著者
酒井 哲夫 小野 正人 吉田 忠晴 佐々木 正己 竹内 一男
出版者
玉川大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

可動巣枠式巣箱による飼育法が確立したことにより,ニホンミツバチで初めてプラスチック人工王椀を用いた女王蜂の人工養成が可能になった。セイヨウミツバチのローヤルゼリー(RJ)を利用したニホンミツバチ女王蜂養成では,自種のRJでは高い生育率と女王蜂の分化を示したが,両種のRJの成分に生育に影響を及ぼす差があることが認められた。少数例ではあるが,女王蜂の人工授精が成功し,これからの選抜育種に明るい見通しが立った。ニホンミツバチとセイヨウミツバチの配偶行動については,14時30分頃を境に2種間の生殖隔離が行われ,ニホンミツバチ女王蜂は遅い時刻(14:45〜16:00)に長い飛行で交尾することが認められた。同一蜂場内に併飼したセイヨウミツバチ,ニホンミツバチの両種の花粉採集行動の季節的な変動パターンは,基本的に類似していた。花粉だんごの分析から訪花植物の種を同定すると,特に多くの植物の開花が見られる時期には違いが認められ,両ミツバチの花への嗜好性は異なっているのではないかと考えられた。両種の収穫ダンスを比較し,餌場までの距離とダンス速度の関係を解析した結果,ニホンミツバチの距離コードは同種の東南アジア亜種のそれより,むしろセイヨウミツバチのそれに近いことがわかった。また両種の採餌距離を推定した結果,ニホンミツバチの平均的採餌圏は半径2.2km,セイヨウミツバチのそれは3kmとされた。また貯蜜量の減少による逃去時のダンスはこれまでにないスローダンスであることが判明した。ニホンミツバチのミツバチヘギイタダニに対する行動を観察した結果,落下したダニの多くは触肢や脚に負傷しており,その割合はセイヨウミツバチより高かった。スズメバチに対するニホンミツバチの防衛行動に関しては,学習が関与していることが初めて明らかになった。
著者
水野 宗衛 脇 孝一 藤堂 励央
出版者
玉川大学
雑誌
玉川大学農学部研究報告 (ISSN:0082156X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-14, 2002-12-20

モモ花粉の採取方法、花粉の貯蔵法について試験を行うとともに、授粉の省力化を目的として、溶液授粉を行い、その可能性について検討した。得られた結果は次の通りである。1.剪定枝を切花とし得られた花は通常の花よりも小さかったが、これらの花から得られた花粉(切花花粉)は圃場から直接採取した花から得られた花粉とともに高い稔性を示した。2.篩法とトルエン洗浄法を用い切花花粉を採取した結果、トルエン採取法で多くの花粉を採取できたが、得られた花粉はほとんど発芽しなかった。3.屋根かけハウス内のモモの花粉は、開花期間中高い発芽率を示し、低温の影響をほとんど受けなかった。4.集めた花をろ紙を敷いたプラスチックケース内に重ならないように広げて室温あるいは15℃~30℃の範囲で保存するだけで、約1ヶ月間、稔性花粉を高率で維持できた。5.圃場から集めた花を冷凍庫内で貯蔵し、発芽培地を用い花粉発芽率を調査した結果、300日以上経過しても90%程度の高い稔性花粉が維持できた。6.モモに対して溶液授粉は筆授粉には劣るものの20%程度の結実率を得ることができた。
著者
塚田 稔 小島 比呂志 大森 隆司 岡田 浩之 酒井 裕 奥田 次郎 小島 比呂志 岡田 浩之 酒井 裕 奥田 次郎
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

脳の記憶は外界(環境)からの感覚情報(ボトムアップ)と注意や予測など(トップダウン)の情報の相互作用によって創られている。高次の記憶に関連したニューロンにおいて、感覚からのボトムアップの記憶情報の書き込みでは時空間学習則(nonHEBB)が、注意などのトップダウン情報の書き込みではHEBB則が有効に働くことを理論と実験によって明らかにした。この実験結果に基づいて工学モデルによって実効性が確かめられた。
著者
日臺 滋之
出版者
玉川大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

中学、高校の英語の授業でALTとのインタビューテストやクラスメートとのチャットを実施し、活動後に、生徒に英語で表現したかったけれど英語で表現できなかったことを日本語で書いてもらった。次に、その日本語を、英語母語話者の協力を得て、英語に訳し、Excel上で日本語と英語を左右一対一対応に整理し、日英パラレルコーパスを構築した。最後に、日英パラレルコーパスを分析し、日本人中学生、高校生が、なぜ英語で表現したかったのにできなかったのか、その要因について分析した。
著者
渡邉 正彦 石川 巧 藤井 淑禎 瀧田 浩
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

高度経済成長以前の状況では、一国の文化が一つの価値観に収斂されていく傾向が顕著であるが、しかし高度経済成長によりもたらされた経済的余裕を背景として、個人の価値観が多様化し、それに即した表現が様々な形で現れてくるようになり、そして、そのような状況の中で、統一感を喪失することを余儀なくされた人々が、必然的に孤独感を抱え込み、そのはけ口を表現に求めるようになる傾向が看取される。
著者
政田 元太 古澤 明
出版者
玉川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

スクイーズド光を使った量子テレポーテーションの演算回路の光集積化を実現するための要素技術を研究した。光集積化のためには導波路素子を使いこなす技術の開発が重要である。本研究では導波路型のスクイーザーを用いることにより、連続波スクイーズド光の生成に成功した。また導波路型のビームスプリッターをいた手法によりEPRビームを生成し、量子エンタングルメントの検証を行った。
著者
梶川 祥世
出版者
玉川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、乳幼児期の言語知覚認知が音声が主の処理から意味を伴う処理へと発達的に変化するなかで、周囲からの情報が言語獲得を促進するしくみについて、音声と意味をつなぐ学習方略という観点から検討することであった。特に音声獲得と意味学習の関係について、言語音声認知における助詞および擬音語の特性を明らかにし、言語以外の音声の影響も示した。また、子の発達に応じた母親の発話の変化と子の意味推測を促す効果を明らかにした。
著者
中村 純
出版者
玉川大学
雑誌
ミツバチ科学 (ISSN:03882217)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.73-80, 1998-04-30
著者
佐藤 久美子 兼築 清恵 松本 博文
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、外来語の音声的特徴と、外来語を認知するときのプロセス・発達過程について、特にカタカナ語とそのL2英語・L2日本語習得に与える影響について調査を行った。2003年度は、カタカナ語となっている英単語を導入語として用いることが、L2英語の語彙獲得に与える影響について検証した。特に、カタカナ語のなじみ度が英単語の認知にどのような影響を与えるのかを、アンケート調査およびタキストスコープ、CSLを用い調査分析した。その結果、L2英語学習の導入期にカタカナ語になっている英単語を導入するのは不適切であるという結論に達した。2004年度は、上記研究で見られたカタカナ語(及びL2英単語)アクセントの平板化現象を、なじみ度(単語親密度)と音韻(音節)構造の両観点から考察を行い、その説明的妥当性を探るとともに、英語習得への影響の可能性を考えた。その結果、本来辞書で平板型のカタカナ語が軽音節の連続で終わっている率は高いものの、この音節構造が原因となりアクセント核を持つカタカナ語が平板化(無核化)アクセントになるとは言えないことが明らかになった。さらに、平板化アクセントになった英単語のうち、英語のなじみ度が平均以上である語はカタカナ語でもなじみ度が平均以上になる割合が非常に高く、カタカナ語のなじみ度が高い場合は英語のなじみ度も高く、平板化することが分かり、2003年度の分析を再度確認する結果となった。さらに台湾人のL2日本語学習者にも同様の実験を行った結果、英語アクセントが平板型に発音される傾向は日本人にのみに見られることが分かった。以上の研究から、特に英語導入初期においては、英語の音節構造やアクセントなどの音声知覚に集中させる教育方法が、正しい発音が身につくことを可能にし、早期英語教育との関係から見ても、考慮に値する教授法として考えられる。
著者
太田 明
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は主に次の3点を明らかにした。第一に、1997年にユネスコが採択した「現在の世代の未来世代に対する責任に関する宣言」とハンス・ヨナスの『責任という原理』の未来倫理を中心にして、その主張の論理を検討し、両者は異なった正当化原理を用いており、両者の間には責任の階層性と言うべきものがあることを示した。第二に、それを明確にするために「責任」概念の歴史的展開を検討し、責任概念の構造図式を提案し、この図式に基づいて、上記の階層性を考察し、それが責任規範(価値理論)の違いに由来することを示した。第三に、論法」の観点から分析しさまざまな「世代間正義論」の難点を認識した。
著者
小田 眞幸
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では報道資料や新聞記事、専門家の発言、一般市民へのネットへの投稿、さらに広告等の映像資料について批判的ディスコース(言説)分析を行った。分析の結果, 外国語(英語)教育に関する「パブリック・ディスコース」が一般の共通知識となり、個々の学習者の外国語学習観に影響を与えて行く過程において一定の規則性があることがわかった。これをもとに外国語教育政策が施行される際におこる諸問題を抽出し、学習者に対処法を提案する
著者
佐藤 久美子 梶川 祥世 庭野 賀津子 皆川 泰代
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

第1に、英語の絵本の読解力に優れた子どもは、英単語の音のみならず、読み手の声の調子、絵、背景的知識、推測力など様々な学習方略を使い、内容を統合的に理解する過程が明らかになった。一方、読解力が弱い子どもは、絵にのみ集中する傾向があり、他の読解方略を有効に使うことができない、という特徴を明らかにした。第2に、母親と子どもの対話を分析し、発話力の高い子どもの母親は応答タイミングが早く、発話時間が短く、話しかける時はゆっくりと話すという特徴を見出した。こうした読み方が、子どもの理解力を促進することが解明された。

1 0 0 0 養蜂博物館

著者
井上 敦夫 井上 凱夫
出版者
玉川大学
雑誌
ミツバチ科学 (ISSN:03882217)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.180-184, 1997-10-31
著者
田甫 綾野
出版者
玉川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、家庭科における「触れ合い体験」学習を、家庭科教育における視点からだけではなく、幼児教育の視点からも意義あるものとするためのプログラムの構築を行なった。様々な幼児をめぐる世代間交流の参与観察の分析の結果、「身体的同調性」が高く、「共感性」が高い交流については、互恵性が高く、その後の活動や学びにも影響を与える交流となることが明らかとなった。そのためには、年少者の興味関心が高く、さらには年長者がその活動の魅力やおもしろさを実感し、異なる役割をもつのではなく〈共に活動を楽しむ〉ことが重要であると考察された。
著者
佐々木 寛 藤井 聡
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究課題は、睡眠中の記憶の固定および消去を司る神経基盤の解明を目的とする。研究に用いた記憶課題は漢字二文字からなる単語の記銘課題と再認課題からなり、再認課題は記銘課題直後と24時間後に実施した。被験者は記銘課題と24時間後再認課題の間に7時間の睡眠をとった。記銘課題では、100個の単語を被験者は記憶した。再認課題では、記銘課題中に提示された単語のほかに新たな単語50個が提示され、被験者は単語が記銘課題中に提示されたものかどうかをボタンで回答した。記銘課題および再認課題時の脳活動を機能的MRIにより計測した。記銘課題遂行中の脳活動について、再認できた単語の記銘に関わる脳活動を、直後再認によるものと24時間後再認によるものとで解析し比較した。その結果、直後再認でも24時間後再認でも再認できた単語に有意な活動が認められた領域として、右海馬、背側の下前頭回が同定された。また、直後再認で再認できた単語に有意な活動が認められず、24時間後再認で再認できた単語に有意な活動が認められた領域として左上前頭回、左中前頭回、腹側の下前頭回、左中側頭回、左右中後頭回、左舌上回、右海馬傍回が同定された。これらの結果から、「弱い記憶」の記銘には海馬および背側の下前頭回を含む領域の活動が本質的であるのに対し、それを「強い記憶」として固定するためには、それらの領域ほかに左上前頭回、左中前頭回、腹側下前頭回ほかの領域の活動が重要であると考えられた。24時間後再認時に正しく再認できたときの脳活動部位として両側海馬が同定された。この領域の活動の強さの解析から、活動の強さと睡眠の構造とに関係があることが示唆された。この結果から、睡眠により記憶の固定が起こり、その状態を再認時の脳活動として検出できることを示唆すると共に、Squireによる記憶の固定に関わる海馬-皮質系記憶システムの説を支持するものと考えられた。
著者
相原 威 酒井 裕 藤井 聡 塚田 稔
出版者
玉川大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

脳内の外界モデル形成には, 外界からのボトムアップ(感覚)情報だけでなく, 注意や情動などによる広範囲調節系と呼ばれる内因性の情報も融合する必要がある。 海馬や皮質などの神経回路への調節系の信号は, 集中時などに内在性アセチルコリン(Ach)として放出され, 記憶に関与するとの報告がある。 そこで、本研究はボトムアップ入力の統合に対するAChによる修飾を細胞およびネットワークレベルの実験により検証を行った
著者
若林 攻 河野 均 佐藤 幸治 BRASS Sussan NICOLAUS Bea BOGER Peter SUSSANE Bras BEATE Nicola PETER Boger BEATE Nicoau 小川 人士 BOGER Pecter
出版者
玉川大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

当該研究グループの既往研究によって得られている,“Peroxidizing除草剤の作用機構:クロロフィル生合成過程のProtoporphyrinogen-IX oxidase(Protox)阻害,Protoporphyrin-IXの蓄積,エタン発生を伴うチラコイド膜の破壊,光合成色素の減少"と言う,所謂Peroxidizing植物毒性作用を説明するために,当該研究グループ提案中であった“活性酸素が関与するラジカル反応によりチラコイド膜が破壊される"とする機構の構築と確認する検討を行いこれに成功した。次に,前記の帰結の発展応用研究に当たる「ポルフィリン代謝の制御」に関する検討を行い,植物の生長調節,藻類を利用した水素生産,活性酸素の制御による疾病治療等に応用が期待される基礎的データを得た。研究成果は以下((1)〜(5))に纏められる。(1) HPLC-lsoluminol化学発光を原理とする全自動脂質分析システムを用い,protox阻害剤処理後に生ずる過酸化脂質を測定し,活性酸素が関与するチラコイド膜破壊の機構を明らかにした。(2) 緑色植物細胞系を用いて,Protox阻害剤によるチラコイド膜破壊作用を緩和させる薬剤を見出す検討を行い,光合成電子伝達系阻害剤がチラコイド膜破壊作用を緩和させることを見出した。(3) クロロフィル生合成能を有する植物培養細胞(馴化Nicotiana glutinosa,Marchantia polymorphaその他)を用いた生理活性試験を行い,上記の[1],[2]を含むPeroxidizing植物毒性作用が緑色植物の葉緑体中で普遍的に起こることを確認し,Peroxidizing除草剤の作用機構を明らかにした。(4) 得られた生理活性データに関して定量的構造-活性相関解析を行い,光存在下で活性酸素を発生させチラコイド膜破壊を誘導する新しい強力なprotox阻害剤の分子設計と合成に成功した。(5) Peroxidizerと光合成電子伝達阻害剤が藻類の光合成明反応に及ぼす効果を確認し,その結果を藻類の水素生産制御に応用する可能性を見いだした。
著者
川崎 登志喜
出版者
玉川大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1. 研究の概要本研究は先行研究を基に、イベント効果の中でもスポーツイベントに深く関わる「ダイレクト効果」「コミュニケーション効果」「直接的波及効果」「間接的波及効果」「パブリシティ効果」の5つの効果に、「運動生活に及ぼす影響」「市民生活に及ぼす影響」「地域住民によるオリンピックの評価」の3項目を加えた計8項目の大項目から導き出された質問項目を設定し、長野オリンピック開催1ヶ月前と閉幕1ヶ月後、閉幕1年後の計3回にわたって調査を実施し、長野オリンピックが地域住民に及ぼす効果を測定しようと試みた。2. 主な結果の概要(1) ダイレクト効果:すべての項目において、開催前に比べて認知度が増していることが明らかになった(P<0.001)。しかしながら、「はあてぃ長野推進運動」「オリンピックアンバサダー」「スノーレッツクラブ」の3項目は、多くの市民に認知されなかった。(2) 直接的波及効果:「スポーツ施設が充実した」は開催前(4.08)から閉幕後(3.94)と平均値が減少し、期待通りではなかったという市民の評価ではないかと思われる(P<0.01)。また、オリンピックの理念である「国際平和」「国際交流」についてはそれぞれ平均値が上昇し、オリンピック(大会理念)効果が現れたと思われる。(3) 運動生活に及ぼす効果:スポーツイベントがその他のイベントと最も異なる効果を期待したい運動生活に及ぼす効果については、最も効果があったのは「スポーツへの関心」であった。(4) 市民意識に及ぼす効果:「開催を誇りに思う」「街を他人に自慢できる」(P<0.001)など、長野市民としてのアイデンティティーの向上がみられた。
著者
瀬沼 花子
出版者
玉川大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1. 諸外国におけるコンピュータを利用した数学テスト問題作成の在り方と現状について,最新の情報を収集した。その結果,静止画ではなく動画で,日常生活での数学の活用場面を映像で,自然現象における数学的な事象を映像で提示し,数学問題の理解を深め数学的思考を高めようとするテスト問題開発は,わが国のみならず世界的にも,2010年2月の時点でいまだ挑戦的な試みであることが明らかになった。2. 一方で,授業中に生徒が一人であるいはグループになって取り組み,数学的思考を高めるような,ICTを使った問題解決,数学的活動,数学的モデル化の教材開発に関しては,わが国よりはるかに先進的な事例が諸外国にみられた。そこで,イングランドにおける先進的な数学デジタル教材Bowland Maths(11歳から16歳を主な対象とした約20の教材)の教材開発の背景と概要,今後わが国においてコンピュータを用いた数学教材の在り方として示唆を与えると思われる「交通事故の削減」「暮らしの中の危険」について,教材,教師用指導書,ワークシート,などの翻訳を行った。3. わが国の中・高等学校の数学授業におけるコンピュータの利用率が極めて低い現状を少しでも改善するために,OECD PISA調査における今後のコンピュータ利用の方向性,及び,Bowland Mathsの教材についての情報を,研究代表者及び研究協力者で執筆した。(明治図書『数学教育』)
著者
田中 義郎
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

K_12の教育改革はアメリカが如何に子どもを教育するのかを反映している。しかし、こうした改革の努力が、既存の大学入試や入試政策とのギャップをむしろ広げ、高校での大学進学準備を不適切なものにしていると指摘され、問題点が三つ挙げられている。(1)高校での大学進学準備に関して、生徒のアセスメントのための客観的な評価尺度が欠けている、(2)高校生が行う大学教育の準備と大学入試や入試政策の基準に不整合がある。(3)高校教育改革の中で、大学教育への準備は重用視されていない。こうした状況が、大学への進学を希望する高校生や高校に、混交した情報と方向づけを与え、K_12における数多くの教育改革の努力の最終的な効果を疑問視させるに至ったとされる。整合性に加えて、大学教育は大学卒業率の低下とフレッシュマン(大学1年生)のリメディアル率の上昇を憂慮している。高校で良く準備されて大学に入学してくる学生たちは、こうした問題を抱えずにすんでおり、良好な大学生活を送っている。我が国の場合、高校教育の再検討というよりも、高校での十分な学習ができていないままに大学に入学してくる学生のリメディアル教育の仕組みをどう作るかといった議論が中心であり、大学教育と高校教育との接続において、大学進学を準備するために高校教育を如何に見直すかといった議論が不足していることが再確認された。ユニバーサル時代とは、誰もが大学教育にアクセスできる時代であり、大学はそうした時代に対応すると同時に、その時代を担うという大学の使命を全うするために、内容そのもののユニバーサル化ではなく、そこへのアクセスのユニバーサル化を可能にする努力が大学と高校の間に作られてきていることが確認された。本研究を通じて、社会に出る準備をする期間が大学にまで延長されたという現実とそれを支えるシステムの構築(入学試験と前後の教育の有り様)を如何に準備するかがより鮮明となった。