- 著者
-
渡部 賢
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2009
マツ材線虫病によるマツ類の集団枯死が,マツ林生態系の炭素動態に与えるインパクトを調べることを目的として,東京大学愛知演習林新居試験地において,固定プロット内での毎木調査による純一次生産量(NPP)の調査と同試験地に残存している被害木の分解呼吸量の調査を実施した.調査を実施した新居試験地は,1929年より海岸の砂丘にクロマツを主体とした造林をおこなわれ,1998年からマツ材線虫病被害が本格化し,最近,その被害が収束し,生き残ったクロマツと枯死したクロマツが混在しているような試験地となっている.毎木調査によるNPP推定結果と分解呼吸速度を用いて,マツ材線虫病被害が甚大であった過去10年間における同試験地(23ha)のマツ林生態系の炭素収支を見積もった結果,同試験地は75 tC 23ha^<-1> 10yr^<-1>の炭素を大気に放出していることがわかった.また,現時点で分解されていない枯死木が,今後数十年にわたって,同試験地の炭素循環に影響を与え続けると考えられた.分解呼吸速度の測定は,大型の測定チャンバーを用いて,同試験地内にハイ積みされているクロマツ枯死木の丸太を対象に実施された.その結果,丸太の分解呼吸速度と丸太の温度および体積含水率の間には,正の相関が認められた.本研究のように,林地に残存する倒木の分解呼吸速度を調べた事例は非常少ないため,本研究で得た結果は,今後の森林の炭素循環と病虫害による集団枯死との関係を論じる際の基礎的な知見として重要である.