著者
森 直樹
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

NF-κB活性化は、ATLやバーキットリンパ腫(BL)、ホジキンリンパ腫(HL)の発症に必須である。ATLの原因ウイルスHTLV-1のTaxやBL及びHLの原因ウイルスEBVのLMP-1並びにHLで高発現するCD30はNF-κBを活性化するが、過剰なNF-κB活性化は細胞死や老化を誘導する。NF-κB制御因子IκB-ζが、ATLやBL、HLで高発現していた。Tax、LMP-1、CD30はIκB-ζの転写を活性化した。IκB-ζはNF-κB/IFN制御遺伝子の発現を誘導したが、Tax、LMP-1、CD30依存性NF-κB活性を阻害した。IκB-ζはNF-κBを正と負に制御し、発がんに関与する。
著者
小川 由英 外間 実裕 諸角 誠人 秦野 直
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

尿路結石の約80%はシュウ酸カルシウムが成分であり、その傾向は沖縄でも同様であった。シュウ酸カルシウム結石の原因は特発性がほとんどで、過シュウ酸尿症は約1/3、過カルシウム尿症が1/3に認められた。尿中シュウ酸排泄が増加する原因は、食事性が多いとされ、シュウ酸含有食物摂取、脂肪の過剰摂取、シュウ酸分解菌の減少などでシュウ酸自体の吸収が増加する。ヒト腸管内のシュウ酸分解菌は、偏性嫌気性菌であり、Oxalobacter formigenesが結石形成の主たる阻害因子とされている。文献上で報告されているシュウ酸分解菌は、すべて偏性嫌気性菌であった。我々はヒトの腸内からシュウ酸分解菌、すなわちEnteococcus fecalis、Providencia rettgeriiを同定し報告した。これらの菌は、酸素の存在下でも発育できる通性嫌気性菌であり、ヒトの腸に常在させた場合、シュウ酸吸収を減らし、尿中シュウ酸排泄を減少させ、シュウ酸カルシウム結石形成予防効果が期待される。しかし、実際にこれらの菌をヒトに感染させるのは困難である。わが国で用いられている生菌製剤の25製剤のシュウ酸分解能について検討したが、現在のところシュウ酸分解能は確認できていない。また、シュウ酸吸収のラットでのモデルを考案し、上部消化管と結腸が重要な吸収部位であることを証明し、消化管内にカルシウムとマグネシウムがシュウ酸と同時に存在すると、その吸収を阻止することを示した。消化管内のシュウ酸吸収機構に関しては、脂肪酸と胆汁酸などの影響に関しは検討中である。さらに、ヒトの腎不全の際にシュウ酸は尿毒症物質であり、高シュウ酸血症が長期持続すると組織にシュウ酸カルシウムが沈着する。その腎不全の際のシュウ酸代謝では、アスコルビン酸が重要な役割を果たすことを発見したが、その機序が消化管内でシュウ酸に分解され、シュウ酸が吸収されるのであれば、シュウ酸分解菌が応用できる可能性も考えられ、これからの検討課題である。
著者
北條 優 重信 秀治
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

キノコを栽培するシロアリであるキノコシロアリ(タイワンシロアリ)について、主に西表島、沖縄島、台湾島におけるフィールド調査およびDNA解析から、その栽培菌であるオオシロアリタケ属菌の地理的分布パターンを明らかにした。また日本ではこれまで知られていなかったオオシロアリタケ属菌の子実体を発見した。タイワンシロアリの行動解析では、大小2型のワーカー間に菌園管理における分業が見られることが明らかになった。タイワンシロアリの全カーストを用いた遺伝子の網羅的発現比較解析では、セルロース類の消化や菌園管理に関わる可能性のある遺伝子を特定した。
著者
小川 由英 諸角 誠人 内田 厚 外間 実裕
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

シュウ酸は尿毒症物質であり、透析患者で高シュウ酸血症が長期持続すると臓器や組織にシュウ酸カルシウムが沈着する。透析患者は、動脈硬化も早く、高血圧、心疾患、脳血管障害などの危険も高い。高シュウ酸血症は血管の内皮傷害を惹起し、動脈硬化の原因となる。透析患者は尿毒症のため過酸化状態であり、ビタミンC投与は過酸化状態を改善し、発癌などの悪循環を断ち切るなど多大の恩恵をもたらす。しかし、ビタミンCを大量投与すると透析患者の血中シュウ酸値は高くなり、オキサローシスとなる。1 腎不全患者の血中シュウ酸をキャピラリー電気泳動で初めて測定し、約6年が経過する。約452名の腎不全患者を対象に血清中のシュウ酸前駆物質を測定し、血清シュウ酸とアスコルビン酸とは関連性が強く、ビタミンC投与が高シュウ酸血症の原因となることを示した。エリスロポエチン抵抗性の腎性貧血の際にビタミンCにより、鉄の利用度を増し、貧血を改善する。その際にビタミンC投与により、エリスロポエチン投与量を減少することを発見し、その最適の投与量は100mg/日と考えている。組織の石灰化に関しては、リン酸カルシウムの沈着がほとんどであるが、シュウ酸濃度が100μM以上であると不安定過飽和状態となり、シュウ酸カルシウム沈着の危険が高まる。常にこの値を超えるのは原発性過シュウ酸尿症の場合である。副甲状腺機能亢進症症例における腎性骨症に関して、経時的な組織の変化を報告したが、副甲状腺全摘前後の骨代謝パラメータとシュウ酸とは有意な相関は見られなかった。2 グリオキシル酸の解毒機構として、AGT(アラニングリオキシル酸アミノ転移酵素)が肝細胞のペルオキシゾームに局在し、グリコール酸より代謝されるグリオキシル酸をペルオキシゾームにおいて解毒する。また、肝細胞の細胞質と他の臓器にもグリオキシル酸還元酵素が存在し、シュウ酸産生を最小限に抑える。AGTの補酵素であるビタミンB6欠乏もオキサローシスの原因であり、透析患者では水溶性ビタミンが欠乏しがちである。ビタミンB6欠乏ラットで、グリオキシル酸、グリコール酸、ハイドロキシプロリン、ハイドロキシピルビン酸、キシリトールなどがシュウ酸産生を増加することを示した。これらの前駆物質の摂取を透析患者では制限する必要がある。この食事制限はオキサローシスの治療上非常に重要な示唆である。3 キャピラリー電気泳動に質量分析器を装着して、シュウ酸関連物質を測定し、測定感度を数倍上げることが可能となり、血清シュウ酸とグリコール酸の測定法を改良することが出来、また、従来の測定がそれぞれ正しいピークを測定していたことを確認できた。これは大きな収穫であり、シュウ酸に関しては更に数十倍の感度で測定できる方法に辿り着きそうである。
著者
上間 陽子 打越 正行
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究はこれまで焦点の当てられることのなかった、地方在住のリスクを抱える若者の移行過程の聞き取り調査である。調査において特に注目したのは、これまでの移行調査では扱われることのなかった暴力や性の問題である。暴力や性の問題は、①当事者との合意が形成しづらく、②バッシングに転化しやすいことからこれまで記述されることがなかった。本調査研究では、そうした問題が起こるのかを、かれらの資源の枯渇状況を描くとともに、当事者の合意を経ながら記述をすすめることで、貧困研究においてえがかれることのなかった、暴力や性の問題を記述することができた。
著者
川満 芳信 川元 知行 吉原 徹 村山 盛一
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.91-105, 1997-12-01

マングローブ構成樹種であるメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギをポット栽培し根系に400mMNaCl処理を施した後, 各器官のイオン組成の変化を調べた。また, 光合成速度, 葉厚, 根の乾物重も併せて調べた。自然環境下のヒルギ3種およびマヤプシキ, ヒルギダマシの葉部のイオン組成も調査した。これらの結果を基礎に, イオン動態からみたヒルギ3種の耐塩性について検討した。結果を要約すると以下になる。1)400mMNaCl処理によって3種ヒルギの光合成速度は低下し, その割合はメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギの順で大きかった(第1表)。2)400mMNaCl処理によって3種ヒルギの各器官で顕著に増加したイオンはNa^+であり, 葉部および根系における増加割合に種間差がみられ, 葉部ではメヒルギが最も大きく, 細根ではメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギの順であった(第3図)。3)400mMNaCl処理に伴う根の乾物重の変化とNa^+, 全窒素の増加割合から, オヒルギの主根は他の2種にはみられない特異的な機構を持つことが示唆された(第2表, 第3,11図)。4)オヒルギの葉は他の2種に比べK^+/Na^+比が低いことから, 細胞の浸透圧調節機構が異なるタイプであると推察された(第12,14図, 第3,4表)。5)ヤエヤマヒルギはNa^+の含量および増加割合は低いが, 主根のCl^-含量が高く, 自然環境下の葉の含量も高いことから, Na^+に対する根の水の選択能は優れているが, Cl^-については葉まで移送させることが示唆された(第3,4図, 第3,4表)。ヤエヤマヒルギは他の2種に比べてMg^<2+>含量が著しく高かった(第7図)。6)葉のCa^<2+>の含量に種間差がみられ, ヤエヤマヒルギ, オヒルギ, メヒルギの順で高い値を示した(第6図)。7)自然環境下のヒルギ3種は葉位におけるNa^+と全窒素に高い相関関係が認められた。
著者
高良 倉吉 狩俣 繁久 赤嶺 政信 山里 純一 豊見山 和行 池田 栄史 真栄平 房昭
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

歴史学分野では戦後のアメリカ統治期の約5年間に与那国島を南の拠点とし、口之島を北の拠点とする密貿易・密航ルートが先島諸島・沖縄諸島・奄美諸島・トカラ列島そして九州にまたがって形成されていたことから、トカラ列島の問題を前近代史に限るのではなく、現代史にも位置づけ直す必要がある点が確認された。沖縄県立博物館所蔵の古図の分析を本格的に行ない、同図が15世紀中期に朝鮮で作成された琉球国之図に近似していること、原図作成者と見られる中世の九州海商がすでに九州・トカラ・奄美そして琉球に至るネットワークを形成し、彼らの活動舞台に関する詳細な情報を入手していたことなどが明らかとなった。この古図の分析結果は中世日本史の分野に対する十分な問題提起になりうると思う。トカラ列島中之島を対象とする民俗学的調査では過疎化や住民の交替などにより古層を伝える伝承者がすでに存在せず、むしろ能動的な民俗変容こそ問題とすべき段階にあることが葬墓制の事例研究などから明らかとなった。言語学的にみてトカラ方言が九州方言と琉球方言をつなぐ重要な位置にあり琉球方言形成史解明のための手がかりを与える方言であることが確認された。研究の最終作業として行なわれた2度にわたるワークショップでは、トカラ列島の位置づけをめぐって薩摩・九州からの視点と奄美・沖縄からの視点だけでなく、中国をふくめた環東シナ海における位置づけが重要であるなどの論点と今後の主要な課題が確認できた。
著者
高橋 望
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

平成3年の大学設置基準の大綱化以降、大学の個別化により学部・学科名称が多様化している。この多様化により、専攻分野と卒後の進路との対応関係が不明確となったことが、大学進学希望者らにとって、将来のキャリアを見据えた進路選びを阻害する一因となっている。本研究は、適切な進路選択を支援するため、まず、学位に付記する専攻分野の名称を専攻分野の代理指標として、専攻分野と卒後の進路選択との対応関係の変遷を解明することを試みる。そして、この対応関係に基づき、希望する進路と関係する専攻分野や大学を検索し、結果を比較表示するアプリケーションを開発し、大学進学希望者らへ進路選択支援システムとして提供する。
著者
辻 瑞樹 松浦 健二 立田 晴記 菊地 友則
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

東アジアから北米に侵入したオオハリアリに注目し生物学的侵略機構に関する既存仮説全てのテストを試みた。日本、北米とも多女王多巣性コロニーというほぼ同じ集団遺伝学的構造を持ち、北米の方が高い個体群密度を示した。安定同位体分析では自然分布域(日本)におけるシロアリ食から侵入域(米国)でのジェネラリスト捕食者化という栄養段階・食性ニッチの変化が示唆された。病原微生物が原因と考えられる蛹の死亡率が日本でより高かった。これらの結果はアルゼンチンアリなどで議論されている遺伝的ボトルネック説などよりも、外来種一般で議論されている生態的解放が侵略機構としてより重要であることを示す。
著者
東 清二
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.1-158, 1977-12-01
被引用文献数
3

1.本論文は沖縄におけるサトウキビ栽培品種の変遷に伴って品種の形質と栽培管理方法がいかに変化し, これらがサトウキビ害虫の発生にどう影響したかについて検討したものである。2.沖縄において製糖が始って以来, 今日までに栽培されたことのあるサトウキビは10品種以上に及んでいる。しかし, 品種転換の短期間を除いては読谷山, POJ2725及びNCo310が栽培面積の65%以上を占めていた。この理由で, 本論文では1931年以前を読谷山時代, 1932&acd;1960年をPOJ時代, 1961年&acd;現在(1976年)をNCo時代と呼ぶことにした。3.沖縄で栽培され, あるいは現在栽培されているサトウキビ品種の特性のうち, 害虫抵抗性と関係があると考えられる主な形質について調査した結果, 株出適応性, 脱葉性, 葉幅, 葉姿, 57群毛茸の多少, 葉鞘開度などの形質が関与していることが判明した。4.栽培品種の転換によって当然サトウキビの栽培管理方法も変化した。読谷山時代には穴植法であった。POJ時代にはモジョバングン方式となり, NCo時代は農用機械の利用が多くなった。栽植密度も時代の変遷によって10a当り3,300&roarr;3,600&acd;27,00&roarr;2,400&acd;2,700本となった。植付時期は読谷山時代には春植が主で, 株出栽培が僅かにあった。POJ時代になって夏植が圃場の40%を占めていた。NCo時代には株出面積が75%, 夏植が20%, 春植が5%の比率となっている。施肥量は漸次増加した。剥葉作業はPOJ時代以前にはよく行われていたが, NCo時代には圃場面積の約半分しか行われていない。害虫防除はPOJ時代以前には捕殺または石油乳剤の散布に頼っていた。NCo時代になって合成農薬による化学的防除法がその中心となった。5.沖縄におけるサトウキビ害虫の種類は, 読谷山時代には42種, POJ時代には122種, NCo時代には165種記録されている。このように時代の経過に従って害虫の種類が増加した。しかし, これは調査, 研究の積重ねや取扱い方の違いによる影響が大きく, 害虫化した種類や侵入種は限られている。重要害虫は栽培品種の変遷に応じて変化してきたことが明らかである。読谷山時代にはCavelerius saccharivorus (Okajima)カンシャコバネナガカメムシ, Tetramoera schistaceana (Snellen)カンシャシンクイハマキ, Scirpophaga nivella (Fabricius)ツマキオオメイガ, Sesamia inferens Walkerイネヨトウの4種が重要であった。POJ時代には以上の種からツマキオオメイガが脱落し, Ceratovacuna lanigela Zehntnerカンシャワタアブラムシが加わった。NCo時代にはカンシャワタアブラムシの加害が減少し, Aulacaspis takarai TakagiタカラマルカイガラムシとMogannia minuta Matsumuraイワサキクサゼミが登場した。6.現在沖縄で栽培されている主なサトウキビ品種はNCo310とNCo376で, 前者は栽培面積の80%強, 後者は10%強を占めている。重要害虫はカンシャコバネナガカメムシ, イワサキクサゼミ, タカラマルカイガラムシ, カンシャシンクイハマキ, イネヨトウの5種があげられる。7.カンシャコバネナガカメムシの生活史及び各時代の発生消長について調査した結果を要約すると次のとおりである。(1)従来の各種資料と新たに得られた調査結果によると, 読谷山時代には発生密度が高く, POJ時代には減少し, NCo時代には再び発生が多くなった。(2)品種比較試験圃場及び品種保存園において発生密度を調査した結果, NCo310で個体数が最も多く, 次に読谷山に多く, POJ2725では少なかった。またNCo376ではNCo310に比べ発生密度が少なかった。(3)品種により発生密度が異なるのは, 産卵数, 幼虫死亡率, 幼虫発育日数, 57群毛茸による若令幼虫の保護, 品種によって生息空間に差があるためで, サトウキビ品種が産卵誘引性を有しないこと, 発育阻害因子を有すること, 57群毛茸を有しないこと, 葉鞘開度が小さいことは抵抗性であると考えられ, それらの形質は抵抗性因子としてあげることができよう。(4)サトウキビ栽培管理作業では剥葉, 植付時期(作型), 更新作型, 収穫後の残渣焼却が発生密度に影響する。(5)天敵は9種類確認された。そのうちでEumicrosoma blissae(Maki)カンシャコバネカメムシタマゴバチの寄生率が高い。この寄生蜂の生活史, 発生消長, 寄生率について明らかにした。また, 品種により寄生率に差のあることが認められ, 品種の形質が天敵の活動にも影響することを明らかにした。(6)読谷山とNCo310はPOJ2725に比較して抵抗性因子の保有が少ない。また, NCo時代にはカンシャコバネナガカメムシの個体数を減少させる管理作業が少なく, 発生密度を高くする株出栽培の面積が広くなった。これらのことは各時代における本虫の発生に影響したものと考えられる。8.イワサキクサゼミの生活史とサトウキビ圃場における発生密度増加の原因について調査した結果次のことが判明した。(1)25℃, 30℃における卵期間は, 平均それぞれ42日, 32日であった。
著者
豊見山 和行
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

「尚家文書」を中心に、近世琉球の国家と社会に関する研究を行った。国家の側面に関しては対清朝関係(冊封関係)に関わる僉議を用いて、琉球の政治構造を検討した。社会の側面については、士族・百姓身分が区分される歴史的経緯などを分析した。
著者
米盛 重保
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.633-640, 1983-11-19

沖縄における春作マスクメロンの品種比較試験を無加温条件下のガラス室で1982年3月&acd;6月に実施した。供試品種は17品種で, 草丈, 葉数, 雌花着生, 果実品質等について調査した。各品種とも順調な生育がみられた無加温下での短期栽培が確認された。特に定植後20日&acd;30日における草丈伸長や出葉数は旺盛で1日当りの草丈伸長は7.8cm, 出葉数は1枚であった。果実の良否に大きな影響をおよぼす雌花の着生状況は比較的良好で9節&acd;15節の雌花着生率は78.7%, 各節位における雌花着生は5&acd;6節から始まり10節以上の節位では90%以上の雌花着生率を示した。果実の着果節位はほとんどの品種が11節目に集中しており理想節位に着果した。果実の品質は品種間差が大きく, アールス東海S-78とシーザーを除き果重が1,300&acd;1,600gで果形は偏平形を呈していた。糖度, ネット形成, 食味ではアールス春系の3品種は栽培管理の困難さがあって順調な結果が出ずネットの不形成や糖度不足が多かった。果肉色, 果皮色は品種特有で, 果肉色は白色, 果皮色は緑色を基色とした濃淡差がみられた。白裕は果肉色果皮色とも乳黄色で従来見られなかった乳黄色ネットメロンとして特異な品種である。病害虫による被害はツルガレ病以外の病虫害はほとんど問題なかった。ツルガレ病は全品種に被害を及ぼし枯死株が続出した。沖縄における春作マスクメロン栽培の可否はツルガレ病対策が重要な課題と思われる。本試験の実施にあたり供試品種の種子を提供下さった前記各種苗会社に深く感謝の意を表します。また本試験は実用規模での栽培であったため多大な労力を必要とした。その面で協力をいただいた農学科学生の糸洲朝光, 喜納兼二, 島袋つかさ, 仲田ひろみ, 林真人の諸君に深く感謝する。また本報告の校閲をしていただいた農場長の大屋一弘教授に深く感謝の意を表します。
著者
竹村 明洋
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

サンゴ礁に棲息する魚類の多くは産卵期に月齢に同調した性成熟と産卵を繰り返す。この海域の魚が月の何を感じ、そして体内でどのような情報へと転換して月齢同調性を示すようになるのかについてはわかっていない。本研究では月が地球に及ぼす影響のうち月光の周期的変化に焦点をあて、沖縄のサンゴ礁に普通に棲息する月齢同調性産卵魚ゴマアイゴが月光を感受する能力を有するかどうかを調べた。本研究では明暗で変動するメラトニンに着目した。血中メラトニン量には明確な日周変動が認められ、暗期に高く明期に低い値を示した。満月時における血中メラトニン量は新月時のそれに比べて有意に低下していた。恒暗条件で飼育していた魚を新月・満月に暴露した時血中メラトニン量は急激に減少した。ゴマアイゴの松果体を生体外培養した結果、松果体からのメラトニン分泌に明確な明暗変動がみられた。松果体を月光に暴露することにより培養液中へのメラトニン分泌量は減少した。また、昼間光から引き続き夜間光へ移行した松果体でのメラトニン分泌量は、実験暗条件に比べて低かった。以上の結果からゴマアイゴの松果体に光受容能があり、夜の明るさを認識できることが判明した。自然条件で飼育したゴマアイゴは予定産卵日に産卵したが、人為的月光で予定産卵日1ヶ月前から飼育した場合は産卵しなかった。予定産卵日2週間前から人為的満月と新月で飼育した場合、新月では産卵したのに対し、満月では産卵しなかった。以上の結果は、月光の周期的変動が魚の成熟に関与している可能性があった。本研究で得られた結果は月光がゴマアイゴの同調的な成熟と産卵に関係している可能性を示すものである。月が地球に及ぼす周期的環境変動には様々あり、それらが複合的に関与し魚類の同調性リズムに関係している可能性がある。今後もアイゴ類をモデルとしながら、月と地球上の生物の生命活動との役割を明らかにしていきたい。
著者
謝 福台 金城 尚美
出版者
琉球大学
雑誌
留学生教育 : 琉球大学留学生センター紀要 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.41-59, 2005-03

本稿は,日本語学習者にとって習得が困難だとされる助詞の中でも特に「は」と「が」の使い分けに関する論考である。とりわけ,助詞があるという点で,日本語と統語論上,似た体系を持つとされる韓国語の母語話者と,日本語の文法体系とは異なり,格助詞や係助詞がない中国語の母語話者に調査を行い,「は」と「が」の誤用の分析を行った。その結果,「は」と「が」の使い分けについて中国語母語話者と韓国語母語話者を比較すると,韓国語母語話者は誤用率がかなり低いことが明らかになった。これは母語からの正の転移がかなり寄与していると推察される。しかし「は」や「が」が出現する条件によっては,誤用率が高くなることから,「は」と「が」の出現条件に関する知識が不足している部分もあることがわかった。一方,中国語話者にとって「は」と「が」の使い分けは誤用率がかなり高いことが示された。この結果から,中国語話者にとって「は」と「が」の使い分けは予想以上に複雑な言語処理を要求することが推察された。本研究によって,「は」と「が」使い分けに関する条件や規則など,指導に生かすべき点がいくつか明らかになった。
著者
加藤 祐三 新城 竜一
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1993年8月、沖縄島中部西海岸読谷村の海岸でハンマーの打撃で発火する物質の存在が確認され、これが天然の白リンであることが明らかになった。このリンの分布を明らかにすることと、実験にたえる量の試料を採集する目的で、第1発見地点付近を中心に、50m×36mの範囲を2m間隔のメッシュで切り、潮溜まりであるために採集できない場所を除いて系401個の試料採集を行った。採集した試料は水に漬けて実験室に持ち帰った。試料は白色の物が多いが、リンを含む地点の周辺では不規則に黒色に着色している。この黒色物質は不安定で、保管するうちに次第に消失し、試料全体が白色に変化していく。全岩分析をしてP_2O_5%を定量・比較すると、黒色部では明瞭に多く、0.15%以上、最大0.82%含有しているのに対して、白色部では平均0.10%である。これらの値は今回沖縄島各地で採集した琉球石灰岩の平均値0.05%より明らかに多い。リンを主成分とする唯一の造岩鉱物であるアパタイトの含有を、黒色部を粉末にし重液分離して調べたところ、極めて僅かであるが共生鉱物としての存在が確認できた。一方、白リンについてX線粉末回折実験を行った結果、人工合成したリンと、産状から見て人工物と判断されるフィリピンで発見されたリンの2試料には、リンのピークには一致しない不明のブロードピークが同じ位置に存在するのに対して、読谷村産のリンにはこのピークが認められない。このことは、このリンが前2者とは成因が異なり天然産であることの傍証となる。
著者
小須田 雅
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は,q=1の場合のParty代数の既約表現の行列表示に関する論文をまとめて外国雑誌に投稿した。昨年以来試みてきたq変型については,共役関係,すなわち「対称群の生成元に対応する生成元で挟んだ場合に,『共役』な関係式が得られる」という性質を満たすものを構成することは出来なかったので,制限付きのParty代数(これらは複素鏡映群のテンソル積表現の中心可環に対応する)の既約表現の構成について考えた。こちらについては,スウェーデンで行われた「形式的巾級数と代数的組み合わせ論の研究集会(FPSAC03)」で,A.Ram氏と討論する予定であったが,Ram氏が欠席したため,思うような成果は得られなかった。Ram氏は複素鏡映群のテンソル積表現の中心可環の特別なタイプである,Partition代数と呼ばれる代数の既約表現の構成について講演する予定であったため,今後の研究についての重要な指針が得られる筈であった。しかしながら,同研究集会に出席していたP.Terwilliger氏との討論を通じて, Party代数の指標表の作成に関する研究について,いくつかのアイデアを得ることが出来た。また,Terwilliger氏はRam氏と同じ大学に所属しており,分野も近いことから,氏の研究についての情報も得ることが出来た。その後,制限付きのParty代数の既約表現の構成について自分なりに良いアイデアが得られたが,論文としてまとめるにはもう少しの進展が必要である。予定していたRam氏との討論が実現しなかったため,期間内に当初の研究計画すべてが実現できたわけではないが,予想された範囲内の進ちょくと言える。今後は「制限付きのParty代数の既約表現の構成」についての論文を仕上げ,Terwslliger, Ramの両氏と討論することで,新しい研究の方向を見極めたい。
著者
上江洲 留易 平田 永哲
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学教育学部障害児教育実践センター紀要 (ISSN:13450476)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.125-140, 2001-03-31

本研究の目的は、59音もの側音化構音を有する児童に対して筋機能療法を適用し、側音化構音を改善することである。対象児は、口腔機能の弱さと不調和が見られ、安静時には常に開口し舌突出があり、発話時には舌を過剰に動かす6歳女児である。研究(1)では、MFTを適用した(1)舌尖のコントロール、(2)舌尖の筋力、(3)舌側方部の筋力の訓練経過と効果について報告した。 研究(2)では、MFTを適用した(4)舌挙上の筋力、(5)舌位の改善、(6)口輪筋・頬筋の筋力の訓練経過と効果、(1)/i/、/∫i/音、(2)/sa/, /se/, /sw/, /so/音の構音指導の経過と効果について報告する。MFTの適用により、舌筋及び口腔周囲筋の機能はほぼ完全に改善された。口腔周囲筋の機能を高めたことにより、短期間の構音指導で/s/音の改善が見られたが、/i, ∫i/音には改善が見られなかった。改善されなかった原因は、絶えず過剰に動く丁子の舌癖と指導期間の短さが考えられた。研究結果から、構音指導の基礎訓練としてMFTを適用することは、側音化構音の改善に有効であることが示唆された。同時に、過剰に動く舌癖を除去し有効な構音指導に結びつけることの困難さと指導のあり方も課題として残された。
著者
當間 孝子 宮城 一郎 比嘉 由紀子
出版者
琉球大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

蚊は人・哺乳動物の血を吸い病原体を媒介する。哺乳類の吸血行動に関しては多くの研究があり、動物が排出する二酸化炭素や体温を感知し、動物に接近することはよく知られている。最近、我々は冷血動物(蛙)の鳴き声に刺激され、吸血行動を開始する蚊がいることを報告した。本研究では、どんな蚊種がどんな種の蛙の鳴き声に誘引されるのか、それらの音に特徴があるのか、また、誘引された蚊の室内での累代飼育を試み、生態を明らかにすると共に、野外で採集した吸血蚊の吸血源動物を明らかにすることを目的として行った。これらの研究は昆虫媒介性人畜の病原のサイクルの解明、人畜への感染予防対策に役立つと考える。研究の結果、チビカの仲間の蚊、特にUr. macfarlaneiが蛙の鳴き声に多数誘引され、西表島に生息する8種の蛙の声、いずれにも、個体数の違いはあるが誘引されることが明らかになった。本工学部の音声の専門家である高良教授の協力を得て、蛙の鳴き声を分析し、人工音を作成、野外実験を試みたが、蚊を誘引する人工音は特定されてなく、引き続き調査中である。蛙の鳴き声に誘引された西表島産Ur. macfarlaneiは実験室内累代飼育に成功した。1雌が平均61卵粒からなる卵塊を水面に産み、幼虫期間は9-15日、蛹の期間は2-3日で、羽化率は74%であった。羽化成虫は大ケージで自然条件化で交尾し、吸血源として蛙をケージ内に入れると約15%の雌が吸血した。今後本種の実験室内での音に対する反応など生態を明らかにする。本種吸血雌の胃内血液のDNA解析の結果、野外ではサキシマヌマガエル、ヒメアマガエル、アイフィンーガエルを吸血していることも明らかになった。
著者
又吉 宣
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

リゾフォスファチジン酸(LPA)は生体内で様々な働きを持つ生理活性脂質として近年注目を集めている。癌細胞に関してはLPA刺激が癌細胞の増殖や遊走といった悪性形質の発現に働くことが報告されている。その受容体はLPA1-6の6つのタイプがこれまでに知られているが、2003年に発見されたLPA4に関してその働きはよくわかっていない。今回、頭頸部扁平上皮癌細胞株を用いLPA刺激に関する増殖能、遊走能を調べる実験を行った。次に遺伝子導入によりLPA4を過剰発現させた頭頸部扁平上皮癌細胞株を用い同様の実験を行うことによってLPA4を介したシグナリングが癌細胞の悪性形質発現抑制につながる可能性を見い出した。