著者
Li Junyang 張 錦
出版者
広島大学大学院文学研究科
雑誌
The Hiroshima University studies, Graduate School of Letters (ISSN:13477013)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.123-141, 2018-12-25

江村北海編『日本詩選』(正編十巻)は、百五十七部既刊と未刊との詩集や日記などから元和元年(1615)―安永2年(1773)間の511名の詩人、1415首の詩作を収めており、江戸時代での開創的な意義を備える詩選集といってもいい。江村北海著『日本詩史』(明和8年―1771刊)の詩論精神と詩学理念は、『日本詩選』中に貫かれている。すなわち、(1)詩人の個性を尊重、包容と中庸との詩選方針。(2)「字法句法自然ト規矩ニ叶フ」つまり「詞工」(詩法が優れた詩作)という詩選方針。(3)詩義「温籍」(蘊籍)という詩選方針である。『日本詩選』は江戸時期前半期約150年間「文教、武徳と並んで隆んに、終に人文の渊薮と成る」平和時代の詩歌精華、江戸時代の詩歌発展と詩歌の思想精神及び社会文化効用の重要なテキストでもあり、詩歌から江戸時代の元和から安永までの約150年間社会状況を読み取る心気的絵巻でもあり、独特な社会文化の史料価値を持っているのである。本文為:2016年度教育部人文社會科學重點研究基地重大項目《日本漢詩彙編與研究》(批准號:16JJD750021)階段性成果之一
著者
武 倩 劉 冠偉
出版者
北海道大学文学研究科
雑誌
北海道大学大学院文学研究科研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
no.18, pp.49-61, 2018

『本草和名』(918年頃)は日本現存最古の本草薬名辞典である。唐の勅撰本草『新修本草』を範にとり,『食経』等によって増補され,千種以上の薬用動植鉱物を収録している。漢名を見出し語に,下に別名,万葉仮名和訓,産地を注記する体裁をとっている。漢名に和名を対照させたことが本書の大きな特徴で,国語国文学や博物学など幅広い分野の研究に貢献できる。本稿は,『本草和名』データベースに基づき,本書に記載されている薬用動植鉱物の漢名と和名について,考察を行った。考察に当たって,「松本書屋本」を底本に用いたが,「万延元年影写本」との間にある異文も合わせて提示した。『本草和名』は本草書にある薬の性味・効能・採取時節などに関する記述を省略するものの,薬の名称をなるべく多く蒐集しようとする特色がある。この点について、先行研究では断片的に指摘されているものの,詳しい検討はこれまでになされていなかった。そこで本研究では,本書所載の漢名を見出し項目の漢名と項目内の漢名に分けて検討を行った。まず,見出し項目を『新修本草』の編次に対照し,項目数を再計算した。そこから項目内の漢名を,データベースの活用によって,形式上分類・計量することが出来た。更に漢名列記の形式として「一名~」と「無標記」が最も多く,その他の形式には「並列式」「定義式」「部位別式」「地域別式」の四種類があると指摘した。これらの成果は,本書における漢名列記の形式を分析した初めての研究として注目に値する。本書に記載されている和名は,平安時代の語彙と音韻を反映する重要な語学資料である。関連する文献との比較調査によって,これからの国語学の研究に貢献することが期待される。本研究では,手始めとして,本書の和名に対しては,その注記率や万葉仮名使用状況を統計した。今後は,本データベースの改良に励むと共に,他文献データベースとの連携を図り,調査を進展させたい。
著者
洲澤 育範 Suzawa Ikunori
出版者
神奈川大学 国際常民文化研究機構
雑誌
神奈川大学 国際常民文化研究機構 年報 (ISSN:21853339)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.173-200, 2011-08-31

カヤックとカヌーという言葉が日本に広く定着しはじめたのは、今から約20数年まえのことだ。戦後復興から働きに働いた高度経済成長期が終わり、人々はゆとりを求め、余暇の過ごし方としてアメリカ製の野外生活術・アウトドアーライフを受入れた。それを追うようにバブル景気の波にのり、欧米から、水域でのレクリエーションや旅、スポーツや冒険の道具として、カヤックとカヌーが日本へ渡ってきた。以後こんにちまで、日本で流通販売しているカヤックとは、極北の先住民・イヌイットたちの獣皮舟を、カヌーとは北米の先住民・インディアンたちの樹皮舟を素材・形状ともに、取り扱いを安易に、経験のない人にも乗りやすくした舟のことをいう。昨今では健康増進、スポーツ用として繊維強化プラッスチックで作られたアウトリガーカヌーも輸入されている。さて、それでは今日以前の日本と伝統的なカヤック・獣皮舟、バーク・カヌー・樹皮舟の関係はどうだったのか?日本の博物館などに現存するそれらの構造・工法を、その作り手・漕ぎ手の視点、また極北の原野をハンターとカヤックで旅し、あるいはバーク・カヌーの生まれ育ったカナダの深い森で、アルゴンキンインディアンやオジブエインディアンとすごし「体に刻みこんだ記憶を職人の言葉に置き換えて」論じてみよう。 あわせて環北太平洋の自然環境が、どのように海洋・水圏文化のつながりを生み出し維持したか、あるいは北半球の交易でどのような役割を演じたかについても考察をくわえるとする。 さらに自班は「環太平洋海域における伝統的造船技術の比較研究・代表者・後藤明」である。カヌー文化は機械文明との接触以降、1900年代の初頭より急速にこの地球上から姿を消しはじめた。しかし、1976年のハワイの古代航海カヌー・ホクレア号が行ったハワイ~タヒチ航海を機に、近年とみに、カヌールネッサンス・海人の忘れさられようとしている海洋文化の復興が盛んになりつつある。あるいは途絶えて久しい北方交易以来、カヤック、バーク・カヌーがその素性を変え、環北太平洋をぐるりとまわり、再び日本との係わりを深めようとしている。そのような状況のなか、われわれの役目はどこにあるのか、海洋教育の手段としてのカヤックやカヌー、そして漕ぎ続ける常民、作り続ける常民の礎のひとつを提案することが本稿の主旨である。なお、本稿はウェヴサイトに掲載されることを前提に、本文中には参考映像などのURLを併記する。論文
著者
宮﨑 友里
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
2019

<p>本稿は,地方自治体の行動原理について,社会心理学の理論を適用することの有用性を探るものである。これまで,政治社会学や政治心理学において,国家から個人に至るまで政治主体の心理性は繰り返し確認されてきた。しかしながら,政治主体を地方自治体に限定した場合,心理性の検討は極めて限定的であったと言えるだろう。地方自治体は各種の政策形成に取り組んでいるが,その中でも経済的利潤の増大を目的としているとは捉えがたい観光政策が散見される現状は注目に値する。そこで本稿では,地方自治体を自律した行為主体と措定し,その政策形成過程に対して,集団一般の行動原理について心理的側面から説明してきた社会的アイデンティティ理論の観点を導入して解釈する。注目する点は,地方自治体としての集団概念と,観光資源活用の関連である。本稿では,水俣市を事例として,水俣病を用いた来訪者誘致に至る過程について,水俣市の集団概念に注目しながら追跡する。事例分析の結果は,水俣市において水俣病経験が先進的経験として肯定的に意味づけられた時,水俣病を用いた来訪者誘致への取り組みが進展した,というものである。</p>
著者
竹内 竜也 幾留 沙智 森 司朗 石倉 忠夫 中本 浩揮
出版者
日本スポーツ心理学会
雑誌
スポーツ心理学研究 (ISSN:03887014)
巻号頁・発行日
2019

The purpose of the present study was to clarify the influence of individual differences in the automatic imitation tendency on efficiency in observational motor learning. First, twenty participants each having higher or lower automatic imitation tendency were chosen from 210 according to their reaction times in the imitation-inhibition task indicating automatic imitation tendency. Each group performed the observational motor learning that alternately repeated action observation and execution. The participants in each group were further divided into two groups: appropriate model group that observed a model performing the task correctly and inappropriate model group that observed a model performing the task incorrectly. Results revealed that when participants observed the appropriate model, people with higher imitation tendency demonstrated better task performance in the acquisition phase and retention test than did those with a lower imitation tendency. On the other hand, when the participants observed the inappropriate model, the higher imitation tendency group exhibited lower performance in the acquisition phase and the retention test than did the lower imitation tendency group. Additionally, the higher tendency group was more influenced by difference between the appropriate and inappropriate model than was the lower tendency group in learning efficiency. These findings indicate that individual differences in the automatic imitation tendency affect the learning efficiency and retention in observational motor learning. Further, automatic imitation is likely to have a strong influence on observational motor learning regardless of the learnersʼ intention.
著者
平間 一樹 大塚 祐輔 横田 賀英子 和智 妙子 渡邉 和美
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.1-14, 2019

<p>本研究の目的は(1)潜在クラス分析を用いて,犯行前の意思決定行動に基づいて連続強姦事件の犯人を分類すること,(2)類似した犯行様式を表出する犯人は類似した犯人特徴を有するという相同仮説を検証すること,であった。「被害者就寝時侵入接近型」,「屋外襲撃型」,「非暴力的接近型」,「被害者非就寝時侵入接近型」の4つの類型が見出された。類型と強姦事件の犯人の特徴との間に有意な関連が認められた。「被害者就寝時侵入接近型」に分類された強姦事件の犯人は,犯行前の犯行場所の下見や,金品窃取の意図といったような,侵入盗犯に類似した特徴がみられた。「屋外襲撃型」に分類された強姦事件の犯人は,他の類型と比較して,若年であることや,居住地直近では犯行を行わない傾向が認められた。「非暴力的接近型」に分類された強姦事件の犯人は,機会的な対象選択の傾向を有し,他の類型と比較して,より遠くまで移動している傾向にあった。「被害者非就寝時侵入接近型」に分類された強姦事件の犯人は,「被害者就寝時侵入接近型」よりも金品窃取の意図を有する傾向は少なかった。本研究の結果は相同仮説を支持するが,強姦事件の犯人の犯行前の意思決定行動と,犯人の特徴との関連の強さは,小から中程度であった。</p>