著者
野入 直美 蘭 信三 飯島 真里子 松田 ヒロ子 森 亜紀子 坪田 美貴 (中西 美貴)
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

フィリピン、台湾、旧南洋群島、満州からの沖縄引揚者の研究は、3年間の研究成果を『移民研究』第9号(2013年刊行予定)の特集として発表すべく、現在、原稿の最終とりまとめ作業を行っている。 フィリピン引揚者については、沖縄社会における引揚者の戦没者に対する慰霊に関する調査として、沖縄県立平和記念公園内ダバオ之塔で行われる慰霊祭の参与観察と参加者へのインタビューを行った。それにより、慰霊祭が始まった1960年末と現在の慰霊の形、目的、内容、参加者の変遷を明らかにした。また、成果報告を発表するにあたり、戦没者慰霊に関する先行研究(国内外)の動向を調査し、本テーマの位置づけを再検討した。 台湾引揚者については、沖縄県内で刊行された『那覇女性史』や『近代沖縄女性史』などの女性史移住先の台湾の記載は非常に少なく、ほとんど視野に入っていないことを踏まえ、それを補うために市町村誌史の蒐集、整理とともに、台湾経験者およびその家族へのインタビュー調査を行った。 旧南洋群島引揚者については、「旧南洋群島から沖縄へ引揚げた人々の移民経験・戦争体験および戦後経験とはいかなるものだったのか」を、帝国圏他地域からの引揚者の経験と比較検討しつつ明らかにすることを目的とし、これまでに沖縄本島と宮古諸島伊良部島で行った旧南洋群島引揚者149名への聞き取り調査で得られた音声データを文字資料化し、県史・市町村史に掲載された旧南洋群島引揚者の証言と比較・検討した。さらに、この作業によって明らかにされた旧南洋群島引揚者の経験と、他帝国圏から沖縄へ引揚げた人々の経験がどのように共通し、異なるのかを検討した。
著者
翁長 謙良 米須 竜子 新垣 あかね
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.71-82, 1999-12-01
被引用文献数
2

本研究では,沖縄県におけるこれまでの赤土等流出防止に対する研究を踏まえ,土砂流出が及ぼす影響や年間流出量等を考察し,これまでの赤土等流出の歴史的経緯を概観し,対策の提言を行った。その結果,次のように要約できる。赤土流出の影響としては,道路や田畑等の損傷の物理的面,沿岸の景観の悪化という精神的面,川や海の底生生物への影響と云った生物的面等がある。土壌侵食と土壌保全の歴史的経緯の概略についてこれまでは,次の四つの時代,即ち(1)17世紀以前の焼畑農耕時代,(2)18世紀半ばの蔡温時代,(3)1920∿1930年の杣山(官有林)開墾時代,(4)1950年代後期∿現在までの時代に区分したが,昭和18年代の我謝栄彦の提言を考慮し,時代区分を六つの時代とした。急激な畑地造成の結果,土砂流出が著しいものとなり,現在では赤土等流出防止条例(1994)の施行によって,具体的な対応策が講ぜられている。赤土等流出防止条例の施行後,歴史的に侵食の最大原因とされていた開発事業に関してはかなりの改善策が取られ,流出量は大幅な減少を見ている。また対策としては,土木的対策として,圃場の区画の形態をUSLE(Universal Soil Loss Equation : 汎用土壌流亡予測式)を基に検討し,排水路,承水路の配置については耕区単位ごとに承水路を設けることや畑面の傾斜を緩やかにすること,また沈砂池等の砂防施設のあり方等についてはその大きさ,真水と濁水の分離排水を提言した。営農的防止対策としては,マルチングの効果やミニマムティレッジによる土壌保全の効用等を提言した。
著者
屋我 嗣良
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.555-613, 1978-12-01
被引用文献数
2

シロアリは熱帯を中心に棲息し, 被害も多く, 古くから研究対象として注目されている。大島(1919年)は, Callitris glaucaから抗蟻性成分として油状物を分離した。これが木材の抗蟻性を化学的に取扱った最初のものである。その後, G. N. WolcottやW. Sandermannらは熱帯産材に多数の殺蟻成分が含まれていることを見出した。温帯産の主要樹種の抗蟻値については, 渡辺らにより明らかにされ, そして近藤および佐伯らにより数種の新らしい殺蟻成分が単離同定された。著者は, 亜熱帯に属する沖縄産材の抗蟻性について検討した。まず渡辺らにより提案されたシロアリ簡易試験法を用いて, リュウキュウマツほか17種の沖縄産材に温帯産材のイヌマキおよびスギの2種を加え, 合計20種について抗蟻値を検討した。生物試験は, 一定条件下に供試材をイエシロアリ(生物試験はすべてイエシロアリを用いた)の攻撃にさらし, 供試材の重量減少で表現するのが従来のやり方であるが, 著者は新らしく, 供試昆虫の生体重量減少値で表現する方法を考案し, 従来の方法と平行して行った。供試材の形状は, 小ブロック状のほか, 鉋屑状, さらに木粉状である。これら3種の形状のうち, 木粉状での試験で得られた結果はセンダン, ヘツカニガキジスギ, イヌマキなどで著しい抗蟻性を示し, 沖縄地方での古くからの抗蟻性についての伝承と一致した。このことは構造材の抗蟻性試験法としては木粉状のものを使用するのが適切であることを示すばかりでなく, 長期に亘る構造用材の抗蟻値には化学的要因つまり抽出成分の影響が最も重要なことを示したものである。このような結果にもとずき, センダン及びヘツカニガキの抗蟻性成分について検討した。センダンの抗蟻値は, 樹木の各部で異なり樹皮部>葉部>木部>種実の順であったが, 利用上の観点から, 木部について検討した。センダン材の抗蟻性成分はメタノール抽出物中の中性部に見出され, 活性成分は3群に分けられ, 2個の結晶性成分, 1個はnimbolin A, 他はC_<23>H_<38>O_5の分子式をもつ化合物が抗蟻性成分の主体であることを明らかにした。センダンにつぐ抗蟻性の大きい樹種としてヘツカニガキをとりあげた。その樹木各部での抗蟻値の大きさは, 樹皮部>葉部>木部の順であった。ここではとくに樹皮と木部についてそれぞれ検討した。それらの抗蟻性成分はメタノール抽出物中のアセトン可溶部にほとんど移行し, カラムクロマトグラフィーにより, 抗蟻性成分の主体はクマリン化合物scopoletinとその配糖体scopolinであることを明らかにした。また共存するnoreugeninにも弱い活性があることを認めた。沖縄地域で, 古くから用いられている木材保存技術の1つとして, 海水処理がある。この方法が抗蟻値に及ぼす影響についての解明を試みるため, 海水および27種の塩類を用いて, いくつかの沖縄産材を処理し, その抗蟻性を検討した。その結果, 海水の主要成分であるNaClが特に抗蟻性に大きく寄与していることが明らかになった。さらに各種水溶性無機塩類について検討した結果, HgCl_2,各種バリウム塩, MgCl_2などが抗蟻性の大きい塩類であることを示した。イヌマキは沖縄地方で, 抗蟻性の大きい樹種として重宝がられている。約1225年および2510年経過したイヌマキ古材の木棺を入手し検討した。新材との比較により, ウエザリングの立場から, 抗蟻性の変化を追究した。殺蟻成分であるイヌマキラクトンAはいずれにもなお残存しているが, ウエザリング期間の延長と共に減少しており, 抗蟻値の低下傾向とよく一致していた。すでに述べたように木材のもつ抗蟻性は抽出成分に大きく依存する。そこで, 沖縄産材のうち抗蟻性の大きいいくつかの樹種について, 抽出成分と市販されているいくつかの合成殺虫剤を用いて, プロトゾアとの関係を検討した。沖縄産材からの抽出成分と市販の合成殺虫剤はいずれもプロトゾアを減少させ, とくに大型プロトゾアの減少数と抗蟻値の減少する傾向とがよく一致した。このことはプロトゾアの計測が重要なシロアリ試験法の一つであり得ることを示したものである。
著者
稲福 征志
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

先進国においては「肥満」と「結核」が経済的弱者層に集積することが懸念されることから、本研究では結核菌感染がメタボリックシンドローム病態に与える影響についての基礎的知見を得るべくして、結核感染プロトタイプである抗結核ワクチン株BCG菌体を用いた研究を遂行した。BCG菌体投与による脂肪肝の改善作用はBCG菌投与による獲得免疫の活性化が大きくかかわっていることが示唆された。また、BCG死菌体投与による脂肪肝改善は認められなかったものの、BCG菌体成分が褐色脂肪細胞に対して何かしらの影響を与えていることが明らかとなった。
著者
木村 亮介
出版者
琉球大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、琉球列島におけるヒトの移動史を解明するために、大規模な現代人ゲノムデータの集団遺伝学解析を行うとともに、宮古島における無土器時代およびグスク時代の古人骨ゲノム解析を行う。また、琉球列島集団と日本本土を含む周辺集団との関係だけでなく、琉球列島内の各集団の関係についても詳細に明らかにする。さらに、頭蓋顔面形態における集団間の違いを明らかにする。琉球列島集団と本土日本集団の間における頭蓋顔面形態の違いを明らかにするだけでなく、琉球列島内の集団間における差異についても、特に宮古島集団に焦点を当てて詳細に解明する。
著者
上間 陽子
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本調査研究は、沖縄県において、10代で子どもを出産した女性に対して、その選択に至った理由や背景を、インタビューによって聞き取ることを企図してなされた調査である。聞き取りにおいては、彼女たちの学校体験、ピアグループの有無・形成過程、定位家族、生殖家族の状況、本人の自己アイデンティティの形態について聞き取りをすすめるものである。初年度である一昨年の実施においては、10代の女性と、20代の女性では、世代的な違いがみられており、それはコミュニティ形成の仕方と、それを裏付けるように学校体験の差異というものが少なからず影響を与えているように思われた。初年度は49名の方から聞き取りを実施することができたが、二年目を迎える昨年度はあらたに16名の方から聞き取りをすすめ、現時点で、聞き取りデータ数は65名となっており調査の進行としてはまずまずだと思う。今年度までの65名のデータから明らかになったのは、出産に至るまでと出産後の状況の厳しさに、原母との関係とピアグループとの関係があるということである。また、出産によって原母との関係が変容しているケースがあり、その点に、彼女たちが出産を積極的に進めたい多くの理由が集中している。またピアグループの形成が学校・地元規定的なのか否かが、出産後の状態にかなり影響をあたえている、ということである。今年獲得予定のデータ獲得数は15名になるが、80のデータをベースにして整理をすすめたい。今年度のデータでは、支援を受けている女性が幾人か追加されているが、支援系の暴力も告発されている。その点について、どうしてそうした暴力がおこるのかについても、一定のデータを蓄積することができた。なお、こうしたデータの性質上、法曹界並びに医療従事者との連携も増えており、それゆえ多忙を極めることになったが、最終年度においても、こうした連携を進めながら、データの獲得にあたりたい。
著者
山里 正演 石田 明夫
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

脳における骨髄由来細胞の分布または機能の異常が高血圧の病態に関与しているという仮説のもとに検討を行った。骨髄由来細胞の脳室内移植は高血圧ラットの血圧や心拍数へ明らかな影響を及ぼさなかった。しかしながら同細胞は内皮細胞に比べACE2やMn-SODを多く発現しており、また、長期にわたり脳内に生着していた。脳内生着局所のレニン-アンジオテンシン系を調節しうる可能性が考えられた。
著者
加藤 潤三
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、移住者の地域コミュニティへの適応とソーシャルキャピタルの関連性を検討することを主目的に、移住者とそれを受け入れる側の地元民の双方の視点から検討を行った。本研究の結果、移住者の適応にはソーシャルキャピタル、その中でも特に地元民との強い紐帯が影響を及ぼすことが示された。ただしソーシャルキャピタルのどの側面が重要になるかはコミュニティの地域特性によって異なっており、特に移住者の多い都市部では、地元民との強い紐帯だけでなく信頼感も重要であった。一方、地元民の側からは、彼らの移住者受容には、実際のネットワーク量ではなく、信頼感やポジティブ評価など心理的態度の方が重要であることが示された。
著者
梅村 正幸 松崎 吾朗 高江洲 義一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

結核菌感染における免疫応答では、IFN-γ産生を主体とする細胞性免疫が最も重要な役割を担っている一方で、我々は炎症性サイトカインであるinterleukin(IL)-17Aが結核菌感染防御においても重要であることを明らかにしてきた。近年、我々は結核菌感染組織由来のTcR γδT細胞が抗原特異的な刺激においてIL-17A産生増強することを見出した。しかし、その産生増強メカニズムは未だ不明瞭な点が多い。そこで、TcR γδ T細胞がどのような機序により抗原特異的なIL-17Aを産生誘導するのか検討した。野生型C57BL/6(WT-B6)マウスに5x10e6 cfuのMycobacterium bovis BCGを気管挿管法により経気道感染させ、感染20日後の肺からリンパ球を調整した。WT-B6マウス由来の抗原提示細胞(APC)と肺リンパ球を結核菌精製抗原(PPD)存在/非存在下で共培養し、IL-17A産生T細胞(Th17およびγδ17細胞)を検出した。その結果、BCG感染肺においてIL-17A産生T細胞が認められ、PPD刺激において抗原特異的γδ17細胞の顕著な増強がみられた。加えて、この反応が培養上清中の液性因子に依存するのか、あるいはcell-to-cell contactが必要であるのかを明らかにするため、肺リンパ球とAPCを非接触型共培養法を用いて培養した。この非接触型共培養の条件下においても、PPD刺激によりγδ17細胞の増加が認められ、IL-23p19 KOマウス由来APCにおいても同様の結果が得られた。培養上清中の液性因子による影響を調べる目的でIL-1βおよびIL-23の中和処理をしたところ、γδ17細胞の増強は著しく減退した。一方、APCを介さず、感染肺リンパ球に直接PPDを投与したところ、γδ17細胞の増加が認められた。
著者
東 清二
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.125-140, 1976-12-01

イワサキクサゼミMogannia minuta Matsumuraの生活史と, 1963年以来サトウキビ圃場において発生密度が増加した原因について調査した。その結果次のことが判明した。(1)25℃, 30℃における卵期間は, 平均でそれぞれ42日, 32日であった。(2)鉢植えサトウキビで飼育した幼虫の1齢終了日はふ化後33&acd;36日, 2齢は63&acd;66日, 3齢は165&acd;170日, 4齢は300&acd;305日, 5齢は640日以後と推定された。また幼虫期間は個体間差が大きいこともわかった。(3)鉢植えサトウキビ及びススキで幼虫を飼育した結果, サトウキビでは2年で羽化する個体が多く, ススキでは3年で羽化する個体が多かった。(4)サトウキビ圃場の更新により幼虫個体数が約95%も減少することがわかった。(5)サトウキビ圃場の成虫は羽化直後平均541個の卵を有しているが, 死後の卵巣内残存卵数は125個で, 約400卵産下することがわかった。ススキ原の成虫はそれぞれ504個, 204個で約300卵産下する。サトウキビ圃場の成虫は産卵数が多いと推定された。(6)天敵は25種類確認された。農薬散布によりアリ類は19&acd;33%の個体数に減少し, クモ類の個体数は26&acd;55%に減少する。(7)これらのことからイワサキクサゼミがサトウキビ圃場において発生するようになったのは, セミの発育経過日数が個体により差があること, 及び株出栽培の増加によりサトウキビ圃場が耕起されずにセミの1世代期間以上も安定した状態で続いたことによるものと考えられた。一度サトウキビ圃場で発生するようになったセミは, 1世代期間が短縮したこと, 産卵数が増加したこと, 株出サトウキビにおいて産卵数が多いこと, 農薬散布によって天敵が減少し, セミの生存率が高くなったことなどで個体数が増加したと判断された。すなわち品種の変遷や栽培方法の変化によってイワサキクサゼミは重要害虫になったものと判断された。
著者
當間 孝子 宮城 一郎
出版者
琉球大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

マラリアは八重山・宮古諸島を中心に明治時代から報告され、人々の生活に大きな影響を与えていた。1957年より、DDT残留噴霧を中心としたマラリア防圧計画が実施され1962年流行は終息した。沖縄県は国際交流の拠点として重要な位置にあり、人の交流も盛んである。また地球温暖化により、媒介蚊の分布拡大やマラリア原虫が持ち込まれる可能性が高い。マラリアの発生予防の基礎資料を得るために、八重山諸島の本種の生息状況を明らかにした。1.石垣島におけるAn.minimusの生息分布 1998年9〜10月に48、1999年9〜10月には56の河川、渓流、湧き水で調査を行い、調査水域の約70%に本種幼虫の生息を確認した。2.石垣島の4水域における本種の年間の発生消長 幼虫:1998年11月より月2回、柄杓で100すくいし、年間の発生消長を調べた。ファナンと西浜川の幼虫の発生消長パターンは類似し、年間の発生総数も多かった。12月後半から4月前半までは発生個体数は少なく、5月後半から8月前半までは400〜1,000の個体を採集した。市街地に近い新川渓流で最も多い時期は2月後半から4月後半で300〜350個体を採集した。成虫:3渓流近くの牛舎にライトトラップを月2回設置し、1998年11月から1999年10月まで捕獲した。ファナン川近くの牛舎では5月前半から8月後半に個体数が増し、西浜川の牛舎では、調査を行った3地域の中では個体数が最も多かった。冬期は少なく、3月前半から増し、42個体になり、7月前半から8月前半に最も多く、151〜228個体を採集した。新川渓流周辺地域は最も個体数が少なかった。3.西表島およびその他の離島における本種幼虫の生息状況 西表島は20、小浜島では25水域中、それぞれ4、6水域で生息を確認した。小浜島での生息の確認は初めてである。波照間、与那国島では本種の生息は確認出来なかった。
著者
梶田 忠 高山 浩司 梶田 結衣 山本 崇 榮村 奈緒子 井村 信弥 石垣 圭一 堤 ひとみ Wee Alison Kim Shan
出版者
琉球大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

汎熱帯海流散布植物のナガミハマナタマメについて、西表研究施設のガラス温室内で7地域19集団から得た植物を栽培し、人工交配実験を実施した。2015年から2017年までの3年間に実施した交配実験と観察実験により、(1) 観察できた全ての地域間の組み合わせで結実と種子形成は正常であること、(2) 種子の発芽も正常であること、(3) F1個体の花粉稔性に受粉後生殖隔離の影響が現れる可能性があること等が示された。F1個体に受粉後生殖隔離が見られた組み合わせのうち1つは、先行研究で遺伝子流動の無いことが示された新大陸東西の集団間であり、このことは、本種が輪状種としての性質を持つことを示すものであった。
著者
屋比久 浩市 益崎 裕章 高山 千利 島袋 充生 幸喜 毅
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

若齢期における人工甘味料摂取が、視床下部小胞体(ER)ストレスを介して、成獣期の肥満感受性(レプチン抵抗性)を高める可能性が示唆された。分子シャペロンを人工甘味料と共投与することで、視床下部 ER ストレスが低下し、さらに成獣期以降、高脂肪食に対する嗜好性をも軽減することが確認された。 マウスの embryo から摘出した全脳の primary culture においては、人工甘味料が ER ストレス関連遺伝子の発現をかなり亢進させた。これは人工甘味料が視床下部 ER ストレスにダイレクトに寄与することを示唆する所見である。
著者
阿部 小涼
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度は、昨年度の継続として、ニューヨークにおけるコミュニティ活動に従事したプエルトリカンと、アフリカ系アメリカ人との交流・交渉から生まれるアイデンティティ構築と政治活動について分析を行った。なかでも、社会活動家であり、ジャーナリスト、詩人という多面性を持つヘスス・コロンという人物に焦点を当て、その作品を通して、1930年代以降のニューヨークというコンテクストに置かれたプエルトリカンの、人種意識と政治への関与を考察した。その際には、同時代を生き、ハーレム・ルネサンスの高揚を支えた人物としてアフリカ系アメリカ人研究では著名なA・ショーンバーグが、黒人としての人種意識に基づいて活動したことが、対照的な存在として言及されるが、それによって、ヘスス・コロンが人種問題よりも社会主義を重要視して活動したという一般的な理解では充分ではない、プエルトリカン固有の人種意識の困難さを明かにした。差別に曝されたアメリカ社会において、自らの白人性に執着したとみなされがちなプエルトリカン移民は、その政治的実践においてはむしろ黒人性への覚醒、アイデンティティ構築というコンテクストに照らすことで、その思想的状況をより豊かに析出可能となるのである。さらに、1960年代の公民権運動のなかで登場するコミュニティ自助組織「ヤング・ローズ」の、社会運動への影響力も重要であった。ブラックパンサー党への敬意から誕生したこの組織は、コミュニティにおける生活の問題を、アイデンティティの政治という表現を用いて主張してきた人々であった。その主張内容は、人種意識の特徴、人種の多様性についての認識を踏まえた、新しい社会運動への萌芽として重要であり、今後の研究の方向に指針を得ることが出来た。最終年度となる今年度は、これまでの3年間の研究をまとめる作業を行い、国際学会その他でのプレゼンテーションを実施したほか、雑誌論文として発表した。また、成果の一部は、出版準備中の本のなかの1章として、現在編集中の段階である。
著者
岡田 恵美
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

今年度の3月に実施したフィールドワークでは,研究対象であるインド北東部少数民族ナガの中でも,ナガランド州都コヒマ近郊のコノマ村を中心にアンガミ民族の民謡や習俗に着目した。アンガミ民族は,ナガの中でも6番目に人口が多く,およそ14万人(2011年インド国勢調査)である。そこでの調査内容の分析から,これまで主に注目してきた隣接するチャケサン民族(ナガの中では5番目に多い。およそ15万人)との共通点や相違性について抽出することができた。民謡においては,元々,両民族はテンディミア語から派生した言語を使っているため,歌詞には多少のバリエーションは見られるものの,類似したものも多いこと,またポリフォニーの民謡で使用される音列構成音はアンガミ民族の方が幅広い点が明らかとなった。伝統的な民謡の伝承状況に関しては,これまで調査してきたチャケサン民族の村々よりも危機的な状況に直面しており,民謡レパートリーの保存や次世代への継承の課題が浮かび上がった。上記の現地調査に加え,今年度は7月に,ナガの音楽文化や習俗とも共通項をもつ,台湾原住民ブヌンのシンポジウムも実施した。両者は国家の中ではいずれもマイノリティな山岳民族であり,20世紀にキリスト教化されたという点や,伝統的な音楽文化,織物文化,狩猟文化,首刈りの風習,村の共同体システムなどにおいて類似点も見られ,南アジアに限らない東アジアむ含めた比較的視点から研究する必要性も重要であることがわかった。またこれについては論文としてまとめた。
著者
星野 英一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の結果から、以下の結論を導く事ができると思われる。(1)日本の教育援助が,それだけで受取国における教育の普及に貢献するとは断定できないが、他国との教育援助協調を通して、受取国における教育の普及に貢献する度合いを高める事ができる。(2)教育援助協調は、供与国の政治的・経済的な利益や受取国の開発ニーズなどが絡み合った政治的な過程の結果として実施されている。
著者
我部 政明
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、政権交代を介した米国のアジア外交の連続と非連続を、オバマ政権の推進したアジア重視のリバランス戦略の形成と展開をめぐるメカニズムから、説明することである。オバマ政権は、2009年1月に誕生し、従来の外交・安全保障政策とは距離を置き独自の基本的な姿勢として、このリバランス政策を位置づけた。しかし、この政策は米国の外交政策の基調とならなった。本研究は、このリバランス戦略が(1)なぜ外交政策の基調とならなかったのか、(2)リバンス戦略を進めた結果として何が実現できたのか、(3)次の政権の外交政策与える課題とは何か、などの問いに答えることである。上記の目的を達成するためには、戦後米国のアジア外交の軌跡をなぞるだけでなく、第1に政権交代によって変化した外交課題を生み出す各政権の外交政策の基調を明らかにしなればならない。第2に、民主党政権の継続となる政権交代そして共和党政権の継続となる政権交代、あるいは民主党から共和党へ、そして共和党から民主党へ継続とならない政権交代のぞれぞれの特徴を見出す必要がある。第3に、テロとの戦いを開始したブッシュ(息子)政権の誕生がもたらした米外交政策の基調を検討する必要がある。このようなオバマ政権を生み出す米国の国内政治と米国の対外関係に関する研究の整理が、不可欠である。それによって、オバマ政権が従来の外交・安全保障政策の何を変更しようとしたのが、明らかとなる。そして、なぜアジア重視のリバンス戦略を追求するのか、それを構成するものは何であったのか、そのための国内説得の論理を何であったのか、などを明らかに出来る。
著者
島袋 純 我部 政明 高良 鉄美
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、地域レベルのガバナンスを開放的な体系と規定しグローバル化及び国際的な地域統合との相互作用の文脈において理論的に把握することを試みるものである。沖縄の事例を中心に国際比較研究を通じて一定のモデル構築を目指した。まず、グローバル化とは何か、地域、特に沖縄への影響という視点からグローバリゼーションの中身を検討し、操作可能性を高めるための概念的な整理を行った。グローバル化が沖縄の地域経済社会に及ぶ影響の把握(地域の歴史的・文化的な価値=ローカル・スタンダードの変化、社会経済活動への影響、市民社会からの問題解決主体の登場など)し、地域政府による反応的政策形成(日米安全保障体制の変容が憲法システム及び中央地方関係に及ぼす影響、地方政府による脱軍事的政策の追求、独自課税制度や環境基準設定、新たな自治・協働システム形成の試みなど)を分析検討した。2年目にはグローバル化と地域経済社会および地域政府との相互関係に焦点を当てたケース・スタディを行った。諸外国の地域政府(島嶼政府)、あるいは島嶼国家との研究に比重をおいた。グローバリゼーションの進む近年、島嶼地域のガバナンスがいかなる変容を引き起こしているかについて、それぞれの国を専門とする多くの研究者を招聘し、研究会を重ねた。04年12月には、英国(シェフィールド大学)、台湾(成功大学)、韓国済州島(済州大学)、オーストラリアタスマニア島(タスマニア大学)から、それぞれこの研究分野の第一人者をお招きして、国際的なワークショップ(英語)とシンポジウム(日本語)を行った。3年目の本年は、特に国内の政治及び自治の変容をテーマとして、北海道大学教授の山口二郎氏と、佐賀県知事の古川康氏をお招きし、シンポジウム「ガバナンス変容の中の沖縄-グローバル化と自治の新たな関係-」を設定、その成果を報告書における論文作成に活用した。最終報告書には、以上の成果により、国際的な市民社会との連帯にもとづく、地域社会の連帯・協力・協調を旨とする「社会再生型ガバナンスモデル」が提案された。
著者
平川 守彦 日越 博信 及川 卓郎 宮城 悦生 糸満 裕 平山 一浩
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.79-84, 1988-12-05
被引用文献数
1

本試験は野草地を蹄耕法で放牧地化し低コスト肉牛生産の可能性と問題点を探ぐることをねらいとした。約5ヘクタールの野草地を3牧区に分け平均体重350kgの黒毛和種去勢牛3頭を輪換放牧し放牧牛の食草行動を観察した。また, 数種野草の化学成分や乾物消化率を測定した。野草地におけるエネルギーの流れも調べた。その結果, 沖縄にはいまだ第2次大戦後の不発弾が数多く残っているため大型機械や火入れによる草地造成はひじょうに危険で牛による蹄耕法のほうが安全性や環境保全, 低コストなどの点でもっとも適した方法であると思われた。放牧牛の食草行動から有用な野草と思われるのはいくつかあったがその中でもハイアワユキセンダングサやノアサガオは他の野草と比べ嗜好性, 栄養価, 乾物消化率が著しく高く有望と思われた。野草の嗜好性順位は粗蛋白含量と正の相関, 粗繊維含量と負の相関関係が認められた。試験期間中の体重1kg当たりの採食量は1.8&acd;3.9%であった。乾物消化率は著しく低く35&acd;46%の範囲であった。日増体量は最高値0.88kgを示し, 平均値0.52kgであった。野草地における光エネルギー利用効率は植物蓄積エネルギーと可消化エネルギーの段階で低かった。その結果, 増体蓄積エネルギーはオーチャードグラスやバヒアグラスより低い値であった。以上のことより野草地における光エネルギー利用効率の低い箇所とその原因が推察された。これらの点を改良すれば野草地放牧での低コスト肉牛生産は可能であると思われる。