著者
桑畑 洋一郎
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.66-78, 2006
被引用文献数
1

これまで、日本のハンセン病問題について編まれた研究では、病者の被害の歴史が多く取り上げられてきた。しかし、被害の歴史だけで日本のハンセン病問題を説明し尽くすことは不可能である。ハンセン病者は、被害の只中で、どうにかして自己の生を切り拓くために、周囲の病者/非病者と共同/交渉しつつ生活を編んできたのである。ゆえに、今後日本のハンセン病問題をさらに多角的に考察するためには、病者が被害の只中でおこなってきた<生活実践>をも視野に含むことが重要だと思われる。本稿では、筆者が沖縄愛楽園にておこなったインタビュー調査で明らかになった、<戦果あげ>と<交易>という相互に関連する二つの<生活実践>を取り上げる。その後、それが病者にとって、生活を切り拓くための「生活戦略」(桜井厚)でもあった可能性を考察し、ハンセン病者の<生活実践>への視座を拓くこととしたい。
著者
後山 智香
出版者
佛教大学国語国文学会
雑誌
京都語文 (ISSN:13424254)
巻号頁・発行日
no.25, pp.197-209, 2017-11-25

『古事記』には、後に「天下」となる葦原中国と異界との間に二種類の「坂」が存在している。それは「黄泉ひら坂」と「海坂」であるが、いずれの「坂」も異界に赴く際は問題にされず、属する<国>に戻る段階においてようやく登場するという特徴を持つ。それには<国>作りという問題が大きく関わってくる。なぜなら天皇の世界=「天下」を指向する『古事記』の世界観では、異界との関わりはその上においてでしか意味をなさないからだ。そしてそれは異界との境界である「坂」も同様である。本稿では『古事記』における異界との間に存在する「坂」の意義を<国>作りという観点から見ていくことで、境界としての「坂」は、上巻の神話的空間から脱却し、後の「天下」を指向する『古事記』にとって必要不可欠な<国>作りの一部であったことを論じていく。
著者
朴 雅晴
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-9, 1981-04-20

本論文は,小学校算数科を対象として,完全習得を目指した授業システムを開発するために過去数ヵ年にわたって,行なわれた一連の研究結果をまとめたものである.それらの研究は,完全習得学習理論に基づいた一つの授業システムを試案としてとりあげ,そのシステムに従って設計された授業の効率を検証しようというものであった.本授業システムの適切さと妥当性を検証するために,二つの研究方法が用いられた.実験統制群法による研究および小規模トライアウトがそれぞれ2回行なわれた.対象となったのは2年生,5年生,6年生の児童たちであった.おもな結果は次のとおりであった.(1)完全習得学習への到達率:このシステムが活用された低学年の授業においては90%以上の生徒が90%以上の到達率を示した.(2)下位群に属する生徒たち(算数学力テストないしレディネステストの成績)の学習回復が有意に認められた.(3)高学年では,80%以上の生徒たちが80%以上の到達率に達した.(4)本授業システムにともなう教授・学習プログラムが開発され,その有効性が確かめられた.
著者
奥平修三
雑誌
臨床スポーツ医学会誌
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, 2009
被引用文献数
1
著者
植田 直樹 村上 暁信
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.713-720, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
14

本研究の目的は,都市緑地の評価認証制度と緑化条例等との相補関係を明らかにすることである。近年,都市緑地の評価認証制度がいくつか開発されており,企業活動においても利用される機会が増えているが,緑化誘導のための緑化条例のような公共関与の施策と認証制度の関係は研究がされていない。そこで実際の認証取得事例を用いてそれらの評価項目とその内容を分析した。その結果,緑化条例を満足するだけでは認証を取得することはできないこと、そして緑化条例は事業単独での緑地の価値発揮を誘導するものであり,緑地の複合的な価値や緑地の利用価値の発揮については評価認証制度が担うという相補関係を見出すことができた。またそうした相補関係の今後の展開には複数のパターンが存在することが検証できた。それをもとにこれからの緑化条例に関する議論が可能になることが明らかになった。
著者
國井 泰人 長岡 敦子 日野 瑞城 泉 竜太 宍戸 理紗 矢部 博興
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.179-185, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
23

多彩な方向から活発に行われている生物学的研究によって,精神疾患の病態解明は急速に進んでおり,これらの研究で得られた知見を検証するための死後脳研究も最近数多く行われるようになっている。こうした死後脳研究のためには,研究に適した脳試料を提供できるブレインバンクが不可欠である。筆者らは全国に先駆け精神疾患ブレインバンクを構築し20年以上にわたって運営してきた。当バンクは,当事者・家族の積極的参加による運営,賛助会による支援,インフォームド・コンセントによる当事者・健常者の生前登録,開かれた研究活動を基本理念としている。2016年からは日本ブレインバンクネット(JBBN)が組織され,全国に拡がる生前登録者の希望に対応すべく,ブレインバンクの全国ネットワーク化が進められている。本稿ではわが国における精神疾患ブレインバンクの取り組みを紹介するとともに,死後脳試料を用いた精神疾患研究の現状について概説する。