著者
貴志 匡博
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.45, 2011

1.はじめに<BR> 本研究は,近年の都市に近い農村における若年既婚者のUターンに注目し,その属性と傾向を明らかにするものである。これまでのUターンに関する研究は,農村地域を対象としたものがほとんどなく,対象地域の人口が数十万人規模の研究が多い。 これまでのUターン研究では,20歳代でのUターンが多いとされ,就職と学歴に注目した研究が展開されてきた。例えば,山口ほか(2010)などの研究がある。しかしながら,30歳代といった若年のUターンは結婚後に家族を伴ってなされること事が多く,子どもの存在が集落に活気をもたらすなど,無視できない点も多い。<BR><BR>2.対象地域と調査手法<BR>県庁所在都市より高速道路を経由して2時間の地にある農村地域として,兵庫県多可町加美区を対象とした。多可町は,2005年に加美町,中町,八千代町の3町が合併した。町役場を中町におき,旧町はそれぞれ地域自治区となった。そのうちの加美区の人口は,7204人(国勢調査2005年)である。本研究はこれまでの研究のように高校同窓会名簿によるアンケートではなく,加美区に居住する全世帯に対するアンケート調査に基づいている。この調査は神戸大学経済学研究科と多可町とのまちづくりむらづくり協定,加美区各集落の役員方の協力によってなされた。配布と回収は2009年8月のお盆休みに集落の区長を通じて配布し,町役場へ郵送回収する方法をとった。世帯主から世帯主本人と配偶者,その子に関する移動歴を尋ねる形の調査票を用いた。これにより,農村地域を対象とした全世代的な調査を行った。なお,本研究においてUターンの定義を,加美区出身者が加美区外に転出し再び加美区に戻ることと定義する。調査票は1912票を配布し,うち510票(回収率26.7%)を回収した。うち世帯主で加美区出身者は424人である。<BR><BR>3.結婚後Uターンの特徴と実像<BR>紙幅の関係上ここでは世帯主だけの分析結果をしめす。加美区出身で在住の世帯主419人のうちUターン者数は179人であった。加美区出身者の約4割は他出経験があり,6割近くは他出経験が無いことになる。そのうち移動経歴が正確に把握できた149人において,結婚後のUターン者が67人で半数近くを占めている。未婚者のUターン(以下,未婚Uターン)と既婚者のUターン(以下,結婚後Uターン)では,Uターンのなされるピークが異なっていることがわかる。未婚Uターンのピークは20歳代前半で,結婚後Uターンのピークは30歳代前半である。本研究では以上の点を踏まえ,20・30歳代の結婚後Uターンに注目する。20・30歳代結婚後Uターンを高校と大学の学歴別にみると,学歴によってUターンのなされる時期が異なっていることがわかる。20歳代前半のUターンでは大学卒業者の未婚Uターンが4割を占める。これに対し,30歳代前半では,高校卒業者の結婚後Uターンが約5割,大学卒業者の結婚後Uターンが約3割を占めている。Uターンを誘発させるには,年齢以外にも学歴などの属性に注意を払う必要があると思われる。<BR>次に,就業についてみる。20・30歳代の結婚後Uターン者の4分の1は,教員,公的企業職員を含む公務員系であった。Uターン前後での職業の変化をみると,家業継承とみられる変化が目立つ。正規会社員から家業継承とみられる自営業や会社役員へ約2割が変化している。そのため,Uターンに際し転職を経験している人が多くなっている。本調査を分析した山岡ほか(2011)でもUターンの理由として,イエの継承に関する回答が多かったことがわかっており,職業の変化にも家業継承を確認できる。また,少数ながら20歳代後半と30歳代後半のUターン者で教員,医療,美容師といった専門職もみられ,専門的な技能を身に付け出身地にUターンした事例も見られる。Uターン前の居住地も就業地に対応して兵庫県や大阪府に集中している。兵庫県内居住者を詳細にみると,約3割が多可町周辺市町であった。結婚直後は周辺市町に居住し,その後加美区へ戻るケースと考えられる。これは一般的なUターンのイメージとかけ離れるが,実際のUターンにはこのような移動パターンが存在する。<BR>加美区内において,30歳代結婚後Uターン者の地理的分布を見る。加美区北部の旧杉原谷村で,30歳代結婚後Uターン者が高い割合の集落が集中している。加美区北部の旧杉原谷村は,同じ加美区でも交通アクセスの不便な地域として住民から認知されている。このような地域では本来Uターン者の割合が低くなることが予想される(貴志;2009)。このような結果の背景として,既に行った加美区内の全集落調査から,集落内での行事との関係が考えられる。世代を超えた交流をもたらす祭りなどの行事は集落への愛着を高め,将来のUターンを盛んにしている可能性が高い。
著者
吉水 裕也 齋藤 清嗣
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.270, 2011

地理的技能や地理的な見方・考え方を授業で扱うことの重要性が指摘されている。その一方で,地理に関わる専門的な訓練を十分に受けていない教員が地理を担当することが増えている。また,長年地理を担当してきたベテラン教員の多くが定年に近づき,世代交代が進行しつつある。このような状況から,地理教育に関わる教員研修の需要は年々増大している。 しかし,学校現場では,以下の状況等により研修等に割く時間が捻出されにくい現状となっている。(a) 教員は多忙化しているうえ,部活動等の業務があるため,かつてのように休日に自らのスキルアップのための時間を捻出しづらい。(b) 中高では,授業を自習にして勤務時間に学校を離れることは,公的な出張でもかなり困難(原則として担任が全ての授業を行う小学校ではさらに困難)。(c) 長期休業中の平日は,勤務日であるという位置付けが厳しくなり,授業が無くとも出勤するか,休暇届が求められるようになっている。(d) 所属長(校長等)や設置者(教育委員会等)から出張命令が下されるのは,基本的には勤務時間内であるため,休日の研究会などは公的なものでも出張扱いとはならず,私的な参加にされることがある。(e) 夏季休業期間は短縮される傾向にあり,7月末や8月末は学校を離れにくくなっている。特に高校の場合,部活動や補習授業等で多くの教員にとって融通がきく期間は,8月上旬からお盆休みまでである。(f) 教員側の立場からすると,多忙であるが地理的な分野に関わる研修を行いたいという需要は一定あるものと思われる。特に地歴科の免許を持った若手教員は史学専攻であっても,地理の授業を担当することがあり,駆け込み寺的な研修を求める声が聞かれる。 以上のような現状を踏まえ,小中高の教員が参加しやすい形態として,次のような条件を備えた研修会を計画すれば,一定の参加者が得られ,且つ,一定の満足度が得られるのではないかという仮説を設定し,実施することにした。(1) 実施時期は教員が参加しやすい8月上旬または下旬頃の平日に実施する。(2) 教員が出張または研修扱いで参加しやすいよう,近畿の各府県教育委員会から後援をとりつける。(3) 夏休みの動静が定まる前(6月頃)に告知を行う。(4) 現場ですぐに役立つような,地域の見方を学べるような巡検を行う。(5) 非学会員でも参加できるようにする。(6) 様々な手段を工夫して,広く広報する。 これらの条件を満たす形で,これまでに以下の研修会を実施した。第1回 地域事例の教材化(2005.8.22)京田辺市 35名第2回 地域素材の発見と活用(2006.8.18)西宮市 51名第3回 地域学習の実践と課題(2007.8.10)岸和田市 76名第4回 地理教育における基礎基本(2008.8.1)池田市 54名第5回 地理教育の刷新を考える(2009.8.21)岡山市 48名第6回 地域の歴史的環境を活かした地理教育(2010.8.10)奈良市 55名 第1回の参加者は35名であったが,その後毎年50名程度の参加がある。 第1回の参加者アンケート等による評価を見ると,炎天下での巡検はハードではあるもののおおむね好評であったこと,特に校種の異なる者同士で地理教育についての情報交換を行ったワークショップができたことに意義を感じる声が大きかった。この回の取り組みをもとに,以後の研修会では小学校の先生方とつながる組織へのPRを強化したり,炎天下での巡検のコース面での配慮などについての改善を行い,現在に至っている。 現在は,巡検,講演や実践報告,ワークショップという3つの要素を組み込んだ形に落ち着きつつある。 今後の課題は以下の点に集約される。ア 実施時期が8月のため,巡検の熱中症対策が必要であること。イ ワークショップでの情報交換が好評で,さらなる時間確保を望む声があるが,これにどう対処するのかということ。ウ 参加者数と実施内容から適正規模をどの程度に設定するのかということ。エ 教員免許更新研修や各教育委員会実施の必修研修への読み替えについて検討していくこと。
著者
杉本 興運 小池 拓矢
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

空間現象を扱う地理学では、観光者の行動に関する理論的・実証的研究として、とりわけ移動や流動といった観光者の空間行動の諸側面を関心の中心でとしており、これまで観光者の行動パターンの探索や類型および規定要因の解明などを通して、理論構築や実証分析が積み重ねられてきた。特に観光者(発地)と観光対象(目的地)双方の空間関係に着目し、「距離」による影響を明示的に分析基軸やモデルに取り入れることが多い。その場合、マクロ視点では「居住地と目的地との距離(以後、旅行距離と呼ぶ)」が主な着眼点となり、これまで旅行距離によって観光者の性格や旅行形態が変化するという同心円性の存在が仮定・実証されている他、観光行動の周遊パターンの様々なモデルが開発されている。本研究は、2013年6月の世界遺産登録を受け、今や国際的な観光地としての認知度が高まった富士山麓地域を事例に、着地ベースで観光者の旅行距離と観光行動との関係を検討する。より具体的には、富士山麓地域での観光の核である富士北麓を中心とした観光者の旅行形態や空間行動の特徴を、旅行距離の違いから明らかにする。また、世界遺産登録という大きな社会的インパクトが、観光行動に与えた影響についても検討する。<br> 本研究では、富士山麓地域の観光において圧倒的多数の国内個人旅行者の行動データを取得するために、現地での質問紙調査を行った。この質問紙には観光者の旅行形態および活動(訪問順序など)についての項目が含まれる。さらに、昨今重要な話題である世界遺産登録に関する項目も追加した。調査場所は道の駅富士吉田で、調査日は2014年8月12、13、14日のお盆休み(観光者が年間を通して最も多く来訪する8月の休日)の期間である。調査の結果、194グループ分の有効回答を得られた(ただし活動データに関しては93グループ分)。今回は大きく旅行形態と空間行動の2種類に関する分析を行った。旅行形態に関しては、各項目を旅行距離帯別にクロス集計し、旅行距離によって項目内の各カテゴリー出現頻度がどのくらい異なるのかを分析した。本研究では旅行距離を居住地から河口湖までの距離として算出している。さらに、各カテゴリー間の関係を、距離を含めて数量化するために、多重対応分析によるパターン分類を行った。空間行動に関しては、各距離帯におけるトリップの空間分布、トリップ数に関する基本統計量の算出、観光対象分布の標準偏差楕円の算出、代表的な周遊ルート事例の抽出の、計4種類の分析を行い、その結果を総合した。世界遺産登録の観光行動への影響に関しては、調査データから得られた構成遺産を巡る周遊ルートの事例や既存の調査報告書の結果を組み合わせ、検証した。<br> 富士山麓地域での開発と観光の歴史をふまえ、本研究の結果について、以下に簡潔に述べる。富士山麓地域での観光は、江戸時代の富士登拝から始まり、その後の交通整備や観光開発の進展によって大衆化した。現在では、富士五湖を中心とした回遊・滞在型観光や観光施設でのレジャー活動など、主に首都圏の大都市居住者の多様なニーズに応える観光地域として機能している。現在の顧客層の中心であるマイカーを利用した国内個人旅行者は、自然景観の体験を富士山麓観光における共通の目的としながらも、旅行距離によって属性や旅行形態および空間行動が特徴づけられている。例えば、近隣居住者では日常的余暇活動を目的とした日帰り旅行が多く、遠方から来訪した観光者には定番の観光スポットを巡る宿泊型の旅行が卓越する。さらに、最近では世界遺産登録という社会的インパクトによって、より遠方の地域、つまり国外に住む外国人からの観光需要が一層高まると共に、構成遺産を中心とした観光圏の整備や周遊ルートの開発などが行われ、富士山麓地域における観光者の属性や行動がさらなる変化を遂げる兆しをみせている。

1 0 0 0 OA 笠の舎 31巻

著者
荒木田麗女
出版者
巻号頁・発行日
vol.[11],

1 0 0 0 OA 見立三国志

著者
豊国
出版者
ト山口
雑誌
相撲錦絵
巻号頁・発行日
1858
著者
上野 加代子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.70-86, 2018-06-30

<p>福祉の領域における社会構築主義の研究は多様であるが, この領域に特有の姿勢を見て取ることができる. それは, 自分たちがクライエントを抑圧してきたという「自身の加害性の認識」と, 「研究結果の実践への反映」である. 本稿では, 福祉の領域に特有のこれらの姿勢に着目し, それに関連する文献を中心にレビューする. 具体的に, ひとつはソーシャルワーカーとクライエントを拘束しているドミナント・ストーリーをクライエントと共同で脱構築しようとするナラティヴ・アプローチの研究の流れである. 本稿で取り上げるもうひとつの構築主義的研究の流れは, ソーシャルワークが専門職として確立, 再確立される過程で, 「トラブルをもつ個人」がどのように創りあげられてきたのかを, 外在的に分析するものである. なお, 「自身の加害性の認識」という点は, 英語圏の文献には顕著であるが, 日本語の文献では弱い. そこで, 英語圏の文献をレビューした後, 日本における構築主義研究ではどうして「自身の加害性の認識」という観点が乏しいのかについて考察する. そして最後には, 近年の英語圏の文献では自身の加害性のみならず, 「被害者性」についても議論されていることを踏まえ, 自分自身の知識や実践に対する構築主義研究が, 「自分は加害者たることを強制された被害者だ」という自己弁護に陥る危険をはらみつつも, 社会制度変革へのコミットにつながることに触れておきたい.</p>
著者
健翁 纂
巻号頁・発行日
vol.[2], 1000
著者
仏書刊行会 編
出版者
仏書刊行会
巻号頁・発行日
vol.149, 1922