著者
越智 秀明
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

本年度は、前年度に注目した18世紀ヨーロッパにおけるポーランド・リトアニア共和国(以下、ポーランド)を対象とした言論の研究を進めるべく、まずはヴォルテールのポーランド論を検討した。ポーランド国内においてカトリックによる反動的不寛容が蔓延していたことは、ヴォルテールの関心をひくきっかけではあったが、それだけに止まらず、ポーランド分割を複数の複雑な文脈の中で捉えていることがわかった。特にポーランドの状況には、国内における王政派と共和派の対立、ロシアやスウェーデン、デンマーク、プロイセンといった所謂「北方」諸国の台頭やオスマントルコ帝国の弱体化といった国際パワーバランスの変化が大きく関わっていると捉えている。以上の研究をまとめたものを、2020年度政治思想学会大会自由論題報告において報告する予定である。また、この研究と並行して、当時のポーランドを左右しえた言論状況を検討すべく、共和派の言論(ルソー、マブリ)、バール連盟関係著作(ヴィエルホルスキ、パッツ)、ポーランドをフランスの身近な存在にした諸著作(コワイエ、ダルジャンソン)、直接政治の現場にたった王の諸著作(エカチェリーナ、フリードリヒ、スタニスワフ=アウグスト)、ポーランド啓蒙の著作(スタニスワフ・レシチニスキ、コナルスキ)などの著作の検討を始めた。このうち、ある程度進展している共和派の言論とバール連盟関係著作に関する研究については、2020年度社会思想史学会研究大会で報告する予定である。博士論文の完成には至っていないが、以上の研究を進め、まとめていく予定である。
著者
大崎 果歩
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

本年度は前年度に引き続き、『杜翁手澤聖書』と呼ばれる、トルストイ自身による赤線や青線、取り消し線の書き込みがみられるロシア語福音書に関する分析を行った。1880年代初頭に書かれた『四福音書の統合と翻訳』と、1896年に刷られたロシア語福音書への書き込みの間には十数年の時間のずれがあり、その間にどの程度トルストイの聖書観に変化がみられるかという問題については引き続き調査が必要であるものの、トルストイ自身の書き込みと、『四福音書の統合と翻訳』で示された彼の聖書読解を照らし合わせることによって、彼が行った書き込みの背後にある、かなりの程度統一された基準とその根拠を明らかにすることができた。また本年度は、コロナウイルス感染拡大によりモスクワや東京の研究施設へのアクセスが制限され、資料収集や研究上の交流が困難な状況に陥ったが、それまでに収集した資料をもとに先行研究を読み込み、またトルストイのキリスト教観に対してロシア正教会の高位聖職者が示した反応の整理も行った。加えて、神学博士で、ロシア正教会渉外局長の座についているイラリオン(アルフェエフ)府主教が著した『カテヒジス――正教信仰への案内』という、正教の神学や奉神礼、教会暦、聖人、イコン、教会建築等の基礎がわかりやすく解説されたロシア語書籍の共訳を行った。現在は出版にむけて校正を行っている最中である。研究成果に関しては年度内の公開が間に合わなかったが、新型コロナウイルス感染症の影響による半年の採用延長が認められたため、来年度前期に英語口頭発表と日本語論文発表を予定している。
著者
山室 真澄 管原 庄吾 小室 隆
出版者
東京大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

大型底生緑藻の異常繁茂が、世界の多くの海岸や淡水域で発生している。日本でもアオサや糸状藻類の異常繁茂が各地で報告されている。原因として栄養塩の増加など、増える要因を検討するものが多い。本研究ではシオグサ属大型底生緑藻の異常繁茂により湖岸が極端に嫌気的になり、水鳥の大量死など生態系が著しく撹乱されている北米の五大湖で現地調査を行い、なぜ減らないかという観点から検討する。具体的にはシオグサの補食者の状況を確認し、捕食者が存在する場合は捕食しない原因を検討する。捕食者が少ないか不在の場合は、流入河川など周辺水域に緑藻を捕食する動物がいないかなどを調査し、補食者の復元・導入方法について共同研究を行う。
著者
金 蓮玉
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2015

審査委員会委員 : (主査)東京大学教授 鈴木 淳, 東京大学教授 野島(加藤) 陽子, 東京大学教授 保谷 徹, 東京大学教授 横山 伊徳, 東京大学名誉教授 藤田 覚
著者
肥爪 周二
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、平安・鎌倉時代の訓点資料を中心とした、一次資料を利用することにより、日本語の音節構造の歴史を明らかにしようとするものである。研究代表者は、開拗音・合拗音、二重母音・長母音、撥音・促音、清音・濁音のそれぞれについて、従来の学説とはかなり異なる見解を提出してきたが、本研究においては、それらを補強あるいは修正するための具体的なデータを収集した。この成果は『日本語音節構造史の研究』として、2018年度中に刊行予定である。
著者
渡辺 優
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

「神秘主義」は、「宗教とは何か」を問う宗教学にとって、最重要テーマのひとつであり続けてきた。この神秘主義の理解について、本研究を貫く問いは、これまで支配的であった「神秘体験」中心のそれとは異なる、別様の理解がありえたのではないか、ということである。この「ありえた別様の神秘主義の可能性」を求めて、本研究は、一方では、中近世の神秘主義的「経験」概念と近代神秘主義論における「体験」概念の相違と、前者から後者への変容の歴史的要因を問う。他方では、近代的体験概念とは異質な経験概念を核とする近世神秘主義の系譜が、近現代に消失してしまったのではないとすれば、どこに・どのように見いだせるかを探る。
著者
齋藤 秀司
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

ホッジ予想はクレイ研究所が提出したミレニアム問題のひとつである.変動的ホッジ予想は,ホッジ予想よりは弱い予想であるが,アーベル多様体にたいしては同値である.最近の進展によりこの問題は,形式的スキームの代数的K群にたいする代数化の問題に帰着された.これはGrothendieckの偉業である形式的存在定理を大きく一般化する難題でこれまで一般的アプローチは知られていなかった.本研究は,リジッド解析空間のK理論を新たに構築することにより, リジッド解析的手法を上記の問題に適用する新たな道筋を開いた.
著者
浅野 路子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

ASD児を対象とした研究では、子どもの向社会性の獲得には、母親だけではなく父親の応答や働きかけが重要であるとの報告があり、父親の子どもとのかかわりの重要性が示唆されている。しかしながら、父親の相互作用に関連する神経基盤を明らかにした研究は未だ無い。また、父親と母親では、子どもに対する評価に違いがあるとの報告があることから、相互作用に関連する神経基盤に違いがある可能性がある。本研究では、定型発達児の父母とASD児の父母を対象に、父子間および母子間の相互作用の質を評価し、その質と神経基盤との関係を明らかにする。さらに母親の神経基盤と父親の神経基盤の違いを明らかにする。
著者
松尾 梨沙
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2021-08-30

フリデリク・ショパン(1810-49)の創作において、彼が実際に使用していた楽器(ピリオド楽器)の変遷が、その作曲にどう影響し得たかを検証する。とりわけ「強弱設定」に軸を置きつつ、彼の作品における重音連打書法と、彼の愛奏した楽器(特にプレイエル製)の年代や楽器毎のメカニズムとの関係がもたらす効果について考察する。1年目はテレワーク中心でも可能な調査(オンライン資料閲覧、19世紀の楽器構造に関する国内外の書籍の収集・読解)から開始する。2年目はフランスを拠点とした海外での楽器博物館調査を開始する。さらに分析対象をグランドピアノからピアニーノ(縦型ピアノ)にまで広げる。
著者
金 允姫 橋爪 真弘 本田 靖
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

気温は自殺との関連が高い気象因子として考えられ、気温の上昇と自殺リスクの増加に関する多くのエビデンスが報告されてきた。しかし、正確な気温-自殺の非線形関係を推定する研究は不足していた。本研究は、12カ国341都市・地域の自殺死亡者数と気象データを収集し、同一の統計解析法を用いて気温-自殺の非線形関係について包括的な研究を試みた。結果、気温-自殺の非線形関係は全体的に気温上昇に応じて自殺リスクの増加が観察されたが、非常に高い気温では、自殺リスクがもはや増加せず、水平状態に達したり、わずかに減少することが明らかになった。また、非線形推定曲線を介して自殺リスクが最大となる臨界温度範囲を確認した。
著者
山本 博文
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1992

博士論文
著者
小野 秀樹 太田 茂
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

我々は覚醒剤の構造関連化合物である4-フェニルテトラヒドロイソキノリン(4-PTIQ)が覚醒剤のアミン放出作用を選択的に抑制することを示してきた。本研究においてはまず覚醒剤のドパミン放出作用の作用部位と考えられるドパミントランスポータに対する4-PTIQの直接的な作用について検討した。ラット由来のドパミントランスポータをCOS-7細胞に発現させ、^3H-4-PTIQのドパミントランスポータに対する作用を研究した。^3H-ドパミンの取込実験からNa^+および温度依存性の取込が観察され、COS-7細胞にドパミントランスポータが発現していることが確認された。また、^3H-4-PTIQにおいてもNa^+および温度依存性の取込が観察された。^3H-4-PTIQのドパミントランスポータに対する結合実験をおこなったところ、kd=727nMの特異的結合が明らかになった。以上から4-PTIQはドパミントランスポータに結合して覚醒剤と同様にアミン神経終末に取り込まれるが、覚醒剤が持つアミン放出作用は弱いため、なんらかの機序で覚醒剤のアミン放出作用を抑制するのではないかと考えられた。次に4-PTIQの臨床応用をめざし、覚醒剤慢性中毒のモデルである逆耐性動物を用いた研究を行った。メタンフェタミンを3-4日おきに4回皮下投与すると移所行動増加作用が強くなった。5回目投与前に側坐核にプロプラノロールを投与すると移所行動の増加が抑制されたが、プロプラノロールは覚醒剤の1回目投与では抑制しなかった。4-PTIQは覚醒剤の1回目の投与時でもこれを抑制するため、4-PTIQは逆耐性に選択的とは言えなかった。以上から4-PTIQは覚醒剤慢性中毒モデルには有効ではないと思われ、今後、急性モデルを用いる研究が必要であると考えられた。
著者
御厨 貴 牧原 出 手塚 洋輔 佐藤 信 飯尾 潤
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

政治主導が高まる中で,多様な政策分野で活用されつつある有識者会議に注目し,その現代的変容を解析した。その成果として,(1)災害復興や皇室政策といった個別領域における有識者会議の作動について研究した。(2)聞き取りの方法論に関しても,近年の動向を踏まえて,整理と提起を行った。(3)現代的な変容の一つとして,同種のテーマで繰り返し有識者会議が設置され,しかも同一の委員が長期にわたって参画するという新しい傾向を指摘できる。
著者
越野 裕子 大野 耕一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

猫伝染性腹膜炎 (FIP) は、猫コロナウイルス (FCoV) の感染によって引き起こされる、猫において最も重要な致死性感染性疾患の一つである。しかしFCoVに感染した猫の多くはFIPを発症せず、無症候あるいは軽度消化器症状を呈するキャリアーとなる。キャリアー猫から分離されたFCoVであるFECVと、致死性のFIPを発症した猫から分離されるFCoVであるFIPVの決定的な違いは未だに明らかではない。本申請では両者の違いについて検証を行うため、まずは自然感染症例からのウイルス分離を試み、そのウイルス性状をin vitroで明らかにするとともに、宿主の臨床情報との関連を検討するものとする。
著者
小貫 啓史
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

量子計算機に耐性を持つ暗号(耐量子計算機暗号)の候補の1つである同種写像暗号の安全性を評価する。同種写像暗号は、耐量子計算機暗号の候補の中でも暗号通信で送信されるデータ量が小さいという特徴を持つことから注目を集めている。同種写像暗号の安全性は同種写像問題と呼ばれる問題の困難性を根拠としている。本研究では、超特異楕円曲線上の同種写像問題に対して、その自己準同型環の部分情報に基づいて困難性の解析を行う。