理想的なホモエピタキシーにはアブレーション条件を正確に制御し、Sr/Ti比が1となるようにすることが必要である。次に、そうして得たホモエピタキシャル薄膜が堆積された基板がなぜか導電性になってしまうことがわかった。これは真空中のPLDによるSrTiO_3薄膜の堆積によって、堆積した薄膜はもとより基板が酸素欠損していることに寄ることを突き止めた。詳細な実験の結果、導電性は酸素欠損した薄膜よりも酸素欠損した基板が担っており、薄膜が基板から酸素を引き抜いていることによることがわかった。この現象は酸化物薄膜であれば堆積する材料にはあまり寄らず、真空中でPLDによって薄膜を形成する際に避けられない現象であることがわかった。このSrTiO_3基板からの酸素の引き抜きをアブレーション条件、酸素分圧、基板温度を制御することで液体He温度で40,000cm^2V^<-1>s^<-1>を超える高移動度2次元導電層が作製できることがわかった。またこれらの導電性を表面形状を崩さすに消し去るには大気中での低温アニールが有効であることを突き止めた。
著者
釜江 常好 牧島 一夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

硬X線で偏光が期待される「かに星雲」と「白鳥座X-1」を気球搭載の偏光計PoGOLiteで観測し、当該天体での放射過程と磁場分布の決定を目指した。偏光計は2010年に完成し、スウェーデン北部のESRANGE気球基地で太陽パネル、制御系、通信系等を装備したゴンドラに組み込み放球の機会を待ったが、気球納入会社の不良品リコール、放球後のガス漏れ、天候不順などで観測出来ないまま3年の計画期間が終わってしまった。
著者
青木 幸昌 佐々木 康人 平岡 真寛 名川 弘一 斎藤 英昭 花岡 一雄 中川 恵一 青木 幸昌 澤田 俊夫 小林 寛伊
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

術中照射専用可動型電子線照射装置が完成した。電子線エネルギーは4,6,9,12MeVのいずれかを選択可能で、出力は最大10Gy/分、照射野は直径3-10cmが可能である。既存の手術場内に設置して、一人による装置の移動が可能である。米国、カルフォルニア大学において、臨床治験を開始した。同施設において、漏洩線量を測定した結果、1週間に12例、2400Gyを照射して、手術室周囲の最大検出線量は、室外のドア表面で72μシ-ベルトであった。従って、室内を放射線管理区域に設定することによって、追加遮蔽を要さないことが確認された。電子線エネルギーが大きくなるに従って、漏洩線量も増加することが示された。実際の運用は以下のようなものとなる。先ず、装置の保管室から手術場へ移送する。装置を規定の場所に設置し、ケーブル類をとりつけた後、QAに関するチェックを行う。この段階で放射線治療スタッフは一旦退出し、外科スタッフが装置にプラスティックキャップとドレープで装置を覆う。外科操作が完了すると、放射線治療スタッフとともに、使用アプリケータを選択する。手術台を照射装置まで移動させる。放射線スタッフがアプリケータを照射装置にドッキングさせ、照射線量と電子線エネルギーを決定する。スタッフは保管室に入り、モニタをテレビで観察しながら、約2分の照射を行う。この後、必要に応じて、手術操作を継続する。本装置を規制する法規として、科学技術庁関係の放射線障害防止法と厚生省関係の医療法について検討を行った結果、放射線障害防止法では装置の移動に関する問題はなく、放射線管理区域設定上の運用が問題となるのみと考えられるのに対して、医療法では、診断用高エネルギー放射線発生装置は決められた使用室で使用するとされており、今後の重大な検討項目となった。
著者
杉橋 陽一 長木 誠司 川中子 義勝 石光 泰夫 一條 麻美子 田中 純 中村 健之介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究からは芸術のメディア的戦略をめぐり、次のような成果が得られた。1.中世から近世への歴史的展開のなかで、文学や神学が印刷術などによるコミュニケーション上の組織化を通じて社会層や価値共同体の形成に寄与した実態が、実証的に究明された。2.身体表現を中心に複数の芸術が総合されて実現されたマルチ・メディア的な芸術の新しい情報伝達手法が、オペラやバレエ作品の実例に即し、歴史的に分析された。3.文学や文字メディアにおける俗語革命や出版の資本主義とその他のメディアによる情報流通のシステムの相互作用が、市民社会的共同体形成途上にあった近代のドイツにおける事例、および明治以降の近代日本における事例を相互比較しながら分析された。4.建築や音楽の言語性と象徴性が20世紀にかけて生じた機能性の増大と形態の抽象化等々の変動のなかで獲得した新たな意味論を、シェーンベルク以降の音楽および現代建築を対象として考究した。5.近代的な「イメージ」の成立機制を、19世紀に発明された写真というメディアをめぐる言説分析を通じて考察し、写真的<メディア戦略>のパラダイムの所在を追跡した。6.マクルーハン以降、現在のドゥブレによるメディオロジーやキットラーのメディア理論の批判的検討を行い、その理論的可能性を現代の舞踊・音楽などの芸術的実践の分析を通じて探究した。7.メディア・アートの領域において、芸術家同士、あるいは技術メディア自体のインタラクティヴな活動がはらむ新たな芸術形態の可能性を、現在の多様な創作状況に即して検証した。
著者
東畑 郁生 風間 基樹 柳沢 栄司 杉戸 真太 片田 敏行 岩下 和義 大川 出 石川 裕
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

既住の地盤の地震応答解析法が,軟弱地盤において振動を過小評価することを最大の問題としてきた。前年度までの活動で、軟弱地盤は硬い地盤よりゆれやすいと考えなければ被害の実態、あるいは過去の地震記録にあわないことも判明していた。そこで今年度は2とおりの解析方法を開発、あるいは提案した。第1の方法は、既住の等価線形化手法に周波数依存性の考えを取り込んだ。不規則な地震時加速度には低周波かから高周波まで、多くの成分が含まれている。低周波成分は変位やひずみを大きくし、高周波成分は最大加速度を発生する。また土の剛性や減衰比はひずみ振幅に依存する。大ひずみほど剛性は小さく減衰は激しい。従来の等価線形化解析では、算出された最大ひずみにもとづいて剛性と減衰比を調節してきた。そのためひずみの大きい低周波成分も歪の小さい高周波成分も、一律に同じ剛性と減衰比を与えられていた。最大加速度を与える高周波成分が、歪は小さいにもかかわらず、低周波成分の大きな歪に影響されて過大な減衰を与えられてきた。その結果、最大加速度は過小評価された。新しい手法では、周波数成分ごとに歪を評価し、それに応じて剛性と,減衰比とを独立に決定している。高周波成分の減衰比は小さくなり、最大加速度をより妥当に評価できるようになった。第二の方法では、地層の連続性という概念を導入した。沖積地盤は過去1万年あまりの連続した堆積作用の結果できた。堆積した土質は、一時時な洪水堆積物を除くと、連続である。土の年齢も連続であり、有効応力も深さ方向に連続である。したがって、土の動的性質は深さ方向に変化はしても連続である。この連続性が当てはまらないのは、地質学でいう不整合部分である。既住の解析では地盤を層や要素に分割し、層間では物性が連続していない。そのため余分な波動反射が起こり、振動エネルギーが地表まで到達しにくくなっている。そしてその度合は高周波ほど著しい。新しい解析では剛性が深さ方向に連続するものとしている。剛性を深さのべき関数としてあたえ、地盤振動の微分方程式を解析的に解いた。それによると地表付近に軟弱層が厚く存在しているときほど、連続性を考慮したことによる増幅特性の増加が著しい。現在までに減衰比も考慮した解析理論ができており、今後不規則振動と土の非線形性を考慮に入れていきたい。以上の成果は今後の事例研究を通じ、有効性の確立に努めていく。
著者
高鳥 翔
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

γセクレターゼはアミロイド前駆体蛋白質(APP)を切断し、アルツハイマー病(AD)の発症と密接に関連したAβペプチドを産生することからADの重要な創薬標的である。APP以外にも多数の1型膜蛋白質を基質とし、特にNotchの切断は悪性腫瘍の発症に関わることから、γセクレターゼ阻害剤はADのみならず悪性腫瘍に対してその有効性が期待されている。申請者はγセクレターゼ構成因子であるニカストリン(NCT)の細胞外領域に対してモノクローナル抗体A5226Aを作出し、本抗体が活性型γセクレターゼ複合体中のNCTを特異的に認識すること、またγセクレターゼ活性阻害能を有する中和抗体であることを見出した。本研究課題では、A5226Aの抗体医薬シーズとしての有効性を検証するとともに、新規創薬標的の開発に応用することを目的に研究を遂行した。本年度においては、A5226Aによるγセクレターゼ活性の阻害機構を詳細に解析した。A5226Aはγセクレターゼと基質の結合を阻害し、同時にγセクレターゼの発現量を減少させる間接的な機序を介して基質切断を阻害することを見出した。またA5226Aはγセクレターゼ活性依存的な増殖能を示す癌細胞の増殖を抑制した。さらにin vivoにおける効果を検証するため、γセクレターゼ阻害剤に感受性の白血病細胞株をマウス末梢血中に移植したxenograftモデルを開発、確立した。また申請者はA5226Aをプローブとしてγセクレターゼの新規結合分子を探索した。RNAi条件下でAβ産生量が減少する因子を選択した結果、テトラスパニンファミリー分子のCD81を同定した。CD81はγセクレターゼと基質の細胞表面膜からの輸送に関わることを見出した。
著者
大湾 秀雄 川口 大司 都留 康 都留 康 鈴木 勘一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

内部労働市場の機能や人事制度の効果を計測するために、従業員個人レベルの生産性/評価、報酬などが利用できる人事データのアーカイブ構築を目指した。大手企業向けERPパッケージの開発・販売会社ワークスアプリケーションズと(独)経済産業研究所との間の産学官連携プロジェクトとしてスタートし、平成25年度までに、製造業2社の人事データを用いた分析を進めた。(1)組織内で男女賃金格差が生じている背景として、出産後のキャリアの中断、および男女の労働時間格差がある、(2)就職氷河期に同期入社人数の減少を経験した世代は、長期的には昇進確率の改善により将来の報酬にプラスの影響がでる、等新たな知見を明らかにした。