著者
林 良博 小川 健司 九郎丸 正道
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

まず、ハタネズミ精子がマウスとハムスターの卵子以外の異種動物の卵子透明帯を通過できるか否かを検討した結果、ラット、マストミス、スナネズミの卵子透明帯は通過できないことが明らかとなった。一方、同種であるハタネズミの卵子透明帯への通過率は、マウスやハムスターに比べ、明らかに低率であった。しかもそれらの卵子はハタネズミ精子が侵入しているにもかかわらず受精していなかった。以上の事実から、この実験系では精子が受精能を獲得していないことが明白となった。次なる実験としてハタネズミの体外受精(IVF;in vitro fertilization)を試みた。精子の前培養時間を30分〜2時間、精子の濃度を前培養時1×10^7cell/ml、媒精時1×10^6cell/mlの設定条件でIVFに成功した。また培養液に1mMのハイポタウリンを加えることによって受精率は高率となり、ハイポタウリンは精子の前培養よりも媒精時に効果があることが示された。それらのIVF卵は培養してもほとんど胚盤胞期まで発生しなかったが、偽妊娠状態になった雌の卵管に移植したところ、正常な産子が作出できた。以上の一連の実験によってハタネズミの最適なIVF条件が確立でき、またこの方法によって作出したIVF卵は正常であることが判明した。さらに、ハタネズミ精子が先体酵素を利用して異種卵子透明帯を通過しているのか否かを確認するため、精子の先体酵素を不活性化して、受精を阻害する酵素(proteinase/hyaluronidase inhibitor)を培地に加えたところ、ハタネズミ同士の体外受精はほぼ完全にブロックされたが、ハタネズミ精子のマウス卵子透明帯通過はブロックされなかった。またカルシウムイオノフォアで先体反応を誘起し、先体内の酵素を放出させたハタネズミ精子であっても、マウス卵子透明帯を高率に通過することができた。したがってハタネズミ精子は、先体酵素を利用しないでマウス透明帯を通過していることが推測された。
著者
塩谷 光彦 三宅 亮介 田代 省平 宇部 仁士 竹澤 悠典
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究は、自己集合情報を内包した有機分子を合理設計し、金属イオンの特性を駆使した10 nmサイズの多成分系超分子の構築法を確立し、これらを「エネルギー変換」・「運動変換・伝播」・「物質変換・輸送」といった複合機能を有する超分子錯体システムに発展させることを目指した。その結果、複数の異なる基質分子(反応性有機分子、金属錯体等)の精密配列や変換反応を可能とする超分子反応場を構築し、分子配列の動的過程を世界で初めて観察することに成功した。また、金属イオンの自在配列、光エネルギーを用いた回転運動伝播制御、光駆動型多電子反応のための新しい超分子構造・機能モチーフの創出を達成した。
著者
武田 将明
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

18世紀初頭、英国小説は、匿名を用いて実録の体裁を取ることで、娯楽的なロマンスから現実的な文学様式を新たに作り出すことに成功した。しかし、事実によって虚構性を抑圧することは、小説の可能性を狭めることにもつながった。そこで18世紀中ごろから、この新様式の特徴を損なうことなく、いかに巧みなプロットを構築するかという試みがなされ、これと同時に作者の名前が表面化する。本研究は、18世紀英国小説におけるリアリズムと物語性との相互作用を、匿名性の問題と関連づけて考察したものである。
著者
横山 栄
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

本研究は、環境騒音に含まれる衝撃性騒音に着目し、騒音影響評価法を確立するために、実験的検討によって聴覚心理的な立場からエネルギーベースの評価量の適用範囲および限界を把握し、また、各種聴感物理量との対応を検討することで、学術的基礎資料を得ることを目的として実施した。フィールド調査および実験室実験による心理的影響評価の結果から、衝撃性騒音を含む環境騒音についてもエネルギーベースの評価量の適用可能性が示された。
著者
久我 健太郎
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

イッテルビウム系の重い電子系では初の超伝導体であるβ-YbAlB_4に見られる新しい量子臨界現象を理解するために、それと同組成で結晶構造の異なるα-YbAlB_4に鉄元素をアルミニウムサイトに置換し、その置換量を調節することにより磁気秩序を誘起することを試みた。その結果、磁気秩序の発見だけでなく、実際にSPring-8での測定に参加し、20Kにおけるイッテルビウムイオンの価数が、特に1%程度の鉄をドープした場合に大きく増加することを発見するという興味深い成果を上げることができた。室温における粉末X線回折から、価数の急峻な増加が起こる組成域において、格子定数も大きく減少することが分かり、その減少は価数の急峻な増加との関連が予想される。低温から室温にわたる温度範囲で価数が急激に増加することから、その価数の急劇な増加は非常に高いエネルギースケールを持っていることが分かる。また、このα-YbAlB_4の鉄ドープの詳細な極低温物性測定から、価数の急峻な変化が起こる組成域において、超伝導体であるβ-YbAlB_4でみられる振る舞いと酷似する量子臨界現象を発見した。これらの発見は、これらの系における量子臨界現象に反強磁性揺らぎのみならず、価数揺らぎが深くかかわっていることを示し、従来のスピン揺らぎによるものと異なり、質的に新しい量子臨界現象であることを示された。この成果から、量子臨界点の価数に関わる研究の発展が大いに期待される。
著者
塚本 勝巳 西田 睦 竹井 祥郎 木暮 一啓 渡邊 良郎 小池 勲夫
出版者
東京大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2000

5年間の研究活動により,次の研究成果を得た.【総括班】海と陸の物理・化学的環境特性と生物の生活史特性を比較することにより,陸の生命について得られた従来の生命観とは異なる「海の生命観」を考察した.【生命史班】魚類全体の大規模分子系統樹を構築した.DNAデータの時間較正を行い,条鰭類の根幹を構成する主要な系統間の分岐年代を解明した.深海化学合成生物群集の主要な固有動物群について,生態学的調査と分子系統学的解析によって,それらの進化過程の全貌を明らかにした.【機能系班】心房性ナトリウム利尿ペプチドが新しいウナギの海水適応ホルモンであることを生理実験で証明すると共に,その分子進化を明らかにした.アコヤ貝の貝殻形成に関わる新規基質タンパク質を同定し、そのアミノ酸およびcDNA配列を決定すると共に,その発現部位を明らかにした.ワムシの個体数変動過程に密接に関わる遺伝子を同定し,高感度定量法を確立して個体数変動に伴う遺伝子発現パターンの変動を明らかにした.【連鎖系班】海洋生態系の生物・非生物粒子の分布,動態を定量的に解明するための高精度解析系を整備した.非生物態有機物と微小生物群集の鉛直分布を明らかにすると共に,それらの相互の動的平衡メカニズムを解明した.植物プランクトンの色素組成,動物プランクトンの微細構造,細菌群集の系統群別の増殖特性の解明を通じ,海洋生物のミク仁な連鎖過程を解明した.【変動系班】高緯度水域において海洋生物資源が大きく変動する理由は,初期生活史パラメタの変動がその後の大きな加入量変動を引き起こしているためと明らかになった.化学物質による海洋汚染は海洋動物の生理や繁殖機能に障害を与えており,汚染の国際監視体制を構築することが重要であると指摘した.非定常性,複雑性,不確実性という特性を持つ海洋生物資源は,MSY理論に代わって順応的理論で管理されるべきであると結論した.
著者
日下部 元彦
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

宇宙背景放射の観測から推測されるバリオン密度に対して標準ビッグバン元素合成理論が予言する^7Liの存在度が、昔できた星で観測される存在度と一致しない問題がある。この問題の原因として、強い相互作用をするエキゾチックな重い長寿命粒子の効果が可能性として考えられる。宇宙初期に色を持つエキゾチックな重い長寿命粒子(Y)が存在すると、色の閉じ込めにより、強い相互作用をするエキゾチックな重い粒子(X)に閉じ込められると考えられる。Xの組成は、宇宙初期のクオーク・ハドロン相転移後に、2つのX粒子の衝突に付随する対消滅で減少する。X粒子は通常の原子核と束縛状態を形成し宇宙の軽元素組成に影響を与え得るのだが、その影響は宇宙で元素合成が起こる時期のXの存在度に依存する。今年度は、強い相互作用をするX粒子に閉じ込められる、色を持つY粒子の共鳴散乱を通した対消滅を研究し、Xの存在度について知見を得た。宇宙での2つのXの衝突の際に、YとY(Yの反粒子)で構成される共鳴状態を経由してY粒子の対消滅が起こると仮定し、Yの初期組成、質量、Xのエネルギー準位、YY共鳴状態の崩壊幅をパラメターとした時の対消滅率をモデル化してXの最終組成を計算した。採用した設定での結果として、X粒子の存在度は従来の見積よりも著しく大きくなる場合がある一方で、有意に小さくなる場合はなかった。最終組成の計算結果は、^7Liの組成が減少したり、^9BeやBの組成が増大したりするのに必要な量の見積値に達している。Xの最終組成は、相転移の状況に依存する可能性がある。粒子が軽元素組成に与えた影響が観測的に確かめられれば、相転移に関する情報を軽元素の始原組成から引き出せる可能性がある。将来、このように相転移の痕跡を調べられる可能性を指摘した。
著者
堀 裕次
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

Arl13bはArf/Arlファミリーに属する低分子量G蛋白質であり、近年の順遺伝学的手法を用いたスクリーニングにより、その欠失により繊毛の形態や機能に異常を生じることが明らかとなってきた。ヒトにおいてもArl13bの変異が繊毛性疾患であるジュベール症候群を引き起こすことが知られている。これまでに申請者らは、哺乳動物細胞および線虫を用いた解析により、Arl13bがN末端側に受けるパルミトイル化修飾により繊毛の膜に局在し、繊毛内物質輸送システム(IFT)を介した繊毛の正常な形成および機能に関与することを見出していた。本年度はArl13bの繊毛への局在化メカニズムの解明を試み、Arl13bのパルミトイル化酵素の探索を行った。その結果、Arl13bがゴルジ体に局在するパルミトイル化酵素によってパルミトイル化される可能性を見出した。そこで培養細胞を用いてゴルジ体からの小胞輸送系を阻害したところ、Arl13bの繊毛への局在量が減少し、代わりにゴルジ体に集積する様子を観察した。実際にゴルジ体からの小胞輸送系を遺伝子発現抑制法により阻害しても、Arl13bの繊毛への局在量が減少したことから、Arl13bがゴルジ体でパルミトイル化された後、小胞輸送系を介して繊毛へと運ばれている可能性を見出した。今後Arl13bの機能および局在化メカニズムのより詳細な分子基盤を探ることにより、繊毛の形態維持機構や繊毛性疾患の発症機構が明らかになることが期待される。
著者
高橋 慎一朗 末柄 豊 及川 亘 川本 慎自 加藤 玄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

日本中世の大寺院が都市・社会とどのように連携し、いかなる教育普及活動を展開したのか?という問題を、一次史料の調査収集のうえに追究し、中世ヨーロッパとの比較の視点を加えつつ考察した。長期にわたって宗教者・学者の再生産機能を果たした大寺院は「大学」としての性質を備えていたが、個々の宗教者・学者の拠る子院・塔頭が主要な教場であり、個人の活動に依拠する点が大きい点で、近代的「大学」とは異なっていた。その反面、そうした宗教者と都市知識人層との個人的な交誼関係によって、社会一般への柔軟な教育普及活動も可能となっていたことが明らかになった。
著者
佐倉 統
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、科学コミュニケーションにおけるメディアの役割と影響を明らかにし、今後の科学コミュニケーションのあり方を提言することであった。とくに、メディアと科学者とがどのような関係を構築することが科学コミュニケーションにとって健全かつ生産的なのか、モデルケースを提案し、マニュアルやハンドブックのような形で成果をまとめる作業が積み残されていたが、研究費の年度繰り越しによって、その成果をある程度達成することができた。具体的には、「科学者のためのコミュニケーション・ハンドブック-メディアの活用『話せる科学者』になろう-」というタイトルでパンフレットをまとめ、印刷製本した。部数は90部と多くはないが、学会やシンポジウムなどの機会に関係諸氏に手渡しで配布することを想定しており、科学とメディア、あるいは科学と社会のコミュニケーションにおいてキー(ハブ)となる研究者、メディア関係者に行き渡るには十分な部数であると考えている。このハンドブックの内容は、マスメディアやインターネットなどの特徴を分析した理論的考察と、実際にマスメディアと接触した科学者の経験に基づいた考察の二部からなる。理論的考察と実践的活動の融合を目指した。当初は、より汎用性の高いモデル構築を目指していたが、実際に事例を分析してみると、さまざまな要因が複雑に絡みあっており、単純なモデル化は困難であるばかりか、むしろ危険であることが判明した。そのため、安易なモデル化は避け、まずは現状の理論的考察と実際の活動との相互作用を地道に促進する作業を完成させるべきと判断した。
著者
桜庭 中
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

地球の液体金属コアの対流と,そこで生じる地磁気生成過程の数値シミュレーションを,高解像度の数値モデルをもちいておこない,いくつかの特徴的な地磁気変動を再現した。コアのねじれ振動については,自転軸に対して内向きと外向きに伝搬する進行波がみられ,コア乱流による励起が示唆された。地磁気西方移動は,高波数でかつ低緯度でのシグナルにおいて顕著であり,分散性の存在が示唆された。そこで粘性ゼロの回転流体球内に軸対称の磁場が存在したときの磁気不安定問題を線形解析し,遅い電磁流体波動の東西方向の伝搬特性を調べ,磁気西方移動との関連を議論した。
著者
服部 浩一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究で、研究代表者らは、凝固・血液線維素溶解系(線溶系)因子に代表されるセリンプロテアーゼや、膜型あるいは可溶型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)等の各種プロテアーゼの活性化を起点として、骨髄由来の造血系細胞群の腫瘍組織への動員が誘導され、そして白血病・リンパ腫をはじめとするがん組織微小環境―「悪性ニッチ」の構成・形成を通じて、腫瘍性疾患の病態を制御していることを示唆した。また本研究を通じて、研究代表者らは、線溶系阻害剤によるMMP活性と腫瘍増殖の抑制に成功し、白血病・リンパ腫を含めたがん・腫瘍性疾患に対する、線溶系因子を標的とした、新しい分子療法の可能性と有用性を提示した。
著者
石光 泰夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、舞台芸術のなかでも最も研究の遅れている舞踊というジャンルを採りあげ、基本作業としてまず舞踊を身体表現として包括的に解明できるような身体論の構築を図り、その上で、この理論でもって、実際に舞台に現前する舞踊の身体を統一的かつ多角的に捉えなおす試みをし、この試みをつうじて、それぞれのパフォーマンスの個性を浮かびあがらせるとともに、その現代的意義ならびに歴史的意義を明らかにしようとするものであった。そのために本研究は、1初年度から一貫して、舞踊する身体の理解に適用できるような身体論を、とくに精神分析に基礎をおいて確立することをめざし、その方面での研究成果を順次発表していった。2精神分析学を基にした身体論によって、新たな視点から近代西欧の舞踊の歴史を洗い直し、その現代舞踊における展開を必然たらしめるような、一貫したパースペクティヴを呈示できるような論文を発表した。特に近代西欧の舞踊の起源ともいうべきバレエがヒステリー的身体であることを明示する論文には力点をおいて作成するようにした。3現代日本において、パフォーミング・アーツを西欧とは異なる位相で独創的に実践するためには、日本の伝統的な舞踊との交錯が不可欠である。したがって1で得られた身体論が日本の古典芸能にどこまで適用できるかを慎重に考量し、日本の伝統的な身体表現を西欧起源のものと接続できるような座標軸を作るための論文を発表した。4洋の東西を問わず、理論的な成果を実際の舞踊公演等にフィードバックできるような試みをいくつか行った。そのさいに、コンピュータやデジタル機器による身体表現の構成を様々に実験して、きわめて有効な成果をあげることができた。
著者
横田 紘子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は強誘電体や圧電体においてみられる巨大応答特性の起因を解明し、その原理を利用した新規物質を開発することを目的としている。本年度はこれまで共同研究を行っているイギリスのOxford大学に2カ月半の間滞在し、圧電材料として広く利用されているPb(Zr,Ti)O_3(以下PZT)の構造解析を行った。PZTにおいてはTi濃度が48%近傍において2相の境界が温度に対してほぼ垂直になるようなmorphotropic phase boundary (MPB)が存在し、この付近では誘電,電気機械定数が最大値をとることで知られている。このことはMPB近傍において対称性が著しく低下することによるものだと考えられてきた。しかしながら、申請者らは詳細な構造解析を行った結果、室温において低対称相と高対称相とが共存した状態になっていることを明らかにしてきた。このことから、PZTの相図を見直す必要があるのではないかと考え、温度,組成を変化させ構造解析を行った。その結果、PZTは常に2つ以上の相が共存する混晶状態であることが明らかとなった。すなわち、PZTにおいては対称性が低下することよりも、むしろ異なる相が共存することにより系全体が揺らいだ状態になることで巨大物性がもたらされるといえる。このような考え方はほかの凝縮系にも適用することができるユビキタスな概念であるといえる。これのら結果について、申請者は国際学会の場で発表を行い、2つの奨励賞を受賞している。また、新規物質をつくるという研究においてはパルスレーザー堆積法を利用した薄膜づくりを精力的に行ってきた。特に、マルチフェロイックス物質において一般にみられるdゼロネス問題を持たないことが期待される希土類遷移金属酸化物に着目をし研究を行ってきた。
著者
平松 彩子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

特別研究員として採用された平成二一年四月から、特別研究員を辞退した同年八月までの五ヶ月間に、下記二点の研究成果をあけた。(1)共和党多数であった一九九五年から二〇〇六年までの米国連邦議会下院二大政党においては、政党のイデオロギー的分極化が進み、政党指導部による党議拘束の強化が図られたとされてきた。このような中、五つのイデオロギー的議員連盟(民主党プログレッシブ・コーカス、ニュー・デモクラット・コアリション、ブルードッグ・コアリション、共和党チューズデー・グループ、リパブリカン・スタディー・コミッティー)が、次の役割を果たしていたことが本研究から明らかになった。まず政党指導部選出過程においては、共和党穏健派が党内古参の保守派下院議長を支持し、共和党保守派内での世代間の対立が存在した。民主党内では、指導部支持基盤がリベラル派と保守派に別れていた。また本会議投票では、環境保護政策、均衡財政法案、対中国貿易自由化法案に関して、二大政党の内部は分裂していた。さらに下院農業委員会においてブルードッグ・コアリション所属議員の占める割合が高く、また司法委員会ではプログレッシブ・コーカスとリパブリカン・スタディー・コミッティー議員が多く所属し、同委員会においてイデオロギー的対立が生じやすい構成となっていた。以上の内容を、論文として公表した(「11.研究発表」の第一項参照)。(2)Sean Theriault,Party Polarization in Congress.(Cambridge University Press,2008)の書評を執筆した(「11.研究発表」の第二項参照)。同書は、一九七三年以降およそ三十年間にわたり議会二大政党が分極化した理由を、本会議投票における審議手続き投票の増加に求める。同書の貢献は、審議手続き投票の増加を可視化し、その増加の論理を明らかにした点にある。また同書に対する批判として、同書が法案の実質の内容を考慮しない点が挙げられる。イデオロギー的議員連盟を通じた議会政治分析は、同書の弱点を補完しうるものと考えられる。
著者
荒川 泰彦 NA Jongho
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、窒化ガリウム半導体(GaN)量子ドットの形成技術の確立に関しては,GaN量子ドットデバイス用ウェハの作製をおこなった。単一ドットを用いた量子情報デバイスに最適な低密度量子ドット、高品質半導体膜形成の成長条件を見出した。これと並行して,新しい半導体材料である有機半導体に関する研究にも取り組んだ。有機半導体に関する研究としてはフレキシブル基板上のNチャネルおよびPチャネル有機トランジスタの低電圧化に取り組んだ。また,その応用として,フレキシブル基板上にNチャネルおよびPチャネルの有機トランジスタを形成しCMOS回路を構成し,CMOS回路の動作に成功した。駆動電圧は2-7Vと有機トランジスタとして極めて低い電圧である。さらに,フレキシブル基板上のCMOS回路の高性能化を図るため低温製膜可能な無機酸化物半導体の開発にも取り組んだ。結果として,低温製膜においても移動度17cm2/Vsという値が得られ,有機半導体と比較すると極めて高い移動度が達成できた。また,低電圧駆動の有機トランジスタに用いた技術による酸化物トランジスタについても数Vでの動作を可能にした。上で述べたように,有機トランジスタおよび無機酸化物トランジスタは低温で製膜可能なため,フレキシブルデバイスへの応用が可能であり,本研究で得られた結果は,有機のPチャネルトランジスタと無機酸化物のNチャネルトランジスタを組み合わせた,フレキシブル基板上の高性能CMOS回路の実現を期待させる結果である。
著者
大場 秀章 塚谷 裕一 秋山 忍 若林 三千男 宮本 太 池田 博 黒沢 高秀 大森 雄治 舘野 正樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.現地調査:ネパール、ミャンマーおよび中国にて下記の調査を行った。調査の主目的は、種子植物相を詳細に調査し、標本を収集すること、ならびに繁殖システムと動態、変異性を観察し、さらに帰国後の室内での分析に必要な試料を採取することである。(1)ネパール:ジャルジャル・ヒマール地域(1999年8月から9月);東部地域(2001年5月から6月)。(2)ミャンマー:中部地域(2000年8月)。(3)中国:雲南省梅里雪山・中旬県(1999年8月から9月);チベット東部(2000年7月から8月);雲南省西北部、チベット東・中部(2001年7月から8月)。2.収集した標本・試料等にもとづく分析 (1)分類学的研究:採集した標本を中心に同定を行い、新種ならびに分類学上の新知見について発表を行った。(2)細胞遺伝学的解析:Saxifraga(ユキノシタ科)、Potentilla(バラ科)、Impatiens(ツリフネソウ科)、Saussurea(ともにキク科)等で、染色体を解析した。(3)帰国後の分子遺伝的解析:Rhodiola(ベンケイソウ科)、Saxifraga(ユキノシタ科)、Impatiens(ツリフネソウ科)、Saussurea(ともにキク科)等で分DNAを抽出し、rbcL、ITS1、trnF-trnL non coding region(trnF-L)の遺伝子領域で解析を行っている。
著者
渡部 賢
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

マツ材線虫病によるマツ類の集団枯死が,マツ林生態系の炭素動態に与えるインパクトを調べることを目的として,東京大学愛知演習林新居試験地において,固定プロット内での毎木調査による純一次生産量(NPP)の調査と同試験地に残存している被害木の分解呼吸量の調査を実施した.調査を実施した新居試験地は,1929年より海岸の砂丘にクロマツを主体とした造林をおこなわれ,1998年からマツ材線虫病被害が本格化し,最近,その被害が収束し,生き残ったクロマツと枯死したクロマツが混在しているような試験地となっている.毎木調査によるNPP推定結果と分解呼吸速度を用いて,マツ材線虫病被害が甚大であった過去10年間における同試験地(23ha)のマツ林生態系の炭素収支を見積もった結果,同試験地は75 tC 23ha^<-1> 10yr^<-1>の炭素を大気に放出していることがわかった.また,現時点で分解されていない枯死木が,今後数十年にわたって,同試験地の炭素循環に影響を与え続けると考えられた.分解呼吸速度の測定は,大型の測定チャンバーを用いて,同試験地内にハイ積みされているクロマツ枯死木の丸太を対象に実施された.その結果,丸太の分解呼吸速度と丸太の温度および体積含水率の間には,正の相関が認められた.本研究のように,林地に残存する倒木の分解呼吸速度を調べた事例は非常少ないため,本研究で得た結果は,今後の森林の炭素循環と病虫害による集団枯死との関係を論じる際の基礎的な知見として重要である.
著者
ANTWI Effah Kwabena (2011) 武内 和彦 (2009-2010) ANTWI Effah Kwabena
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、研究のコンセプトとデータ収集のための更なる知識、データ準備・分析に必要な理解を得るために、研究に関する更なる文献調査を行った。ガーナにおける複雑な土地利用変化の要因を理解するために、データ収集・分折の統合的なアプローチが必要であり、コミュニティの重要なステークホルダーとの協議、コミュニティとの交流、土地被覆変化の分析と炭素濃度測定のための地理情報システム(GIS)とリモートセンシングの使用を行った。また、研究成果報告として国連大学サステイナビリティ平和研究所の学術会議で最終発表を行った。ガーナへの現地調査は、主導・協働の共同研究の構築、生態域からのデータ収集、土地利用調査の遂行、土地被覆変化の原因調査、異なる土地被覆の炭第濃度のマッピングを目的とした。変化する景観と異なる土地被覆タイプにおける陸地の炭素濃度を測定するため、1990年と2000年にガーナの衛星画像(LANDSAT TM)から得られた土地被覆マップが使用された。研究結果としては、1990年から2000年のガーナにおいて、異なる土地被覆タイプに関する顕著な増加と減少、つまり農耕地、乾燥疎開林、森林農業・市街地に著しい増加が見られた。ガーナの林地はかなりの勢いで減少を続け、さらに林地の多くの地域が農業活動や、その他の土地被覆タイプに変化しており、多くの混地帯と水塊は上述した調査期間の間に干上がっていた。土地被覆タイブの変化はガーナを隔てる各地域における穀物生産、生息分布、土壌炭素濃度、生活形態に多大な影響を与えている。土地利用強度は、居住環境の豊かさ、不均一性、分断化、および形状複雑性の増加に起因している。部分的な土地利用変化とその他の要因による地域の食品保障格差はガーナの持続可能な開発にとって依然電要な問題である。基本的には6つの土地被覆タイプがガーナの炭棄貯藏の99パーセントを担っており、炭素の増減が総針貯蔵量に多大な影響を与えているのである。