著者
伊藤 泰広 今井 和憲 鈴木 淳一郎 西田 卓 加藤 隆士 安田 武司
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.275-278, 2011 (Released:2011-04-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

症例は29歳の男性である.左眼周囲の間欠的な頭痛で発症し,当初は自律神経症状がなく三叉神経痛と診断したが,6日後に流涙,結膜充血といった自律神経症状が出現し,結膜充血と流涙をともなう短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)と診断した.ガバペンチンを開始し,800mg/日に増量したところ,頭痛発作と自律神経症状はすみやかに消退した.3カ月後に400mg/日に減量した時点で,僅かに頭痛発作が生じた.SUNCTでは頭痛が自律神経症状に先行して出現するばあいがあることが示唆された.SUNCTの長期経過や治療は未解決な点が多く,本邦での症例の蓄積と治療方針の確立が望まれる.
著者
石野 信一郎 白石 祐之 堤 真吾 西巻 正
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.111-117, 2015-02-01 (Released:2015-02-17)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

右房内進展を伴う肝細胞癌の切除は人工心肺下での開心術を要し,肝切除のみに比べ侵襲が高い.我々は右房内へ進展した肝細胞癌に対し肝切除先行total hepatic vascular exclusion(全肝血行遮断;以下,THVEと略記)を達成,開心術をせず原発巣と右房内腫瘍栓を摘出しえた症例を経験した.本術式は心房内進展を伴う進行肝細胞癌に対し,開心術併用と比較し低侵襲術式になると思われた.症例は69歳男性で,検診で異常を指摘された.CT で肝右葉に右房内に進展する腫瘍を認め当院紹介となり,肝細胞癌の診断で手術を行った.術式は肝脱転,肝静脈根部剥離,右グリソン処理の後肝切離を行い,肝右葉が右肝静脈のみで繋がる状態とした.肝右葉の牽引により腫瘍栓が右房外に出ることをエコーで確認し,THVEの後に右肝静脈根部を切開,腫瘍栓と肝右葉を一括で摘出した.術後74日目に退院した.術後2年間,無再発生存中である.
著者
コノパ ジョー
出版者
JAPAN TECHNICAL ASSOCIATION OF THE PULP AND PAPER INDUSTRY
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.1035-1041,017, 2003
被引用文献数
3

米国では, クラスター・ルールの実施に基づき, すべての漂白クラフト・パルプ工場は排水中の, 吸収性有機ハロゲン化物に関する厳格な基準に適合する必要が生じた。ほとんどの工場では, 吸収性有機ハロゲン化物の基準を達成するために, 主にC段かCD第一段で, 100%二酸化塩素を, その代用物として適用しようとした。二酸化塩素を代替物として, 無塩素漂白 (ECF) に転換した工場では, 漂白設備の第一段の幾つかの操業パラメーターに影響が見出されるようになった。<BR>いくつかの問題点のうち, そのひとつは, ECFによる脱リグニン工程において, 塩素段に適用される二酸化塩素に100%変更できず, 部分的にしか適用できなかった。またもう一つには, 第一段でのpH上昇により, 塩素やCD漂白法と比べて, その金属の溶解性は同一のレベルに達しなかった。<BR>金属および金属イオンを管理することは, ECFによる漂白工程において, 大変重要な課題となっている。従来の漂白方法では, 影響が少なかった金属でも, 無機の汚れを発生させ, 過酸化物による漂白において, その効率を低下させることになる。操業条件の幾つかについて, それを検討し, その最適条件を見出すことにより, 漂白工程での様々な工程段階で, そのスケールに関する問題を減らすことができる。
著者
遠藤 大哉
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.25, pp.105-124, 2015-03

新東京五輪を間近に控え,日本の「スポーツ力」が世界から注目されている。トップ・アスリートの国際的な活躍だけでなく,各国からは,日本の一般市民のスポーツ・ライフの質にも深い関心が寄せられている。文科省の調査結果では,日本人成人の約50%が「週に一回はスポーツをしている」となっているが,現実に町で調査をしてみると,これをはるかに下回るのが実情であることが判明した。いわば「頭でっかち」の危惧のある日本のスポーツ力を改善し,向上していくための一つの手段として,地域に根差したスポーツNPO のさらなる普及と発展が,かねてから叫ばれていた。そこで,実際にスポーツNPO を立ち上げ,運営してみるとどうなるのか,どのような課題や,表面からは見えない問題点が見えてくるのかを,神奈川県藤沢市に「NPO バディ冒険団」を2001 年に設立し,ここまで約13 年間,「手作りの地域密着型スポーツNPO」のモデルとして調査研究してきた。本論は,この実験研究を基盤にした,スポーツNPO の運営と課題について述べるものである。第1 章ではまず,立ち上げた「NPO バディ冒険団」の当初成功と,その後の失敗について報告し,地域に根ざしたNPO 作りの難しさを検証する。また,この実体験をもとに,神奈川県のスポーツNPO 全体の実態を調査してみると,基本的には大規模,小規模2つの形態があり,そのどちらを選択して,軸のぶれない経営(運営)をすることが決め手になることが結論付けられた。第2 章では,実際の収支を含めた現在の「NPO バディ冒険団」の運営の実態と,第1 章で述べた"大規模"型のスポーツNPO との運営や目的,手法などの違いを検証し,「手作りのスポーツNPO」にとって重要なのは,ボランティアのスタッフをどの程度確保できるか否かにかかっていることなどを結論づけた。このほか,リピーターの参加者や,「主催者と参加者是認」ではなく,あくまでの一人対一人の対応,言い換えれば精神的心情的な結びつきが小規模のNPO の生命体であることを導きだした。第3 章では,地域の一般市民はどのようなスポーツ活動を現実に行っており,スポーツNPO に対してどのような役割を望んでいるかを藤沢市で実施した「スポーツ・ライフ実態調査」の集計結果をもとに参加者の立場から検証した。その結果,現実にスポーツ活動を行っている成人市民はおよそ4 人に1 人であり,政府機関の発表値より下回っていることが判明した。地域スポーツNPO 側から見ると実際の市民スポーツ活動をさらに量的・質的な両面から推進する必要があり,スポーツNPO がその推進の一助となる責務を負っていると結論付けた。第4 章では,予測できなかったリスクやトラブルについて,これも実体験からの報告と今後の指針をまとめた。神奈川県葉山の御用邸の前でオーシャンスイム(海での遠泳)大会を主催した際,生命の危険は全くなかったが,一人の男性が溺れかけ,一応救急車を要請したところ,場所柄もあって地元の警察署だけでなく,県警,皇宮警察まで出動し,大変な"事件"となった。また,どこにも報じられてはいないが,海浜での大会主催は,サーファーたちとのトラブル回避作業,地元産業(漁業)関係者との折衝(有料)などの特有の問題があることも,論文の一部として報告する。第5 章では,こうした現実の"荒波"を超えて,どのような「手作りの地域密着型のスポーツNPO」を目指すべきなのか,収支のシミュレーションを含めて検証していきたい。
著者
遠藤 廣太 中山 司
出版者
日本学術会議 「機械工学委員会・土木工学・建築学委員会合同IUTAM分科会」
雑誌
理論応用力学講演会 講演論文集 第61回理論応用力学講演会
巻号頁・発行日
pp.210, 2012 (Released:2012-03-28)

2次元通路を歩行する群集の移動パターンに関する数値シミュレーションを報告する.本研究では群集の移動を流体の流れに見立て,流れの支配方程式を粒子法の一つであるSmoothed Particle Hydrodynamics(SPH)法で解く.一つの粒子を一人の人間に見立てることで,粒子の移動をラグランジュ的に追跡しながら計算する.群衆を目的地に誘導する計算テクニックとしてポテンシャルフィールドという考え方を採用し,ポテンシャルフィールドの勾配に比例する仮想的な力を外力として個々の粒子に作用させる.また,粒子に対して視野に相当する情報を与えるために,SPH法におけるカーネル関数の形状を変える.カーネル関数の形状や流体の動粘性係数に相当する係数の大きさなどの違いによる群集の行動パターンを考察するとともに,複雑な形状の通路にポテンシャルフィールドを張る方法を考案した.
著者
菖蒲澤 侑
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:09115722)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.233-240, 2016 (Released:2017-03-31)
参考文献数
19

現在,各美術館において教育普及活動が充実し,過渡期を迎えている。美術館における教育普及活動の変遷と展望について,本論では,美術館の運営背景にある社会教育概念を整理した上で,美術館の教育普及機能の変遷をたどると共に,今後の展開を探る。法文及び成立経緯の精査により,社会教育とは,教育活動の構成員全員が教育者であると共に学習者となり,その教育活動により社会が更新されることを期待されていることが分かる。更に,美術館の教育普及機能の変遷をたどると,近代美術の普及から美術館利用の普及へと内容が変化し,また,事物としての美術から現象としての美術を扱う変化を見せている。このことから,活動の主体を徐々に利用者に移していることが分かる。以上より,今後の美術館の教育普及活動について,活動の主体を利用者に移行することにより,社会教育の成立が期待できることを示す。
著者
富永 茂樹
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.282-297,362, 1993-12-30

一七九四年夏のいわゆるテルミドールの政変において、それまで絶大な権力を保持していたロベスピエールは、きわめてたやすく政敵の術中に陥り没落していったかにみえるが、このときジャコバン派の指導者は、青年期にルソーやプルタルコスの読書をとおして知り、かつ革命がはじまってからのさまざまな言説のなかで語りつづけた古代の立法者、社会に法と規範をもたらすさいに、あるいはもたらすがゆえにほとんど必然的に集団からの迫害や暴力を蒙った立法者の姿に自らを重ねて考えていた可能性が大きい.逆にこうしたリュクルゴスにはじまりルネッサンスの時代のサヴォナローラをへてロベルピエールにいたるまでの、社会のなかで広範な支持を獲得していながら突然の没落と死を迎える人間の系譜を辿ってゆくと、社会的なものの根底には暴力がひそんでいるというルネ・ジラールの命題を検証できると同時に、ウェーバーのいう「カリスマ」型の権力が指導者自身の資質や能力よりも、むしろ秩序の実現を期待する社会の危機的な状況に由来していること、さらにデュルケームが指摘するとおり革命期には「集合的沸騰」が生じるとすれば、それは暴力的な状況をとおして聖なるものを産出し社会の生命を更新する過程にほかならないことを確認できるだろう.以上のような点においてフランス革命は、とりわけテルミドールの政変という事件は、政治の宗教社会学ないし宗教の政治社会学を構築するうえで、重要な手がかりを提供してくれることになるのである.
著者
高木 均
出版者
JAPAN TECHNICAL ASSOCIATION OF THE PULP AND PAPER INDUSTRY
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.1642-1648, 2006-11-01
被引用文献数
1 2

欧米の主要製紙国の環境法規制の動向について,水環境の面から概説した。<BR>アメリカでは水汚染防止のために連邦水質浄化法のもと,化学物質管理と生物試験,生物相調査の3手法による統合的な管理がなされている。1998年制定のクラスタールールによる規制にほとんどの紙パルプ工場は適合し,汚染物質の排出量は着実に減少している。<BR>カナダでは1992年に漁業法の下でニジマス毒性規制を含む紙パルプ排水規制が成立し,1996年以降は汚染物質の排出量が著しく低下した。同時に工場周辺の環境影響モニタリングEEMを全工場に義務づけ,現在4回目の調査が進行中である。紙パルプ工場排水の水生生物への影響に関するデータを国をあげて蓄積し,影響の軽減に努めている。<BR>EUは加盟国間の協議により統一した思想で環境政策を決定し,これを参考に各国は国内法を整備し,地域全体で同じ水準の環境を維持することを目指している。水管理は2000年の水政策枠組み指令を基本に進められ,総合的汚染防止管理指令IPPCにより最適利用技術に基づく排水基準が示されている。排水規制の中に生物影響項目を加えているのは一部の国に止まっているが,産業排水の生物試験による影響評価を加盟各国で実施している。<BR>環境改善のための経済的手法としてアメリカでは排出量取引が実施され,欧州では古くから課徴金の制度が定着していて,汚染物質の排出削減に一定の効果をあげている。