著者
小田 良助 綿貫 宏光 藤井 勝仁 谷川 靖信
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.247-254, 1981-11-30

沖縄本島南部地区は, 近年著しく酪農が発達した。筆者らは昭和54年度の経営を対照に5市町村から36戸の中堅農家を選定し, その経営調査を行った。その要約は次の通りである。(1)成牛飼養頭数20∿40頭の農家が多く, 家族経営が殆んどで堅実な酪農経営であった。たゞ, 育成牛飼養頭数が成牛2∿3に対し1の比程度に飼われ, やゝ多い傾向が窺えた。(2)1頭当り年間産乳量は, 3000∿4500kgが大半を占めており, 5000kg以上は僅か5%にすぎなかった。これは沖縄の牛が資質が悪いことではなく, 夏期高温による夏バテによって泌乳能力が低下しているものと考えられる。従って暑熱対策を考え, 産乳量の増加を図ることである。(3)一般に乳飼率は高く40∿55%を示したものが, 調査36農家中15農家(42%)を数えた。このことは夏期高温により, 必然的に熱発散によるエネルギー消費補充が要求されることによって, 濃厚飼料の消費が多くなるものと考える。(4)労働時間は, 1日平均12時間を数えた。従って1人1時間当り労働報酬は1000円以下が約50%を数え, 低賃金であった。(5)粗飼料は, 沖縄県独特のネピアグラスが栽培され, 1頭平均5アールの小面積乍ら本草の多収穫栽培によって夏期は充分に粗飼料確保が可能である。しかし冬期粗飼料が不足するので, サイレージの利用を考えるべきである。
著者
塩出 浩之
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、明治維新直後に誕生した日本の新聞が、公開の言論による政治空間を形成した過程について、近隣諸国との関係・紛争をめぐる議論を中心に分析した。征韓論と民権論の結合に象徴されるように、言論の自由(政府批判を含む)の追求とナショナリズムとは親和的だったが、"国益のための避戦"論のように議論には多様性があり、公に異論を戦わせること自体に重きが置かれていた。コミュニケーションの形態にも多様な模索があり、琉球併合問題をめぐっては中国の新聞との相互参照もみられた。
著者
喜納 育江
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、アメリカ南西部における米墨国境地帯の文化的「境域」におけるチカーノとアメリカ先住民の文学について、これらの文学が、国境線で分断された故郷や大地とのつながりを求める先住民としての想像力を共有していることを明らかにした。特に、国内の研究成果が皆無に等しかったチカーナ文学の文学的想像力に注目し、チカーナと先住民文化の関係を明らかにする複数の研究論文を発表した。
著者
宮平 勝行
出版者
琉球大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

平成21年度は,サンパウロ市周辺で実施した聞き取り調査や収集した資料をもとに,継承沖縄語が沖縄人ディアスポラの日常会話やポルトガル語の地域月報,ポピュラー音楽,舞台劇などでどのように用いられているのかを調査した。ポルトガル語で書かれた沖縄の昔話などに出てくる沖縄語の借用に始まり,ポピュラー音楽に表れる沖縄語とポルトガル語のコード切替,移民100周年記念大会で披露された舞台劇での沖縄語のみによる語りなど,様々なコミュニケーションの位相で沖縄語の使用が確認できた。しかしながら,世代が進むにつれて沖縄語は用いられなくなり,3世に至るともっぱら比喩的コード切替(Holmes,2008)を通して沖縄人としてのアイデンティティを指標する様子をレポートした。一方でこうして失われつつある沖縄語を維持・継承しようとする非営利団体による沖縄語の講座もサンパウロ市郊外のビラ・カロン地区で開かれている。そこで,対面及びオンラインビデオ会議による聞き取り調査と記述式アンケート調査を実施し,沖縄人ディアスポラによる沖縄語継承の試みを報告し,その課題などを探った。考察にあたってはウェールズ語,マオリ語,スコットランド・ゲール語など,代表的な継承言語の研究成果を参照している。研究調査の結果からは,同講座が地域における継承言語の威信を高め,言語アイデンティティの高揚に寄与していることが明らかになった一方で,ディアスポラにおける沖縄語の普及にはいくつかの難しい課題があることを突き止めた。3世代におよぶ受講生の母語,第二・第三言語に関わる文化背景が多様であること,消滅の危機にある沖縄語を越境の地で学ぶ際の教材・人材の不足,さらに共通語としての英語が沖縄入ディアスポラに及ぼす脅威などである。うちなぁぐちの保護・維持にはディアスポラ共同体や沖縄単独の努力ではなく,沖縄を一員とする国際間協力が重要であることを説いた。
著者
平良 一彦 松崎 俊久 宮城 重二 佐藤 弘明 名嘉 幸一 崎原 盛造
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

本研究の最終年次の追求課題は、調査地域(大宜味村)の老人の精神心理的側面の特徴、各種指標と加齢との関連性、死亡構造の特徴、児童・生徒の健康像を明らかにすることであった。調査はおおむね順調にすすめられ、成績は以下のごとく要約される。1.調査地域の老人のモラ-ルに関する要因についての調査結果から(1)男性ではADL障害の有無、女性では健康度自己評価が、モラ-ルに大きな影響を及ぼす。(2)対人関係の依存パタ-ンの分析結果から、男性は子供・配偶者が重要であり、女性は友人関係であった。このことから特に女性老人の場合、家族以外の人と親密な関係をもつことがモラ-ルを高める大きな要因となることが示唆された。2.調査地域の過去10年の集検の成績より(1)身長は男女共に年齢とともに低下し、特に女性では顕著であった。(2)体重は男女共に加齢による減少は見られず、女性の40歳、50歳代では逆に増加していた。(3)血圧は収縮期血圧は加齢とともに上昇傾向を示し、拡張期血圧は40歳代では上昇し、逆に50歳以降は加齢とともに減少傾向を示した。3.調査地域住民の過去10年間の死亡の特徴は、男性が女性よりかなり高く、70歳代まで有意差が見られた。また死因の特徴は男性では40歳〜69歳、70歳以上の両群で悪性新生物が多く、女性では40歳〜69歳で多かった悪性新生物が、70歳以上では特に少なかった。4.小・中・高校生を対象とした検診成績から成人病予防の観点から何らかの指導・管理を要すると思われる者が15%程みられた。血液生化学値を肥満度別に検討した結果、性、年齢を問わず肥満群は非肥満群に比べ、高血圧、高脂血症などの成人病発生のリスクが高いことが示唆された。
著者
千住 智信 浦崎 直光
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、先ずかご形誘導発電機の回転速度が一定であると仮定してかご形誘導発電機の故障電流、有効電力、無効電力、かご形誘導発電機端子電圧の過渡応答を求める理論式をもとめた。かご形誘導発電機から電力系統へ流れ込む電力潮流の有効・無効電力の解析式が得られれば、かご形誘導発電機の入力トルクと出力トルクが計算できるため、かご形誘導発電機の機械的運動方程式より過渡応答を表す理論式が得られることになる。次に得られた理論式の妥当性を数値シミュレーションで検証した。数値シミュレーションでは、入力トルクが急減・急増した場合のかご形誘導発電機の電流、有効・無効電力、端子電圧、回転速度の過渡応答を数値シミュレーションと理論式で得られた過渡応答と比較検証した。また、電力系統と風力発電設備を接続する連系線で故障が生じた場合のかご形誘導発電機の故障電流、有効・無効電力、端子電圧、回転速度についても導出された理論式の妥当性を数値シミュレーションで確認した。理論式の妥当性はシミュレーションで確認した。導出した理論式はシミュレーション結果とほぼ一致することが確認された。平成18年度は風力発電シミュレータを用いてかご形誘導発電機の過渡安定性に関する実験を行った。実験は連系線故障時のかご形誘導発電機の故障電流、有効・無効電力、端子電圧、ならびに回転速度の瞬時値を測定した。この実験で得られた瞬時値と前年度理論的に導出されたかご形誘導発電機の過渡応答波形と比較することにより、導出された理論式の妥当性を検証した。また、連系線故障時のかご形誘導発電機の過渡安定性を故障除去時間との関係から実験的に求めた。実験により得られた過渡安定性限界と前年度開発されたかご形誘導発電機の過渡安定度限界の理論値を比較することにより、開発された過渡安定性判別法の妥当性を検証した。
著者
等々力 英美 鄭 奎城 大屋 祐輔 佐々木 敏 ウィルコックス クレイグ 鄭 奎城 大屋 祐輔 佐々木 敏 ウィルコックス クレイグ
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

沖縄野菜を主体とした沖縄型食事介入による無作為割付比較試験を行った。対象者は沖縄在住20-60歳代の女性、夫婦、米国人男女、横浜東京在住40-60歳代夫婦、合計700名であった。1)沖縄野菜を豊富に取り入れた伝統的沖縄型食事は、血圧予防に有効である可能性と、2)欧米型DASH食と異なる沖縄の伝統的食事が、同様の効果を示した。3)生活習慣病の予防や治療において、食事パターンへの介入が有効な戦略となりうる。
著者
谷口 真吾
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

亜熱帯地域の沖縄県を中心とする沖縄島嶼域では、森林のもつ公益的機能の高度発揮のため計27種の有用樹を造林樹種として指定している。沖縄県はこれらの有用樹種を用いた人工造林や樹下植栽、育成天然林施業など多種多様な森林造成を積極的に推進している。しかしながら、指定樹種には開花結実、受粉・交配様式などの繁殖特性が未解明な樹種が大半を占めている。亜熱帯域の多様な樹種から構成される森林を維持し、種子の供給と確実な更新を安定的に促すためには、構成樹種ごとに個々の繁殖特性を主体とする生活史を解明することが急務である。そこで、本研究課題では亜熱帯性樹木の繁殖特性を明らかにするため、有用樹4種の開花フェノロジー、送受粉機構、結実機構について研究を行った。本研究で得られた知見は、有用樹の効率的な種子生産に寄与する成果であり、沖縄島嶼域の森林保全あるいは再生、さらには新規造成のための地元産種子による苗木生産、あるいは天然更新のための種子確保に不可欠となる種子生産技術の基礎的情報の体系化に極めて重要な成果を提供するものである。
著者
安里 練雄 平田 永二 新本 光孝 篠原 武夫
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.61-70, 1999-12-01

沖縄県における林業従事者の雇用の促進や就労環境の改善に寄与することを目的に,森林組合傘下の13作業班について,年間の就労日数や作業内容等の就労実態調査を行った。その結果を要約するとおよそ次の通りである。1) 作業班員には60歳以上の者が多く,5年以上の林業経験者が約60%を占めている。2) 沖縄本島の作業班は,班長の個人経営体的性格が強く,森林組合と班長の間で「下請け」契約を交わして事業を行っている。宮古,八重山の作業班は,森林組合が作業班員を直接雇用し,作業班長は連絡調整の役割を担っている。3) 作業班の年間の平均就労日数は162.6日で,労働日の66%に相当し,就労の機会が少ない。作業班の差も大きい。4) 作業班の月平均就労日数は13.6日である。月別の平均就労日数率は,5月の最低28%から2月の最高82%と,時期的に変動が大きい。5) 13作業班の全作業員(179人)による年間の就労のべ人数は,23,763人/日である。月別の平均就労人数は1,980.3人である。6) 作業班の年間の就労人数率は平均53%である。作業班により11%から103%と,就労機会に大きな差がある。7) 作業班の月別就労人数率は,5月が最低で21%,1月が最高で70%となって,月別の差が大きい。年間を通じて就労の機会が不安定である。8) 作業の内容は,複層林の下刈り作業が最も多く,次いでマツ防除作業,単層林下刈り作業,育成天然林作業などとなっている。複層林下刈り作業は国頭村及び宮古森林組合傘下の作業班に多く,マツ防除作業は沖縄北部森林組合傘下の作業班に多い。9) 作業班全体での年間作業総日数は2,114日である。このうち65.6%は市町村有林の事業で,32.0%は県有林又は県の事業で,これ以外の事業はごくわずかである。県や市町村主導の林業活動が展開されており,行政の取り組みの影響が極めて大きい。10) 多くの作業班長は就労日数の増加を望んでいる。全ての森林組合,作業員のほとんどが「事業量の安定確保による通年雇用の確保」を最重要課題としている。
著者
狩俣 繁久
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、東京大学名誉教授柴田武が1970年から1975年までの6年間に宮古島平良市で調査して得られた宮古平良方言資料に記載された方言語彙(「柴田ノート」)をパソコンに入力して整理し、録音した。(1) 総語数1万1千のうち、重複を整理し、6千5百に確定した単語について、宮古平良市で、柴田武東大名誉教授が調査した立津元康さんと同じ平良市下里出身の話者の方言を録音した。病気等で録音ができなくなった話者にかわって、新たに話者を選定し直した。下地明増(大正7年生)、下地文(大正12年生)のお二方で、ともに下里生まれで下里育ちで、現在も下里に在住の方である。(2) 録音場所は前年度にひきつづき平良市中央公民館和室を利用した。録音は、蝉の声などの雑音がなく、遮音のために部屋を閉め切っても暑くない冬を選んだ。録音は若干の補足調査をのこしてほぼ終了した。(3) その方言語彙を録音資料の音質、および保存性にすぐれているDAT(デジタルオーディオテープ)とMD(ミニディスク)を使用して録音した。MDは補助的な録音である。(4) 「柴田ノート」から25年経っていて、現在の話者が知らないと答える語も少なくなかったし、発音の変化した単語も若干みられたが、全体に影響をあたえるほどのものではなかった。(5) 録音された音声をもとに平良方言の音声の詳細な分析をおこない、類似の音韻体系をもった、おなじ宮古諸方言の下位方言の調査もおこなった。
著者
酒井 一彦
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1.放卵放精型のサンゴについては、慶良間列島が沖縄本島の幼生供給源となっていたことを明らかにした。この結果、沖縄本島では慶良間列島に近い地域で、放卵放精型サンゴの幼生加入量が多かった。しかし幼生保育型のサンゴについては、慶良間列島から沖縄本島への幼生供給がほとんどなかった。2.沖縄本島では慶良間列島から分散してきたと考えられる放卵放精型のサンゴ、特にミドリイシ属サンゴ、が多数加入したが、ほとんどの場所で生存できず、これらの場所ではサンゴ群集が回復しなかった。加入したサンゴの死亡要因として最も大きかったのは、オニヒトデによる捕食であった。この結果、沖縄島ではサンゴ群集の回復は極めて局所的で、2006年で調査地点(n=18)の10%程度でサンゴの被度が30%を超えるたのみであった。3.過去のデークも含めて解折を行い、沖縄本島北部の瀬底島周辺ではこの25年間で、サンゴ群集の回復力が著しく低下していることを明らかとした。4.慶良間列島では2002年よりオニヒトデが大発生し、親サンゴが減少した。この結果、沖縄本島へのサンゴ幼生供給も大幅に減少したことを明らかとした。5.繁殖様式が放卵放精型で幼生の浮遊期間が長いミドリイシ科について、親サンゴから幼生が分散する距離は、200km程度に限られていることが示唆された。6.ミドリイシ属サンゴが大型海藻と接触すると、成長率が低下しかつ配偶子生産量も減少することが明らかとなった。これはサンゴが大型海藻との接触で受けた傷の修復に、資源を使うために起こると考えられた。
著者
竹村 明洋 RAHMAN Saydur Md. RAHMAN M. S.
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

サンゴ礁魚類に特徴的に多い月齢同調性産卵現象の生理学的側面からの解明で、魚が月からの情報をどのように体内リズムに転換しているかについて主に研究を行った。いくつかある月が地球に及ぼす環境変化のうち、特に月光に焦点をあてて以下の研究を行った。月光変化に伴うメラトニン受容体発現量の変化ゴマアイゴ(Siganus guttatus)の脳からメラトニン受容体遺伝子(MR1)をクローニングし、その発現量変化(日周変化と月周変化)をRT-PCR法で調べた。その結果、松果体を含む視葉部位にMR1遺伝子発現量の顕著な変動が見られ、明期に高く暗期に低くなった。また満月時(0時)のMR1遺伝子発現量が新月時(0時)より高くなった。これらの結果から、メラトニン受容体遺伝子発現量に変化のあった部位に月齢認識に関わる処理部位があると考えられた。メラトニンの生殖活性への関与ゴマアイゴの卵巣でのステロイドホルモン合成能に及ぼすメラトニンの効果を調べた。卵巣片をメラトニンとヒト繊毛性ゴナドトロピンと共に培養したところ、卵黄形成前期においてはEstradiol-17βとTestosteroneの産生量は増加した。高濃度のメラトニンは卵黄形成後期において性ホルモン産生を阻害した。以上のことからメラトニンが生殖活性の制御に関わっている可能性があった.。
著者
上原 剛 MD.SIRAJUL Islam ISLAM Md.Sirajul
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

研究期間2年の初年度(平成16年度)は、主として沖縄島のフタバカクガニ(Perisesarma bidens, Pb)の雌雄の生殖巣の発達の程度を生きた状態で光学顕微鏡下で月ごとに1年間しらべたが、成熟未受精卵と生理的成熟精子がとれず、人工受精実験はできなかった。初年度の観察結果とこれまでの経験から生殖シーズンが5月-12月である事が予測できたので、最終年度(平成17年度)は、特に満月・新月の頃に、交尾行動を示した雌雄のペアーの個体を採集して実験室に持ち帰り野外に近い環境条件に近いコンテナで飼育して、雌雄の交尾前行動と交尾時間を観察した。このような飼育下での交尾時間はおよそ6時間で、その後雌雄を別々にして、特に雌において、受精がいつ、どこで、どのようにおこなわれるかを調べた。交尾を終えた後、およそ46時間後に腹側に出てきた成熟未受精卵を集めて80%海水に移し保存した。他方精子については、未受精卵が体内から腹部(abdominal cavity)に出た後すぐに雌を切開して体内から貯精のうを取り出し80%海水に移し保存した。しばらくして、同じく80%海水下で両者をゆっくりと混ぜ(人工媒精)、水温25度で70ml容器で飼育観察した。未受精卵の様子、媒精後の卵の形態変化(外被膜の形成)から観察例は少ないけれども、人工受精が成功したものと確信している。そのことは、その後の卵割の様子や、胞胚期・のう胚期をえて孵化前の第1ゾエア期、孵化後の各ゾエア期をおえてFirst-crabまですべて健康に育ったことによっても示唆される。別の言葉で言うと、この種では完全な体内受精ではなく、腹部のabdominal cavityで受精が起き、この状態で受精卵から孵化するまでの幼生期がおよそ16日間維持されていることがわかった。このことから、この種では完全な体外受精でもない両者の間にある受精様式と発生方式を獲得していて、今後マングローブ域の環境に適応したカニ類を全容を明らかにする上でも興味深い。受精からその後の発生の全容は光学顕微鏡レベルではほぼ明らかになり、2005年11月に開かれた第43回日本甲殻類学会(奈良女子大学)で発表した、しかし、受精の詳細な観察と人工授精についてもまだ十分とは言えない。幸いにも研究期間の間、実験補助として手伝ってくれたDr.MD.Moniruzzaman Sarker(本学の外国人特別研究員)が興味を持ってくれているので、足りない分のデータを追加し、平成18年度内には論文にする予定である。
著者
仲地 博 高良 鉄美 比屋根 照夫
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1) 研究期間を通して、資料の収集、実態調査、研究会等を行った。その成果の一部は本報告書の研究発表の欄に記載した通りであり、その他にも、講演・シンポジウムという形で社会に還元されている。2) 研究分担者の意見が細部まで完全に一致することはもとよりないが、共通する結論は次のようなものである。1995年の沖縄における代理署名訴訟は、全国的な問題提起となった。代理署名訴訟の渦中の沖縄で独立論が飛び交ったことに見られるように、代理署名訴訟の背景は、広く深い。日本国憲法の意義と限界、地域自立を求める世界的傾向、エスニシティとアイデンティティにかかる政治思想の歴史と動向がそれである。これらの本質的な結節点で、代理署名訴訟は、考察されなければならない、それなくして、「沖縄問題」を分析解決することはできないからである。代理署名訴訟は、最高裁判決で終結し、沖縄問題は、政治の表舞台から消えたかに見える。また、現地沖縄でも住民運動のうねりは過ぎた。しかし、SACO合意にかかる基地移設問題を中心に基地問題はなお進行形の課題である。否、戦後53年基地問題は、とりも直さず、沖縄社会を規定する最大の要因であり、巨大基地ある限り、過去進行形であったし未来進行形であることも疑いない。代理署名訴訟は、沖縄とは何か、沖縄の抱える課題は何か、沖縄は全国民に何を問うのか、を具象的に示すものであった。それゆえ、繰り返し検証される必要がある。3) 本研究は、この報告書で終了するものでは決してない。私達のライフワークの一つとして、継続的に共同研究を続けることを予定している。
著者
石田 肇 岩政 輝男 土肥 直美 平田 和明 鵜澤 和宏 米田 穣
出版者
琉球大学
巻号頁・発行日
2007

鎌倉市由比ヶ浜地域には大量の中世人骨が出土している。刀創受傷率は材木座遺跡が最も高く65.7%であり、由比ヶ浜南遺跡が1.3%であった。また、当時の人口構成の復元を行った。男女比はほぼ1:1であり、未成年と成人個体の比は2:3であった。平均寿命が24.0歳という結果が得られた。中世壮年期女性人骨に結核が認められたので報告した。同位体分析の結果から、中世鎌倉では、2歳前後で、離乳を始めている可能性が高いことがわかった。中世人の歯冠サイズが小さい傾向があることを明らかにし、当時の劣悪な生活環境を反映したものと推論できる。由比ヶ浜南遺跡の動物骨資料分析から、タフォノミー分析が動物考古学にも有効と思われた。オホーツク文化人集団の頭蓋形態小変異を用い分析を行った。RelethfordとBlangero法では、東部オホーツク群では、高いRii値と低い観察値を示すことから、形態的な多様性を失っている可能性を示した。オホーツク文化人は、バイカル新石器時代人、アムール川流域の人々と類似性があることが再確認された。サハリン、北海道東北部のアイヌは、後のオホーツク文化集団などの影響を強く受けた可能性がある。ミトコンドリアDNA分析の結果等は、オホーツク文化人とアイヌとの関連を支持するものであり、日本列島の人類史を書きかえる可能性を示した。久米島近世人骨の頭蓋形態小変異の研究は、琉球列島の人々が、先史時代から歴史時代にかけて、本土日本からのみならず、南方からの遺伝的影響を受けている可能性を示唆した。同資料の変形性脊椎関節症の評価を行った。女性においては腰部での重度化を認め、その要因は男女間の食性の差も示唆される。また、右肘関節の関節症も女性に多い齲歯率、生前脱落歯率が男性より、女性に有意に高く、女性特有のホルモンの変化による影響に加え、米田らの安定同位体分析では、女性が炭水化物から、男性は魚類からたんぱく質を摂取する傾向があり、男女間の食習慣の違いも反映していると思われる。
著者
狩俣 繁久 金田 章宏 仲原 穣 仲間 恵子
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

石垣島石垣方言、宮良方言、西表祖納方言、多良間島方言、宮古島平良方言の格の記述と、とりたて助詞の中で最も注目され、係り結びの機能を持つと言われてきたduを記述した。同時に石垣方言、平良方言、今帰仁方言、首里方言の係助辞の比較研究を行ない、duに焦点化の機能は存するが、係り結びの機能を持たないことを指摘した。八重山方言の中でも特に研究の遅れていた西表方言の文法記述を行い、全体の概要を把握した。石垣方言の自動詞と他動詞の派生関係のタイプを記述し、ヴォイスと深い関係があることを記述した。
著者
背戸 博史
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

日本近代化過程における民衆統合のメカニズムは、「伝統」の擬制的創造の過程であり、その実質化をすすめてきたのは、明治以降に創設された近代学校による「伝統」の擬制化であった。早急な近代化をすすめる過程において、近代学校は、旧来からの民衆的慣習を巧みにアレンジすることで、進行する近代社会の進展に「自然性」を付与し、民衆による受容を促進してきたのである。しかし、「琉球処分」により、旧来からの支配機構を温存させたまま、日本近代社会に編入された沖縄にあっては、近代学校の果たす役割は「本土」のそれとは対照的なものであった。そこでは、急速な近代化を「自然」に装う戦略は選ばれず、近代学校は、極めて抑圧的に、新たな言語・文化・思想を注入する場として機能したのである。ただし、本研究においてその過程をいくつかの事例によって検証した結果、抑圧的な沖縄型近代学校も、一義的に「抑圧的」であったとは結論し得ないことが明らかになった。本研究が事例としたのは伊平屋島や伊計島のような離島地域であったが、沖縄の中心地から隔たる地域にあっては、むしろ積極的に近代学校を受容し本土化することで、沖縄圏内におけるそれまでの(離島的)後進性を払拭しようとする傾向も少なからず見られるのである。その際注目されるのは、沖縄においても展開された報徳会運動であった。沖縄における報徳会運動には、本土のそれとは異なる論理が貫かれていたと考えられるが、沖縄近代化過程の特異性は、沖縄において展開された報徳会運動の特異性を検証することでより明確になるという仮説を得ることができた。
著者
豊見山 和行
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、2年間で近世琉球王国法制史料の基礎史料の収集・整備とそれに関連する論考の作成を目的とした。その結果、2つの論考(漂着処理をめぐる琉球の基本法=「宝永元年御条書」を新たに発掘した論考と市場における諸法令と女性の振り売り規制の論考)を作成した。さらに、以下の諸史料を収集し、翻刻しテキストデータとして処理した。(1)「職制秘覧」は、成立年は18世紀頃と目され、首里王府全体的の法制を規定し、官人への俸禄や諸制度等が列記されている。貿易資本の渡唐銀、海運関係、鹿児島の琉球館、黒糖等に関する多様な情報を含む史料である。(2)「首里王府評定所執務規定書」は、18世紀後半における王府の中枢機関である評定所の執務規定を規定したものであり、新出史料である。(3)「首里王府法制之部」は、明治初年に書写されたものであるが、法令の年代幅は1735年から1877年におよぶ。士族の禄制・家督相続の方法、道路・港湾・堤防・船改め・山林・家産・売買・医制・砂糖・鬱金・屠獣・墳墓・度量衡・祭典・葬儀・系図等に分類・編年された単行法令集である。(4)「仰渡写」は、最古の1713年から1826年までの年代幅をもち、全107文書からなる単行法令集である。内容は次のように多岐にわたる。諸物の買い占め禁止、櫨桐実の専売制化と脇売り禁令、八重山島への嬰児埋殺禁令、田舎間切から町方へ百姓の移住禁令、爬龍舟時のケンカ禁令、両先島での焼酎製造禁令、等々である。以上から近世琉球における法制史料の基礎的整備は、一定程度可能になったものと言えよう。
著者
上里 健次 安谷屋 信一 米盛 重保 Uesato Kenji Adaniya Shinichi YoneMori Sigeyasu
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.15-23, 2002-12-01

石垣を含めた沖縄における2000年開花のヒカンザクラについて,開花と出葉の早晩性を地域間差,個体間差を含めて比較検討した。調査地域は石垣市,八重瀬公園与儀公園,琉球大府附属農場,敷数公園,八重岳の高,中,低位所,国頭村奥で開花の安定したそれぞれ50本前後を対象とした。3月2日に石垣市,3日に他の地域に出かけ開花度,出葉度を10レベルに分けて調査した。得られた調査結果の概要は次ぎの通りである。1.地域間では石垣では最も遅く,与儀貢献もかなり遅く,八重岳の3区と八重瀬公園は最も早く,他の3区は同様で,4グループ間に有意性のある地域差が見られた。2.八重岳における標高差については高位所と低位所で早く,中位所は遅れる傾向があり,開花に対する350m程度の標高差は明確ではなかった。3.各調査区区における個体間差はかなりの幅で見られ,これは実生系による栽植で異なった遺伝性を持つことによる当然の結果といえる。4.12月,1月の名護,那覇,石垣における日最低気温の推移にかなりの差が見られ,石垣における開花の遅れは冬季の温度の低下が遅れることによるが,与儀公園の遅れも同様に,市民生活に起因する要素を加わった温度上昇が主要因と間がえられる。
著者
日高 道雄 伊藤 彰英 山城 秀之 酒井 一彦 中村 崇 磯村 尚子 波利井 佐紀 新里 宙也 井口 亮
出版者
琉球大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、様々な生活史特性を持つサンゴのストレス応答を、特に初期生活史に焦点を当てて調べた。褐虫藻の存在がプラヌラ幼生のストレス感受性を高めること、褐虫藻のタイプによりサンゴ幼群体のストレス応答が異なること、ストレス特異的に反応して発現が変化する遺伝子があることを発見した。さらに群体型や遺伝子型などの違いによるサンゴのストレス応答の違い、各種ストレスによる群体死亡要因や新規加入の変動などを解析し、野外の群集モニタリング結果と関連づけた。