著者
中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.59, 2020 (Released:2020-03-30)

1.多様な働き方の存在感雇用機会の創出は,「地方創生」の潮流においても枢要の政策課題と位置付けられている.こうした文脈で「雇用機会」と聞く時,われわれが想起しがちなのは,誘致工場などの資本主義的企業との賃労働関係の下にある典型的雇用である.しかし,2014年経済センサスによると,資本主義的企業とみなせる法人(会社)の従業者は,全国の従業者の69.8%であり,非大都市圏ではこの割合が60%以下である地域が広がっている.「会社勤め」ではない多様な働き方の存在感は,非大都市圏ほど強いのである.報告者は,政策や学問の領域に根強い典型的雇用を暗黙の前提とする思考を相対化し,地方都市における多様な働き方・生き方の可能性を探求したいと考えている.長野県上田市では,自らなりわいを創り出している若手創業者に焦点を当て,創業者同士のつながりが「なりわい」を存立させる条件となっていること,そうした「なりわい」が利潤追求に還元されない互酬的性格を持ち,地域に社会的包摂や文化的な底上げをもたらしていることを報告してきた(中澤2018,2019).報告者は,上田市と比べて人口規模が小さく,大都市圏へのアクセスがより困難な大分県佐伯市においても,同様の問題意識に立脚した調査を続けている.本報告では,佐伯市への移住に焦点を当てて,多様な働き方をしている人たちの特徴を描き出す.2.対象地域ならびに調査概要現在の佐伯市は,2005年に南海部郡8町村と旧佐伯市の合併によって誕生した.人口70,708人(2019年12月末)の小都市であるが,その面積は九州の市町村で最大である.造船業や水産加工業が盛んであるほか,高齢化した地方都市の例にもれず,女性では医療・介護の従業者割合が高い.市域の人口は最大期から約4万人減少し,同時に旧佐伯市への集中を強めてきた.佐伯市において多様な働き方をしている人に対する調査に筆者が本格的に着手したのは2019年3月からであるが,それ以外にまちづくりに熱心な有志が企画・実行しているイベントなどにたびたび参加してきたほか,毎年学生を佐伯市に引率している.そのため,1時間程度のまとまったインタビューを実施したのは15人ほどであるが,それ以外の人との会話やフィールドワークからも多くの情報を得ている.本報告では,20〜40歳台の自営業者と地域おこし協力隊員の事例を中心に取り上げる.3.佐伯市の取り組み佐伯市の取り組みにおいて,多様な働き方ととりわけ関連するのは,地域おこし協力隊と創業支援事業である.佐伯市は,地域おこし協力隊を積極的に採用している.任期満了後も佐伯市に住み続けるための「なりわい」を確保してほしいとの思いから,協力隊員に対してかなり柔軟な働き方を認めている.それが功を奏し,協力隊員のかたわらドミトリーの経営やカキ養殖に携わっている事例のほか,佐伯市議会議員に転じた人もいる.創業支援事業は,市の創業セミナーか商工会の経営指導を受けることを条件に,創業資金の一部を補助するものである.佐伯市『総合戦略』のKPIでは,起業・創業支援施策による創業者数を2019年度までの累計で25人としていたが,創業資金の受給者は2019年12月時点ですでに143人に達した.創業者は30〜40歳台が約2/3を占め,市外での生活を経験した人が多いという.4.多様な働き方をする人々と移住対象者のほとんどは自分か配偶者が佐伯市の出身であり,Iターン者だったのは地域おこし協力隊員のみであった.また,出身地に関わらず,ほぼすべての人が進学や就職に際して出身地外に他出した経験を持っていた.女性の場合,他出の意思決定の背景に「都会」での生活への憧れが見て取れ,従事していた仕事にもこだわりが感じられる.一方男性には,現業職を転々とした事例や,ミュージシャンや映像制作を目指して大都市で生活していた事例なども見られる.女性の場合,大都市圏での生活の中で「素の自分」と現実の働き方・暮らし方との乖離が次第に大きくなり,転職に踏み切ったり,地元に帰還したりする傾向にある.結婚や子どもの誕生が,夫婦どちらかにゆかりのある佐伯市に移住する契機となっていることは男女に共通するが,男性の場合,生活の拠点を落ち着ける意味合いがより強い.また,佐伯市出身で実家が自営業をしていた人の場合では,そのまま次ぐ形ではないにせよ,多かれ少なかれ,それを「なりわい」の基礎に据える形でUターンしていた.文献中澤高志2018.地方都市の若手創業者が生み出すもの—長野県上田市での調査から—.2018年人文地理学会大会.中澤高志2019.若手創業者を支える内と外のネットワーク—長野県上田市での調査から—.2019年日本地理学会春季学術大会.
著者
小豆川 裕子
出版者
常葉大学経営学部
雑誌
常葉大学経営学部紀要 = BULLETIN OF FACULTY OF BUSINESS ADMINISTRATION TOKOHA UNIVERSITY (ISSN:21883718)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1・2, pp.131-147, 2018-02-28

テレワークは、勤務先の場所を離れ、「情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用し、時間や場所を有効に活用ができる柔軟な働き方」である。日本では第二次安倍政権以降、民間企業のみならず中央官庁・自治体なども加わり、多くの組織でその取組が本格化している。 テレワークは、ICT の徹底活用による生産性の向上、時差を超えたグローバル事業の展開、そして少子高齢社会を迎え、男女関わらず、出産・育児・介護などさまざまなライフイベント・ライフスタイルへの柔軟な対応、さらに災害やパンデミックなど非常時のBCP 対応が可能となるなど、さまざまな期待が寄せられている。 本稿では、テレワークの現在の普及状況や政府が推進するテレワーク施策の取組を踏まえ、中小企業の経営課題とテレワークの導入効果に関する整理を行い、持続可能な個人・企業・社会に向けた企業システムのフレームワークの提案を行っている。 さらに、2017 年に実施した「働き方改革」に関するアンケート調査等をもとに、中小企業の取組み実態や意識の傾向を分析した。最後に地方自治体におけるテレワーク関連施策を概観しながら、中小企業の経営課題解決におけるテレワークの意義・有効性について検討を行った。 中小企業の働き方改革の取組、テレワークの導入は進んでいないが、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務において「プラスの効果」の実感は高く、意識改革や業務プロセスの革新によって、優秀な人材の確保・維持や組織の活性化につながるものと考えられる。 現在、日本のさまざまな地方自治体において、中小企業の経営をめぐるテレワーク関連施策が講じられている。各種補助事業、情報提供やコンサルティング支援を効果的に活用することにより、着実な成長につながることが期待される。
著者
山﨑 朗
出版者
中央大学経済学研究会
雑誌
経済学論纂 (ISSN:04534778)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3-4, pp.375-395, 2017-03-01
著者
三浦 麻子 小森 政嗣 松村 真宏 平石 界
出版者
日本感情心理学会
雑誌
エモーション・スタディーズ
巻号頁・発行日
vol.4, pp.26-32, 2019

<p>The present study explored social sharing of negative emotion on social media related to the 3.11 earthquake. A dataset was created from tweets that included one or more of the nuclear disaster at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant (F1-NPP) related vocabulary, which were extracted from all Japanese tweets from March 11th, 2011 to April 16th, 2012. The results show anger was less susceptible to attenuation over time and this trend was more obvious in regions farther from the F1-NPP. Anxiety was more commonly shared in regions with a nuclear power plant, but a tendency to decrease over time was observed and this trend was more prominent the closer one was to the F1-NPP.</p>
著者
中村 早希 三浦 麻子
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.119-132, 2019

<p>This study examines the attitude change process based on the heuristic-systematic model (HSM) in persuasion among two individuals holding different opinions, as the simplest situation of multiple directions of persuasion by different sources. Participants with restricted or unrestricted cognitive resources were asked their attitudes after reading two different persuasive messages: one was a persuasion from in-group member with weak arguments and the other was from out-group member with strong arguments. Cognitive resources were manipulated with a dual task (Study 1) and time constraints (Study 2) to allow either heuristic or systematic processes to predominate. Both studies showed participants were more likely to form their attitudes in response to the persuasion from in-group member, which had positive heuristic cues, with weak arguments under a restricted condition than under an unrestricted condition. This provides evidence that the HSM can explain the attitude change process under multiple-source-and-direction persuasion.</p>
著者
小宮山 智志
出版者
新潟国際情報大学経営情報学部
雑誌
新潟国際情報大学経営情報学部紀要 = Journal of Niigata University of International and Information Studies Faculty of Business and Informatics (ISSN:24342939)
巻号頁・発行日
no.4, pp.29-35, 2021-04-01

2021 年1月に発生した停電災害時における、平常時に地域活動を行っているメンバー(地域の自発的な祭の実行委員)のSNS 上の情報発信を分析した。その結果、災害時に求められる恐怖の低減、町内外の情報収集・共有による客観的な状況把握、さらには今後の行動の提案までが、短時間になされていたことが判明した。今回の事例により「平時の自発的な地域活動のネットワークはこのように災害時に効果的に働くこと」と同時に「新興住宅地であるがゆえに平日日中に災害が起きた場合は、彼らは町に不在である」という欠点も浮き彫りになった。この欠点の解決方法として中学生ならびに高齢者を地域の活動をとおしてSNS 上のネットワークを取り込むことを提案する。
著者
中村 友美 山根 寛 山田 純栄
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.359-370, 2016-08-15

要旨:昨今の精神科医療の改革に伴う作業療法プログラムの整備状況と課題を明らかにするため,協力の得られた32施設にプログラムに関する質問紙調査を行った.精神科病床100床未満の公的総合病院では急性期プログラムが整備されていたが,100床以上の民間精神科病院では慢性期対象の大集団プログラムが中心で,急性期や退院促進プログラムが不足し,半数以上は全体でのリハビリテーション検討体制がなかった.プログラムの問題は約8割の作業療法士が認識し,プログラム整備が困難な要因には民間病院の収益性や診療報酬の問題が共通し,施設の構造や体制,作業療法士の認識や技能,他職種との連携に関する問題も相互に関係していることが示唆された.
著者
西長 明継 杉本 岩雄 松浦 輝男
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.495-499, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
15
被引用文献数
6

反応場の変化に応じてジオキシゲナーゼ型およびモノオキシゲナーゼ型反応の触媒活性を示すコバルト(II)シップ塩基錯体が,酸化剤としてt-ブチルヒドロペルオキシドを用いると置換ベンジルアルコールの脱水素反応を触媒し,高選択的に対応する置換ベンズアルデヒドを生成する。生体内酸化反応におけるヘム錯体の示す多様な触媒活性によく似ていて興味深い。この脱水素反応の活性種はt-ブチルペルオキソコバルト(III)錯体種であって,配位不飽和の状態で強い活性を示すが,ジクロロメタン中では溶媒の関与する自己分解が競争的に起こる。配位飽和状態では活性は低下するが脱水素の選択性は増大する。ベンジルアルコールの脱水素反応に活性なt-ブチルペルオキソコバルト(III)錯体は同様の反応条件下ジベンジルエーテルから脱水素しないので,脱水素反応に対しては基質のアルコール性ヒドロキシル基の関与する機構を含むものと考えられる。