著者
森 宏
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.197-213, 2019-12-16

人の身長は,動物蛋白(特に幼少期における)で決まるは,学界の通説である。1960年代から70年代にかけて,高3男子の平均で,日本のほうが韓国より3cm前後高かった。この差は「蛋白説」が妥当する。両国とも学童身長の増進は目覚しく,1990年代の初期には両国の差はほぼ解消した。韓国の児童はその後も着実に伸び続け,2000年代半ば(2005)には韓国のほうが3-4cm高くなった。韓国における動物性食品の増加は際立っていたが,2005年時点でも,1人当たり動物性食品の摂取量は,日本のほうが20%程度多かった。「もともと」朝鮮人のほうが日本人より(民族的に?)その程度高かったという説がある。一世紀前の1900-20年代,20歳の成年男子の比較で,朝鮮人のほうが日本人より2cm前後高かった。同じ頃,日本の統治下にあった台湾のほうが朝鮮の若者より3cm高かった。2005年前後,1人当たり食肉消費に関し,台湾は韓国を60%越えていた。台湾の児童は平均的に日本とほぼ同じ水準で,韓国より3-4cm低かった。「もともと」「民族的に」は,説得力を失う。FAOSTATによると,韓国は動物性食品の消費は少ないが,日本と台湾に比べ,1人当たり供給カロリーは,1970年代後半から200-300kcal/day程度多く,同じく1人当たり野菜の純供給は,200kg/yearを超え,それぞれ日本と台湾の2倍前後の水準を維持していた。台湾については分析結果を持たないが,日本において「若者の果物・野菜離れ」は,これまで繰り返し述べてきたように,度を外れている。
著者
津田 陽
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.849-859, 1998-09-15

はじめに 薬剤の吸入は一般的に行われている.例えば,喘息患者へのalbuterolのような気管支拡張薬の投与には長年にわたって吸入器が用いられている.近年,バイオテクノロジーの急速な進歩に伴って多くの新しい薬剤が開発され,臨床試用が行われている.しかし,薬剤によっては従来のような経口投与では具合が悪いことがある.例えば,錠剤で経口投与された場合,薬剤が作用を発揮するべき所へ到達する前に蛋白とペプチドは胃の酵素によって簡単に分解されてしまう.肺は広大な肺胞の表面積を有し,また肺胞壁は極端に菲薄な構造をしており,さらに肺内深部の領域にはわずかの蛋白分解酵素しか存在しないという特徴から,肺に薬剤を投与する治療法が現在注目されつつあり,またその有望な方法として,エロゾールの形で薬剤を投与する吸入療法が次第に重要性を増している. エロゾール吸入療法は経口投与に比べて多くの利点を持つが,一方でいくつかの問題点もある.最も大きな問題は薬剤輸送の効率である.近年試用されているネブライザーや,定量噴霧式吸入器(MDI)のような吸入器では投与された薬剤の約5〜10%しか口腔咽頭や喉頭を通過して肺に達することができない1).このような肺内に達する薬剤量の減少は,原則的には粒子サイズや吸入気流速度を減少させることによって軽減することができるが,適切な量の薬剤を目的とする気道に確実に到達させるのは非常に困難である.エロゾールの輸送と沈着は,非常に複雑な物理学的現象であり,それらは粒子の性状,呼吸パターン(気道の流体力学),気道の解剖学的形状などに依存している. 本稿の目的は,気道におけるエロゾールの輸送,沈着に関わる基本原理を強調し,基礎的な背景となる事柄について解説することである.本稿の最後に,肺内深部でのエロゾール輸送に関する新しい概念である“stretching and folding”注1)対流混合について,われわれの最新の研究成果2,3)を簡潔に紹介する.
著者
伊藤 修一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000237, 2018 (Released:2018-06-27)

Ⅰ.はじめに 1990年代以降の先進諸国では自動車保有率の上昇が鈍化,低下に転じているなど(奥井 2004,橋本 1999),モータリゼーションは成熟・停滞期とみられる.モータリゼーションが進む地域において,一般に女性は自家用車の利用可能性が低い「交通弱者」と位置付けられ,就業機会とのアクセスが制限されやすく,家事や育児を担う役割も重なる場合には専業主婦や低所得者となりやすいとされてきた(Hanson and Pratt 1988). 総務省『労働力調査』によれば,日本の年齢別女性就業率に表れる「M字型カーブ」の谷底は1991年には50%を上回り,2007年以降は60%を超え,全体の女性就業率も2010年代に入ってからは上昇している.よって,自家用車の普及と女性就業の促進との関係を検証する必要がある.既に,岡本(1996)はパーソントリップ調査の結果に基づいて,就業女性の自動車利用率が専業主婦よりも高く,世帯の自動車保有率が高くなれば利用率が高まることを指摘している.日本の乗用車保有率の要因を分析した奥井(2008)も女性就業が自動車普及の一因であることを示唆している. なかでも,近年の軽乗用車の普及は女性就業に大きな影響を及ぼしたと考えられる.自動車検査登録協力会編『自動車保有車両数』によれば,普通・小型乗用車台数は1990年代中期以降停滞するなか,軽自動車は年1~3%の増加が続く.また日本自動車工業会『軽自動車の使用実態調査報告書』によると,男性が過半数だった主たる運転者が1995年以降には既婚女性のみで過半数を占めるようになったからである. 本研究では軽乗用車保有台数の増加と女性就業率の高まりの時期が重複する1990年代中期以降に注目して,軽乗用車の保有状況の地域的傾向を把握したうえで,軽乗用車の普及と既婚女性の就業者の増加との空間的な関係を,統計的な裏付けに基づいて検討する.Ⅱ.分析対象とデータ 軽乗用車の地域的な普及状況を把握するために,全国軽自動車協会連合会『市区町村別軽自動車車両数』(1996年3月末版,2016年3月末版)により台数データを入手した.ここでは普及状況を測る指標として,軽自動車台数を総務省『国勢調査』(1995年,2015年)による一般世帯数で除した保有率を用いる.既婚女性の就業に関するデータも『国勢調査』による.就業状態は就業者総数のほか,年齢別,「主に仕事」と「家事のほか仕事」との別に分けて分析した. 分析対象は国内全ての市区町村であり,1995~2015年度間の市町村合併や福島第一原発事故の影響を受ける自治体などを考慮して,1833の部分地域に整理された.Ⅲ.軽乗用車保有率の分布 2015年度の全国保有率は39.8%で,空間的偏りがみられる(モランI統計量1.52,p<0.01).ローカルモランI統計量による検定結果に基づくと,三大都市圏や北海道に10%未満の市区町村が集中する統計的に有意なクラスターが認められ,仙台市と熊本市のほか広島市と福岡市の中心地区といった政令指定都市にも低率のクラスターや局所的に低い地域が形成されている.対照的に山形,宮城両県を中心とした東北地方南部や,中国山地や讃岐山地付近,九州地方は70%以上の高いクラスターがみられる.これは奥井(2008)が指摘する,北海道で高値,東北地方や西日本に低値の地域が広がるという乗用車全般の傾向と異なる. 2015年度の全国保有率は1995年度の13.6%の約3倍にもなる.両年の分布パターンはよく類似しており(r=0.89,p<0.01),高保有率だった地域で保有率が上昇している(r=0.74,p<0.01).保有率が減少したのは低普及率の有意なクラスターに属する東京都千代田区と中央区のみである.Ⅳ.軽乗用車保有率と既婚女性就業率との関係 2015年度の保有率と就業率の相関係数は0.52(p<0.01)で,1995年度よりも上昇している.「主に仕事」とし,年齢の高い者ほど大幅に上昇している.全国的には軽自動車の普及が,フルタイム労働者のような既婚女性の(再)就業の促進により関わっており,その関係が深まっていると解釈される. また,保有率の上昇幅と就業率の上昇幅との関係は大都市圏内において統計的有意差が認められる.保有率の上昇幅のわりに就業率の上昇幅が小さい地域は東京都荒川区を中心とした都区部北東側や,天王寺区を除く大阪都心5区に有意なクラスターが形成されており,大都市圏中心部の公共交通の利便性の高さが影響したものとみられる. 一方,保有率の上昇幅のわりに就業率の上昇幅の大きい地域は,東京圏においては三鷹市周辺や横浜市神奈川区周辺に,大阪圏では神戸市に有意なクラスターが現れる.こうした傾向からは大都市圏内では,軽乗用車の取得可能性などの経済面の影響も示唆される.
著者
嶋﨑 尚子 須藤 直子
出版者
地域社会学会
雑誌
地域社会学会年報 (ISSN:21893918)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.109-125, 2013 (Released:2018-05-14)
参考文献数
31

In 2002, Taiheiyo Colliery Co, Ltd., the last coal mine in Japan, closed, resulting in the unemployment of 1,600 people. Their re-employment was extremely difficult. The objective of this paper is to analyze how the characteristics of the last coal mine affected their subsequent careers, using longitudinal microdata of all miners who lost jobs due to the Taiheiyo closure. We can trace them for three years until they lost eligibility for unemployment insurance. We assume two factors for the difficulty in re-employment. First, the last colliery could not offer other mining jobs as had former mine closings, except one new small-scale mine, Kushiro Coal Mine Company, Ltd., (KCM). It was established under the 5-year project to actively transfer world-leading mining technology to Asian countries, so it could employ only 500 people. In addition, the local area centering on Kushiro did not have sufficient jobs to absorb these workers due to the recession. Second, while most miners at other mines lived in company housing, Taiheiyo had a unique welfare policy that promoted home ownership. It is said that this unique housing policy enabled Taiheiyo to survive until the last moment. Therefore, at the closure of the mine, 74% of the miners owned their houses and they preferred to stay and seek jobs in Kushiro. Of course, house ownership lightened the conditions for seeking jobs in Kushiro, but made miners hesitate to seek jobs outside Kushiro. Therefore, when Kushiro fell into recession, motivation to seek employment decreased, especially in the case of elderly. We conclude that the housing policy led to a dysfunction in re-employment

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出版者
巻町教育委員会
巻号頁・発行日
1984
著者
IRIKURA Kojiro FUKUSHIMA Yoshimitsu
出版者
Japanese Group for the Study of Natural Disaster Science
雑誌
Journal of natural disaster science (ISSN:03884090)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.39-46, 1995-06-01
参考文献数
10
被引用文献数
2

The peak horizontal acceleration and velocity of observed records from the 1995 Hyogoken-nambu earthquake are compared with those predicted from empirical attenuation relations that were found applicable to the near-distance area. The observed peak values match well the existing empirical attenuation relations, although unpredictable severe damages occured due to strong ground motions in Kobe and adjacent cities close to the faulting zones. The observed peak vertical accelerations are about half the peak horizontal ones at less than 100 cm/s/s, as in the empirical relations, but they tend to be more than half at more than 100 cm/s/s. This suggests that the horizontal motions were more markedly affected by the horizontal non-linear behavior of the soils in the surface layers during strong horizontal motion than during vertical motions.
著者
中井 武彦 小川 秀樹
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.180-185, 2002-06-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
5

可視域で使用される撮影レンズに適用可能な積層型回折光学素子の開発を行った。本稿では, 積層型回折光学素子が, どのような特徴をもつ素子なのかを説明した上で, 従来, 撮影分野に応用できなかったものが, どのような技術により応用可能となったのかを, 昨年12月に発売されたEF400mm F4 DO IS USMを応用例に, 光学系における収差補正を含めて解説する.
著者
眞部 紀明 春間 賢
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.55-62, 2019-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
21

慢性便秘の治療目標は,排便回数や便性状のコントロールだけでは不十分であり,腹部膨満感や腹痛等の排便周辺症状のコントロールに配慮することも重要である.このような点から,薬理作用点の多い漢方治療の適応となる慢性便秘患者も決して少なくはないと考えられる.本稿では,慢性便秘治療としての漢方治療に焦点を絞り,これまでに報告されているエビデンスと慢性便秘における漢方薬の使い方及び注意点を中心に概説した.今後,慢性便秘患者数は増加することが予測され,それに伴い,漢方治療の需要もますます高まっていくと考えられる.引き続き,漢方治療の位置付けを明確にし,作用機序の解明を含めた新たなエビデンスを構築していくことが重要であると思われる.
著者
尾髙 健夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.10-15, 2019-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
10

便秘は,量的にも質的にも生理的排便が障害され,「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義される.慢性便秘症は,その原因から器質性及び機能性に,症状から排便減少型及び排便困難型に分類される.機能性便秘の病態は多様であり,大腸通過正常型(normal transit constipation:NTC),大腸通過遅延型(slow transit constipation:STC)ならびに便排出障害の3タイプに分けられる.慢性便秘症の原因・症状・病態を理解することで,便秘症診療の質を高めることができる.
著者
稲森 正彦 飯田 洋 日下部 明彦
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.16-21, 2019-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
7

慢性便秘の診療は,医師として基本的な診療能力(技能・知識)の1つである.「慢性便秘症診療ガイドライン2017」(日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会,2017年)1)では,警告症状及び危険因子の概念の他,ブリストル便形状スケールの利用や二次性便秘を念頭に置いた検体検査,除外診断としての大腸内視鏡検査等の画像診断について記載され,専門施設で行われる検査についても触れられている.実地診療で遭遇する慢性便秘症の診断に関する医学的エビデンスは少なく,今後の検討が必要である.
著者
水城 啓 永田 博司
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.22-28, 2019-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
24

慢性便秘症の診断は患者の訴えに基づくことが多いため,治療の基本は患者の愁訴の改善である.慢性便秘症治療の第一歩は,生活習慣や食生活の改善である.これらを改善することは,便秘症状の改善だけでなく,再発の予防にも有効である.食事は朝食が最も重要であり,毎日十分な排便時間を取れる環境づくりや適切な排便姿勢を指導する.プロバイオティクスは,腸管運動を亢進させ,排便回数や便性状,排便困難感等の改善に効果がある.
著者
栗山 典子 石川 知美 長村 紀子 和田 博子 松井 淑江 石郷岡 均
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.127-130, 2002-08-25 (Released:2009-10-29)
参考文献数
9

黄斑剥離を伴う片眼性の網膜剥離に対し、観血的な網膜剥離手術を施行した症例を対象に術後の近見立体視機能について検討した。黄斑剥離を認める片眼性の網膜剥離眼中、術後の遠見矯正視力が0.8以上、左右の不同視差が3D以内のもの42例42眼を対象としTitmus stereo tests (TST)およびTNO stereo test (TNO)を用い近見立体視機能の検査をした。TSTでは良好群、中等度良好群、不良群に分類した結果23眼(54.8%)が良好群、17眼(40.5%)が中等度良好群、2眼(4.8%)が不良群となった。TNOでは良好群と不良群に分類した結果27眼(64.3%)が良好群、15眼(35.7%)が不良群となった。黄斑剥離を伴う網膜剥離眼では術前に中心視力が低下するものの、網膜復位後矯正視力が0.8以上の症例では良好な立体視が得られた。
著者
田村 朝子 本 三保子 山田 則子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.497-503, 2006 (Released:2007-10-12)
参考文献数
16
被引用文献数
1

ウコギ葉を熱水で抽出した茶を標準飼料および無繊維飼料で飼育したマウスに長期に摂取させ, 腸内環境および小腸組織に対する効果を検討した. 投与した飼料と飲料によりコントロール水群, コントロールウコギ茶群, 無繊維水群, 無繊維ウコギ茶群の4群とし, ウコギ茶の効果を比較した.1) 糞便排泄量および糞中コレステロール排泄量は, コントロール群が無繊維群より有意に高く, 4群間ではコントロールウコギ茶群が最も高い値を示した.2) 盲腸中短鎖脂肪酸総量は, コントロール群が無繊維群より有意に高く, コントロール群間ではウコギ茶群が水群より有意に高い値を示した.3) コントロールウコギ茶群の小腸絨毛の長さは他の3群より有意に長く, 組織および細胞形態も大きく密になっていた. 無繊維ウコギ茶群の絨毛の長さは, 無繊維水群より有意に長くなっていた.以上の結果から, ウコギ茶摂取によって腸の蠕動運動が活発になり, 糞便排泄量が増加し, 小腸組織の発達が促進された. これらのことは, ウコギ茶中に溶出された水溶性食物繊維の影響によるものと推察されたが, 不溶性の食物繊維との相乗効果が大きいと考えられる.