著者
山本 隆儀
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ACOASからの出力結果を用いた葉層表面積/葉層体積比および薬滴付着量分布の2種類のシミュレーションモデルを作成するとともに, 用いるパラメータ類の検証実験を行った.4樹種それぞれ154個の樹形について20年間にわたリシミュレーションを実施したところ, 10a当たり散布量の20年間平均値の序列とともに10a当たり散布量や薬滴付着量などに関連する多くの要因が明らかになり, 減農薬樹形開発のための基礎的資料が得られた,
著者
野口 潤
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ケイジドグルタミン酸を2光子励起分解する手法により、神経伝達物質であるグルタミン酸を任意のシナプスに投与する方法論は脳スライスを用いた研究においてシナプス機能を解析する上で大きな効果をあげている。本研究ではその方法を"生きた個体に"応用する方法を開発した。すなわち、そのために必要な動物維持固定装置、低侵襲的な手術・麻酔方法等の開発を行い、生体におけるシナプス機能の解析に実際に適用した。
著者
舟窪 浩 山田 智明
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、最も重要な圧電体でありながら、これまで単結晶合成の難しさから多結晶体での研究に限られていたPb(Zr, Ti)O_3[PZT]について、申請者が世界で初めて合成に成功したPZT単結晶を用いた人工モデル粒界を作製し、ナノドーパントの圧電特性に及ぼす効果をin-situで解明することである。MOCVD法を用いて、Zr/(Zr+Ti)比を変化させて作製した分極軸に単一配向した正方晶のエピタキシャル膜を作製した。その結果以下の結論を得た。1. Zr/(Zr+Ti)比にかかわらず歪みの少ない膜が作製できることが明らかになった。2. 得られた膜の強誘電性を評価したところ、Zr/(Zr+Ti)比の減少に伴う自発分極値の低下が観察された。3. Spring8での電界下その場観察の結果、膜の圧電性はZr/(Zr+Ti)比の減少に伴って減少し、その変化は、理論から予測されたものと良く一致した。4. ラマン分光測定によって、初めてソフトモードと自発分極値の間に直線関係があることが実験的に確認された。5. 得られた膜の自発分極値とソフトモードの関係は、温度を変えて測定したデータでも良く一致しており、本研究で得られた結果が広い範囲に適用できる可能性を明らかにした。
著者
酒井 麻衣
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2008

小型ハクジラ亜目は、接触や同調を用いてコミュニケーションを行う。本研究では、その詳細や発達・進化を明らかにすることを目的とし、野生個体の水中観察、飼育個体の観察、バイオロギングの3つの手法を用いて研究を行った。その結果、ミナミハンドウイルカの呼吸同調が親和的社会行動の一部であることを示した。また、マイルカ科とネズミイルカ科では胸ビレを用いる社会行動に相違がみられることや、社会性が乏しいとされてきたスナメリが他個体と社会関係を築く可能性を示した。
著者
小林 哲則 藤江 真也 小川 哲司 高西 敦夫 松山 洋一 岩田 和彦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

言語・パラ言語の生成・理解処理を高度化することで,複数の人間と自然なリズムで会話できるコミュニケーションロボットを実現した.また,このロボットを用いて,人同士の会話を活性化することを試みた.この目的のため,ロボットへの性格付与とパラ言語表現機能を考慮したロボットハードウェア,会話状況に沿うロボットの振る舞い,魅力ある会話の進行方式などを設計した.また,ロボットの聴覚機能および発話方式の高度化についても検討した.
著者
錦野 将元
出版者
日本原子力研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

超短パルス・単色・高輝度という特徴を持つ軟X線レーザーとレーザープラズマX線を培養細胞集団程度の大きさまで集光できるパルス軟X線マイクロビーム照射装置を開発し、X線照射によって誘発される放射線影響に関する研究を実施した。本装置を用いて複数のがん細胞へのX線照射を行い、光子エネルギーの異なる2種類のX線を用いた細胞の放射線影響(DNA二本鎖切断生成)に関して細胞核内で発現する影響の違いを免疫蛍光染色により観察することができた。また、放射線誘導性バイスタンダー効果を評価するために、X線照射後に照射細胞および照射細胞周辺で応答するタンパク質を免疫蛍光染色で観察することにより周辺細胞への放射線照射によるストレスの伝搬を観察し、バイスタンダー効果の直接観察を行った。
著者
村上 正子
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

環境国際紛争において民事司法へのアクセスを確保するためには、環境紛争の特殊性を考慮し、紛争の性質・内容、紛争当事者の多様性にあわせて救済の方法(紛争処理方法)も被害者のニーズに合わせて多様化すべきであると同時に、裁判所への提訴の確保のみならず、損害賠償も統一的に確保するためには、特定の分野で条約による統一ルールを作成する必要があり、それを国内法で受け入れられるだけの制度(環境団体訴訟も含む)の整備が不可欠である。
著者
向後 千春
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、オンライン大学に入学した社会人を対象として学習継続要因を調査した結果、以下のことが明らかになった。(1)ポジティブな要因としては、eラーニングでの受講形態、時間管理のスキル、学費の工面や家族の協力がある。ネガティブな要因としては、孤独な学習環境が心理的・物理的距離感に影響を及ぼす可能性が示唆された。(2)オンライン大学の学生は、学友とのつながりが、教員・教育コーチへのコミュニケーションに影響を与える要因となる。これらの結果は生涯学習のためのeラーニングシステムを構築するための示唆となるだろう。
著者
菅野 聡美
出版者
琉球大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本年度の研究実施計画に基づき、上京しての資料調査、複写、及び資料の購入を行った。加えてこれまでに収集した資料を読み込み、研究を進め、その一端を論文の形で発表した。具体的には以下のとおりである。1、研究の実施結果(1)琉球レビュー、同時代の演劇・舞台関係資料の収集と研究。(2)琉球レビューの発案者である秦豊吉に関する資料収集と研究,(3)琉球レビュー上演の場であった日劇をはじめとする劇場各社の社史や、演劇史・芸能史の把握。(4)猟奇・変態雑誌に掲載された沖縄出身知識人の言説や沖縄に関する記述の収集と検討。2、研究成果(1)沖縄の文化(舞踊、演劇、音楽など)研究は、ともすれば「沖縄」という枠内で進められ、本土の芸能史との相互関係が考慮されてこなかった。日本の音楽史・芸能史といった文脈に位置づけることで今後の研究の可能性が広がった。(2)日本の文化・芸能の歴史を考察する上で、西洋文化の受容と影響は無視できない。つまり異文化接触やアイデンティティーの問題として芸術史を考察する必要に気づいた。(3)資料の検討により、国策協力、国家権力による規制と介入、文化の政治利用といった政治的な観点から、大衆娯楽や芸術を検討することの有用性を確信した。3、研究成果発表本研究で収集した資料を用いて「琉球レビューと額縁ショー」を執筆、単行本に掲載された。
著者
若林 雅哉
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

川上音二郎による翻案劇制作を研究対象とし、その受容環境との関係を中心に考察を行った。翻案劇の制作は、まずは受容環境への適応として現れるが、しかし次世代の受容の素地となっていく。翻案制作は、次世代にとって乗り越えるべき「ひとときの代用品」にはとどまらない。「歌舞伎受容層」への適応としての川上演劇のあり方と、「探偵劇」という従来は注目されていなかった様相を考察することを通じて、次世代の受容基盤を川上音二郎の制作が提供していることを明らかにした。また、翻案は制作当時の歴史的な受容のなかでは翻案としては認識されず、その役割を終えたときに翻案と認定されるという、芸術制作の認識にかかわる理論的な知見を得た。以上は、共著書・論文・講演・学会発表のかたちで公表した。
著者
荒木 正純 吉原 ゆかり 南 隆太
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

・平成15年度予算で、荒木編集の論文集『<翻訳>の圏域:文化・植民地・アイデンティティ』(2004年2月刊)を出版し、全国および海外の研究施設に送付し好評を博した。また、雑誌『英語青年』(研究社出版)でリレー連載の形で、東アジア圏の研究者に自身の国で英米文学がどのように受容され、教育・研究がなされているかについて執筆してもらった。・平成16年度は、この2つの成果を受けて、3月19日・20日・21日の3日にわたり「国際シンポジウム」を開催した。発表はすべて英語で行った。・このシンポジウムを通じて、英語を第一言語としているマレーシアやシンガポール、インド、そして英語を第一外国語としている日本、韓国、台湾、トルコでは、事情が異なることがわかった。英語教育の場合でも、前者では国語教育の一環であり、後者では外国語教育となる。世界シェイクスピア学会副会長のマレシアのリム氏やインドのトリヴェディ氏からは、このシンポジウムが世界で最初の試みであり、今後こうした会議を継続的に行いたいという評価と提言があり、この会の発表をまず一年以内に論集の形で出版し、その後、研究誌を発刊したいという統一見解ができた。つまり、ポスト・コロニアル的状況下で、「アジアの英語文学」研究を推進するさらなるプロジェクトを立ち上げることになった。・こうした二つの成果を、「平成16年度科学研究費補助金研究実績報告書」として作成した。報告書の内容は以下のとおり:内容:・筑波大学国際シンポジウム・プログラム(Reception and Transformation of English Literature in Asia and Japan), pp.1-15・English Studies Relocated in New Asias(1)-(7)(『英語青年』連載), pp.16-51・さらに、現在、この論文を核として、上記シンポジウムに参加し発表した研究者の論文と他の研究者数名の論文をまとめ編集し、英語圏のマレーシアの出版社で出版するため、編集作業を行っている。
著者
岩田 一正
出版者
成城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度は、1930年代に新中間層によって都市郊外に形成された教育文化を事例として分析し、いくつかの研究会でその成果を報告した。その成果とは、次の2つである。第1に、千葉師範学校附属小学校の主事などを務め、八大教育主張(1921年)において「自由教育論」を提示した手塚岸衛が、硬直化が指摘されていた一斉教授を中心とする画一的な教育を斥けて、自由教育を実践するために設立した自由ヶ丘学園(1930年設立)にその名が由来する自由が丘に形成された教育文化と、箱根土地株式会社を中心として開発され、1927年に分譲が開始された国立に展開した教育文化を、成城に形成されたものと比較しながら考察したものであり、第2に、三田谷啓が1927年に設立した三田谷治療教育院や桜井祐男が1925年に設立した芦屋児童の村小学校が位置していた芦屋を中心とする地域において、どのような教育文化が展開していたのかを、東京に形成されたものと比較しながら記述したものである。研究会での報告を通じて、日本近代教育史を専攻する研究者からだけではなく、他の学問領域を専攻する研究者から、筆者未見の史料を紹介していただいたり、立論に関して助言していただくことができた。それらを踏まえていくつかの文献を購入し、それらを読み込み、報告に手を加え、改めて論文化しているところであり、公表は今年度に間に合わなかった。来年度以降に脱稿し、学会誌などに投稿することにしたい。
著者
石橋 良信 真野 明
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

昨年に引き続き、主にヒ素溶出要因解析、細胞表層工学によるヒ素除去およ癩轟地下水取水時のヒ素輸送解析を試みた。装置実験から・有機物としての下水汚泥の含有量の増加に伴い、ヒ素の溶出量が増える傾向が認められた。また、酸化還元電位が-80mV付近で最もヒ素が溶出することを再度確認できた。なお、2価鉄とヒ素溶出およぴ炭酸水素イオン濃度とヒ素溶出の明確な関連性はみられなかった。一方、モデル解析にも必要な、水中から土中へのヒ素の吸着量と土中から水中へのヒ素の溶出量の平衡状態時における分配係数としてバングラデシュでの浅い帯水層とオーダー酌に近似する値κ_Δ0.69×10^<-7>(m^3/mg)を得た。細胞表層工学を適用した実験では、pTV118N+lamB-arsRプラスミドを作製し、70%以上のヒ素除去がみられたが、再度lamB、arsRが適正に挿入されているかを確認する課題が残った。さらに、バングラディシュでは将来、ヒ素汚染の著しい30m付近の浅層地下水を避け、現時点でヒ素汚染の少ない深井戸が主な水源になると予想される。したがって、深度別の帯水層の取水に伴うヒ素輸送を、現地データを用いてモデル解析を試みた。浅い帯水層でのヒ素濃度は長い年月の間に徐徐に低下する傾向にあるが、深い帯水層では次第に高濃度になり、ヒ素の吸脱着反応が平衡になるまでの時間スケールを5年と推定した計算例では100年後には70mの帯水層までヒ素汚が進むと見積もられた。
著者
渡辺 裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

土地に関わる記憶が人々のうちに形作られ、また変容してゆく過程で、その土地に関連する芸術作品がどのように機能し、その際にいかなるメカニズムが作動しているか、それが人々の共同体意識やアイデンティティ意識の形成にどのように関わっているか、といったことを明らかにするため、小樽市(北海道)、軍艦島(長崎県)、東京タワー、日本橋といった事例を取り上げ、それらの場所を舞台とした映画作品などの作品や、その周辺にある言説の分析を行うことを通して、このような過程に関わる諸要素やそれらのおりなす力学の一端を解明し得た。
著者
神林 恒道 渡辺 裕 上倉 庸敬 大橋 良介 三浦 信一郎 森谷 宇一 木村 和実 高梨 友宏
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

この「三つの世紀末」という基盤研究のタイトルから連想されるのは、十九世紀末の、いわゆる「世紀末」と呼ばれた時代の暗く停滞したム-ドかもしれない。われわれはいままさに「二十世紀末」を生きている。そこからややもすれば「世紀末」という言葉に引きずられて、われわれの時代をこれと同調させてしまうところがあるのではなかろうか。しかしまた実際に、六十年代頃から現在に及ぶ芸術の動きを見やるとき、そこには芸術それ自体としてもはや新たなものは生み出しえない一種の先詰まりの状況が指摘されもする。といってかつての「世紀末」のような暗さはあまり感じられない。ダント-の「プル-ラリズム」、つまり「何でもあり」という言葉が端的に示すように、その気分は案外あっけらかんとしたものだと言えなくもない。今日の「何でもあり」の情況の反対の極に位置づけられるものが、かつて「ポスト・モダン」という視点から反省的に眺められた「芸術のモダニズム」の展開であろう。ところで「ポスト・モダン」という言い方は、いってみれば形容矛盾である。なぜならばmodernの本来の語義であるmodoとは、「現在、ただ今」を意味するものだからである。形容矛盾でないとすれば、この言葉のよって立つ視点は、「モダン(近代)」を過ぎ去ったひとつの歴史的時代として捉えているということになる。それでは過去にさかのぼって、いったいどこに「芸術における近代」の始まりなり起点を求めたらよいのだろうか。そこから浮かび上がってくるのが、「十八世紀末」のロマン主義と呼ばれた芸術の動向である。ロマン主義者たちが掲げた理念として、「新しい神話」の創造というものがある。そこにはエポックメイキングな時代として自覚された「近代」に相応しい芸術の創造へ向けての期待が込められている。この時代の気分は、「世紀末」の暗さとは対照的であるとも言える。つまりこの「三つの世紀末」という比較研究を貫く全体的テーマは、「芸術における近代」」の意味の問い直しにあったのである。
著者
渡邉 哲意
出版者
宝塚大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

日本と比較して中国国内におけるロックミュージックの浸透具合と観衆のライブ空間に対する印象と要求の違いが明らかになった。公演の機会が増えることで観衆の空間表現に対する意識は活性化しつつあり、より音楽的、感性的な表現方法への要求が高まることが予想される。観衆意識の発展は音楽表現と空間表現双方を複合化した総合演出としての熟成を設備と観衆共に進める必要があり、今回の研究はその演出方法の方向性を示すものとなった。
著者
福士 航
出版者
北見工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、長い18世紀(1660-1800年)の英国の舞台において、なぜ女優だけが人種的差異を示す<黒塗り>をしなかったのかについて、おもに演劇の慣習や美学的意識に関する側面と、ジェンダーや人種に関する言説との関わりから検討した。その結果、劇場での利益を追求するために人種的<他者>のイメージが操作されたことが明らかになり、商業主義と人種差別的言説の生成の一端を、当時の劇場が担ってもいたことを明らかにした。
著者
井戸田 総一郎
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

ベルリンのLandesarchivなどの文書館において、特に1945年から1962年までの期間について、劇場・ヴァリエテ・映画館などの文化・娯楽施設に関する政策上の資料、さらに各施設の興行関連資料を収集し、施設の立地地図の作製も含めて総合的に分析した。戦後東京の文化・娯楽政策について、ベルリンとの比較を可能にするために1945年から1962年の期間について資料を収集し、特に国立劇場開設に関する資料を総合的に分析した。ベルリンと東京を繋ぐ演劇人としてブレヒトを取り上げ、亡命からベルリンに戻ったブレヒトの活動、およびその東京における受容の様相を雑誌『テアトロ』などを中心に分析・執筆した。
著者
江藤 光紀 城多 努 辻 英史 水田 健輔
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

各地に劇場が林立し、劇場大国と呼ばれるドイツだが、地方分権が行き届いているため、各地の劇場のあり方も様々である。本研究では、それぞれに性格の異なる劇場をサンプル的に抽出し、その地の歴史性・特殊性/日々の公演の実際・運営上の工夫/財務構造とその問題点、という三つの視点から分析することにより各劇場の特性を総合的に捉え、「劇場大国」と一口にくくられるドイツの劇場が抱える問題の共通性と個別性を明らかにした。
著者
梶 理和子
出版者
山形県立保健医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本年度は、前年度に収集を行った、上演に関する記録や、芝居や劇作家に対する評価をはじめとする歴史資料を基に、王政復古以降の劇場が置かれた社会的、政治的状況の再構築を試みた。とりわけ、政情に翻弄され、様々な変遷に晒された十七世紀の英国演劇の伝統が、いかに受容されたかを探ることで、英国初の職業的女性劇作家(Aphra Behn)を誕生させた契機、またBehnの死後、女性作家ブームとでもいうべき、芝居や散文によって生計を立てる女性たちが一気に出現することとなった状況などに対して考察を行った。具体的には、歴史資料に照らしながら、Behnによる翻案の際の作家としての戦略を分析した。そこで、翻案劇を創作する際の原作となった劇場封鎖以前や内乱期のThomas Middleton, John Tatham, Thomas Killigrewといった作家たちの作品と比較することで、それまでの男性の手による英国演劇がどのように用いられたのかを検証した。さらに、Behnの活躍を経た後の1695-96年の上演シーズンに、4人の女性が商業演劇界に登場するといった現象に注目し、その後、十八世紀に活躍したSusanna Centlivre, Hannah Cowley, Elizabeth Inchbaldへとつながる「女性作家」の流れを再考し、後続の女性作家たちの中にBehnとそのジェンダー・ポリティクスがどのように受容されていったのかを見出すことで、英国初の職業的女性劇作家と見なされるAphra Behnの存在意義を明らかにした。