著者
片岡 孝夫
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

細胞傷害性T細胞(CTL)はパーフォリン依存性経路およびFasリガンド依存性経路によってウイルス感染細胞や腫瘍細胞を殺傷する。エポキシシクロヘキセノン誘導体ECHやRKTS-33は、カスパーゼ8の活性化を阻害し、Fas依存性のアポトーシスを特異的に阻害する。ECHやRKTS-33は、CTLによるFasリガンドの発現誘導に対する抑制作用が弱かったが、パーフォリンを発現していないCD4^+CTLやコンカナマイシンAで処理したCD8^+CTLによるFasリガンド依存性の細胞傷害経路を強く抑制した。しかしながら、ECHやRKTS-33はCD8^+CTLによるパーフォリン依存性の細胞傷害経路を抑制しなかった。これらの結果から、ECHやRKTS-33は、CTLの細胞傷害機構において、Fasリガンド依存性経路の特異的な阻害剤であることが明らかとなった。タンパク質合成阻害剤アセトキシシクロヘキシミド(E-73)は、IL-1による転写因子NF-κBの活性化を抑制せず、TNF-αによるNF-κBの活性化を選択的に抑制する。ヒト肺がん腫A549細胞をE-73で処理すると、TNFレセプター1のA549細胞における発現量が減少し、低分子量化したTNFレセプター1が培地中に増加することが観察された。メタロプロテアーゼ阻害剤GM6001やTACE(TNF-α converting enzyme)阻害剤TAPI-2で前処理すると、E-73によるTNFレセプター1の培地中への蓄積が抑制された。以上の結果から、E-73はTACEによるTNFレセプター1のシエディングを誘導することによって細胞表面のTNFレセプター1の発現量を減少させ、TNF-αに対するA549細胞の反応性を低下させることが明らかとなった。
著者
時松 孝次 田村 修次 木村 祥裕 鈴木 比呂子 内田 明彦
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

近年の地震では、近接した同一条件地盤にある建物間で、杭が損傷し上屋は無事であった事例、逆に、杭は無事で上屋が損傷した事例が認められた。このことは、地盤と構造物の相互作用を理解して構造物設計に反映することで、上屋の応答を低減するとともに基礎被害を防止する可能性を示している。そこで、本研究では、地盤と構造物との非線形動的相互作用の理解を深め、その効果を積極的に利用して、上屋応答と基礎応力の低減を図る基礎構造の可能性を検討し、併せて基礎の合理的設計法、限界状態設計法確立に資する試料を整備するために、遠心載荷振動実験、大型振動台実験、数値解析に基づく検討より、次のことを示している。1)土圧、側面摩擦、構造物慣性力の作用の組み合わせは地盤変位と基礎変位の関係、地盤固有周期と構造物固有周期の関係、液状化層厚により整理できること、(2)群杭の地盤反力は非液状化地盤では前面杭で大きくなるが、液状化地盤では隅杭で大きくなり、その結果、杭頭の水平荷重分担は非液状化地盤では前面杭、液状化地盤では隅杭で大きくなる傾向があること、(3)局部座屈と全体座屈の連成挙動の可能性は杭の細長比、地盤の剛性、固定度などにより整理でき、鋼管杭の座屈荷重は、提案する一般化細長比を用いることで鋼構造設計規準の座屈曲線に対応し、現行の圧縮材の規定を準用できること、(4)地盤・杭-構造物系の応答は、入力動の卓越周期、地盤の固有周期、構造物の固有周期の関係、液状化発生の有無、基礎根入れの有無によって変化し、その結果、杭応力の増大に影響を及ぼす基礎根入れ部の土圧、構造物慣性力、地盤変位の作用の組み合わせも異なることを示している。
著者
井田 茂 佐藤 文衛 渡部 潤一 河合 誠之 玄田 英典
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

太陽系外の惑星(系外惑星)の発見数は750個以上、ケプラー衛星望遠鏡による候補天体も2300個以上となり、惑星および惑星系の性質についての統計的議論が始まっている。本研究では主星の組成(重元素比)によって惑星系がどう変わるのかを調べた。惑星軌道進化のN体シミュレーションおよび惑星の衝突流体シミュレーションを行う一方で、その結果を組み合わせたモンテカルロ計算を行なった。重元素比が高い主星のまわりでは重元素が多いので、巨大ガス惑星が複数形成され、軌道不安定をおこして、軌道離心率が跳ね上げられることがわかった。また、視線速度法サーベイ観測を推進する一方で、アマチュアや学生を巻き込んだトランジット・フォローアップ観測ネットワークを組織し、理論・観測の両面から追及した。
著者
林 智広
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は2000年代前半から注目されてきた"特定の材料に対して特異的に高いアフィニティーを示すペプチド(以後、材料結合ペプチドと示す)"の材料認識能を利用し、従来不可能であった溶液中におけるナノスケールの分解能での表面化学組成分析技術を開発することである。我々は以前の研究でターゲット材料に対する結合メカニズムが明らかにされているTi結合ペプチドを用いて探針の設計、測定条件の最適化を中心に上記技術の開発を行った。
著者
丸茂 文幸
出版者
東京工業大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

岩石学上重要な系である【F_0】(クドカンラン石)-Di(透輝石)-An(灰長石)-Si【O_2】系に少量のTi、Cr等岩石中にも少量含まれている遷移金属元素を加えた時に生ずる相平衡関係の変化及びこれ等の微量成分元素の構造化学的役割りについての正確な知見を得ることはマグマの発生あるいはその後の進化を知る上で極めて重要である。本年度はまず、上記の部分系である【F_0】-An-Di系に【Cr_2】【O_3】を加えて、液相面上での相平衡関係を調べた。Cr量が増加するとスピネルが晶出する領域が広がり【Cr_2】【O_3】約0.2wt%のとき、透輝石、灰長石、スピネル及び液が共存する不変点を生ずる。【Cr_2】【O_3】量が0.2wt%以下のときは灰長石とカンラン石が共存し得るが、0.2wt%以上になると、両者は共存し得ない。また【F_0】-An-Si【O_2】系に【Cr_2】【O_3】を加えた場合もスピネルの初晶領域が著しく拡大し、灰長石の領域が極端に減少する。その結果、従来は熱力学的に越えることができないと考えられていた組成中の壁を、0.2wt%程度の【Cr_2】【O_3】が存在する場合には越えることが可能となることが明らかにされた。この結果はマグマの分化を考える上で重要である。珪酸塩融体の構造と晶出する結晶の関係を明らかにする目的で、An-Di系及びこれに【Cr_2】【O_3】を加えた系の熔融体を急冷して作成したガラスの構造をX線回折法により調べた。【An_(50)】【Di_(50)】組成のガラス中ではSi及びAlは総てO原子による四面体配位をとるが、【Cr_2】【O_3】を5wt%加えたガラスでは、可成りの割合のAlが6配位をとるという結果を得た。スピネル中でAlが6配位であることと考え合せて興味深い。また熔融法によるガラスの構造と比較する目的で、衝撃圧縮による灰長石ガラスの構造を調べた。衝撃圧縮ガラスにおいてもSi及びAlは熔融ガラス中と同様、四面体配位をもつが、Caの配位の不規則性が増している。上記の他、β-【Mg_2】Si【O_4】の構造、テクト珪酸塩中のSi及びAlの配列に関する研究も行った。
著者
太田 裕之
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では,「環境や社会や後生への配慮」といった,ある種のモラリティが重視されつつある時代のニーズに応えるため,人々のモビリティにおけるモラリティの向上,および,共同利用(シェアリング)の普及に資するための,自動車会社からなすべき社会コミュニケーションのあり方を把握し,望ましいクルマ社会のありかたと,その状態への移行戦略を模索するための基礎的知見を得ることを目的とし,特に,カーシェアリングやエコカーを題材とした,受容性把握,受容性向上施策,受容後の意識やライフスタイルの変化についてアンケート調査等を通じ検討を行った.(1)社会コミュニケーションがモラリティ商品の購買行動や受容行動に及ぼす影響把握既存の単体製品(エコカー)およびカーシェアリングを題材に上げ,前年度に全国の免許保有者を対象としたインターネット調査を実施した.今年度はこれら両製品の現状における受容意向,および受容性の向上に資する要因を取りまとめ論文・学会発表を行った.また,上述の調査結果を踏まえ,カーシェアリングの加入促進を目的とし,オリックス自動車(株)の協力の下,実際にカーシェアリングが実施されている地域において,周辺住民や事業所を対象とした現場実験を実施し,加入促進に資する条件を取りまとめた.(2)モラリティ配慮商品の購入が人々の意識・ライフスタイルに与える影響把握モラリティ配慮商品とし,既存のエコカーを題材に上げ,新規買換購入直後6ヵ月以内の自動車保有者を対象とし,購入直後6ヵ月以内,および,その後8ヵ月経過後において,走行距離の変化を調査した.結果,エコカー購入者の方が,走行距離がより上昇するとの結果が得られた.また,開発段階の一人乗り電動式小型可搬式モビリティを題材に上げ,実際に社会に導入された場合における影響を心理学的な観点から分析した.
著者
斉藤 一哉
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

多角形から構成される平面/空間の幾何学図形に基づき,申請者はこれまで様々なコア構造を創製してきた.平成21年度前半はオクテット・トラス型コアパネル,「ダイアコア」の音響,振動特性に関して研究を行った.振動特性に関しては,鋼板からプレス加工により試作パネルを製作し,自由支持条件下でインパクトハンマーを用いた加振実験を行い,基本的な振動特性を明らかにした.また有限要素法による固有値解析を行い,板厚,パネル厚,セルサイズと固有振動数との関係を明らかにした.また音響特性に関しては木製の遮音箱を製作し,PET製ダイアコアパネルの遮音試験を行い,基本的な遮音特性を明らかにした.パネルと同じ材質の平板及び間に空気を挟んだ二重壁に対しても同様の試験を行い,ダイアコアパネルの試験で得られた値と比較した.21年度後半は,周期的な切り抜き,スリットを導入した平板から折り曲げのみによって製作される軽量コアパネルに関して,先進複合材料を用いた新しいモデルの創製を行った.まず,カーボン/エポキシ複合材シートにおいて,折線部のみシリコンを含浸させることによって折り曲げ可能なCFRPシートを製作する手法を研究した.またエポキシ含浸時に紙製のマスクを用いることで,自由な折パターンを描く手法を開発した.この手法により折紙のような複雑な折線パターンをCFRP上で実現することが可能となった.上記手法を応用することで,シリコンによってグリッド状の折線を導入したCFRPシートに周期的な短形の切り抜きをいれ,立体化することによってCFRPコアパネルを製作した.また,アルミ合金製の型を製作することによりコルゲート状のCFRPを製作し,周期的に切抜きを入れジグザグに折り曲げることで製作される新しいCFRP製の折紙ハニカムコアを創製した.さらにシリコンによって折線パターンを変化させることで,曲面,テーパー型等の様々な形状を持つCFRPハニカムを製作した.
著者
高橋 秀智
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

指先でものをなぞる際の感覚を提示できるデバイスの開発を行った. 本デバイスは, 指先が物体表面をなぞる際の相対運動と, 物体表面の凹凸による刺激を, 各々ホイールの定常速度成分と変調速度成分の合成で提示する. 粗さと硬さの異なるサンプルとデバイスによる提示を複数の人が触り較べる実験を行い, なぞる際の感覚を定量化し, デバイスの制御パラメータを変化させることにより, 提示される感覚を変化させられることを明らかにし, 本デバイスの有効性を示した.
著者
廣瀬 茂男 古田 勝久 原 辰次 美多 勉 小林 彬 三平 満司 小野 京右 廣瀬 茂男 長松 昭男
出版者
東京工業大学
雑誌
COE形成基礎研究費
巻号頁・発行日
1997

本年度は本研究の最終年度であるため,これまでの研究成果を集大成してロボットの実機を開発・製作し,11月に行われたロボフェスタの会場で広く一般に公開した.この公開は単なる展示ではなく,それぞれのロボットの実演を行いながら解説をした.実演したロボットは以下の通りである.また同時に国際シンポジウムを開催し,国内外の招待講演者を交えてスーパーメカノシステムについての活発な討論を行った.発表件数は基調講演5件,口頭発表27件,ポスター発表80件であった.完全自立型索状能動体ACM-R1 省自由度壁面4足歩行ロボットHyperion空気圧駆動型ヘビ型ロボットSlim SIime Robot 脚車輪型移動ロボットRoller Walker空圧駆動ヘビ型推進巻付ロボットPneumnake 作業型2足歩行ロボット自励ヘビロボット Twin-Frame型作業移動ロボットPara Walker-II完全自立3次元型索状能動体ACM-R3 全身型作業を行う4脚ロボット立体運動ヘビ型ロボットスーパーメカノアナコンダ 地雷撤去用4足歩行ロボットTITAN-IX3次元ヘビ型ロボット サンプルリターンロボット連結型多車輪移動ロボット玄武2号機 群型ロボット衛星連結型多車輪移動ロボット玄武3号機 親子型惑星探査ロボットSMC-Rover(Uni-Rover)瓦礫内探査ヘビロボット蒼龍1号機 3輪ローバーTri-Star II水中ヘビロボットHELIX スーパーメカノコロニー(SMC)実験システムイルカロボット トランポリンロボット超多関節自重補償型アームFloat Arm COEアクロバット・ロボットスーパーメカノボーイ受動2足歩行ロボット 鉄棒ロボットAcrobot自励歩行ロボット 二足歩行型階段昇降ロボットZero Walkerワイヤ駆動型走行ロボットRunbot 脚車輪型階段昇降車両Zero Carrier多自由度跳躍ロボット ワイヤー連結作業ロボットHyper-Tether1脚走行ロボットKENKEN 作業型クローラロボットHELIOS-IV恐竜型二足歩行ロボットTITRUS-III 自己変形ロボットハイハイロボット 全方向車両The Vutonヘビ型ロボットでは自励振動を利用して小さなエネルギーで推進力を得る制御方法を確立した.また,3次元動作を行う実験機を開発し,頭部を持ち上げる動作,鉛直面内の波を伝搬させる推進方法,捻転による転がり動作を実現した.さらに防水型の実験機により,水中で螺旋型体型をとり捻転することで推進する動作を実現した.また,イルカロボットでは宙返り方向転換を実現した.歩行ロボット関係では,自励運動を使った省エネルギー歩行制御,ホッピング,前転と起きあがり運動,恐竜型の2足高速歩行,ハイハイ型歩行などを実現した.また,自在変形を行うロボットでは,4角形や5角形の体型を作って移動する制御法を確立した.群ロボット関係では,親子型のローバーを開発し,多数の子機による親機の移動,探索動作,2台の子機による物資搬送などを実現し,スーパーメカノコロニーの基本的制御方法を確立した.ダイナミクスを応用したロボットでは,トランポリン運動,前方へのジャンプ,前転と起きあがり,鉄棒への飛び付き,大車輪,宙返り降りなどを実現した.
著者
山本 貴富喜
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本年度は,昨年度までに開発したマイクロ灌流培養デバイス内でヒト由来の小腸と肝臓,2臓器細胞の共培養を実現し,薬物動態における吸収(小腸)と代謝(肝臓)のモデル系構築の評価を行った。具体的には2つのコンパートメントからなるマイクロ細胞培養チャンバを構成し,内臓したポンプで培養液の灌流を行いつつ,小腸から肝臓へ向かう代謝経路をテストするためにカフェインとパラコートの2種類の試薬を小腸側に添加した際の肝臓の機能を,細胞形態とアルブミン産生量などから評価した。その結果,本デバイスを用いた共培養系により,化学物質の傾向摂取を想定した体内で起こりうる毒性評価を再現可能であることがわかった。
著者
本川 達雄
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

硬さ可変結合組織(CCT)の全側面について研究した。CCTは、軟S、標準M、硬Hの3つの力学的状態を示す。M→Hを起こすNSFと、M→Sを起こすソフニンという新規タンパク質をCCTから単離した。この結果と電子顕微鏡像とから、S→Mはテンシリンによるコラーゲン分子間の凝集(これはソフニンで解除される)、M→HはNSFによるコラーゲン微繊維間の橋掛けによって起こるという分子機構を提案した。3状態の酸素消費量と硬さの測定から、CCTを用いて姿勢を維持すると、筋収縮による場合に比べ、1/70の消費エネルギーで済み、棘皮動物のきわめて低いエネルギー消費にCCTが大きく寄与していることが明らかになった。
著者
横田 眞一 吉田 和弘 金 俊完
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

長寿命で耐振動性などの特長を備えた小形で低コストな極薄ジャイロを実現することを目的として,本年度では,小形化,薄形化,集積化,大量生産が可能なMEMS技術を用いた極薄ECFマイクロレートジャイロを開発した.ECFジャイロは,1)ECFジェット発生部,2)噴流発生部と流路,3)速度方向検出部の主要要素で構成されている.まず,MEMS技術によるECFジェット発生部として,高アスペクト比を有する金属構造体である三角柱-スリット形電極対を提案し,フォトリソグラフィによりガラス基板上に形成した金属の薄膜に高さ500μmのレジストによる鋳型を形成し,Ni電鋳により電極を形成する製作プロセスを提案した.鋳型に用いるレジストとして,高アスペクト比のマイクロ構造体の形成と,電鋳後の鋳型を選択的に除去可能な厚膜レジストKMPRを選定し,電鋳におけるプロセス条件を検討することでマイクロ電極対の試作に成功した.次に,電極対を形成したガラス基板にエポキシレジストSU-8により噴流発生部と流路を試作し,従来の機械加工によるジャイロに用いられていた速度方向検出部と組み合わせることで,部分的にMEMS化したECFマイクロレートジャイロを構成し,特性実験を行った.厚さを5mm,流路体積を10×8×t0.5mm^3とし,従来よりも1/5程度に小形化したジャイロの動作を確認したほか,流路高さを1mmとしたジャイロで印加電圧0.38kVとした際に比較的良好な特性が得られた.また,支柱の上の薄膜にホットワイヤとなる回路を形成した形の速度方向検出部を提案し,MEMS技術に応用可能なプロセスを用いてその試作を行ない,有効性を確認した.
著者
吹田 信之 野口 潤次郎 酒井 良 戸田 暢茂 佐藤 宏樹
出版者
東京工業大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1986

本研究においては, まず低次元の複素多様体リーマン面上の解析写像についていくつかの結果を得た. まず自己等角写像に関して, 種数5の閉リーマン面の自己等角写像群が完全に決定された(栗林-木村). 次に解析写像の個数を評価する問題は, 平面n重連結について境界保存の写像の個数の限界((n-2)24n-6)を得た. (Jenkuis-吹田). この限界は閉リーマン面に関するHoward-Sommesによって得られた限界よりもよい値である. 今後の問題としてはこれを閉リーマン面の場合に拡張することが残っている.次に, 面積有限な解析写像については, 写像のH2ノルムを像面積で評価する問題がある. 小林-吹田はHpノルムを評価するためのよい等式を得た. この結果は次元の高い空間領域でのノルム函数を像面積(体積)で評価する問題に一般化され, 酒井によって満足すべき評価式が得られた. またこの結果はブラウン運動にも応用されている. 有界写像に関する有界函数族については, 林により函数環の構造, 林-中井による分離性の問題などが研究された. 又村井は実解析的な方法で解析容量の研究を行った. 解析写像に関する特異性の除去可能性については, 円板内に含まれる容量零の閉集合が, 双曲的な閉リーマン面への解析写像に関して除去可能であること(西野の定理)の双曲的幾何を使った簡明な証明が鈴木により得られた. この定理は高次元への一般化の可能性を含んでいる. また野口により双曲的幾何学と値分布理論を結びつける方法を使って, ピカールの定理の一般化や, そのモジュライ問題へ応用及びディオファニタス幾何の研究が行われた. また値分布理論を使った極の曲面のガウス写像の除外方向の問題が解決された(藤本). 値分布理論は微分方程式へも応用され(戸田)また偏微分方程式の定めるモノドロシー表現の構造からその一意化類域が明らかにされた(佐々木, 吉田).
著者
坂野 達郎
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、住民が河川災害時にどのような行動を取るのか、その意思決定過程のプロトコルデータを収集し、プロトコルデータから状況の認識に用いた知識や推論の過程を事実推論ルールとして抽出し、状況認識から行動を決断する過程を行動ルールとして抽出し、抽出した推論ルールをもとにして、避難行動のシミュレーションを行うことを目的とする3ヵ年の継続研究である。まず、平成14年度に、ビデオを用いた水害疑似体験実験を行い、非難行動決定過程の発話プロトコルを収集し、同プロトコルから様相分離法で2270の命題を抽出した。平成15年度は、平成14年度に抽出した行為命題に対して、動詞とその動詞と共起する名詞句の格(特に「対象格」「随伴格」「目標格」「道具格」)に着目して分類を行った。その結果、動詞とその動詞と共起する名詞句に出現する名詞の辞書的意味から、プラグマティックな解釈を行わずに、行為の分類が可能であることを明らかにした。平成16年度は、状況認識に関する889命題を抽出し、(1)事象が生起している時間により、既定事実(過去の経験)、即時的状況(避難行動時間帯内で生じる現況及び予測)、恒常的属性・普遍的真理に分類でき、(2)避難行為動詞に伴う格の意味内容から記述対象が、水害原因、非難場所、避難経路、水害情報および同伴者に分類でき、(3)述語句の特徴から事実記述的な命題と評価命題に分類できることを明らかにした。最後に、行為命題と状況記述命題を組み合わせて、避難行動をシミュレートした。今回の実験では性別、住宅、居住地の地理的状況、家族の状況などの要因を厳密にコントロールしてデータが取得できていないため、個人個人の状況に応じたシミュレーションまではできなかったが、水害経験者、未経験者の行動の差異を再現することはできた。
著者
斎藤 正徳 井宮 淳 島倉 信 亀井 宏行 田中 秀文 奥野 光
出版者
東京工業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

地磁気のベクトル計測が行える探査装置として、「3軸グラジオメータ」を世界に先駆け開発した。3軸グラジオメータは、1インチ径のリングコアを用いたフラックスゲート型センサを3組直交配置した磁力計を、垂直方向50cm離して1本の支持棒に取り付けたもので、出力は磁気勾配3成分(上下のセンサの差出力)と、上方のセンサで捕らえた地磁気3成分である。センサ高は、支持棒への取り付け位置を調整することで、任意に変えられる。測定は、指示棒に取り付けられた水準器で垂直度を確認しながら行う。垂直軸周りのセンサの回転は、上方のセンサからの地磁気3成分を用い、補正することもできる。感度は磁気勾配で、1nTである。本体には、4,000点での測定値を記憶できるメモリを備えており、RS-232Cインターフェイスを介して、コンピュータにデータ転送できる。バッテリ-駆動で、約8時間測定可能である。この3軸グラジオメータを用い、夷森古墳(宮城県宮崎町)、根岸遺跡(福島県いわき市)、大戸古窯跡群(福島県会津若松市)、田尻遺跡(群馬県子持村)、猿田窯跡(群馬県藤岡市)、大寺山洞穴(千葉県館山市)、石ノ形古墳(静岡県袋井市)、大知波峠廃寺(静岡県湖西市)、象鼻山1号墳(岐阜県養老町)、稲荷塚古墳(京都府長岡京市)、久米田貝吹山古墳(大阪府岸和田市)、行者塚古墳(兵庫県加古川市)、七日市遺跡(兵庫県春日町)、東山古墳群(兵庫県中町)、岩戸山古墳(福岡県八女市)、西都原古墳群横穴墓(宮崎県西都市)の各種遺跡において探査実験を行い、本装置の有効性を確認するとともに,本装置をもちいた探査アルゴリズムを確立した。
著者
中島 求
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究ではまず,全身駆動型スイマーロボットを開発した.本ロボットは実際の競泳選手の1/2サイズのヒューマノイドロボットであり,全身に20個のサーボモータを内蔵し,人間の泳動作を忠実に再現することができる.本ロボットを回流水槽に設置し,クロールの泳動作を行わせ,ロボット全体に作用する非定常流体力を測定する実験を行った.その結果,手が水をかく瞬間における推進力発揮が実験的に確認された.
著者
七邊 信重
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の調査主題は、日本のアマチュアのゲーム制作文化の歴史と現状、規模、この文化が日本のゲーム開発に果たした役割について明らかにすることであった。アマチュアのゲーム制作者約70名、アマチュア作品の販売・流通企業、アマチュア出身のゲーム会社、アマチュア作品の商業化を手がけている企業の関係者約20名への聞き取り調査や参与観察調査などから、独創的なアマチュアのゲーム制作を支援する文化・市場が日本で形成されていること、様々な資本を蓄積したエリート開発者集団が登場していることなどを明らかにした。
著者
松下 道雄
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

生体内で働いているタンパク質には無数の準安定構造があり、絶えずその間を移り変わり、決して同じ姿に留まらない。こうしたタンパク質の構造の揺らぎがタンパク質の機能の制御に深く関わっていることは以前から指摘されていたが、構造揺らぎの詳細を知る手立てがなかった。そこで一分子観察によって個々のタンパク質の分子構造を直接分光測定しようというのが本研究の目的である。一分子の分光測定には最低でもミリ秒程度の時間が必要なために、室温での構造変化を追うことはできない。このため、測定が十分可能になるまで温度を下げて測定を行う。今回の研究で、一個のタンパク質の構造変化のダイナミクスを温度を変えながら測定することに成功した。同一のタンパク質を温度を変えながら分光測定したのは世界ではじめてである。解析の結果、温度に依存しないトンネリングと考えられる構造変化が見つかった[Oikawa, et. al.J.Am.Chem.Soc.130(2008)4850.]。低温での単一分子分光は、主に技術的な困難からもっぱら赤外領域に限られていた。このため、光合成細菌の光捕集複合体について豊富な構造情報をもたらしたが、生化学的に興味深い酵素は、フラビンタンパク質群に象徴されるように可視域に吸収を持つものが多い。単一タンパク質について、可視域での励起と蛍光検出が低温でできるよう、まず低温用反射対物レンズを開発し[Fujiyoshi,et al.Appl.Phys.Lett.91(2007)051125.]、これを使って単一のGFPを二光子励起し、その蛍光スペクトルは低温でのGFPの構造変化を如実に表わしていることを示した[Fujiyoshi,et al.Phys.Rev.Lett.100(2008)168101.]。
著者
平田 輝満
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

前年度に開発・性能検証を行った,従来にはないコンセプトの小型可動式ドライビングシミュレータMOVIC-T4を活用して,今年度は都市内地下道路の走行安全性分析を行った.MOVIC-T4による室内走行実験と安全性分析は2つの視点から行った.1つは、平常走行時の安全性を,ドライバーの覚醒水準低下という視点から分析を行い(信頼性の高い新たなシミュレータで再度検証),もう1つは、インシデント発生時(事故車両の発生時)の安全性を分析した.被験者は比較的危険性の高いドライバー属性である,学生(若年)ドライバー及び高齢者ドライバーである.まず1つ目の分析であるが,トンネルの圧迫感,高密度交通流,厳しい線形・縦断勾配変化などの要因により,普段より緊張した走行状態が予想される都市内地下道路ではあるが,ある程度の長時間走行が続くと,トンネル内の単調な視覚刺激により覚醒水準低下が生じ得る可能性がある.この仮説をMOVIC-T4よる走行実験から検証したところ,約5〜10分の走行で,ドライバーの覚醒水準が低下しうることを示した.一方で,特に高齢ドライバーにとっては都市内地下道路の心理的な圧迫感が勝り,覚醒水準低下が起きない可能性も示唆されたが,逆にストレスという意味では改善すべき結果である.2つ目のインシデント発生時の安全性であるが,区間途中で単独事故車両が発生した場合の後続車の追突危険性及び,簡易な情報提供システムの効果について分析を行った.結果としては,反応遅れ時間の大きな高齢者ほど衝突可能性が高いが,簡易な情報提供システム(前方事故車両情報)により,大幅な追突回避が可能となることを示した.しかし一方で、情報提供により追突危険性は低下するが,過剰な急減速を起こす可能性もあり,その急減速が新たな事故を引き起こすこともあり得ることが分かった.
著者
中本 泰史
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,中心星近傍で発生したX線フレアを起源とする星風が原始惑星系円盤に衝突し,衝撃波が発生するという現象をとりあげ,(1)そのような現象が発生するかどうか,(2)発生するとしたら円盤内の物質にどのような影響を及ぼすか,(3)それらの現象を天文学的あるいは隕石学的な手法により確認することができるか,などを明らかにすることを目的とした。そのために,電磁流体力学数値シミュレーションや流体力学,輻射輸送計算,解析的検討など種々の手法を用いて研究を推進した。電磁流体力学数値シミュレーションの結果,円盤上層部に衝撃波が発生することが確かめられた。また,これらの衝撃波はコンドリュール形成やダストの加熱結晶化にとって適当な衝撃波となることも明らかにした。つまり,(a)3AU程度以内ならば,円盤の上空に強い衝撃波が発生してダスト粒子を十分加熱することが可能なこと,(b)X線フレアによって発生した星風は磁場によるコリメーションを受けるため,5AU程度よりも外には影響を及ぼしにくいこと,などがわかった。一方,発生する衝撃波の性質をより的確に理解することが出来るようになり,衝撃波の発生場所,すなわち,ダストが加熱を受ける場所をより具体的に議論することが出来るようになった.このことにより,加熱を受けて結晶化したダストが彗星に取り込まれる可能性について,検討することが可能となった。それによれば,X線フレアに伴って発生する円盤上空衝撃波で加熱・結晶化できるダスト粒子は中心星から5AU程度までのものであるから,彗星中の結晶化ダストがそのようなものであるとすると,なんらかの機構によって5AU以内にあったダスト粒子を彗星形成領(30AU程度)まで運ぶ必要があることになる。ダスト粒子の輸送機構にはいくつかの可能性があるが,今後はそれらの輸送機構の適否を詳しく検討することが必要になるだろう。