著者
木下 美咲
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.157-161, 2017-04-10

summary肉眼的には診断が難しい場合の脱毛症のトリコスコピーによるフローチャート式脱毛症診断につき,病態と所見を照らし合わせながら解説する.毛包の不可逆的破壊の結果として起きる“diffuse white areas”は瘢痕性脱毛症で観察される.毛幹破壊像である“broken hairs”,“black dots”が観察される場合,円形脱毛症,トリコチロマニアが疑われ,後者では“follicular microhemorrhage”に代表される人為的破壊像が確認できる.毛周期異常像には“tapering hairs”,“short nonvellus hairs”,“hair diameter diversity”があり,円形脱毛症,休止期脱毛,男性型・女性型脱毛症の診断に役立つ.形態異常所見を認める場合には遺伝性脱毛症も疑う.これら主所見の有無を順次確認することで代表的脱毛症を診断する.さらに副所見として瘢痕性脱毛症では“peripilar scales”,“hair tufting”のほか,慢性円板状エリテマトーデスに特異的な“red dots”がある.円形脱毛症では“yellow dots”や“short vellus hairs”が,男性型脱毛症では“peripilar sign”が観察される.続発性脱毛症では所見が典型的でない可能性があることに注意を要する.
著者
網本 和
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1017, 2017-11-15

エイリアンハンド徴候(alien hand sign:AHS)は主に脳血管疾患(前大脳動脈領域の梗塞例が多い),脳梁切断などを原因として起こる,さまざまな類縁の徴候を含む幅広い概念である.福井1)によれば,その中核症状は ① 上肢(=患肢,主に右利き者の左手)が自分の所有物でなく異質であると感じる自己所属感消失,② 患肢が自己の意思に逆らう(拮抗失行)かまたは関連しない行為をするが,抑制困難となる異常行為,③ その行為は単純な把握反応から道具の強迫使用(この場合意思に反して右手に出現),自己破壊的行為を含むもの,であると報告されている.AHSはしばしば「他人の手徴候(stranger's hand sign)」と表現されている.最初の報告の症状は脳梁腫瘍例において認められたもので,患者に自分の両手を背中に回してもらい,右手に左手を持たせて何を持っているかと質問すると「手」と答えた(すなわち感覚障害はないことがわかる).しかし誰の手かという質問には「私の手ではない」と答えたことより,上記 ① のみの記述であり1),運動要素は含まれていなかった.その後,② と ③ の要素を含めてAHSとした(広義の「他人の手徴候」Bogen, 1979)2). AHSのサブタイプとして,責任病巣が脳梁に限局する場合と前頭葉内側面損傷を伴う場合とに分け,脳梁型と前頭葉型に分類される.脳梁型では非利き手(左手)に拮抗失行が生じるとされ,例えば右手で服を着ようとすると左手が同時に脱がしてしまう現象が起こる.拮抗失行で認められる左手の運動には右手と逆の動きだけでなく,無関係な運動,右手に先行するような動き,両手を必要とするときに左手の運動が生起しない場合などが知られており,また左手の失書,触覚性呼名障害などの脳梁離断症状が伴うが,把握反射は随伴しないとされる.拮抗失行の責任病巣は脳梁膝部が重視されている.一方,前頭葉型では利き手(右手)に道具の強迫使用が起こり,例えば眼前にある櫛を(使わないように指示されているにもかかわらず)右手が意思に逆らってこれを使って髪をといてしまう症状があらわれる.右手には把握反射,本能性把握反応を伴っているが,左手には一側性観念失行などの脳梁離断症状が伴うことは少ないとされる.道具の強迫使用の責任病巣は左前頭葉内側面,補足運動野,前部帯状回および脳梁とされている3).
著者
田中 麗子 和田 康夫
出版者
協和企画
巻号頁・発行日
pp.482-487, 2019-05-01

伝染性膿痂疹は小児に好発する表在性細菌感染症である.夏季に多く虫刺されや外傷をきっかけに紅斑,水疱,びらんを生じる.水疱が飛び火するため,別名「とびひ」と呼ばれる.原因菌に黄色ブドウ球菌とA群β溶血性レンサ球菌があるが,近年メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)によるものが増加している.臨床像から水疱性膿痂疹と痂皮性膿痂疹に分類され,痂皮性膿痂疹は全身症状(発熱,所属リンパ節腫脹,咽頭発赤,咽頭痛など)を伴うことがある.従来,水疱性膿痂疹の場合は黄色ブドウ球菌,痂皮性膿痂疹の場合はA群β溶血性レンサ球菌がそれぞれ原因菌とされてきた.しかし,痂皮性膿痂疹では黄色ブドウ球菌とA群β溶血性レンサ球菌の両方が分離されることがあり,臨床像と原因菌は必ずしも一致しないとの報告もある1).また,原因菌がA群β溶血性レンサ球菌の場合は後日,糸球体腎炎を併発することがあるため尿検査が必要である.原因菌を特定することは治療や合併症を考えるうえで重要である. 伝染性膿痂疹はMRSAが原因となることがあり,治療に難渋することがある.起因菌がMRSAの際の抗菌薬選択には感受性試験結果が重要となるが,治療対象は小児である.小児には使用しづらい薬剤も多い.本稿では伝染性膿痂疹の治療として統計学的結果をもとに検討した.(「はじめに」より)
著者
美代 賢吾
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.908-916, 2005-11-10

はじめに 個人情報保護法が今年4月から全面施行され,個人情報保護に対する関心が高まっている。これまでも,企業,行政機関,医療機関などでは,それぞれの組織の判断によって,個人情報を保護するために必要な対策がなされてきたが,法律の後押しもあり一層強化されるようになってきている。にもかかわらず,昨今の報道や発表などでもみられるように,電子保存された個人情報の流出があとを絶たないばかりでなく,むしろこれまでよりも増加しているような印象さえ受ける。 医事会計システムから始まった病院の電子化も,オーダエントリシステムを経て電子カルテへとその広がりをみせている。単に診療報酬請求に必要な情報だけをコンピュータで扱っていた時代から,病名や疾病の転帰はもちろんのこと,外来・入院を問わず病院に受診した際のすべての記録が電子的に記録され管理される時代になってきた。さらに,病院の電子化だけでなく,多くの医療従事者が個人でパソコンを所有し,それを利用して研究や一部の業務を行なう状況にもなりつつある。 電子保存された情報の流出が相次ぐなか,医療スタッフは,電子化された患者情報に対して,これまで以上の慎重な取り扱いと情報保護のための知識と技術を身に付けなければならない。同時に,これからの病院管理者や看護管理者は,単に患者情報保護のための規則や規定を定めてその遵守を呼びかけるだけでなく,スタッフに対するより具体的な情報教育にも注力する必要があろう。 すでに,個人情報保護法の概要やその精神,日常の医療への適用などについては,いくつかの文献が発表されている1-4)。したがって本稿では,法そのものの解釈ではなく,「個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない(20条)」という法の精神に応えるには,今日から,我々医療スタッフは個人として何ができ何をすべきか,そして看護管理者は,スタッフに対して,何をどのように指示すべきなのかということに焦点をあてて述べていきたい。
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.82, 2009-01-10

紀元前423年に上演されたアリストパネスの喜劇『雲』(田中美知太郎訳,筑摩書房)はソクラテスを批判した作品として有名であるが,そこに登場するソクラテスは精神障害に関わりの深い人物として描かれている. 『雲』は,ある年老いた父親が息子をソクラテスに弟子入れさせようとする話である.しかし,ソクラテスへの弟子入りをめぐる父親とのやり取りのなかで息子は,ソクラテスのことを「悪いダイモンに憑かれている」とか「蒼白い顔をして,履物もはかないでいる連中」と,明らかに病的な人物として蔑視している.実際,その直後に登場するソクラテスは,一人釣りかごのなかで天空のことを思案しているという奇人なのだが,ソクラテスの感化を受けた父親は,息子から次のような批判をされる状態に陥っている.「お父さん,いったいどうしたんです,こりゃ正気の沙汰じゃありませんよ」,「あんな,いかれた連中の言うことを真にうけるなんて,気違い沙汰もひどすぎますよ」,「親父は気が違っている.裁判所へ訴え出て,精神異常の確認をしてもらおうか,それとも棺桶屋に親父の気が変になっていることを話しておく方が,いいか知らん」.
著者
佐藤 恵美 坂井 博之 高橋 英俊 山本 明美 橋本 喜夫 飯塚 一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.876-879, 2001-10-01

72歳,女性.57歳,64歳時に不明熱で入院歴がある.インフルエンザワクチン接種の約2週間後に40℃台の発熱,咽頭痛,多関節痛,全身の筋肉痛が出現し,好中球優位の白血球増多,脾腫,肝機能異常,血清フェリチン値の上昇を認めた.皮疹は発熱とともに消長する一過性紅斑と汗疹様の持続性丘疹で,成人Still病と診断した.発症時から約1か月後のB型インフルエンザウイルスの抗体価は4,096倍と著増しており,発症にワクチン接種の関与を推定した.抗体価は半年後も高値が持続し,本症の病因が感染症に基づく個体側の過敏反応であることを示唆する所見と思われた.
著者
加來 浩器
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.1917-1924, 2018-12-01

マスギャザリングは,「一定の期間,限られた地域で,同じ目的の人が多く集まる状態」と定義され,さまざまな健康危機管理事態を想定した備えが重要である.マスギャザリングによって公衆衛生基盤の一部が破綻すれば,① 病原体の増加,② 非土着の病原体の侵入,③ 空間環境による感染リスクの増大,④ 感染経路対策の不徹底,⑤ 外来種節足動物による感染,⑥ 土着種節足動物による感染,⑦ 感受性者層の増加,などが起こり,感染症の発生のリスクが増加する.国際的なマスギャザリング時には,① 輸入感染症の発生,② 国内の流行疾患の発生,③ イベント会場から国内の他地域への拡散,④ 輸出感染症,などの影響が発生する.
著者
中島 啓
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.571-575, 2021-05-15

忙しいからアウトプットしないでいい? 臨床医は忙しいため、「アウトプットする時間がなかなかとれない」と感じるかもしれない。たしかに、臨床医にとって最も重要なのは、目の前の患者さんの診療であり、それは他の何よりも優先されるべきだ。しかし医師には、診療以外の仕事もあり、たとえば「学会発表」「講演」「論文執筆」などのアウトプット業務がある。
著者
原 實
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.848, 1983-10-01

容貌魁偉である.初対面の人は皆この大きな目玉に驚く.が内実は,心の優しい慈愛に満ちた人柄である. 本邦最初の無人戦車を製作した元砲兵工廠の新垣武久氏を父に,米本国移民の草分けであり,日系移民最初の米国市民権を取得し,後市民権運動に力を尽された弁護士仲村権五郎氏を母方の祖父に持つ毛並の良さ,進取の気性,不退転の意志を同時に享けておられる.
著者
大谷 愛 竹林 崇 友利 幸之介 道免 和久
出版者
三輪書店
巻号頁・発行日
pp.1141-1145, 2015-10-15

Abstract:今回われわれは,慢性期の脳卒中患者2名にCI療法を実施する際,日常生活における麻痺手の使用を促すためのディスカッション時に,従来法の言語のみによる対話に加え,麻痺手に対する訓練における意思決定補助ツールであるAid for Decision-making in Occupational Choice for Hand(ADOC-H)を開発し,用いた.結果,介入前後でFugl-Meyer AssessmentとMotor Activity Logの向上を認めた.加えて,ADOC-Hを用いた議論に関する感想として,2名からは「文字や言語だけよりもイメージが湧きやすい」等のポジティブな感想も聞かれた.しかし,上肢機能が比較的保たれ,介入前から生活で麻痺手を積極的に使用していた患者には,「すでに麻痺手で行っている」といった選択肢の少なさに対する問題提起も聞かれた.今後は,ADOC-Hが従来法に比べ有用であるかどうかを,対象者の選定とともに,調べていく必要があると思われた.
著者
瀧野 貴裕 竹林 崇 竹内 健太 友利 幸之介 島田 真一
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.661-668, 2018-12-15

要旨:脳卒中後上肢麻痺への治療戦略として課題指向型練習が挙げられるが,課題指向型練習単独では生活での麻痺手の使用頻度向上にはつながらないとの報告がある.今回,重度上肢麻痺を呈した脳卒中患者に対し,早期から課題指向型練習を実施した.当初から上肢機能は改善したが,生活での麻痺手の使用頻度には全く変化がなかったため,Aid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(以下,ADOC-H)を用いてTransfer Package(以下,TP)を実施し,麻痺手の行動変容を試みた結果,生活での麻痺手の使用頻度が向上し,麻痺手使用に肯定的な意見を聞くことができた.回復期でのADOC-Hを用いたTPは,麻痺手の使用頻度を促進する可能性があると考えられた.
著者
千丈 雅徳 佐藤 友香 中島 公博 坂岡 ウメ子 林 裕 田中 稜一
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.1061-1068, 2002-10-15

【抄録】 解離性同一性障害患者の主人格および交代人格に風景構成法とPCエゴグラムを施行し,人格の成長・変化を認めるとともに寛解に至った1例を報告した。失恋を契機にαが出現し,αが成長して全体をまとめるδとなった。また,陰性感情は持続していくつかの交代人格が所有したが,最終的には主人格も陰性感情を引き受けることでまとまるに至った。すなわち,交代人格には固定化した感情状態を持続する者と,そうでなく成長する者が存在することが示唆された。また,名を持たぬ不気味な存在に名を付与することで具体的な対応が可能となり治療的に大きな転機となった。風景構成法およびPCエゴグラムは人格特性を簡便に把握し,人格の推移を知る有効な手段であることが示された。
著者
長田 枝利香 三谷 麻里絵 江原 和美 本田 尭 荒木 耕生 後藤 正之 楢林 敦 津村 由紀 安藏 慎 番場 正博
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.405-408, 2016-04-01

症例は5歳女児で、26日前にインフルエンザワクチン2回目を接種、14日前に日本脳炎ワクチンを追加接種した。右下腿前面に紫斑が出現し、翌日は左下腿前面と体幹に紫斑が拡大した。血液検査で血小板数は6000/μLと減少、他の2血球系は正常値であった。凝固系に異常はなかった。PaIgGは軽度上昇を認めた。骨髄像は正形成、巨核球数・赤芽球・顆粒球の数と形態は正常であった。血小板数は、翌日には2000/μLまで低下を認め、はじめて口腔粘膜出血を認めた。免疫性血小板減少症(ITP)の診断で、大量免疫グロブリンを投与した。血小板数は速やかに改善を認め、粘膜出血と紫斑の消失を確認した。その後も重篤な出血症状の合併はなく、入院9日目に退院した。退院後、外来で通院し、半年後の血小板数は17万/μLを維持している。
著者
岸田 修二
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.301-310, 2004-04-01

はじめに HIV(human immunodeficiency virus) type 1は中枢神経系を重要な標的とし,日和見感染症とは異なった神経学的症状を伴う。このHIV原発性中枢神経障害は行動,運動,認知などが様々な程度に障害される病態であり,HIV脳症(HIV痴呆)と称せられる。しばしばHIV脳症は,通常ほかのAIDS(acquired immunodeficiency syndrome)関連疾患が診断された後で,またCD4陽性リンパ球数が200/μl未満に減少しているHIV感染末期に発症する。時にHIV脳症がほかのAIDS指標疾患に先行することもある。 1996年以降,核酸系逆転写酵素阻害薬(nucleoside reverse transcriptase inhibitor:NRTI)とプロテアーゼ阻害薬(protease inhibitor:PI)あるいは非核酸系逆転写酵素阻害剤(non-nucleoside reverse transcriptase inhibitor:NNRTI)との組み合わせからなる強力な多剤併用療法(highly active antiretroviral therapy:HAART)がHIV感染の治療として導入された。このHAARTは血液中のウイルス負荷量を著明に減少させ,HIV感染者に伴う臨床経過に劇的な改善効果とQOLの向上をもたらした。HAARTは複雑な免疫学的改善の指標と考えられるCD4(+)リンパ球数の増加をきたし,日和見感染症の発生を抑制し,それによる致死率を著しく減少させ,さらにその後の報告でもAIDSの発症と死亡率の低下が維持されていることはHAART開始後まもなくからそれに続く幾多の報告1~6)から明らかである。同様にHIV脳症の発生数も40~50%減少した7, 8)。しかしながら,現在でもHIV関連中枢神経疾患は主要な死亡原因9)であり,HIV脳症ならびにHIV関連感覚優位多発ニューロパチーなどのHIVが直接関与した神経疾患はHIV感染患者の重要な疾病である。すなわち,HAARTはHIV/AIDS患者の神経障害の発症を完全には防御できないことを示している。多くの抗レトロウイルス剤は中枢神経への移行が少ないため,中枢神経系がHIVの聖域となり,主な標的である血管周囲マクロファージで,HIVが持続的に複製し,解剖学的reservoirとなる可能性がある。HIV感染は進行性・致死的疾病から長期間コントロール可能な慢性病へと変化しており,HIV感染症患者が延命するにつれ,これまでとは異なった形でのHIV脳症の増加が懸念されている。
著者
細谷 俊彦 中川 直 米田 泰輔 丸岡 久人
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1381-1388, 2018-12-01

大脳皮質に単位回路が繰り返した構造があるかは不明だった。われわれはさまざまな皮質領野において第Ⅴ層の神経細胞が細胞タイプ特異的なクラスター(マイクロカラム)を形成し六方格子状に並ぶことを見出した。マイクロカラムの細胞は共通な神経入力を持ち,類似した神経活動を示した。これらは第Ⅴ層がマイクロカラムを単位とした繰返し構造を持つことを示し,多数のマイクロカラムによる並列処理が多様な皮質機能を担うことを示唆する。
著者
木村 友亮 馬場 浩充 大洲 人士
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.969-975, 2020-08-15

要旨 【目的】本研究の目的は,歩行未自立の急性期脳卒中患者に対する長下肢装具(knee ankle foot orthosis:KAFO)を用いた歩行練習の有無が,急性期病院退院時の下肢の運動麻痺と回復期病院退院時の移動能力に及ぼす影響を調査することである.【方法】脳卒中患者47名を対象に,急性期病院退院時の下肢Brunnstrom Recovery Stage(BRS),回復期病院退院時の歩行項目と階段項目の機能的自立度評価法(Functional Independence Measure:FIM)点数,在院日数を後方視的に調査し,分析した.【結果】下肢BRSは,KAFO不使用群に対してKAFO使用群で,より運動麻痺の改善を認めた.また,歩行項目および階段項目のFIM点数において2群間に有意差を認めたが,在院日数に有意差は認められなかった.急性期病院退院時下肢BRSと回復期病院退院時の歩行項目および階段項目のFIM点数における相関関係は,KAFO使用群で有意な正の相関を認め,KAFO不使用群では歩行項目のFIM点数のみ正の相関を認めた.【結論】急性期脳卒中患者に対する歩行練習は,運動麻痺の回復や歩行,階段動作の獲得における長期予後に影響しており,歩行未自立者に対してKAFOを用いて可及的早期より歩行練習を行うことの有効性が高いことが示唆された.
著者
野口 佑太 伊藤 卓也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.69-71, 2019-01-10

はじめに 現在の診療報酬において,退院支援の1つとして退院前訪問指導がある.2018年の診療報酬では退院前訪問指導料は,入院期間が1月を超えると見込まれる患者の円滑な退院のため,患家を訪問し,当該患者またはその家族などに対して,退院後の在宅での療養上の指導を行った場合に,当該入院中1回(入院後早期に退院前訪問指導の必要があると認められる場合は,2回)に限り算定する1)と明記されており,580点の診療報酬が算定可能である.また,最近ではケアマネジャーなどの介護保険サービスにかかわる職員も同行し,意見交換を行う機会も増加している. 退院前訪問指導の際,住環境の状況を記録するための用紙として家屋環境チェックリスト2)や住環境整備のための記録用紙3)などが存在し,活用されている.そのほかに住環境を記録することを目的にデジタルカメラを使用して写真撮影を行うことがあるが,訪問する職員の意向により撮影箇所が限られることや,経験が浅いと撮影に多くの時間を要することが課題として挙げられる.今回,Virtual Reality(VR)の活用として,退院前訪問指導の際に全天球カメラを使用した動画撮影を行い,主体会病院(以下,当院)の職員と動画の共有を行ったため,取り組みと共有結果について報告する.
著者
小向 佳奈子 藤本 修平 近藤 国嗣 大高 洋平
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.819-824, 2016-09-10

要旨 【目的】リハビリテーション分野において,経験に基づく臨床思考はよく用いられる.しかし,臨床思考が経験によってどのように変化するかについての検討はない.本研究では,装具を選定する際の理学療法士の臨床思考を明らかにし,経験年数による相違について検討した.【対象と方法】質的調査と量的調査を混合して行うミクストメソッドを用いた.まず,構造化面接により,装具選定の際にどのような視点や評価指標を参考にしているかについて,理学療法士22名を対象に調査した.その結果より,主要な視点と用いる評価についての質問紙を作成した.次に,作成した質問紙を用いて量的調査を理学療法士40名に実施した.解析は,視点ごとに選択している評価の割合を集計し,経験年数による相違を検討した.また,視点と評価の関連を視覚的に検討するため,コレスポンデンス分析を実施した.【結果】質的調査から,視点として装具の必要性,角度設定など6項目が,評価として可動域,筋緊張など14項目が抽出された.量的調査の結果,装具の必要性における予後の評価や,角度設定における麻痺側の支持性の評価について,経験年数によって相違があった.コレスポンデンス分析の結果,経験年数4年目以上のほうが3年目以下よりも,評価と視点が集約する項目が明確であった.【結語】理学療法士は多様な視点や評価から装具を選定しており,それらは経験年数によって相違があることが示唆された.
著者
横手 直美 玉田 敦子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.138-142, 2019-02-25

はじめに 前号(1月号)ではフランスにおける麻酔分娩の実際と助産教育について報告した。麻酔分娩がデフォルト(標準設定)となった現在,麻酔分娩から自然分娩へ回帰しようとしている女性,そのケアに戸惑いを示す助産師がいることも分かった。本稿ではこの問題を指摘し,積極的に活動している民間団体と新しい取り組みについて紹介する。