著者
荻原 琢男 畑野 泰子
出版者
日本脂質栄養学会
雑誌
脂質栄養学 (ISSN:13434594)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.21-32, 2015 (Released:2015-05-01)
参考文献数
14

Eicosapentaenoic acid ethyl ester (EPA-E) with a high degree of purity is marketed as a medical supply. In vivo pharmacokinetics of EPA-E is examined in detail via animal experiments. Orally administered eicosapentaenoic acid (EPA) is found in triglyceride (TG) in the rat intestine, and is absorbed via the lymphatic system. Moreover, EPA is gradually detected in cholesterol ester and phospholipid (PL) in blood. Whereas EPA is found in low density fractionation of lipoprotein such as chylomicron in the lymph fluid, it gradually transitions to high density fractionation in systemic circulation. EPA is distributed to several tissues such as fat, liver, heart, brain and aorta. Whereas EPA and its metabolized fatty acids are found in TG in fat, they are predominantly found in PL in the brain, liver and heart. EPA transforms systemically into docosahexaenoic acid (DHA) by chain elongation and subsequent desaturation after intestinal absorption. Interestingly, DHA is found in the brain earlier than in blood and the liver, suggesting the synthesis of DHA occurs in not only the liver but also the brain. This hypothesis is also supported by a recent clinical trial.
著者
財前 知典 小関 博久 田中 亮 多米 一矢 川崎 智子 小谷 貴子 小関 泰一 平山 哲郎 川間 健之介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI1023, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】歩行は個人によって特徴があり、それは健常成人においても同様である。健常成人における歩行の特徴を把握することは運動器疾患の予防の観点からも大変重要であると考える。そこで今回、踵離地(以下HL)において早期群と遅延群に分類し、両群における歩行時下肢筋活動の違いについて調査し、中足骨後方部分の横アーチ挙上における下肢筋活動変化と主観的歩きやすさの変化について比較検討した。【方法】被験者は健常成人17名24脚(男性16脚、女性8脚、平均年齢24.7±2.2歳)とした。各被検者の自然歩行をFoot switchにて計測し、その信号を基に立脚期を100%として時間軸の正規化を行った。Perryの歩行周期を基に49%をHL標準値として、49%よりHLが早い群を早期群、遅い群を遅延群に分類した。入谷式足底板における中足骨後方部分の横アーチパッドの貼付位置に準じて、パッドなしから2mmまでを0.5mm刻みで貼付し、その時の下肢筋活動と膝関節及び骨盤前方加速度を多チャンネルテレメータシステムWEB7000(日本光電社製)にて測定した。なお、それぞれの歩行距離は40mとした。被検筋は腓腹筋内外側頭(以下GM・GL)・前脛骨筋(以下TA)・後脛骨筋(以下TP)・長腓骨筋(以下PL)・大腿直筋(以下RF)・内外側ハムストリングス(以下MH・LH)とした。サンプリング周波数は1kHzとし、得られた加速度波形ならびに筋電図波形をBIMUTAS-Video for WEB(キッセイコムテック社製)で取り込み、筋電図波形では30~500Hz、加速度波形は0~10Hzの周波成分を抽出した。また、各被検筋に対して最大等尺性随意収縮を行い、安定した2秒間の筋電積分値(以下IEMG)を基準として各筋における歩行中の%IEMGを算出した。各被検筋における%IEMGを1%階級に分割したうえで、HL前10%、HL後10%の%IEMGを比較検討した。なお、加速度に関してはHL前10%、HL後10%及びHL時の加速度も併せて算出した。また、早期群及び遅延群におけるパッドの高さによる主観的歩きやすさの違いに関してはマグニチュード推定法(以下ME法)を用いて比較検討した。統計処理にはJava Script-STAR version 5.5.4jを用いて2要因5水準の混合配置の分散分析を行い、有意確率は5%未満とした。【説明と同意】被験者にはヘルシンキ宣言に沿った同意説明文書を用いて本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得たうえで実施した。【結果】 HL早期群と遅延群では、遅延群においてHL前10%でGLの筋活動増大がみられ〔F(1,20)=11.11〕、HL後10%でTP、PLの有意な筋活動増大がみられた〔TP:F(1,20)=5.75、PL:F(1,20)=5.99〕。膝関節前方加速度に関しては、HL後10%で早期群に比較して遅延群において有意な増大がみられたが〔F(1,20)=7.51〕、骨盤の前方加速度においては有意差がみられなかった。また、ME法における歩きやすさの主観的評価については、早期群と遅延群において有意な差はみられなかったものの早期群において1.5mm以上のパッドを歩きやすいと感じ、遅延群においては1mm以下のパッドが歩きやすいと感じる傾向にあった〔F(1,20)=2.35〕。【考察】本研究の結果により、HL遅延群ではHL前10%においてGLの筋活動が増大し、HL後10%においてTPとPLの筋活動が増大した。これは遅延群ではHLが遅く、下腿前傾が増大するために制御作用として働くGLの筋活動が増大するものと推察する。また、HL後に生じるTPとPLの筋活動増大は、HLが遅延することにより、その後の身体前方推進力を増大する作用としてTPやPLの筋活動を増大させた事が考えられる。このことは、遅延群においてHL後の膝関節前方加速度の増大がみられたことと関連があるものと思われる。 また、ME法における歩きやすさの主観的評価に関しては有意差がみられなかったものの早期群では高めのパッドが歩きやすいと感じ、遅延群では低めのパッドを歩きやすいと感じる傾向にあった。中足骨後方部分の横アーチパッドは高く処方するとHLが遅延し、低めに処方するとHLが早期に生じるとされている。早期群ではパッドの高さを高く処方することで、HLが遅延した結果、主観的歩きやすさが増大し、遅延群ではパッドの高さを低く処方することでHLが早期に生じ、主観的歩きやすさが増大したものと推察される。【理学療法学研究としての意義】本研究ではHLを基準に健常成人を早期群と遅延群に分類し、歩行時下肢筋活動の違いを検証し、かつHLの速さに影響を及ぼすと考えられる中足骨後方部分の横アーチパッドの高さの変化によって両群の主観的歩きやすさの変化を比較検討した。健常成人は今後運動器疾患になる可能性があり、健常成人の歩行の特徴を明らかにすることは、運動器疾患の予防を行う上で非常に重要であると考える。
著者
安成 哲三
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会・京都大学ブータン友好プログラム・人間文化研究機構 総合地球環境学研究所「高所プロジェクト」
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
no.14, pp.19-38, 2013-03-20

本稿では第三紀末から第四紀にかけてのヒマラヤ・チベット山塊の上昇と, それに伴う気候・生態系変化が人類の起源と進化にどう影響を与えてきたかを, 最近30年の地球科学, 人類学の研究をレビューしつつ, 考察を試みた. チベット・ヒマラヤ山塊の上昇は, 第三紀末からアジアモンスーン気候と西南アジアから北アフリカにかけての乾燥気候を強化していった. 特に5-10Ma(Ma: 百万年前)頃の, 東アフリカの大地溝帯の形成による赤道東アフリカの気候の乾燥化と草原生態系の拡大は, 原人類の起源に重要な意味を持っていることが明らかとなった. チベット・ヒマラヤ山塊の上昇に伴うモンスーン降水の増加は山塊の風化・侵食過程を通して大気中のCO[2] 濃度減少を引き起こし, 地球気候を第三紀から第四紀の寒冷な氷河時代へと導入していった. CO[2] 濃度の低い大気環境によるC[4]植物の草原の拡大は有蹄類の動物の多様な進化を促し, このことは原人類の進化にも大きく影響したと考えられる. 第四紀は氷床の拡大縮小を伴う4万年から10万年周期の激しい気候変動の時代となったが, チベット高原における雪氷の拡大縮小は, 気候変動を増幅する役割を持っていた可能性が高い. 氷期サイクルに伴い東アフリカの湿潤・乾燥気候の分布が大きく変動したことは, 原人類の更なる進化とユーラシアへの移動を促す重要な契機となった. 第四紀の寒冷な気候とアジアモンスーンの弱化に伴う中央アジア・西南アジア地域の広大な草原・ステップの形成は, 多様な草食性動物の棲息の場となったが, この地域に移動した新人類の進化にとって, これらの草食性動物との共存関係は重要な意味を持つと考えられる. 最終氷期が終わった10Ka(Ka:千年前)1万年前以降, 温暖で比較的安定な完新世の気候の下で, チベット・ヒマラヤ山塊の東と西で, 人類はイネと麦類を中心とする農耕を始めて新たな文明の時代に入ったが, 同時に地球環境を人類自らが大きく変化させるという新たな問題を生み出す時代の始まりにもなっている.
著者
安成 哲三
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会・京都大学ブータン友好プログラム・人間文化研究機構 総合地球環境学研究所「高所プロジェクト」
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.19-38, 2013-03-20

本稿では第三紀末から第四紀にかけてのヒマラヤ・チベット山塊の上昇と, それに伴う気候・生態系変化が人類の起源と進化にどう影響を与えてきたかを, 最近30年の地球科学, 人類学の研究をレビューしつつ, 考察を試みた. チベット・ヒマラヤ山塊の上昇は, 第三紀末からアジアモンスーン気候と西南アジアから北アフリカにかけての乾燥気候を強化していった. 特に5-10Ma(Ma: 百万年前)頃の, 東アフリカの大地溝帯の形成による赤道東アフリカの気候の乾燥化と草原生態系の拡大は, 原人類の起源に重要な意味を持っていることが明らかとなった. チベット・ヒマラヤ山塊の上昇に伴うモンスーン降水の増加は山塊の風化・侵食過程を通して大気中のCO[2] 濃度減少を引き起こし, 地球気候を第三紀から第四紀の寒冷な氷河時代へと導入していった. CO[2] 濃度の低い大気環境によるC[4]植物の草原の拡大は有蹄類の動物の多様な進化を促し, このことは原人類の進化にも大きく影響したと考えられる. 第四紀は氷床の拡大縮小を伴う4万年から10万年周期の激しい気候変動の時代となったが, チベット高原における雪氷の拡大縮小は, 気候変動を増幅する役割を持っていた可能性が高い. 氷期サイクルに伴い東アフリカの湿潤・乾燥気候の分布が大きく変動したことは, 原人類の更なる進化とユーラシアへの移動を促す重要な契機となった. 第四紀の寒冷な気候とアジアモンスーンの弱化に伴う中央アジア・西南アジア地域の広大な草原・ステップの形成は, 多様な草食性動物の棲息の場となったが, この地域に移動した新人類の進化にとって, これらの草食性動物との共存関係は重要な意味を持つと考えられる. 最終氷期が終わった10Ka(Ka:千年前)1万年前以降, 温暖で比較的安定な完新世の気候の下で, チベット・ヒマラヤ山塊の東と西で, 人類はイネと麦類を中心とする農耕を始めて新たな文明の時代に入ったが, 同時に地球環境を人類自らが大きく変化させるという新たな問題を生み出す時代の始まりにもなっている.
著者
中山 裕則 田中 總太郎
出版者
The Remote Sensing Society of Japan
雑誌
日本リモートセンシング学会誌 (ISSN:02897911)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.37-49, 1990-03-30 (Released:2009-05-29)
参考文献数
11

Lake Chad is located in the Sahelian zone along southern boundary of Sahara desert. Expansion and reduction of water area were repeated several times since the prehistoric period. The authors found that the recent Lake Chad water area observed from satellite data is far smaller than that drawn on several maps. The authors investigate a change of Lake Chad water and vegetation area in recent ten and several years using LANDSAT and NOAA data. The mosaicked LANDSAT/MSS image of 1973 and seven NOAA/AVHRR data during the period 1982-1988 are obtained to analyze the distribution change of vegetation.Water and vegetation area analyzed from the VI (Vegetation Index) and NVI (Normalized Vegetation Index) obtained from each satellite data shows the decreasing tendency year by year. The close relationship between this change and the recent climatic data, such as annual precipitation, relative humidity and atmospheric temperature was recognized. This result may contribute to a monitoring of the present desertification in Africa.Concluding remarks;1) The closed relationship was seen between the change of the area covered with water and/or vegetation and the annual precipitation change.2) The area decrease corresponds to the decrease of relative humidity in the area and also the increase of the atmospheric temperature.3) The decrement of the area reaches 40% during 10 years from 1973 to 1982. The area of water and vegetation in 1988 became 30% or less of that in 1973.4) The recent Lake Chad is in a minimum size during the past 200 years.
著者
孫 容成
出版者
大手前大学
巻号頁・発行日
2013-03-19

2012年度
著者
萩原 博嗣
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.126-128, 2014-03-25 (Released:2014-07-01)
参考文献数
5

注射による大腿四頭筋拘縮症は乳幼時期に頻回に受けた筋肉内注射が原因であり,本邦で1973年以来大量発生が報告された.近年の新たな発症は無いと思われるが,診断されないままに経過していた1例を治療する機会があったので報告する.症例:44才 女性.主訴:歩容異状,走行困難 乳児期に近医でγ―グロブリン筋注を両大腿部に10回以上受けた.幼時期から歩容異常があったが原因不明と言われ,走ることを避けていた.最近インターネットで調べて自己診断し,当科を受診した.所見:正座は可能.腹臥位で大腿直筋の短縮を評価する指標である「尻上がり角度」は右50°,左40°で,歩容異状が見られた.歩容改善の希望が強く手術を行なった.手術は左右別に2回行なった.大腿前面を6cm切開し大腿筋膜と腸脛靱帯を横切,大腿直筋を2段にずらして完全切離した.術後は3日間股関節伸展,膝屈曲位で仰臥した後に筋ストレッチと筋力訓練を行ない,症状は消失した.
著者
多賀谷 麻美 杉本 俊多
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.72, no.620, pp.221-228, 2007-10-30 (Released:2017-02-25)
被引用文献数
1 2

Shintenchi district as an amusement quarter has begun in the middle of Meiji Era as "Kanshouba", a commercial promoting zone, and developed in Taishou Era into the representative urban amusement quarter in Hiroshima. The district was located behind the main traffic street of the castle town Hiroshima in Edo Era and mainly composed with the lots for Samurai residences. The joint-stock corporation Shintenchi co. has collected a lot of complicated lots and designed a modern amusement quarter with three big theaters and many shops integrated through subtle lane-network. This paper has reconstructed three stages of allotment of this district, and discussed how the allotment formed since Edo Era were transformed and utilized into the modern space for the urban amusement, which was inherited as one of the central commercial and amusement district in Hiroshima after WWII.
著者
高橋 響子 赤木 正人
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2019-MUS-123, no.24, pp.1-4, 2019-06-15

歌声には,喉頭および口腔内で生じる乱流雑音が多い.そのため,音声生成過程の数理モデルによる歌声の声道共鳴特性および声帯音源特性の推定は困難であった.本研究では,歌声生成過程の解明に向け,乱流雑音を含む歌声の声帯音源波形と声道共鳴特性の同時推定法を提案する.推定される声道共鳴特性の安定性を保つために,声道共鳴特性は声帯音源特性に比較してゆっくりと変化するという仮定のもと声道共鳴特性を推定した.歌声のシミュレーション波形をデータとして用いた分析実験により,乱流雑音が声帯音源に含まれる歌声において,声帯音源波形と声道共鳴特性が同時推定可能であることが確認された.
著者
杉本 欣久
出版者
[出版者不明]
巻号頁・発行日
2009

制度:新 ; 報告番号:乙2202号 ; 学位の種類:博士(文学) ; 授与年月日:2009/3/2 ; 早大学位記番号:新4964
著者
渋谷 和子 岩間 厚志
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

最近の研究により関節リウマチにおいて、Th1細胞とTh2細胞の不均衡が病態に密接に関与していることが明らかになってきた。Th1細胞とTh2細胞はともに同一のCD4陽性ナイーブT細胞から分化するため、Th1/Th2分化メカニズムの解明とその人為的制御法の検討は、関節リウマチの新しい治療法開発への基礎となる。CD4陽性ナイーブT細胞からTh1もしくはTh2細胞への分化の開始には、CD4陽性ナイーブT細胞が抗原提示細胞から抗原刺激を受けることが必須である。私達は、この時ナイーブT細胞と抗原提示細胞が接着することに着目し、ナイーブT細胞上に発現する接着分子からのシグナルとTh1/Th2分化との関係について検討した。その結果、私達はナイーブT細胞上に発現する接着分子LFA-1からの刺激によってTh1細胞が分化誘導されることを見いだした。これは、IL-12非依存性の新しいTh1分化誘導経路であった。以前に、私達はCD226分子がT細胞上のLFA-1と複合体を形成すること、LFA-1からの刺激でCD226の細胞内チロシンがリン酸化することを報告した。そこで、今回私達は野生型および細胞内チロシンをフェニルアラニンに置換した変異型CD226をレンチウイルスベクターにてナイーブT細胞に遺伝子導入し、LFA-1によるTh1分化誘導を検討した。その結果、変異型CD226を導入したナイーブT細胞では、LFA-1シグナルによるTh1分化誘導が著しく抑制された。このことより、LFA-1によるIL-12非依存性の新しいTh1分化誘導シグナル経路にCD226が重要な役割を担っていることが明らかになった。これらの結果をふまえて今後は、LFA-1/CD226複合体シグナルと生体内Th1/Th2バランス、関節リウマチ病態の関係を、疾患モデルマウスを用いて個体レベルで検討していく方針である。
著者
沼子 千弥 山口 力也 箕村 知子 小藤 吉郎
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.107, 2003 (Released:2004-07-26)

軟体動物の貝殻には、構成する炭酸カルシウム結晶の形態により、稜柱構造(prismatic structure)、交差板構造(crossed lamellar structure)、葉状構造(foliated structure)、真珠構造(nacreous structure)などのように分類される殻体構造(shell structure)が存在する。また、炭酸カルシウムにはカルサイト、アラゴナイトのように様々な多形が存在するが、その存在比は非生物系と生物系で大きく異なっていることが、いわゆる生体鉱物におけるカルサイトーアラゴナイト問題として知られている。生物が鉱物種、結晶形態、殻体の中での分布の全てを制御しながら生体鉱物として炭酸カルシウム結晶を形成してゆくメカニズムには新規材料開発を考える上で模倣すべき点を多く含まれると考えられ興味深い。そこで本研究ではそのメカニズム解明の第一歩として、現生の軟体動物数種について実際にそれらの生物が持っている殻体構造の軟体動物の種類による存在量や分布違い、そして殻を構成する炭酸カルシウム鉱物の種類とその量比について記載を行った。 軟体動物はクロアワビ、マガキなど日本近海で採集可能なものを海水棲・淡水棲、二枚貝類・腹足類・多板綱などを網羅するようにおよそ10種類選択し、軟体部と貝殻を分離した。貝殻は風乾・粉砕後、光学顕微鏡下で殻体構造の異なるものを分類し、それぞれ走査型電子顕微鏡で観察を行った。さらに粉末X線回折計を用いて貝殻を構成する鉱物種の同定と量比の算出を試みた。またいくつかの試料について、単色ラウエ法やプリセッション写真法により、結晶の方位や状態についてさらに詳細な検討を加えた。 実験の結果、軟体動物の種類が異なると、同じ殻体構造を持っていても構成する鉱物種の種類と量に差があり、殻体構造の結晶の形状の決定要因は構成鉱物種の結晶の自形のみではないことが明らかとなった。また同一殻体構造に複数の鉱物種が存在する場合でも、異方性や結晶粒の大きさなどにも鉱物種ごとに差違が生じていることが分かった。今後より多くの種類の生物について硬組織の構造と構成鉱物種の関連を調べてゆく必要があると考えられた。