著者
松宮美奈 向山ゆう子 小林寿絵 中村大輔 髙木寛奈 上杉上 水落和也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【はじめに】線維筋痛症は原因不明の全身疼痛が主症状で,うつ病など精神神経症状・過敏性腸症候群など自律神経症状を随伴する疾患である。2013年の線維筋痛症診療ガイドラインによれば,有病率は人口の1.7%(日本推計200万人)であり,80%が女性で40~50代に多く,10歳前後に多い若年性線維筋痛症(Juvenile Fibromyalgia:JFM)は4.8%のみである。発症要因として外因性と内因性のエピソードがあり,治療はプレガパリンを中心とする疼痛制御分子の標的療法が中心で,運動療法は,成人例に対して長期間に渡り有酸素運動を行い疼痛が軽減した報告がある(エビデンスIIa)が,JFMでは,いまだ確立した治療法がない。JFMでは患児と母親の相互依存性や,まじめ・完璧主義・潔癖主義・柔軟性欠如などコミュニケーション障害を伴う性格特性が特徴であるとも言われており,当院では,小児リウマチセンターにおいてJFMの集学的治療を実践している。その内容は,生活環境からの一時的な隔離を意図した短期入院による母子分離,臨床心理士による心理評価と小児精神科によるカウンセリング,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン®)点滴静注を中心とした薬物療法,そしてリハビリテーション治療である。【目的】本研究の目的は,JFMに対する理学療法(PT)の実施状況と集学的治療による効果を明らかにし,JFMに対するPTの課題を明確にすることにある。【対象と方法】2007年4月から2012年12月までにJFMと診断され当院小児科に入院し,PTを行った症例を対象とし,患者属性,発症要因,入院期間,PT実施期間,PT内容,PT開始時及び退院時の運動機能と移動能力を診療録より抽出し後方視的に調査した。【倫理的配慮,説明と同意】当院では入院時に臨床研究と発表に対する同意を文書で得ている。【結果】調査期間に小児科に入院したJFM症例は33名であった。33名のうち6名は調査期間内に複数回の入院があり,これを別の入院例とみなして,対象を42例としたが,診療記録不十分のため調査項目の確認ができなかった3症例を除外し,39症例(30名)を対象とした。平均年齢は12.2歳(7~16歳),平均発症年齢12.1歳(7~15),性別は男児7例,女児32例であった。入院期間は中央値17日(7~164日),PT期間は中央値12日(1~149)だった。発症の誘因としては,内因性誘因では家族関係のストレス27例,学校関係のストレス22例であり,外因性誘因と内因性誘因の重複が11例にみられた。主症状は筋・関節痛39例,左上肢の慢性疼痛1例であり,ほぼ全例に睡眠障害や冷感,起立性調整障害など自律神経系合併症状を認めた。PT内容は,独歩可能な症例には歩行練習(屋外歩行やトレッドミル,水中歩行),自転車エルゴメーターなどを実施し,歩行困難な症例には下肢自動運動や座位・立位練習,車いす自走や歩行補助具を使用した段階的歩行練習を行っていた。また,キャッチボールやサッカーなどレクリエーショナルアクティビティも随時行われていた。PT中は疼痛が増強しない範囲で負荷を設定し,疼痛を意識させずに運動できるよう配慮し,受け入れのよい課題を選択し,目標を本人と相談しながら実施するなどの配慮がうかがえた。PT実施率は高く,疼痛や体調不良でPTを欠席したものは1症例,1日のみであった。入院中の疼痛の変化は改善28例,変化なし5例,悪化6例であり,移動能力は入院時に歩行(跛行なし)20例,歩行(跛行あり)9例,車いす移動10例が,退院時は歩行(跛行なし)28例,歩行(跛行あり)6例,車いす移動5例であった。【考察】成人の線維筋痛症では手術や感染などの外因が誘因となることがあるが,今回調査した小児では全例が内因性誘因を有していた。PTの介入は母子分離環境による心理社会的効果と薬物療法による疼痛軽減に合わせて,できる範囲の運動を導入することで,気晴らし的効果と身体機能維持改善の効果が期待できると思われた。PTの効果のメカニズムとして,JFMではセロトニン欠乏が睡眠障害や疼痛を引き起こすという知見が最近得られており,歩行などのリズム活動がセロトニン神経を賦活化し疼痛の悪循環を断ち切る可能性もある。疼痛で活動性が低下し,休学を余儀なくされている症例も多く,生活機能障害に対するPTの予防的・回復的・代償的な関わりはJFMの集学的治療に重要な役割を果たすと思われる。【理学療法学研究としての意義】線維筋痛症に対する運動療法の効果は成人では文献が散見されるが,小児では少ない。今回の調査は,JFMに対して症状の改善に運動療法が寄与した可能性を示唆している。
著者
北小屋 裕 近藤 久禎 横堀 將司 中田 敬司
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.16, no.5, pp.702-706, 2013-10-31 (Released:2013-11-25)
参考文献数
9

老人保健施設で発生した心肺停止症例に対して,臨場した医師の具体的指示を受け,救急救命士が特定行為を実施した事案を経験した。この事案に対し,救急現場に医師が臨場している場合には医師が救命行為を実施するべきであり,たとえその医師から特定行為の具体的指示を受けたとしても救急救命士は特定行為を実施するべきではないとの指摘を地域メディカルコントロール協議会より受けた。救急救命士が特定行為を行いうる指示要件や場所的要件,医師が臨場した場合の救急救命士の特定行為について,救急救命士法の解釈を中心に考察した結果,医師臨場下で特定行為を実施することは法的には問題ないが,医師の身分確認やメディカルコントロール協議会との整合性などいろいろな問題点をクリアする必要性が明らかとなった。
著者
鈴木 聖子
出版者
University of Tokyo(東京大学)
巻号頁・発行日
2014

審査委員会委員 : (主査)東京大学教授 渡辺 裕, 東京大学教授 古井戸 秀夫, 東京大学教授 佐藤 健二, 東京大学准教授 小林 真理, 神戸大学教授 寺内 直子
著者
山内直一 編
出版者
興信社出版部
巻号頁・発行日
vol.第1編, 1910
著者
上村俊雄著
出版者
ニュー・サイエンス社
巻号頁・発行日
1984
著者
原口 耕一郎
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.204-188, 2008-06-25

『古事記』『日本書紀』においては、かなり古い時代の記事から隼人は登場する。この隼人関係記事の信憑性をめぐって、大きく二つの議論がある。一つは天武朝以降の記事からならば、それなりに信を置くことができるとする理解であり、これは現在の通説になっているといえよう。もう一つは、天武朝より前の時期の記事にも史実性を認めようとする理解である。小論は、これまでの隼人研究史を回顧し、隼人概念の明確化をはかり、『記・紀』に史料批判を加え、天武朝より前の隼人関係記事については、ストレートには信を置きがたいことを論じようとするものである。つまり、可能な限り通説の擁護を目指すことが小論の目的である。まず、文献上にあらわれる隼人様を整理し、隼人概念の明確化を行う。次に考古資料と隼人概念との対比を、最近の考古学研究者の見解を踏まえながら行う。さらに畿内隼人の成立について触れる。その結果、『記・紀』編纂時における政治的状況、すなわち日本型中華思想の高まりの中で、政治的に創出された存在としての隼人の姿が明らかにされるであろう。このような、現在の隼人理解において中核的なテーゼをなす、「隼人とは政治的概念である」という主張を確認したうえで、天武朝より前の隼人関係記事は漢籍や中国思想により潤色/造作を受けていることを明らかにする。
著者
石坂 友司
出版者
関東学園大学
雑誌
関東学園大学紀要. Liberal arts (ISSN:09194355)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-11, 2013-03-31

The new educational guidelines stipulated a compulsory subject of Budo at junior high school for 1st and 2nd year students from 2012. Budo as a subject consists of Judo, Kendo, and Sumo. The educational effects expected from making Budo a compulsory subject are that Japanese tradition and culture would be respected more through Budo education. But the subject contents of Budo referring to Japanese tradition remain vague and cause confusion for teachers. The aim of this study is to consider the educational effects of Budo as a difference between "task" and "achievement." We explore the new possibilities of Budo education as an activity of generating bodily sympathy.
著者
川上 ちひろ 西城 卓也 丹羽 雅之 鈴木 康之 藤崎 和彦
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.301-306, 2016-10-25 (Released:2017-08-10)
参考文献数
9

医療系専門職養成機関において教務事務職員が学生対応で難しいと感じる事例について調査した. 公私立大学医学部・歯学部教務事務職員研修に2013年度から2015年度に参加した教務事務職員143名から得た185事例を分析した.事例は, 学生に問題があるものが多くを占め136事例 (73.5%) であった一方で, システムや教員に問題があるものも含まれた. 医療系専門職養成機関において適切に難しい場面に対応するために, 教員, 事務職員の協働は欠かせないものである.

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出版者
鬼磨子書房
巻号頁・発行日
1979
著者
鈴木 聡 山田 誠二
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.1093-1100, 2005-04-15
参考文献数
20
被引用文献数
5

新たな情報技術がその受け手に与える影響について近年様々な議論がなされている.特に擬人化エージェントは,社会的インタラクションを通してユーザの自発的な態度変容を促す.つまり,擬人化エージェントはユーザを「説得する」メディアとしてユーザに対して強い影響力を持つと考えられる.なかでも,被説得エージェントを説得する説得エージェントをユーザに提示する擬人化エージェントによるオーバハードコミュニケーション(OC)はユーザの態度に影響を与えるとみられる.本研究では,オンラインショッピングサイトにおいて説得エージェントと被説得エージェントによるOCと説得エージェントがユーザに直接情報を提示するレギュラーコミュニケーション(RC)について情報提示後のユーザの態度としての購買意欲を心理実験により比較した.実験の結果,擬人化エージェントによるOCの方が,RCと比べユーザの態度変容に大きな影響を与える現象がみられた.さらに,擬人化エージェントのアピアランスに由来すると考えられるユーザの説得する擬人化エージェントに対する魅力がユーザの購買意欲と正相関することも観察された.この結果から,擬人化エージェントがユーザに与える社会的影響,特にOCの要因となっているプレゼンス,視線,アピアランスといった擬人化エージェントの身体表現がユーザに与える影響という視点からの新たな研究の可能性が示唆されている.It is important to investigate influence of novel information and communication technologies, such as life-like agents, toward receivers of the information since some studies reveal that such novel technology can "persuade" people, in other words, they have strong power to change people's attitude and behavior. In this study, the influence of overheard communication (OC) by life-like agents toward online shopping Web site users was examined, since the OC by people often changes attitude of receivers. An experiment to compare the effect of OC by two life-like agents (a persuader agent and a persuadee agent) with regular communication (RC) by one persuader agent were conducted. The result of this experiment implied that even the OC by life-like agents could promote Web site users' online shopping purchase likelihood more than the RC by them. Moreover, attractiveness toward a persuader agent evaluated by participants was positively correlated with their purchase likelihood. This result suggests a new direction of studies of social influence from life-like agents, especially from a viewpoint of body expression of life-like agents, such as presence, gaze, appearance, and so on.
著者
朝日新聞社 編
出版者
朝日新聞社
巻号頁・発行日
1922
著者
藤高 和輝 フジタカ カズキ Fujitaka Kazuki
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.103-117, 2015-03-31

本稿は、J・バトラーの一九八〇年代における身体論を考察する。バトラーの代名詞といえる『ジェンダー・トラブル』における理論的観点は一挙に形成されたわけではない。それは八〇年代における思索を通じて、ゆっくりと形成されたのである。八〇年代のバトラーにとって、第一義的な問題は身体であり、ジェンダーもそのような思索の延長にある。身体とは何か、身体の問題にいかにアプローチすべきかという問題は、八〇年代のバトラーを悩ませた大きな問題であった。この問題へのアプローチは八〇年代を通じて、「現象学からフーコーへ」の移行として描くことができる。逆にいえば、現象学との対決は『ジェンダー・トラブル』におけるバトラーの理論を生み出すうえでひじょうに重要な契機だった。本稿では、私たちはバトラーの思索において現象学が果たした役割を明らかにし、それがいかにフーコーの系譜学へと移行するかを示したい。This paper examines Judith Butler's thought regarding the body in the 1980s. Her theoretical perspective in Gender Trouble (1990) which has become a synonym for Butler, was not created at once. It was gradually formed thorough her speculations during the 1980s. In this paper, we show how her theory in Gender Trouble had been created through her thought in the 1980s. For Butler in the 1980s, the primary problem is the body, where gender is a facet of the problem. What is the body? How should we approach the body? These questions are the problems Butler engages in the 1980s. We can trace her approach to the body in the 1980s as the turn "from phenomenology to genealogy." In turn, her confrontation with phenomenology played a very important part in the establishment of her theory in Gender Trouble. Butler fi rst found phenomenology a method for approaching the body, redefining genealogy as theorized by Foucault, thorough her later critique of phenomenology, at least in 1989. In this paper, we illustrate the role played by phenomenology in Butler's thought in the 1980s, and how she shifts from phenomenology to genealogy.
著者
Hiroyuki Iida Hideo Hasegawa
出版者
Arachnological Society of Japan
雑誌
Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.77-78, 2003 (Released:2007-03-29)
参考文献数
9
被引用文献数
3 4

Juveniles of a nematode belonging to the family Mermithidae were found from wolf spiders, Pardosa pseudoannulata, collected in a paddy field in Kyoto, Japan. Their morphological characteristics are briefly reported along with some ecological notes. This is the first record of a mermithid from P. pseudoannulata.
著者
滝川 一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.991-997, 2015-05-10 (Released:2016-05-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1

近年,薬の副作用は社会的にも注目されており,中でも肝障害は劇症化して死に至る場合もある.薬物性肝障害(drug-induced liver injury:DILI)の診断には薬物投与と肝障害の推移との関連と除外診断が重要であるが,診断基準としては,日本消化器関連学会週間(JDDW-Japan)2004のワークショップで提案されたものが現在広く用いられている.これは,診断時のALT値とALP値から肝障害のタイプ分類をした後,8項目のスコアを計算し,総スコア5点以上については可能性が高い,3,4点については可能性あり,2点以下については可能性が低いとの判定を行うものである.薬物性肝障害の治療は,肝細胞障害型ではグリチルリチン注射薬やウルソデオキシコール酸経口投与が行われることが多いが,きちんとしたエビデンスはないのが現状である.胆汁うっ滞型では,ウルソデオキシコール酸,プレドニンゾロン,フェノバルビタールが投与される.劇症化例では血液透析と持続的血液濾過透析を行い,無効の場合は肝移植が唯一の救命法になる.