著者
嶺崎 寛子
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.191-215, 2019

<p>本稿では、ジェンダー・オリエンタリズムという難問(アポリア)を示し、それをいかに乗り越えるかを論じている。西洋と東洋を二項対立的に捉え、西洋が東洋を他者化し、東洋に自分たちの世界にはない独特/特殊な女性差別や女性蔑視を見出し、それを「遅れている」「女性差別的である」ことの証左とするまなざしがジェンダー・オリエンタリズムである。ムスリム女性は、一貫してこのまなざしが注がれる、主要な客体の一つであった。これに抗する第三世界フェミニズムは、不均衡な権力構造や表象のポリティクスについて、丁寧に紐解いてきた。一方日本の宗教学はジェンダー・オリエンタリズムに反論しようとするあまり、結果的にそれを再生産するという罠に嵌っている。研究者としてすべきことは、構造自体を白日の下に曝し、問い自体を無化することである。多数派を巻き込みつつ、ジェンダー主流化の意義を共有し、具体的な方法論を提示することによって、この隘路を切り抜けられるのではないか。</p>
著者
松井 哲男
出版者
素粒子論グループ 素粒子論研究 編集部
雑誌
素粒子論研究 (ISSN:03711838)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.B105-B110, 1978

我々は,ハドロン多体系である植物質での新しい型の相転移として注目されているπ凝縮の問題を,核子サイドに焦点をあて,π凝縮にともなう核子系の構造変化と相転移のメカニズムを調べてきた。その際我々がとったアプローチの方法については,既に前回の研究会で報告済みであるが,今回は特に(1)我々のモデル("SCB")と京大グループの"1次元[ALS]"モデルとの対応関係,(2)核子-核子短距離相関とアイソバー・空孔偏極の効果をとり入れたより現実的な取り扱いへの予備的考察に重点をおいて,その後の研究の成果を報告した。

1 0 0 0 外文筆記

著者
錢鍾書著
出版者
商務印書館
巻号頁・発行日
2014
著者
中田 育男 渡邊 坦 佐々 政孝 森 公一郎 阿部 正佳
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1_2-1_18, 2008 (Released:2008-03-31)

COINSコンパイラ・インフラストラクチャは,コンパイラの研究・開発・教育を容易にする目的で開発したものである.COINSは(1)高水準中間表現と低水準中間表現の2水準の中間表現をもつ,(2)記述言語はJavaで,すべて新規開発した,(3) SSA最適化など最適化の機能が充実している,(4)リターゲッタブルなコード生成系をもつ,(5)並列化の機能を持つ,といった特徴をもっている.開発作業は10箇所以上で分散して行い,3週間に1回程度の全体打ち合わせを持ち進めた.途中いくつかの失敗もあったが,ほぼ当初の目標を達成できた.入力言語はCとFORTRANとして,対象機種はSPARC, x86など,全部で8機種のコンパイラが出来ている.Cコンパイラの目的コードの性能は,GCCのそれに匹敵するものが得られている.COINSシステムはJavaで約26万行の大きさである.本論文では,このインフラストラクチャについて,技術面と開発作業の観点から述べる.
著者
湯川 竜二
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.131-133, 1971

シンポジウムの趣旨ならびにまとめについては上述したとおりである。<BR>新幹線における雪氷害の現象, その対策の概要について斎藤氏から, 着雪現象の物理, ならびに散水量と濡れ雪の効果について荘田氏から, また散水設備について石橋氏から, それぞれ経験, 現象の解析, 実験結果等の各角度から詳細な論述と討論が行なわれた。高速自動車交通における視程の問題について土屋氏から, 道路の凍結現象について井上氏から, すべりの機構について市原氏から論述があり, それらの対策についてそれぞれ討論があった。降雪の質, 量, 凍結状況等の測定方法ならびにその情報伝達系について馬場氏, 樋口氏, 荘田氏からそれぞれ論ぜられた。樋口氏の雪雲の観測実験の報告は, 局所的かつリアルタイムの降雪予報体制の確立へ進むものとして多大の関心を呼んだ。更に, 関ケ原地区における気象の特性, 局地的な降積雪の予測について石原氏から詳述され, 高速陸上交通における降雪予報のリアルタイムの情報管理体系について石原氏, 樋口氏および馬場氏から解説と論述が行なわれた。さらに降積雪地帯における高速道路の交通管理のあり方についての大島氏, 巻島氏からの論述, ならびに, 北陸, 東北等の高速道路の計画, 建設における問題点について, 路線の選定, 降積雪から防護方法等について述べられた。<BR>以上, 今次のシンポジウムは, 高速陸上交通における雪氷害の現象の解析と, その対策の樹立について, 今日的問題の究明と, 明日への課題について, 体系的に論ぜられ, Research, Survey, Practice, Engineering, の共同と相互のフィードバックがこの種の問題の解決を加速するという恰好の例を示したものといえるであろう。
著者
中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.15-18, 2010 (Released:2010-06-22)
参考文献数
16
被引用文献数
3 4

2種類のブシ末製剤を単独で服用した場合の酸化ストレス度と抗酸化力を測定し,経時変化について検討した。健常人34例を2群に分けて2種類のブシ末製剤(TJ‐3022,TJ‐3023)3g/日を3日間服用し,服用直前,服用90分後,服用72時間後に酸化ストレス度(d‐ROMsテスト)と抗酸化力(OXY吸着テスト)を測定した。TJ‐3022群では酸化ストレス度と抗酸化力の有意な経時的変化はみられなかった。TJ‐3023群でも酸化ストレス度と抗酸化力の有意な経時的変化はみられなかった。附子服用量3g/日では酸化ストレスに影響を及ぼさないことが示唆された。
著者
海野 賢 三宅 絵美香 田辺 新一
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会環境系論文集 (ISSN:13480685)
巻号頁・発行日
vol.80, no.716, pp.917-923, 2015 (Released:2015-11-11)
参考文献数
27
被引用文献数
4 3

Different kinds of adaptive opportunities are selected in bedrooms, such as air conditioning and natural ventilation; however, the thermal environment created by these measures is not necessarily good for sleep. In this research, a field survey was carried out to investigate the effect of the total thermal environment and its variation on sleep. First, we investigated the effect of airflow and found that an increase in air turbulence causes an increase in the duration of wakefulness. Next, we adjusted the comfort equation for sleep and calculated the thermal load on the body and its variation. We found that both negative and positive increase in the heat load on the body causes an increase in the probability of awakening. An increase in its variation also resulted in an increase in the probability of awakening. We concluded that when planning a pleasant thermal environment for sleep, it is important to consider the total thermal environment and to take into account the effect of its variation as potential cause of sleep disruption.
著者
青木 隆浩
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.205, pp.7-35, 2017-03

本研究では、近代日本の禁酒運動において、酒を用いる儀礼が案外大きな障壁となっていたことを明らかにし、その理由について考察していった。もともと飲酒のような道徳や生活習慣、教育に関わるようなことを法律で規制する機運が高まっていったのは、アメリカの影響による。だが、道徳や生活習慣を法律で規制しようとした場合には、その範囲や取り締まりの可否が問題となる。そして、未成年者飲酒禁止法案が一九〇一年に初めて提出されてから二一年間にわたって何度も否決され続けたのも、基本的にはその点が問題になっていたからである。議員や官僚たちには、法律にする以上はそれで社会を取り締まれなければならないという前提条件があったため、範囲や基準が曖昧にならざるを得ない道徳や生活習慣に関わることを具体的にどの程度まで取り締まるのかといったことが議論の中心になっていった。その中で、儀礼に用いる酒まで取り締まるか否かという点については、本音では日本を酒のない国にしたい禁酒派と、伝統的な慣習にまで法律で介入することや、儀礼に用いるようなアルコール度数の低い酒まで禁酒の対象にすることへ抵抗感を抱く反禁酒派の意見が常に衝突するところであった。結果的に禁酒派が議会でそこまで厳密に取り締まるつもりはないと発言し、そこに反禁酒派の失言が重なって、未成年者飲酒禁止法は制定された。しかし、一方で禁酒派は日本をさらに無酒国へと近づけたいという意思を、禁酒の対象を二五歳にまで引き上げる改正法案を国会に提出することで示した。こうした禁酒派の道徳や生活習慣に対する介入の拡大と規制の強化は、議会で強い抵抗を受けることになった。そして、禁酒派は改正法案提出後にかえって発言力を失っていったのである。
著者
原田 拓馬
出版者
山口大学大学院東アジア研究科
雑誌
東アジア研究 (ISSN:13479415)
巻号頁・発行日
no.15, pp.15-29, 2017-03

本研究の目的は、学校改革を引き起こす教師が、自身で立案した学校改革案を学校組織の意思決定の場において成立させることを目指し、実践している〈根回し〉に焦点化した上で、特に自己呈示戦略に着目し、その諸相を描き出すことである。本研究の方法として、ゴフマンの演技論的アプローチに依拠して、行為者個人による「振る舞い方」の諸相を持つ自己呈示戦略を分析した清水の枠組みを援用する。学校組織のフォーマルな意思決定の場での学校改革案の成立という目的のもと、その提案以前の段階でのインフォーマルな場で実践される〈根回し〉に焦点化し、そこで組織される自己呈示戦略が、いかなる諸相を持つのか、という点を分析する。本研究の知見は、次の2点である。第1に、学校組織の意思決定の場での学校改革案の提案以前の段階で、インフォーマルな場において実践される〈根回し〉とは、《秘匿性》という基本的特徴のもと、学校改革案の確実な成立を目指して実践されていることが明らかになった。第2に、その〈根回し〉として、学校組織の意思決定の場での権限を持つ存在に対し、学校改革案の成立への支援を促すべく、①《利益供与者》、②《理解者》、③《献身者》、④《秘密の暴露=共有者》という自己呈示戦略を組織していたこと、また、学校組織の意思決定の場で反対意見を出す可能性のある存在に対し、学校改革案の成立の妨害を阻止するために、⑤《相談者》という自己呈示戦略を組織していたことが明らかになった。

1 0 0 0 OA 母の紀念

著者
徳田秋声 著
出版者
今古堂
巻号頁・発行日
vol.後, 1906
著者
古武 真美
出版者
近畿大学短期大学部
雑誌
近畿大学短大論集 = The bulletin of Kindai University Junior College Division (ISSN:03867048)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.47-59, 2019-12

[抄録]わが国では働く女性が増えている。そんな中、政府主導で働き方改革が進められている。また、これまでの日本の雇用スタイルに変化を与えそうな企業の動き、たとえば、就活ルールの変更、副業解禁などがある。さらに、終身雇用を維持していくことが難しいといった趣旨の企業経営者の発言もある。本稿では、働き方改革や企業の動きがこれからの女性労働者の働き方にどのような影響を与えるのかを考察する。まず、日本の女性労働者が抱える課題を先行研究から抽出する。次に、統計データから現在の日本の女性労働者の状況を確認する。そして、働き方改革の一環として改正された法律の内容のポイント、企業の動き、企業経営者の発言等を整理することで、今後の日本の雇用社会の方向性を探る。その上で、これからの女性労働者の働き方を考察する。[Abstract]The number of female workers has been on the increase in Japan. In such a situation, the government is taking the initiative in its work style reform. And, there are some company movements that will bring changes to a conventional Japanese employee style. For example, they are changes to job hunting rules and the lifting of side jobs. In addition, some presidents said that it is hard to keep lifetime employment. In this report, the author will consider the effects of work style reform and new movements of companies on female workers. First, the author extracts the problems that face female workers from previous studies. Second, this paper overviews circumstances of Japan's female workers from statistical data. Third, the author gets thoughts together such as the contents of law amendments as part of work style reform, the movements of companies and presidents' remarks. Finally, the study explores the future direction of employment systems in Japanese society. In addition, it examines the way work style for female employees ought to be in future.
著者
納富 亮典 原 麻理子 飯盛 美紀
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.11, 2011

【はじめに】<BR> 右の広範な脳梗塞後,左手に非所属感,無目的な運動,物品操作時の拙劣さと握り込みを認めた症例に対し,外言語化による左手の運動を導入した結果,改善がみられたため,考察を加え報告する.尚,症例と家族には発表に際し文書同意を得た.<BR>【症例紹介】<BR> 80歳代,女性,右利き.診断名:心原性脳塞栓症.Br-stage:左上肢・手指・下肢共にV.感覚:左上下肢表在・深部覚共に重度鈍麻.左手に強制把握あり.FIM:44点.<BR>【MRI・FLAIR所見】<BR> 右頭頂葉・後頭葉・前頭葉内側,脳梁全域に高信号.<BR>【神経心理学的所見】<BR> MMSE:24/30点.BIT通常検査:14/146点,行動検査0/81点.数唱:foward5桁,backward4桁.聴覚性検出課題:正答率84%,的中率45%.記憶更新課題:3スパン正答率13%.PASAT:2秒条件3%.FAB:4/18点.Kohs立方体:不可.SPTA:拙劣さあるが命令・模倣動作とも可能.VPTA:錯綜図5/6,未知相貌の異同弁別7/8.<BR>【左手に関する症状】<BR> 無目的に動く.左手に対して「隣の人の手」「この人,静かにしなさい」といった発言をする.物品操作では,リーチのずれ,Preshaping・shapingの拙劣さ,握り込みを認める.日常生活での使用は乏しい.<BR>【介入・経過】<BR> まずは外言語化による無目的な運動の抑制を試みた.また,「誰かの手」と言う左手の非所属感,左手の低使用,握り込みに対し,右手の運動抑制と左手の運動拡大を目的に,物品の握り・離しの単純動作を徒手的に誘導しながら実施した.自室内環境としても,ベッドでの寝返り方向,テレビ,棚の位置を左方向へ変更し,病室内の導線(トイレ,洗面台,廊下まで)をマーキングし,左空間への視覚探索・動作機会の増加を促した.左手への注意向上がみられた頃より,両手動作の練習を開始した.まずは手洗いなどの簡単な慣習動作から開始し,セルフケア,簡単な生活関連動作へと進めた.結果,セルフケア場面での左手の使用の増加や,外言語化による自己調整が可能となり,内観も「誰かの手」から「自分の左手」へと変化した.<BR> 発症5ヶ月後にはBr-stageには変化はないものの,神経心理学的所見は,MMSE:24点,BIT通常検査:130点,FAB:8点,ADLはFIM:103点となり,歩行・整容・更衣・排泄動作は自立となった.<BR>【考察】<BR> 本症状は左手の非所属感,無目的な運動より,posterior typeのalien hand syndromeと考えられた.病巣は広範な右半球と脳梁にあり,左手の情報と行為の中枢である左脳との連絡が絶たれたことによる症状と考えられ,非所属感や無目的な運動が生じた左手に対し,外言語化による左手の情報伝達と運動指令の再学習は有効と思われた.