著者
堀江 正知 中田 博文 上野 しおん 川波 祥子
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.671-678, 2016 (Released:2017-01-01)
参考文献数
50

健康診断は、19世紀のアメリカ合衆国で、移民の感染症スクリーニングや保険加入者の資格審査として始まり、その後、健康志向のある会社役員の疾病予防対策として発展した。わが国では各種の法令で規定された結核対策として発展し、現在は、事実上、がんや循環器疾病のリスクに対する保健指導の機会となっている。科学論文のレビューによれば、対象疾病を特定せずに多項目の健康診断を行っても総死亡率が下がる確証はない。受診者に有益となる科学的根拠がなくても、一般市民、医療職、行政担当者は健康診断に大きな期待を寄せている。一方、本来の語意である健康度を診断する検査法は普及していない。労働衛生分野の健康診断は、「職場環境による曝露や影響を監視するサーベイランス」又は「職業性疾病を発見するスクリーニング」の機能を果たすべきである。生体試料を用いるサーベイランスは生物学的モニタリングとも呼ばれ、ILOや学術団体が示すガイドラインに準じて、心身への侵襲性がなるべく低い検査法を選択し、その結果は作業環境測定結果とも合わせて総合的に評価する。労働者に症状や所見を認めた場合は、職場や作業の実態を調査して関連性を評価し、職業性疾病を見逃さないように留意する。なお、雇入れ前に採用候補者を選別する健康診断は実施すべきでない。健康診断の関係者は、その企画、実施、結果報告、情報管理の各工程で、バイオエシックスに配慮して、受診者の自律、利益、安全、公平性を侵害しないように努める。特に、法定項目でない検査を行う際は本人の同意を取得する仕組みを確立する。また、安易に過剰な検査を実施しないように配慮し、ミスや誤診の防止対策を徹底する。適切な質を保障するには、健康診断を専門とする医療職が企画する段階から参画して、最新の科学を適用し、検査の精度を維持し、受診者がその結果を疾病予防や健康増進に役立てるよう促すことが望ましい。
著者
齋藤 努
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.210, pp.153-169, 2018-03-30

神奈川県津久井郡(現在の相模原市)の津久井城御屋敷跡(16世紀後半)から出土した金粒付着かわらけに含まれている微細な金粒子を透過X線撮影によって検出し,そのうち表面に露出している5点を,マイクロフォーカス型蛍光X線分析装置で元素組成分析した。いずれからも,金粒に由来すると考えられる金,銀が見出された。銅も検出されているが,金粒が微細であることと,据置型蛍光X線分析装置によって周辺の付着熔融物にも銅が含まれていることがわかったので,金粒そのものに含まれているものか,付着熔融物に含まれているものか,あるいはその両者に由来するのか,判定できない。本分析資料の熔融物には,特徴的な元素として亜鉛が含まれていた。甲斐周辺の遺跡では,中山金山遺跡や甲府城下町遺跡の資料からも検出されており,化学組成とこれらの遺跡の年代のみで判断すると,甲斐から金がもたらされたとみることもできる。しかし,歴史的にみると,本分析資料は天正年間以降の,武田氏と後北条氏の関係が悪化していた時期のものと捉えられ,甲斐から金がもたらされたとは考えにくい。金・銀・銅・鉛・亜鉛などが一連の熱水鉱床で形成されていくことを勘案すると,駿河や伊豆の金山の可能性を考えておいた方がよい。特に,亜鉛が検出された中山金山と同じ鉱脈に属する富士金山には,注意を払っておく必要がある。神奈川県小田原市の小田原城跡御用米曲輪(16世紀後半)から出土した金箔かわらけ等を据置型蛍光X線分析装置で元素組成分析した。木の葉形金具と金箔片は,かわらけに付着している金箔とは異なる組成であり,異なる工程で作られたと考えられる。また,かわらけごとの金箔の組成の違いや,同一のかわらけ内でも金箔の分析部位による組成の違いなどが見出された。これらからみて,金箔はいずれも金,銀,銅を混合した合金として作られてはいるが,混合比率がわずかずつ異なる金箔が混在して使用されていることがわかった。

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著者
東京興信所 編
出版者
東京興信所
巻号頁・発行日
vol.第7版, 1904
著者
水田 貴将 田中 直人 塩津 翠彩 村瀬 ゆり 張 海峰 趙 暁婷 解 爽 西本 一志
出版者
情報処理学会
雑誌
インタラクション2017論文集
巻号頁・発行日
pp.186-189, 2017-02-23

本研究では漢字形状記憶の損失を防ぐための漢字入力方式G-IMにゲーミフィケーションの要素を取り入れることで,G-IM使用の際に生じる抵抗感を低減するシステム「BanG-IM」を提案する.G-IMは,文字変換時の候補の中に,誤形状漢字をランダムに差し込むことで利用者が持つ漢字形状記憶の再構築を支援するものであるが,利用者が使いたいと思わないという問題がある.そこで,我々は罰ゲームの一種として浸透している風船割りゲームに着目した.本システムは同一室内での複数人での利用を想定している.利用者の個人ブースの頭上には,それぞれ風船が設置してあり,誤字入力が行われると該当する利用者の風船が膨らんでいく.また,中央にある共有スペースにも大きな風船が設置してあり,すべての利用者の誤字入力に対してその都度膨らんでいく.実装したシステムの評価実験を行ったところ,本システムを利用することでG-IM特有の抵抗感を低減できる可能性が示唆された.
著者
松田 博子 名取 和幸 破田野 智美
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3+, pp.161, 2020-05-01 (Released:2021-09-06)
参考文献数
5

松田・名取・破田野(2019)では,色そのものが持っている色イメージ(感情的意味)を通して,色の好みとパーソナリティとの関係性を分析した.色イメージ(新編カラーレンジマニュアル100の印象評価)とパーソナリティ特性の相関を求め,有意な差がみられ,特定のパーソナリティの人がその色を好む理由として自分のイメージに似ているから好むことが示唆された.今回はさらに進めて,75色カラーチャートから選択した自分自身の「好きな色」の印象評価と自己イメージとの関係を調査した.男女大学生を対象として「好きな色」を3色選択し,その色のイメージ評定をし,後日好きな色と同じ16の形容詞対による5件法で自己イメージを評定させ相関を求めた.併せて YGパーソナリティ性格テストを試行しパーソナリティとの関係も検討した.自己イメージと好きな色のイメージの同一尺度間での相関(0.24≦|r|, p < .05)は,女性の場合「軽い」「澄んだ」「派手な」「きれいな」「かたい」「情熱的な」「女性的な」の7項目(全16項目の43.8%)に見られ自己イメージに似たイメージの色を好むことが明らかになった.
著者
deHaan Jonathan Kono Fumiya
出版者
日本デジタルゲーム学会
雑誌
デジタルゲーム学研究 (ISSN:18820913)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.47-59, 2010
被引用文献数
9

この研究では、ゲームの双方向性が語彙習得に有効か否かを検証した。この実験では、日本の大 学生46人を、ゲームと英語の習熟度別に二人一組にし、一方の学生に市販の英語ミニゲームを10分間やっ てもらい、他方の学生にその様子をモニターで見ているよう指示した。このゲームの後で両方の学生に 同一内容の語彙想起テストを行い、認知的負荷(すなわち費やした知的努力や感じた困難さの程度)を 測定した。さらに、1週間後に再び語彙想起テストを行った。ゲームをした方も見ていた方も、英語の 語彙を記憶していたが、覚えていた語彙の数はゲームをした学生の方が少ない結果となった。これはゲー ムの双方向性が招いた認知的負荷によるものと考えられる。言語学習による教育ゲームの研究、デザイ ン、教授法、学習に対する影響を述べる。
著者
前田 幸男 平野 浩
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.5-18, 2015

選挙制度改革の目的の一つは,政党・政策・首相候補を三位一体として選択する体制の構築にあった。その意味で,有権者が抱く首相イメージが,政党や政策との関係を軸として形成されるのか,首相個人のリーダーシップや人柄に左右されるのかは,重要な論点である。本研究では, JES - IV の自由回答を利用して,有権者が抱く首相イメージの形成およびそのイメージが内閣支持に与える影響について分析した。有権者の多くは政治報道を通じて内閣の好きな点および嫌いな点について明瞭なイメー ジを持っており,そのイメージが内閣支持・不支持を左右している。しかし,その内閣についての好きな点,嫌いな点の影響は対称ではなく,好きな点の影響が嫌いな点の影響を上回っている。さらに,好きなイメージの影響が直接的であるのに対して,嫌いなイメージの影響は政治的関心の媒介を必要とすることが明らかになった。